2023年度 大学入学共通テスト 追試験「倫理」の解答と解説です。全設問の正解と考え方を一問ずつ解説し、公式の解答PDFもあわせて掲載しています。大学受験の森が独自に作成した、無料で読める解説です。
解答
解説
第1問 心と行為(配点24)
高校生A・Bと先生の会話をきっかけに、「心と行為」というテーマで宗教・思想の資料を読み解いていく大問です。イエス、大乗仏教、朱熹、パウロ、イスラーム、ソクラテス、ルター、王陽明と、源流思想から中国思想まで幅広く問われます。資料読解型の設問が問5〜問8に4問並ぶ点が特徴です。
問1:正解 ⑥(解答番号1/配点3)
<問題要旨>
様々な宗教や思想における実践についてのア〜ウの正誤の組合せを選ぶ問題です。アはイエスと律法、イは大乗仏教、ウは朱熹(朱子)の修養論を扱っています。
<考え方>
それぞれの記述で、事実関係が逆になっていないかを一つずつ確かめます。とくにウは、朱子学の「居敬窮理」で何を窮め何を制するのかを正確に押さえる必要があります。
<選択肢>
ア【誤】
イエスは徴税人や罪人と食卓を共にしたことで知られています。律法を守れない人々を差別せず、むしろ彼らとともに食事をしたことが、律法学者やファリサイ派の批判を招きました。「食卓を共にしなかった」は事実と逆です。
イ【正】
大乗仏教は、出家者だけが悟りを目指す部派仏教のあり方を批判し、出家・在家を問わず一切衆生の救済を目指しました。菩薩の実践徳目として布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧の六波羅蜜が説かれます。
ウ【誤】
朱熹の窮理とは、事物に内在する理を一つ一つ窮めていくこと(格物致知)であり、「もっぱら自分の内なる理を窮める」のではありません。それを内面に求めたのが後の王陽明です。また朱熹は、気質の性を矯めて本然の性を発揮させるべきだと説いたのであり、「気質の性につつしみ従う」のではありません。
正解【⑥】
ア=誤、イ=正、ウ=誤の組合せなので⑥が正解です。
問2:正解 ①(解答番号2/配点3)
<問題要旨>
様々な宗教や思想における行為とその結果についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。パウロ、ウパニシャッド哲学、イスラーム、ソクラテスの四つが並びます。
<考え方>
それぞれの思想の中心概念を思い出し、行為と結果の関係がどう説かれているかを確認します。輪廻と業、最後の審判の主体、無知の知がポイントです。
<選択肢>
①【正しい】
パウロは、律法は人間に罪を自覚させる働きをするだけであり、律法の行いによっては義とされないと考えました。人が義とされるのはキリストへの信仰によるという信仰義認の立場です。
②【誤り】
ウパニシャッド哲学では、業(カルマ)の考えに基づき、現世での行為が来世の境遇を決定すると考えられました。輪廻からの解脱を目指す思想の前提そのものです。
③【誤り】
イスラームで最後の審判を行うのは唯一神アッラーです。ムハンマドは最大にして最後の預言者であり、審判者ではありません。
④【誤り】
ソクラテスは「無知の知」を出発点とし、善美の事柄について自分は何も知らないという自覚のもとで対話を続けました。人知を超えた真理を獲得したとは主張していません。
正解【①】
最も適当なものを選ぶ問題なので①が正解です。
問3:正解 ②(解答番号3/配点3)
<問題要旨>
イスラーム教徒(ムスリム)の五行の一つである信仰告白(シャハーダ)の内容として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
信仰告白の定型句は「アッラーのほかに神はなし、ムハンマドはアッラーの使徒なり」です。この二つの要素が正しく述べられているものを探します。
<選択肢>
①【誤り】
「アッラーが全ての神々を支配する」では、他の神々の存在を認める多神教的な理解になってしまいます。イスラームは徹底した一神教です。
②【正しい】
アッラーが唯一の神であること(唯一神信仰)と、ムハンマドがその言葉を伝える使徒・預言者であることの二点を証言するのが信仰告白です。
③【誤り】
「他の神に対する優越性」では唯一神信仰になりません。またカリフはムハンマドの死後に共同体を率いた後継者の称号で、ムハンマド自身を指す語ではありません。
④【誤り】
前半の「アッラー以外に神を認めず」は正しいのですが、イスラームには神と人を仲介する聖職者という身分がありません。ムハンマドは使徒・預言者です。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問4:正解 ④(解答番号4/配点3)
<問題要旨>
様々な宗教や思想における心やそのあり方についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。仏教の五蘊、孔子の忠と恕、原始キリスト教、ヘレニズム期の懐疑派が並びます。
<考え方>
仏教の五蘊のうちどれが物質でどれが心の作用か、孔子の「忠」と「恕」のどちらが思いやりかという、まぎらわしい対概念の区別が問われています。
<選択肢>
①【誤り】
五蘊のうち色は物質的な存在(身体)を指し、心の作用にあたるのは受・想・行・識の四つです。「心の作用が五つの要素に区分され」という説明は正確ではありません。
②【誤り】
他人の心中を思いやることは「恕」です。「忠」は自分自身に対してまごころを尽くし偽らないことを指します。孔子はこの忠恕を仁の実践の要としました。
③【誤り】
原始キリスト教の教団は、イエスの再臨と最後の審判を待ち望んでいました。最後の審判を否定したという事実はありません。
④【正しい】
ピュロンに始まる懐疑派は、事物について断定的な判断を下すことを差し控える(エポケー=判断保留)ことによって、心の平静(アタラクシア)が得られると説きました。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
問5:正解 ②(解答番号5/配点3)
<問題要旨>
新約聖書「ヤコブの手紙」の一節(「私には信仰がある」と言う者がいても、行いが伴わなければ何の役に立つでしょうか……信仰もまた、行いが伴わなければ、それだけでは死んだものです)を読み、会話文の空欄a(資料の内容)とb(ルターの主張)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
aは資料に書かれていることをそのまま言い換えたものを選びます。bは、ルターが「ヤコブの手紙」の扱いを軽くした理由になるような主張、すなわち信仰義認と聖書中心主義を正しく述べたものを選びます。
<選択肢>
a=行いを伴わない信仰は、何の役にも立たない【正】
資料の「行いが伴わなければ、何の役に立つでしょうか」を素直に言い換えたものです。
a=人は信仰によってのみ救われるため、信徒の生活に行いは不要である【誤】
これは資料の主張と正反対で、むしろルターの立場に近い内容です。
b=人が神と結ばれるのは聖書のみによると主張しつつ、人は信仰のみによって救われると考えた【正】
ルターは聖書のみ(sola scriptura)・信仰のみ(sola fide)を掲げました。行いを重視する「ヤコブの手紙」の扱いを軽くしたのは、この立場と整合しないためです。
b=聖書に加えて教会の伝統を重視し、教会や司祭の仲介によって人は神と結ばれるとした【誤】
これはルターが批判したカトリック側の立場です。
正解【②】
a・bともに適切なのは②です。なお③のaも資料の内容と合いますが、bがルターの主張と正反対なので誤りになります。
問6:正解 ①(解答番号6/配点3)
<問題要旨>
『ダンマパダ』の一節(物事は、心を先とし、心を主人とし、心によって作り出される……もし汚れた心で話したり行動したりするならば、苦はその人に付き従う)を読み、会話文の空欄a(資料に基づく理解)とb(心を清らかにする方法)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
資料は「心が先、行為が後」という因果の向きをはっきり示しています。この向きを取り違えている選択肢を消します。bは仏教で勧められる生活のあり方なので、仏教の用語で答えているものを選びます。
<選択肢>
a=嘘をつくという行為を生み出す、嘘をつこうと思う汚れた心が問題の根源であるということ【正】
資料の「心を先とし、心を主人とし、心によって作り出される」に対応します。心が原因で行為が結果、という向きが保たれています。
a=嘘をつくという行為によって、心が汚されるという問題が引き起こされること【誤】
行為が原因で心が結果、という向きになっており、資料と逆です。
b=苦楽の両極端に偏らない生活を実践すること【正】
ブッダが説いた中道の実践です。苦行にも快楽にも偏らない生き方が、八正道とともに勧められました。
b=中庸を心掛けた正しい生活を実践すること【誤】
中庸は、超過と不足の中間を選ぶというアリストテレスの徳論の概念です。仏教で勧められる語ではありません。
正解【①】
a・bともに適切なのは①です。
問7:正解 ⑤(解答番号7/配点3)
<問題要旨>
プラトン『プロタゴラス』におけるソクラテスの発言(知識とは立派なものであり、人間を支配する力を持つ……仮に人が善きことと悪しきことを知ったなら、他の何かに左右されて知識が命じる以外のことをなすなどということは決してない)を読み、空欄a(ソクラテスの主張)とb(プラトンの魂の三区分)の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
資料の後半で「多くの人が主張するには」と続くのは、ソクラテス自身の考えではなく世間一般の見方です。ソクラテス自身の主張は前半にあり、知識が行為を決定するという知徳合一の立場です。bはプラトンの魂の三部分をそのまま答えます。
<選択肢>
a=最善のことを知りながら、それを行わないという事態はあり得ない【正】
資料前半の「知識が命じる以外のことをなすなどということは決してない」の言い換えです。ソクラテスの知徳合一(徳は知である)の立場を示しています。
a=最善のことを知りながら、それを行わないという事態があり得る【誤】
これは資料後半で「多くの人が主張するには」と紹介されている世間の見方であって、ソクラテス自身の主張ではありません。
b=理性・気概・欲望【正】
プラトンは魂を理性・気概・欲望の三部分に分け、それぞれに知恵・勇気・節制の徳を対応させ、三者が調和したとき正義の徳が実現するとしました。「理性・信仰・欲望」という区分はありません。
正解【⑤】
a・bともに適切なのは⑤です。
問8:正解 ④(解答番号8/配点3)
<問題要旨>
王陽明『伝習録』の一節(知は心の本体であって……もし心の良知に妨げがなく、それを充実・発現させることができたなら、それが致知である/七情に執着してはいけない。執着するのは私欲であり、良知の妨げである)を読み、資料の内容と王陽明の思想を正しく踏まえた説明を選ぶ問題です。会話文は、道端の高齢者に声をかけようと思いながら行動できなかったというAの経験でした。
<考え方>
前半で資料の記述を正しく読めているか、後半で致良知・知行合一の理解が正しいかの二段階で判定します。良知は心に内在するもので外に求める必要がないという点が、資料と王陽明の思想に共通する核心です。
<選択肢>
①【誤り】
資料は良知を「心の本体」であり「外に求められる必要のないもの」としています。「心によって知覚される対象に存在する」という説明は資料と食い違います。
②【誤り】
資料は「七情に執着してはいけない。執着するのは私欲であり、良知の妨げである」と明言しています。「執着しても良知が妨げられることはない」は資料と逆です。
③【誤り】
王陽明の知行合一は、知と行が本来一体であるとする考えであり、思うだけで行為が成立するという意味ではありません。むしろ行為を伴わない知は真の知ではないとされます。
④【正しい】
資料は七情への執着(私欲)が良知の妨げになると述べています。知行合一の立場からすれば、良知が妨げられていなければ、声をかけようという心はそのまま行為として実現したはずだ、ということになります。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
第2問 縁をめぐる日本思想(配点24)
高校生CとDが「縁」をめぐって交わした会話(I)と、南方熊楠が描いた「南方曼荼羅」をめぐる会話(II)からなる大問です。中世の無常観、近世の儒学と町人文化、近代の個の自立、そして親鸞の他力思想まで、日本思想史を縁というキーワードで貫いています。
問1:正解 ⑤(解答番号9/配点3)
<問題要旨>
この世の無常を見つめた中世の人物についての説明ア(各地を旅しながら人の世の無常を和歌に詠み、儚い境地を自然の風景に重ねて歌集に残した)とイ(移り行く人の世や変わり行く自然の姿もともに無常であると捉え、だからこそ心動かされると随筆の中で述べた)が、それぞれ誰かを選ぶ問題です。
<考え方>
決め手は表現の形式です。アは和歌と歌集、イは随筆と明示されています。世阿弥は能楽論(『風姿花伝』)の人物なのでどちらにも該当しません。
<選択肢>
ア=西行【正】
出家して各地を旅し、桜や月を詠んだ歌を『山家集』に残しました。「願はくは花のしたにて春死なむ」の歌で知られます。
イ=兼好(吉田兼好)【正】
『徒然草』は中世を代表する随筆で、無常であるからこそ物事は美しいという美意識が語られています。
世阿弥【—】
観阿弥の子で、能を大成し『風姿花伝』などの能楽論を著した人物です。歌集も随筆も残していないので、アにもイにも当てはまりません。
正解【⑤】
ア=西行、イ=兼好の組合せなので⑤が正解です。
問2:正解 ③(解答番号10/配点3)
<問題要旨>
中江藤樹についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
中江藤樹は日本の陽明学の祖とされる人物です。孝を万物の根本とし、時・処・位に応じた道徳の実践を説きました。他の選択肢がそれぞれ誰の説明かを見抜けば消去法で解けます。
<選択肢>
①【誤り】
「誠信の交わり」を旨として朝鮮との善隣外交に尽力したのは雨森芳洲です。
②【誤り】
儒学に神道・仏教を取り入れて心を磨く学問(石門心学)を確立し、正直と倹約に基づく商人の道徳を説いたのは石田梅岩です。
③【正しい】
中江藤樹は当初朱子学を学びましたが、その形式主義を批判して陽明学に転じ、時(時期)・処(場所)・位(身分)に応じて道徳を実践すべきだと説きました。
④【誤り】
修身中心の儒学を批判し、礼楽刑政という制度によって天下を安んじる「安天下の道」を説いたのは荻生徂徠です。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
問3:正解 ②(解答番号11/配点3)
<問題要旨>
近松門左衛門『冥途の飛脚』で、孫右衛門が捕縛されそうな息子について思いを語った台詞を読み、資料の内容についてのア・イと、近松の事績についてのウ・エから適当なものをすべて選ぶ問題です。
<考え方>
資料は「縁切った親子だから関係ないとはいっても」と述べつつ、息子が捕まる場面を想像して悲しむ孫右衛門の心情を描いています。この矛盾した心の動きをどう読むかが要点です。ウ・エは近松の作風の知識で判定します。
<選択肢>
ア【適当】
「縁切った親子だから、善きにつけ悪しきにつけ、関係ないとはいっても」と言いながら、「今にも探し出され、縄を掛けられ引かれる時……その悲しさはどうあろう」と嘆いています。縁を切ったはずの息子の身の上に心を動かされていることが読み取れます。
イ【適当でない】
孫右衛門は息子の評判や将来を強く気にかけています。「無関心である」という前提が資料と食い違います。
ウ【適当でない】
近松は義理と人情の板挟みに苦しむ人間を描いた作家です。「天理に基づく礼や法の遵守をひたすら重んじる」作風ではありません。
エ【適当】
『曾根崎心中』『冥途の飛脚』『心中天網島』など、町人社会における義理と人情の葛藤や恋の悲劇を世話物として描きました。
正解【②】
アとエが適当なので②が正解です。
問4:正解 ①(解答番号12/配点3)
<問題要旨>
近代における縁についてのレポート中の下線部①〜④のうち、夏目漱石または和辻哲郎の思想の説明として「適当でないもの」を選ぶ問題です。
<考え方>
漱石の自己本位が、他者を犠牲にするエゴイズムでも、他者に自己を明け渡すことでもない、という点が最大のポイントです。和辻については風土の三類型とその特徴を確認します。
<選択肢>
①【適当でない】
漱石が到達した自己本位は、他人の価値観に流されず自己の内面に立脚することであり、同時に他者の個性も尊重するという立場です。「自己ではなく他者を優先する」という説明は漱石の思想と食い違います。
②【適当】
晩年の漱石が理想としたとされる則天去私は、小さな自我への執着を去り、天の理法に従って生きようとする境地です。
③【適当】
和辻は『風土』で、モンスーン型の風土に生きる人々には、自然の恵みを受け入れつつ暴威に耐えるという受容的・忍従的な性格が見られると論じました。
④【適当】
『風土』はモンスーン型・砂漠型・牧場型の三類型を立て、日本をモンスーン型に位置づけています。
正解【①】
適当でないものを選ぶ問題なので①が正解です。
問5:正解 ③(解答番号13/配点3)
<問題要旨>
古代・中世日本の神々をめぐる思想についてのア(古代の日本では、鳥や獣、草、木、岩石などにも神々が宿ると考えられ、祟りをもたらす神の排除を祭祀の中心に置いた)とイ(伊勢神道は正直の徳を説いて民衆の間に広がった)の正誤の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
アの前半は正しいので、後半の「排除」という語が古代の祭祀観に合うかどうかで判断します。イは伊勢神道(度会神道)が説いた徳目を確認します。
<選択肢>
ア【誤】
古代日本では、祟りをもたらす神は排除するものではなく、丁重に祀って鎮めるものと考えられました。御霊信仰のように、災いをもたらす存在を神として祀り、和らげることが祭祀の中心にありました。
イ【正】
度会家行らが大成した伊勢神道(度会神道)は、神や道理に対する純粋な心情である正直を重視しました。この正直の徳は近世に至るまで民衆の道徳として広く受け入れられていきます。
正解【③】
ア=誤、イ=正なので③が正解です。
問6:正解 ②(解答番号14/配点3)
<問題要旨>
社会の問題を考えた人物についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。武者小路実篤、西光万吉、河上肇、石川啄木が並びます。
<考え方>
それぞれの人物が属した運動や立場を確認します。白樺派・全国水平社・マルクス主義・社会主義的な文学者という区分ができれば判断できます。
<選択肢>
①【誤り】
武者小路実篤は志賀直哉らとともに白樺派を代表する作家で、人道的理想主義の立場から「新しき村」を建設しました。自然主義を批判した側であり、記述は逆です。
②【正しい】
西光万吉は1922年の全国水平社創立に加わり、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」で結ばれる水平社宣言の起草に携わったとされます。部落解放運動を指導しました。
③【誤り】
河上肇は『貧乏物語』で貧困問題を論じ、のちにマルクス主義経済学へ進みました。無政府主義的な直接行動を主張したのは幸徳秋水です。
④【誤り】
石川啄木は「時代閉塞の現状」で国家権力のあり方を批判し、社会主義に接近しました。国家に庇護される道を求めたわけではありません。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問7:正解 ③(解答番号15/配点3)
<問題要旨>
親鸞『歎異抄』の一節(親鸞は、亡き父母の供養のために念仏をとなえたことは一度たりともありませんでした……生きとし生けるもの全てが、この世に生まれ変わりを繰り返す中で、父母となり兄弟となるからです)を読み、親鸞についての記述と資料の内容の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
選択肢は前半が親鸞の思想、後半が資料の読解という二段構えです。前半では絶対他力の理解が正しいか、後半では「特定の人物だけを供養するのではない」という資料の趣旨を捉えているかを見ます。
<選択肢>
①【誤り】
宇宙の真理そのものを大日如来と捉え、人間も仏も本質的に同一だと説いたのは空海(真言宗)です。また資料は特定の生きものを選んで救済を願う立場ではありません。
②【誤り】
親鸞が説いたのは、自らの罪深さを自覚したうえで阿弥陀仏の本願にすがるという立場です。他人の罪深さを指摘することが本願の真理だ、という思想ではありません。
③【正しい】
親鸞は阿弥陀如来のはからい(他力)によって往生できると説いた人物です。資料も、亡き父母だけを特別に供養するのではなく、生きとし生けるもの全てを救うべきだと述べています。
④【誤り】
念仏を「自分の力で唱えるもの」と捉えるのは自力の理解で、絶対他力を説いた親鸞の立場とは異なります。また資料は肉親を除外するとは述べていません。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
問8:正解 ③(解答番号16/配点3)
<問題要旨>
Dが学習のまとめとして書いたレポートの内容に合致する記述として最も適当なものを選ぶ問題です。レポートは、全ての生き物は縁の結び目のような存在であり、そのことを自覚できるのは人間だけで、その自覚から他者への責任が生まれる、という筋道で書かれていました。
<考え方>
レポートの結論部分「この自覚は、縁によって生かされて生きることへの感謝の念だけではなく、自分自身もまたそのような縁を支え、結び付けるべき存在でもあることを、私たちに教えてくれる」に照らして選択肢を検討します。
<選択肢>
①【誤り】
レポートには南方熊楠の学習を通じて人と自然のつながりにも目を向けた経緯が書かれています。「人と生き物の関係における縁のことは念頭になく」は本文と食い違います。
②【誤り】
レポートは「偶然に思える出会いや出来事であっても、縁というものに気が付いていないから、それを私たちは偶然とみなすのかもしれない」と述べています。縁の介在する余地はないという主張ではありません。
③【正しい】
「自分が縁の結び目であることを知り、主体的に受け止めることができるのは、人間に感受性や認識の働きがあるからである」「縁によって生かされて生きる」「自分自身もまたそのような縁を支え、結び付けるべき存在」という三点がすべて対応しています。
④【誤り】
レポートは「全ての生き物を含めた他者に対する責任の自覚」と述べており、責任の範囲を人間社会に限っていません。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
第3問 社会をめぐる近代西洋思想(配点24)
「社会なるものは存在しない」というある首相の言葉を出発点に、ルネサンス期のヒューマニズムから社会契約、経験論、ヘーゲル、社会主義、ハーバーマスまで、社会をめぐる近代西洋思想をたどる大問です。なお公開されている問題冊子では問7の資料(ハーバーマス『公共性の構造転換』)が省略されていますが、ハーバーマスの思想と『公共性の構造転換』の内容が分かっていれば解答できます。
問1:正解 ②(解答番号17/配点3)
<問題要旨>
エラスムスまたはトマス・モアについての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
エラスムスとルターの自由意志論争、『ユートピア』における私有財産の扱い、トマス・モアの最期という三点が判定の鍵になります。
<選択肢>
①【誤り】
エラスムスは『自由意志論』で人間の自由意志を擁護し、これを否定するルターと論争しました(ルターの反論が『奴隷意志論』)。「自由意志を否定する立場から」は逆です。なお『痴愚神礼讃』で聖職者の腐敗を風刺したこと自体は事実です。
②【正しい】
エラスムスは古典文献の校訂やギリシア語原典からの『新約聖書』校訂・ラテン語訳を行いました。この文献学的な仕事が、聖書に立ち返ろうとする宗教改革に大きな影響を与えました。
③【誤り】
『ユートピア』が描く理想郷では私有財産が廃止され、すべてが共有とされています。「私有財産が尊重され保護される」は逆です。
④【誤り】
トマス・モアはカトリック信仰を守り、ヘンリ8世の離婚と国王至上法(首長法)に反対したために処刑されました。イギリス宗教改革を推進した人物ではありません。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問2:正解 ②(解答番号18/配点3)
<問題要旨>
スピノザ『神学・政治論』の一節(国の究極の目的は、人々を支配したり、恐れによって押さえ付けたりすることではない……人々が自らの精神と身体の機能を発揮し、自由な理性を行使できるようにすることであり……したがって、国の目的は自由なのである)の内容説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
資料は「国の目的は◯◯ではない、むしろ△△である」という対比の形で書かれています。否定されている側と肯定されている側を取り違えないことが要点です。
<選択肢>
①【誤り】
資料が保障すべきだとしているのは「自由な理性の行使」であって、あらゆる感情の自由な発揮ではありません。むしろ憎しみや怒りによって争うことは防ぐべきだとされています。
②【正しい】
「人々が自らの精神と身体の機能を発揮し、自由な理性を行使できるようにすること」を、資料は国の目的として明言しています。
③【誤り】
資料は「人々を支配したり、恐れによって押さえ付けたり、他人の権利に服従させたりすることではない」と、まさにこの内容を否定しています。
④【誤り】
資料は自然な権利を「最高度に保持できるようにすること」が国の目的だとしています。自然権を抑制するという記述は逆です。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問3:正解 ⑥(解答番号19/配点3)
<問題要旨>
ヒュームについての文章の空欄a(知識を作り上げる働き)、b(炎と熱さの間に見て取られる関係)、c(ヒュームの立場への後世の評価)に入る語句の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
ヒュームはイギリス経験論の到達点にあたる思想家です。因果関係は事物のうちに実在するのではなく、繰り返される経験から生まれる心の習慣にすぎないと論じました。この主張の徹底ぶりが、後に懐疑論と評されます。
<選択肢>
a=習慣【正】
ヒュームによれば、私たちが知識と呼ぶものは経験の反復から生じる心の習慣によって作り上げられたものです。理性が生得的な原理から導くのではありません。
b=因果【正】
炎に近づくと熱いという経験の繰り返しから、炎が熱さの原因だとみなすようになる、というのが因果関係の説明です。ヒュームは因果の必然的結合が知覚されるわけではないと指摘しました。
c=懐疑論【正】
因果関係も自我の同一性も経験によって確証できないとするヒュームの議論は、知識の確実性を掘り崩すものとして懐疑論と評され、カントを「独断のまどろみ」から目覚めさせたとされます。合理論はデカルトらの立場で、経験論のヒュームには当てはまりません。
正解【⑥】
a=習慣、b=因果、c=懐疑論の組合せなので⑥が正解です。
問4:正解 ③(解答番号20/配点3)
<問題要旨>
ヘーゲルが説いた「市民社会」についての説明として「適当でないもの」を選ぶ問題です。
<考え方>
ヘーゲルの人倫は、家族(自然的な愛の共同体)→市民社会(欲望の体系。人倫の喪失態)→国家(両者を止揚した人倫の完成)という三段階で展開します。市民社会と家族の特徴を取り違えている選択肢を探します。
<選択肢>
①【適当】
市民社会において人々は独立した個人でありながら、分業と交換を通じて相互に依存し合っています。
②【適当】
市民社会は各人が個別的な利害を追求する「欲望の体系」であり、対立や貧富の差、限りない窮乏を生むとヘーゲルは論じました。
③【適当でない】
自らと他者とが一体であるという意識を持つ自然な共同体は、ヘーゲルにおいては家族の説明です。市民社会は逆に、家族の一体性が失われた人倫の喪失態とされます。
④【適当】
市民社会では契約や法によって制約を受けつつ、その枠内で各人が自らの欲望を追求していきます。
正解【③】
適当でないものを選ぶ問題なので③が正解です。
問5:正解 ②(解答番号21/配点3)
<問題要旨>
『百科全書』の「人間性」の項目(人間性は、全ての人間に対して向けられる慈愛の感情に現れる……全世界を経めぐり、隷属や迷信、悪徳、不幸を廃絶しようとする……とはいえ、この感情は、私たちを個々の絆から引き離すのではない)を読み、百科全書派の思想についてのア・イと、資料の内容についてのウ・エから適当なものをすべて選ぶ問題です。
<考え方>
ア・イは知識で、ウ・エは資料の読解で判定します。とくに『百科全書』の編集者が誰かと、資料が全人類への慈愛と身近な絆の両方を語っている点が分かれ目です。
<選択肢>
ア【適当】
百科全書派をはじめとするフランス啓蒙思想は、人間を理性的な存在と捉え、理性の光によって無知や偏見、迷信を打ち破ることを目指しました。
イ【適当でない】
『百科全書』を編集したのはディドロとダランベールです。ヴォルテールは寄稿者の一人でしたが編集者ではありません。また『百科全書』は伝統の継承ではなく、批判的精神に基づく新しい知の集成を目指したものです。
ウ【適当でない】
資料は「全世界を経めぐり」と述べており、関心が全人類に向かうことを否定していません。「全人類に対してではなく」は資料と食い違います。
エ【適当】
「他者の痛みやそれを和らげる必要を感じるとき、大いに燃え上がり……隷属や迷信、悪徳、不幸を廃絶しようとする」という記述に対応します。
正解【②】
アとエが適当なので②が正解です。
問6:正解 ③(解答番号22/配点3)
<問題要旨>
社会の改良を目指した思想家についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。サン=シモンとコントが交互に並んでいます。
<考え方>
サン=シモンは産業者による社会の運営を構想した初期社会主義者、コントは実証主義と三段階の法則を唱えた社会学の祖です。両者の主張の中身と、三段階の順序を確認します。
<選択肢>
①【誤り】
サン=シモンは自由競争ではなく、産業者による計画的な社会の運営を構想しました。
②【誤り】
コントは観察と実験に基づく実証的な知識を重視した実証主義者です。「経験によっては予見し得ないダイナミズム」を重視したという説明は逆です。
③【正しい】
サン=シモンは、国民の大多数を占める製造業者・農民・商人といった産業者こそが社会を運営すべきだと説きました。
④【誤り】
コントの三段階の法則は、神学的段階 → 形而上学的段階 → 実証的段階の順です。実証的段階と形而上学的段階が入れ替わっています。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
問7:正解 ④(解答番号23/配点3)
<問題要旨>
ハーバーマスの思想と、『公共性の構造転換』からの資料の内容の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。なお公開されている問題冊子ではこの資料が省略されています。
<考え方>
選択肢はいずれも「◯◯の意義を説くハーバーマスは」で始まります。まず前半でハーバーマスの思想を正しく述べているものに絞り、次に『公共性の構造転換』の議論と合う説明を選びます。同書は、私的な個人が集まって議論する市民的公共性が成立し、やがて文化を消費するだけの大衆へと変質していく過程を描いた著作です。
<選択肢>
①【誤り】
道具的理性の概念を批判的に論じたのはホルクハイマーとアドルノです。ハーバーマスはむしろ、対話によって合意を形成する理性の可能性を追求しました。
②【誤り】
ハーバーマスは、システムが生活世界を侵食する(生活世界の植民地化)ことを批判した思想家です。システム合理性の意義を説く立場ではありません。
③【誤り】
前半の「対話的理性」はハーバーマスに合いますが、後半が誤りです。市民的公共性は、生活の必要から離れた私的な個人がサロンやコーヒーハウスで公共の問題を論じたところに成立したものであり、「生活の必要と結び付いた切実な議論」がそれを成立させたのではありません。
④【正しい】
ハーバーマスは市民的公共性の意義を説きました。『公共性の構造転換』は、かつて私的領域での議論を通じて培われた市民的文化が、人々が文化をただ消費する立場へ変わることで失われていったと論じています。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
問8:正解 ①(解答番号24/配点3)
<問題要旨>
高校生Eと先生の会話(教育は人々を包摂する重要な施策だが、J. S. ミルが指摘したように画一化の危険もある。多様なニーズに同じ方法で応えようとすると画一化を引き起こす。このジレンマと真摯に向き合い変化していくことが、多様な他者が共存しやすい社会の条件になる)の趣旨に合致する記述として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
会話の要点は二つあります。社会には画一化の圧力があること、そしてそのジレンマを前向きに引き受ける努力にこそ道が開けるということです。この両方を含む選択肢を選びます。
<選択肢>
①【正しい】
画一化の圧力があることと、多様な他者と共に生きる中で生じる矛盾に向き合う努力にそれを越える契機があること、という会話の二つの柱がそのまま述べられています。
②【誤り】
会話では、全ての成員を等しく包摂しようとする努力がかえって画一化を引き起こしうると述べられています。「必然的に多様性を増大させる」は逆です。
③【誤り】
会話は同質化(画一化)を問題として指摘しており、それを目指すべきだとは述べていません。
④【誤り】
会話は均質化の傾向を克服すべき課題として語っています。それが他者と共に生きる困難を低減してくれるという趣旨ではありません。
正解【①】
最も適当なものを選ぶ問題なので①が正解です。
第4問 高齢者の孤立(配点28)
高校生Fが行った「高齢者の孤立」という発表と、それを受けた高校生Gとの議論を題材にした大問です。共同体主義と大衆社会論、青年期の心理、生命倫理、情報倫理、アーレントの思考論、環境倫理、統計資料の読み取りまで扱い、最後は孤立と孤独の区別という論点にまとめられます。配点28はこの試験の最大です。なお公開されている問題冊子では問5の資料(アーレント『精神の生活』)が省略されています。
問1:正解 ①(解答番号25/配点3)
<問題要旨>
個人と社会の関係を論じた思想家についての説明ア(個人は家族や地域などのコミュニティと密接に関わっており、役割や責任を負荷された自己であり、共通善を追求するべきだと説いた)とイ(現代社会を生きる個人は互いを知らない「孤独な群衆」であり、孤独感を和らげるために周囲やマスコミの意見に同調すると説いた)が、それぞれ誰かを選ぶ問題です。
<考え方>
アの「負荷された自己」「共通善」はコミュニタリアニズムの用語です。イの「孤独な群衆」は書名がそのまま手がかりになります。
<選択肢>
ア=サンデル【正】
サンデルはロールズの想定する「負荷なき自己」を批判し、人は共同体の中で役割や責任を負った「負荷ありし自己」であるとして、共通善に基づく政治を主張しました。
ア=ノージック【誤】
ノージックはリバタリアニズムの立場から、個人の権利を最大限尊重し国家の役割を最小限にとどめる最小国家論を唱えた人物です。
イ=リースマン【正】
『孤独な群衆』で、現代人の社会的性格が伝統指向型・内部指向型から、周囲やマスメディアに同調する他人指向型へ移行したと論じました。
イ=リップマン【誤】
リップマンは『世論』でステレオタイプや疑似環境の概念を提示した人物で、『孤独な群衆』の著者ではありません。
正解【①】
ア=サンデル、イ=リースマンの組合せなので①が正解です。
問2:正解 ④(解答番号26/配点3)
<問題要旨>
青年期の心理・社会的モラトリアムについての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
モラトリアムはもともと経済用語で「支払猶予」を意味します。エリクソンはこれを転用し、青年が社会的な責任や義務を一時的に猶予され、その間にアイデンティティを模索する期間を指す語としました。
<選択肢>
①【誤り】
無関心・無感動・無為・無気力で過ごす状態はアパシー(スチューデント・アパシー)と呼ばれるもので、モラトリアムとは異なります。
②【誤り】
失敗や挫折で自信を失い、自分の未熟さを気にし過ぎて日常生活に支障を生じる状態は、対人恐怖などの症状にあたります。
③【誤り】
修学も就業もせず職業訓練も受けていない状態はニート(NEET)の説明です。
④【正しい】
一人前の社会人としての役割を果たせるようになるために、社会的責任や義務を猶予されている状態がモラトリアムです。エリクソンはこの期間をアイデンティティ確立のために必要なものと位置づけました。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
問3:正解 ⑤(解答番号27/配点3)
<問題要旨>
生命倫理における生命の尊厳や患者の意思の尊重に関わる考え方についてのア(SOL)、イ(パターナリズム)、ウ(QOL)から、内容として正しいものをすべて選ぶ問題です。
<考え方>
SOLとQOLの対比はよく問われる基本事項です。イについては、説明されている内容が実はインフォームド・コンセントのものである点に気づけるかが分かれ目になります。
<選択肢>
ア【正しい】
SOL(Sanctity of Life/生命の尊厳)は、生命そのものが絶対的な価値を持つとする立場です。終末期医療において、回復の見込みがなくても延命治療を続ける根拠とされてきました。
イ【誤り】
説明されているのはインフォームド・コンセントの内容です。パターナリズム(父権主義)は、医師が患者のためを思って患者に代わって治療方針を決めるという、自己決定権とはむしろ対立する態度を指します。
ウ【正しい】
QOL(Quality of Life/生命の質)は、どのように生きるかという質を重視する立場です。患者の意思を尊重する根拠になる一方で、質が低いとされる生命を軽んじる方向に働きかねないという批判もあります。
正解【⑤】
アとウが正しいので⑤が正解です。
問4:正解 ①(解答番号28/配点3)
<問題要旨>
情報通信技術をめぐる制度や倫理的課題についてのレポート中の下線部ア(個人情報保護法とプライバシー保護)、イ(情報公開法と「知る権利」)、ウ(情報リテラシー)の正誤の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
三つの下線部それぞれについて、法律の目的と用語の定義が正しく述べられているかを確認します。
<選択肢>
ア【正】
個人情報保護法(2003年制定)は、個人情報の適正な取扱いを定めることで個人の権利利益を保護することを目的としています。IoT機器による見守りとプライバシー保護の兼ね合いという文脈も適切です。
イ【正】
情報公開法(1999年制定)は、行政機関が保有する情報の開示を請求する権利を定め、政府の説明責任を全うさせることを目的としています。国民の「知る権利」を実質的に支える制度です。
ウ【正】
情報リテラシーとは、膨大な情報の中から必要で信頼できる情報を選び取り、活用する能力を指します。記述はこの定義に沿っています。
正解【①】
ア・イ・ウすべて正なので①が正解です。
問5:正解 ②(解答番号29/配点4)
<問題要旨>
アーレントが孤高について書いた『精神の生活』からの資料(公開されている問題冊子では省略)を踏まえ、アーレントの思想と資料の内容の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
選択肢の前半はいずれも思想家の業績を述べていますが、アーレント以外の思想家の仕事が混ぜられています。まず前半でアーレントの業績を正しく述べているものに絞り、次に「孤高」と「独りぼっち」を区別する『精神の生活』の議論に合うものを選びます。
<選択肢>
①【誤り】
全体主義の起源を考察したのは確かにアーレントですが、資料の説明が誤りです。アーレントにとって思考は自分自身との対話であり、他の人々と共に問い答える営みの中でのみ成立するものではありません。
②【正しい】
人間の営みを労働・仕事・活動に区分したのは『人間の条件』のアーレントです。『精神の生活』では、思考とは「自分と自分との二者性」における対話であり、自分自身を仲間として持つとき、人は独りぼっち(loneliness)ではなく孤高(solitude)であると論じられます。
③【誤り】
ナチズムを生む社会的性格を心理学的に分析したのはフロム(『自由からの逃走』)です。またアーレントは他人を模範とする二者性を説いてはいません。
④【誤り】
人間中心主義から離れて存在忘却を批判したのはハイデガーです。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問6:正解 ③(解答番号30/配点2)
<問題要旨>
「ヤマアラシのジレンマ」に当てはまる事例として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
ヤマアラシのジレンマとは、寒さをしのぐために身を寄せ合いたいが、近づきすぎると互いの針で傷つけ合ってしまうという寓話に由来する語で、親密さを求める気持ちと傷つけ合う恐れの間で適切な距離を測りかねる状態を指します。
<選択肢>
①【誤り】
議論がまとまらず脱線したという話で、距離をめぐる葛藤ではありません。
②【誤り】
予定が流れたことを別の機会として前向きに捉えており、合理化に近い心の動きです。
③【正しい】
一人でいると寂しいが、仲良くなり過ぎると喧嘩をしてしまう、という近づきたい気持ちと傷つけ合う恐れの板挟みが、まさにヤマアラシのジレンマです。
④【誤り】
先輩ごとに助言が食い違って戸惑っている状況で、ダブルバインドに近い事例です。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
問7:正解 ②(解答番号31/配点3)
<問題要旨>
自然環境に関わる問題や取組みについての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
環境倫理の用語について、定義と名称の組合せが入れ替えられていないかを確認します。予防原則、自然の権利訴訟、ナショナル・トラスト、種差別といった用語が候補になります。
<選択肢>
①【誤り】
因果関係が科学的に完全には証明されていなくても規制すべきだという原則は予防原則です。他者危害原則はJ. S. ミルが説いた、他人に危害を及ぼさない限り自由は制限されないという原則です。
②【正しい】
人間が動植物などの代理人となって生態系保護を求める訴訟を、自然の権利訴訟といいます。日本でも奄美「自然の権利」訴訟などの例があります。
③【誤り】
募金を元手に景勝地や歴史的建造物を買い取って保護する運動はナショナル・トラストです。グリーン・コンシューマーは環境に配慮した商品を選んで購入する消費者を指します。
④【誤り】
人類が他の生物に対する優越的地位を当然視する発想は種差別(スピーシズム)と呼ばれます。共有地の悲劇は、誰もが自由に使える共有資源が過剰利用により枯渇してしまう現象を指す言葉です。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問8:正解 ③(解答番号32/配点3)
<問題要旨>
60歳以上を対象とした「生きがい感」の調査結果(図1=一人暮らしの回答者、図2=一人暮らし以外の回答者。日米それぞれの回答内訳)を踏まえ、会話文の空欄a(Fの発言)とb(Gの発言)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
aはFの「一人暮らしの人でもそうでない人でも生きがいを感じているという人が多い」という文脈、bはGの「誰かと暮らしている人の方が生きがいを感じているという結果」という文脈に合うものでなければなりません。そのうえで数値が正確かを検算します。
<選択肢>
a【正】
アメリカの一人暮らしは361名、一人暮らし以外は645名で、回答者全体に占める一人暮らしの割合は約36%。日本は182名と1185名で約13%なので、アメリカのほうが高いといえます。また「大変」+「多少」はアメリカの一人暮らしが51.0+29.9=80.9%、一人暮らし以外が60.9+25.9=86.8%で、どちらも約8割以上です。
b【正】
日本の「大変」+「多少」は、一人暮らし以外が24.7+45.1=69.8%で約7割、一人暮らしが15.9+35.2=51.1%で約5割です。誰かと暮らしている人のほうが生きがいを感じているというGの発言と整合します。
①【誤り】
bが誤りです。日本の一人暮らしで「あまり」+「まったく」は24.2+4.4=28.6%で、約1割ではなく約3割です。
②【誤り】
aの数値自体は正しいのですが(日本の一人暮らし以外は9.2+1.3=10.5%、一人暮らしは28.6%)、内容が「一人暮らしの生きがい感は低い」という方向なので、Fの「一人暮らしの人でも生きがいを感じている人が多い」という発言の文脈に合いません。
④【誤り】
aが誤りです。日本の一人暮らしで「大変」+「多少」は51.1%であり、約4割ではなく約5割です。
正解【③】
a・bともに数値が正確で文脈にも合うのは③です。
問9:正解 ⑤(解答番号33/配点4)
<問題要旨>
先生が示した孤立と孤独の区別(孤立は自ら望まずに集団から取り残されること、孤独は自ら望んで社会から一歩ひいた観点で物事を観想すること)を踏まえ、会話文の空欄a(Fが防ぎたいと思ったもの)、b(Gが青年期に思考の深まりと成長につながると習ったもの)、c(FがGとの議論を経て大切だと気づいたこと)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
先生の定義をそのまま当てはめれば、aとbは決まります。Fが発表で問題にしていたのは「自ら望まずに取り残される」ほうです。cは、議論の到達点である「一人でいたいという意思の尊重」と「尊厳が損なわれるときの支援」の両方を含むものを選びます。
<選択肢>
a=孤立【正】
Fの発表は、支援を拒否して誰にも看取られずに亡くなる人がいることを問題にしていました。これは自ら望まずに取り残される孤立にあたります。
b=孤独【正】
Gは青年期に一人で考えることが思考の深まりと成長につながると習ったと述べています。自ら望んで社会から一歩ひいて観想する孤独のことです。
c【正】
⑤のcは「高齢者の話に時々耳を傾け、信頼関係を築き、一人でいたいという意思を尊重しながら、独居生活が尊厳を損なう状態になったら支援する」というものです。Gの「付かず離れずの継続的な見守りなら監視にならない」という発言と、Fの「独居生活が困難なのに放置するのは人間としての尊厳を損なう」という発言の両方を受けており、議論の到達点として最も適切です。
③のc【誤り】
a・bは正しい組合せですが、cが「自分ではどうしようもない状況に陥ってしまったときには支援が得られる」という受け身の環境整備にとどまり、日頃の継続的な見守りという議論の核心が抜けています。
⑥のc【誤り】
a・bの組合せは正しいものの、cが「地域の人々による訪問をやめて、気付かれないように見守りのための機器を設置する」となっており、Fが必要だと述べた「話を聴きに行く」継続的な見守りと正反対です。
正解【⑤】
a=孤立、b=孤独で、cも議論の到達点に合致する⑤が正解です。
※ 本記事の解答・解説は当サイトが独立に作成したものです。公式の正解および配点は大学入試センターの発表をご確認ください。

