2025年度 大学入学共通テスト 本試験 公共・倫理 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解2

<問題要旨>
日本国憲法における男女平等の規定(特に第14条)と、国際条約の批准に伴い制定された性差別に関する法律との関係を問う問題です。具体的には、憲法の規定が示す「平等」の文言や、1985年に日本が「女性差別撤廃条約」を批准した際に整備された法制度が会話文中でどのように言及されているかを確認する必要があります。

<選択肢>
①【誤】
「法の下の平等」は憲法第14条が定める文言なので、会話文中でAが言及している条文と合致する点は評価できます。しかし、Bが「日本が女性差別撤廃条約を批准したことに伴い、同じ年に制定した」と述べている法律は1999年施行の「男女共同参画社会基本法」ではなく、1985年に成立した別の法律であるため、この組合せは不適切です。

②【正】
「法の下の平等」は憲法第14条が定める文言であり、1985年に日本が女性差別撤廃条約を批准した年には「男女雇用機会均等法」が制定されました。会話文中の「同じ年に」という表現にも合致し、憲法第14条の趣旨とも整合する組合せです。

③【誤】
「両性の本質的平等」は主に憲法第24条で結婚や家族生活における平等を規定する文言です。Aが示唆しているのは「憲法第14条」の文言であり、また1985年に制定されたのは「男女共同参画社会基本法」ではなく「男女雇用機会均等法」です。よって会話の内容と一致しません。

④【誤】
「両性の本質的平等」は憲法第24条の文言であり、Bの「条約批准と同じ年に制定された」法に当たるのは1985年成立の「男女雇用機会均等法」です。しかし、会話文のAが挙げた憲法条文は第14条であることからも、アに当てはまるのは「両性の本質的平等」ではなく「法の下の平等」と考えられます。したがって本選択肢の組合せは不適切です。

問2:正解4

<問題要旨>
男女の役割分担意識に関して、内閣府の資料から世代別・性別の「肯定的回答割合」を示す統計を読み取り、どのような傾向が見られるかを検討する問題です。選択肢では、年代が上がるにつれて回答割合がどう変化するか、男女間での差がどれだけあるかなどが論点になります。設問文中では「適当でないもの」を選ぶ形式なので、統計データと食い違う主張がどれかを見極める必要があります。

<選択肢>
①【正】
「共働きでも男性は家庭よりも仕事を優先すべきだ」という設問への肯定的回答割合は、女性20代より女性60代のほうが高く、さらに30代・40代・50代と比較しても、年代が上がるにつれて割合が大きくなるというデータが表から読み取れます。

②【正】
同じ設問に関し、男性20代と女性20代を比較すると、男性20代の肯定的回答は女性20代より10ポイント以上高いという差が数値から確認できます。

③【正】
「同程度の実力なら、まず男性から管理職に登用するものだ」という設問への肯定的回答割合は、男性20代と男性30代がいずれも20%台に達しており、合計しても20%を超える水準です。表の数値を合計・比較すると裏付けることができます。

④【誤】
同じ管理職登用に関する設問で、どの年代においても男女差が極めて小さいという主張は、表の数値を見ると実際にはおおむね6~10ポイント程度の開きがあるため事実と異なります。したがって、この選択肢の記述は表から読み取れる内容と食い違います。

問3:正解2

<問題要旨>
日本を含む4か国の国政における女性議員比率の推移を示した表をもとに、候補者の男女比率を均等にする努力義務やクオータ制の導入有無などが、各国での女性議員比率上昇にどのように影響したかを探る問題です。表の年代ごとの数値変化と、会話文にある各国の取り組みや制度導入時期を照合して、最も適切な主張を選びます。

<選択肢>
①【誤】
X国の女性議員比率は表を見ると、1970年から1980年にかけてすでに大幅に上昇しており(14.0%→27.8%)、その後も1990年以降さらに上昇しています。よって「候補者名簿の男女比率を均等にする努力を始めた時期になって初めて比率が上昇し始めた」という言い方は、データからすると正確ではありません。

②【正】
Y国は2000年前後に、各政党に候補者を男女均等に擁立することを義務づける法律を制定したと会話文にあります。表の値では、2000年(10.9%)と2010年(18.9%)を比べると約8ポイント上昇しているため、この主張は表と会話文の内容と合致します。

③【誤】
Z国はクオータ制を導入していないとされていますが、1960年以降の推移を見ても女性議員比率は日本より常に高めである一方、Y国と比べると必ずしも常に下回るわけではありません。例えば2000年時点ではZ国14.0%に対してY国10.9%とZ国のほうが高いため、この記述は表の数字と矛盾します。

④【誤】
日本では2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」が成立したものの、表で示されている2020年時点の女性議員比率(9.9%)はZ国(27.3%)より低く、上回った事実はありません。よってこの選択肢はデータと食い違います。

問4:正解3

<問題要旨>
「平等には二種類(形式的平等と実質的平等)がある」という理論を踏まえ、社会の差別を解消していくにはどのような平等概念や施策が必要かを問う問題です。会話文では、実際の差別解消策としてクオータ制などの積極的取組が挙げられており、また2019年に制定された法律が初めてアイヌ民族を先住民族として明文化した点について触れています。これらを踏まえて、選択肢中のア・イ・ウの語句を正しく組み合わせる必要があります。

<選択肢>
①【誤】
アを「形式的平等」、イを「実質的平等」とする組立ては、会話の文脈からすると正しい対比です。しかし、ウに「アイヌ文化振興法」を当てはめると、これは1997年の法律であり「初めて先住民族と明記した」わけではありません。2019年の新法と内容が合致しないため不適切です。

②【誤】
アを「実質的平等」、イを「形式的平等」としているため、会話文でBが「区別せずに同じように扱うこと」をアと呼んだ部分の説明と逆転しています。さらにウの内容も1997年の法律を指しており、2019年の先住民族明記とは整合しません。

③【正】
会話文では、差別を無くすためにクオータ制のような積極的施策を行う「実質的平等」の考え方がイに位置づけられており、すべての人を同じように扱うことを「形式的平等」とするのがアに合致します。また2019年に初めてアイヌ民族を先住民族と明記した法律は「アイヌ施策推進法」(アイヌ民族支援法)であるため、ウとしても整合性が取れます。

④【誤】
アとイが逆になっているため、会話文の「差別をなくすための具体的な新たな制度を導入していく平等」がイではなくアに来てしまうのは不自然です。さらに2019年の法律を正しく挙げたとしても、文脈との整合性が崩れます。

第2問

問5:正解5

<問題要旨>
公共空間の形成について、2人の哲学者の理論を紹介した文章を読み、空欄に当てはまる人物や概念を組み合わせる問題です。本文では「コミュニケーション的行為論」というキーワードと「人間の条件」という著作に関する説明があり、それぞれの特徴から適切な哲学者・概念・営みの内容を対応づける必要があります。

<選択肢> (①~⑧)
①【誤】 アをアーレント、イを対話的理性、ウを「言葉を通して関わり合う」とする組合せです。本文中「コミュニケーション的行為論」はハーバーマスが提唱した理論であり、アーレントが提示するのは「人間の条件」における労働・仕事・活動の区分です。よってアにアーレントをあてるのは不適切です。

②【誤】 アがアーレント、イが対話的理性、ウが「契約を結んでそれを守る」という組合せですが、同様に「コミュニケーション的行為論」を示す人物をアーレントとする点が本文と噛み合いません。また「契約を結んでそれを守る」という表現は本文の「活動」の説明とも対応していません。

③【誤】 アがアーレント、イが他者危害原理、ウが「言葉を通して関わり合う」という組合せです。アーレントは「労働」「仕事」「活動」の三分類を行った哲学者であり、「他者危害原理」は自由の制限を論じる別の文脈(ミルの理論など)です。本文の説明とは整合しません。

④【誤】 アがアーレント、イが他者危害原理、ウが「契約を結んでそれを守る」という組合せですが、③と同様に「他者危害原理」も「契約を結んでそれを守る」も本文の「公共空間」形成論やアーレントの理論とは一致しません。

⑤【正】 アをハーバーマス、イを対話的理性、ウを「言葉を通して関わり合う」とする組合せです。本文で紹介された「コミュニケーション的行為論」はハーバーマスの理論であり、その理論には「対等な立場で自由に意見交換を行うための理性」が必要とされています。また「人間の条件」を著したアーレントは、第三の営みを「活動」と呼び、それが言葉や行為を通して複数の人々が関わり合うことと結びつくため、ウの内容とも符合します。

⑥【誤】 アがハーバーマス、イが対話的理性、ウが「契約を結んでそれを守る」という組合せですが、ウの説明はアーレントの「活動」の特徴と合致しないため不適切です。

⑦【誤】 アがハーバーマス、イが他者危害原理、ウが「言葉を通して関わり合う」という組合せです。「他者危害原理」はハーバーマスではなく、ミルが自由の制約原理として論じた概念なので本文の流れに合いません。

⑧【誤】 アがハーバーマス、イが他者危害原理、ウが「契約を結んでそれを守る」という組合せですが、いずれの要素も本文の内容とは対応しません。

問6:正解6

<問題要旨>
「時間のゆとりの有無」(表1)と「自由時間の過ごし方」(表2)について、2018年調査と2022年調査のデータを比べながら考察し、どの意見が正しく読み取った内容かを問う問題です。選択肢では「ア」「イ」「ウ」の三つの意見文が提示され、それらがデータに即しているかどうかを判断します。

<選択肢> (①~⑦)
①【誤】
「ア」だけを正しい意見として採用する組合せです。しかし「ア」が述べる「ゆとりがある」と回答した割合が特定の年代層で半数を下回るほど減少したかどうか、表1を見ると必ずしも「30~39歳」と「40~49歳」に限った特徴ではありません。データからは「ア」の主張にやや無理があります。

②【誤】
「イ」だけを正しい意見として採用する組合せです。実際には「イ」以外にもデータと照合して正しい可能性がある意見が含まれており、これだけでは不十分です。

③【誤】
「ウ」だけを正しい意見として採用する組合せです。「ウ」は表2の「社会参加」の割合がどの年代でも減少しているという趣旨を述べる一方、「70歳以上は社会参加がほかの年代層に比べて高いままだ」という点も述べています。データ上、70歳以上が際立って高いのは事実ですが、「どの年代層でも社会参加が減っている」という部分に一律の傾向が見られるか精査すると、一部年代では微増などの例外もあり得ます。ウ単独の正しさだけを見ると不十分な面が残ります。

④【誤】
「ア」と「イ」が正しい意見として採用される組合せですが、上記のとおり「ア」の主張にはデータとの食い違いがあり得るため、まとめて正しい組合せとは言えません。

⑤【誤】
「ア」と「ウ」が正しい意見として採用される組合せです。「ア」に問題があるため、この組合せも全体として成立しません。

⑥【正】
「イ」と「ウ」が正しい意見として採用される組合せです。表1では「ゆとりがない」と答える割合が特定の年代で増加しているが、その上昇幅が小さいのは「18~29歳」だけといった指摘(イの内容)や、表2で「社会参加」の割合がどの年代層でも減っているが「70歳以上は比較的高い数値を維持している」という指摘(ウの内容)は、2018年と2022年のデータの変化と概ね合致します。

⑦【誤】
「ア」と「イ」と「ウ」がすべて正しいとする組合せですが、「ア」はデータから十分に裏付けられない部分を含むため、3つすべてが妥当するわけではありません。

問7:正解5

<問題要旨>
哲学対話に参加した人々の発言(I・II・III)が示され、それぞれにどのような推論が含まれるかを検討し、「帰納的に得られた結論が示されている」組合せを選ぶ問題です。発言の中には「話し合いの態度が変わることで対話が活発化する経験則」「自由に意見を述べ合う権利と義務」「素朴な疑問による発話が対話の深まりを生む経験」などの具体例が挙げられ、そこから一般的な結論を導いているかどうかが判断基準になります。

<選択肢> (①~⑦)
①【誤】 Iのみが帰納的推論を含むとする選択ですが、IIやIIIにも特有の経験から一般的な結論を導く表現が見られるため、Iだけに限定するのは不適切です。

②【誤】 IIのみが帰納的推論を含むとする選択ですが、発言IIIでは「素朴な質問が新たな光を当てる」という実例から「問いを深めていくことが哲学対話の方針になる」と一般化しており、IIIにも帰納的な要素があります。

③【誤】 IIIのみが帰納的推論を含むとする選択ですが、Iにも「いろいろな態度を試した結果、対話が活発になる」という経験則から導かれた一般論があるため、IIIだけとは言えません。

④【誤】 IとIIの組合せを帰納的推論とする選択ですが、IIIにも具体的事例から一般的結論へ導く記述が見られるので、この組合せだけでは十分ではありません。

⑤【正】 IとIIIの発言はいずれも、個別の経験や事例から一般的な法則や方針を導いています。Iは「何度もあった事実」を踏まえて「安心して話せる取り決めがあれば活発な対話が可能になる」という結論を得ており、IIIは「素朴な質問」が対話の深まりに寄与した具体例から「問いを深めていくことが哲学対話の方針になる」という結論を導いています。一方でIIは「人間には意見を自由に述べる権利と義務がある」と主張し、そこから「相手の意見を最後までしっかり聞く必要がある」と説く論理構成で、主に規範的(演繹的)な要素が強いと考えられます。

⑥【誤】 IIとIIIを帰納的推論とする選択ですが、IIは規範としての「義務」を前提とするため、帰納的というよりは演繹的な論の組み立てに近い要素が見られます。

⑦【誤】 I・II・IIIすべてが帰納的推論を含むわけではなく、IIには先述のとおり演繹的・規範的判断が目立ちます。よって3つすべてを帰納的推論とみなすのは不適切です。

問8:正解2

<問題要旨>
新型コロナウイルス感染拡大期において、ICT(情報通信技術)の普及に伴い「対面的な関わり」と「非対面的な関わり」がどのように組み合わされるかを論じた構想メモです。空欄(a)(b)(c)と、その事例として示される「ア」「イ」「ウ」とを対応させ、どのように公共空間を維持・発展させるかが問われています。

<選択肢> (①~⑥)
①【誤】 (a)=ア、(b)=㋑イ、(c)=㋒ウという組合せですが、メモの記述と照らし合わせた際、「非対面的関わりのみのタイプ」として挙げられる事例が一致しません。

②【正】 (a)=ア、(b)=ウ、(c)=イ という組合せです。本文では(a)が「別々の場所にいる人たちがICTを使って集まらずに対話する」形態=「非対面的関わりのみのタイプ」、(b)が「これまで対面で参加できなかった人がICTを使って参加する形態」=「対面的関わりに非対面的要素が加わっているタイプ」、(c)が「その場にいる人たちが互いに気楽に質問しあえる」形態=「対面的関わりのみのタイプ」という順に説明されています。ア・ウ・イが示す具体例と照合すると、この組合せが適切です。

③【誤】 (a)=イ、(b)=…とする組合せでは、「非対面的関わりのみのタイプ」の事例が異なる形で当てはめられてしまい、メモ本文の内容とずれが生じます。

④【誤】 (a)=イ、(b)=ア、(c)=… というような組合せも、上記同様に「別々の場所でICTを使う」形態と「実際に同じ場所へ集まる」形態が入れ替わってしまいます。

⑤【誤】 (a)=ウ、(b)=ア、(c)=イ などの組合せも、メモ本文の(a)(b)(c)が指す具体的状況と齟齬が出ます。

⑥【誤】 (a)=…(b)=…(c)=… の最終的な組合せにおいて、対面的・非対面的それぞれの型を正しく振り分けられておらず、メモの記述と合致しません。

第3問

問9:正解4

<問題要旨>
古代ギリシアの思想における「美」の捉え方をめぐる問題です。神話的・自然哲学的・倫理学的など多様な視点が存在し、ソクラテスやプラトンといった人物が「美の本質」をどのように説いたかが論点になっています。

<選択肢>
①【誤】
ヘシオドスは『神統記』で諸神の誕生と系譜を叙述していますが、「翻弄される人間の姿を美しいものとして描いた」という要素は明確には見られません。神話的世界観や神々の所業は描かれますが、人間存在を美として肯定的に描くというのはヘシオドスの本旨とはずれています。

②【誤】
デモクリトスは世界の根源として原子を想定しましたが、「それを超えた数的比例に美がある」と述べたわけではありません。数的比例や調和を重視したのはピタゴラス学派やプラトンの流れであり、無数の原子を重視したデモクリトスが“数的比例の美”まで説いたというのは不正確です。

③【誤】
ソクラテスは「自分の無知の自覚」を出発点として徳や善、美について問答を行いましたが、相対主義的な考え方を広めるために「弁論術を駆使」したわけではありません。相対主義を広めたのはソフィストたちであり、ソクラテスはむしろ徳の客観的基準の存在を探究していました。

④【正】
プラトンは、具体的な「美しいもの」に対する欲求(エロース)を突き詰めていくと、究極的な「美そのもの(イデア)」に向かうと説きます。『饗宴』や『パイドロス』などの対話篇で論じられており、まさに「様々な美しいものを超えて、絶対的美のイデアに至る」という説明が正当です。

問10:正解2

<問題要旨>
宗教と芸術の関係について、ユダヤ教・イスラーム・仏教・キリスト教それぞれの教義や表現方法を比較する問題です。特に「偶像崇拝の可否」や「聖典に基づく儀礼」、「絵画・図像の主題と解釈」などが論点となります。

<選択肢>
①【誤】
ユダヤ教では、バビロン捕囚後にエルサレム神殿が再建されますが、「救い主(メシア)の像を礼拝する」共同体が作られたわけではありません。ユダヤ教は偶像崇拝を厳しく禁じており、メシアの具体的な像を崇拝するという習慣は存在しません。

②【正】
イスラームでは、モスク(礼拝堂)に神の像を飾ることを戒律上認めていません。代わりに幾何学模様やアラベスクなどの装飾が発展し、壁面にはメッカの方向を示す「ミフラーブ」が設けられます。これはイスラーム芸術の特徴としてよく知られた事実です。

③【誤】
涅槃図は釈迦の入滅(肉体の死と同時に煩悩の完全な消滅)を描いたものですが、「よりよい世界に輪廻する姿を表している」という解釈は誤りです。釈迦は涅槃によって悟りを完成し、生死の輪廻を離れるとされるため、輪廻転生するわけではありません。

④【誤】
十字架刑のイエスを描く磔刑図は、キリストが神の子として贖罪を行った場面を表すと解釈されます。イエスを単に「預言者」と位置づけるのはキリスト教的には正しくありません(キリスト教ではイエスは神の子とされる)。また原罪の贖いという面は正しいものの、「預言者であるイエスの死」という表現はイスラームや他の宗教の解釈に近く、正確性を欠きます。

問11:正解3

<問題要旨>
アウグスティヌスの思想に言及した授業資料の内容から、古代ギリシア哲学や初期キリスト教思想(パウロ・プロティノスなど)との関連を踏まえつつ、美の源泉を神に求める考えと、芸術家や人間が作り出す美とを区別する観点を整理する問題です。

<選択肢>
①【誤】
「ギリシアの四元徳を否定して、信仰・希望・愛の必要性を説いたアウグスティヌスは…」とする流れ自体はアウグスティヌスの神学的立場をうかがわせますが、そこで「作られた美への愛にとどまり続けるべきだ」とは言っておらず、本来の終着点は神自身の美への愛とされます。記述の方向が噛み合っていません。

②【誤】
「ギリシアの四元徳を否定して…作られた美を通じて神に対する愛を自然に獲得する…」という部分はやや簡略化しすぎで、アウグスティヌスが説くのは“作られた美の先にある神こそが真の美”という方向です。この選択肢の表現ではアウグスティヌスの主張が正確に示されていません。

③【正】
アウグスティヌスはパウロのみならず、新プラトン主義のプロティノスからも大きな影響を受けています。彼は「神はすべての美しきものの根源」としながら、芸術家が作り出す美(被造物)はあくまで神の美から派生するものであり、それだけに執着することは本来の目的から逸れると論じました。この選択肢はその趣旨を的確に表しています。

④【誤】
③と同様に「プロティノスから影響を受けたアウグスティヌス」までは正しいですが、後半部分の記述が「作られた美を通じて愛を自然に獲得できる」と要約されていると、アウグスティヌス独自の“神を終極とする愛”との区別が曖昧になっています。

問12:正解1

<問題要旨>
中国思想における「礼楽」の捉え方に関する文章ア〜エを、儒家・道家などの諸子に正しく対応づける問題です。孟子・荀子・孔子・老子・墨子・荘子など、それぞれが重んじる価値観(人間性善説か性悪説か、礼楽重視か自然無為か)を踏まえ、文章の内容と合う人物名を組み合わせる必要があります。

<選択肢>
①【正】
ア=孟子:人は本性善であると主張し、礼楽を内面に根ざした徳を深めるものと考えた。
イ=荀子:美などの価値を相対的なものとし、人間が後天的に礼を学び社会秩序を構築する点を強調する立場。
ウ=孔子:礼楽の形骸化を単に否定せず、そこに「仁を表現する」意味を見出し、礼に立ち返る重要性を説いた。
エ=墨子:家族主義的な偏りを批判し、兼愛や非攻などの「分け隔てのない」道徳を説く。

この組合せが文章ア〜エの主張に沿っています。

②〜⑥【誤】
いずれもア〜エの内容と人物の対応がずれており、礼楽の重視や人性善悪説の違いなどを正しく反映していません。

問13:正解2

<問題要旨>
大乗仏教の思想について、空欄ア〜エの説明文を正しく組み合わせる問題です。大乗仏教では「空の思想」や「菩薩思想」、「唯識論」などが展開され、それぞれを示す典型的なキーワードや経典、思想家(龍樹や無著・世親)を手がかりに正誤を判断します。

<選択肢>
①【誤】 アとイ、という組合せ。文面が空や菩薩行の内容と正しく対応しているか精査すると食い違いがあります。
②【正】 アとウ、という組合せが大乗仏教の中心的概念を的確に示すものとして該当します。アは「空の思想」や「因縁によってあらゆる存在が成り立つ」という説明、ウは「唯識論」の要点(無著や世親が説いた識のみの教え)を表現している場合が多く、代表的な大乗の特徴として適切です。
③【誤】 アとエ、などその他の組合せは文章の説明と照合すると整合しません。
④【誤】 イとウ、⑤イとエ、⑥ウとエ も同様に、文面と大乗仏教の思想体系をきちんと対応させると齟齬が生じます。

問14:正解4

<問題要旨>
近代に入って科学革命が起こり、自然科学が宗教から相対的に独立していった歴史や、それに伴う芸術の変容についてのレポート。空欄aには「天文対話」などで知られる人物が入るべきであり、bには「自然現象を定式化する原理」が示唆され、cには「人間中心の新たな精神潮流」を表す語が入るかどうかを見極める問題です。

<選択肢>
①【誤】 a=コペルニクス は『天球の回転について』を著した人物ですが、問題文にある「『天文対話』」はガリレイの著作です。bの四原因説はアリストテレスに由来する考え方で、近代科学革命とは異なります。
②【誤】 a=コペルニクス, b=四原因, c=ヒューマニズム の組合せも同様に「天文対話」をコペルニクスに当ててしまっているため不適切です。
③【誤】 a=コペルニクス, b=因果法則, c=プロテスタンティズム という組合せも「天文対話」がガリレイの著作である点に反します。
④【正】 a=ガリレイ, b=因果法則, c=ヒューマニズム の組合せが本文と合致します。『天文対話』の著者としてガリレオ・ガリレイが挙げられ、「自然界を数式で説明しよう」という近代科学の因果法則への着目がb、そしてルネサンス〜近代にかけて人間性を重視する思潮(ヒューマニズム)がcに当たります。
⑤【誤】 a=ガリレイ, b=因果法則 までは合っても、c=プロテスタンティズムを入れてしまうと、芸術の文脈で「人間目線の世界観」を示す言葉としてはズレがあります。
⑥【誤】 a=ガリレイ, b=四原因, c=ヒューマニズム は、近代科学の原理を「四原因」では説明しないため不適切です。

問15:正解3

<問題要旨>
ヴァルター・ベンヤミンの『複製技術時代の芸術作品』に関する記述です。作品のオリジナリティや「アウラ」が複製技術によってどう変容するのか、芸術作品と大衆との新たな関係がどのように構築されるかを問う問題です。

<選択肢>
①【誤】
「作品を歴史的・社会的文脈から切り離すが、受け手に近づけることで、オリジナルと同等のアウラを与える」という内容は、ベンヤミンの主張と矛盾します。複製物はアウラを失うとされるため、「同等のアウラを与える」という部分が誤りです。

②【誤】
「作品を歴史的・社会的文脈から切り離すことなく、受け手に近づけることで、オリジナルと異なるアウラをもたらす」という表現も、ベンヤミンの指摘とは微妙にずれています。複製技術は伝統の領域を引き離し、アウラを損なうとされるため、「異なるアウラが生じる」とするのは正確とは言い難いです。

③【正】
「作品がもつ唯一無二性という価値を無力化しつつ、アクセスを広げることで作品を大衆に開く」ことは、まさにベンヤミンが論じた複製技術の特徴です。オリジナルがもつアウラは薄れるものの、多くの人々に芸術体験が広まる点が評価され、既存の芸術のあり方を揺さぶる革命的契機になるとされます。

④【誤】
「作品がもつ唯一無二性という価値を無力化せず、アクセスを容易にすることで大衆に開く」というのは、ベンヤミンの論点と逆方向です。彼は複製技術によってオリジナルのアウラが失われると指摘します。価値を“無力化せずに”アクセスだけ広げる、という表現は不正確です。

問16:正解2

<問題要旨>
提示された「資料1」「資料2」は、芸術による美的体験が鑑賞者に与える影響を論じています。そこでは美的体験が単なる感覚的な快感にとどまらず、人生観や倫理観を変容させ、生きる活力を高める働きがあるという点が示唆されています。設問は、そうした美的体験の性質を最も的確に言い表した選択肢を問う問題です。

<選択肢>
①【誤】
芸術作品が表す情動を理解するうえで政治的態度や価値観の共有が必須という主張は、資料の主眼から外れています。資料では創作者と鑑賞者の内面の結びつきが強調されており、それを政治的視点に限定していません。

②【正】
「芸術作品に触れることで得られる経験は、人生を生きるうえでの倫理的な一要素となり、鑑賞者の変容をもたらす」という表現は、資料1・2にある『芸術が鑑賞者を自己発見へ促し、生きる力を強化する』旨をよく反映しています。

③【誤】
「あらゆる社会的影響から離れた美的体験」で鑑賞者を“本来的実存”に目覚めさせるというのは、むしろ芸術と社会的文脈の切断を強調しすぎています。資料では芸術体験と社会的・倫理的文脈が深く結びついている点が示されており、本選択肢はずれています。

④【誤】
「鑑賞者が作品に対して抱く感動は、美的というより倫理的なものである」と断じると、資料にある「美的体験」と「倫理的要素」の連動が歪められます。資料では美と倫理が不可分に作用すると示唆していますが、「美的というより倫理的」と単純化するのは不適切です。

第4問

問17:正解6

<問題要旨>
「推し」や宗教・美・道徳との関わりを振り返る生徒Aの日記を題材に、(a)(b)に入る語句と、下線部に関連する近代以降の思想家の論点とを正しく組み合わせる問題です。選択肢では「美醜の逆説」「美しさがなくとも人の心を動かす可能性」などを示す語句が候補に挙げられ、さらにウェーバー・ニーチェ・マルクスといった思想家の主張を絡めて判断する必要があります。

<選択肢>
①【誤】
(a)「調和」(b)「調和」など重複する語句の組み合わせは、日記本文が示す「美醜のあり方」や「現代アートが美しさを超えて心を動かす可能性」という文脈と合致しません。また関連する思想家の引用部分も適切に対応していないため不適切です。

②【誤】
(a)「調和」(b)「美しさによって」という組合せは、一見すると「美と道徳の関連」や「現代アートの作品が美で心を動かす」と読めますが、実際には本文中で「必ずしも美しいから感動するわけではない」示唆があり、下線部の思想家の論ともずれがあります。

③【誤】
(a)「逆説」(b)「美しさがなくとも」自体は文章の流れと合いそうにも見えますが、下線部の引用として挙げられる思想家の記述(オ:ウェーバー、カ:ニーチェ、キ:マルクス)との対応が一致しない組合せになっています。

④【誤】
(a)「調和」(b)「逆説」など、順番を入れ替えた組合せは「美醜の調和」「現代アートの作品が逆説心を動かす」という文面になり、本文が言う「美の常識を超える衝撃」や「美しさがない場合も人を動かしうる可能性」を十分に反映しません。

⑤【誤】
(a)「イ(逆説)」(b)「ウ(美しさによって)」のような組合せは、「現代アートが美しさによって心を動かす」という方向になるため、必ずしも本文や下線部の思想に合致しません。ここでは必ずしも“美しさ”だけが感動の要因ではないことが強調されています。

⑥【正】
(a)「逆説」(b)「美しさがなくとも」という組合せは、日記の「美醜の逆説を教えられた」「現代アートは美の概念を超えて心を動かしうる」文脈と合致します。加えて下線部に関連する「マルクス(キ)」の主張(芸術や精神活動を含む上部構造は経済的下部構造に規定されるという見解)を結びつける論旨とも整合するため、この選択肢が最も適切です。

問18:正解1

<問題要旨>
日本における神々への信仰と外来思想がどのように混交・受容・発展してきたかを解説する問題です。仏教が伝来した当初の扱いや、後に成立する本地垂迹説(神仏習合)、さらに神道の独自展開などを念頭に、最も適当な歴史的説明を選びます。

<選択肢>
①【正】
「仏教が日本に伝えられた当初、仏は蕃神(異国の神)などと呼ばれ、神の一種として受け止められた」は、歴史的事実とおおむね合致します。初期段階では日本の神々と同列に扱われ、外来の尊い存在として神社に祭られたりもしました。

②【誤】
本地垂迹説(仏を本地、神を垂迹とする神仏習合思想)が定着していくのは仏教が広く受容された後の時代です。「それ以後、仏と神の関係が固定された」という表現だけでは時期と流れがやや単純化され、当初の受容形態と合致しません。

③【誤】
山崎闇斎(17世紀の儒学者)は神道思想を朱子学と融合させる垂加神道を唱えましたが、設問は「日本における神々への信仰と外来思想」全般の歴史的受容について聞いており、個人の独自学説を指すこの記述は的外れです。

④【誤】
平田篤胤は国学を継承し、復古神道を主張しましたが「死後の霊魂の存在を否定する」わけではありません。むしろ彼は神道や霊魂観を肯定的に再解釈しています。外来宗教を排除した、という一点だけでは説明不足です。

問19:正解2

<問題要旨>
「信仰対象をもたない」発表者が、阿弥陀仏の教えに対し疑問を持ちつつも、親鸞の言葉に触れて宗教者が抱える葛藤や安心を知り、少し身近に感じたという流れの中で、発表文の空欄(a)に最もふさわしい内容を問う問題です。選択肢では、煩悩具足の凡夫をどう救うかという阿弥陀仏の願いや、仏性・悪人正機などの浄土思想に関連する解釈が示されています。

<選択肢>
①【誤】
「煩悩具足の凡夫にも仏性が備わっており、それを開花させる自力の行いとして念仏がある」というのは天台・禅系の考えと混同した面があり、他力による救済を強調する親鸞の教えとはやや異なります。

②【正】
「仏は人間が煩悩具足の凡夫であることをよくご存じで、そういう人間を救おうという願いを立てた」は、阿弥陀仏の誓願(本願)や親鸞が説く他力救済の理念に合致します。「喜べないのは煩悩のせいかもしれないが、だからこそ往生は可能」という趣旨とも整合します。

③【誤】
「他者に救いの手を差し伸べることで、自分も往生できる道を仏は用意している」というのは菩薩道的な発想に近く、親鸞が説く「南無阿弥陀仏」による他力本願とは別種のアプローチです。

④【誤】
「煩悩具足の凡夫の自覚がない者を“悪人”と呼び、それ以外の衆生は全て救う」というような解釈は、悪人正機説を歪めて単純化した誤りです。すべてを救うという大乗的発想自体はあっても、本来の文脈はもう少し複雑です。

問20:正解3

<問題要旨>
江戸時代の思想家(伊藤仁斎、本居宣長、富永仲基、佐久間象山など)がどのような主張を展開したかを問う問題です。儒学経典や仏教経典の解釈方法、あるいは洋学受容に対する立場を見極める必要があります。

<選択肢>
①【誤】
伊藤仁斎は朱子学の章句を排し、『論語』『孟子』を直接読む独自の学問を提唱しましたが、「中国古代の先王の道を日本で実現」しようとしたというだけでは要点を外しています。仁斎の学問はもっと「誠」「仁義」の根本を探るものでした。

②【誤】
本居宣長は儒教や仏教を「漢意」として批判し、真心に立ち返ることを主張しました。『万葉集』の自然感にも言及しますが、単に「生まれながらの真心に従うべき」と説いただけでなく、「もののあはれ」を尊ぶ国学の立場が中心です。記述がやや不正確です。

③【正】
富永仲基は仏教経典が後世の人々の解釈を付加され成立したものであり、全てを釈迦の言葉とは見なせないという「加上説」を唱えました。これは仏教を歴史的・文献学的に分析する画期的視点で、選択肢の内容と一致します。

④【誤】
佐久間象山は「東洋道徳・西洋芸術(科学技術)」を掲げ、西洋の優位性を認めつつも、日本の道徳の方が勝っているとする「鎖国攘夷」の立場とは必ずしも同一ではありません。西洋を取り入れつつ東洋の精神を重んじる姿勢が特徴です。

問21:正解4

<問題要旨>
西村茂樹『日本道徳論』の一部を現代語に要約した資料をもとに、「儒教と西洋哲学の精髄をどのように摂取・調整し、日本独自の道徳基盤とするか」という主張を読み取り、最も適切な選択肢を選ぶ問題です。天理・天地の真理を確認しつつ、諸教の本来の意味を生かすために不必要な外形を捨てる、という論法が示されています。

<選択肢>
①【誤】
「まず天地の真理を明らかにし、後に儒教と西洋哲学が一致するところを基礎とし…」という順序が提示されていますが、資料では一教ごとに「捨てるべき外形を捨て、精髄を採る」手続を踏むことが強調されており、この選択肢の説明は資料と順番や論点が微妙に食い違います。

②【誤】
「西洋哲学の精髄を主とし、そこに儒教の精髄を補足したものを基礎として…」というのは、資料で示される日本道徳の「一定の主義」とは異なります。西村茂樹の立場は儒教だけを主とするわけでも西洋哲学だけを主とするわけでもなく、両者が一致する部分を天地の真理と見做すという点が特徴です。

③【誤】
「儒教の精髄を主とし、そこに西洋哲学の精髄を補足」とするのも、②同様に片方を基礎に置く言い方であり、資料とはずれます。

④【正】
「儒教と西洋哲学の精髄が一致するところの天地の真理を基礎とし、その上で諸々の教えを取捨選択する」は、資料の主張をよく要約しています。西村茂樹の日本道徳論では、「一教だけに偏らず、二教が一致する真理を得る」姿勢を重視しており、この選択肢が最も的確です。

問22:正解5

<問題要旨>
高校生Dがまとめたレポートに登場する(a)(b)(c)の三名を、それぞれの主張と結びつけて判断する問題です。レポート文中では、日本の思想が「雑居」的に諸要素を受け入れてきたという見方や、「現代日本の開化は皮相上滑り」などの有名な論、さらに「武士道は日本国を救うだけでなく世界を救う力がある」と述べる発言などが引用されています。これらの言説の出典として正しい人物対応を見極めます。

<選択肢>
①【誤】 a=加藤周一, b=三宅雪嶺, c=新渡戸稲造 となっていますが、加藤周一は「雑種文化論」で知られる一方、三宅雪嶺は日本主義を掲げた言論を展開し、新渡戸稲造は『武士道』著者であるものの、レポート文中の具体的引用に合わせるとズレが生じます。

②【誤】 a=加藤周一, b=夏目漱石, c=新渡戸稲造 という組合せも、加藤周一の「雑種文化」という視点は合うとして、レポート文中で「武士道が〜」と述べられる箇所が必ずしも新渡戸稲造だけを指すとは限らない形で示されています。全体の文脈を厳密に合わせると、後半が不一致です。

③【誤】 a=加藤周一, b=三宅雪嶺, c=内村鑑三 も加藤周一と三宅雪嶺の組み合わせが本文の引用と合わない部分があります。さらに内村鑑三はキリスト教の立場から「二つのJ(JesusとJapan)」を論じましたが、レポートの引用に出てくる武士道論との直接的結び付きが曖昧です。

④【誤】 a=丸山真男, b=夏目漱石, c=新渡戸稲造 という組合せでは、「武士道が世界を救う」といった発言を新渡戸稲造に当てるのは可能ですが、同じレポート文中で「日本ではいろいろな思想が『雑居』している」という指摘を丸山真男に置くのかどうか、細部が合いきりません。

⑤【正】
a=丸山真男, b=夏目漱石, c=内村鑑三 の組合せがレポート文中の言及と一致します。丸山真男は「雑居性」の論点を指摘した文脈で知られ、夏目漱石は「現代日本の開化は皮相上滑りの開化」と述べ、内村鑑三はキリスト教の立場から「日本こそ世界を救う手立てを持つ」といった言葉を残しています。この三者の引用がレポートの(a)(b)(c)に当てはまる形で最も適切です。

⑥【誤】
a=丸山真男, b=三宅雪嶺, c=内村鑑三 の組合せでは、bの部分が漱石の語った「皮相上滑りの開化」という有名なフレーズに対応できないため不適切です。

第5問

問23:正解3

<問題要旨>
記憶の過程を「符号化(記銘)」「保持」「検索(想起)」の三段階に分ける心理学的知見に基づき、会話の中で使われている「短期/長期記憶」と「符号化(記銘)/検索(想起)」の概念をどのように当てはめるかを問う問題です。実験資料(曖昧な図形を見せられた参加者が、提示前に与えられた言葉の意味づけによって記憶した図形を変化させる)との関連から、長期的な記憶の段階と、そのときの符号化が図形の想起に影響を及ぼしているかが論点となります。

<選択肢>
①【誤】
「ア=短期記憶」「イ=符号化(記銘)」とする組合せは、会話文で取り上げられているのが比較的長期にわたる記憶の保持とその変容である点を十分に説明できません。

②【誤】
「ア=短期記憶」「イ=検索(想起)」とする組合せも、あくまで曖昧な図形の定着時に言葉が介入して記憶が変容しているという点が長期記憶の符号化(記銘)との関連を示す文脈と噛み合いません。

③【正】
「ア=長期記憶」「イ=符号化(記銘)」という組合せは、曖昧な図形を覚えて(記銘して)から後で思い出すときに言葉の意味付けが影響する、という実験内容の説明と合致します。会話文でも「記憶には符号化と保持があって、あとで取り出すときに変容が起こる」という論旨が読み取れるため、これが最も適切です。

④【誤】
「ア=長期記憶」「イ=検索(想起)」では、曖昧な図形の定着時の言葉の影響が符号化過程よりも検索(想起)だけに関わるように見えてしまい、本文で示される記憶の変容と符号化との深い関連が説明不足になります。

問24:正解2

<問題要旨>
下線部④と⑤で示されている「思い込みによる誤った判断」の例に、それぞれどの認知バイアスが当てはまるかを問う問題です。下線部④は、テレビ報道など目につきやすい情報を「全体的な傾向」として錯覚してしまうケース。下線部⑤は、他者の遅刻の原因を「本人の意欲のなさ」といった内的要因に帰しがちで、実は外的要因(事故の渋滞など)が大きいかもしれないのに考慮しないケースが示されています。

<選択肢>
①【誤】
「下線部④ → ア」「下線部⑤ → ウ」の組合せ。ア(頭に浮かびやすいものを多くあると考えるバイアス)は下線部④に対応しそうですが、ウ(ある人の一面の印象が悪いと他の面まで悪く見なすバイアス)では遅刻を内的要因に求める説明が十分できません。

②【正】
「下線部④ → ア」「下線部⑤ → エ」という組合せは、アが「身近な報道に触れる頻度が高いせいで犯罪が増えていると思い込む(利用可能性ヒューリスティック)」、エが「他者の失敗をその人自身の要因だと決めつけ、状況要因を軽視する(根本的帰属の誤り・対応バイアス)」という事例にぴったり合致します。

③【誤】
「下線部④ → ア」「下線部⑤ → オ」の組合せでは、オは「ある人の特性を推測する際、その人が属する集団の特徴を当てはめるバイアス(ステレオタイプ)」に近く、遅刻の原因を「本人のせい」と決めつける例とは少しずれてしまいます。

④【誤】
「下線部④ → イ」「下線部⑤ → ウ」など、イは「何かを選択したり判断したりする際、その事物を最もよく表す特徴に基づいて考えるバイアス(代表性ヒューリスティック)」です。テレビ報道の頻度に左右される下線部④はむしろ利用可能性ヒューリスティックに当たります。

⑤【誤】
「下線部④ → イ」「下線部⑤ → エ」としても、下線部④は代表性ヒューリスティックよりも利用可能性ヒューリスティックの状況に当てはまるため、整合しません。

⑥【誤】
「下線部④ → イ」「下線部⑤ → オ」の組合せも同じ理由で不適切です。

問25:正解4

<問題要旨>
下線部⑥で登場する「クリティカル・シンキング」を、古今の哲学者(ソクラテス、J.S.ミル、デカルト、デューイなど)の主張に当てはめた場合に何が重要かを検討する問題です。選択肢の中には「自分の認知の限界を認める」「多角的に議論する」「論理的推論を活用する」など、クリティカル・シンキングで重視される視点が含まれています。本問は「適当でないもの」を選ぶ形式です。

<選択肢>
①【正】
「ソクラテスは『汝自身を知れ』という格言を据え直したが、クリティカル・シンキングに対応させた場合、反省的に自分自身の認知をも再検討対象とすることが重要である」という指摘は適切です。批判的思考では自分自身をも客観視しようとする態度が欠かせません。

②【正】
「J.S.ミルは誰もが干渉を受けずに個性を発展させ自由に討論することを重視したが、クリティカル・シンキングに対応させた場合、他者の視点に立つ多面的な思考が重要である」という主張は的を射ています。ミルの思想とも調和します。

③【正】
「デカルトは理性を用いて確実な真理から演繹法で知識を導き出すべきだと考えたが、クリティカル・シンキングに対応させた場合、いくつかの前提を論理的に精査する推論が重要になる」という指摘は正当です。デカルトの方法的懐疑にも合致します。

④【誤】
「デューイは知性を問題解決の道具として用いるという道具主義を唱えたが、クリティカル・シンキングに対応させた場合、簡略化された直感的な解決手順であるヒューリスティックに頼らない態度が重要である」という記述は不正確です。デューイの道具主義ではむしろ状況に合わせた探究や仮説の検証を重視するため、「ヒューリスティックを一律に排する」という単純な否定観は当てはまりません。よってこの選択肢が「適当でない」ものと判断できます。

問26:正解3

<問題要旨>
二重盲検法(ダブルブラインド)を例に、新薬とプラセボをどちらの被験者に投与しているか、さらには医師もその情報を知らないようにすることで、どのような認知バイアスを防ごうとしているのかを問う問題です。医療研究において被験者だけでなく、医療従事者にも情報を伏せることで「期待」の入り込みを抑える仕組みが重要とされています。

<選択肢>
①【誤】
「新薬の効果を説明されたために、実際は効果が出ていないのに患者が感じてしまう(プラセボ効果を患者が抱くバイアス)」は、患者視点の思い込みに焦点を当てたもので、医師側が知らないようにする二重盲検の主眼とはややずれます。

②【誤】
「副反応についての説明により、実際は起きていないのに患者が自覚するバイアス」は、同じく患者の思い込みを指しており、医師側が盲検化されている意味とは直接結びつきません。

③【正】
「新薬の効果を期待するために、本当は効果が出ていないにもかかわらず、担当医師が患者に効果があると認識してしまうバイアス(期待効果や観察者バイアス)」を防ぐのが二重盲検の狙いです。医師自身も被験薬かプラセボか分からないようにすることで、客観的評価を確保します。

④【誤】
「プラセボ投与群でも副反応が生じているように担当医師が思うバイアス」は、多少ありうる話ではありますが、効果だけに限らず「副反応」に重点を置いており、実験全体の主眼と必ずしも一致しません。問題の文章は主に新薬の有効性を評価するための手続を論じています。

問27:正解1または2

<問題要旨>
災害などの異常事態で避難が必要とされるときに、認知バイアスが働いて正確な判断や行動を阻害する可能性があります。これに対処する環境整備の方針として、「①バイアスの影響をできるだけ抑えた判断を促す環境を整える」のか、それとも「②バイアスが働いても問題が生じないような環境を整える」のかという二つの方向性が挙げられています。どちらの方針を重視するかで、具体的対処法の選択肢も変わります。

<選択肢>
(1) 環境整備の方向性
①【正】
「認知バイアスの影響をできるだけ抑えた判断を個人々々に促す環境を整える」を重視する立場。たとえば住民への周知・情報提供を充実し、思い込みを最小化できるよう教育や啓発を図るアプローチです。

②【正】
「認知バイアスが判断に影響してもできるだけ問題が生じない環境を整える」を重視する立場。個々人が多少思い込みで行動しても、安全策が二重三重に施されていれば大きな事故に至らないようにするアプローチです。

問28:正解2または5

<問題要旨>
問27で選んだ環境整備の方向性(①か②)に基づいて、具体的にどのような対処法をとるかを問う問題です。選択肢は1~6で示され、内容には「普及啓発」「公的情報の活用」「リーダー決定」「十分な避難所整備」「警告システム」「包括的な支援・サービスの提供」などが挙げられています。

<選択肢>
(2) 具体的対処法
①【誤】
「直感に基づいて行動できるよう異常事態の発生メカニズムについて知識普及を図る」という施策は、一見良さそうですが、「認知バイアスの影響を抑えた」か「バイアスがあっても問題が起こらない」か、いずれとも直接的に噛み合わない部分があります。

②【正】
「自分の判断が間違っていないか検討できるよう、公的な情報を活用しやすくする」というのは、「個々人がバイアスを抑えて行動できるよう情報面でサポートする」施策と整合します。問27の①の方向性をとった場合、とくに有効です。

③【誤】
「避難を指揮する地域リーダーを輪番制で決めておき、指示に従う行動をとる」はリーダーに依存するやり方で、必ずしもバイアスに左右されない仕組みとは限りません。

④【誤】
「安心して避難生活を過ごせるよう、十分な数の避難所や非常食を用意する」は防災全般には有効ですが、「認知バイアスを抑える」「バイアスがあっても安全を確保する」との関連がやや抽象的です。

⑤【正】
「非常事態が発生した際、人が危険と感じる警告や警告音を提示する」というのは、多少思い込みで行動が遅れがちでも強制的に注意を喚起して避難を促せるため、「バイアスが働いても問題が生じないようにする」方向(問27の②)に合致しやすい施策といえます。

⑥【誤】
「お年寄りや身体が不自由な人が取り残されないよう包括的な支援サービスを整える」のは社会福祉的に重要ですが、認知バイアスへの対処とは直接結び付きにくい面があります。

第6問

問29:正解1

<問題要旨>
下線部③では「暴力的な手段によらずに問題を解決しようとする人物の思想」に言及されています。選択肢に示された四人のうち、貧しい農民と共感しながら自らの特権を放棄し、人道主義の立場から社会の不正を告発し続けた作家が誰に当たるかが論点です。

<選択肢>
①【正】
トルストイは貴族でありながら地主としての特権を放棄し、貧しい農民と共に生きようとしました。『戦争と平和』などを著す一方、キリスト教的な隣人愛と非暴力の主張を展開し、社会の不正を批判し続けたことで知られます。非暴力的な手段での解決を訴えた人物として適切です。

②【誤】
ロマン・ロランは第一次世界大戦後、平和や国際協調を訴えたフランスの作家ではありますが、「貧しい農民に共感して地位を放棄する」といった具体的な行動は彼の著作とは異なる内容で、下線部③の記述と完全には合致しません。

③【誤】
ガンディーはイギリスの植民地支配に対し「非暴力・不服従」を掲げて抵抗運動を展開した偉大な指導者ですが、「貧しい農民に共感して地権を放棄したロシアの作家」という点はガンディーの経歴と一致しません。

④【誤】
キング牧師は公民権運動で非暴力の手法を用いて人種差別に抗議しましたが、選択肢文にある「地主としての特権放棄」「社会の不正を人道主義の立場から告発し続けたロシアの作家」という説明には当てはまりません。

問30:正解3

<問題要旨>
会話文中でHが紹介する「おじさんの主張」について、Jは「まさにフーコーに通じるものがある」と評しています。フーコーの思想といえば、日常生活に潜む権力構造や規格化(ノーマライゼーション)の問題を暴き出す点が特徴です。ここでは「権力や戦争」に関わる現象が、普段の生活にも内在するという主張が当てはまります。

<選択肢>
①【誤】
「権力主体への服従が暴力で強制され、たとえ戦後に反省があっても人々が戦争に加担してしまう」という内容で、直接フーコーが指摘する「日常生活への権力浸透」や「規格化」とはズレがあります。

②【誤】
「近代西洋の言説を歴史的に分析することで、人間中心主義が直面する限界を暴露しなければならない」というのは、どちらかといえばフーコーの考え方に一部通じる面もありますが、人間中心主義の限界に特化して論じる点が重心になっており、ここでの会話内容とは少しずれます。

③【正】
「ありふれた日常生活の中にも権力構造が潜んでいて、人々はそれに順応し、規格化されている」という説明こそ、フーコーの権力論を端的に表したものと言えます。会話の文脈でJが感じた「フーコーに通じるものがある」というのは、日常に潜む権力や監視の作用に着目しているからです。

④【誤】
「過去の戦争の記憶を呼び起こし、権力の視線を内在化できれば抵抗ができる」という表現はフーコーの指摘とは距離があります。フーコーは権力を内面化した管理や監視を問題視する立場であり、記憶を手がかりに抵抗できるという文脈とは微妙に異なります。

問31:正解7

<問題要旨>
安全保障論を読み、「他国の人々にも安心して日常生活を送る権利がある」と考えるJの関心は、人間中心の普遍的な価値観(人間の安全保証や人権保護)に基づいています。また、会話文では国家レベルだけでなく世界市民としての連帯(コスモポリタニズム)を重んじる姿勢が示唆され、さらに古代のストア派が説いた「世界市民主義(コスモポリタース)」がその思想的源流とされる構図が指摘されています。

<選択肢>
①【誤】 a=国家、b=リベラリズム、c=ストア派 とする組合せは、「人間中心」という視点が欠けており、会話の内容に合致しません。

②【誤】 a=国家、b=リベラリズム、c=エピクロス派 も「人間の安全保障」や「普遍主義的連帯」を表すには不向きです。

③【誤】 a=国家、b=コスモポリタニズム、c=ストア派 では、国家を安全保障の主体と考える立場になりますが、Jの発言はむしろ人間中心に焦点があるため合いません。

④【誤】 a=国家、b=コスモポリタニズム、c=エピクロス派 も同様に、Jは国家主義的視点ではなく、人間ベースでの安全保障を求めている点が不一致です。

⑤【誤】 a=人間、b=リベラリズム、c=ストア派 だと「リベラリズム」は個人の自由や権利を重視する理念ですが、世界市民的な普遍主義が必ずしも強調されるわけではありません。

⑥【誤】 a=人間、b=リベラリズム、c=エピクロス派 も、「世界市民としての連帯」を説くストア派との結びつきとは異なります。

⑦【正】 a=人間、b=コスモポリタニズム、c=ストア派 は「人間中心の安全保障」「国境を超えた世界市民主義」「ストア派の自然や理性に基づく世界市民思想」の組合せにぴったり合致します。

⑧【誤】 a=人間、b=コスモポリタニズム、c=エピクロス派 はストア派でなくエピクロス派を当てているため、世界市民的な連帯という主旨とずれます。

問32:正解3

<問題要旨>
強制収容所での被収容者の扱いには「人間を単なる数として捉える」「リスト化して組織的に管理する」「個人の尊厳が無視されている」という三つの特徴がある、と会話文で説明されています。そこから日常の身近な場面でも起こりうる、同様の「数扱い」「管理」「尊厳無視」がすべて当てはまる例を探す問題です。

<選択肢>
①【誤】
「成績の低い生徒に補習の機会を提供する」というのは、むしろ個々の希望や状況に合わせて指導しているため、数扱い・尊厳無視とは逆の行動です。

②【誤】
「普段からやる気のない部員を呼び出し、皆の前で怒鳴る」は叱責行為という問題はありますが、人間を数として管理しリスト化しているわけでもなく、個人の尊厳を意図的に剥奪する仕組みとも少し違います。

③【正】
「店長が営業体制を維持するために必要な人数を算出し、本人の希望や健康を無視して長時間勤務を割り当てる」という例は、(1)必要人員として数的に扱われ、(2)リスト管理のように組織的に配置され、(3)個人の健康や尊厳を軽視している点が三つの特徴に合致します。

④【誤】
「配偶者の健康を考慮して高カロリー食品を禁止し、食の喜びを奪う」というのは、たしかに本人の意思を尊重していない面がありますが、「数として扱う・リスト化する・個人の尊厳を剝奪する」ような組織的管理とは言いにくく、三つの特徴すべては該当しません。

問33:正解1

<問題要旨>
シャープが展開した非暴力的闘争の方法論では、抑圧者が圧倒的権力を持つ状況下でも、民衆や社会機関が協力して暴力以外の武器(心理的・社会的・経済的・政治的手段)を用いることで、統治者の力の源泉を絶ち、相手に打撃を与えられるとされます。選択肢の中では「多くの非政府系組織を組織し、人々の間に相互の関心を育む場を作る」といった方法が、シャープの言う「非暴力の闘争を成功させるために民主的な体制をも支える基盤づくり」に当たります。

<選択肢>
①【正】
「国民による非政府系の団体を多数組織し、普段から人々が自由に交渉し合い、相互の境遇に関心を持ち合えるようにする」は、まさにシャープが説く非暴力闘争の前提となる組織作りや連帯作りを示す内容です。

②【誤】
「交渉で公正さが大切とされるので、抵抗運動を停止し独裁者側と和解交渉を始める」は、相手が圧倒的権力を握る状況で闘争を停止することは、シャープの言う非暴力の闘い方とは異なる行動です。

③【誤】
「政府から正式な通告が来たので、それに従う形で対応する」は、独裁者に従属してしまう形であり、非暴力抵抗運動の方向性ではありません。

④【誤】
「なるべく早く個別的に抵抗運動を開始する」とあるように、各自がばらばらに動くことは統率の欠如を招き、非暴力闘争の効果を大きく減じる可能性があります。シャープは周到な組織化や集団的行動を重視します。

投稿を友達にもシェアしよう!
  • URLをコピーしました!
目次