解答
解説
第1問
問1:正解②
<問題要旨>
古代ギリシアのソフィストとソクラテスの思想、特に彼らの言葉に対する姿勢や活動についての理解を問う問題です。
<選択肢>
①【誤】
ソフィストは、物事の真実を探究することよりも、弁論術を用いて聴衆を説得する技術を重視しました。したがって、「見掛けの背後にある真実を見いだすことを目的としており」という記述が誤りです。彼らの立場は、絶対的な真理は存在しないとする相対主義に近いものでした。
②【正】
ソフィストは、ポリスの民会や法廷で自分の意見を有利に通すための弁論術(レートリケー)を教えました。彼らの目的は、真理の探究ではなく、言葉を巧みに用いて人々を説得することにありました。本文の記述は、ソフィストの特徴を正しく説明しています。
③【誤】
ソクラテスは、対話(問答法)を通じて、相手が善や美といった事柄について何も知らないこと(無知)を自覚させようとしました。対話相手が自分よりよく知っていると気づいたのではなく、その逆です。彼自身は「自分は何も知らないということを知っている」という点において、他の人々より知恵がある(無知の知)と考えました。
④【誤】
ソクラテスは、デルフォイの神託をきっかけに「無知の知」を自覚しましたが、それは真理の探究を諦めることではありませんでした。むしろ彼は、より善く生きるために、対話を通じて真理を探究し続けることの重要性(魂への配慮)を説きました。したがって、「人間が真実を追求することの無益さについて自覚することが重要だと説いた」という部分が誤りです。
問2:正解⑥
<問題要旨>
老子、ユダヤ教、イスラーム、仏教という様々な思想・宗教における「言葉」の役割や位置づけに関する知識を問う問題です。
<選択肢>
ア【正】
老子の思想における「道(タオ)」は、万物の根源でありながら、人間の言葉で完全に表現したり定義したりすることはできないとされます。そのため、名付けようのないものとして「無」とも呼ばれます。これは正しい記述です。
イ【正】
古代イスラエルにおいて、イザヤなどの預言者たちは、神ヤハウェの言葉を民に伝える役割を担いました。彼らは、民衆が神との契約に背き偶像を崇拝したことが、バビロン捕囚といった苦難を招いたと厳しく批判し、悔い改めを促しました。これは正しい記述です。
ウ【誤】
イスラーム教徒(ムスリム)の義務は「五行」と「六信」からなります。「信仰告白(シャハーダ)」は、アッラーへの信仰を言葉で表明する実践的な行為であり、「五行」の筆頭に挙げられます。「六信」は信じるべき対象(神、天使、啓典など)を指し、信仰告白という行為そのものは含まれません。
エ【正】
ブッダは、快楽と苦行の両極端を避ける「中道」を説き、その具体的な実践方法として「八正道」を示しました。八正道の一つである「正語(しょうご)」は、嘘、悪口、無駄口などを避け、真実で穏やかな正しい言葉を語ることを意味します。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はア、イ、エであり、その組合せである⑥が正解となります。
問3:正解③
<問題要旨>
中国の思想家、荘子の思想を代表する「無用の用」と「逍遥遊」の概念を、具体的な寓話の内容と正しく結びつけることができるかを問う問題です。
<選択肢>
・資料1:役に立たない(無用)と言われた荘子の言葉について、荘子は「無用なものがあるからこそ、有用なものが役に立つ」と反論します。足元だけの地面(有用)も、その周りの地面(無用)がなければ歩けないという例えは、一見役に立たないように見えるものが持つ本質的な重要性を示しており、「無用の用」(イ)の思想を表しています。
・資料2:大きすぎて使い道がない(無用)木について、荘子は「何もない広々とした野原に植え、その木陰で自由気ままに過ごせばよい」と語ります。これは、世俗的な有用性の基準や人間的な作為から離れ、何ものにも束縛されずに、ありのままの自然の中で遊ぶという「逍遥遊」(ア)の境地を表しています。
・ウの「万物斉同」は、すべてのものは差別なく等しいという思想、エの「心斎坐忘」は心を空にする精神集中の修行法であり、資料の内容とは異なります。
以上のことから、資料1がイ、資料2がアとなり、その組合せである③が正解です。
問4:正解①
<問題要旨>
イエスの説いた「神の国」とブッダの説いた「涅槃」について、聖典の記述を基にその内容を理解し、たとえ話の解釈として適切なものを判断する問題です。
<選択肢>
①【正】
aの「資料1にある神の国は、人間にとって『福音』だと理解されている」という記述は正しいです。「福音」とは喜ばしい知らせを意味し、イエスが説く神の国は、神による救いや支配の到来を告げるものでした。bの「当時の人々にとって身近な出来事の中で、神の国や涅槃を思い描くことができるね」という解釈は、二つの資料に共通する特徴を的確に捉えています。資料1の「からし種」や資料2の川の「洲」は、当時の人々にとって日常的な光景であり、こうした身近なものを用いることで、難解な教えを具体的にイメージしやすくしています。a、bともに適切であり、これが正解です。
②【誤】
aの「神の国は、人間の『試練』の場だと理解されている」という部分が誤りです。イエスにとって神の国は、救いの訪れであり、喜ばしい知らせ(福音)でした。
③【誤】
aの「資料2にある涅槃は、輪廻における一切の苦から解放された境地」という説明自体は正しいです。しかし、bの「困難を克服した後に到達できるものと捉える」という解釈は、教えの内容に踏み込んだものではありますが、①のbが指摘する「たとえ話の手法そのもの」の共通点(身近なものを使っている点)に比べると、設問の趣旨に対する適合性で劣ります。
④【誤】
aの「涅槃は、解脱してブラフマン(梵)と合一した境地」という部分が誤りです。「ブラフマン(梵)との合一(梵我一如)」は古代インドのウパニシャッド哲学の思想であり、仏教が説く涅槃の概念とは異なります。
第2問
問1:正解④
<問題要旨>
江戸時代の儒学者である藤原惺窩、熊沢蕃山、林羅山、新井白石の思想や業績について、正しく説明しているものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
藤原惺窩は、仏教を批判して儒学の重要性を説き、日本の近世儒学の祖とされます。彼は朱子学の上下定分の理を重視し、封建的な身分秩序を肯定しました。「身分的な秩序を超えてこそ心の平安がある」という考え方は彼の思想とは異なります。
②【誤】
熊沢蕃山は陽明学者で、現実社会への実践を重んじました。彼は治山治水を重視し、自然環境の保全の観点から、無秩序な新田開発にはむしろ批判的でした。したがって、「新田開発を積極的に進めた」という記述は誤りです。
③【誤】
林羅山は、江戸幕府に仕えた朱子学者であり、上下の身分秩序を絶対的なもの(上下定分の理)として思想的に支えました。彼が朱子学を形式的だと批判した事実はありません。朱子学を批判し、日常生活における情を重視したのは、古学派の伊藤仁斎などです。
④【正】
新井白石は、合理主義的な精神を持つ朱子学者として、西洋の学問にも深い関心を示し、『西洋紀聞』を著しました。しかし、キリスト教における唯一絶対神による世界創造の教義は、儒学の「理」の思想と相容れないとして批判しました。これは正しい記述です。
問2:正解②
<問題要旨>
古代日本の神話や信仰における自然観や世界観(他界観、高天原)についての正誤を判断する問題です。
<選択肢>
ア【正】
古代の日本人にとって、身近な自然である山や海は、食料を得る生活の場であると同時に、神々や死者の霊魂が存在する「他界」とつながる神聖な場所とも考えられていました。これは正しい記述です。
イ【誤】
日本神話で神々が住むとされる天上の高天原は、『古事記』などにおいて、神々が田を耕し、機を織るなど、地上の世界と同様の生活が営まれる場所として描かれています。「田畑や家屋などは見られず、美しい自然が広がっている」という記述は、神話の描写とは異なり誤りです。
したがって、アが正しく、イが誤りであるため、②が正解となります。
問3:正解⑤
<問題要旨>
鎌倉時代の仏教者である日蓮の思想と行動について、正しく説明している記述をすべて選ぶ問題です。
<選択肢>
ア【正】
日蓮は、蒙古襲来などの国難が起こる中で、正しい教えに帰依しなければ国は救われないと考えました。彼は、末法の時代には『法華経』こそが唯一人々を救う教えであるとし、「南無妙法蓮華経」の題目を唱えること(唱題)で、現世に仏国土が実現できると説きました。これは正しい記述です。
イ【誤】
日蓮は、他宗派の教えを厳しく批判しました。「念仏無間、禅天魔、真言亡国、律国賊」という四箇格言に示されるように、彼は他宗派を国を滅ぼす邪教と断じました。したがって、「各宗派の融和」を説いたという記述は正反対であり、誤りです。
ウ【正】
日蓮は、比叡山などでの修行を経て、数ある経典の中で『法華経』にこそブッダの真実の教えが説かれていると確信しました。そして、国家の安寧と人々の救済のため、命がけで『法華経』の教えを広めました。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はアとウであり、その組合せである⑤が正解となります。
問4:正解①
<問題要旨>
中井正一『美学入門』の文章を読み解き、宇宙の秩序と人間が創り出す秩序の関係性についての会話の文脈に合うように、下線部ア〜エを正しく配置する問題です。
<選択肢>
・a:Dが「逆に言えば、宇宙の秩序は完璧だってことだよね?」と解釈する元となるCの発言箇所です。人間の創る秩序が不完全であることを示唆するウ「宇宙のほかのどこにもありえない、創られつつある秩序」が対応します。「創られつつある」=未完成というニュアンスから、完璧な宇宙の秩序との対比が生まれます。
・bとc:Cが「違いが気になる」と指摘している二つの箇所です。「b:すでに存在している秩序を人間が取り入れている」に合致するのは、ア「人間は、宇宙の秩序を、一人一人自分の中にうつしとることができる」です。「c:人間が独自に秩序を生み出している」に合致するのは、イ「人間と人間の間にも、秩序があるらしいことに気づき、それを、絶えず探し求めている」です。
・d:bとcの違いを乗り越える手掛かりとしてDが挙げている箇所です。「試行錯誤」の重要性を説いている文脈であり、エ「常に謬りつつ、その謬りをふみしめることが、真実へのただ一つの道しるべとなる」が最も適合します。
以上の分析から、a-ウ, b-ア, c-イ, d-エという組合せが導かれます。したがって、正解は①です。
第3問
問1:正解①
<問題要旨>
イギリスの哲学者フランシス・ベーコンが、正しい知識を得るために取り除くべきとした4つのイドラ(偏見)について、具体例との対応が正しいものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正】
「洞窟のイドラ」とは、個人の性格、育った環境、受けた教育、読んだ本など、個人的な経験によって形成される偏見のことです。「新しいもの好き」という個人の性質から生じる思い込みは、まさに「洞窟のイドラ」の一例です。
②【誤】
友人の言うことを無批判に信じるのは、特定の権威や学説を盲信することから生じる「劇場のイドラ」に近い例です。「種族のイドラ」は、人間という種に共通する性質(例:自然を擬人化して捉える、自分の考えに都合の良い事例ばかりを探す)に起因する偏見であり、記述と一致しません。
③【誤】
「皆が言っている」という噂を信じるのは、人々のコミュニケーション(市場)で使われる言葉が不適切であったり、曖昧であったりすることから生じる「市場のイドラ」の典型例です。「権威に無批判に従う」のは「劇場のイドラ」の説明であり、誤りです。
④【誤】
占いが当たったことだけを記憶して占いを信じ込むのは、自分の考えを支持する事例だけを重視するという、人間に共通する性質から生じる「種族のイドラ」の一例です。「劇場のイドラ」は権威や伝統への盲信、「言葉の不適切な使用」は「市場のイドラ」を指すため、誤りです。
問2:正解④
<問題要旨>
デンマークの思想家キルケゴールの実存思想に関する説明として、最も適当なものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
キルケゴールは、人間が真の実存に至る道筋を「実存の三段階」として示しましたが、その順序は、感覚的な快楽を求める「美的実存」、社会的な規範に従う「倫理的実存」、そして神の前に単独で立つ「宗教的実存」へと深まっていくものです。選択肢は倫理的実存と宗教的実存の順序が逆になっています。
②【誤】
「生きられた身体」という概念を中心に、身体を通した世界との関わりを分析したのは、フランスの哲学者メルロ=ポンティです。キルケゴールの思想ではありません。
③【誤】
死や苦悩といった「限界状況」において自己の有限性を自覚し、超越者との出会いを通じて本来の自己に目覚めると説いたのは、ドイツの哲学者ヤスパースです。
④【正】
キルケゴールは、ヘーゲルに代表されるような、誰もが理性で理解できる客観的で普遍的な真理を批判しました。彼は、真理とは主体的に、つまり情熱をもって関わることで見出される「この私にとって真理であるような真理」でなければならないと主張しました。これは彼の思想の核心を的確に説明しています。
問3:正解②
<問題要旨>
フランクフルト学派の中心人物であるホルクハイマーとアドルノの思想について、正しく説明している記述を判断する問題です。
<選択肢>
ア【正】
ホルクハイマーとアドルノは、主著『啓蒙の弁証法』で、人間を解放するはずだった啓蒙理性が、自然を支配し、効率を追求する「道具的理性」へと堕落し、その結果、人間自身が管理社会のシステムに支配され、主体性を失ってしまうという逆説的な事態を鋭く批判しました。これは正しい記述です。
イ【誤】
科学の歴史が、特定の時代や共同体で共有される「パラダイム」の転換(科学革命)によって進展すると主張したのは、科学史家のトマス・クーンです。ホルクハイマーとアドルノの思想ではありません。
ウ【正】
彼らは、近代社会を支配する理性を、目的の善悪を問わず、手段としての効率性のみを追求する「道具的理性」と呼びました。そして、この道具的理性が社会の隅々まで浸透(合理化)することが、人間を疎外し、自由を奪っていると批判しました。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はアとウであり、その組合せである②が正解となります。
問4:正解②
<問題要旨>
プラグマティズムの思想家パースと哲学対話に関する資料を読み、その内容を正しく要約しているものを、会話の流れに沿って選ぶ問題です。
<選択肢>
・a(パースの思想の要約):資料1には「人間の思考とは、自分自身との対話」「人間集団とは…もっと高次の人格」とあります。ア「人間は個人として思考するときにも自分自身と対話するものであり、さらに集団としては対話を通してより高次の人格を備える」は、この内容を的確にまとめています。一方、イは「自分自身との対話ではなく」という部分が資料と矛盾します。よってaにはアが入ります。
・b(哲学対話の目的の要約):哲学対話は、多様な意見に耳を傾け、共に考えることを通じて、民主的な社会を生きる力を養うことを目的とします。エ「民主的社会でよく生きるために、異なる声に耳を傾け…相互に理解し合える力を身に付ける」は、この目的を最もよく表しています。ウ(他者優先)、オ(自己意見の強化)、カ(同意見者中心)はいずれも対話の本質から外れています。よってbにはエが入ります。
以上のことから、aにア、bにエが入る②が正解です。
第4問
問1:正解②
<問題要旨>
青年期に見られる欲求不満への対処の仕方である「防衛機制」について、具体例と用語の組合せが正しいものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
自分が相手を嫌っているという認めがたい感情を、相手が自分を嫌っているのだと思い込むのは「投射(投影)」です。「昇華」は、社会的に認められない欲求をスポーツや芸術活動などに向けることです。
②【正】
欲求不満(フラストレーション)が溜まった際に、その原因とは無関係な対象に攻撃を加えたりして、衝動的に不満を解消しようとする行動を「近道反応」といいます。八つ当たりはその典型例です。
③【誤】
欲求の対象を社会的に価値のあるものに置き換えるのは「昇華」です。「投射」は、自分の感情を他人が持っているものとみなすことです。用語と説明が入れ替わっています。
④【誤】
言い訳をして自分の失敗を正当化するのは「合理化」です。子どものように振る舞って困難から逃れようとするのは「退行」です。「失敗反応」という防衛機制は一般的ではありません。
問2:正解②
<問題要旨>
終末期医療(ターミナルケア)に関連するホスピス、リヴィング・ウィル、安楽死といった制度や考え方についての正誤を判断する問題です。
<選択肢>
ア【正】
ホスピスは、がんなどの治癒が困難な病気の末期にある患者に対し、身体的・精神的な苦痛を和らげる緩和ケアを中心に行う施設です。これは正しい記述です。
イ【正】
リヴィング・ウィルは、将来、自分の意思を伝えられなくなった場合に備えて、延命治療の希望の有無など、終末期における医療への希望をあらかじめ書面で表明しておくものです。これは正しい記述です。
ウ【誤】
患者本人の意思に基づき、医師が薬物などを投与して死期を早める「積極的安楽死」は、オランダ、ベルギー、カナダ、スイス(ただし医師の自殺幇助の形)など、一定の条件下で合法化している国や地域が存在します。「法的に認めている国や地域はない」という記述は誤りです。
以上より、アとイが正しく、ウが誤りであるため、②が正解となります。
問3:正解④
<問題要旨>
哲学者アンスコムの「意図」に関する思想について、その内容を正しく説明している記述をすべて選ぶ問題です。
<選択肢>
ア【正】
アンスコムは、意図を個人の心の中だけで完結する主観的な「思い」と捉えるデカルト的な考え方を批判しました。彼女によれば、意図は行為やその文脈と不可分であり、本人が思い通りに作り出せるものではありません。これは正しい記述です。
イ【正】
デカルト心理学のように意図を観察不可能な内的なものと捉えると、「そんな意図はなかった」という言い訳によって、いかなる行為も正当化されかねない危険性があります。アンスコムは、こうした主観主義的な意図の捉え方を批判しました。これは正しい記述です。
ウ【誤】
アンスコムは二重結果原則を擁護しましたが、それは無条件に行為を正当化するものではありませんでした。特に、無実の人を殺すといった行為自体が持つ絶対的な悪を認める立場から、単に目的が正しければ手段が正当化されるという考え方には否定的でした。したがって、この記述はアンスコムの思想の趣旨とは異なり、誤りです。
以上より、正しい記述はアとイであり、その組合seである④が正解となります。
問4:正解③
<問題要旨>
会話文や板書で示された「二重結果原則」の考え方を踏まえ、行為の是非と意図に関する記述として、全体の趣旨に最も合致するものを選ぶ問題です。
<選択識>
①【誤】
二重結果原則は、同じ結果を生む行為でも、その「意図」に違いがあれば倫理的な評価も異なりうる、という考え方です。したがって、「一方だけ許されて他方が許されないということはない」という記述は、原則の内容と矛盾します。
②【誤】
二重結果原則が適用されるための【条件1】は、「悪い結果ではないこと」です。もし悪い結果(男性の昇進を妨げること)が意図されていた場合、この原則によって正当化することはできません。
③【正】
生命維持治療の差し控えを二重結果原則で正当化する場合、【条件1】(死を意図しないこと)に加え、【条件2】「良い結果が、悪い結果を埋め合わせられるほど望ましいものであること」を満たす必要があります。この選択肢は、【条件2】の内容を、会話の文脈に即して正しく説明しています。
④【誤】
会話の中でHが意図を確定することの難しさを指摘したり、Tが原則への反論の存在に言及したりしていることから、「考え方の正しさについては疑いの余地がない」という断定的な記述は、会話全体の趣旨と合致しません。
第5問
問1:正解⑥
<問題要旨>
「国富」の定義を理解し、フローとストックの区別、構成要素に関する文章の空欄を正しく補充する問題です。
<選択肢>
・ア:国富は、「ある時点」における一国の富の蓄積量を示す指標です。このように、ある一時点で測定される量を「ストック」といいます(一定期間の流量は「フロー」)。したがって、アには「ストック」が入ります。
・イとウ:ノートの説明によれば、国富は「非金融資産」と「対外純資産(金融資産から負債を控除したもの)」の合計です。表において「正味資産」は「総資産(非金融資産+金融資産)- 負債」と計算され、これは数式を変形すると「非金融資産+(金融資産-負債)」となり、国富の定義と一致します。したがって、国富にあたるのは「正味資産」(ウ)であり、その計算に含まれる金融資産の純額が「対外純資産」(イ)の概念に対応します。
以上のことから、アにストック、イに対外純資産、ウに正味資産が入る⑥が正解です。
問2:正解②
<問題要旨>
古代日本の神話や信仰における自然観や世界観(他界観、高天原)について、記述の正誤を判断する問題です。
<選択肢>
ア【正】
古代の日本人にとって、生活に密着した里山や海辺といった自然は、単なる環境ではなく、神々や祖先の霊魂がいる「他界」と通じる神聖な場所とも考えられていました。例えば、山は死者の魂が還る場所とされ、海の彼方には理想郷である常世国(とこよのくに)があると信じられていました。これは正しい記述です。
イ【誤】
日本神話において神々が住む天上の世界「高天原(たかまのはら)」は、『古事記』などの記述を見ると、神々が田畑を耕したり、建物を建てて住んだり、機織りをしたりと、地上の人間世界とよく似た生活が営まれる場所として描かれています。「田畑や家屋などは見られず、美しい自然が広がっている」という記述は、神話の内容とは異なり誤りです。
したがって、アが正しく、イが誤りであるため、②が正解となります。
問3:正解③
<問題要旨>
財政赤字と国債発行をめぐる二つの対立する見解(財政規律重視派と積極財政派)を読み解き、それぞれの主張に合致する記述を選ぶ問題です。
<選択肢>
・左側の△△氏(財政規律重視派):将来世代への負担を懸念し、財政赤字の削減を主張しています。この立場からの具体的な政策は、b「歳出削減と増税により基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化」することです。aはさらに財政を悪化させるため、主張と矛盾します。よって、アにはbが入ります。
・右側の○○氏(積極財政派):財政規律よりも経済成長を優先し、積極的な財政出動を主張しています。彼の主張の根拠の一つは、日本国債が暴落するリスクが低いことです。その理由として、日本の国債はそのほとんどがc「国内」の投資家(銀行など)によって保有されているという事実が挙げられます。よって、イにはcが入ります。
以上のことから、アにb、イにcが入る③が正解です。
問4:正解⑦
<問題要旨>
第二次世界大戦後の国際貿易体制の変遷、特にWTO(世界貿易機関)とFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)の関係について、会話文の空欄を正しく補充する問題です。
<選択肢>
・ア:日本が初めてEPA(経済連携協定)を締結した国は、2002年の「シンガポール」です。
・イ:特定の国同士が排他的な貿易圏を形成し、圏外の国に対しては高い関税を課す政策は「ブロック経済」と呼ばれます。これは第二次世界大戦の一因とされています。
・ウ:WTOの多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が停滞した背景には、加盟国が「増加」し、先進国と発展途上国の利害対立が複雑化したことがあります。
以上のことから、アにシンガポール、イにブロック経済、ウに増加が入る⑦が正解です。
問5:正解⑥
<問題要旨>
日本の経済協力や国際的な人的交流に関する文章を読み、空欄に当てはまる適切な語句を選ぶ問題です。
<選択肢>
・ア:日本が地域全体としてEPAを締結し、かつ、個別の協定に基づいて看護師や介護福祉士候補者を受け入れている地域連合は、c「ASEAN(東南アジア諸国連合)」です。
・イ:日本の政府開発援助(ODA)について述べている文脈です。dの「国境なき医師団」は民間のNGO(非政府組織)であり、政府の活動ではありません。eの「国際協力機構(JICA)を通じた技術協力や無償資金協力など」が、日本のODAの具体的な実施内容として適切です。
以上のことから、アにc、イにeが入る⑥が正解です。
問6:正解③
<問題要旨>
外国人との共生社会の実現に向けた課題について、会話文の空欄を正しく補充する問題です。
<選択肢>
・ア:言語や国籍、障害の有無などにかかわらず、誰もが情報やサービスを利用しやすくするという考え方は、b「バリアフリー」の概念に含まれます。「ピクトグラム(絵文字)」の活用は、情報におけるバリアフリーの一例です。aの「デジタル・デバイド」は情報技術の利用格差を指す言葉で、文脈に合いません。
・イ:日本国内で働く外国人労働者の権利に関する記述です。日本の労働基準法や労働者災害補償保険(労災保険)などの労働法規は、原則として国籍を問わず、国内のすべての労働者に適用されます。したがって、c「外国人労働者にも、労働者災害補償保険(労災保険)が適用される」は正しく、dは誤りです。
以上のことから、アにb、イにcが入る③が正解です。
第6問
問1:正解③
<問題要旨>
日本国憲法における天皇の地位と権能について、正しく記述しているものをすべて選ぶ問題です。
<選択肢>
ア【誤】
憲法第6条2項により、最高裁判所の長官は「内閣の指名に基いて」天皇が任命します。「国会の指名」ではありません(国会が指名するのは内閣総理大臣です)。
イ【誤】
憲法第96条1項により、憲法改正の国民投票で必要とされるのは「有効投票の過半数」の賛成です。「4分の3以上」ではありません。
ウ【正】
憲法第4条1項は「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定めています。また、国事行為はすべて「内閣の助言と承認」に基づいて行われます(第3条、第7条)。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はウのみであるため、③が正解となります。
問2:正解⑥
<問題要旨>
国連PKO(平和維持活動)への部隊派遣人数の推移を示した3つの表を分析し、メモの内容と合致するように国名(ア)と年(エ)を特定する問題です。
<選択肢>
・アの特定:メモには「アは紛争中にはPKOを派遣される側の国であったが、紛争後は…PKOに部隊を多く派遣するようになった」とあります。表3を見ると、アは世界第2位の部隊派遣国になっています。選択肢にある「ルワンダ」は、1994年の大虐殺時にPKOの派遣対象国でしたが、その後復興を遂げ、近年はアフリカでも有数のPKO派遣国となっています。この経緯はメモの内容と一致します。
・年の特定:3つの表を比較すると、総派遣人数や主要派遣国の構成から、活動規模の変遷が読み取れます。
表1:総計が約1万人と少なく、カナダなど先進国が上位。冷戦終結直後の1990年頃の状況と推測されます。
表2:総計が約4万人。日本の派遣数が680人と多いことから、カンボジアPKO派遣後の活動が活発だった2002年頃と推測されます。
表3:総計が約7.5万人と最も多く、ア(ルワンダ)が2位に入り、日本の派遣数が激減していることから、南スーダンPKOから撤退した後の近年の状況(2022年)と推測されます。
したがって、アはルワンダ、エ(表3の時点)は2022年となり、⑥が正解です。
問3:正解④
<問題要旨>
日本の国会の制度や権能に関する記述として、最も適当なものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
委員会の公聴会は、重要な案件について必要があると認められる場合に開かれますが、すべての法律案について開催が義務付けられているわけではありません。
②【誤】
憲法審査会は、憲法及び関連法制について調査・研究を行う機関であり、個別の法律が憲法に違反するかどうかを審査する違憲審査権を持つのは、最高裁判所を頂点とする司法府(裁判所)です。
③【誤】
憲法は衆議院に予算の先議権を認めていますが、参議院に法律案の先議権は認めていません。法律案は、どちらの議院から先に提出してもよいことになっています。
④【正】
憲法第62条は、衆議院と参議院の両院に国政調査権を認めており、その権能として「証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」と明記しています。これは正しい記述です。
問4:正解④
<問題要旨>
日本における差別解消に関連する法律についての記述のうち、誤っているものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正】
2016年に「部落差別の解消の推進に関する法律(部落差別解消推進法)」が施行されました。これは、今なお存在する部落差別の解消を目指すものです。
②【正】
2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」が施行されました。
③【正】
2019年に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(アイヌ施策推進法)」が施行され、その前文で初めてアイヌを「先住民族」と法律に明記しました。
④【誤】
「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」は、民間企業、国、地方公共団体のすべてに対し、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用することを義務付けています。「企業には義務づけていない」という部分が誤りです。
問5:正解⑤
<問題要旨>
人権保障に関する国際条約についての記述の正誤を判断し、正しいものの組合せを選ぶ問題です。
<選択肢>
ア【正】
1948年に採択された世界人権宣言は、法的拘束力のない決議でした。そのため、その内容を条約として締約国に法的な遵守義務を課すために、1966年に国際人権規約(A規約:社会権規約、B規約:自由権規約)が採択されました。これは正しい記述です。
イ【誤】
人種差別の撤廃を目指す「人種差別撤廃条約」は1965年に採択されており、「女性差別撤廃条約」(1979年)よりも先に採択されています。「いまだ条約は採択されていない」は誤りです。
ウ【正】
日本は社会権規約の批准にあたり、高校・大学教育の無償化など一部の条項について留保(適用を免れることの宣言)をしていました。しかし、このうち高等教育(大学など)の無償化に関する留保は2012年に撤回しています。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はアとウであり、その組合せである⑤が正解となります。
問6:正解③
<問題要旨>
世界の経済格差問題である「南北問題」と「南南問題」に関する記述の正誤を判断し、正しいものの組合せを選ぶ問題です。
<選択肢>
ア【誤】
モノカルチャー経済とは、特定の一次産品(農産物や鉱物資源)の生産や輸出に過度に依存する経済構造を指します。植民地時代に形成されたこの経済構造が南北問題の一因であることは正しいですが、「工業製品の生産や輸出に依存する経済」という説明が誤りです。
イ【誤】
南北問題の解決を協議する機関として、発展途上国の立場から設立されたのは「国連貿易開発会議(UNCTAD)」です。「国連開発計画(UNDP)」は、発展途上国への技術協力などを行う機関です。機関名が誤っています。
ウ【正】
「南南問題」とは、発展途上国(南)の内部で生じた経済格差の問題を指します。NIES(新興工業経済地域)のように工業化を達成した国・地域が台頭する一方で、依然として貧困から抜け出せない後発発展途上国(LDC)も存在します。この格差が南南問題の背景です。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はウのみであるため、③が正解となります。
第7問
問1:正解②
<問題要旨>
知的財産権(著作権)を保護する根拠と、その議論で用いられる経済学の用語(非競合性)の定義について、正しく理解しているか問う問題です。
<選択肢>
・ア:「非競合性」とは、公共財などの性質の一つで、a「ある人が消費しても、ほかの人の消費できる量が減ることはない性質」を指します。情報やアイディアなどがこの性質を持っています。bは非排除性の欠如に関する説明です。
・イ:著作権を保護する理由について、Xは「社会に有用な効果をもたらすため」と述べています。これは、著作権保護によって創作者にインセンティブを与え、創作活動を活発にすることが、結果として社会全体のd「文化発展という公益を促進する手段」になるという考え方(功利主義的な根拠)に基づいています。
以上のことから、アにa、イにdが入る②が正解です。
問2:正解⑧
<問題要旨>
企業の生産拠点が海外に移転した場合に、移転元の国の貿易収支に与える様々な効果を理解し、その影響を正しく考察する問題です。
<選択肢>
・ア〜エ:
a(輸出代替効果):これまで輸出していた製品を現地生産に切り替えるため、輸出は「減少」します(ア)。
b(輸出誘発効果):現地の工場で使う部品や設備を輸出するため、輸出は「増加」します(イ)。
c(逆輸入効果):現地で生産した製品を自国に輸入するため、輸入は「増加」します(ウ)。
d(輸入転換効果):国内生産をやめることで、それに必要だった原材料の輸入がなくなるため、輸入は「減少」します(エ)。
・オ〜カ:
e:輸出の減少(輸出代替効果)が輸入の減少(輸入転換効果)より大きい場合、貿易収支は悪化、つまり「赤字化」します(オ)。
f:輸出の増加(輸出誘発効果)が輸入の増加(逆輸入効果)より小さい場合、貿易収支は悪化、つまり「赤字化」します(カ)。
したがって、ア:減少、オ:赤字化、カ:赤字化、となり、この組合せである⑧が正解です。
問3:正解⑥
<問題要旨>
日本のベンチャー企業に関する記述について、その正誤を判断し、正しいものの組合せを選ぶ問題です。
<選択肢>
ア【誤】
2006年に施行された会社法により、株式会社の最低資本金制度が撤廃され、合同会社(LLC)という新たな会社形態が導入されるなど、起業が容易になりました。しかし、この会社法改正によって、有限会社は新たに設立できなくなりました。「有限会社の新規設立条件が緩和される」という部分が誤りです。
イ【正】
大学の研究成果や技術を基に事業化を目指す「大学発ベンチャー」は、イノベーションの担い手として重要な存在です。これは正しい記述です。
ウ【正】
ベンチャー企業は、実績や担保が乏しいため、銀行からの融資が受けにくいという資金調達の課題を抱えています。そのため、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資や、新興株式市場(例:東証グロース市場)への上場が重要な資金調達手段となります。これは正しい記述です。
以上より、正しい記述はイとウであり、その組合せである⑥が正解となります。
問4:正解③
<問題要旨>
イノベーションを促進するための日本の法制度や政策について、会話文の空欄を正しく補充する問題です。
<選択肢>
・ア:「一定の地域に限って規制の特例措置を認め、規制改革や地域産業の活性化につなげる制度」と説明されているのは、「特区(特別区域)」制度です。構造改革特区や国家戦略特区などがあります。
・イ:「職業技能の学び直し」を意味する言葉は「リスキリング」です。デジタル化など、社会や産業構造の変化に対応するために、新たなスキルを習得することを指します。「テクノクラート」は技術官僚を意味する言葉です。
以上のことから、アに特区(特別区域)、イにリスキリングが入る③が正解です。