2023年度 大学入学共通テスト 追試験「倫理・政治経済」の解答と解説です。全設問の正解と考え方を一問ずつ解説し、公式の解答PDFもあわせて掲載しています。大学受験の森が独自に作成した、無料で読める解説です。
解答
解説
「倫理,政治・経済」は、同じ年度の「倫理」と「政治・経済」から設問を抜き出して再編集した科目です。2023年度追試験では、第1問〜第4問が「倫理」から、第5問〜第7問が「政治・経済」から、いずれも問題文・選択肢とも同一のまま出題されました(大問構成と配点・解答番号は組み替えられています)。したがって併願で対策する場合は、それぞれの科目の解説と合わせて読むと効率的です。
第1問 心と行為(配点12)
高校生A・Bと先生の会話をきっかけに、「心と行為」というテーマで宗教・思想の資料を読み解いていく大問です。「倫理」の第1問から4問が選ばれており、イエス・大乗仏教・朱熹の実践、パウロやイスラームにおける行為と結果、ソクラテスの知徳合一、王陽明の致良知と知行合一が問われます。
問1:正解 ⑥(解答番号1/配点3)
<問題要旨>
様々な宗教や思想における実践についてのア〜ウの正誤の組合せを選ぶ問題です。アはイエスと律法、イは大乗仏教、ウは朱熹(朱子)の修養論を扱っています。
<考え方>
それぞれの記述で、事実関係が逆になっていないかを一つずつ確かめます。とくにウは、朱子学の「居敬窮理」で何を窮め何を制するのかを正確に押さえる必要があります。
<選択肢>
ア【誤】
イエスは徴税人や罪人と食卓を共にしたことで知られています。律法を守れない人々を差別せず、むしろ彼らとともに食事をしたことが、律法学者やファリサイ派の批判を招きました。「食卓を共にしなかった」は事実と逆です。
イ【正】
大乗仏教は、出家者だけが悟りを目指す部派仏教のあり方を批判し、出家・在家を問わず一切衆生の救済を目指しました。菩薩の実践徳目として布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧の六波羅蜜が説かれます。
ウ【誤】
朱熹の窮理とは、事物に内在する理を一つ一つ窮めていくこと(格物致知)であり、「もっぱら自分の内なる理を窮める」のではありません。それを内面に求めたのが後の王陽明です。また朱熹は、気質の性を矯めて本然の性を発揮させるべきだと説いたのであり、「気質の性につつしみ従う」のではありません。
正解【⑥】
ア=誤、イ=正、ウ=誤の組合せなので⑥が正解です。
問2:正解 ①(解答番号2/配点3)
<問題要旨>
様々な宗教や思想における行為とその結果についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。パウロ、ウパニシャッド哲学、イスラーム、ソクラテスの四つが並びます。
<考え方>
それぞれの思想の中心概念を思い出し、行為と結果の関係がどう説かれているかを確認します。輪廻と業、最後の審判の主体、無知の知がポイントです。
<選択肢>
①【正しい】
パウロは、律法は人間に罪を自覚させる働きをするだけであり、律法の行いによっては義とされないと考えました。人が義とされるのはキリストへの信仰によるという信仰義認の立場です。
②【誤り】
ウパニシャッド哲学では、業(カルマ)の考えに基づき、現世での行為が来世の境遇を決定すると考えられました。輪廻からの解脱を目指す思想の前提そのものです。
③【誤り】
イスラームで最後の審判を行うのは唯一神アッラーです。ムハンマドは最大にして最後の預言者であり、審判者ではありません。
④【誤り】
ソクラテスは「無知の知」を出発点とし、善美の事柄について自分は何も知らないという自覚のもとで対話を続けました。人知を超えた真理を獲得したとは主張していません。
正解【①】
最も適当なものを選ぶ問題なので①が正解です。
問3:正解 ⑤(解答番号3/配点3)
<問題要旨>
プラトン『プロタゴラス』におけるソクラテスの発言(知識とは立派なものであり、人間を支配する力を持つ……仮に人が善きことと悪しきことを知ったなら、他の何かに左右されて知識が命じる以外のことをなすなどということは決してない)を読み、空欄a(ソクラテスの主張)とb(プラトンの魂の三区分)の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
資料の後半で「多くの人が主張するには」と続くのは、ソクラテス自身の考えではなく世間一般の見方です。ソクラテス自身の主張は前半にあり、知識が行為を決定するという知徳合一の立場です。bはプラトンの魂の三部分をそのまま答えます。
<選択肢>
a=最善のことを知りながら、それを行わないという事態はあり得ない【正】
資料前半の「知識が命じる以外のことをなすなどということは決してない」の言い換えです。ソクラテスの知徳合一(徳は知である)の立場を示しています。
a=最善のことを知りながら、それを行わないという事態があり得る【誤】
これは資料後半で「多くの人が主張するには」と紹介されている世間の見方であって、ソクラテス自身の主張ではありません。
b=理性・気概・欲望【正】
プラトンは魂を理性・気概・欲望の三部分に分け、それぞれに知恵・勇気・節制の徳を対応させ、三者が調和したとき正義の徳が実現するとしました。「理性・信仰・欲望」という区分はありません。
正解【⑤】
a・bともに適切なのは⑤です。
問4:正解 ④(解答番号4/配点3)
<問題要旨>
王陽明『伝習録』の一節(知は心の本体であって……もし心の良知に妨げがなく、それを充実・発現させることができたなら、それが致知である/七情に執着してはいけない。執着するのは私欲であり、良知の妨げである)を読み、資料の内容と王陽明の思想を正しく踏まえた説明を選ぶ問題です。会話文は、道端の高齢者に声をかけようと思いながら行動できなかったというAの経験でした。
<考え方>
前半で資料の記述を正しく読めているか、後半で致良知・知行合一の理解が正しいかの二段階で判定します。良知は心に内在するもので外に求める必要がないという点が、資料と王陽明の思想に共通する核心です。
<選択肢>
①【誤り】
資料は良知を「心の本体」であり「外に求められる必要のないもの」としています。「心によって知覚される対象に存在する」という説明は資料と食い違います。
②【誤り】
資料は「七情に執着してはいけない。執着するのは私欲であり、良知の妨げである」と明言しています。「執着しても良知が妨げられることはない」は資料と逆です。
③【誤り】
王陽明の知行合一は、知と行が本来一体であるとする考えであり、思うだけで行為が成立するという意味ではありません。むしろ行為を伴わない知は真の知ではないとされます。
④【正しい】
資料は七情への執着(私欲)が良知の妨げになると述べています。知行合一の立場からすれば、良知が妨げられていなければ、声をかけようという心はそのまま行為として実現したはずだ、ということになります。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
第2問 縁をめぐる日本思想(配点12)
高校生CとDが「縁」をめぐって交わした会話(I)と、南方熊楠の「南方曼荼羅」をめぐる会話(II)からなる大問です。中世の無常観と近世の陽明学、近代の社会運動、そして学習のまとめとしてのレポート読解が問われます。
問1:正解 ⑤(解答番号5/配点3)
<問題要旨>
この世の無常を見つめた中世の人物についての説明ア(各地を旅しながら人の世の無常を和歌に詠み、儚い境地を自然の風景に重ねて歌集に残した)とイ(移り行く人の世や変わり行く自然の姿もともに無常であると捉え、だからこそ心動かされると随筆の中で述べた)が、それぞれ誰かを選ぶ問題です。
<考え方>
決め手は表現の形式です。アは和歌と歌集、イは随筆と明示されています。世阿弥は能楽論(『風姿花伝』)の人物なのでどちらにも該当しません。
<選択肢>
ア=西行【正】
出家して各地を旅し、桜や月を詠んだ歌を『山家集』に残しました。「願はくは花のしたにて春死なむ」の歌で知られます。
イ=兼好(吉田兼好)【正】
『徒然草』は中世を代表する随筆で、無常であるからこそ物事は美しいという美意識が語られています。
世阿弥【—】
観阿弥の子で、能を大成し『風姿花伝』などの能楽論を著した人物です。歌集も随筆も残していないので、アにもイにも当てはまりません。
正解【⑤】
ア=西行、イ=兼好の組合せなので⑤が正解です。
問2:正解 ③(解答番号6/配点3)
<問題要旨>
中江藤樹についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
中江藤樹は日本の陽明学の祖とされる人物です。孝を万物の根本とし、時・処・位に応じた道徳の実践を説きました。他の選択肢がそれぞれ誰の説明かを見抜けば消去法で解けます。
<選択肢>
①【誤り】
「誠信の交わり」を旨として朝鮮との善隣外交に尽力したのは雨森芳洲です。
②【誤り】
儒学に神道・仏教を取り入れて心を磨く学問(石門心学)を確立し、正直と倹約に基づく商人の道徳を説いたのは石田梅岩です。
③【正しい】
中江藤樹は当初朱子学を学びましたが、その形式主義を批判して陽明学に転じ、時(時期)・処(場所)・位(身分)に応じて道徳を実践すべきだと説きました。
④【誤り】
修身中心の儒学を批判し、礼楽刑政という制度によって天下を安んじる「安天下の道」を説いたのは荻生徂徠です。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
問3:正解 ②(解答番号7/配点3)
<問題要旨>
社会の問題を考えた人物についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。武者小路実篤、西光万吉、河上肇、石川啄木が並びます。
<考え方>
それぞれの人物が属した運動や立場を確認します。白樺派・全国水平社・マルクス主義・社会主義的な文学者という区分ができれば判断できます。
<選択肢>
①【誤り】
武者小路実篤は志賀直哉らとともに白樺派を代表する作家で、人道的理想主義の立場から「新しき村」を建設しました。自然主義を批判した側であり、記述は逆です。
②【正しい】
西光万吉は1922年の全国水平社創立に加わり、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」で結ばれる水平社宣言の起草に携わったとされます。部落解放運動を指導しました。
③【誤り】
河上肇は『貧乏物語』で貧困問題を論じ、のちにマルクス主義経済学へ進みました。無政府主義的な直接行動を主張したのは幸徳秋水です。
④【誤り】
石川啄木は「時代閉塞の現状」で国家権力のあり方を批判し、社会主義に接近しました。国家に庇護される道を求めたわけではありません。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問4:正解 ③(解答番号8/配点3)
<問題要旨>
Dが学習のまとめとして書いたレポートの内容に合致する記述として最も適当なものを選ぶ問題です。レポートは、全ての生き物は縁の結び目のような存在であり、そのことを自覚できるのは人間だけで、その自覚から他者への責任が生まれる、という筋道で書かれていました。
<考え方>
レポートの結論部分「この自覚は、縁によって生かされて生きることへの感謝の念だけではなく、自分自身もまたそのような縁を支え、結び付けるべき存在でもあることを、私たちに教えてくれる」に照らして選択肢を検討します。
<選択肢>
①【誤り】
レポートには南方熊楠の学習を通じて人と自然のつながりにも目を向けた経緯が書かれています。「人と生き物の関係における縁のことは念頭になく」は本文と食い違います。
②【誤り】
レポートは「偶然に思える出会いや出来事であっても、縁というものに気が付いていないから、それを私たちは偶然とみなすのかもしれない」と述べています。縁の介在する余地はないという主張ではありません。
③【正しい】
「自分が縁の結び目であることを知り、主体的に受け止めることができるのは、人間に感受性や認識の働きがあるからである」「縁によって生かされて生きる」「自分自身もまたそのような縁を支え、結び付けるべき存在」という三点がすべて対応しています。
④【誤り】
レポートは「全ての生き物を含めた他者に対する責任の自覚」と述べており、責任の範囲を人間社会に限っていません。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
第3問 社会をめぐる近代西洋思想(配点12)
「社会なるものは存在しない」というある首相の言葉を出発点に、社会をめぐる近代西洋思想をたどる大問です。ヒュームの経験論、サン=シモンとコント、ハーバーマスの市民的公共性、そして包摂と画一化のジレンマが問われます。なお公開されている問題冊子では問3の資料(ハーバーマス『公共性の構造転換』)が省略されています。
問1:正解 ⑥(解答番号9/配点3)
<問題要旨>
ヒュームについての文章の空欄a(知識を作り上げる働き)、b(炎と熱さの間に見て取られる関係)、c(ヒュームの立場への後世の評価)に入る語句の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
ヒュームはイギリス経験論の到達点にあたる思想家です。因果関係は事物のうちに実在するのではなく、繰り返される経験から生まれる心の習慣にすぎないと論じました。この主張の徹底ぶりが、後に懐疑論と評されます。
<選択肢>
a=習慣【正】
ヒュームによれば、私たちが知識と呼ぶものは経験の反復から生じる心の習慣によって作り上げられたものです。理性が生得的な原理から導くのではありません。
b=因果【正】
炎に近づくと熱いという経験の繰り返しから、炎が熱さの原因だとみなすようになる、というのが因果関係の説明です。ヒュームは因果の必然的結合が知覚されるわけではないと指摘しました。
c=懐疑論【正】
因果関係も自我の同一性も経験によって確証できないとするヒュームの議論は、知識の確実性を掘り崩すものとして懐疑論と評され、カントを「独断のまどろみ」から目覚めさせたとされます。合理論はデカルトらの立場で、経験論のヒュームには当てはまりません。
正解【⑥】
a=習慣、b=因果、c=懐疑論の組合せなので⑥が正解です。
問2:正解 ③(解答番号10/配点3)
<問題要旨>
社会の改良を目指した思想家についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。サン=シモンとコントが交互に並んでいます。
<考え方>
サン=シモンは産業者による社会の運営を構想した初期社会主義者、コントは実証主義と三段階の法則を唱えた社会学の祖です。両者の主張の中身と、三段階の順序を確認します。
<選択肢>
①【誤り】
サン=シモンは自由競争ではなく、産業者による計画的な社会の運営を構想しました。
②【誤り】
コントは観察と実験に基づく実証的な知識を重視した実証主義者です。「経験によっては予見し得ないダイナミズム」を重視したという説明は逆です。
③【正しい】
サン=シモンは、国民の大多数を占める製造業者・農民・商人といった産業者こそが社会を運営すべきだと説きました。
④【誤り】
コントの三段階の法則は、神学的段階 → 形而上学的段階 → 実証的段階の順です。実証的段階と形而上学的段階が入れ替わっています。
正解【③】
最も適当なものを選ぶ問題なので③が正解です。
問3:正解 ④(解答番号11/配点3)
<問題要旨>
ハーバーマスの思想と、『公共性の構造転換』からの資料の内容の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。なお公開されている問題冊子ではこの資料が省略されています。
<考え方>
選択肢はいずれも「◯◯の意義を説くハーバーマスは」で始まります。まず前半でハーバーマスの思想を正しく述べているものに絞り、次に『公共性の構造転換』の議論と合う説明を選びます。同書は、私的な個人が集まって議論する市民的公共性が成立し、やがて文化を消費するだけの大衆へと変質していく過程を描いた著作です。
<選択肢>
①【誤り】
道具的理性の概念を批判的に論じたのはホルクハイマーとアドルノです。ハーバーマスはむしろ、対話によって合意を形成する理性の可能性を追求しました。
②【誤り】
ハーバーマスは、システムが生活世界を侵食する(生活世界の植民地化)ことを批判した思想家です。システム合理性の意義を説く立場ではありません。
③【誤り】
前半の「対話的理性」はハーバーマスに合いますが、後半が誤りです。市民的公共性は、生活の必要から離れた私的な個人がサロンやコーヒーハウスで公共の問題を論じたところに成立したものであり、「生活の必要と結び付いた切実な議論」がそれを成立させたのではありません。
④【正しい】
ハーバーマスは市民的公共性の意義を説きました。『公共性の構造転換』は、かつて私的領域での議論を通じて培われた市民的文化が、人々が文化をただ消費する立場へ変わることで失われていったと論じています。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
問4:正解 ①(解答番号12/配点3)
<問題要旨>
高校生Eと先生の会話(教育は人々を包摂する重要な施策だが、J. S. ミルが指摘したように画一化の危険もある。多様なニーズに同じ方法で応えようとすると画一化を引き起こす。このジレンマと真摯に向き合い変化していくことが、多様な他者が共存しやすい社会の条件になる)の趣旨に合致する記述として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
会話の要点は二つあります。社会には画一化の圧力があること、そしてそのジレンマを前向きに引き受ける努力にこそ道が開けるということです。この両方を含む選択肢を選びます。
<選択肢>
①【正しい】
画一化の圧力があることと、多様な他者と共に生きる中で生じる矛盾に向き合う努力にそれを越える契機があること、という会話の二つの柱がそのまま述べられています。
②【誤り】
会話では、全ての成員を等しく包摂しようとする努力がかえって画一化を引き起こしうると述べられています。「必然的に多様性を増大させる」は逆です。
③【誤り】
会話は同質化(画一化)を問題として指摘しており、それを目指すべきだとは述べていません。
④【誤り】
会話は均質化の傾向を克服すべき課題として語っています。それが他者と共に生きる困難を低減してくれるという趣旨ではありません。
正解【①】
最も適当なものを選ぶ問題なので①が正解です。
第4問 高齢者の孤立(配点14)
高校生Fの発表「高齢者の孤立」と、それを受けた高校生Gとの議論を題材にした大問です。共同体主義と大衆社会論、青年期のモラトリアム、アーレントの思考論、そして孤立と孤独の区別という到達点までが問われます。なお公開されている問題冊子では問3の資料(アーレント『精神の生活』)が省略されています。
問1:正解 ①(解答番号13/配点3)
<問題要旨>
個人と社会の関係を論じた思想家についての説明ア(個人は家族や地域などのコミュニティと密接に関わっており、役割や責任を負荷された自己であり、共通善を追求するべきだと説いた)とイ(現代社会を生きる個人は互いを知らない「孤独な群衆」であり、孤独感を和らげるために周囲やマスコミの意見に同調すると説いた)が、それぞれ誰かを選ぶ問題です。
<考え方>
アの「負荷された自己」「共通善」はコミュニタリアニズムの用語です。イの「孤独な群衆」は書名がそのまま手がかりになります。
<選択肢>
ア=サンデル【正】
サンデルはロールズの想定する「負荷なき自己」を批判し、人は共同体の中で役割や責任を負った「負荷ありし自己」であるとして、共通善に基づく政治を主張しました。
ア=ノージック【誤】
ノージックはリバタリアニズムの立場から、個人の権利を最大限尊重し国家の役割を最小限にとどめる最小国家論を唱えた人物です。
イ=リースマン【正】
『孤独な群衆』で、現代人の社会的性格が伝統指向型・内部指向型から、周囲やマスメディアに同調する他人指向型へ移行したと論じました。
イ=リップマン【誤】
リップマンは『世論』でステレオタイプや疑似環境の概念を提示した人物で、『孤独な群衆』の著者ではありません。
正解【①】
ア=サンデル、イ=リースマンの組合せなので①が正解です。
問2:正解 ④(解答番号14/配点3)
<問題要旨>
青年期の心理・社会的モラトリアムについての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
モラトリアムはもともと経済用語で「支払猶予」を意味します。エリクソンはこれを転用し、青年が社会的な責任や義務を一時的に猶予され、その間にアイデンティティを模索する期間を指す語としました。
<選択肢>
①【誤り】
無関心・無感動・無為・無気力で過ごす状態はアパシー(スチューデント・アパシー)と呼ばれるもので、モラトリアムとは異なります。
②【誤り】
失敗や挫折で自信を失い、自分の未熟さを気にし過ぎて日常生活に支障を生じる状態は、対人恐怖などの症状にあたります。
③【誤り】
修学も就業もせず職業訓練も受けていない状態はニート(NEET)の説明です。
④【正しい】
一人前の社会人としての役割を果たせるようになるために、社会的責任や義務を猶予されている状態がモラトリアムです。エリクソンはこの期間をアイデンティティ確立のために必要なものと位置づけました。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
問3:正解 ②(解答番号15/配点4)
<問題要旨>
アーレントが孤高について書いた『精神の生活』からの資料(公開されている問題冊子では省略)を踏まえ、アーレントの思想と資料の内容の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
選択肢の前半はいずれも思想家の業績を述べていますが、アーレント以外の思想家の仕事が混ぜられています。まず前半でアーレントの業績を正しく述べているものに絞り、次に「孤高」と「独りぼっち」を区別する『精神の生活』の議論に合うものを選びます。
<選択肢>
①【誤り】
全体主義の起源を考察したのは確かにアーレントですが、資料の説明が誤りです。アーレントにとって思考は自分自身との対話であり、他の人々と共に問い答える営みの中でのみ成立するものではありません。
②【正しい】
人間の営みを労働・仕事・活動に区分したのは『人間の条件』のアーレントです。『精神の生活』では、思考とは「自分と自分との二者性」における対話であり、自分自身を仲間として持つとき、人は独りぼっち(loneliness)ではなく孤高(solitude)であると論じられます。
③【誤り】
ナチズムを生む社会的性格を心理学的に分析したのはフロム(『自由からの逃走』)です。またアーレントは他人を模範とする二者性を説いてはいません。
④【誤り】
人間中心主義から離れて存在忘却を批判したのはハイデガーです。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問4:正解 ⑤(解答番号16/配点4)
<問題要旨>
先生が示した孤立と孤独の区別(孤立は自ら望まずに集団から取り残されること、孤独は自ら望んで社会から一歩ひいた観点で物事を観想すること)を踏まえ、会話文の空欄a(Fが防ぎたいと思ったもの)、b(Gが青年期に思考の深まりと成長につながると習ったもの)、c(FがGとの議論を経て大切だと気づいたこと)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
先生の定義をそのまま当てはめれば、aとbは決まります。Fが発表で問題にしていたのは「自ら望まずに取り残される」ほうです。cは、議論の到達点である「一人でいたいという意思の尊重」と「尊厳が損なわれるときの支援」の両方を含むものを選びます。
<選択肢>
a=孤立【正】
Fの発表は、支援を拒否して誰にも看取られずに亡くなる人がいることを問題にしていました。これは自ら望まずに取り残される孤立にあたります。
b=孤独【正】
Gは青年期に一人で考えることが思考の深まりと成長につながると習ったと述べています。自ら望んで社会から一歩ひいて観想する孤独のことです。
c【正】
⑤のcは「高齢者の話に時々耳を傾け、信頼関係を築き、一人でいたいという意思を尊重しながら、独居生活が尊厳を損なう状態になったら支援する」というものです。Gの「付かず離れずの継続的な見守りなら監視にならない」という発言と、Fの「独居生活が困難なのに放置するのは人間としての尊厳を損なう」という発言の両方を受けており、議論の到達点として最も適切です。
③のc【誤り】
a・bは正しい組合せですが、cが「自分ではどうしようもない状況に陥ってしまったときには支援が得られる」という受け身の環境整備にとどまり、日頃の継続的な見守りという議論の核心が抜けています。
⑥のc【誤り】
a・bの組合せは正しいものの、cが「地域の人々による訪問をやめて、気付かれないように見守りのための機器を設置する」となっており、Fが必要だと述べた「話を聴きに行く」継続的な見守りと正反対です。
正解【⑤】
a=孤立、b=孤独で、cも議論の到達点に合致する⑤が正解です。
第5問 現代の法をめぐる課題(配点19)
生徒X・Y・Zが「現代の法をめぐる課題」をテーマに、人権保障・司法制度・議会制度の三つのパートに分かれて発表するという設定です。法の役割、人権宣言の年代、障害者への合理的配慮、外国人の地方参政権、司法制度改革、労働法改正が問われます。なお公開されている問題冊子では、問2の記述a・c・dが省略されています。
問1:正解 ②(解答番号17/配点3)
<問題要旨>
「社会秩序を維持するために国家が設定した社会規範」としての法を、国家が直接に強制しているといえる事例を選ぶ問題です。
<考え方>
ポイントは二つあります。第一に、その規範が国家の定めた法かどうか。第二に、その規範を国家が直接に強制しているか、つまり国家機関が実際に制裁を加えているかです。家族や仲間からの注意、民間事業者による処分は、国家による直接の強制ではありません。
<選択肢>
①【誤り】
法律の規定に触れてはいますが、Jが受けたのは家族からの注意にとどまります。国家が直接強制したとはいえません。
②【正しい】
Kは窃盗として起訴され、裁判所によって罰金刑を科されています。国家機関が刑罰という制裁を直接に加えており、国家による直接の強制にあたります。
③【誤り】
アカウントを削除したのは民間事業者であり、根拠は会員規約という私的な取決めです。国家が設定した法ではありません。
④【誤り】
部活動の決まりという任意団体の内部ルールで、しかも注意したのは他の部員です。国家は関与していません。
正解【②】
最も適当なものを選ぶ問題なので②が正解です。
問2:正解 ③(解答番号18/配点3)
<問題要旨>
アメリカ独立宣言、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)、フランス人権宣言、ワイマール憲法の一節である記述a〜dを成立年の古い順に並べたとき、3番目にくるものを選ぶ問題です。なお公開されている問題冊子ではa・c・dが省略され、bのみ(「いかなる児童も、その私生活、家族、住居もしくは通信に対して恣意的にもしくは不法に干渉されまたは名誉および信用を不法に攻撃されない」)が読める状態になっています。
<考え方>
まず四つの文書の成立年を並べます。アメリカ独立宣言1776年 → フランス人権宣言1789年 → ワイマール憲法1919年 → 子どもの権利条約1989年です。したがって3番目はワイマール憲法です。読めるbは「児童」を主語とする条文なので子どもの権利条約であり、4番目にあたるのでbではありません。残るa・c・dのうちワイマール憲法にあたるものが答えになります。
<選択肢>
b【子どもの権利条約(4番目)】
児童のプライバシーの保護を定めた第16条にあたります。1989年採択で四つの中では最も新しく、3番目ではありません。
3番目【ワイマール憲法(1919年)】
世界で初めて社会権(生存権)を保障した憲法として知られます。1776年のアメリカ独立宣言、1789年のフランス人権宣言に続き、1989年の子どもの権利条約より前にあたるので3番目です。
正解【③】
公式の解答は③(記述c)です。省略されていないbが4番目だと確定できるので、残るa・c・dの中で年代を並べる問題に帰着します。
学習のポイント【—】
人権保障の歴史は「自由権(18世紀)→ 社会権(20世紀初頭)→ 権利の国際化・個別化(20世紀後半)」という三段階で押さえると、年代の並べ替えに強くなります。
問3:正解 ④(解答番号19/配点3)
<問題要旨>
障害者の権利についての会話文の空欄ア(不利益な取扱いの禁止だけでは足りないという考え方)と、空欄イ(合理的配慮の具体例)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
アは形式的平等と実質的平等の区別です。「より一層の機会を提供していく必要がある」という発言は、格差を積極的に是正する実質的平等の考え方です。イは、障害の特性に応じて障壁を除去する措置にあたるものを選びます。積極的な採用は障壁の除去ではなく、機会の拡大のための別の手段です。
<選択肢>
ア=b(人々の間にある格差の是正を積極的に図って実質的平等を確保する)【正】
同じ扱いをするだけでは不十分で、置かれた条件の違いに応じてより多くの機会を提供する、という発言に対応します。aの「属性によらず画一的に扱って形式的平等を確保する」は、まさにXが不十分だと言っている考え方です。
イ=d(周囲の物音に敏感で集中できない障害のある人について、職場で静かな環境で作業に従事できるようにすること)【正】
個々の障害の特性に応じて、日常生活・社会生活上の障壁を除去する個別の措置であり、合理的配慮の定義そのものです。
イ=c(障害者を積極的に採用すること)【誤】
これは職場の多様性確保のための積極的差別是正措置(ポジティブ・アクション)にあたり、個々の障害の特性に応じた障壁の除去である合理的配慮とは別の概念です。
正解【④】
ア=b、イ=dの組合せなので④が正解です。
問4:正解 ④(解答番号20/配点4)
<問題要旨>
外国人の地方参政権をめぐる最高裁判所判決(1995年)の資料から読みとれる記述として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
この判決は二段構えになっています。前段は「憲法93条2項の『住民』とは日本国民を意味する」という判断、後段は「永住者等について法律で選挙権を付与することは憲法上禁止されていない」という判断(いわゆる傍論)です。この二つを取り違えないことが要点です。
<選択肢>
①【誤り】
資料は「住民とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味する」としています。外国人も含まれるという読み方は誤りです。
②【誤り】
前半は正しいのですが、資料は永住者等について「選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」と述べており、後半が資料と逆です。
③【誤り】
前半・後半ともに資料と食い違っています。
④【正しい】
「住民には外国人は含まれない」(前段)が、「永住者等について法律で選挙権を与えることは憲法上禁止されていない」(後段)という、判決の二段構えを正確に押さえています。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
問5:正解 ②(解答番号21/配点3)
<問題要旨>
司法制度改革の中で設けられた仕組みに関する記述として「誤っているもの」を選ぶ問題です。
<考え方>
法テラス、被害者参加制度、取調べの可視化、知的財産高等裁判所という四つの制度について、それぞれ誰が何をする制度かを確認します。誤りを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正しい】
法テラス(日本司法支援センター)は2006年に業務を開始し、司法に関する情報提供、無料法律相談、民事法律扶助などを行っています。
②【誤り】
被害者参加制度は、犯罪被害者やその家族が「被害者参加人」として刑事裁判に参加し、被告人質問や意見陳述などを行う制度です。裁判員として参加するわけではありません。裁判員は有権者から無作為に選ばれます。
③【正しい】
2016年の刑事訴訟法改正により、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件については、被疑者取調べの全過程の録音・録画が義務づけられました。
④【正しい】
知的財産高等裁判所は2005年に東京高等裁判所の特別の支部として設置され、特許権などの知的財産権に関する訴訟を専門に扱っています。
正解【②】
誤っているものを選ぶ問題なので②が正解です。
問6:正解 ⑤(解答番号22/配点3)
<問題要旨>
2010年以降に行われた労働に関する法改正の内容ア〜ウと、その背景となった事情a〜cとの組合せを選ぶ問題です。アは出生時育児休業(産後パパ育休)の導入、イは有期労働契約の無期転換ルールの導入、ウは時間外労働の罰則付き上限規制の導入です。
<考え方>
背景の統計が何を測っているかを見れば対応関係がつかめます。aは有期契約の勤続年数、bは年間実労働時間と過労死、cは男女の権利行使率の大きな差です。
<選択肢>
ア=c【正】
出生時育児休業は、育児休業の取得率が女性は8割を超えるのに対し男性は1割に満たないという大きな差を背景に、2021年の育児・介護休業法改正で導入されました(2022年10月施行)。
イ=a【正】
有期契約が反復更新されて実質的に長期雇用となっている実態を背景に、2012年の労働契約法改正で、通算5年を超えて更新された場合に労働者の申込みによって無期労働契約に転換できる制度が導入されました。
ウ=b【正】
年間労働時間が長時間のまま推移し、過労死・過労自殺への対策が求められたことを背景に、2018年の働き方改革関連法で、労働基準法に罰則付きの時間外労働の上限規制が設けられました。
正解【⑤】
ア=c、イ=a、ウ=bの組合せなので⑤が正解です。
第6問 経済発展・財政・公共財(配点19)
生徒Xが授業を振り返ってまとめたノートを題材に、経済発展と政府の支援、日本の農業、多角的貿易交渉、社会保障の財源と基礎的財政収支、公共財の性質、行政のアウトソーシングまでを扱う大問です。
問1:正解 ①(解答番号23/配点3)
<問題要旨>
メモの空欄ア(『経済学の国民的体系』の著者)とイ(その主張の一つ)に入る人名と語句の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
『経済学の国民的体系』という書名から著者が決まり、その主張も一つに定まります。発展途上国の経済成長という文脈にも合う政策を選びます。
<選択肢>
ア=リスト【正】
ドイツの経済学者フリードリヒ・リストは『経済学の国民的体系』(1841年)で、後発国であるドイツの立場から歴史学派の経済学を展開しました。
ア=シュンペーター【誤】
シュンペーターは『経済発展の理論』でイノベーション(新結合)を経済発展の原動力とした人物で、『経済学の国民的体系』の著者ではありません。
イ=幼稚産業の保護【正】
リストは、育ちきっていない自国産業は関税などで一定期間保護すべきだという幼稚産業保護論を唱えました。自由貿易を説くイギリス古典派経済学に対する反論です。
正解【①】
ア=リスト、イ=幼稚産業の保護の組合せなので①が正解です。
問2:正解 ②(解答番号24/配点3)
<問題要旨>
日本の農業の現状あるいは農業政策の現状に関する記述a〜cのうち、正しいものをすべて選ぶ問題です。
<考え方>
aは食糧管理制度がいつまで存在したか、cは関税撤廃が輸入制限の強化になるかという、事実関係のねじれを見抜けるかが問われています。
<選択肢>
a【誤り】
食糧管理制度は1995年の食糧法施行によって廃止されました。2000年以降に導入されたという事実はありません。また同制度は米の生産・流通・価格を国が管理する仕組みで、米以外の作物の生産を奨励するものでもありません。
b【正しい】
後継者不足と高齢化への対策として、農作物のブランド化や、生産(第一次)・加工(第二次)・販売(第三次)を一体化する六次産業化による高付加価値化が進められています。
c【誤り】
関税を撤廃すれば海外農産物は入りやすくなります。輸入制限の強化とは逆の効果です。
正解【②】
bだけが正しいので②が正解です。
問3:正解 ③(解答番号25/配点4)
<問題要旨>
知的財産権の保護が主な交渉内容となり、またWTO(世界貿易機関)の設立が合意された多角的貿易交渉(ラウンド)の名称を選ぶ問題です。
<考え方>
GATTの主要ラウンドを年代順に整理します。ケネディ・ラウンド(1964〜67年、関税一括引下げ)、東京ラウンド(1973〜79年、非関税障壁)、ウルグアイ・ラウンド(1986〜94年)、そしてWTO発足後のドーハ・ラウンド(2001年〜)です。
<選択肢>
①【誤り】
ドーハ・ラウンドはWTO発足後の2001年に始まった交渉で、WTOの設立を合意したものではありません。先進国と途上国の対立で難航しました。
②【誤り】
東京ラウンドの主題は非関税障壁の軽減で、知的財産権やWTO設立は扱っていません。
③【正しい】
ウルグアイ・ラウンド(1986〜94年)では、知的財産権(TRIPS協定)やサービス貿易(GATS)が新たに交渉対象となり、農産物の関税化も合意されました。その結果、1995年にWTOが発足します。
④【誤り】
ケネディ・ラウンドは関税の一括引下げ方式を導入した交渉です。
正解【③】
正しいものを選ぶ問題なので③が正解です。
問4:正解 ②(解答番号26/配点3)
<問題要旨>
国の一般会計予算(1990年度と2020年度)を比較した資料から読みとれる内容として正しい記述(ア=社会保障の費用の増加額は消費税の増加額よりも大きい/イ=小さい)と、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字を示す図(図aまたは図b)の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
前半は資料から引き算するだけです。後半は、基礎的財政収支が「税収等 −(国債費を除く政策的経費)」で測られることを思い出し、税収等のほうが政策的経費より大きい図を選びます。
<選択肢>
ア【正しい】
社会保障の費用は11.6兆円から35.9兆円へ24.3兆円の増加。消費税は5.3兆円から21.7兆円へ16.4兆円の増加です。社会保障の増加額のほうが大きくなっています。
図b【正】
図bは税収等が政策的経費を上回っており、政策的経費を税収等だけでまかなったうえで余りが出ている状態、すなわち基礎的財政収支の黒字を表しています。
図a【誤】
図aは公債金が大きく、政策的経費が税収等を上回っています。これは基礎的財政収支の赤字の状態です。
正解【②】
ア+図bの組合せなので②が正解です。
問5:正解 ④(解答番号27/配点3)
<問題要旨>
公共財としての公園が非排除性と非競合性の両方の性質を保つことができている事例を、ア〜ウからすべて選ぶ問題です。
<考え方>
非排除性とは対価を払わない人を排除できないこと、非競合性とはある人の消費が他の人の消費を減らさないことです。それぞれの事例で、この二つの性質が失われていないかを確認します。
<選択肢>
ア【当てはまる】
テーマパークができて誰も公園を利用しなくなっても、地方自治体が無料で管理している以上、利用したい人を排除する仕組みはなく(非排除性)、利用者が少ないので混雑による競合も生じません(非競合性)。両方の性質は保たれています。
イ【当てはまる】
管理主体が地方自治体から企業に変わっても、利用方法は同じままなので、無料で誰でも利用でき(非排除性)、これまでどおりの利用状況が続きます(非競合性)。
ウ【当てはまらない】
入場料金を徴収するようになると、料金を払わない人を排除できるようになります。非排除性が失われるため、両方の性質を保っているとはいえません。
正解【④】
アとイが当てはまるので④が正解です。
問6:正解 ④(解答番号28/配点3)
<問題要旨>
地方自治体が新たにアウトソーシング(業務の外部委託)をしたと考えられる例として最も適当なものを選ぶ問題です。
<考え方>
アウトソーシングとは、自治体が自ら行っていた業務を外部の主体に委ねることです。「これまで自治体が担っていた業務が、外部の主体に移った」といえるかどうかで判定します。
<選択肢>
①【誤り】
求職者相談会を催したのは地方自治体自身であり、業務を外部に委ねてはいません。
②【誤り】
新商品の開発を行う部署を自治体「内」に新設したのですから、むしろ内部化です。
③【誤り】
助成金の対象地域を広げただけで、業務の委託ではありません。
④【正しい】
自治体の職員が管理していた国際交流センターの管理を民間企業が請け負うことになったのですから、自治体が担っていた業務が外部に移っています。地方自治法に基づく指定管理者制度がその代表的な仕組みです。
正解【④】
最も適当なものを選ぶ問題なので④が正解です。
第7問 ディーセント・ワークの日本での実現(配点12)
「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の日本での実現」をテーマに、生徒XとYが探究学習を進めるという設定の大問です。需要の価格弾力性、平均消費性向と所得格差、労働環境改善の取組み、労働紛争解決制度のグラフ読み取りが問われます。
問1:正解 ①(解答番号29/配点3)
<問題要旨>
需要曲線D₁とD₂を描いた図をもとに、メモの空欄ア(需要の価格弾力性が高いほう)、イ(同じ価格の下での価格の変化に対する需要量の変化)、ウ(高校生の需要曲線として映画館が想定するもの)に入る記号と語句の組合せを選ぶ問題です。図ではD₁が緩やかな傾き、D₂が急な傾きで描かれています。
<考え方>
需要の価格弾力性とは、価格が変化したときに需要量がどれだけ敏感に反応するかの度合いです。グラフでは傾きが緩やかなほうが、同じ価格変化に対する需要量の変化が大きく、弾力性が高くなります。ウは、学生割引で入館者と収益の増加を期待できるのはどちらのタイプかを考えます。
<選択肢>
ア=D₁【正】
図でD₁は傾きが緩やかです。同じだけ価格が下がったとき需要量の増え方が大きいので、需要の価格弾力性が高いのはD₁です。
イ=大きい【正】
弾力性が高いとは、価格の変化に対する需要量の変化が大きいということです。
ウ=D₁【正】
高校生は自由に使えるお金が少なく時間が多いので、値下げされれば映画館に足を運びやすくなります。つまり価格に敏感=弾力性が高い集団です。学生割引で値下げすれば入館者が大きく増え、収益の増加が期待できます。
正解【①】
ア=D₁、イ=大きい、ウ=D₁の組合せなので①が正解です。
問2:正解 ④(解答番号30/配点3)
<問題要旨>
5人の可処分所得の合計が同じ250万円でありながら、分配が均等なケースAと格差のあるケースBを比べる表をもとに、メモの空欄ア(直接税や社会保険料が消費支出に含まれるか)とイ(消費支出の合計額の比較)に入る記述の組合せを選ぶ問題です。
<考え方>
アは可処分所得の定義から考えます。可処分所得は所得から直接税と社会保険料を差し引いた後の金額なので、それらは消費支出に含まれません。イは各人の可処分所得×平均消費性向を足し上げて比べます。
<選択肢>
ア=b(含まれない)【正】
可処分所得は、所得から直接税や社会保険料を差し引いた「手取り」です。消費支出はその可処分所得の中から行われるので、直接税や社会保険料は消費支出に含まれません。
イ=c(ケースAの方がケースBよりも大きい)【正】
ケースAは50×0.7×5=175万円。ケースBは20×0.9+40×0.8+50×0.7+60×0.6+80×0.5=18+32+35+36+40=161万円です。所得の合計は同じでも、所得が高い人ほど平均消費性向が低いため、格差があるケースBのほうが消費支出の合計は小さくなります。
考察のポイント【—】
所得の合計が同じでも、分配が偏っていると社会全体の消費は小さくなります。所得格差の是正が消費の下支えにつながるという議論の、数量的な裏づけになる設問です。
正解【④】
ア=b、イ=cの組合せなので④が正解です。
問3:正解 ④(解答番号31/配点3)
<問題要旨>
ある企業の労働環境改善の取組みをまとめたメモから読みとれる、この企業が取り入れている仕組みとして正しいものを、a(フレックスタイム制)〜c(高度プロフェッショナル制度)からすべて選ぶ問題です。
<考え方>
三つの制度の定義を確認したうえで、メモの各項目と突き合わせます。とくに高度プロフェッショナル制度は、高度な専門業務に就く高所得者を労働時間規制の対象外とする制度で、メモにその記載があるかを見ます。
<選択肢>
a(フレックスタイム制)【正しい】
メモの3に「従業員が出社と退社の時刻を一定の時間帯の中で自由に決められるようにする制度を導入」「コアタイムを縮小」とあります。フレックスタイム制そのものです。
b(テレワーク)【正しい】
メモの1に「育児や介護などを行う従業員を対象に在宅勤務制度を導入」「Web会議システムを活用」とあり、テレワークにあたります。
c(高度プロフェッショナル制度)【誤り】
メモの2はむしろ残業時間に上限を設定し休暇取得を推奨する内容で、労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度とは方向が逆です。メモにこの制度の導入は記載されていません。
正解【④】
aとbが正しいので④が正解です。
問4:正解 ⑥(解答番号32/配点3)
<問題要旨>
発表原稿の空欄ア(労働組合の組織率)、イ(労働関係の民事訴訟の件数の推移)、ウ(労働審判の件数の推移)に当てはまるものを、図中のa〜cから一つずつ選ぶ問題です。図には、1987年から一貫して低下する折れ線c、1987年から2018年まで長期に続く折れ線b、2006年から始まって急上昇する折れ線aが描かれています。
<考え方>
決め手は三つあります。第一に、組織率は%なので右軸の目盛りに対応します(1987年の約27%から2018年の約17%へ低下)。第二に、労働審判制度は2006年4月に始まったので、2006年から始まる系列が労働審判です(図の注にも「aの2006年の値は4月〜12月のもの」とあります)。第三に、残る系列が労働関係の民事訴訟です。
<選択肢>
ア=c【正】
1987年の約27%から2018年の約17%へと一貫して低下しています。労働組合の推定組織率の長期低下傾向と一致します。
イ=b【正】
1987年から2018年まで一貫して記録があり、1990年代から2000年代前半にかけて増加した後、リーマン・ショック後の2009年前後に3,200件台へ急増しています。労働関係の民事訴訟の新受件数です。
ウ=a【正】
2006年から記録が始まっており、労働審判制度の開始年(2006年4月)と一致します。図の注の記載もこれを裏づけます。
正解【⑥】
ア=c、イ=b、ウ=aの組合せなので⑥が正解です。
※ 本記事の解答・解説は当サイトが独立に作成したものです。公式の正解および配点は大学入試センターの発表をご確認ください。

