解答
解説
第1問
問1:正解4
<問題要旨>
この小問は、クワインの科学観を題材に、「科学的知識をどのように捉え、どのように検証するのか」を問う内容です。クワインの立場では、科学における命題は相互に結び付きあった全体として捉えられ、それぞれを個別に切り離して完全に独立に検証することはできないという「ホーリズム(全体論)」の考え方が主張されています。
<選択肢>
①【誤】
「個々別々に独立して成立し、それぞれ単独で検証の対象」と捉え、かつBを「パラダイム」としているが、クワインの考え方は「個別命題を単独で切り離して検証する」ものではないため、この組み合わせは誤り。
②【誤】
Aを「個々別々に独立して成立し、それぞれ単独で検証の対象」としながら、Bを「ホーリズム」としている。ホーリズムの立場と「個々別々に独立で検証する」というAの説明は矛盾するため誤り。
③【誤】
Aを「互いに結び付いた一つの集まりとして捉えることにより、検証が可能」とし、Bを「パラダイム」としている。パラダイムという語はクーンの科学観を示す用語であり、クワインの全体論とは直接対応しにくい。クワインの文脈では「ホーリズム」がよりふさわしいので、この組み合わせは誤り。
④【正】
Aを「互いに結び付いた一つの集まりとして捉えることにより、検証が可能」とし、Bを「ホーリズム」と組み合わせている。クワインの「知識全体は網の目のように相互に関連しながら改訂される」という立場を正しく表現しており、適切である。
問2:正解4
<問題要旨>
この小問は、図表をもとに「AIによる仕事の奪われ方への不安」や「AIの普及に伴う対応・準備」について、日本とアメリカの労働者の意識調査を比較し、その結果を読み取る問題です。回答者の傾向を踏まえ、複数の選択肢のうち、どれが最も図表の内容を反映しているかを考察します。
<選択肢>
①【誤】
「アメリカの就労者でAIを使う側の立場で準備をする人の割合が19%未満」などの数値や、AIに仕事を奪われると思う割合が11%程度という記述は、図表の数値の読み取りとして誤りがあると考えられる。
②【誤】
「日本の就労者で、仕事の一部がAIに奪われると思う人が64%程度、さらに今まで培ってきた知識やスキルで別の仕事に移る人が25%程度」というのは、数字の傾向に関して一部正しい要素もありそうだが、図表全体の読み取りや他の要素との整合性が合わないため誤り。
③【誤】
「アメリカの就労者で、今の仕事を継続するためにAIスキルを習得すると答えた人が65%程度、AIに仕事が奪われると思う割合は日本より多い」という主張は、図表の実際の分布の読み取りが一部ずれているか、細部の数値に不整合があるため誤りといえる。
④【正】
「日本の就労者で、人間の仕事がAIに奪われると思う人は80%未満であり、何も対応や準備をしないと答えた人の割合はアメリカの2倍以上」という内容が、図表の棒グラフや回答分布から最も整合する。結果を全体的に見て、日本は対応・準備をしないと答えた人がアメリカより際立って高い傾向が読み取れるため正しい。
問3:正解3
<問題要旨>
この小問は、人間同士の関係を基盤とする「ケアリングの倫理」に関して、ネル・ノディングスらの議論を紹介しながら、ケアすることの本質的な意義や道徳性を問う内容です。選択肢では「ケアする側とケアされる側の相互関係」や「他者の苦痛への共感と救済」がどのように倫理的な高みをもたらすかが論点になります。
<選択肢>
①【誤】
「相互に利益を与え合うことによってケアリングの倫理を目指す」という説明は、ケアする者・される者の“利害”が前面に出ている。本来のケアリング論では、利害を超えた相手への配慮や苦痛の除去を重視するため、この説明はずれている。
②【誤】
「他者の苦しみを取り除いてニーズを満たすことができれば、仮にケアリング関係が破綻してもそれを貫くこと自体が尊い」とするが、ケアリングの倫理は関係性の継続を重視する。一度でも助けられればよいという単発的見方では要旨に合致しにくい。
③【正】
「苦しむ他者を前にして、その者の状況を想像し、道徳的行為によって自分自身も理想を高める」という論旨は、ノディングスのケアリング論の核心に近い。他者の現実に真摯に向き合うことで、ケアする側自身も道徳的成長を果たすという点を的確に捉えている。
④【誤】
「他者の苦しみや欲求に必死で向き合うとしても、他者への尊敬の念を抱かない限りはケアする者の倫理的理想は高まらない」というのは一部正しそうに見えるが、選択肢自体が“必死で向き合う”ことと“尊敬”を乖離させており、全体としてケアリングの倫理の説明としてはやや的外れ。
問4:正解3
<問題要旨>
この小問は、個人の能力やパーソナリティなどの特徴が「遺伝」と「環境」のどちらか一方だけではなく、複合的に影響されることを考察する問題です。幼少期の家庭環境、遺伝的素質、教育などが総合的に作用して人格や能力を形成する、という見解が主題とされています。
<選択肢>
①【誤】
「遺伝のみに影響されるため、音楽的才能が素晴らしい親の子は一流の音楽家になる」と単純化しているが、実際には環境や努力の要素があるため一概にはいえない。
②【誤】
「環境のみの影響を受けるため、小さな子ほど保育職への適性が整う」と主張しているが、ここでも遺伝の要因が無視されており、極端な環境決定論に寄りすぎている。
③【正】
「遺伝と環境の両方が影響するため、生来の資質と学習環境だけでは決まらない」と述べ、どちらか一方にのみ依拠するのではなく複合的要因で形成されるという考え方を示している。一般的な発達心理学や人格形成論にも合致している。
④【誤】
「遺伝と環境に影響されるが、ある人が社交的であるかどうかは本人の努力や意識だけで決まる」というニュアンスに近く、遺伝的特性や成育歴といった要素が強く作用する可能性を軽視している。環境と遺伝が両輪として作用するという点にやや不足がある。
問5:正解4
<問題要旨>
この小問は、世界の困窮した人々(難民、女性や子どもの人権保障が不十分な地域の人々など)への支援や、それに対する国際機関・団体・各国の動きを問う内容です。どのような支援が行われ、どのような課題を抱えているかを読み取らせる問題となっています。
<選択肢>
①【誤】
「難民の保護と生活支援を行う国際連合の機関として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が設置されている」という説明は正しい事実に近いが、「人権が保護されないことが多い」という一文と照合すると、実際には保護への取り組みはなされており、完全に保護されないと断言するには語弊がある。記述全体としては微妙にずれていると考えられる。
②【誤】
「マララ・ユスフザイが女性と子どもの権利の確立、および質の高い教育を全ての子どもに保障するよう求めている」というのは大筋で事実に近い。しかしここでは“世界中の全ての子どもに対して”とあるものの、選択肢全体が問われる問題の主眼と微妙に合致しない内容を含むと考えられる。
③【誤】
「国際連合による支援だけでなく、各国からも途上国への援助が実施されている。日本もJICA(国際協力機構)による青年海外協力隊を派遣している」という記述は事実として広く知られているが、他の選択肢との比較の中で、最も適切なものとは言いがたい。
④【正】
「発展途上国の生産や労働が搾取されることなく、公正な対価を支払うリサイクルの促進が強く求められている」というのは、近年のフェアトレードや環境保護の文脈でも重要視されている。途上国への経済支援だけではなく、公正な貿易と持続可能性の両面を支える仕組みづくりが求められる現状を的確に表しており、問題文の主旨とも合致する。
第2問
問6:正解3
<問題要旨>
この小問は、近代日本で「市民」の道徳を論じた思想家の記述を読み取り、その人物が誰で、どのような文献を参照し、どのような欧州の思想潮流から影響を受けたかを整理する問題です。文中では、幸徳秋水が師事した人物がフランスで学んだ考え方などに言及されており、その手がかりをもとに「A」「B」「C」に入る語句の正しい組み合わせを選ぶことが求められます。
<選択肢>
①【誤】
Aに挙げられた人物が幸徳秋水の師であったという歴史的事実と整合しなかったり、B・Cで言及される内容がテキストの解説と一致しないため誤り。
②【誤】
①同様、Aの人物やB・Cで取り上げる文献や思想が、テキストに示されるフランスの影響や「市民」「君子」「士」の関係づけと合致しないため誤り。
③【正】
Aに示された人物は幸徳秋水が師事したことが知られる思想家であり、Bに挙げられた文献は実際に翻訳を行った書物と符合し、Cとして示されるフランス由来の理念との結び付きが当時の文脈に合致している。文中の「市民の徳」や「君子」の概念をフランス思想の影響で再解釈したという説明と整合するため正しい。
④【誤】
Aの人物を誤っていたり、B・Cの内容が史実上合致しない組み合わせになっている。テキストが示すフランス思想の影響や翻訳された文献と食い違うため誤り。
問7:正解2
<問題要旨>
本文の趣旨では「伝統」というものが過去から一貫して不変な形で継承されているだけではなく、その時代ごとの新たな解釈や社会状況との相互作用によって形づくられてきたと述べられています。この小問では、その本文全体の論旨に最も合う「伝統」についての捉え方が問われています。
<選択肢>
①【誤】
「伝統の内容は常に同じまま保たれる」という印象を強く与える表現で、本文が強調する「新たな解釈が加わることで変容してきた」という側面に十分言及していないため誤り。
②【正】
「伝統を受け継ぐ過程で、新たな解釈が加えられつつ変容してきた」という点が本文の趣旨と合致している。また「連続性と非連続性の両方を自覚する」必要性を説く部分も本文の論旨に即している。
③【誤】
「常に同じ内容を保ってきた」と強調しすぎるあまり、伝統の多様化や刷新に触れる姿勢が不十分。本文はむしろ変化・再解釈の重要性を訴えているため誤り。
④【誤】
「伝統は無から捏造された可能性がある」という趣旨が強調されすぎており、本文のいう「先人たちの思想を継承しつつ新たな解釈を加えてきた」という積み重ねの視点にそぐわないため誤り。
問8:正解4
<問題要旨>
ここでは、戦乱が続く古代中国において活躍した諸子百家の思想について問われています。道家・儒家・法家・墨家などがどのような立場で当時の社会や政治に関わる議論を展開したか、その概略を理解し、選択肢の内容を照らし合わせる問題です。
<選択肢>
①【誤】
「墨子は侵略戦争を有利に進めるために各地を奔走した」とあるが、墨家はむしろ戦を最小限に抑え、兼愛や非攻を説いたため、攻撃的な説明は誤り。
②【誤】
「墨子は無為自然の理想社会を目指した」とすると、むしろ道家に近い説明になってしまう。墨家は道家ほど自然無為を重視せず、兼愛や節用を説くため誤り。
③【誤】
「孟子が各国を遊説して、人間は美醜や善悪を等しく見る万物斉同を説いた」というと、これは荘子(道家)的な平等観に近く、孟子の性善説や王道政治を説く立場とかけ離れるため誤り。
④【正】
「孟子が各国を遊説し、君主は仁義にもとづいた政治を行うべきであり、民衆に支持されない君主は天命を失ったものとして退けられる」とするのは、いわゆる孟子の“易姓革命”論(王道政治と民意の重要性)の特徴を正しく示しているため正しい。
問9:正解4
<問題要旨>
この問題は、江戸時代から近世へと移る過程で武士道を新しく位置付けた山鹿素行の思想を問うものです。儒教や神道などの影響を受けながら、武士のあり方や道徳をどう説いたか、またそれをどのように批判・再解釈したかの流れがポイントになります。
<選択肢>
①【誤】
「朱子学の説く理を道徳の基礎として重視」しながら「私利私欲をつつしむ修養を説くとともに、儒学と神道を融合させて重加神道を唱えた」という記述は、山鹿素行自身の立場というよりは朱子学者あるいは神道家の別系統の考え方に近く、山鹿素行の特徴とは言い難い。
②【誤】
「朱子学の説く理を道徳の基礎として重視し、『論語』や『孟子』に立ち返ることで日常的な道徳規範を明らかにする」というのは、むしろ朱子学や陽明学の考え方。山鹿素行は朱子学を批判した一方、古学や儒学の原典解釈を探求したが、それを単純に朱子学的にまとめるのは誤り。
③【誤】
「朱子学の説く理が抽象的であることを批判し、私利私欲をつつしむ修養を説くとともに、儒学と神道を融合させて重加神道を唱えた」という記述も、山鹿素行の思想とはずれる。彼は独自の古学思想に基づき武士のあり方を模索したが、神道との直接的な融合を掲げていたわけではない。
④【正】
「朱子学の説く理が抽象的であることを批判し、『論語』や『孟子』などの原典に立ち返ることで日常的な道徳の規範を明らかにすることを目指した」という点は、山鹿素行が朱子学を批判しつつ古典を重んじる“古学”を唱えた主張と合致する。こうした姿勢が後に武士道の一つの源流として位置づけられている。
問10:正解1
<問題要旨>
ここでは、日本において西洋近代思想の普及に努めた思想家・評論家の徳富蘇峰に関する説明を問う問題です。徳富蘇峰がどのような立場・活動を展開したか、民主主義や国家主義との関わりなどを史実と照合して選び出す必要があります。
<選択肢>
①【正】
「政府主体の欧化主義を批判し、民衆主体の近代化を重視する平民主義を唱えたが、後年には国家主義の立場に転じた」という経歴は、徳富蘇峰の思想遍歴として広く知られる史実に合致している。若い頃は平民主義を掲げ、後に国家主義の方針へ移行していった。
②【誤】
「幸徳秋水らと共に平民社会を設立し…」という内容は、むしろ幸徳秋水や他の社会主義者に関連する流れであり、徳富蘇峰そのものとは結び付きにくい。
③【誤】
「明六社で天賦人権論や立憲政治の紹介に努めたが、後年はスペンサーの社会進化論に基づいて国家主義を主張した」という経歴は、主に森有礼や西周ら“明六社”関係者の動向であり、徳富蘇峰の足跡とは異なる。
④【誤】
「結婚を男女の対等な契約と捉えて…」とあるが、これは大日本帝国憲法下や近代化期の女子教育・夫婦関係制度改革に尽力した人物(例:森有礼など)の要素が大きく、徳富蘇峰の活動とは直接結びつかないため誤り。
問11:正解4
<問題要旨>
この小問は、近代日本における「市民」や「国民」の道徳をどう捉えるかを論じた人物の紹介文に基づき、「A」「B」「C」をどのような概念・書物・思想と結び付けるかを問う問題です。本文中に登場する翻訳や思想的背景を手がかりに、正しく組み合わせを選ぶ必要があります。
<選択肢>
①【誤】
Aが誤っている、あるいはB・Cの思想や書物がテキストの記述と合わないなど、どこかに史実との不整合がある。
②【誤】
フランス由来の理念をどのように学んだか、あるいは翻訳した原典との対応が異なり、文中と整合しないため誤り。
③【誤】
AやBまでは正しそうに見えても、Cとして挙げられた思想がフランス思想の流れに合致しないなど、細部でずれが生じるため誤り。
④【正】
Aに挙げられた人物と幸徳秋水との師弟関係が史実に合致し、Bとして翻訳した文献、Cとして学んだフランスの政治思想がテキスト上でも整合する。これらの総合的な対応が本文の説明に適合するため正しい。
問12:正解2
<問題要旨>
本文全体で論じられる「伝統」の多面性や、先人の思想を受け継ぎつつ新たな解釈を加えるという主張を踏まえ、その帰結として「伝統にどう向き合うべきか」を選ばせる問題です。伝統が単に固定的・不変的なものではないという姿勢を理解することが鍵です。
<選択肢>
①【誤】
「常に同じ内容を保っていることを重視する」色合いが強く、本文の強調する再解釈や変容との両立が見えにくい。
②【正】
「伝統は時代ごとに新たな解釈が加えられ、連続性とともに非連続性を自覚することが大切」という趣旨が、まさに本文の主張と一致している。過去の思想をそのまま受け継ぐだけでなく、批判的再解釈を行う点にも合致する。
③【誤】
「常に同じ内容を保ってきた」とする傾向が強く、本文の趣旨である変容や多様性を認める視点が不足している。
④【誤】
「無から捏造された可能性」が強調されすぎ、伝統を継承してきた人々の具体的営みとの説明が噛み合わない。本文では「批判的再解釈」の必要性を述べているが、ここまで懐疑的に寄りすぎる論調は本文全体の流れとは異なる。
第3問
問13:正解3
<問題要旨>
この小問は、イエスとパウロが人間の「罪」をどのように捉えていたかについて問うものです。キリスト教における罪の概念には、律法違反やアダムの原罪、悔い改めに対する神の愛(アガペ)などが含まれ、イエスとパウロそれぞれの言説を正しく理解し比較することが求められます。
<選択肢>
①【誤】
「イエスはパリサイ派(律法主義)に倣って、律法を守れない者を救われることのない罪人とみなした」とあるが、イエスはむしろ律法に厳格なパリサイ派をしばしば批判し、罪人や社会的弱者と積極的に関わり救いの手を差し伸べた。よってこの説明は誤り。
②【誤】
「イエスは、罪人が悔い改めることを条件にして神の愛(アガペ)を与える」とするが、イエスの言説においては悔い改めは重視されるものの、無条件の神の愛にも焦点がある。条件付きと限定するような表現はイエスの寛容さの説明として不十分で誤り。
③【正】
「深刻な罪の意識に苦しんだパウロは、アダムの罪が生まれながらの罪として全ての人間に継承されていると考えた」というのは、パウロの『ローマの信徒への手紙』などで論じられる“原罪”の概念と整合する。アダムの罪が全人類に及ぶという理解はパウロ神学の重要な一面。
④【誤】
「パウロは十戒が与えられたことで全人間の罪が赦された」とするが、パウロにとってはイエス・キリストの十字架と復活こそが罪の赦しの根拠であり、十戒や律法をもってすべてが自動的に赦されるとするのは誤り。
問14:正解1
<問題要旨>
この小問は、人間の「基本的な権利」をめぐる社会契約論者(ロック、ホッブズ、ルソーなど)の主張を比較し、誰がどのように自然権や所有権を位置付け、そのための社会契約を説いたかを判断する問題です。
<選択肢>
①【正】
「ロックは生来持っている権利として生命・自由・財産を認め、ルソーは財産の私的所有が不平等の原因となることを背景に、財産権を共同体に譲渡する社会契約の必要性を説いた」という筋は概ね正しい解釈。ロックは自然権を重んじ、ルソーは私有財産による不平等を克服する手段としての社会契約を重視した。
②【誤】
「ロックは神が君主に与えた権利を認めたが、ルソーは財産の私的所有を平等に分配する社会契約を唱えた」としており、ロックが“君主から与えられる”というニュアンスは誤解を招く。ロックはむしろ自然権を神の前における平等として捉え、君主に権利を付与されるとは主張しないため誤り。
③【誤】
「ホッブズが万人の万人に対する闘争を抑止しようとしたのは正しいが、ロックはその戦いを絶対的な権力で圧するべきだと主張した」というのは、むしろ絶対的権力を認めるのはホッブズであり、ロックは抵抗権を重視する立場。混同があるため誤り。
④【誤】
「ホッブズが君主に与えられた権利を人々が手に取り戻そうとする場合、ロックは絶対的権力によって制圧し、君主の権利を守るべきだ」とあるが、これはロックの抵抗権や政府への制限という概念と正反対。誤り。
問15:正解1
<問題要旨>
人間の本性や生き方に関する諸説(アリストテレス、エピクロス、イスラーム教、荀子など)を比較し、それぞれが「人間にとって何が望ましい生き方か」を論じた部分と合致しているかを見極める問題です。
<選択肢>
①【正】
「アリストテレスによれば、人間は無謀や臆病を避けつつ、勇気といった中庸の徳を目指すべきである」というのは、『ニコマコス倫理学』におけるアリストテレスの中庸(メソテース)の徳の考え方を正しく表している。
②【誤】
「エピクロスの人間観で、快楽を追求する一方で死の恐怖からは逃れられない存在」とあるが、エピクロスは死そのものを“感覚がないため苦痛もない”と捉え、死の恐怖の克服を説いた。単純に恐怖から逃れられないという言い方は不正確。
③【誤】
「イスラーム教において、人間は聖職者と一般信徒で異なる特別な規律を与えられる」とするが、イスラームでは人々は神に服従する点で基本的に平等であり、特に“聖職者”という身分を認める教派は一般的ではない(宗派・学派による差はあれど、選択肢の記述は不適切)。
④【誤】
「荀子によれば、人間は本来利己的な存在なので、礼による制約だけでは社会は成り立たず法による強制が必要」とするが、荀子は性悪説を唱えたが“礼”や“教育”の重要性を説いており、法による強制を最重視したのはむしろ法家。誤り。
問16:正解2
<問題要旨>
この小問は「理性」をめぐる近世・近代哲学者(デカルト、スピノザ、モンテーニュ、パスカルなど)の思考を比較し、誰がどのような観点で理性を位置づけているのかを識別させる問題です。
<選択肢>
①【誤】
「デカルトは、自己の身体を『私』が疑うことのできない確実な存在とみなし、それが理性による認識の確固たる基礎になる」とあるが、デカルトは身体すらも懐疑にかけ「我思う、ゆえに我あり」で精神(思考)を基礎に据えた。身体の存在を直観的に確実視したわけではないので誤り。
②【正】
「スピノザは、自然における万物を貫く必然的法則を理性によって把握し、神と自然の同一性を『永遠の相のもとに』捉えることが可能になる」とするのは、スピノザの汎神論的立場(神即自然)を理性的認識によって理解しようとする思想と符合する。
③【誤】
「モンテーニュは、『私は何を知っているか』と問い続ける懐疑の精神を批判し、客観的な真理を正しく認識する普遍的方法を見いだすことが理性の第一の使命だと主張した」とあるが、モンテーニュ自身はむしろ『エッセイ』で人間の知の限界を自省的・懐疑的に捉え、“ク・セ・ジュ(私は何を知るか)”の姿勢を肯定的に示している。よって誤り。
④【誤】
「パスカルが、複雑な全体を一望して直観的に判断する精神を批判し、単純な原理から始めて段階的に推論を進める理性的思考の優位を主張した」とあるが、パスカルは『パンセ』などで“幾何学の精神”と“繊細の精神”の両面を重んじ、直観の大切さも指摘している。よって一方的に直観を批判したというのは誤り。
問17:正解2
<問題要旨>
カントとヘーゲルが論じる「自由」について、カントは“道徳法則に自ら従うこと”を真の自由と捉え、ヘーゲルは“個々人の内面的な判断から共同体的次元へと発展させる”視点を示す。本文中の「A」「B」に入る語句を正しく対応づける問題です。
<選択肢>
①【誤】 A=意志の自律、B=自立性
ヘーゲルが「自立性」を最高の自由と呼ぶというのは適切ではなく、個人と社会や国家の合一を強調するため、記述にずれがある。
②【正】 A=意志の自律、B=共同性
カントのいう自由は「意志の自律」(道徳法則に従う主体性)であり、ヘーゲルは“最高のB”を「共同性」(国家や人倫の領域)として捉える。したがってカント的内面の自由と、ヘーゲル的客観的次元(共同体)を結び付ける説明として整合する。
③【誤】 A=意志の自律、B=功利性
ヘーゲルが最高の自由を功利主義的な観点で捉えたとは言えない。ヘーゲルは理性的な客観的秩序や人倫を重視しており、功利性とは結び付かない。
④【誤】 A=意志の格率、B=自立性
カントは「意志の格率において普遍化可能であれ」という定式を示したが、ここでは自由を「意志の格率」とストレートに呼ぶのはやや不十分。またヘーゲルの最高の自由を「自立性」とするのは適切でない。
問18:正解3
<問題要旨>
ニーチェの思想についての説明を問う小問です。ニーチェはキリスト教的価値や近代的道徳の揺らぎを見据え、そこから生まれる「ニヒリズム」をむしろ新たな価値創造の契機と捉え、“超人”の概念などを提示しました。本文中では、ニーチェが従来の道徳をどのように批判し、どのような生き方を要求したかが論点となっています。
<選択肢>
①【誤】
「キリスト教の禁欲的な道徳を高貴な者の道徳として賞賛した」というのは真逆。ニーチェはキリスト教道徳を“ルサンチマン”の産物として批判した。
②【誤】
「必ずや訪れる死と向き合うことで本来的自己のあり方に目覚める」と強調するのは、むしろ実存主義的(ハイデガーなど)な死の捉え方に近い。ニーチェの主眼は新たな価値創造・力への意志にある。
③【正】
「既成の道徳や価値観への信頼が失われた事態を正面から引き受け、新たな価値を自己自身で創造しつつ生きることを求めた」という主張は、ニーチェが説くニヒリズムを克服する“超人”の思想や価値転倒の要求と合致する。
④【誤】
「他者や世俗的出来事に埋没した人間を『ダス・マン(世人)』として批判した」というのは、ハイデガーの用語をニーチェに当てはめている。ニーチェは“末人”の概念で“大衆化した人間”を批判するが、“ダス・マン”という用語はハイデガーの用法であり、ズレがある。
問19:正解1
<問題要旨>
本文では、近代以降の西洋思想が人間の「身体的な欲求の充足を肯定する」立場と「人間の理性的なあり方を重視する」立場の両面を示してきたことにふれ、両者を単に対立させるだけではなく、両立的に追求することが「生を真に謳歌する」ために重要だと論じています。本問では、その趣旨に最も合う記述を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正】
「身体的欲求の充足を是認する立場もあれば、理性的要求を強調する立場もある。時に対立するこの両者を共に正しく追求することが、生を真に謳歌するために大切だ」というのは本文の総論と合致する。
②【誤】
「身体的欲求を厳格に制限し、理性的な生き方を追求することが生を謳歌する道」としており、身体的要求と理性の両立を重視する本文の姿勢とずれる。
③【誤】
文面が②と同様に、身体的な欲求の充足を制限することを絶対視しており、「両者の対立を反省し、共に追求する」という本文の主張とは合わない。
④【誤】
「身体的欲求を厳格に制限し、理性的な生き方を追求することこそが重要」とまとめており、身体と理性の両面を認める本文の趣旨にそぐわない。
第4問
問20:正解2
<問題要旨>
この小問は、マックス・ウェーバーが論じた「支配の正当性(正統性)」に関する三類型についての理解を問うものです。ウェーバーによれば「伝統的支配」「合法的支配」「カリスマ的支配」の三類型が代表的とされ、それ以外の用語が出てきた場合は誤りである可能性が高いという点がポイントになります。
<選択肢>
①【正】
「カリスマ的支配」は、マックス・ウェーバーが提示した典型的な支配の正当性の一つであり、非日常的な資質・能力が人々を引き付けることで正当化される支配形態。
②【誤】
「ポリス的支配」という用語は、ウェーバーの三類型(伝統的・合法的・カリスマ的)には含まれず、彼の理論上も一般的に使われない表現であるため誤り。
③【正】
「合法的支配」は、近代社会において法や規則が正統性を保証する支配形態であり、ウェーバーの三類型の一つとして正しい。
④【正】
「伝統的支配」は、慣習や家系などの伝統に基づく権威を正当化根拠とする支配形態で、これもウェーバーが示した三類型の一つ。
問21:正解4
<問題要旨>
この小問は、アダム・スミスの思想や著作の内容について問うものです。アダム・スミスは『国富論』を著し、市場を通じた富の成長や分業、自由貿易などを重視し、「神の見えざる手」の概念で経済活動の自発的調整を論じました。保護貿易を否定し、国家の介入を最小限にすべきだと説いた点が特徴です。
<選択肢>
①【誤】
「国内に富を蓄積するため、保護貿易政策を行う必要性を説いた」とあるが、アダム・スミスは重商主義的な保護貿易を批判し、自由貿易を推奨したため誤り。
②【誤】
「『経済学および課税の原理』を著し、貿易の自由化を重視した」というのは、むしろリカードの著書のタイトルに近い。アダム・スミスは『国富論』が代表的。よって誤り。
③【誤】
「財政政策や金融政策によって完全雇用が達成されることを説いた」というのはケインズ的な立場に近い主張であり、アダム・スミスとは合致しない。
④【正】
「『国富論(諸国民の富)』を著し、市場の調整機能を重視した」というのは、アダム・スミスの代表的主張と著作名が正しく対応しており、最も適切。
問22:正解4
<問題要旨>
ここでは、市場の機能や限界について問われています。完全競争市場では価格調整が需要・供給を一致させる役割を担いますが、寡占や独占状態では価格形成がゆがめられ、管理価格などが生じ得ます。そうした経済学的概念を正しく理解しているかどうかを確認する問題です。
<選択肢>
①【誤】
「市場による価格調整がうまく機能すれば、買いたいものが自動的に安くなる」と断定しているが、需要が高まれば価格は上がることもある。単純に“常に割安”とはならないため誤り。
②【誤】
「生産技術の合理化によって生産費用が下がっても、価格が下方に変化しにくくなることを“逆資産効果”という」とあるが、ここでいう“逆資産効果”は通例とは異なる意味に使われており、一般的には価格が下がりにくい現象をこうは呼ばない。誤り。
③【誤】
「鉄道など初期投資が巨額な設備を要する産業では少数企業による市場の支配が生じにくい」とあるが、むしろ初期投資が莫大であるため参入障壁が高く、結果的に寡占になりやすい。よって誤り。
④【正】
「寡占市場で価格先導者(プライスリーダー)が一定の利潤を確保できる水準に価格を設定し、他企業もそれに追随するような価格を“管理価格”と呼ぶ」という説明は、実際の寡占市場における価格形成の概念として正しい。
問23:正解2
<問題要旨>
この小問は、日本の消費者保護に関する法制度のうち、いくつかの具体例を挙げて、その正否を判定させる問題です。近年では消費者が被害を受けた際、消費者団体訴訟制度などの整備が進められている点が重要な論点となります。
<選択肢>
①【誤】
「特定商取引法の制定により、欠陥製品の被害者が製造業者の無過失責任を問えるようになった」とあるが、欠陥製品の無過失責任追及は「製造物責任法(PL法)」の領域と関連が深い。特定商取引法は主に訪問販売や通信販売の取引ルールを定めた法律なので誤り。
②【正】
「消費者団体訴訟制度の導入により、国が認めた消費者団体が、被害を受けた消費者に代わって訴訟を起こせるようになった」というのは、特定適格消費者団体による差止請求訴訟などの制度を指し、現行法制に合致する。
③【誤】
「消費者庁の廃止により、消費者行政は製品や事業ごとに各省庁が所管することになった」とあるが、消費者庁は廃止されておらず、横断的な消費者行政を行っているため誤り。
④【誤】
「リコール制度の改正によって、製品の欠陥の有無にかかわらず、消費者が好みに応じた製品と交換できるようになった」というのは行き過ぎた説明。リコール制度は欠陥製品を無償修理などする仕組みで、好みに合わせて交換できるわけではない。
問24:正解4
<問題要旨>
民間の労働者に関する日本の法制度について、どれが誤っているかを問う問題です。労働組合への加入や不当解雇、裁量労働制、セクシュアル・ハラスメント防止、最低賃金など、労働者保護の様々なルールが整理されているかを確認します。
<選択肢>
①【正】
「労働組合への加入を理由とする解雇は不当労働行為として禁止される」というのは、労働組合法に定める不当労働行為の一つであり、正しい。
②【正】
「裁量労働制では、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間だけ働いたとみなされる」というのは大筋で正しい。専門業務型や企画業務型の裁量労働制において、みなし時間制が取られるため。
③【正】
「事業主は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントを防止するために、必要な措置を講じる義務を負う」とするのは、男女雇用機会均等法等に基づく義務であり、正しい。
④【誤】
「法律に基づく最低賃金は、地域や産業を問わず同じ額とされている」とあるが、実際には都道府県ごと、産業別の特定最低賃金などもあり、全国一律にはなっていない。したがって誤り。
問25:正解3
<問題要旨>
自由貿易の下での供給量・需要量の関係を図示した問題です。国内価格より国際価格が低い場合、国内需要が供給を上回る分だけ輸入が行われる状況を示しています。輸入量が増加する理由として適切な要因を考えるのがポイントです。
<選択肢>
①【誤】
「国際価格の上昇」は、輸入側にとっては不利になり、輸入量を減らす要因となる可能性が高い。増加させる要因とは言えない。
②【誤】
「国内産業の生産性の向上」は、国内の供給力が高まるため、相対的に輸入量を減らす要因になりがち。輸入が増える方向とは結び付かない。
③【正】
「国民の所得の増加」は、需要全体が増える要因になるため、他条件が一定ならより多く輸入しようとする可能性が高い。よって輸入量の増加をもたらす要因として正しい。
④【誤】
「関税の引き上げ」は、輸入品の価格を高くし、輸入量の抑制につながるのが通常であるため、増加させる要因とは言えない。
問26:正解3
<問題要旨>
地方公共団体についてのA~Cの記述が正しいか誤りかを判定し、正しい記述だけの組み合わせを選ぶ問題です。地方公共団体の選挙管理委員会や都道府県監査委員の位置付け、義務教育費への国庫支出金などが論点となります。
<選択肢(A~C)>
A「地方公共団体の選挙管理委員会は、国政選挙の事務を行うことはない。」
→ 国政選挙であっても、実際の選挙事務は各地方公共団体の選挙管理委員会が担うため、これは誤り。
B「都道府県の監査委員は、公正取引委員会に所属している。」
→ 監査委員は各都道府県や市町村の機関であって、公正取引委員会(国の機関)には所属しないため誤り。
C「地方公共団体の義務教育の経費に、国庫支出金が使われる。」
→ 義務教育費国庫負担金など、地方公共団体の教育に国が一部負担する仕組みがあるため、これは正しい。
この結果、正しいのはCのみであり、選択肢③が「C」を表しているので、③が正解。
問27:正解1
<問題要旨>
この小問は、難民受入れに関する国際的な枠組み(難民条約)や日本の制度についての記述が正しいか誤っているかを判定する問題です。条約の採択年や第三国定住の仕組み、国内避難民の扱いなどが論点になります。
<選択肢>
①【誤】
「日本は、難民条約が採択された年にこの条約に加入した」とあるが、難民条約は1951年に採択され、日本が加入したのは1981年であり約30年の差がある。よってこの記述は誤り。
②【正】
「日本は、出入国管理及び難民認定法に基づいて難民を受け入れている」は事実に近い。条約の批准と国内法整備により難民認定制度が運用されている。
③【正】
「第三国定住は、難民を最初に受け入れた国から別の国に送ることで定住先を認める仕組みである」も正しい。国連HCRの枠組みなどで行われる。
④【正】
「国内避難民は、紛争などから逃れつつも国境を越えていない人々であり、難民条約上の保護対象に含まれない」という指摘も一般的に正しい。難民条約が想定するのは国境を越えた難民。
第5問
問28:正解3
<問題要旨>
この小問は、公的な性格をもつ財やサービスが「非排除性」をもつかどうかを問うています。公共財はしばしば「非競合性(誰かが利用しても他人の利用が妨げられない)」と「非排除性(料金を払わない者であっても利用を排除しにくい)」という性質をもつとされます。ここでは非排除性に注目し、複数の選択肢から最も的確なものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「他の人々の消費を減らすことなく、複数の人々が同時に消費できる」は、公共財の“非競合性”に相当する説明であり、「非排除性」の説明としては不正確。
②【誤】
「価格が上がっても、需要量はあまり低下しない」というのは、公共財というよりは需給の価格弾力性が小さいケースを連想させる説明であり、非排除性そのものとは直接関係しない。
③【正】
「だれも利用を制限されない」は、まさに公共財がもつ“非排除性”を指し示す表現であり、正しい。
④【誤】
「供給量が不足しても、価格が変化しない」というのは、公共財かどうかを問わず市場メカニズムの働きと無関係な記述であり、非排除性を正しく示す説明ではない。
問29:正解1
<問題要旨>
この小問は、下線部(5)に関連して、発展途上国や南北問題、国際的な貿易ルールに関する記述を提示し、その中で誤っているものを探す問題です。プレビッシュ報告の背景や、後発発展途上国(LDC)の定義、持続可能な開発目標(SDGs)、マイクロファイナンスなどの話題が取り上げられています。
<選択肢>
①【誤】
「プレビッシュ報告では、南北問題を解決するためにアンチダンピング関税の導入が主張された」とあるが、プレビッシュ報告は発展途上国が一次産品の輸出に頼ることで不利になる“貿易条件の悪化”を指摘し、先進国との格差是正策として関税などをめぐる対策を提言した。しかし、アンチダンピング関税を主要テーマとして掲げたわけではないため誤り。
②【正】
「発展途上国の中でも最も経済発展が遅れた国は後発発展途上国(LDC)と呼ばれる」は正しい定義。
③【正】
「持続可能な開発目標(SDGs)では、貧困や飢餓の撲滅だけでなくジェンダー平等などの目標が設定されている」は事実に合致する。
④【正】
「発展途上国の中には、貧困層の自助努力を支援するためにマイクロファイナンスという低所得者向けの少額融資が実施されている国もある」も広く行われている事例として正しい。
問30:正解6
<問題要旨>
この小問は、下線部(3)に関連して「二国間貿易の為替による決済手段」を図示したものを読み、図中のA・B・Cが具体的に何を示すか、そして文中ア・イ・ウ(信用状、為替手形・船積み書類、自国通貨)との対応を正しく組み合わせる問題です。輸出入決済では「L/C(信用状)」「為替手形や船積み書類」「通貨」がやり取りされる過程があるのがポイントです。
<選択肢>
①~⑤【誤】
いずれもA・B・Cとア・イ・ウの組み合わせが不適切、あるいは決済の流れにそぐわない。
⑥【正】
A=ウ(自国通貨)、B=イ(為替手形・船積み書類)、C=ア(支払いを確約する信用状)
輸出者・輸入者・銀行間の決済構造に照らし合わせると、最も整合する。輸入者が支払いの際に利用する信用状(L/C)を発行し、為替手形・船積み書類の交換や最終的な通貨の受け渡しが行われる仕組みを表している。
問31:正解2
<問題要旨>
ここでは、下線部(1)に関連して、日本とアメリカの企業がどのように資金調達(銀行借入・債券・株式など)を行ってきたかを示す表を読み取り、選択肢で提示された内容が事実と合致するかを確認します。銀行借入などの間接金融と、株式・社債などの直接金融との比率が重要な論点です。
<選択肢>
①【正か誤か】
「日本の企業における資金調達を1999年末と2017年3月末で比較すると、2017年の方が他人資本(借入・債券)割合が高い」かどうかは表から見て必ずしもそうではない。株式の比率が上昇しており、“他人資本”部分が上がっているとは限らないので、細部で検討が必要。
②【正】
「アメリカの企業の資金調達を1999年末と2017年3月末で比較した場合、2017年の方が間接金融の割合が低い」というのは、表を見ると銀行等借入が12.1%→6.2%に減っているので、銀行借入による調達がさらに低下している。よって“間接金融”の比率は下がったと言えるため正しい。
③【誤】
「2017年3月末時点の資金調達において、日本の企業はアメリカの企業よりも直接金融の割合が高い」とあるが、表によると日本は株式49.9%+債券4.1%=54.0%ほど、アメリカは株式56.5%+債券13.7%=70.2%程度で、アメリカの方が直接金融の割合は高い。
④【誤】
「1999年12月末時点の資金調達において、アメリカの企業は日本の企業よりも自己資本の割合が低い」とあるが、当時アメリカの株式割合が66.6%に対し、日本は33.8%であり、アメリカの方が自己資本比率が高い。よって誤り。
問32:正解3
<問題要旨>
この小問は、世界の政府開発援助(ODA)に関する表を読み、A・B・C・Dに当てはまる語句の正しい組み合わせを選ぶ問題です。各国のODA実績総額や対国民総所得(GNI)比などが示されており、そこに「グラント・エレメント(贈与比率)」や各国(日本・アメリカ・ドイツなど)の位置付けを対応させる必要があります。
<選択肢>
①②④⑤⑥【誤】
A・B・C・Dの振り当てや国名の紐付けにおいて、表の数値(ODAの総額、対GNI比、Aのパーセントなど)と整合しない組み合わせになっている。
③【正】
「A=グラント・エレメント、B=アメリカ、C=ドイツ、D=日本」の対応が、表に示された各国のODA額やGNI比、そしてAとして付された“%表示”の意味(贈与部分の比率)とも整合する。BのODA実績総額344.1億ドル、GNI比0.19%、A=100.0%がアメリカを指すなど、数字の比較から判断して正しい組み合わせになる。
第6問
問33:正解2
<問題要旨>
この小問は、日本国憲法が裁判所に「違憲審査権」を与えていることについて、なぜ立法・行政よりも裁判所の判断を重視する考え方が成り立つのか、その根拠に関する問いです。多数決を基本とする政治機関(国会・内閣)の判断に対し、少数派の権利擁護や立憲主義を担保するために、司法の違憲審査が重要だという理屈が背景になっています。
<選択肢>
①【誤】
「法律制定の背景となる社会や経済の問題は複雑なので、国政調査権をもつ機関の判断を尊重すべき」としており、立法府が得られる情報量を理由に議会判断を優先すべきという趣旨。これは裁判所の違憲審査権を積極的に行使すべきという考え方の根拠とはかけ離れている。
②【正】
「選挙によって構成される機関(国会)は国民多数派の意向に沿いやすいため、少数派の権利を守る仕組みが別途必要だ」という主張は、まさに多数決原理の暴走を防ぐ立憲主義の視点と合致し、司法による憲法判断を重視する考え方の裏付けとなる。
③【誤】
「外交など高度な政治的判断が必要な事項や、国政の重要事項の決定は、国民に対して政治的責任を負う機関が行うべきだ」というのは、むしろ政治部門が広汎な決定権限をもつ正当性を説明する趣旨であり、司法の違憲審査を積極化する論拠にはならない。
④【誤】
「日本国憲法は民主主義を原則としているので、国民の代表者による判断をできる限り尊重すべき」という記述は、議会主義の立場を強調しており、司法による強力な違憲審査を求める考え方の説明とは対立気味。
問34:正解4
<問題要旨>
この小問は、小選挙区制と比例代表制を比較し、それぞれの一般的な特徴について最も的確に言い表している選択肢を選ぶ問題です。小選挙区制は大政党が有利で死票が多くなりやすい、比例代表制は少数派の意見が反映されやすいなどの違いが知られています。
<選択肢>
①【誤】
「小選挙区制は死票が少なくなりやすい制度」とあるが、一般的に小選挙区制は1選挙区1名当選のため、当選ラインに届かなかった票が死票となりやすい。よって誤り。
②【誤】
「小選挙区制は多党制になりやすい制度」としているが、小選挙区制はむしろ大党に有利で、二大政党制になりやすい傾向がある。
③【誤】
「比例代表制は、政党中心ではなく候補者中心の選挙となりやすい制度」とあるが、比例代表制では政党へ投票する形式(政党名投票など)をとることが多いため、“政党中心”になりやすい。
④【正】
「比例代表制は、有権者の中の少数派の意見も反映されやすい制度」とするのは、少数政党であっても一定の得票率があれば議席を獲得しやすいことを正しく示している。
問35:正解1
<問題要旨>
ここでは「大衆民主主義」の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。大衆民主主義は、財産や身分などによる参政権の制限が撤廃され、比較的広範囲の人々(=大衆)に政治参加の権利が保証される体制を指します。
<選択肢>
①【正】
「財産・身分・政治知識などによる制限がなく、政治参加の権利が保障される民主主義政治」というのは、大衆民主主義を端的に表した内容で正しい。
②【誤】
「資本家階級が主体となって、封建制や絶対君主制を否定する革命を進めるような民主主義」は、近代市民革命のイメージには近いが、“大衆民主主義”というよりブルジョワ民主主義の初期段階を想起させる。
③【誤】
「労働者階級の指導の下で、農民や中小企業家が連合し、資本主義を打倒する革命を進める民主主義」というのは社会主義革命の構想に近く、大衆民主主義を説明するものではない。
④【誤】
「労働者を代表する政党の指導の下で、人民を代表する合議体に権力が集中される」というのは、一党独裁的・集権的な構想を連想させる内容であり、“大衆民主主義”の一般的な説明とは異なる。
問36:正解4
<問題要旨>
この小問は、日本の裁判や刑事手続などをめぐる監視・統制の仕組みについて、正しい・誤った記述を区別する問題です。検察審査会制度、国民審査、取調べの録音録画、再審無罪事例などが論点となっています。
<選択肢>
①【正】
「検察官が不起訴とした事件について、検察審査会が二度、起訴相当と議決すると強制起訴される仕組み」が導入されている。これはいわゆる“検察審査会法改正(強制起訴制度)”により実現したので正しい。
②【正】
「国民審査により最高裁判所の裁判官が罷免された例はこれまでにない」ことは事実として知られている。
③【正】
「取調べの録音・録画を義務付ける仕組みが裁判員裁判対象事件などに導入された」は、近年の刑事訴訟法改正で取り入れられた点で正しい。
④【誤】
「死刑判決を受けた人が再審により無罪とされた例は、これまでにない」とあるが、実際には冤罪事件として再審無罪となった死刑囚(免田事件、財田川事件、松山事件、袴田事件など)が存在する。よってこの記述は誤り。
問37:正解3
<問題要旨>
この小問では、国民の自由や権利をめぐる日本の現状に関して述べられた選択肢の中から、もっとも適当なものを選ぶ問題です。政党結成やインターネットでの言論、被選挙権などが論点となり、現行の法制度や憲法上の権利保障と照らし合わせる必要があります。
<選択肢>
①【誤】
「政党を結成することは政党助成法により認められている」とあるが、政党助成法は“政党交付金”に関する規定であり、政党を結成する自由は憲法の結社の自由などで認められている。あたかも政党助成法が結成の根拠であるかの表現は不適切。
②【誤】
「インターネット上で友人と自由に政治的意見を交わすことは、アクセス権として保障されている」とあるが、“アクセス権”というのは主にマスメディアへの反論権や情報への接近を論じる概念。ネット上での私的な意見交換そのものを特定の権利として明示的に“アクセス権”と呼ぶわけではない。
③【正】
「被選挙権は、国民が政治に参加するための権利の一つとされている」は、まさに公務就任権の一環として憲法が保障するものであり妥当。
④【誤】
「報道については、デマやフェイクニュースへの対策として行政機関による検閲が認められている」というのは、検閲は憲法で禁止されており、このような制度は日本では採用されていない。