解答
解説
第1問
問1:正解⑥
<問題要旨>
この問題は、政府の経済への関与の度合いを示す「大きな政府」と「小さな政府」の概念、およびそれに関連する歴史的な政策転換、特に1980年代のサッチャー政権やレーガン政権、そして日本における同様の改革について問うています。
<選択肢>
①【誤】
アの「大きな政府」は、国民福祉の実現のために経済へ積極的に介入する政府を指します。サッチャー政権やレーガン政権は、市場原理を重視し政府の介入を減らす「小さな政府」を目指したため、アは不適切です。イの「日本郵政株式会社が日本郵政公社に改編される」は、民営化とは逆の方向性(公社化)であり、小さな政府を目指す動きとは言えません。
②【誤】
アの「大きな政府」は不適切です。イの「日本道路公団が独立行政法人から特殊法人に改組される」は、組織形態の変更であり、民営化による小さな政府化とは直接関連しません。また、独立行政法人から特殊法人への改組は、政府の関与が強まる方向性とも解釈でき、小さな政府の動きとは逆です。
③【誤】
アの「大きな政府」は不適切です。イの「日本国有鉄道がJR各社に分割民営化される」は小さな政府を目指す改革の事例ですが、アが誤りです。
④【誤】
アの「小さな政府」は適切です。しかし、イの「日本郵政株式会社が日本郵政公社に改編される」は、民営化とは逆の方向性であり、小さな政府を目指す動きとは言えません。
⑤【誤】
アの「小さな政府」は適切です。しかし、イの「日本道路公団が独立行政法人から特殊法人に改組される」は、組織形態の変更であり、民営化による小さな政府化とは直接関連しません。
⑥【正】
アの「小さな政府」は、1980年代のサッチャー政権やレーガン政権が目指した方向性であり適切です。イの「日本国有鉄道がJR各社に分割民営化される」は、中曽根康弘内閣で行われた代表的な民営化(小さな政府化)の事例であり適切です。
問2:正解③
<問題要旨>
この問題は、電力事業の自由化に関連して、巨大な設備投資が必要な産業において発生しやすい経済現象について問うています。
<選択肢>
①【誤】
外部不経済とは、ある経済主体の行動が市場取引を通じずに他の経済主体に不利益を与える現象(例:工場排水による漁業被害)であり、問題文の記述とは異なります。
②【誤】
非競合性および非排除性は、主に公共財(例:国防、警察)の特性を示すものであり、問題文の記述とは異なります。非競合性は多くの人が同時に消費できること、非排除性は対価を支払わない人も消費から排除できないことを指します。
③【正】
規模の経済とは、生産規模が拡大するほど単位当たりの生産コストが低下する現象を指します。巨大な設備が必要な産業では、初期投資が大きいため、生産量を増やすことでこの効果が働きやすく、少数の企業が市場を支配する寡占や独占が生じやすいとされています。問題文の「巨大な設備が必要な産業ではアが起こりやすいため、ごく少数の企業のみが財・サービスの供給量を拡大し、他の事業主を圧倒しうる」という記述に合致します。
④【誤】
情報の非対称性とは、取引を行う当事者間で保有する情報に格差がある状態(例:中古車市場での売り手と買い手の情報格差)であり、問題文の記述とは異なります。
問3:正解③
<問題要旨>
この問題は、提示された日本の無担保コールレート(翌日物)とマネタリーベースの推移を示す図から、日本銀行が実施してきた金融政策との対応関係について正しく記述しているものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
1995年から1996年にかけて無担保コールレート(翌日物)は低下傾向にあります。売りオペレーションは市場の資金量を吸収し金利を上昇させる操作なので、この記述は誤りです。金利低下は主に買いオペレーションや公定歩合の引き下げなど金融緩和策によるものです。
②【誤】
2008年から2010年にかけて無担保コールレート(翌日物)は低い水準で推移しており、ゼロ金利政策が継続または強化された時期です。ゼロ金利政策の解除は金利の上昇を意味するため、この記述は誤りです。
③【正】
2013年から2018年にかけてマネタリーベースは急激に増加しています。これは、2013年4月に日本銀行が導入した「量的・質的金融緩和」政策によるもので、市場に大量の資金を供給することでデフレ脱却を目指したものです。したがって、この記述は正しいです。
④【誤】
2020年から2021年にかけてマネタリーベースは増加傾向にあります。売りオペレーションは市場の資金量を吸収しマネタリーベースを減少させる操作なので、この記述は誤りです。この時期も新型コロナウイルス感染症対策などで金融緩和が継続されていました。
問4:正解⑦
<問題要旨>
この問題は、企業統治(コーポレート・ガバナンス)や企業の社会的役割に関連する記述の正誤を判断する問題です。
<選択肢>
ア【正】
株主などが企業の経営者を監督することをコーポレート・ガバナンス(企業統治)と呼びます。これは、企業経営の透明性や公正性を高め、企業価値の向上を目指す仕組みです。
イ【正】
投資家が、財務的なリターンだけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮する企業を選んで行う投資は、社会的責任投資(SRI)またはESG投資と呼ばれています。
ウ【正】
国際標準化機構(ISO)は、組織が環境パフォーマンスを向上させるための枠組みとして、環境マネジメントシステム規格であるISO14001シリーズなどを定めています。
上記より、ア、イ、ウすべてが正しい記述です。
①【誤】アのみではない。
②【誤】イのみではない。
③【誤】ウのみではない。
④【誤】アとイのみではない。
⑤【誤】アとウのみではない。
⑥【誤】イとウのみではない。
⑦【正】ア、イ、ウすべてが正しい。
問5:正解③
<問題要旨>
この問題は、ジェンダー平等に関する国際的な取り組みや制度についての知識を問うています。
<選択肢>
①【誤】
アの「ドーハ開発アジェンダ」は、世界貿易機関(WTO)における多角的貿易交渉のことであり、ジェンダー平等そのものを主要な目標として採択されたものではありません。イの「クオータ制」は、議席や候補者の一定割合を女性に割り当てる制度であり、政治分野での女性参画を促すものです。
②【誤】
アの「ドーハ開発アジェンダ」が不適切です。イの「ショップ制」とは、特定の労働組合の組合員であることを雇用の条件とする制度(ユニオンショップ、クローズドショップなど)であり、ジェンダー平等とは直接関係ありません。
③【正】
アの「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2015年に国連で採択された国際目標であり、その目標5に「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられています。イの「クオータ制」は、記述の通り、議席や候補者の一定割合を女性に割り当てる制度です。
④【誤】
アの「持続可能な開発目標(SDGs)」は適切ですが、イの「ショップ制」が不適切です。
問6:正解⑤
<問題要旨>
この問題は、日本の議院内閣制における衆議院の解散に関する記述の正誤を判断する問題です。
<選択肢>
ア【正】
日本国憲法第7条に基づき、内閣の助言と承認により天皇が行う国事行為として衆議院を解散することができます。これは、内閣不信任決議案の可決(憲法第69条)を経ない解散であり、実際に多くの解散がこれに基づいて行われています。
イ【誤】
衆議院の解散の効力が争われた訴訟(苫米地事件など)において、最高裁判所は、解散のような高度に政治性のある国家行為については裁判所の司法審査権が及ばないとする「統治行為論」を採用し、その憲法判断を避けています。違憲と判断したわけではありません。
ウ【正】
公職選挙法により、衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に衆議院議員総選挙が行われ、その選挙の日から30日以内に国会(特別会)が召集されなければならないと定められています。
上記より、アとウが正しい記述です。
①【誤】アのみではない。
②【誤】イは誤り。
③【誤】ウのみではない。
④【誤】イは誤り。
⑤【正】アとウが正しい。
⑥【誤】イは誤り。
⑦【誤】イは誤り。
問7:正解①
<問題要旨>
この問題は、日本における財政民主主義に関する記述の正誤を判断する問題です。財政民主主義とは、国の財政に関する重要事項は国民の代表からなる国会の議決を経て決定されるべきとする原則です。
<選択肢>
①【正】
租税法律主義(憲法第84条)。これは財政民主主義の重要な柱の一つです。
②【誤】
国の予算について衆議院と参議院が異なる議決をした場合、憲法第60条により両院協議会を開くことが定められています。それでも意見が一致しない場合は、衆議院の議決が国会の議決となります(衆議院の優越)。
③【誤】
財政投融資計画は、かつては「第二の予算」とも呼ばれ、国会の承認を必要としませんでしたが、2001年度の財投改革以降、財投債の発行などにより市場から資金を調達する仕組みに変わり、計画は国会に報告・提出されることになりました。ただし、個別の融資が国会の議決を経るわけではありませんが、国会への提出を必要としないというのは誤りです。
④【誤】
特別会計予算も、一般会計予算と同様に、国会の審議と議決を必要とします(財政法第13条、第40条)。特定の事業に特定の歳入を用いるものですが、国会のコントロールの外にあるわけではありません。
問8:正解④
<問題要旨>
この問題は、政策決定と世論をつなぐメディアの役割や、国民の知る権利、情報公開制度に関する会話文の空欄を補充する問題です。
<選択肢>
①【誤】
アの「メディア・スクラム」は、特定の事件や人物に対して報道機関が過剰な取材を行うことを指し、市民の情報リテラシーとは異なります。イの「有権者に限り行政文書の開示を請求できる」は誤りです。情報公開法では、何人も行政文書の開示を請求できます。
②【誤】
アの「メディア・スクラム」が不適切です。イの「だれでも行政文書の開示を請求できる」は正しいです。
③【誤】
アの「メディア・リテラシー」は、情報を批判的に読み解き、活用する能力を指し、文脈に合致します。しかし、イの「有権者に限り行政文書の開示を請求できる」は誤りです。
④【正】
アの「メディア・リテラシー」は適切です。イの「だれでも行政文書の開示を請求できる」も情報公開法の規定に合致しており正しいです。
第2問
問1:正解④
<問題要旨>
家賃(価格)が縦軸、物件数・入居数(数量)が横軸に取られています。
供給曲線は、通常、価格が上昇すると供給量が増えるため右上がりとなりますが、この問題では「市内の賃貸アパートの物件数は増減しないとする」とあるため、供給量は一定であり、供給曲線は垂直な直線(図a、図bの曲線e、または図c、図dの曲線e)となります。
需要曲線は、通常、価格が上昇すると需要量が減少するため右下がりとなります(図a、図bの曲線f、または図c、図dの曲線f)。
「J市駅に特急が停まるようになり、都心へのアクセスが便利になった」という変化は、J市の賃貸アパートへの需要を高める要因です。これにより、同じ家賃でもより多くの人が住みたいと考えるようになるため、需要曲線が右方にシフトします。その結果、供給曲線との交点がより高い家賃水準に移動し、家賃が高騰します。
<選択肢>
①【誤】
図aでは、曲線e(垂直)が供給曲線、曲線f(右下がり)が需要曲線と解釈できます。需要曲線が曲線eであるという指定が誤りです。
②【誤】
図aで、需要曲線が曲線f(右下がり)であるという点は正しいですが、需要曲線が右にシフトすることで家賃が高騰する様子を図示する必要があります。この選択肢だけでは判断できませんが、他の選択肢と比較します。
③【誤】
図bでは、曲線e(垂直)が供給曲線、曲線f(右上がり)は通常の供給曲線を示しており、需要曲線ではありません。したがって、需要曲線が曲線eまたはfという指定自体が不適切です。
④【正】
図bは、曲線eが垂直な供給曲線、曲線fが右下がりの需要曲線を示していると解釈できます。そして、都心へのアクセス向上により需要が増加し、需要曲線fが右にシフトする(図にはシフト後の曲線は描かれていませんが、シフトを想定する)ことで、家賃が高騰する状況を説明できます。メモ中の「図における需要曲線の移動によって表現できる」とあり、需要曲線は曲線fです。この組み合わせが最も適切です。
⑤【誤】
図cでは、曲線f(垂直)が供給曲線、曲線e(右下がり)が需要曲線と解釈できます。需要曲線が曲線fであるという指定が誤りです。
⑥【誤】
図cで、需要曲線が曲線e(右下がり)であるという点は正しいですが、図の解釈として④と比較します。
⑦【誤】
図dでは、曲線f(垂直)が供給曲線、曲線e(右上がり)は通常の供給曲線を示しており、需要曲線ではありません。
⑧【誤】
図dで、需要曲線が曲線f(垂直)は不適切です。
改めて検討すると、家賃(縦軸)と物件数・入居数(横軸)の関係で、
供給曲線:物件数は増減しないので垂直線。
需要曲線:家賃が下がれば入居数は増えるので右下がり。
「J市駅に特急が停まるようになり、都心へのアクセスが便利になった」=需要増=需要曲線が右シフト。
これに合致するのは、
需要曲線が曲線fで右下がり、供給曲線が曲線eで垂直である図aまたは図bのケース。
設問のメモは「図における需要曲線の移動によって表現できる」とあり、家賃高騰を説明します。
図bにおいて、曲線fが需要曲線であり、これが右シフト(図には描かれていないが、そのように想定する)すれば、垂直な供給曲線eとの交点が上方に移動し、家賃が高騰します。したがって、図b、需要曲線fが適切です。
(解答を確認)解答は④(図b、需要曲線f)。上記の推論と一致します。
問2:正解④
<問題要旨>
この問題は、GDP(国内総生産)が国民生活の豊かさを示す指標としての限界や、GDPに代わる指標について議論する会話文の空欄を補充する問題です。
<選択肢>
①【誤】
ア:「GDPの大きさが一定でも人口が少なくなれば、経済面で一人当たりの豊かさは増大する」は正しいです。
イ:「気候変動の対策として再生可能エネルギーを開発するための支出」は、投資や政府支出としてGDPに算入されます。GDPに算入されないものの例としては不適切です。
ウ:「GNP(国民総生産)」はGDPと類似の指標であり、GDPの限界を補う新しい指標という文脈には合致しにくいです。
②【誤】
ア:「増大する」は正しいです。
イ:「気候変動の対策として再生可能エネルギーを開発するための支出」はGDPに算入されます。
ウ:「NNW(国民純福祉)」は、GDPの限界を補うために提案された指標の一つで、余暇や環境破壊などを考慮するものであり、文脈に合致します。しかし、イが不適切です。
③【誤】
ア:「増大する」は正しいです。
イ:「気候変動が引き起こした山火事による森林などの自然環境の損失」は、市場取引を伴わないためGDPには直接算入されません。これはGDPの限界を示す良い例です。
ウ:「GNP(国民総生産)」は不適切です。
④【正】
ア:「GDPの大きさが一定でも人口が少なくなれば、経済面で一人当たりの豊かさは増大する」は正しいです。
イ:「気候変動が引き起こした山火事による森林などの自然環境の損失」はGDPに算入されないため、GDPの限界を示す例として適切です。
ウ:「NNW(国民純福祉)」はGDPに代わる指標の例として適切です。
問3:正解②
<問題要旨>
この問題は、株式会社の仕組みやあり方(株主の権利、所有と経営の分離、企業の社会的責任など)に関する記述の空欄を補充する問題です。
<選択肢>
①【誤】
ア:「配当」は適切です。株主は出資額に応じて利益の分配である配当を受け取る権利を持ちます。
イ:「所有と経営の分離」は、株主(所有者)と経営者が分離し、専門経営者が経営を行う現象を指し、適切です。
ウ:「コンプライアンス」は法令遵守を意味し、慈善的な寄付行為やボランティアそのものを指すわけではありません。フィランソロピーの方が適切です。
②【正】
ア:「配当」は適切です。
イ:「所有と経営の分離」は適切です。
ウ:「フィランソロピー」は、博愛の精神に基づく慈善活動や寄付行為を指し、文脈に合致します。
③【誤】
ア:「配当」は適切です。
イ:「持株会社の解禁」は、独占禁止法の改正によるものであり、所有と経営の分離そのものを指すわけではありません。
ウ:「コンプライアンス」は不適切です。
④【誤】
ア:「配当」は適切です。
イ:「持株会社の解禁」は不適切です。
ウ:「フィランソロピー」は適切ですが、イが誤りです。
⑤【誤】
ア:「利子」は、主に債権者(貸し手)が受け取るものであり、株主が受け取る配当とは異なります。
⑥【誤】
ア:「利子」が不適切です。
⑦【誤】
ア:「利子」が不適切です。
⑧【誤】
ア:「利子」が不適切です。
問4:解答④
<問題要旨>
この問題は、財政が持つ機能(資源配分の調整、所得の再分配、景気の安定化)に関する記述のうち、誤っているものを選ぶ問題です。景気の安定化機能はビルト・イン・スタビライザーとフィスカル・ポリシーに分けられる点も考慮します。
<選択肢>
①【正】
環境税のように、外部不経済(この場合は二酸化炭素排出)を是正するために課税し、行動を変化させる(再生可能エネルギー普及促進)のは、資源配分の調整機能の一例です。
②【正】
累進課税制度(所得が高いほど税率が上がる)や公的扶助制度(生活困窮者への給付)は、所得格差を是正する働きがあり、所得の再分配機能の典型例です。
③【正】
失業保険制度は、不況期に失業者の所得を保障することで消費の急激な落ち込みを防ぎ、景気の変動を自動的に安定させる機能(ビルト・イン・スタビライザー)を持ちます。
④【誤】
所得税に累進税率が適用されていること自体が持つ景気安定化機能は、景気が良くなると税収が増え、景気が悪くなると税収が減るという自動的な調整機能であり、ビルト・イン・スタビライザーに分類されます。フィスカル・ポリシー(裁量的財政政策)は、政府が景気対策のために意図的に公共事業を増やしたり減税したりする政策を指します。したがって、この記述は誤りです。
問5:正解③
<問題要旨>
この問題は、金本位制、IMF体制、キングストン体制という国際通貨体制の特徴(紙幣の兌換性、為替相場制度)について、表の空欄を補充する問題です。
<選択肢>
IMF体制(ニクソン・ショックまで):米ドルは金との交換が保証されていましたが(金ドル本位制)、他の主要国通貨は米ドルを介して金と結びつく形でした。紙幣は基本的に金との兌換性がありましたが、それは米ドルに限られ、各国通貨は米ドルに固定されていました(固定相場制だが調整可能ペッグ制)。
キングストン体制:ニクソン・ショック以降、金の裏付けがない不換紙幣となり、主要国通貨は変動相場制に移行しました。
ア:IMF体制下の紙幣は、米ドルが金兌換であったため、間接的に金との関連がありましたが、各国通貨そのものが金に直接兌換されたわけではありません。しかし、米ドルは金兌換であり、その米ドルに各国通貨がペッグしていたので、実質的には金の裏付けのある体制でした。ここでは「兌換」と捉えるのが適切でしょう。
イ:キングストン体制下では、紙幣は金の裏付けがなく、兌換されません。「不換」が適切です。
ウ:IMF体制下では、為替相場は固定相場制(ただし調整は可能)でした。「固定」が適切です。
エ:キングストン体制下では、為替相場は変動相場制が基本となりました。「変動」が適切です。
これを踏まえて選択肢を見ると、
ア:兌換、イ:不換、ウ:固定、エ:変動 となる組み合わせを探します。
① ア兌換 イ兌換 ウ固定 エ固定 → イ、エが誤り
② ア兌換 イ兌換 ウ固定 エ変動 → イが誤り
③ ア兌換 イ不換 ウ固定 エ変動 → 正しい
④ ア兌換 イ不換 ウ変動 エ固定 → ウ、エが誤り
⑤ ア不換 イ兌換 ウ固定 エ固定 → ア、イ、エが誤り
⑥ ア不換 イ兌換 ウ固定 エ変動 → ア、イが誤り
⑦ ア不換 イ不換 ウ変動 エ固定 → ア、ウ、エが誤り
⑧ ア不換 イ不換 ウ変動 エ変動 → アが誤り
解答は③。上記の推論と一致します。
問6:正解①
<問題要旨>
この問題は、日本の輸出総額に占める主要貿易相手(アメリカ、中国、アジアNIES、ASEAN)の割合の推移を示した図と、関連する出来事をまとめたメモから、図中のアが示す国・地域と、メモの出来事を年代順に並べたときの3番目を正しく組み合わせる問題です。
<図の分析>
アのグラフは、1980年代は低い割合でしたが、1990年代後半から急増し、2000年代にはアメリカを抜いて日本の最大の輸出相手となっているように見えます。これは中国の経済成長と輸出拡大の特徴と一致します。アジアNIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)は、1980年代後半から1990年代にかけて高い割合を占めていましたが、その後は横ばいか微減傾向です。よって、アは「中国」と考えられます。
<メモの年代整理>
a. 日米構造協議(1989年~)と日米包括経済協議(1993年~)が開始された。
b. G7によってルーブル合意(1987年)がなされた。(ドル安是正のため)
c. 二十数年間にわたって、日米間での激しい貿易摩擦が発生しなかった。(これは特定の出来事ではなく、ある期間の状態を示唆。時期の特定が難しいが、日米貿易摩擦が激しかったのは1980年代~1990年代前半。その後沈静化したとすれば1990年代後半以降か。)
d. 1ドル=250円前後の円安・ドル高が数年間継続し、日本の対米輸出急増の一因となった。(プラザ合意(1985年)以前の状況。1980年代前半。)
年代順に並べると、
- d (1980年代前半)
- b (1987年 ルーブル合意)
- a (1989年~ 日米構造協議開始)
- c (1990年代後半以降の状況か?)
3番目にくるメモは「a」となります。
したがって、アは「中国」、3番目にくるメモは「メモa」です。
<選択肢の確認>
① ア中国 3番目にくるメモーメモa → 正しい
② ア中国 3番目にくるメモーメモb → メモbは2番目
③ ア中国 3番目にくるメモーメモc → メモcは時期が曖昧だが4番目以降か
④ ア中国 3番目にくるメモーメモd → メモdは1番目
⑤ ア アジア NIES → アは中国
⑥ ア アジア NIES → アは中国
⑦ ア アジア NIES → アは中国
⑧ ア アジア NIES → アは中国
解答は①。上記の推論と一致します。
問7:正解②
<問題要旨>
この問題は、日本、アメリカ、スウェーデン、デンマークにおける所得のジニ係数(図1)と労働組合の組織率(図2)の1980年と2019年の比較から読み取れる内容として正しいものを判断する問題です。ジニ係数は0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいことを示します。
<選択肢の吟味>
ア【誤】
図1(ジニ係数):すべての国で所得格差が縮小しているわけではありません。日本、アメリカでは1980年から2019年にかけてジニ係数が上昇(格差拡大)しています。スウェーデン、デンマークではほぼ横ばいか微減です。
図2(労働組合組織率):すべての国で低下しています。
したがって、「すべての国で、所得格差は縮小し」という部分が誤りです。
イ【正】
1980年:
労働組合組織率が高い上位2か国はスウェーデン(約80%)、デンマーク(約70%強)。
これらの国のジニ係数はスウェーデン(約0.25)、デンマーク(約0.23)で、日本(約0.3弱)、アメリカ(約0.35)より小さい。
2019年:
労働組合組織率が高い上位2か国はスウェーデン(約65%)、デンマーク(約65%弱)。
これらの国のジニ係数はスウェーデン(約0.27)、デンマーク(約0.25)で、日本(約0.34)、アメリカ(約0.42)より小さい。
よって、1980年と2019年のいずれにおいても、労働組合の組織率が高い上位2か国(スウェーデン、デンマーク)は、他の2か国(日本、アメリカ)よりも所得格差(ジニ係数)が小さいと言えます。
ウ【誤】
1980年:日本の労働組合組織率は約30%でアメリカ(約20%強)よりは高いですが、スウェーデン、デンマークよりは低いです。日本のジニ係数は約0.3弱で、アメリカ(約0.35)よりは小さいですが、スウェーデン(約0.25)、デンマーク(約0.23)よりは大きいです。
2019年:日本の労働組合組織率は約17%で4か国中3番目(アメリカより高い)。日本のジニ係数は約0.34で、スウェーデン(約0.27)、デンマーク(約0.25)より大きく、アメリカ(約0.42)より小さい。
したがって、「日本は他の3か国と比べて労働組合の組織率は低く、所得格差は小さい」とは必ずしも言えません。特に所得格差はスウェーデン、デンマークより大きいです。
上記より、正しいのはイのみです。
①【誤】アは誤り。
②【正】イが正しい。
③【誤】ウは誤り。
④【誤】アは誤り。
⑤【誤】ア、ウは誤り。
⑥【誤】ウは誤り。
⑦【誤】ア、ウは誤り。
解答は②。上記の推論と一致します。
問8:正解②
<問題要旨>
この問題は、ギグワーカーのような新しい働き方に関して、労働者性の問題や、それに関連する紛争解決機関について会話する内容の空欄を補充する問題です。
<選択肢>
会話の流れから、ギグワーカーが企業と雇用関係にないとされる場合、最低賃金法などの労働法規の適用が問題となる点が示唆されています。
ア:Yの発言「そもそもギグワーカーは一般的にアではないといっていいか、議論がありそうだね。」は、ギグワーカーが労働基準法上の「労働者」に該当するかどうかが争点となることを示しています。該当すれば労働法規の保護を受けられますが、個人事業主と見なされれば保護の対象外となる場合があります。したがって、アは「労働者」が適切です。
イ:Xの発言「その点に関して、アの代表、使用者の代表、公益の代表で構成されるイに対して救済が申し立てられた事件があったよ。」は、労働問題に関する紛争解決機関を指しています。労働者、使用者、公益の三者で構成されるのは「労働委員会」です。労働委員会は、不当労働行為の審査や労働争議のあっせん・調停・仲裁などを行います。
これを踏まえて選択肢を見ると、
① ア労働者 イ 国民生活センター → イが不適切。国民生活センターは消費生活全般に関する相談や情報提供を行う機関。
② ア労働者 イ労働委員会 → 正しい。
③ ア 消費者 イ 国民生活センター → アが不適切。問題は労働者性。
④ ア 消費者 イ労働委員会 → アが不適切。
⑤ ア 自営業者 イ 国民生活センター → アは結果としての評価であり、議論の対象は労働者性。イも不適切。
⑥ ア 自営業者 イ労働委員会 → アは結果としての評価。
解答は②。上記の推論と一致します。
第3問
問1:正解⑤
<問題要旨>
この問題は、刑事裁判における「疑わしきは被告人の利益に」の原則(無罪推定の原則の現れ)に反すると考えられる行為を、提示されたメモに基づいて判断する問題です。メモでは「合理的な疑い」が残る場合は有罪とできないと説明されています。
<選択肢の吟味>
ア【反する】
「被告人Jであることについて合理的な疑いは残るものの、犯人はJである可能性が高いので、裁判所がJに対し罰金30万円の判決を下す。」
→ 合理的な疑いが残るにもかかわらず有罪判決を下しているので、原則に反します。
イ【反しない】
「強盗を行ったのがKであることについて合理的な疑いを差し挟む余地はないので、裁判所がKに対し懲役5年の判決を下す。」
→ 合理的な疑いがないと判断して有罪判決を下しているので、原則に反しません。
ウ【反する】
「再審が開始され、新証拠に基づき判断すれば、犯人がLであることについて合理的な疑いが生じるにもかかわらず、裁判所がLに対し無期懲役の判決を下す。」
→ 再審において合理的な疑いが生じたにもかかわらず有罪判決を維持しているので、原則に反します。
したがって、原則に反すると考えられる行為はアとウです。
①【誤】アのみではない。
②【誤】イは反しない。
③【誤】ウのみではない。
④【誤】イは反しない。
⑤【正】アとウが反する。
⑥【誤】イは反しない。
⑦【誤】イは反しない。
問2:正解④
<問題要旨>
この問題は、国際法における条約と国際慣習法の関係、および国家の主権や国内法との関連について、生徒の会話の空欄を補充する問題です。特に、国連海洋法条約の締約国でないアメリカが領海での無害通航権を一般的に否定できるか、また日本の非核三原則との関連が問われています。
<選択肢の吟味>
ア:Yの発言「たしかにアメリカは国連海洋法条約の締約国ではないけど、外国船舶の通航を一切禁止することはできないはずだよ。アからね。」について。
領海の無害通航権は、国連海洋法条約で明文化されていますが、それ以前から国際慣習法として確立していたとされています。国際慣習法は、条約の当事国であるか否かにかかわらず、原則としてすべての国を拘束します。国連総会の決議は、法的な拘束力を持つものもありますが、一般的には勧告的意味合いが強いものが多いです。
したがって、「領海の無害通航権は国際慣習法でも認められていて、国際慣習法は条約とは違って国際社会のすべての国を拘束する」というbが適切です。
イ:Yの発言「それは、イによるものだね。領海も国の領域の一部だからね。」について。
日本が核搭載艦の無害通航を認めない立場をとっている背景には、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」とする「非核三原則」があります。「持ち込ませず」の原則が領海内への核兵器の持ち込みを否定する根拠となります。内政不干渉の原則は、他国が国家の国内問題に干渉することを禁じる原則であり、ここでの文脈とは直接関連しません。
したがって、「非核三原則」というdが適切です。
組み合わせとして正しいのは、アがb、イがdです。
①【誤】アがa(国連総会決議)、イがc(内政不干渉)
②【誤】アがa(国連総会決議)、イがd(非核三原則)
③【誤】アがb(国際慣習法)、イがc(内政不干渉)
④【正】アがb(国際慣習法)、イがd(非核三原則)
問3:正解②
<問題要旨>
この問題は、日本の法制度における契約に関する原則や効力について、生徒の会話の空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
ア:Xの発言「日本には、誰と契約を結ぶか、どのような契約を結ぶか、いつ契約を結ぶかを個人の自由な意思に基づいて決めることができるというアがあるんだよね。」
→ これは私的自治の原則の一つである「契約自由の原則」を説明しています。
イ:Xの発言「でも、契約の効力を認めることが社会的にみてあまりに妥当性がない場合には、イに反するとして無効になる場合もあるんだよね。」
→ 契約内容が社会の一般的な道徳観念や秩序に反する場合、その契約は「公序良俗」(公の秩序または善良の風俗)に反するとして無効となります(民法第90条)。過失責任の原則は、不法行為などにおいて過失がなければ責任を負わないとする原則であり、契約の有効性とは直接関係ありません。
組み合わせとして正しいのは、アが契約自由の原則、イが公序良俗です。
①【誤】イが過失責任の原則
②【正】アが契約自由の原則、イが公序良俗
③【誤】アが消費者主権、イが過失責任の原則。消費者主権は市場経済における消費者の重要性を示す概念。
④【誤】アが消費者主権
問4:正解②
<問題要旨>
この問題は、選択的夫婦別姓訴訟に関連して、法律と条約の関係(特に国内法における効力関係)について、専門家の意見が述べられている記事の空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
〇〇氏の意見:
「日本が当事国となっている条約は、日本の国内法上、法律に優位する効力を有するとの理解が有力」とし、「例えば、日本は1984年に女性差別撤廃条約を批准するためアを改正した」とあります。
女性差別撤廃条約の批准に関連して国内法が改正された例としては、男女の国籍取得に関する差別をなくすための「国籍法」の改正(父系血統主義から父母両系血統主義へ)が挙げられます。育児休業法(現:育児・介護休業法)は主に育児と仕事の両立支援に関するもので、直接的な条約批准のための改正とは言いにくいです。
したがって、アは「国籍法」が適切です。
△△氏の意見:
「憲法は、条約の国会承認にはイの手続を準用することを定めている。」
憲法第73条3号は、内閣の事務として「条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。」と定めています。この国会承認の手続きについて、憲法第60条(予算の議決に関する衆議院の優越)、第61条(条約の承認に関する衆議院の優越)で衆議院の優越が認められています。条約の承認は法律の制定と同様に国会の議決を必要とする重要な事項です。予算の議決手続きが準用されるというよりは、法律の制定と同様の議決手続き(衆参両院の議決、衆議院の優越あり)と考えられます。「予算の議決」の手続きと「憲法の改正」の手続きでは、条約承認に類似性が高いのは予算の議決(あるいは法律の制定)の方です。しかし、選択肢を見ると「予算の議決」か「憲法の改正」しかありません。「憲法の改正」は国民投票も必要であり、条約承認とは大きく異なります。
憲法第61条は「条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。」とあり、前条第60条第2項は予算の衆議院先議と優越について定めています。したがって、イは「予算の議決」の手続き(特に衆議院の優越など)が準用されると解釈するのが適切です。
組み合わせとして正しいのは、アが国籍法、イが予算の議決です。
①【誤】イが憲法の改正
②【正】アが国籍法、イが予算の議決
③【誤】アが育児休業法、イが憲法の改正
④【誤】アが育児休業法
問5:正解③
<問題要旨>
この問題は、日本の違憲法令審査権の主体と行使のあり方(付随的違憲審査制)について、生徒の会話の空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
ア:Xの発言「授業ではアが違憲法令審査権をもっていると学んだね。」
→ 日本国憲法第81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定めています。これにより最高裁判所が違憲審査権を持つことは明確ですが、判例・通説では下級裁判所も違憲審査権を持つと解されています(裁判所法第3条)。したがって、「最高裁判所とすべての下級裁判所」が適切です。
イ:Yの発言「日本では付随的違憲審査制が採用されているから、裁判所はイことができるよ。」
→ 付随的違憲審査制(具体的事件性必要説)とは、具体的な訴訟事件の解決に必要な限度においてのみ、法令の憲法適合性を審査する制度です。抽象的な法令審査(事件とは無関係に法令の合憲性を判断すること)は認められていません。
したがって、「具体的事件の解決のために必要な場合に限って憲法判断を行う」というcが適切です。
組み合わせとして正しいのは、アがb(最高裁判所とすべての下級裁判所)、イがc(具体的事件の解決のために必要な場合に限って)です。
①【誤】アがa(最高裁判所だけ)
②【誤】アがa、イがd(具体的事件とは無関係に)
③【正】アがb、イがc
④【誤】イがd
問6:正解②
<問題要旨>
この問題は、国際刑事裁判所(ICC)の管轄権行使の開始手続と、具体的な事件(スーダンのバシル大統領、ロシアのプーチン大統領への逮捕状発付)において、締約国でない国の国家元首に対して手続が開始可能となった理由について、メモの空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
メモにはICCの手続開始の契機として、(a)締約国による付託、(b)国連安全保障理事会(安保理)による付託、(c)検察官の自己の発意、が挙げられています。(a)と(c)の場合、犯罪行為地国または被疑者の国籍国のいずれかが締約国であるか、ICCの権限を受諾している必要があります。
スーダンもロシアもICC規程の締約国ではありません。
例1:スーダンのバシル大統領の事件(ダルフール紛争)
スーダンは締約国ではありません。この事件では、国連安保理がICCに事態を付託しました(安保理決議1593号、2005年)。安保理による付託の場合、被疑者の国籍国や犯罪行為地国が締約国でなくてもICCは管轄権を行使できます。
例2:ロシアのプーチン大統領の事件(ウクライナにおける戦争犯罪容疑)
ロシアは締約国ではありません。ウクライナも当初は締約国ではありませんでしたが、2014年以降、ICCの管轄権を受諾する旨の宣言を行っています(2015年に二度目の宣言)。これにより、ウクライナ領内で行われた犯罪についてICCが管轄権を行使することが可能となりました。この事件では、検察官が自己の発意で捜査を開始し、逮捕状が請求されました。ウクライナがICCの権限を受諾していたことがポイントです。
したがって、アに当てはまる記述は、
例1(スーダン)では「国連安保理が事態を付託したため」。
例2(ロシア)では「犯罪行為地国(ウクライナ)がICCの権限を受諾したため」。
これを満たす選択肢は、
② 例1では国連安保理が事態を付託し、例2では犯罪行為地国がICCの権限を受諾したため
①【誤】双方とも安保理付託ではない。
③【誤】例1と例2の説明が逆。
④【誤】双方とも犯罪行為地国の権限受諾ではない。
問7:正解①
<問題要旨>
この問題は、日本におけるプライバシーの権利や知る権利、およびそれらに関連する法律(個人情報保護法、特定秘密保護法、通信傍受法など)に関する記述の正誤を判断する問題です。
<選択肢>
①【正】
個人情報保護法は、本人に自己の個人情報について開示を請求する権利(開示請求権)だけでなく、内容が事実でない場合に訂正・追加・削除を請求する権利(訂正等請求権)、不適法な取得や目的外利用、不適切な第三者提供がされている場合に利用停止・消去・第三者提供の停止を請求する権利(利用停止等請求権)も認めています。
②【誤】
プライバシーの権利を侵害された者は、加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することができるだけでなく、人格権としてのプライバシー権に基づき、侵害行為の差止めを請求することも判例上認められています。
③【誤】
特定秘密保護法は、国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要な情報を「特定秘密」として指定し、その漏えいを防ぐことを目的とした法律です。国民の知る権利を保障するというよりは、むしろ知る権利を制約する側面が強いと批判されています。
④【誤】
通信傍受法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)は、組織的な殺人、薬物・銃器犯罪、集団密航などの重大犯罪の捜査において、一定の要件(裁判官の発する傍受令状など)のもとで、捜査機関が電話やインターネットなどの通信を傍受することを認めています。一律に禁じられているわけではありません。
問8:正解⑥
<問題要旨>
この問題は、難民条約(難民の地位に関する条約)の条文(第1条、第22条、第33条)の抜粋から読み取れる内容として正しいものを判断する問題です。
<選択肢の吟味>
ア【誤】
第1条A(2)の難民の定義は「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者」です。貧困を理由とする「経済難民」は、この定義には直接含まれません。また、「国籍国の外にいる者」とあるので、国内で避難生活を送る「国内避難民」もこの条約上の難民には該当しません。したがって、「経済難民は含まれるが」の部分が誤りです。
イ【正】
第33条1項(追放及び送還の禁止、ノン・ルフールマン原則)は「締約国は、難民を、いかなる方法によっても、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見のためにその生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならない。」と定めています。したがって、宗教を理由に迫害するおそれのある国へ難民を送還することは禁じられます。
ウ【正】
第22条(公の教育)1項は「締約国は、難民に対し、初等教育に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。」と定めており、初等教育については内国民待遇(自国民と同一の待遇)を義務付けています。
同条2項は、初等教育以外の教育については「できる限り有利な待遇を与えるものとし、いかなる場合にも、同一の事情の下で一般に外国人に対して与える待遇よりも不利でない待遇を与える。」と定めており、内国民待遇までは義務付けていません(最恵国待遇に近いか、それ以上の有利な待遇)。
したがって、この記述は正しいです。
上記より、正しいのはイとウです。
①【誤】アは誤り。
②【誤】イのみではない。
③【誤】ウのみではない。
④【誤】アは誤り。
⑤【誤】アは誤り。
⑥【正】イとウが正しい。
⑦【誤】アは誤り。
第4問
問1:正解④
<問題要旨>
この問題は、民主主義国の政治体制を「選挙制度における比例性」と「執政制度における権力の集中度」の二つの次元で類型化した表の空欄ア、イ、ウに、アメリカ、イギリス、ドイツのいずれが当てはまるかを判断する問題です。メモの情報を参考にします。
<メモの分析>
・選挙制度:小選挙区制は比例性が低く二大政党制になりやすい。大選挙区制や比例代表制は比例性が高く多党制になりやすい。
・執政制度:議院内閣制は権力が集中的になりやすい。大統領制は権力が分立的になりやすい。
<各国の特徴>
・アメリカ:執政制度は大統領制(権力分立的)。下院選挙は主に小選挙区制(比例性低い)。
・イギリス:執政制度は議院内閣制(権力集中的)。下院選挙は主に小選挙区制(比例性低い)。
・ドイツ:執政制度は議院内閣制(権力集中的)。連邦議会選挙は小選挙区比例代表併用制(比例性高い)。
<表への当てはめ>
表のセルと国の特徴を照合します。
・ア:執政制度が権力集中的(議院内閣制)、選挙制度の比例性が低い(小選挙区制)→ イギリス
・イ:執政制度が権力集中的(議院内閣制)、選挙制度の比例性が高い(比例代表制など)→ ドイツ
・ウ:執政制度が権力分立的(大統領制)、選挙制度の比例性が低い(小選挙区制)→ アメリカ
したがって、ア=イギリス、イ=ドイツ、ウ=アメリカ となります。
<選択肢の確認>
① ア アメリカ → 誤り
② ア アメリカ → 誤り
③ ア イギリス イ アメリカ → イが誤り
④ ア イギリス イ ドイツ ウ アメリカ → 正しい
⑤ ア ドイツ → 誤り
⑥ ア ドイツ → 誤り
問2:正解③
<問題要旨>
この問題は、社会主義の経済体制(計画経済、生産手段の所有形態)と、中国の経済改革(経済特区、市場経済導入)について、生徒の会話の空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
ア:Yの発言「生産体制については、土地や工場などの生産手段がアされるという特徴があると学んだね。」
→ 社会主義経済では、主要な生産手段(土地、工場、機械など)は、私有ではなく、国家や協同組合などによって公的に所有される(公有または社会的所有)のが原則です。したがって、アは「公有」が適切です。「私有」は資本主義経済の特徴です。
イ:Yの発言「中国の場合は、イを設けることによって外国の資本や技術を導入して経済改革を実施したり…」
→ 中国は1970年代末からの改革開放政策の一環として、沿海部などに「経済特区」を設置し、外国資本や技術を導入して経済発展を図りました。「人民公社」は、毛沢東時代(1950年代後半~)の農村における集団生産・生活組織であり、改革開放政策とは方向性が異なります。
したがって、イは「経済特区」が適切です。
組み合わせとして正しいのは、アが公有、イが経済特区です。
①【誤】アが私有
②【誤】アが私有、イが人民公社
③【正】アが公有、イが経済特区
④【誤】イが人民公社
問3:正解④
<問題要旨>
この問題は、アダム・スミスの『国富論』における主張(分業、見えざる手、批判対象とした経済思想)に関するメモの空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
ア:メモ「個々人が自由な経済活動を行い、各自の利益を追求しても、「見えざる手」によって、意図しないうちにアが達成されると述べた。」
→ アダム・スミスは、個人の利己的な経済活動が、市場メカニズム(見えざる手)を通じて、結果的に社会全体の利益(公共の利益)の増進につながると主張しました。「産業革命」はスミスの時代に進行しつつあった歴史的背景ですが、直接「見えざる手」によって達成されるものとしてスミスが述べたものではありません。
したがって、アは「公共の利益」が適切です。
イ:メモ「スミスは、当時イギリスなどで支配的だったイの思想や政策を批判し…」
→ アダム・スミスは、国家が輸出を奨励し輸入を抑制することで国内の金銀を蓄積し国富を増大させようとする「重商主義」政策を批判し、自由放任(レッセフェール)による自由な経済活動を主張しました。「重農主義」は、富の源泉を農業生産に求め、商工業の価値を相対的に低く見る思想で、フランスで有力でしたが、スミスの主たる批判対象はイギリスの重商主義でした。
したがって、イは「重商主義」が適切です。
組み合わせとして正しいのは、アが公共の利益、イが重商主義です。
①【誤】アが産業革命、イが重農主義
②【誤】アが産業革命
③【誤】イが重農主義
④【正】アが公共の利益、イが重商主義
問4:正解④
<問題要旨>
この問題は、国連安全保障理事会(安保理)における合意形成の実態について、決議採択数と拒否権行使回数のデータ(表)を見ながら、生徒が会話している内容の空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
ア:Yの発言「この表をみると、アの終結を境として、その前の5年間よりも決議の採択数が3倍以上になるなど合意を形成しやすい環境が整ったことが読みとれるよ。」
→ 表を見ると、1986~1990年(決議103本、拒否権34回)から1991~1995年(決議352本、拒否権3回)にかけて、決議採択数が急増し、拒否権行使回数が激減しています。これは、1989年のマルタ会談で米ソ首脳が終結を宣言した「冷戦」の終結と時期的に一致します。冷戦終結により、常任理事国間の対立が緩和され、安保理が機能しやすくなったことを示しています。「ベトナム戦争」は1975年に終結しており、この時期の大きな変化とは対応しません。
したがって、アは「冷戦」が適切です。
イ:Xの発言「2011年以降のイでの紛争への対処に際して、ロシアが政府側を支援している一方で欧米諸国は反政府側を支援していることが一因だと考えられるよ。」
→ 2011年以降に発生し、ロシアと欧米諸国が異なる立場から関与し、安保理での意見対立が顕著になった紛争としては「シリア内戦」が挙げられます。シリア政府をロシアが支援し、反体制派を欧米諸国が支援する構図で、安保理ではロシア(や中国)が拒否権を度々行使しました。「カンボジア紛争」は主に1970年代~1990年代初頭の問題であり、2011年以降の状況とは異なります。
したがって、イは「シリア」が適切です。
組み合わせとして正しいのは、アが冷戦、イがシリアです。
①【誤】アがベトナム戦争
②【誤】アがベトナム戦争、イがシリア
③【誤】イがカンボジア
④【正】アが冷戦、イがシリア
問5:正解③
<問題要旨>
この問題は、核兵器禁止条約の策定経緯に関し、オーストラリア、フランス、メキシコのいずれかの役割を演じる模擬国連会議の準備資料について、空欄ア~オを補充する問題です。
<国の立場と資料の照合>
・メキシコ:非核地帯条約であるトラテロルコ条約の締約国で、核兵器禁止条約の策定を積極的に推進した国の一つ。主張としては「核兵器が使用された場合にもたらされる非人道的な被害の大きさ」(記述b)を強調し、条約の必要性を訴える。
・フランス:NPTで核兵器の保有を認められている核保有国。核兵器禁止条約には反対の立場。主張としては「自国の核兵器保有がもたらす抑止力によって国際平和が保たれる効果」(記述a)や、核抑止の重要性を強調し、条約は不要と主張する。
・オーストラリア:アメリカの「核の傘」の下にある国。核廃絶を長期的目標としつつも、核兵器禁止条約については、核保有国が参加しない実効性の低さ(記述c)などを理由に、交渉開始は時期尚早とする立場。
<空欄への当てはめ>
準備資料1:アが推進国であることから「メキシコ」。イはその主張なので「b. 核兵器が使用された場合にもたらされる非人道的な被害の大きさ」。
準備資料2:ウがNPT核保有国であることから「フランス」。エはその主張なので「a. 自国の核兵器保有がもたらす抑止力によって国際平和が保たれる効果」。
準備資料3:オーストラリアの立場として、オは「c. 核兵器保有国が条約に参加する見通しがないことによる実効性の低さ」。
したがって、イ=b、ウ=フランス、エ=a、オ=c となります。
問題で問われているのは、イとウの組み合わせです。
イはb、ウはフランス。
<選択肢の確認>
① イーa ウ フランス → イが誤り
② イーa ウ メキシコ → イ、ウともに誤り
③ イーb ウ フランス → 正しい
④ イーb ウ メキシコ → ウが誤り
⑤ イーc ウ フランス → イが誤り
⑥ イーc ウ メキシコ → イ、ウともに誤り
問6:正解②
<問題要旨>
この問題は、トマ・ピケティとアマルティア・センの経済格差や貧困に関する主張をまとめたメモを参考に、生徒が会話している内容の空欄を補充する問題です。
<選択肢の吟味>
ア:Yの発言「ピケティの提案は、アに対する累進課税を通じて、経済格差を是正しようとするものだね。」
→ ピケティのメモには「格差の是正策としてグローバルな累進資産課税を提唱」とあります。つまり、課税対象は「資産」です。「労働による所得」への課税も格差是正策の一つですが、ピケティが特に強調しているのは資産への課税です。
したがって、アは「資産」が適切です。
イ:Xの発言「そうなると、センが必要だとしているさまざまな公的サービスは、イことを重視して提供されるべきということだね。」
→ センの潜在能力アプローチのメモには「財・サービスそのものを平等化するのではなく、財・サービスを用いて人々が実際に潜在能力を発揮できる機会や手段を平等化すべき」とあります。これは、単にモノを配る(量的拡大)だけでなく、個々人がそれを活用して実際に能力を発揮できるよう、個別の状況やニーズに配慮する必要があることを意味します。
「すべての人に一律にいきわたるように量的拡大をめざす」(記述c)よりも、「個人の特性や置かれた状況など個別の事情に目を配る」(記述d)方が、センの考え方に合致すると言えます。
したがって、イは「d. 個人の特性や置かれた状況など個別の事情に目を配る」が適切です。
組み合わせとして正しいのは、アが資産、イがdです。
①【誤】イがc
②【正】アが資産、イがd
③【誤】アが労働による所得、イがc
④【誤】アが労働による所得