解答
解説
第1問
問1:正解④
古代ギリシアおよび中国の思想における、宇宙や世界の捉え方に関する知識を問う問題です。それぞれの思想家の主張を正確に理解しているかがポイントとなります。
<選択肢>
①【誤】
アのパルメニデスに関する記述が誤りです。パルメニデスは、感覚で捉えられる生成消滅する世界は仮の姿であり、理性によって捉えられる「有るもの」こそが永遠不変の真の実在であると説きました。絶えざる生成消滅(万物流転)を説いたのはヘラクレイトスです。
②【誤】
アのパルメニデスに関する記述が誤りです。
③【誤】
アのパルメニデス、エの道家に関する記述がともに誤りです。エについて、道家思想(老子)では、万物の根源である「道」から「無」が生まれ、その「無」から「有」が生じると考えます(「有は無より生ず」)。したがって、「万物は有から生じて無に帰す」という記述は不正確です。
④【正】
イとウの記述は正しいです。エンペドクレスは、火・空気・水・土の四元素が「愛」と「憎」という力によって結合・分離することで万物が生成されるとしました。朱子は、万物の根本原理である「理」と、物質的素材である「気」によって宇宙の構造を説明する「理気二元論」を確立しました。
⑤【誤】
エの道家に関する記述が誤りです。
⑥【誤】
エの道家に関する記述が誤りです。
問2:正解③
<問題要旨>
古代インドの宗教、特に仏教とジャイナ教における戒律についての理解を問う問題です。出家者と在家信者の違いや、教団の歴史についての正確な知識が求められます。
<選択肢>
①【誤】
仏教では、不殺生(アヒンサー)は出家者だけでなく、在家信者が守るべき基本的な五つの戒め(五戒)の一つにも含まれています。したがって、「在家信者に説かなかった」という部分が誤りです。
②【誤】
ブッダの死後、仏教教団は、戒律を厳格に解釈・適用しようとする保守的な「上座部」と、戒律を時代や状況に応じて柔軟に解釈しようとする進歩的な「大衆部」に分裂しました。記述は両者の立場が逆になっています。
③【正】
仏教では、出家者(僧侶)は性的な行為を一切禁じる厳格な戒律を守る必要がありますが、在家信者は、不倫など道徳に外れた性行為を禁じる「不邪淫戒」を守れば、結婚して家庭を持つことが認められています。
④【誤】
六波羅蜜(ろっぱらみつ)は、大乗仏教において菩薩が実践すべき六つの修行徳目(布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧)です。これは出家者・在家者を問わず、全ての仏道修行者が目指すべきものとされています。したがって、「在家者のための徳目ではない」という部分が誤りです。
問3:正解④
<問題要旨>
『韓非子』に記された逸話を通じて、法を重んじる法家の思想と、家族の情愛(孝)を重んじる儒家の思想との対立を読み解き、韓非子の主張を正確に理解する問題です。
<選択肢>
①【正】
法家の思想では、社会秩序を維持するために最も重要なのは、君主が定めた法です。躬が父の罪を告発した行為は、私情よりも国法を優先したものであり、「君主に対して正直」であると評価されます。これは法家の立場からの評価として適当です。
②【正】
儒家の思想では、家族内の秩序と道徳(孝悌)が社会の基本と考えられます。子が父の罪を告発することは、親に対する孝の道に背く行為と見なされます。楚の大臣が躬の行為を「父親に対しては誤っている」と考えたのは、この儒家的な価値観に基づいていると言え、適当です。
③【正】
資料の最後には、「楚では大臣が躬を殺してから、悪事が訴えられることはなくなった」と記されています。これは、躬の処刑が、人々が不正を告発することへの萎縮効果を生んだことを示しており、記述として適当です。
④【誤】
韓非子は、法による厳格で公平な統治(法治主義)を主張し、家族間の私的な情愛(仁愛)が法の執行を妨げることを厳しく批判しました。この逸話は、私情を捨てて法を徹底すべきであるという韓非子の主張を例証するものです。「私的な情愛によって法の不備を補う必要がある」という記述は、韓非子の思想とは正反対であり、誤りです。
問4:正解①
<問題要旨>
新約聖書におけるイエスの言葉と、イスラームの教えを比較し、それぞれの宗教が社会のルール(世俗の権力や義務)とどのように関わるかを問う問題です。
<選択肢>
①【正】
資料でイエスは「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」と述べ、ローマ皇帝への納税(社会的な義務)と神への信仰が両立することを示しています。一方、イスラームにおける「喜捨(ザカート)」は、信仰に基づく義務(五行の一つ)であり、集められた浄財が貧者や困窮者の救済に使われるなど、社会福祉的な機能を持ち、信仰共同体における納税のような役割を果たしています。この比較は適当です。
②【誤】
イエスは「皇帝のもの」と「神のもの」を区別し、両者への義務を認めており、「社会的規範を神への信仰よりも優先する」ことを求めているわけではありません。また、イスラームでは、内面的な信仰(イーマーン)と、礼拝や喜捨といった外面的な実践(イスラーム)は不可分一体のものとされています。
③【誤】
イエスは「皇帝のものは皇帝に返しなさい」と明確に述べており、納税という社会的義務を否定していません。したがって、神以外の権威への服従を拒否しているという解釈は誤りです。
④【誤】
イスラームでは、原則として、神(アッラー)が唯一絶対の主権者であり、政治と宗教は分かちがたく結びついています(政教一致)。キリスト教世界に見られるような、専門的な聖職者階級は存在せず、共同体(ウンマ)の指導者が政治と信仰の両方を導きます。したがって、「政治的指導者と聖職者が置かれ」という記述はイスラームの基本的なあり方とは異なります。
第2問
問1:正解⑤
<問題要旨>
日本の神話や民俗学における「他界観」(死後の世界や神々の世界に対する考え方)についての正誤を判断する問題です。神話の具体的な内容や、柳田国男、折口信夫の学説を正確に理解しているかが問われます。
<選択肢>
ア【誤】
神話において、禊(みそぎ)を行ったのは、黄泉国(よみのくに)の穢(けが)れを払うため、帰還したイザナキです。この禊によってアマテラス、ツクヨミ、スサノヲの三貴子が生まれました。スサノヲの潔白を示すために行われたのは、アマテラスとの誓約(うけい)です。
イ【正】
民俗学者の柳田国男は、日本人の死生観の基層には、死者の霊は遠くへ行かず、村を見渡せる山などに留まって子孫を見守る「祖霊」となり、盆や正月には家に帰ってくるとする信仰(祖霊信仰)があると論じました。この記述は正しいです。
ウ【正】
民俗学者の折口信夫は、海の彼方にある理想郷「常世国(とこよのくに)」から、神が「まれびと」として定期的に村を訪れ、人々に祝福や富をもたらすという来訪神信仰が、日本の神の信仰の原型であると説きました。この記述は正しいです。
したがって、正しい組合せはイとウになります。
問2:正解②
<問題要旨>
日本の鎌倉時代に広まった浄土信仰を説いた代表的な僧侶(法然、一遍、源信、蓮如)の教えや活動についての理解を問う問題です。それぞれの思想家の特徴を正確に区別できるかが鍵となります。
<選択肢>
①【誤】
一遍は全国を遊行し、踊念仏を行いながら念仏札を配りましたが、彼の教えの特徴は「信・不信をえらばず、浄・不浄をきらはず」というように、信じるか信じないかに関わらず、全ての人が救われるという徹底した他力思想にあります。「信じさえすれば」という条件を付けている点が不正確です。
②【正】
法然は、釈迦の死後、時代が下るにつれて仏の教えが廃れるという末法思想に基づき、自力での修行によって悟りを開こうとする「聖道門」はもはや困難であるとしました。そして、阿弥陀仏の誓願(本願)を信じ、ひたすら念仏を称える(専修念仏)ことによって救われるという「浄土門」の教えこそが、末法の世にふさわしいと説きました。この記述は法然の思想を正しく説明しています。
③【誤】
源信は『往生要集』において、極楽浄土の様子を心に思い描く「観想念仏」を重視しましたが、同時に、口で「南無阿弥陀仏」と称える「口称念仏」の実践も勧めており、口称念仏を否定したわけではありません。
④【誤】
蓮如は、浄土真宗の教えを、平易な仮名書きの手紙形式である「御文(御文章)」を用いて民衆に分かりやすく説き、衰退していた教団を再興しました。『御文』は教義の解説ではありますが、「詳細な注解」というよりは、信仰を促すための分かりやすい手引きという性格が強いです。
問3:正解③
<問題要旨>
江戸時代の儒学者、荻生徂徠の思想について、彼の著作からの引用文を解釈し、その思想内容を正しく説明している選択肢を選ぶ問題です。徂徠が「道」をどのように捉えたかが中心的なテーマです。
<選択肢>
①【誤】
荻生徂徠は、宋学(朱子学)や伊藤仁斎の古義学が解釈するような、個人の内面的な道徳修養としての「道」を批判しました。彼が目指したのは、孔子や孟子の言葉そのものではなく、彼らが生きた時代、さらにそれ以前の古代中国の聖人君主(先王)が定めた具体的な社会制度(礼楽刑政)を学ぶことでした。
②【誤】
荻生徂徠が「道」を政治的・制度的なものと捉えた点は正しいですが、資料では、その道は「先王たちが創造したもの」であり、「天地自然に備わっているものではない」と明確に述べられています。「天地自然に備わった道を発見した」という記述は、資料の内容と矛盾します。
③【正】
荻生徂徠は、人々が従うべき「道」とは、先王たちが天下を安泰にするために作り上げた具体的な制度(礼楽刑政)であるとしました。そして、人々がこの制度に従って生活することで、社会秩序はおのずと保たれると考えました。資料では、道が多くの聖人によって創造されたものであり、偉大な孔子でさえもそれを後から学んだのだと述べられており、この選択肢の説明と合致しています。
④【誤】
荻生徂徠は、天下を治め民衆の生活を安定させる「経世済民」の学問を重視しましたが、それは為政者(武士)が学ぶべき学問であり、全ての人々が聖人になることを目指すべきだとは主張していません。
問4:正解⑧
<問題要旨>
桑原武夫のエッセイを題材に、筆者の「ユートピア」観を読解し、その考え方を体現する歴史上の事例を結びつける問題です。文章の趣旨を正確に捉え、具体的な歴史知識と照らし合わせる能力が求められます。
<選択肢>
a(筆者の考えの要約)
ウが最も適当です。筆者は、実現不可能な理想郷をただ空想するのではなく、世界人権宣言のような高い理想であっても、それを「現実の努力の対象」として捉え、「一歩々々それに近づく」べきだと主張しています。これは、ユートピアという理想に人々がどう向き合うべきかという姿勢を問うていると解釈できます。アの「すでに達成されている」や、イの「未来的な『ユートピア』を思い描く」は本文の趣旨と異なります。
b(著者の考えに沿う実例)
オが最も適当です。明治時代の自由民権運動の中で、岸田俊子や景山英子らが「男女同権」や「女性の解放」という、当時の社会では実現が極めて困難と思われた理想を掲げ、その実現のために具体的な政治活動を行ったことは、筆者が言う「ユートピアを現実の努力の対象とする」姿勢の実例としてふさわしいです。エの北一輝の思想は急進的な国家改造論であり、カの田山花袋の自然主義は理想よりも現実をありのままに描くことを目指しており、筆者の主張とは方向性が異なります。
したがって、a-ウとb-オの組合せである⑧が正解となります。
第3問
問1:正解①
<問題要旨>
合理論の哲学者ライプニッツの思想に関する基本的な知識を問う問題です。彼の思想のキーワードである「モナド」や「予定調和」を正しく理解しているかがポイントです。
<選択肢>
①【正】
ライプニッツは、世界はそれ以上分割不可能な単純実体である「モナド」から構成されていると考えました。それぞれのモナドは独立しており(「窓がない」)、互いに影響を及ぼし合うことはありません。しかし、神が世界を創造する際に、全てのモナドの活動が互いに調和するようにあらかじめ定めているため、宇宙全体として秩序が保たれているとしました。これを「予定調和」説と呼びます。
②【誤】
「事物を永遠の相のもとに見る」という考え方は、スピノザの思想です。彼は、物事を一時的な観点からではなく、神(=自然)の永遠の必然性の一部として捉えることで、真の認識に至ると考えました。
③【誤】
「自然は神そのものの現れである」とする汎神論を説いたのは、スピノザです。彼は、神と自然は同一である(神即自然)と主張しました。
④【誤】
ライプニッツが世界の構成要素を「モナド」と呼んだことは正しいですが、モナドは精神的な実体であり、延長(空間的な広がり)を持たないと考えられています。したがって、「空間的実体」という記述が誤りです。
問2:正解②
<問題要旨>
経験論の哲学者ロックの思想について、複数の記述の中から適当でないものを見つけ出す問題です。ロック自身の思想と、他の哲学者の思想とを明確に区別する必要があります。
<選択肢>
①【正】
ロックは、デカルトらの合理論者が主張した、人間は生まれつき基本的な観念(生得観念)を持っているという説を批判しました。彼は、人間の心は生まれたときには何も書かれていない白紙(タブラ・ラサ)のようなものであり、あらゆる知識は感覚や反省といった「経験」から得られると主張しました。
②【誤】
「存在と知覚は決して別なものではなく、実体として存在するのは精神だけである」という主張は、アイルランドの哲学者バークリーの観念論(非物質論)です。彼は「存在するとは知覚されることである」と述べ、物質的な実体の存在を否定しました。これはロックの思想ではありません。
③【正】
ロックは社会契約説において、人々が自然状態において持つ生命、自由、財産といった所有権(プロパティ)を、より確実に保障するために、互いに契約を結んで国家(政府)を設立すると考えました。
④【正】
ロックは、政府が人々の信託に反して権力を濫用し、人民の所有権を侵害するような場合には、人民は政府に抵抗し、それを解体して新しい政府を設立する権利(抵抗権、革命権)を持つと主張しました。
問3:正解④
<問題要旨>
カントの倫理学において、人間以外の動物がどのように位置づけられているかを、彼の著作からの引用を基に解釈する問題です。カントの義務論や「目的の国」の概念を正確に理解しているかが鍵となります。
<選択肢>
①【誤】
カントは、物事を認識する「理論理性」と、道徳法則を打ち立てる「実践理性」を明確に区別しました。また、資料において彼は「私たちは動物に対する直接的な義務を持たない」と述べており、「直接的な義務を持っている」という記述は誤りです。
②【誤】
カントは、動物を理性的存在ではないため「単に手段としてのみ」存在するとしましたが、だからといって動物をどのように扱ってもよいとは考えていません。資料では、動物を残虐に扱うことは、人間自身の道徳性を損なうため、すべきではないと論じています。
③【誤】
カントの倫理学において、無条件に善いものはただ一つ、「善意志」のみです。「数ある無条件に善いものの一つとして」という記述が誤りです。善意志とは、結果や傾向性によらず、ただ義務に従おうとする意志のことです。
④【正】
カントは、道徳法則(定言命法)に自律的に従うことを道徳の基本としました。彼は、動物が自己意識や理性を持たないため、それ自体が目的となる「人格」ではないと考えました。しかし、資料にあるように、動物を残虐に扱うことは、人間自身の道徳的な感情を鈍らせるため、避けるべきであるとしました。つまり、動物への配慮は、動物自身に対する「直接的な義務」ではなく、人間が人間自身に対して負う「間接的な義務」であると論じたのです。この記述は、カントの思想と資料の内容を正しく説明しています。
問4:正解④
<問題要旨>
功利主義の創始者ベンサムが動物の権利について述べた文章を読み、彼の主張を正確に捉え、現代的な倫理観との関わりを考察する会話文を完成させる問題です。
<選択肢>
a(ベンサムの見解の要約)
資料でベンサムは、人間と動物を区別する境界線として、理性や会話能力は適切ではないと論じています。なぜなら、成長した馬や犬の方が、生まれたばかりの人間よりも理性的である場合があるからです。彼が最終的に重要だと結論づけた基準は、「動物が苦しむことができるか」、つまり快楽や苦痛を感じる能力(快苦感受能力)です。したがって、この主張を最も正確に要約しているのは④です。
b(これからの倫理のあり方)
会話の流れとして、Dはベンサムの示した基準に一定の共感をしつつも、それが新たな問題を生む可能性に気づき、「線引き」そのものについて思索を深めています。Tは、線引きの難しさを認めつつも、「その基準や線引きに鋭敏であることは大事」だと応じます。この流れを受けて、Dが「何をどこまで倫理的に配慮するのかという点にも注意して、人間以外の動物も視野に入れた倫理を考えていかなければならない」と結論づけるのは非常に自然です。他の選択肢は、過去の哲学者を全否定したり(①)、特定の能力で線引きしたり(③)しており、会話の流れに適合しません。
したがって、aとbの記述の組合せとして、最も適当なものは④となります。
第4問
問1:正解③
<問題要旨>
多文化共生社会において生じる様々な事象や考え方に関する用語の定義を問う問題です。それぞれの用語の意味を正確に理解しているかが試されます。
<選択肢>
①【誤】
文化摩擦は、異なる文化を持つ人々が接触する際に生じる軋轢や対立のことであり、グローバル化が進んだ現代社会においても、価値観の相違などから頻繁に発生しています。「ほとんど見られない」という点が誤りです。
②【誤】
ヘイトスピーチとは、人種、民族、出身地、宗教、性的指向など、特定の属性を持つ個人や集団に対して、差別的な意図をもって行われる憎悪表現や、差別を煽動する言動を指します。多くの場合、社会の多数派(マジョリティ)から少数派(マイノリティ)に対して向けられます。記述は主客が逆になっています。
③【正】
エスノセントリズム(自文化中心主義)とは、自分たちが所属する集団の文化や価値観を絶対的な基準とみなし、それに基づいて他の文化を判断する態度のことです。この態度は、しばしば他の文化を劣ったものと見なすことにつながり、他民族への抑圧や敵対的な行動の原因となることがあります。
④【誤】
同化主義とは、ある社会において、少数派(マイノリティ)の集団が、多数派(マジョリティ)の文化や価値観、生活様式を受け入れ、吸収されるべきだとする考え方や政策のことです。記述は、マジョリティとマイノリティの立場が逆になっています。
問2:正解①
<問題要旨>
青年期(思春期)に特徴的な心理的・社会的な発達課題に関する知識を問う問題です。エリクソンの理論や青年期をめぐる社会的な状況についての理解が求められます。
<選択肢>
①【正】
精神分析家のエリクソンは、青年期を、社会的な責任や義務を一時的に免除された「心理・社会的モラトリアム」の期間と位置づけました。この期間に青年は、職業や生き方など様々な役割を試行錯誤する「役割実験」を行い、自分は何者であるかという自己の確立(自我同一性の確立)を目指します。この記述は適当です。
②【誤】
親や社会の権威に対して反抗的になる時期は、幼児期の「第一反抗期」と、青年期(思春期)の「第二反抗期」に大別されます。記述にあるような自立への欲求と大人への反抗が高まるのは「第二反抗期」です。
③【誤】
青年期に形成される若者文化(ユース・カルチャー)は、既存の社会や大人の文化とは異なる価値観や様式を持つことが多く、時にはそれらに批判的・反抗的な「対抗文化(カウンター・カルチャー)」としての性格を帯びることがあります。「優れた部分を積極的に取り入れてさらに発展させる」とは限りません。
④【誤】
身体的な発達が時代とともに早まる「発達加速現象」は見られますが、一方で、教育期間の長期化などにより、社会人として自立する時期は遅くなる傾向にあります。その結果、現代社会では青年期はむしろ長期化しているとされています。「青年期の終了時期も早まった」という記述は誤りです。
問3:正解②
<問題要旨>
ジャーナリストのリップマンが提唱した「ステレオタイプ」の概念に関する読解問題です。ステレオタイプが持つ機能と問題点を正しく理解しているかが問われます。(※問題文に資料本文は省略されていますが、一般的なリップマンの理論に基づいて解答します。)
<選択肢>
ア【誤】
リップマンによれば、ステレオタイプは個人がゼロから作り出すものではなく、その人が所属する文化や社会の中で共有され、受け継がれていく固定化されたイメージ(「頭の中の似姿」)です。したがって、「個人が各々独自に作り上げるもの」という記述は誤りです。
イ【正】
私たちの周りの世界は非常に複雑です。その全ての情報を毎回新しく、個別的に処理しようとすると、多大な時間と精神的エネルギー(骨の折れる作業)が必要になります。ステレオタイプは、この複雑な現実を単純な型にはめて理解することを可能にし、思考の労力を節約する働きをします。したがって、この記述は正しいです。
ウ【誤】
ステレオタイプは、相手を個人としてではなく、ある集団の典型的な一員として型にはめて見る見方です。そのため、個人の個性や尊厳を無視し、偏見につながりやすいという問題点があります。互いの尊厳を配慮した付き合いのためには、むしろステレオタイプ的な見方を乗り越えようとする姿勢が求められます。したがって、この記述は誤りです。
正しいのはイのみなので、②が正解です。
問4:正解②
<問題要旨>
インターネット上のコミュニケーションにおける発信者の責任について、二人の高校生の対話を踏まえ、SNSへの投稿文を完成させる問題です。対話の内容を正確に理解し、登場人物の考え方の変化を読み取ることが重要です。
<選択肢>
a(友人Eの意見の要約)
対話の中で、友人Eは「相手の人格を尊重し、真摯に向き合うことは、やっぱりインターネット上でも重要で、きちんと相手に応答するような姿勢を持っておく必要がある」と主張しています。これを最も的確に要約しているのはアです。イの「書き込みは、しないほうがよい」というのは、Eの主張(書き込む際の姿勢を問う)とは異なります。
b(Fが友人Eと共有できていた考え方)
Fは当初、受け手のメディア・リテラシーを重視していましたが、Eとの対話を経て、「自由であるからといって、何も考えずに偏見を増幅させていってよいわけではないし、確かに発信する人の問題でもあるか」と考えるに至ります。両者に共通していたのは、インターネットが自由なメディアであると同時に、書き込みがステレオタイプとして受け取られ、偏見を助長する危険性があるという認識です。この点を最もよく表しているのはエです。ウの「用いないようにする」やオの「受け取る人のリテラシーを高めれば解決する」は、二人の最終的な合意点とは言えません。
したがって、a-アとb-エの組合せである②が最も適当です。
第5問
問1:正解③
<問題要旨>
ユーゴスラビア紛争に至る背景をまとめたメモの内容を正確に読み取り、そこから導き出せる記述を判断する問題です。資料読解力が問われます。
<選択肢>
ア【誤】
メモには、チトー大統領の死後、合議制へ移行したものの、「合議制への移行は共和国・自治州の政治指導者間の対立につながった」と明記されています。したがって、対立が「解消した」わけではありません。
イ【誤】
メモには、ユーゴスラビアは経済危機に際し、「国際通貨基金(IMF)による融資を受けながら経済改革を進めた」とあります。したがって、「融資を拒否した」という記述は誤りです。
ウ【正】
メモには、「一部の政治指導者たちは、自らの権力基盤を強化するためにナショナリズムを扇動し、連邦制度の再編をめぐる共和国・自治州それぞれの間の対立を民族問題と結びつけた」とあります。これは、政治的な対立が民族間の対立へと転化・激化したことを示しており、この記述はメモの内容と合致します。
したがって、正しい記述はウのみです。
問2:正解②
<問題要旨>
日本国憲法における国会の地位や議員の権利に関する規定についての正誤を判断する問題です。憲法の条文に関する正確な知識が求められます。
<選択肢>
ア【誤】
日本国憲法第43条第1項は、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と定めています。議員は、出身選挙区の代表であると同時に、選挙区の利害を超えて国全体の利益を考えるべき「全国民の代表」とされています。したがって、「選挙区を代表する議員で組織する」という記述は不正確です。
イ【正】
日本国憲法第51条は、議員の「免責特権」を定めています。これは、議員が国会内で自由な議論を行うことを保障するため、「議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」とするものです。この記述は正しいです。
ウ【誤】
議員が法律案を提出すること(議員立法)は、それぞれの議院で行われます。衆議院議員が法律案を提出する際に、参議院議員の賛成を得る必要はありません。法律案の提出には、所属する議院の一定数の議員の賛成が必要です(例:衆議院では議員20名以上)。
したがって、正しい記述はイのみです。
問3:正解④
<問題要旨>
世界人権宣言や国際人権規約など、国際的な人権保障の枠組みに関する知識を問う問題です。各条約の内容や日本の批准状況について正確に理解しているかが試されます。
<選択肢>
①【誤】
対人地雷禁止条約やクラスター爆弾禁止条約は、NGO(非政府組織)が主導するキャンペーンが大きな役割を果たし、成立しました。クラスター爆弾禁止条約は2008年に採択され、2010年に発効しています。したがって、「条約として採択されなかった」という記述は誤りです。
②【誤】
ジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)は1948年に採択されましたが、日本は2024年5月時点では批准していません。
③【誤】
国際人権A規約(社会権規約)では、規約の目的及び趣旨に反しない限りにおいて、一部の条項の適用を免れる「留保」を付して批准することが認められています。「留保付きでの批准を禁止している」という記述は誤りです。
④【正】
国際人権B規約(自由権規約)には、個人の人権侵害を規約人権委員会に通報できる制度を定めた「第一選択議定書」と、死刑の廃止を目標とする「第二選択議定書」があります。日本は、2024年5月時点で、このどちらの選択議定書も批准していません。
問4:正解③
<問題要旨>
日本の公害苦情件数の推移を示したグラフと、環境関連の法整備・組織設置の歴史を結びつけて、記述の誤りを見つけ出す問題です。グラフの数値を正確に読み取る力と、関連する歴史的知識が必要です。
【前提知識】
・公害対策基本法制定:1967年
・環境庁設置:1971年
・環境基本法制定:1993年
・環境省設置:2001年
<選択肢>
①【正】
環境基本法(1993年)は期間c(1990-2000年)に含まれます。1990年から2000年にかけて、合計件数は7.4万件→8.4万件と増加し、典型7公害の割合も約66%→約76%と上昇しています。記述は正しいです。
②【正】
環境庁(1971年)は期間b(1970-1980年)に含まれます。1970年から1980年にかけて、合計件数は6.3万件→6.5万件と微増し、典型7公害の割合は約94%→約85%と低下しています。記述は正しいです。
③【誤】
環境省(2001年)は期間d(2000-2010年)に含まれます。2000年から2010年にかけて、公害苦情件数の合計は8.4万件→8.0万件と「減少」しています。また、合計に占める典型7公害の割合も約76%→約69%と「低下」しています。したがって、「合計は増加し」「割合は上昇している」という記述は両方とも誤りです。
④【正】
公害対策基本法(1967年)は期間a(1966-1970年)に含まれます。1966年から1970年にかけて、合計件数は2.1万件→6.3万件と増加し、典型7公害の割合は約95%→約94%と(わずかに)低下しています。記述は正しいです。
問5:正解⑤
<問題要旨>
現在の地方自治法における、地方公共団体の事務の分類(自治事務と法定受託事務)について、その定義と具体例を正しく理解しているかを問う問題です。
<選択肢>
まず、事務の定義を整理します。
・自治事務:地方公共団体が自主的・主体的に処理する事務。法律の範囲内で行う。(例:公立学校の設置・管理、都市計画の決定、病院・薬局の開設許可)
・法定受託事務:本来は国などが行うべき事務で、法律に基づき地方公共団体が処理を委任されているもの。国の指揮監督を受ける。(例:国政選挙、旅券(パスポート)の交付、戸籍事務)
会話文を分析します。
・Xの発言「国などが本来果たすべき役割に関連し、国などが実施方法を指示して、地方公共団体が行う事務」は、「法定受託事務」の説明です。これが図の「ア 事務」にあたります。
・Yの発言「ウ 事務については、国などの関与は助言あるいは勧告にとどまる」は、「自治事務」の説明です。これが図の「ウ 事務」にあたります。
次に、具体例を当てはめます。
・空欄イは「ア 事務」(法定受託事務)の例です。選択肢の中では「旅券の交付」が該当します。
・空欄エは「ウ 事務」(自治事務)の例です。選択肢の中では「病院や薬局の開設許可」が該当します。
以上のことから、空欄イには「旅券の交付」、空欄ウには「自治」が入ります。この組合せに合致するのは選択肢⑤です。
問6:正解①
<問題要旨>
イギリスの政治学者ブライスの有名な言葉「地方自治は民主政治の最良の学校」が意味するところを問う問題です。この言葉の教育的な側面に焦点を当てて考えることが重要です。
<選択肢>
①【正】
この言葉は、住民が自分たちの身近な地域の問題について、自ら考え、議論し、意思決定に参加する「地方自治」という経験を通じて、国政といったより大きな政治の担い手として必要な知識、判断力、責任感といった市民的資質を実践的に学ぶことができる、ということを「学校」にたとえて表現したものです。この記述は、その趣旨を最も的確に説明しています。
②【誤】
地方自治は、中央政府の画一的な手法を模倣するのではなく、それぞれの地域の実情に応じた多様な行政を展開することに意義があります。「中央政府をモデルとして」という部分が不適当です。
③【誤】
この記述は、行政の効率性や住民への近接性といった観点から地方分権の重要性(補完性の原理)を述べたものであり、正しい内容ですが、「民主政治の学校」という教育的・訓練的な側面を直接説明するものではありません。
④【誤】
この記述は、住民が代表者に政治を委ねるという「間接民主制」の側面を強調しています。しかし、「地方自治は民主政治の学校」という言葉が強調するのは、住民が代表者に任せきりにするのではなく、自らが政治に積極的に参加することの重要性です。
第6問
問1:正解③
<問題要旨>
名目GDPと実質GDP、そして物価変動を示すGDPデフレーターの関係を理解し、名目経済成長率と実質GDPを計算する問題です。それぞれの計算式を正確に適用することが求められます。
<選択肢>
ア(名目経済成長率)の計算:
名目経済成長率は、物価の変動を考慮しないGDPの増加率です。
計算式: (2021年の名目GDP – 2020年の名目GDP) / 2020年の名目GDP × 100
(110億ドル – 88億ドル) / 88億ドル × 100 = 22 / 88 × 100 = 0.25 × 100 = 25 (%)
よって、空欄アは「25」です。
イ(2021年の実質GDP)の計算:
実質GDPは、物価変動の影響を取り除いたGDPです。基準年(この場合は2020年)の価格で計算します。
計算式: 2021年の名目GDP / 2021年のGDPデフレーター × 100
110億ドル / 110 × 100 = 100億ドル
よって、空欄イは「100」です。
したがって、アが25、イが100の組合せである③が正解です。
問2:正解②
<問題要旨>
企業の財務状況を示す貸借対照表(バランスシート)の基本的な構造と、財務の健全性を示す指標である自己資本比率の計算方法を理解しているかを問う問題です。
<選択肢>
アに当てはまる語句:
表は、企業の特定の時点における資産、負債、純資産の状態を示しており、左右の合計額が一致(バランス)します。これは「貸借対照表(バランスシート)」です。したがって、アはaの「バランスシート」です。「損益計算書」は一定期間の収益と費用から利益を計算するものです。
イに当てはまる数値:
自己資本比率は、総資産に占める自己資本(純資産)の割合です。
計算式: 自己資本(純資産) ÷ 総資産 × 100
・自己資本(純資産) = 資本金(4億円) + 利益剰余金(2億円) = 6億円
・総資産 = 現金(6億円) + 建物(6億円) = 12億円
・自己資本比率 = 6億円 ÷ 12億円 × 100 = 0.5 × 100 = 50 (%)
よって、イはdの「50」です。
したがって、アがa、イがdの組合せである②が正解です。
問3:正解④
<問題要旨>
経済学における財・サービスを、その性質である「競合性」と「排除性」の有無によって4つに分類する問題です。それぞれの性質と具体例を正しく結びつける必要があります。
・競合性:ある人が消費すると、他の人の消費量が減ってしまう性質。
・排除性:お金を払わない人を、その財・サービスの消費から排除できる性質。
<選択肢>
・ア(競合性あり、排除性なし):これは「共有資源」と呼ばれるものです。例として「渋滞している無料の一般道路」が挙げられます。無料なので誰も排除されませんが(排除性なし)、多くの人が利用すると渋滞し、他の人の便益が損なわれます(競合性あり)。よってアはbです。
・イ(競合性なし、排除性あり):これは「クラブ財(料金財)」と呼ばれるものです。例として「有料で確実に視聴できる動画配信サービス」が挙げられます。料金を払わないと見られませんが(排除性あり)、一人が視聴しても他の人が視聴できなくなるわけではありません(競合性なし)。よってイはcです。
・ウ(競合性も排除性もない):これは「公共財」と呼ばれるものです。例として「国防」が挙げられます。料金を払わなくても国民全員がその利益を受け(排除性なし)、一人が守られても他の人の利益が減るわけではありません(競合性なし)。よってウはaです。
したがって、アがb、イがc、ウがaの組合せである④が正解です。
問4:正解③
<問題要旨>
外国為替相場の変動(円安・円高)が、外貨と日本円の両替にどのような影響を与えるかを計算する問題です。円安・円高の概念を正確に理解しているかが鍵となります。
<選択肢>
為替レートの計算:
・支払い時(プログラム参加時)のレート:
600,000円 ÷ 5,000米ドル = 120円/米ドル
・返金時(プログラム修了時)のレート:
700,000円 ÷ 5,000米ドル = 140円/米ドル
ア(為替レートの変動幅)の計算:
レートは1ドル120円から140円に変動しました。
変動幅 = 140円 – 120円 = 20円
よって、アはbの「20」です。
イ(為替変動の方向)の判断:
1ドルを手に入れるのに必要な円の額が、120円から140円に増えました。これは、ドルの価値が上がり、相対的に円の価値が下がったことを意味します。このような状況を「円安(ドル高)」と言います。
よって、イはeの「円安」です。
したがって、アがb (20)、イがe (円安)の組合せである③が正解です。
問5:正解⑥
<問題要旨>
日本の中小企業基本法とその改正の経緯、および日本経済における中小企業の現状に関する正誤を判断する問題です。
<選択肢>
ア【誤】
1963年に制定された当初の中小企業基本法(旧法)の主な目的は、中小企業と大企業の間の生産性や賃金などの「格差是正」でした。その後、1999年の全面改正(新法)により、多様で活力ある中小企業の独立した事業活動を促進するという観点から、「起業の促進」や経営革新の支援などが中心的な目的となりました。記述は、制定当初と改正後の目的が逆になっています。
イ【正】
日本の経済において、中小企業は企業数ベースで全体の99%以上、従業員数ベースでも約7割を占めています。したがって、企業数、従業員数のいずれにおいても、大企業を大きく上回っており、日本経済の基盤を支える重要な存在です。この記述は正しいです。
ウ【正】
消費者のニーズが多様化し、大量生産・大量消費の時代から多品種少量生産の時代へと移り変わる中で、大企業では対応しきれない専門的で小規模な市場(ニッチ市場、隙間産業)が生まれています。独自の技術やアイデアを持つ多くの中小企業が、こうしたニッチ市場で活躍しています。この記述は正しいです。
したがって、正しい記述の組合せであるイとウを含む⑥が正解です。
問6:正解③
<問題要旨>
経済学の基本的な概念である「機会費用」について、具体的な事例をもとに計算する問題です。機会費用の定義を正確に理解することが重要です。
<選択肢>
機会費用とは、「ある選択をしたことによって、選ぶことができなかった他の選択肢のうち、最も価値の高いもの」を指します。
この問題において、Xは「ボランティア活動に従事する」という選択をしました。
この選択のために諦めた(選べなかった)選択肢は、以下の二つです。
・アルバイトJ:8,000円の給与
・アルバイトK:12,000円の給与
この諦めた選択肢の中で、最も価値が高いのは「アルバイトKに従事して12,000円の給与を得ること」です。
したがって、Xがボランティア活動に従事することの機会費用は、12,000円となります。
よって、③が正解です。
第7回
問1:正解①
<問題要旨>
日本の労働市場における女性や高齢者の就労状況と、それに関連する政策や法律についての知識を問う問題です。
<選択肢>
アに当てはまる語句:
日本の女性の年齢階級別労働力率グラフは、結婚・出産期にあたる30代で労働力率が一旦低下し、子育てが一段落する40代以降に再び上昇するという特徴的な形を描きます。この谷のある形がアルファベットの「M」に似ていることから、「M字型カーブ」と呼ばれています。近年、この谷は浅くなる傾向にあります。したがって、アは「M字型」です。
イに当てはまる語句:
高齢者の就労を促進するため、企業に対して、希望する労働者を65歳まで雇用することを義務付けたり、70歳までの就業機会の確保を努力義務としたりする法律は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)です。会話文の内容は、この法律の改正によるものです。したがって、イは「高年齢者雇用安定法」です。
以上のことから、アが「M字型」、イが「高年齢者雇用安定法」となる①が正解です。
問2:正解④
<問題要旨>
日本の出生数と合計特殊出生率の推移を示したグラフを読み取り、その内容に関する記述の正誤を判断する問題です。グラフから数値を正確に読み解く能力と、関連用語の知識が求められます。
<選択肢>
①【正】
グラフから、1949年の出生数は約270万人(2,696,638人)、2020年の出生数は約84万人(840,835人)と読み取れます。270万人は84万人の3倍以上(84×3=252)であるため、この記述は正しいです。
②【正】
グラフを見ると、1947~49年の第1次ベビーブーム、1971~74年の第2次ベビーブームでは、出生数が突出して増加しています。しかし、それ以降、同様の顕著な出生数の増加は見られません。したがって、第3次ベビーブームと呼べる現象はなかったと言え、この記述は正しいです。
③【正】
グラフを見ると、2005年から2015年にかけて、合計特殊出生率(折れ線グラフ)は底を打って上昇に転じています。一方で、出生数(棒グラフ)は減少し続けていることがわかります。この記述はグラフの示す事実と合致しており、正しいです。
④【誤】
合計特殊出生率が、長期的に人口を維持できる水準(人口置換水準)は、一般的に「2.07」程度とされています。グラフを見ると、1980年の合計特殊出生率は約1.75であり、2.07を大きく下回っています。したがって、「人口水準を安定的に維持する値を上回っている」という記述は誤りです。
問3:正解②
<問題要旨>
過疎・高齢化が進む地域(限界集落)の状況を示す表を読み解き、地域活性化の取組みに関する用語を答える問題です。
<選択肢>
アに当てはまる語句:
限界集落の問題の深刻さを比較します。Yの説明によれば、「農業用水路の保全率」は共同生活維持の困難さを示す指標であり、この率が低いほど問題が深刻であると解釈できます。表を見ると、2020年時点で農業用水路の保全率が低いのは、地域K(91.7%)よりも地域J(60.0%)です。また、人口増減率を見ても地域Jの減少幅の方が大きくなっています。したがって、限界集落の問題がより深刻なのは「地域J」です。
イに当てはまる語句:
会話文で説明されている「農作物の生産(1次産業)だけでなく、農作物の製品への加工(2次産業)や製品の流通・販売(3次産業)などと一体化させて付加価値を高める」取組みは、「六次産業化」と呼ばれます(1次×2次×3次=6次、という考え方に基づきます)。これは、農山漁村の活性化策として推進されています。「転作」は、水田で米以外の作物を栽培することであり、意味が異なります。
したがって、アが「地域J」、イが「六次産業化」となる②が正解です。
問4:正解⑤
<問題要旨>
日本の少子高齢化、人口動態、社会保障給付費に関する複数の資料を統合的に解釈し、発表原稿の空欄を補充する問題です。用語の定義と資料の数値を正確に結びつける能力が求められます。
<選択肢>
ア(「高齢社会」になった年):
・高齢化率 7%超 → 高齢化社会
・高齢化率 14%超 → 高齢社会
・高齢化率 21%超 → 超高齢社会
資料1の表を見ると、日本の高齢化率は1995年に14.6%となり、初めて14%を超えています。したがって、日本が「高齢社会」に移行したのは「1995年」です。
イ(「人口減少社会」に移行した時期):
発表原稿の定義によれば、「人口減少社会」とは死亡者数が出生者数を上回る状態です。資料1の表で出生者数と死亡者数を比較すると、2005年に初めて死亡者数(108.4万人)が出生者数(106.3万人)を上回っています。したがって、人口減少社会に移行したのは「2000年代」です。
ウ(高齢者関係給付費を示すグラフ):
日本の社会保障給付費は、年金・医療・介護といった高齢者向けの支出が大部分を占めており、その総額は児童手当などの児童・家族関係給付費よりもはるかに大きいです。資料2のグラフを見ると、図aは縦軸の単位が大きく(兆円)、実際の給付費も1990年で約30兆円と非常に高額です。一方、図bは額が小さいです。したがって、高齢者関係給付費を示しているのは、額の大きい「図a」です。
以上のことから、アが「1995年」、イが「2000年代」、ウが「図a」となる⑤が正解です。