解答
解説
第1問
問1:正解2
<問題要旨>
下線部(a)では「自分の考えを真理だと主張する相手」に対して、高校生同士がどのように向き合うかをめぐって議論しています。その流れから、「宗教や思想家による真理の捉え方」を比較し、最も適切な説明を選ぶ問題です。ソクラテスやイスラーム、中世ヨーロッパのスコラ哲学、ブッダなど、それぞれの“真理”に対する姿勢を示す選択肢が提示されています。
<選択肢>
①【誤】
ソクラテスは「自分があらかじめ持っている真理を、対話相手に一方的に教え込むために産婆術を用いた」という内容になっており、ソクラテスの対話法の本質とずれがあります。実際のソクラテスは、相手自身の考えを引き出す対話(産婆術)を重視し、自分の真理を教え込むというよりは「無知の知」を前提として、相手との問答から真理を探究しようとしました。したがって、ここで述べられるソクラテス観は不適切です。
②【正】
イスラームでは、ムハンマドが神の言葉を啓示された預言者であり、その言葉や行動が信者の生活規範となっています。実際にクルアーンやハディースがイスラーム信仰における重要な源となるため、ここで述べられている内容は、イスラームの基本的な真理観に符合すると考えられます。
③【誤】
中世ヨーロッパのスコラ哲学者(たとえばトマス・アクィナスやドゥンス・スコトゥス)は、神学と哲学を相互に関連づけながら真理を論じましたが、多くの場合「信仰に基づく神学の真理のほうが哲学の真理に優越する」という立場がとられました。ここでは「神学が哲学に付されるべきで、哲学の真理が神学の真理を超える」といった趣旨なので、史実と逆の関係を述べており不適切です。
④【誤】
ブッダは「生まれつきの身分で異なる義務を全うすれば真理を体得できる」とは説きません。むしろ、身分制を否定し、誰しもが修行(戒・定・慧)によって悟りを開きうると説いたため、「身分ごとに課せられた義務によって真理を得る」というのは仏教思想とかけ離れています。
問2:正解1
<問題要旨>
下線部(b)では「人間の生き方」をめぐる複数の宗教・思想家の考え方が挙げられています。ここではアリストテレスやパウロ、イエス、仏教思想などに言及し、それぞれが説く“徳”や“善行”を要約した上で、もっとも適当な説明を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正】
アリストテレスの倫理学では、知性的徳のうち実践的な徳が「フロネーシス(思慮)」と呼ばれます。これによって、感情や行為の過不足を避け、中庸をわきまえた行動をとることが人間の徳だと説かれます。選択肢の内容も「知性的徳の中でも実践的な徳を働かせて、適切に行動すべき」という主旨であり、アリストテレスの思想と合致します。
②【誤】
パウロは各地で宣教を行い、「信仰・希望・愛」をキリスト教の三元徳(神学的徳)として説いたとされますが、ここでは「信仰・正義・愛」としているなど、史実とは異なる組み合わせです。また、単に“正義”という語をキリスト教神学的徳に挙げるのは不正確です。
③【誤】
イエスの言葉「神の国はあなたがたの中にある」という主張と「黄金律(ゴールデン・ルール)」は関連はあっても全く同一とはみなされません。さらに、J.S.ミルの功利主義倫理とイエスの教えを直接同一視するような説明にも飛躍があり、正しい説明とはいえません。
④【誤】
大乗仏教には、苦しんでいる人を救済する利他行(菩薩行)が強調される面がありますが、「苦しみに耐え忍ぶ実践としての忍辱を重視し、他者の修行も妨げないようにする」という点だけをピックアップした内容はやや一面的です。特にここでは「苦しむ人を助ける義務」を強調しすぎた表現になっており、仏教の基本教義と完全に一致するとは言いがたいです。
問3:正解1
<問題要旨>
マルクス・アウレリウス(ストア派の哲学者でありローマ皇帝)の『自省録』を資料として、Bが「議論することで相手を傷つけたくない」「不快な思いをしたくない」という理由で議論を避ける状況が描かれています。それに対するAの「ストア哲学の考え方」に基づく応答が、選択肢(a)・(b)にどのように組み合わさるかを問う問題です。
<選択肢>
(※選択肢は a・b の組合せで①~④が提示されている想定)
①【正】
(a)「真理を見ようとせず、無知にとどまる者を受けかねない」
(b)「喜怒哀楽の情念に惑わされない人間が賢者である」
――といった主旨がストア哲学の基本に近い内容になります。ストア派は「理性に基づく生き方」を重視し、自分の誤りを示されたら喜んで修正すべきである、とマルクス・アウレリウスも説いていました。
②【誤】
(a)「真理を見ようとせず、無知にとどまる者を受けかねない」
(b)「人間は情念をありのままに受け入れ、感動されないようにすべき」
――などの組み合わせは、ストア派の「情念制御」を正しく表しきれていません。
③【誤】
「無益な議論を避けることで、自分にとっての真理に対して誠実だった」など、誤ったニュアンスが含まれている組合せです。ストア派は、むやみに議論を避けるのではなく、理性に従って真理を追求する姿勢が求められます。
④【誤】
「無益な議論を避けることで、自分にとっての真理に誠実だった」とする点、また「人間は理性によって情念を従わせ、幸福になることができる」という組み合わせはストア的要素を含むものの、前提となる(a)・(b)の内容に齟齬があるため誤りと考えられます。
問4:正解3
<問題要旨>
老子の『老子』(資料1)と旧約聖書『ヨブ記』(資料2)の引用をもとに、AとB、そして先生が「沈黙」や「言葉に依らない教えの意義」をめぐって対話をする場面です。両資料に通底する「言葉を越えた真理の探究」や「人間にとっての有限性」を踏まえ、最も適切に読み取った解釈を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
両資料がただ「黙っていることの大切さ」だけを説いていると捉えるのは不十分です。老子では「無為自然」や相対的な概念を超えるあり方が説かれ、『ヨブ記』では人間の限界を踏まえて神と対峙する姿が描かれますが、それを一面的に「沈黙すれば良い」とまとめるのは誤りです。
②【誤】
老子の言う「聖人は言葉に依らない教えを行う」という部分を、文明や道徳を全面的に否定するものと見るのは極端です。一方で『ヨブ記』も「神を問いかけたヨブが全て間違いだった」という単純なオチではなく、苦難を経て自省する物語であり、この選択肢は要点を捉えきれていません。
③【正】
老子の「相対する概念(有と無、善と悪など)は互いに依存しあう」という考え方や、『ヨブ記』で示される「人間の有限性と神の全能性の対比」を踏まえ、「安易に言葉で論じ合う前に沈黙して省みる」という姿勢が両者に共通すると読みとる解釈は妥当です。対話の中でも「相対的な概念を超える教え」や「自身の小ささを痛感する沈黙」の重要性が示されています。
④【誤】
「旧約聖書の契約論やユダヤ教の律法(トーラー)こそが老子の言う無為自然と完全に一致する」というような誤読は成り立ちません。『ヨブ記』は苦難に直面する人間と神との関係を描いていますが、それを老子の相対的概念論と同列に並べ過ぎるのは根拠薄弱です。
第2問
問5:正解5
<問題要旨>
下線部(ア)(イ)(ウ)に関連して、聖徳太子の「憲法十七条」に示された言葉をどのように解釈すべきかが問われています。選択肢では、(ア)「和をもって貴しとなす」、(イ)「篤く三宝を敬え」、(ウ)「ともにこれ凡夫のみ」という文言についての説明が正しいか誤りかを、組合せ①~⑥の中から判断する問題です。
<選択肢>
①ア正 イ正 ウ誤
(理由)アの「和をもって貴しとなす」を「仏教に出家してこそ共同体の調和が実現される」という趣旨に読み替えているならば、原意とは異なる可能性がありますが、ここでは「ア=正」と扱っているため、不適切な組合せです。またイとウも含めて、最終的に三つの正誤が全て一致しません。
②ア正 イ誤 ウ正
(理由)イの「篤く三宝を敬え」は、仏・法・僧を尊重するよう説く条文として知られているため、基本的な解釈としては正しいと考えられます。この選択肢ではイを誤としているので不適切です。
③ア正 イ誤 ウ誤
(理由)アは正とされている一方、イが誤とされているため、「篤く三宝を敬え」の解釈を否定してしまい、史実と合いません。
④ア誤 イ正 ウ正
(理由)アを誤としイを正とする点は一定の根拠がありますが、ウを正としているのが問題です。「ともにこれ凡夫のみ」は「欲望にとらわれた存在だから他者の意見は無意味」という解釈にはならないため、ウを正とするのは不適切です。
⑤ア誤 イ正 ウ誤
(理由)
- ア:「和をもって貴しとなす」は“社会全体の調和”を重んじる趣旨であり、「人々が出家して仏教の真理を体得することによって調和を実現する」と限定的に説明するのは誤りとみなせます。
- イ:「篤く三宝を敬え」は、仏・法・僧の三宝を尊ぶよう説いた条文であり、その意味づけとしては正しいといえます。
- ウ:「ともにこれ凡夫のみ」を「誰もが欲望にとらわれた存在だから他者の意見を求める必要がない」というように解してしまうのは誤りです。本来は「人は皆迷いや不足を抱えた凡夫なのだから、驕らずに協力せよ」という趣旨と解釈するほうが妥当です。
したがってア誤・イ正・ウ誤の組合せが正しく、本選択肢⑤が適切です。
⑥ア誤 イ誤 ウ正
(理由)ウを正とする点が、すでに上記の理由から不適切です。アとイの誤正の組合せとも整合しません。
問6:正解3
<問題要旨>
下線部(6)に関連して、本居宣長が説いた「真心(まごころ)」の働きを、CとDが身近な事例に照らして話し合う場面です。本居宣長の思想では、人間が理屈や打算よりも、自分の内面に素直に向き合う“真の誠”を重視する傾向があり、その解釈をもとに最も適切な説明を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「借りた本を返さない人がいる」という事例に対して、正しい行いをすれば世の中は万事うまくいくという“道理”の遵守が強調されています。これは徳や道義の意識に基づく説明であり、本居宣長の「真心」とはやや趣旨が異なります。
②【誤】
「いつも腹を立てている人がいる」という例から、感情を極力抑えるべきと論じるような内容であれば、むしろ気持ちを制御しようとする立場に寄っています。本居宣長は“真心”として、人間の内なる感情を素直に認めることを重んじるため、抑圧的な説明だとずれが生じます。
③【正】
「あえて感情を抑えて理知的に振る舞おうとする人もいるが、悲しいときは泣き、嬉しいときは喜ぶ」ことを大切にする、という主旨は、本居宣長の説く“真心”に近い考え方です。人の本来の姿として、自然な感情表現を否定せずに受けとめることを強調する点が「真心」の要点と合致します。
④【誤】
「一時の感情に流されるのは愚かだ」として理詰めや説明で相互理解を図る、というのは本居宣長の“真心”の立場からすると、むしろ理性を優先しすぎて人間本来の感情を素直に認めない可能性があります。ここでは“真心”というより、礼儀や合理的態度を重んじる視点に近いといえます。
問7:正解4
<問題要旨>
下線部(c)に関連して、近代の日本で「理想と現実の間で葛藤した思想家」が複数登場し、それぞれがどのような立場・活動を行ったのかを問う問題です。選択肢では(ア)と(イ)の内容が提示され、それが誰のことを指すのか組合せを選ぶ形式になっています。
<選択肢>
ア「キリスト教的人道主義の立場から、近代化の進展に伴い発生した社会問題に心を痛め、競争や階級のない平等な社会の実現を目指した。」
イ「現実的な政治の世界に理想の実現を求めた後に、文学の世界に身を投じ、自己の内面生命の要求を実現することを求めた。」
①ア=石川啄木 イ=安部磯雄
【誤】石川啄木は社会問題に関心をもった面があるものの、キリスト教的人道主義の立場から平等社会をめざした人物として知られているわけではありません。一方の安部磯雄はキリスト教社会主義の潮流で活動した人物ですが、ここではイにあてているため不適切です。
②ア=石川啄木 イ=北村透谷
【誤】石川啄木がキリスト教的人道主義を旗印に社会改革を追究したわけではなく、北村透谷は確かに自己の内面や精神性を重視したが、選択肢アとイが誤配置になります。
③ア=安部磯雄 イ=石川啄木
【誤】安部磯雄がアに該当するのは正しいが、イが石川啄木かどうかが問題です。石川啄木は文学で自己の内面表現を試みましたが、必ずしも「政治の世界に理想の実現を求めた後に、文学へ」という人生経歴とは合致しません。
④ア=安部磯雄 イ=北村透谷
【正】安部磯雄はキリスト教的精神や社会主義の立場から社会改良を目指した人物として知られます。一方、北村透谷は浪漫主義の立場から内面的世界にこそ人間の本質を求める活動を展開し、文学を通じて自己の精神を深めようとしました。選択肢アとイの説明に合致する組合せとして妥当です。
⑤ア=北村透谷 イ=石川啄木
【誤】北村透谷をキリスト教的人道主義に結びつけるのは誤りです。石川啄木が「政治の世界で理想を追求した後に文学へ」という経歴とも異なるため不適切です。
⑥ア=北村透谷 イ=安部磯雄
【誤】安部磯雄をイにあてるのは不適切であり、北村透谷をアとするのも誤りです。
問8:正解4
<問題要旨>
下線部(a)に関連して、阿部次郎『三太郎の日記』の一節が示すように、「理想」が単に現実から離れた抽象的なものではなく、むしろ現実を高め導く力として機能するという考え方が解説されています。CとDが「理想は現実を浄化し、一歩ずつ向上させる原動力になる」といった趣旨の対話を行い、最も適切な説明を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「今ある現実を無条件に肯定することで、日常の苦しみを解消してくれる」とするのは、理想が現実を批判的に乗り越えようとする力である点を見落としており、不十分な解釈です。
②【誤】
「いつでも現実と軌を一にして、今ある現実を全面的に保証してくれる」というのは、理想と現実が常に同一視できるわけではないため、理想が“現実を超えて更新しようとする”という要点を捉えていません。
③【誤】
「現実のありようを一方的に否定して、現実そのものを消し去ろうとする」というのは、阿部次郎の言う“理想”の性格とは異なります。理想は存在そのものを否定するのではなく、現実と共に歩みながら一段高める方向に働くものです。
④【正】
「現実と理想の隔たりを浮かび上がらせ、現実を向上させる原動力となる」とするのは、阿部次郎の引用文にある「理想が常に現実を一歩一歩浄化していく」趣旨を的確に言い表しています。理想は何かを絶対に否定して消し去るのでなく、存在を更新していく力として理解されます。
第3問
問9:正解4
<問題要旨>
下線部(a)では「魔女狩り」のように、多数の人々が疑いや不安を外部へ投影し、ある集団や人物を一方的に攻撃・迫害してしまう事例が語られています。選択肢①~④はいずれも「多くの人々が何らかの不安・不満を特定の対象に向けてしまう」ようなケースを挙げていますが、その中で“道当て”として不適切な(=この文脈に当てはめづらい)ものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「眼前の困難の責任を特定の集団にあると決め付け、攻撃してしまう」──これは典型的に“スケープゴート”化によって迫害が生じる状況を示しています。魔女狩りと構造的に類似するといえます。
②【誤】
「思想や信条の異なる人を『自分たちとは異なる存在』と捉え、迫害することで自分たちの正しさを信じ込もうとする」──これも多数派による少数派への理不尽な弾圧の例であり、魔女狩りと類似の発想です。
③【誤】
「権力者が社会の不満をかわす意図で敵役を立て、住民がその言うままに不満の原因を思い込み、糾弾する」──権力者主導のスケープゴート化により多くの人々が乗せられる事例で、魔女狩りによく見られる構図の一つといえます。
④【正】
「漠然とした不安を“自分なら解消できる”と主張する人物が現れ、多くの人々がその主張の根拠を十分に確かめないまま熱狂的に支持する」──これは“魔女狩り”のように特定の対象に不信・攻撃を向ける構図というよりも、“救済者”を無批判に崇め立てるケースです。攻撃の矛先が誰かに集中するわけではなく、カリスマ的存在への盲目的支持に近い現象なので、「魔女狩り的な迫害行動」を説明する例としては当てはまりにくく、この選択肢④が「適当でない」事例となります。
問10:正解4
<問題要旨>
下線部(a)では「白紙(タブラ・ラサ)」という比喩を紹介し、人間の心が先天的な観念をもたず、経験によって知識が形成されるという考え方を説明しています。ヨーロッパ近代の経験論哲学において、“白紙”という表現はイギリスのロックによる「生得観念否定」の例えとして有名であり、どの選択肢が最もロックを正確に表しているかを問う問題です。
<選択肢>
①【誤】
「ヒュームだね。彼は自我などは習慣で作り出した虚構にすぎないと主張した」──ヒュームの懐疑論的な立場を示す記述で、タブラ・ラサよりも“自我の非実体”などを論じた点が特徴です。白紙論の直接の提唱者としてはロックとは異なります。
②【誤】
「ロックだね。彼は、生まれながらにして人間に具わっている観念から、経験を通じて知識が導き出されるとした」──“生まれながらにして具わっている観念”という表現は、ロックの立場とはむしろ反対です。ロックは生得観念の否定で知られます。
③【誤】
「ヒュームだね。彼は、存在すると知覚されることであるとし、物質世界が実在することを否定した」──この説明はジョージ・バークリーの主張に近い(あるいはヒュームが更に懐疑的に踏み込む)点はあれど、タブラ・ラサの発想とはずれています。
④【正】
「ロックだね。彼は、先天的な観念というものはなく、経験によって知識が生まれると主張した」──ロックのタブラ・ラサ論を正しく言い表しており、白紙のたとえに相当します。
問11:正解2
<問題要旨>
下線部(ア)(イ)では、ヘーゲルの弁証法についての説明が示されています。ヘーゲル哲学における弁証法は「正(テーゼ)」と「反(アンチテーゼ)」の対立を統合し、より高次の段階へ「止揚(アウフヘーベン)」する動きとして理解されます。ここでは(ア)と(イ)の記述の正誤を判定する問題です。
<選択肢>
①ア正 イ正
【誤】イの説明が誤っている可能性があるため、この組合せは不適切です。
②ア正 イ誤
【正】
- (ア)「弁証法は精神が自由を実現する過程を貫く論理であり、自己と対立を内に含みながら高次へと進む運動でもある」はヘーゲルの弁証法を大筋で正しく説明しています。
- (イ)「止揚は、2つのうちより真理に近い方を残し、他方を廃棄して矛盾を解消すること」としているならば、ヘーゲルのいう止揚の意味(否定+保持+高次への発展)を十分に表していません。単なる一方的な廃棄ではなく、対立項の真理部分をも含んで高めるのが止揚なので、この記述は誤りと考えられます。
③ア誤 イ正
【誤】アが誤りでイが正しいとは言い難いため、不適切です。
④ア誤 イ誤
【誤】アが誤りとする点に根拠はなく、両方誤りにするのも不適切です。
問12:正解2
<問題要旨>
レポート文中の下線部(a)・(b)に、考えることをやめてしまう「思考停止」に陥らないようにするためのヒントが示されています。ここでは「人が知識を借り物のままにせず、自分自身で問い直すことの大切さ」「日常にある出来事が思考を深めるきっかけになる」といった要素を正しく組み合わせる選択肢を選ぶ問題です。
<選択肢>
① a=「熟慮する力が養われていない」
b=「思考は日常を生きる自分自身の中において深まる…」
【誤】
a・bの内容が問題文のレポート趣旨と比べると食い違いがあります。
② a=「物事を批判的に捉え返すために必要な思考の材料が不足している」
b=「日々の暮らしの中で経験されるさまざまな事柄が、自分自身の思考を深めるきっかけになり得る」
【正】
- aでは「思考停止状態に陥る要因」として、批判的思考に必要な“材料”が不足していたり、思考のきっかけを得られていなかったりする点が示唆されます。
- bでは「思考を深める具体的なきっかけ」として、日常の些細な出来事が引っ掛かりとなり、それを問い直すことで思考を進める重要性が語られます。レポート文中の趣旨に合致します。
③ a=「熟慮する力が養われておらず…」
b=「何かが心に引っ掛かったとき…」
【誤】
aが“熟慮する力が足りない”という単純な表現だけではレポート文の文脈と異なる可能性が高く、bの説明も十分ではありません。
④ a=「物事を批判的に捉え返すために必要な思考が不足している」
b=「思考を進め、考えを深めていくためには、日々の小さな出来事に引っ掛かりを覚えたとしても、それに囚われるべきではない」
【誤】
bの方で「引っ掛かりを覚えても囚われるべきではない」というのは、レポートの趣旨(心に引っ掛かったことこそ思考の出発点になる)とは逆方向です。したがって不適切です。
第4問
問13:正解5
<問題要旨>
下線部③に関連して、「未来世代に対する責任」を説いた思想家の論点が取り上げられています。Kが授業の前夜にまとめたメモの中に、(a) と (b) に入る記述をどの組合せが最適かを問う問題です。ヨナスやラッセル、アインシュタイン、ハーディンらの名前が挙がり、人類の未来・環境保護・社会的責任などのキーワードを背景に、いずれの論が(a)や(b)に該当するかを見極める設問です。
<選択肢>
① a=国連人間環境会議で「持続可能な開発」が提唱された
b=遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある
【誤】
(a)は1972年の国連人間環境会議(ストックホルム会議)に由来する内容であり、ヨナスの思想と直接関係付けるにはやや不十分です。(b)は未来の人の被害を強調しており一見合いそうですが、セットとして適切とは言い難いです。
② a=遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある
b=未来の人を援けることは、見返りのない義務なのだ
【誤】
(a)で「遠い将来の人が被害を受ける可能性」を示す点はヨナスの議論に近いものの、(b)の「見返りのない義務」との組合せとして提示されている他選択肢の内容と照らし合わせると、ヨナスの視点(科学技術の危険性・未来世代への責任など)と完全一致しません。
③ a=国連人間環境会議で「持続可能な開発」が提唱された
b=未来の人を援けることは、見返りのない義務なのだ
【誤】
(a)は国際的な動きであって、ヨナス個人の哲学的背景を説明するものではありません。仮にヨナスにも環境・未来世代への関心があるとしても、国連会議のトピックを(a)に据えるのは根拠が薄いです。また(b)も、この選択肢の組合せ全体としては不整合が生じます。
④ a=ハーディンが地球を宇宙船という閉ざされた環境に喩えた
b=遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある
【誤】
ハーディンが唱えた「宇宙船地球号」や「共有地の悲劇」などは、資源の有限性を前提とした倫理的警鐘ですが、ここでヨナスの論考を支える根拠として描写するのは適切ではありません。
⑤ a=ラッセルとアインシュタインが核兵器の廃絶を主張した
b=遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある
【正】
- (a)はラッセルとアインシュタインによる「ラッセル=アインシュタイン宣言」(1955年)を念頭に置いている可能性が高いです。これは人類存続の問題を核兵器による破壊リスクから強く訴えたものともいえ、ヨナスの「技術の進歩が人類破滅を招きうる」という論点と合致します。
- (b)では「未来の人も現代の行為から被害を受ける可能性」を述べており、ヨナスの提唱する「未来世代へ配慮せよ」という道徳的責任論と関連します。
よってこの組合せ⑤が最も適当です。
⑥ a=ラッセルとアインシュタインが核兵器の廃絶を主張した
b=未来の人を援けることは、見返りのない義務なのだ
【誤】
(b)が「見返りのない義務」を示す表現で、ここでは“被害を受ける可能性”に直接触れていません。ヨナスの強調点は、具体的に「未来への被害」や「技術の危険性」を意識する点が重要なので、(b)としては不十分です。
問14:正解2
<問題要旨>
下線部(b)に関して、先生が現代社会における「情報に関わる問題」を取り上げ、デジタル・デバイド(情報格差)の具体例を生徒に問う場面です。選択肢①~④のうち、もっとも典型的かつ適切な事例を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「本人の同意なく個人情報が書き込まれ、それが容易に削除されない」ことは個人情報保護の問題として重要ですが、これはデジタル・デバイドというより“プライバシー侵害”や“ネット上の個人情報流出”の問題です。
②【正】
「インターネットに接続しにくい地域に住んでいるため、教育や就職の機会において不利になっている人がいる」──これはデジタル・デバイド(情報格差)の典型的な事例です。インフラや経済的環境の違いでネット利用が困難な層が生まれる現象を端的に表しています。
③【誤】
「考えを共有する人同士が結び付き、意見が違う人を排除する」ことは“フィルターバブル”や“エコーチェンバー”の問題に近く、デジタル・デバイドとは趣旨が異なります。
④【誤】
「企業・報道機関・政府などが情報を隠したり誤情報を流して、情報の受け手が対応を難しくする」ことは“情報操作”や“プロパガンダ”の問題に近く、デジタル・デバイドそのものとは異なります。
問15:正解1
<問題要旨>
下線部(c)に関して「子どもの発達や養育」について、エリクソンなど発達心理学の知見に照らして最も適切な説明を選ぶ問題です。ここでは少年期・青年期・家族機能などがキーワードとなり、子どもの成長に伴う心理的課題を意識して正解を判断します。
<選択肢>
①【正】
「子育てや教育が、家族よりもむしろ保育所や学校などの組織に担われるようになることは、家族機能の外部化と呼ばれる現象の一例である」──これは社会学的にも確認される現代の傾向であり、正しい説明といえます。
②【誤】
「青年期において、大人の集団にも子どもの集団にも属さない不安定な状態を『レヴィンは脱中心化』と呼んだ」とあるが、レヴィンが示した「マージナル・マン」などの概念を混同し、用語としての正しさを欠きます。
③【誤】
「子どもが親や大人の権限や保護に対して反発する時期の一つとして、7~8歳の頃の第二次反抗期が挙げられる」──第二次反抗期は一般的に思春期(中学生前後)ごろを指すことが多いので、この記述は誤りです。
④【誤】
「青年期において達成すべき発達課題の一つとして、エリクソンは周りの世界や自分自身を信じるという基本的信頼の獲得を挙げた」──“基本的信頼”の獲得は乳児期が達成すべき発達課題であり、青年期ではアイデンティティの確立などが注目されます。
問16:正解3
<問題要旨>
下線部(d)に関連し、資料として示される「ある小説に描かれた社会の概要」をもとに、JとKが授業で扱われた資料について語る場面です。そこでは「子どもが生まれなくなった社会」という設定から、人類の存続や文明の維持・価値観の崩壊などに言及しています。問題では(a)(b)の部分にあてはまる記述の組合せが問われます。
<選択肢>
① a=未来世代の人の利益は現代世代の人の利益よりも重要なのだよ
b=私もKも、赤の他人のことを思いやるのは難しいと考えていたけれど…
【誤】
(a)で「未来世代の利益を最優先」と主張しすぎる内容になっており、会話文のニュアンスとはずれます。
② a=未来世代の人の利益は現代世代の人の利益よりも重要なのだよ
b=私は、自分たちの後を引き継ぐ人がいないなら…
【誤】
(a)の過度な未来優先主義が目立ち、作中の議論とは微妙に合致しません。
③ a=私たちの遺産を引き継いで幸せに生きる「子どもたち」やその子孫がいることは、私たちの人生にとってもやっぱり重要なんだよ
b=私もKも、未来の人々にとって何がよいのかなんて分からないと言っていたけど、将来のためにできることを真剣に探っていかないとね
【正】
- (a)では「自分たちの遺産(知識や文化など)を受け継いでいく世代がいることが、自分たち自身の人生を意味あるものにする」という考え方が表明され、作中の会話文と整合します。
- (b)も「未来の人のためにできること」を探る姿勢を示す内容で、JやKの会話の流れと合っています。
④ a=私たちの遺産を引き継いで幸せに生きる「子どもたち」やその子孫がいることは、私たちの人生にとってもやっぱり重要なんだよ
b=私は、未来世代に責任を果たすこととは全くの自己犠牲だと思っていたんだけれど…
【誤】
(b)の「自己犠牲」観が会話の文脈とずれがあり、内容としても十分に繋がらないため、この組合せは不適切です。
第5問
問17:正解8
<問題要旨>
下線部(②)に関連して、日本国憲法が保障している地方自治について生徒Yがまとめた文中で、空所ア・イ・ウに当てはまる概念の組合せを問う問題です。地方自治の本旨は「団体自治」と「住民自治」の二つの原理で成り立ち、国と地方の権限関係は「地方分権」が重視されています。また、住民の意思に基づく地方政治は「民主主義」の具体的な一形態でもあるため、憲法上の根拠とともにこれらが関連づけられます。
<選択肢>
①ア=集権 イ=自由主義 ウ=住民自治
【誤】国と地方の関係を「集権」とするのは憲法の趣旨(地方分権)と逆であり、また住民自治は自由主義というより民主主義との親和性が指摘されます。
②ア=集権 イ=自由主義 ウ=団体自治
【誤】「集権」とする点に加え、ウが「団体自治」なのは地方自治の一側面ですが、イに自由主義を当てるのも不自然です。
③ア=集権 イ=民主主義 ウ=住民自治
【誤】アを「集権」とするのが憲法上の地方自治の本旨とは矛盾します。
④ア=集権 イ=民主主義 ウ=団体自治
【誤】アを「集権」とする時点で憲法の地方自治観と相容れません。
⑤ア=分権 イ=自由主義 ウ=住民自治
【誤】イを「自由主義」とするよりも「民主主義」と結びつけるほうが自然です。
⑥ア=分権 イ=自由主義 ウ=団体自治
【誤】こちらもイ=自由主義、ウ=団体自治という組合せが論点と合いにくいです。
⑦ア=分権 イ=民主主義 ウ=住民自治
【誤】イとウが住民自治・民主主義という点は整合的ですが、団体自治の要素がどこにも入っておらず、一部不十分です。
⑧ア=分権 イ=民主主義 ウ=団体自治
【正】
- 地方自治の本旨として、国からの一定の自立が「団体自治」、住民の意思に基づく政治が「住民自治」。
- 憲法92条などが保障する地方自治は「分権」と「民主主義」の発想が重視される。
- したがって、この組合せが最も自然な配置といえます。
問18:正解6
<問題要旨>
下線部(①)に関連して、生徒Yが政教分離原則に関する最高裁判例を調べたうえで、「津地鎮祭訴訟」「愛媛玉ぐし料訴訟」「空知太(そらちぶと)神社訴訟」に言及しています。提示されたア・イ・ウの判例事案が、いずれも「憲法が禁止する宗教的活動や公金支出にあたるのかどうか」という論点をめぐり最高裁で争われました。ここではア・イ・ウのうち、正しい判例内容を当てはめる問題です。
<選択肢>
(ア) 津地鎮祭訴訟の最高裁判決では、市が体育館の起工に際して神社神道固有の祭式にのっとり地鎮祭を行ったことは憲法が禁止する宗教的活動だった──とする記述
(イ) 愛媛玉ぐし料訴訟の最高裁判決では、県が神社に対して公金から玉ぐし料を支出したことは違憲の公金支出にあたるとされた──とする記述
(ウ) 空知太神社訴訟の最高裁判決では、市が神社に市有地を無償で使用させていたことが憲法の禁止する宗教団体への特権付与にあたる──とする記述
①ア【正】
【誤】実際には津地鎮祭訴訟で最高裁は「地鎮祭は社会的儀礼の範囲」と判断し、違憲ではないと結論づけました。
②イ【正】
【誤】イは正しいが、これを単独で選ぶかどうかの判断は組合せ次第。
③ウ【正】
【誤】ウは実際の判決で違憲と判断されましたが、単独かどうかが問題です。
④アとイ
【誤】アが誤りなのでこの組合せは不適切です。
⑤アとウ
【誤】アが誤りなので不適切です。
⑥イとウ
【正】
- 愛媛玉ぐし料訴訟(イ)は違憲判決が出たことが事実。
- 空知太神社訴訟(ウ)も市が特定の宗教団体に優遇措置をしていたとして違憲判決になりました。
よってイとウが正しく、アは誤りなので、この選択肢⑥が正解です。
⑦アとイとウ
【誤】アが誤りですから三つとも正しいというのは成立しません。
問19:正解2
<問題要旨>
下線部(③)をめぐり、生徒Yが日本の農業に関する法制度の変遷を調べた表を提示しています。年表には「1952年 農地法」「1961年 農業基本法」「1999年 食料・農業・農村基本法」などの改正や廃止の流れが書かれています。これらそれぞれの法律にどのような目的・内容があったのか(選択肢①~④)を当てはめる問題です。
<選択肢>
①農業と工業の生産性の格差を縮小するため、米作から畜産や果樹への農業生産の選択の拡大がめざされるようになった。
②国民生活の安定向上のため、食料の安定供給の確保や農業の多面的機能の発揮がめざされることになった。
③地主制の復活を防止するため、農地の所有・賃貸・販売に対して厳しい規制が設けられた。
④農地の有効利用を促進するため、一般法人による農地の賃貸借に対する規制が緩和された。
【正解2】
①は1961年に制定された「農業基本法」の内容に近く、「農業の近代化」や生産性格差の是正を目的としました。
②は1999年の「食料・農業・農村基本法」関連の趣旨に近く、食料自給率の向上や農業の多面的機能の確保が掲げられています。
③は戦後の農地改革の流れ(1952年の農地法)で地主制の制限を強化したことを示す内容。
④はその後の農地法改正(2009年など)で賃貸借の規制緩和を示す内容。
問題文の表記を踏まえてもっとも適切に当てはめると、②が該当箇所として正解になる(「食料・農業・農村基本法」の狙いに相当)と判断されます。
問20:正解3
<問題要旨>
下線部(④)について、生徒Xと生徒Yが「住宅宿泊事業法(民泊新法)」に関わる是非を議論しています。そこでは「規制強化か、規制緩和か」「住居専用地域で民泊をどう制限するか」「周辺住民の生活環境との兼ね合い」などが論点となっています。アとイに当てはまる言葉を選び、最適な組合せを問う問題です。
<選択肢>
①ア=規制強化 イ=住宅街において民泊事業を始めることを地方議会が条例で禁止する
【誤】Xが「利用者の選択肢が増える」ことを肯定しているため、“強化”の方向性は合わない様子です。
②ア=規制強化 イ=夜間の激しい騒音を改善するよう民泊事業者に行政が命令する
【誤】Xは宿泊業者に対して一定の規制は必要としつつも、規制強化一辺倒には反対の文脈があります。
③ア=規制緩和 イ=夜間の激しい騒音を改善するよう民泊事業者に行政が命令する
【正】
- アでは「民泊をたくさんできるようにするメリット」があるため「規制緩和」を支持する立場。
- イでは「周辺住民の迷惑」に対応するため、行政が適切な命令を下す措置(トラブル防止)も必要だ、という観点です。緩和しつつも、必要に応じた取り締まり・指導が行われるイメージと合致します。
④ア=規制緩和 イ=住宅街において民泊事業を始めることを地方議会が条例で禁止する
【誤】イが“禁止”に振れており、これは逆に規制強化に近い発想なので、アとの整合性がありません。
問21:正解1
<問題要旨>
下線部(⑤)について、生徒Xと生徒Yが「民泊」の解禁や利用に関する法律を調べ、「住宅宿泊事業法の内容」「契約や消費者保護の法規」「公法か私法か」などの話題に触れています。ここで会話文の空欄ア~ウに当てはまる用語を選び、最適な組合せを問う問題です。
<選択肢>
①ア=民法 イ=私法 ウ=消費者契約法
【正】
- 住宅宿泊事業を定める法律は公法面(行政法的規定)ですが、利用者が料金を支払って民泊を利用する契約は「民法」上の“賃貸借や請負”等としての私的契約にあたります。
- さらに事業者と消費者の契約には「消費者契約法」が関わり、不当な勧誘や不利な条項の無効などを定めます。
これらの組合せが会話の文脈と最も合致します。
②ア=民法 イ=私法 ウ=独占禁止法
【誤】独占禁止法は事業者の市場競争に関する規制であり、民泊事業者の不当条項や勧誘とは直接関連しにくいです。
③ア=民法 イ=公法 ウ=消費者契約法
【誤】契約は私法領域の典型的行為なので、イを公法とするのはずれています。
④ア=民法 イ=公法 ウ=独占禁止法
【誤】同上の理由でイが公法ではなく私法だと考えられます。またウに独占禁止法を当てるのも不適切です。
⑤ア=刑法 イ=私法 ウ=消費者契約法
【誤】「宿泊事業の契約」に刑法を当てるのは筋違いです。
⑥ア=刑法 イ=私法 ウ=独占禁止法
【誤】刑法も独占禁止法もここで論ずる主旨とは大きく乖離します。
⑦ア=刑法 イ=公法 ウ=消費者契約法
【誤】刑法・公法という組合せは会話文との整合性を欠きます。
⑧ア=刑法 イ=公法 ウ=独占禁止法
【誤】同様に当該会話内容と合致しません。
問22:正解3
<問題要旨>
下線部(⑥)に関して、生徒Xが「日本の立法過程」について教科書を読み整理した際、「衆議院・参議院の議決が一致しない場合」や「予算を伴わない法案の発議要件」「委員会審議」などをめぐり、正しく理解しているかどうかが問われます。選択肢①~④のうち誤っている記述を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正】
「国会議員が予算を伴わない法案を発議するには、衆議院では議員20人以上、参議院では議員10人以上の賛成を要する」──これは現行の国会法等で規定される要件として正しいです。
②【正】
「法律案が提出されると、原則として関係する委員会に付託され委員会の審議を経てから本会議で審議されることになる」──これは一般的な国会審議の手続で合っています。
③【誤】
「参議院が衆議院の可決した法案を受け取った後、60日以内に議決をしないときは、衆議院の議決が国会の議決となる」──実際には「衆議院可決後、参議院が受領してから60日以内に議決しない場合、衆議院は『再可決』の要件(出席議員の2/3以上)を満たせば法案を成立させられる」という仕組みです。「参議院が60日放置しただけで衆議院の議決が自動的に国会の議決になる」わけではありません。よってこの記述は誤りです。
④【正】
「国会で可決された法律には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする」──憲法上、法律を公布する際に主管の国務大臣が署名し、さらに内閣総理大臣が連署する手続があります(日本国憲法第74条)。よって正しい記述です。
第6問
問23:正解3
<問題要旨>
下線部(②)では、日本の企業活動をめぐる近年の動向や経営戦略などが例示されています。選択肢は、株主との関係やバブル経済・会社法の制度、世界的状況の変化など、多角的な事項が並んでおり、それらの正否を判定する問題です。
<選択肢>
①【誤】
「自社の株価の低下を招く社内の行為を株主が監視すること」を「リストラクチャリング(事業再構築)」とするのは用語の混同です。リストラクチャリングは、事業の再構築や再編、不要資産の売却などを指し、株主による監視行為そのものを意味するわけではありません。
②【誤】
「企業の1年間の利潤のうち、株主への分配率が上昇すると内部分留への配分率も上昇し、企業は設備投資を増やしやすくなる」というのは、配当性向(株主への分配率)が高まれば、普通は内部留保に回る割合は減る方向になるのが一般的です。選択肢の論旨はかえって矛盾を含んでいるので不適切です。
③【正】
「世界的に拡大した感染症による経済の影響を受けつつ、巣ごもり需要の増加に対応することで2020年に売上を伸ばした企業があった」という内容は、近年の社会情勢で実際にみられた事例として妥当性が高いです。
④【誤】
「1990年代のバブル経済崩壊後、会社法が制定され、株式会社設立のための最低資本金額が引き上げられた」というのは逆の内容です。2006年施行の会社法によって最低資本金制度は緩和され(1円でも会社設立が可能に)、引き上げられたわけではありません。
問24:正解1
<問題要旨>
下線部(①)では、生徒Xが機会費用の考え方を企業の土地利用の例で説明するメモを作成しています。選択肢ア・イにはそれぞれ「経済学の用語(トレード・オフやポリシー・ミックス)」と「公園や住宅地などの用地」についての記述が入り、最も適切な組合せを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【正】
ア=トレード・オフ、イ=公園
- 「ある選択を行えば、他の選択肢に伴う利益は得られない」というのがトレード・オフの発想です。メモには「駐車場にすると得られる利益が最大」「次いで公園、最後に宅地」とあり、どの用途を選ぶかで他方の利益を放棄することになります。
- 「公園」は選択肢として駐車場、宅地と並ぶ事例になっています。
②【誤】
ア=トレード・オフ、イ=宅地
- メモ上では「駐車場>公園>宅地」の順で利益が大きいとされているため、公園か宅地のどちらをイに当てるかがカギとなりますが、文脈的にイに宅地を入れるとメモの例示が食い違います。
③【誤】
ア=ポリシー・ミックス、イ=公園
- ポリシー・ミックスは財政政策と金融政策などを組み合わせる政策手法を指し、ここでの機会費用の話とは違う概念です。
④【誤】
ア=ポリシー・ミックス、イ=宅地
- 同様にアがポリシー・ミックスなのは筋違いで、機会費用の説明に当たらないため不適切です。
問25:正解1
<問題要旨>
下線部(③)で、生徒Xと生徒Yが日本銀行の金融政策の一つである「公開市場操作(オープン・マーケット・オペレーション)」について話し合っています。選択肢ア・イには「金融緩和(引締)」や「マネーストック(マネーサプライ)」「マネタリーベース」などの専門用語を当てはめる問題です。
<選択肢>
①【正】
ア=緩和、イ=マネーストック
- 「買いオペは金融緩和の一環」であり、日本銀行が国債を購入すると日銀当座預金(市中銀行の保有分)が増え、結果として銀行貸し出し余力が高まり得る。
- その結果、一般企業や個人が保有する通貨量(≒マネーストック)が増加する可能性がある。
- 会話中でも「市中銀行が持つ日銀当座預金が増えれば、最終的に個人・企業の通貨量が増えるかもしれない(=マネーストック)」と説明しています。
②【誤】
ア=緩和、イ=マネタリーベース
- マネタリーベース(日本銀行券+貨幣+日銀当座預金)は、日銀が直接コントロールしやすい通貨供給量を指しますが、会話で「個人や一般企業が保有する通貨量」と表現した部分はマネーストックに対応します。
③【誤】
ア=引締、イ=マネーストック
- 買いオペを「金融引締」と捉えるのは逆です。買いオペは一般に緩和策です。
④【誤】
ア=引締、イ=マネタリーベース
- 買いオペを「金融引締」とする点が誤りです。
問26:正解4
<問題要旨>
下線部(④)に関連し、市中銀行の貸出業務について、図1(貸出前バランスシート)と図2(貸出後バランスシート)の比較が示されます。ここで市中銀行が「新規の預金」を創り出している点がポイント。選択肢①~④の中から、貸出と預金の増減関係について最も適切な説明を選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「市中銀行が『すでにある預金』を個人や一般企業に貸し出すため、資産が増加し負債が減少する」──“すでにある預金”を貸し出すと、その預金が貸出先の新たな預金になるわけではなく、表現が曖昧かつ誤解があります。バランスシート上の仕組みとは一致しません。
②【誤】
「市中銀行が『すでにある預金』を貸し出すため、市中銀行の資産を減少させ負債を増加させる」──これも銀行の貸出の実態とバランスシートの動きが逆です。
③【誤】
「市中銀行が『新規の預金』を創り出すことによって個人や一般企業に貸し出すので、銀行貸出は市中銀行の資産と負債を減少させる」──実際には新規の預金が生まれると貸し出しの分、資産(貸出)も負債(預金)も増える方向になりますから、“減少させる”は誤りです。
④【正】
「市中銀行が『新規の預金』を創り出すことによって個人や一般企業に貸し出すので、銀行貸出は市中銀行の資産と負債を増加させる」──図1と図2でも、貸出後に“新規の預金”が設定され、資産(貸出)が増え、同時に負債(新たな預金)も増えています。この仕組みに合致する内容です。
問27:正解3
<問題要旨>
下線部(⑤)では、生徒Xと生徒Yが「災害による供給曲線の一時的な左シフト」と、元の位置に戻るまでの間に「何らかの対策を取る」ことで価格が早く落ち着くのでは、という会話をしています。選択肢①~④のうち、需要サイドまたは供給サイドに対する政策を論じており、元の価格E点に早く近づくことを目指す事例としてもっとも適切なものを選ぶ問題です。
<選択肢>
①【誤】
「野菜の購入時にキャッシュレス決済で使える電子ポイントを付与する」は需要を刺激する策であり、一時的に需要が上がれば価格はさらに高騰するかもしれず、供給側の回復を早める対応とは言いにくいです。
②【誤】
「野菜の購入量が増えるよう消費者に宣伝を行う」──需要をさらに増やす話なので、価格を早く下げる目的には逆効果の可能性が高いです。
③【正】
「原材料の購入に使える助成金を生産者に支給する」──生産コストを下げ、供給回復を促すことを期待でき、供給曲線を元の位置に近づける(右シフトさせる)策として有効とみなせます。
④【誤】
「原材料の使用量に応じて課徴金を課す」は逆に生産コストを押し上げるので、供給を減退させ、価格を下げる方向には働かないでしょう。
問28:正解4
<問題要旨>
下線部(⑥)に関連し、「購買力平価説」の考え方をもとに、米国と日本で同じ商品(SEIKEIバーガー)を比較した場合の理論上の為替レート(1ドル=α円)と、実際の市場での為替レート(1ドル=99円)の関係を読み解く問題です。選択肢①~④の中から“円高・円安”を正しく判定し、1ドル当たり何円の違いがあるかを把握することが鍵となります。
<選択肢>
①【誤】
「実際の外国為替レートは1ドル当たり120円の円安ドル高である」──問題文では実際のレートが99円と示されているので、120円というのは食い違います。
②【誤】
「実際の外国為替レートは1ドル当たり120円の円高ドル安である」──1ドル=120円は円高ドル安ではなく円安ドル高であり、さらに問題文の99円とずれています。
③【誤】
「実際の外国為替レートは1ドル当たり21円の円安ドル高である」──1ドル=21円は大幅な円高であり、この選択肢自体が矛盾(「円安ドル高」と書いてあるのにレートは21円)を含んでいます。
④【正】
「実際の外国為替レートは1ドル当たり21円の円高ドル安である」──ここでは、α円(購買力平価)が99円を想定しているわけではなく、図の例として「米国で5ドル、日本で600円」とすると、購買力平価レートは5ドル=600円⇒1ドル=120円となる可能性があります。ところが“実際のレート”は1ドル=99円なので、120円と比較すると99円は円高側(ドル安)です。「21円円高」というのは120円(理論) – 99円(実際) = 21円だけ円が実際に高い、と読み取れます。そのため、“1ドル当たり21円の円高”はこの差分を示す意味合いで、選択肢の表現と合致します。
第7問
問29:正解1
<問題要旨>
下線部(②)に関連して、第二次世界大戦後の日本の地方自治をめぐり起きた出来事のうち、A~Dに示された記述を年代順に並べる問題です。選択肢には、地方自治法の制定(1947)、公害・住民運動の活発化(1960~70年代)、地方分権改革(1990年代後半~)、大都市地域特別区設置法に基づく住民投票(2010年代)などがそれぞれ対応する可能性があり、それを正しく古い順に整理して3番目にくるものを選びます。
<選択肢>
A「地方分権改革が進む中で行財政の効率化などを図るために市町村合併が推進され、市町村の数が減少し、初めて1,700台になった。」
B「公害が深刻化し住民運動が活発になったことなどを背景として、東京都をはじめとして都市部を中心に日本社会党や日本共産党などの支援を受けた候補者が首長に当選し、革新自治体が誕生した。」
C「地方自治の本旨に基づき地方自治体の組織や運営に関する事項を定めるために地方自治法が制定され、住民が知事を選挙で直接選出できることが定められた。」
D「大都市地域特別区設置法に基づいて、政令指定都市である大阪市を廃止して新たに特別区を設置することの賛否を問う住民投票が複数回実施された。」
(流れの例)
- 1947年 地方自治法の制定 → (C)
- 1960~70年代 公害・住民運動活発化→革新自治体誕生 → (B)
- 1999年 地方分権一括法(前後) → 市町村合併や行財政改革 → (A)
- 2015年・2020年 大阪都構想の住民投票 → (D)
このように見れば、3番目に来るのは(A)です。
<選択肢>
①A【正】
――上記流れの通り、3番目にAが入るため正しい。
②B【誤】
Bはおおむね1970年前後が対象なので2番目あたりに該当する。3番目ではない。
③C【誤】
Cは最も古い(1947年)ため1番目が妥当。
④D【誤】
Dは大阪都構想住民投票で比較的近年(2015年、2020年)に実施されている。これは最後(4番目)あたりに位置づけられる。
問30:正解3
<問題要旨>
下線部(ⓑ)を参照しながら、生徒Xと生徒Yが地方分権改革を踏まえて「国と地方自治体の関係」「都市計画の決定手続」「地方自治体が国と対立または協力する場合の制度」などについて会話しています。ア・イ・ウに当てはまる概念や用語の組合せを正しく選ぶ問題です。
<選択肢>
会話中で
- 「ア=(国と地方は)対等・協力の関係」と見るか、あるいは「上下・主従」の関係と見るか
- 「イ=法定受託事務」「イ=自治事務」など、都市計画の決定手続がどちらに分類されるか
- 「ウ=国地方係争処理委員会」か「地方裁判所」か、地方自治体が国との紛争や不服を申し立てる場がどれか
①~④や⑤~⑧の組合せを見ていくと、地方分権一括法以降は「国と地方は対等・協力関係」と位置づけられ、都市計画の決定は「法定受託事務」ではなく「自治事務」とされたケースもある。さらに、地方自治体が国との関係に不服申立てをする際には「国地方係争処理委員会」に申し出て、そこから必要に応じて裁判にも行く手続がある。
正解③では、
- ア=対等・協力
- イ=自治事務
- ウ=国地方係争処理委員会
となっており、国との上下関係ではなく、自治体が自主的に計画を決定し不服がある場合は係争処理委員会に申し出る流れが想定されるため、これが最も妥当です。
問31:正解2
<問題要旨>
下線部(③)をめぐり、L市の財源構成(地方税・地方交付税・国庫支出金など)が表で示されています。生徒たちはL市と近隣の自治体を比較したうえで、表から読める依存財源と自主財源の比率を考察しています。問題は「L市はどれか?」を①~④のデータから選ぶ形式です。
<選択肢>
表の各自治体①~④に示される歳入区分の構成比(地方税・地方交付税・国庫支出金)を見比べると、L市は「自主財源の構成比が50%以上」とあるが、表には地方税+(その他歳入がある可能性)を合わせて半分を超えるパターンを探す。
①地方税42、地方交付税9、国庫支出金19 → 自主財源計42%
②地方税52、地方交付税1、国庫支出金18 → 自主財源少なくとも52%
③地方税75、地方交付税0、国庫支出金7 → 自主財源75%以上
④地方税22、地方交付税39、国庫支出金6 → 自主財源22%
L市は「依存財源が多いわけではないが、比較的高くもない」「自主財源が50%以上」。①は自主財源42%と考えると50%未満。②は52%なので50%以上に該当し、しかも依存財源(交付税1%+国庫支出金18%)合計19%なら、そんなに高くないため、「依存財源が多いわけではない」との記述には反するかどうか検討する。文中に「L市での自主財源構成比は50%以上」「依存財源の中では一般財源が多い」と書かれており、(②)の地方交付税1% + 国庫支出金18% = 19%は総計の19%、さらに記載されていない歳入項目もあるかもしれないが、ここでは(②)が他の自治体ほど依存財源が高くはないように見え、かつ50%を超える地方税率が合致する。
(③)は自主財源75%でかなり高すぎるイメージ。文中に「L市は他よりも依存財源が少ないわけではないが…」とあり、“最も少ない”(つまり自主財源が最も高い)には当てはまらない。
以上から、②が最も正しい候補となる。
問32:正解4
<問題要旨>
下線部(④)に関して、L市内の民間企業の取り組みを事例化した文章から、空欄a・bに当てはまるキーワード(スケールメリット、雇用のミスマッチ防止、トレーサビリティ、ノーマライゼーション)を選んで、さらに文章中の空欄ア・イに該当する組合せを判断する問題です。
本文を見ると、
- A社×B大学のインターンシップ → 地域の若者の就職先確保。これは「雇用のミスマッチを防ぐ取組み」(b)に近い。
- 事業者Cは、障がいのある人たちが働きやすい職場環境を整備し、健常者と共働する。これは「ノーマライゼーションの考え方を実行する取組み」(d)に近い。
<選択肢>
a スケールメリット(規模の利益)
b 雇用のミスマッチを防ぐ取組み
c トレーサビリティを明確にする取組み
d ノーマライゼーションの考え方を実行に移す取組み
「A社とB大学」の例は雇用のマッチング(=b)、「C事業者」の例は障がい者と健常者の共生(=d)。したがってア=a or b、イ=c or d の可能性を検討するが、文章内容と整合するのはア=b、イ=d。
<選択肢>
①ア=a イ=c【誤】
②ア=a イ=d【誤】
③ア=b イ=c【誤】
④ア=b イ=d【正】
アにb(雇用のミスマッチ防止)、イにd(ノーマライゼーション)が収まるので、④が妥当。