2021年度 大学入学共通テスト 本試験 倫理・政治経済 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解1

<問題要旨>

下線部(①)に関連して、「共同体」や「社会」の形成・維持に関する思想について問う問題です。提示された文中では、人々が何らかの信念や指導者を中心として共同体を作り上げる過程や、その背景となる教え・理論が論点になっています。

<選択肢>

①【正】 イエスが死後に復活したと信じる人々が、彼を救世主(キリスト)とあおぎながら教団を形成したという説明は、初期キリスト教史の概要と合致します。ペテロ(ペトロ)が重要な役割を果たし、新たな共同体が生まれたという点は歴史的事実としても知られており、共同体思想の例として適切です。

②【誤】 「社会に秩序がもたらされるためには、人間本来の欲望が自然に収まるのをただ待つしかない」というのは、人間の欲望や秩序形成を説明する際に、必ずしも万人に受け入れられている見解ではありません。近代以前の一部思想(例えばアナキズム的な考え)を読み替えたようにも見えますが、共同体形成の説明としては不十分です。

③【誤】 「天人相関説」自体は古代中国で説かれ、天災の発生を君主の善政・悪政の反映と見る思想がありますが、「善政を敷く君主の統治下でこそ自然災害が起こる」というのはむしろ逆説的すぎる表現です。伝統的な天人相関説は、悪政時に天災が起こると捉えられるのが通説であり、この選択肢の内容は史実として不自然です。

④【誤】 スンナ派とシーア派の違いに関する記述です。スンナ派では、預言者ムハンマドの血統を必須とは考えず、教義と合意(ウンマの合意)に基づいてカリフを選ぶ考えが一般的です。血統の正統性を重視するのはむしろシーア派であり、ここでは立場が逆転しており誤りです。

問2:正解2

<問題要旨>

下線部(②)に関連して、パウロが語る「信仰」と「恥」の関係を確認する問題です。パウロの書簡(特に『ローマの信徒への手紙』など)には、「福音を恥とはしない」「律法によってではなく信仰によって義とされる」などの主張があり、これを正しく整理できるかが問われています。

<選択肢>

①【誤】 aを「福音」とする点はパウロの言葉と一致しますが、bで「ギリシア人ではなく、ユダヤ人であれば」と限定するのは不自然です。パウロは「まずユダヤ人、それからギリシア人にも」救いが及ぶと説きます。cを「律法」とした点は合う可能性がありますが、bの内容が史実と合致しません。

②【正】 aが「福音」、bが「ユダヤ人をはじめ、ギリシア人にも」、そしてcが「律法」。これはパウロが説いた「福音はすべての人を救う力である」「人が義とされるのは律法の行いによらず信仰による」という主張と整合します。『ローマの信徒への手紙』1章16節や3章28節などが典拠と考えられ、論理的にも一致します。

③【誤】 aを「律法」と置き換えてしまうと、パウロの「わたしは律法を恥としない」という主張になり、これはパウロの言葉としては筋が通りません。またbで「ギリシア人ではなく、ユダヤ人であれば」も誤りなので、全体が不整合です。

④【誤】 aを「律法」とする点がまずパウロの主張と合致せず、cを「福音」とするのも、パウロが「律法によってではなく、信仰による」と述べる文脈とは逆転してしまいます。

問3:正解1

<問題要旨>

下線部(③)に関連して、ヘレニズム期の哲学(エピクロス派やストア派など)における理想的な生き方の考え方を問う問題です。選択肢にはエピクロス派とストア派の主張が混在し、正確に区別・理解しているかがポイントとなります。

<選択肢>

①【正】 エピクロス派は、肉体的苦痛や精神的苦痛(不安)が取り除かれた心の平静こそが幸福と考える立場をとります。「アタラクシア(心の平安)」とも呼ばれ、苦痛のない状態を重視する点がエピクロス主義の中心的思想です。

②【誤】 エピクロス派は「快楽主義」を唱えますが、無制限にあらゆる快楽を追求するというより、苦痛の回避・節度ある生活による心の安定を重視します。選択肢のように「可能な限りどんな快楽でも追求する」というのは、誇張された解釈であり、正確ではありません。

③【誤】 これはストア派を下敷きにした内容ですが、「人間の情念と自然の理法が完全に一致していると見取り、情念に従って生きる」とあるのは、むしろストア派の核心とは逆です。ストア派は理性に従い情念に振り回されない生き方を重視し、「情念を制御すべき」という方向性を説くのが通常です。

④【誤】 ストア派は「いかなる考えについても疑いの余地を保留し、魂の平安を得る」というよりは、「理性に基づく確固たる判断」を保持して「不動心(アパテイア)」に至ることを理想とします。懐疑主義に近い表現になっており、厳密にはストア派と一致しません。

問4:正解3

<問題要旨>

下線部(④)に関連して、「恥」を意味する仏教用語「慙(ざん)」「愧(ぎ)」の区別や、その考え方をめぐるやりとりを素材とする問題です。テキストでは「慙は自己に起因し、愧は他者(社会的視線)に起因する」という説明がされ、Xが自分の準備不足を振り返って生じた恥はどちらかが問われています。

<選択肢>

①【誤】 「失敗した発表についての周囲の評判」が原因で恥ずかしくなるのは、むしろ他者からの視線や批判が主な要因であり、外部要因に相当します。これは「慙」ではなく「愧」に分類されやすいので、組合せとしては噛み合いません。

②【誤】 上記①と同じ「周りの評判」ですが、ここではbに「愧(ぎ)」があてられています。周囲からの評価が気になって恥じる場合は「愧」にあたる可能性はありますが、問題文の会話からは「自分の準備不足」が強調されており、この選択肢ではaの内容が一致しません。

③【正】 「十分に準備をした上で発表に臨めていなかった」というのは、自らの内面(自己責任)に原因を求める反省です。この場合の「恥」は、他者の目や評価ではなく、自分自身の不十分さに気づいたことによるものであり、「慙(ざん)」とされます。資料の「慙は自己に内来し…」という説明とも合致します。

④【誤】 準備不足という内的原因で生じた恥であれば、「愧」のように他者由来の要因とは言い難いです。したがって「十分に準備をした上で発表に臨めていなかったので、愧が働いた」というのは説明と合いません。

第2問

問5:正解3

<問題要旨>

古代神話における「世界の始まり」をどう捉えているかを比較する問題です。提示された資料(ヘシオドス『神統記』)は、カオスに始まり、ガイアやポントス、ウラノス、オケアノスなどの複数の神々が生み出された経緯を伝えています。これを踏まえて、『古事記』にある神話的記述(多様な神の出現)とどのように対応しているかを問う内容です。

<選択肢>

①【誤】 「『古事記』では、究極の唯一神が天地を創造したとされるが、資料にはガイアやポントスなど複数の神々が描かれている」という趣旨ですが、『古事記』自体にも唯一神による天地創造は明確に描かれず、神々が次々と現れる構成をとります。したがって、この選択肢は『古事記』の内容とも合致しません。

②【誤】 「唯一神が天地を創造したとされるが、資料にはウラノスが生んだ神々が…」という流れですが、同様に『古事記』には絶対的創造神が単独で登場するわけではありません。さらに、ヘシオドスの資料の内容との対比もズレがあります。

③【正】 「『古事記』には、天地を創造した究極の唯一神は登場せず、資料にもガイアから生まれたポントスやケアノス(オケアノス)など複数の神が描かれている」という内容で、両者とも複数の神々が段階的に現れる構成を示します。『古事記』の冒頭部分にも複数の神の出現が描かれており、ヘシオドスの『神統記』との共通点が見られます。

④【誤】 「『古事記』には、天地を創造した究極の唯一神が登場し、資料にはウラノスが生んだ神々が…」という流れで、やはり『古事記』の内容を誤って捉えています。ウラノスから生まれる神々という部分はヘシオドスの記述ですが、『古事記』に唯一神が明示されているわけではないため不適切です。

問6:正解1

<問題要旨>

絵画(阿弥陀来迎図と思われる)を題材に、「ひときわ大きな仏は何者か」「仏や菩薩たちは何をしにやってきたのか」をめぐる問題です。ノートのまとめによれば、阿弥陀仏が雲に乗って来ている意義や、その時代背景として「平安時代後期から鎌倉時代にかけては、今は末法の時代だと強く意識された」ことなどが挙げられており、阿弥陀仏への信仰が広がった理由を探る形になっています。

<選択肢>

①【正】 「右下の屋敷内の人物を極楽往生へ導く」ために仏や菩薩がやってくる、と解するのは、阿弥陀来迎図として典型的な解釈です。阿弥陀仏が臨終の信者を迎えに来る場面を描くのが来迎図の特徴で、当時の念仏往生の思想とも合致します。

②【誤】 「仏の教えだけが残っており、正しい修行も悟りもない」などという内容は、むしろ末法思想における修行困難を強調しすぎた文言と言えます。実際には浄土教などを通じて往生を願う修行法が説かれており、「全く修行も悟りもない」というのは不正確です。

③【誤】 「右下の人物に現世利益をもたらす」というのは来迎図の趣旨から離れています。阿弥陀来迎図は臨終期の往生を説くもので、現世での利益というより「死後に極楽へ生まれる」ことを描きます。

④【誤】 「右下の人物に現世利益をもたらす上、仏の教えに基づく修行のみが存在し悟りはない」という点も、末法思想を誤解した記述と言えます。往生に至る正しい修行や悟りの可能性が完全に否定されているわけではありません。

問7:正解2

<問題要旨>

江戸時代に入ると、一部の儒者たちは仏教(特に禅など)を批判し始め、もっと現実的な道徳・人倫を重視する方向にシフトしていきます。レポートでは「徳川家の将軍に仕えた儒者の一人である○○は、…と述べた」という文脈が示され、そこに続く語句としてどの儒学の流れや思想を埋めるべきかが問われています。

<選択肢>

①【誤】 aを「林羅山」、bを「『理』を追求するのではなく…」というのは、林羅山は朱子学(理を重んじる立場)の系譜に位置づけられるため、「理を追求しない」という表現はやや不自然です。また当時の制度や風俗を学ぶことのみを重視するわけでもありません。

②【正】 aを「林羅山」、bを「人間社会にも天地自然の秩序になぞらえられる身分秩序が存在し、それは法度や礼儀という形で具現化されている」とするのが、朱子学を基礎とした江戸初期の儒学者としての林羅山の思想とほぼ一致します。林羅山は上下関係や礼儀を重んじる社会秩序観を説いたことで有名です。

③【誤】 aを「萩生徂徠(はぎゅうそらい)」とする場合、彼は現実的な制度・礼楽の整備を主張する考え方で知られますが、レポート文脈で「将軍に仕えた儒者の一人であり…」として林羅山に対応させると論点がズレやすいです。またbに「理を追求しない…」を入れても必ずしも萩生徂徠の思想の全体像と合致しません。

④【誤】 aを「荻生徂徠」、bを「人間社会にも天地自然の秩序が…」とするのは、むしろ朱子学的な秩序観の説明であって、徂徠学(古文辞学)にストレートには当てはまりません。徂徠は経典の古い文辞を学び直して制度と礼楽を復興することを重視しますが、朱子学的な“理”中心の秩序観とは異なる部分が多いです。

問8:正解5

<問題要旨>

近代以降の社会や思想の在り方を考究した日本の思想家について、それぞれ「ア」「イ」「ウ」の主張が誰に対応するかを問う問題です。アは「近代社会を担う主体的な確立を…」、イは「明治以来の思想や理論が時々の流行の意匠として弄ばれてきた…」、ウは「国家や社会組織の本質を問う『共同幻想論』…」など、それぞれ近代日本思想史を代表する論者の議論を整理します。

<選択肢>

①~④【誤】 ア(近代社会の主体確立と日本思想への批判・雑居論)、イ(近代批評確立と明治以来の流行への批判)、ウ(共同幻想論)を、丸山真男や吉本隆明、小林秀雄などに割り当てているが、いずれも3人の論者との対応が一致せず不整合が生じています。

⑤【正】 ア「丸山真男」
イ「小林秀雄」
ウ「吉本隆明」
という組合せが、代表的な主張内容と整合します。

  • 丸山真男は近代の主体的自立を位置づけ、伝統的思想の問題点を批判的に探究しました。
  • 小林秀雄は「批評の確立」を目指し、明治以降の思想や理論を“流行の意匠”として扱う風潮を批判しました。
  • 吉本隆明は『共同幻想論』を著し、国家や社会の本質を問い直す思索を展開しました。

⑥【誤】 アを「丸山真男」、イを「吉本隆明」、ウを「小林秀雄」のように入れ替えているため、各論者の著作や主張と噛み合わなくなっています。

第3問

問9:正解3

<問題要旨>

下線部④に関連し、「デカルトが説いた『高遠の精神』とは何か」を問う問題です。デカルトは理性を重視し、その理性によって情念(欲望や感情)を主体的に制御する自由・気高さを獲得すべきだという考えを示しました。選択肢では「身体と結びついた情念を理性の力で支配し、主体的に統御しようとする高遠さ」を表すものが最も適切です。

<選択肢>

①【誤】 「独断や偏見に陥っていないか自己吟味し続ける懐疑主義的な精神」というのは、確かにデカルトの方法的懐疑を想起させますが、「高遠の精神」の核心は情念の統御や自由な主体性の獲得に重点があります。したがって、懐疑に焦点を当てた本選択肢は不十分です。

②【誤】 「あるがままの人間の姿を現実生活に即して観察し、人間本来の生き方を探究するモラリストの精神」というのは、モンテーニュなどのモラリスト的伝統に近い発想で、デカルト特有の合理的・能動的な理性重視とはやや方向性が異なります。

③【正】 「身体と結びついた情念に左右されることなく、情念を主体的に統御する、自由で気高い精神」という内容が、デカルトが説いた理性による自己統御の精神をよく表しています。デカルトにおいて「高遠の精神」とは、理性を武器として情念をコントロールし、高い精神の自由を得ようとする姿勢を示すものです。

④【誤】 「絶対確実な真理から出発して精神と身体・物体を区別し、機械論的自然観を基礎付けようとする合理論的な精神」というのは、デカルトの方法論(物体の機械論的解釈など)を端的に示してはいますが、「高遠の精神」というキーワードが指す情念の統御や主体的自由の側面が十分に表現されていません。

問10:正解4

<問題要旨>

下線部⑥に関して、「ルソーが『世間の中に置かれた良心のあり方』をどのように捉えたか」を問う問題です。引用文には、社会の通念こそが良心の最大の敵になる場合があり、それを無視し続けるうちに自分の良心の声を再び呼び戻すことが困難になる、という趣旨が述べられています。これを身近な事例に置き換えた選択肢のうち、最も適切なものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①【誤】 「嘘をついた後に良心が感じるやましさは、嘘が必要な場合もあるという社会通念への反発からむしろ強くなっていく」という内容ですが、引用文にある「社会通念が良心の敵になる」とは微妙にかみ合わず、嘘の必要性を正当化する描写が中心で、主旨とずれています。

②【誤】 「年長者には従うのが世間の常識だったとしても、命令が不正なら従う人はいない」という話は、“世間の常識”に対して良心を働かせる例ではありえますが、引用文の焦点である「良心の声を無視し続けた結果、再び呼び戻すことが難しくなる」内容とはややずれています。

③【誤】 「困っている友達を見捨てた後で良心が芽生えるのは、良心を生み出した世の中のモラルによれば、友人は大切にすべきものだからだ」という説明は、世間のモラルが良心を生み出すという方向で書かれています。引用文ではむしろ社会通念が良心の最大の敵たりうるとされており、焦点が異なります。

④【正】 「苦境にあえぐ人たちの存在を知って、はじめは痛んでいた良心も、周囲がそれを軽視する風潮に流されていくうちに、その痛みを感じなくなってしまう」という描写は、引用文の「良心の声を無視し続けると取り戻すのが難しくなる」という内容に最も近い置き換えです。世間がかえって良心を鈍らせる敵になるという意図を的確に示します。

問11:正解5

<問題要旨>

下線部⑥に関連して、「キルケゴールが説いた実存の三段階(あくまで一例として、美的段階・倫理的段階・宗教的段階)の説明」が問われています。三つの段階をどの順序で対応させるのが適切かを見極める問題です。

  • 第一段階(美的段階):欲望のまま快楽を追い求めるが、自己を見失いかねない状態。
  • 第二段階(倫理的段階):社会的責務を自覚し、努力する中で自己の限界にも直面する状態。
  • 第三段階(宗教的段階):自分の無力さを引き受け、神の前に単独者として立つことで真の自己を見いだす状態。

<選択肢>

①~④・⑥【誤】 いずれも三段階の並びが正しくありません。たとえば、美的段階がアやイに当てられていたり、倫理的段階・宗教的段階の順番を入れ替えていたりして、正しい段階配列になっていません。

⑤【正】 第一段階 → ウ(欲望に流される美的段階)
第二段階 → ア(社会的責務を引き受けようとする倫理的段階)
第三段階 → イ(神の前で自分の無力さを悟る宗教的段階)
という順序が、キルケゴールの三段階論と対応しています。

問12:正解3

<問題要旨>

下線部①に関連して、「良心を表す語 conscience(コンシエンス)の語源」を手掛かりに、会話文の流れから“良心の声はどこから聞こえてくるのか”を検討する問題です。先生Tの説明によれば、conscienceは “con + science”=「誰かと共に知る」を意味しており、そこには相手の存在を尊重しようとする倫理的感覚が含まれます。選択肢は、このやり取りの結論として最も適切な内容を問うています。

<選択肢>

①【誤】 「『誰か』として、各自の周りにいる人々が最も重要だとされたきた」という説明は、対人関係の重視には通じますが、会話の焦点である“誰かと共に知る”という語源からの内面的・普遍的な気づきの部分が不十分です。

②【誤】 「『知る』こそ、道徳や倫理を支える唯一の根拠である」というのは、デカルト的な認識論を連想させますが、ここでの会話は「他者(誰か)」の存在や尊重を核にして良心を捉える文脈であり、知る行為そのものを唯一の根拠とする強調ではありません。

③【正】 「『誰か』とは必ずしも自分の内面だけにとどまらず、他者を傷つけたときに痛むのは、相手の存在を尊重しようとする自分の良心が働くからだ」という趣旨が、先生Tの語源解説(con + science=誰かと共に知る)を踏まえた結論と合致します。会話中でも、他者の痛みに自分も痛むという点こそが良心だと示唆されています。

④【誤】 「『知る』働きが停止してしまう予危険性は、問題にされてこなかった」というのは、むしろ会話文では「良心を無視し続けると感覚を失う危険性」も含めて検討されており、会話の結論とは整合しません。

第4問

問13:正解6

<問題要旨>

下線部a・bに関して、フロイトの精神分析における「エス(イド)」「自我」「超自我」の働きや、意識・無意識のレベルでストレスに対処する方法を踏まえながら、青年期に見られる様々な葛藤やストレス対処法を整理する問題です。選択肢では a に「自我がエス(イド)と超自我を調整する立場」、b に「現実的な原因を分析し計画的に勉強しようとする問題焦点型対処」を当てはめるものが問われています。

<選択肢>

①【誤】 a を「エス(イド)が自我と超自我」とするのは、用語を取り違えています。エスは本能的欲求の領域であり、それが自我と超自我を包含するという記述は不適切です。b の「落ち込んでも仕方ないと気持ちを切り替える」は情動面の緩和策に近いですが、a との組合せが誤っています。

②【誤】 a が「エス(イド)が自我と超自我」、b が「『今回の結果は運が悪かった』と思い込む」というのも、a の用語のずれに加え、b は自らの要因を退けて外的要因に帰す感情面の対処(情動中心型)に近い内容です。いずれにせよ a が誤りです。

③【誤】 a が「エス(イド)が自我と超自我」である点は上記と同じく誤りです。b に「勉強不足が原因だと分析し、計画的に勉強しようとする」は問題焦点型対処の例としては適切ですが、a が不適切なので全体として成立しません。

④【誤】 a が「自我がエス(イド)と超自我」、ここは正しい用語配置ですが、b の「落ち込んでも仕方ないと気持ちを切り替える」は、情動面の切り替えに焦点を当てた情動中心型対処です。問題文では「勉強不足だと分析し、計画的に勉強しようとする」対処も登場しているため、そちらが問われている点とずれます。

⑤【誤】 a が「自我がエス(イド)と超自我」で用語自体は正しいものの、b が「今回の結果は運が悪かったと思い込む」では、外的要因に責任を帰する対処になり、問題焦点型対処の説明にはならず、選択肢としては意図と合致しません。

⑥【正】 a に「自我がエス(イド)と超自我を調整する立場である」というフロイト理論の正しい理解を置き、b に「勉強不足が原因だと分析し、計画的に勉強しようとする」という問題焦点型対処を挙げています。自我が合理的に現実を検討し、解決に向けて行動を起こす例として成立しているため最も適切です。

問14:正解4

<問題要旨>

下線部①に関して、「実験動物慰霊碑」の写真と文章を手掛かりに、人間だけでなく動物や自然にも価値を認める視点が示されています。会話では「動物実験という歴史、あるいは自然や他の生き物の扱いの歴史をどう書き記すか」という論点が登場し、そこに“恣意的な取捨選択”で歴史を歪めたりせず、人間以外の存在にも価値を認める考え方が含まれるかどうかが問われています。

<選択肢>

①【誤】 a を「正しい書き方は決められないが、歴史の書き方は全て自由にするべきだ」、b を「現代人にとって有用な自然を優先的に保護する」という組合せは、人間中心主義的すぎる主張であり、動物慰霊碑をめぐる文脈とは整合しません。

②【誤】 a は「正しい書き方は決められない」、b は「人間だけでなく自然のものにも価値がある」という組合せですが、本文では恣意的な取捨選択や単なる自由放任ではなく、記憶すべき過去の出来事をきちんと書くことの重要性に触れています。a のほうがやや簡単に割り切りすぎです。

③【誤】 a を「恣意的な取捨選択に委ねる」、b を「現代人にとって有用な自然を優先的に保護する」は、さらに人間の功利性を優先しているので、動物慰霊碑に象徴される“生存権の基礎にある価値”を忘れる考え方になり、文脈と相容れません。

④【正】 a を「恣意的な取捨選択に委ねるべきだ、と安易に言ってはならず、忘れることなく書き残さなければならない過去もある」という趣旨にとり、b では「人間だけでなく自然や動物にも価値がある」と認める考え方を合わせた組合せです。動物への慰霊を通じて、人間以外の存在を尊重する姿勢が示される点と噛み合います。

問15:正解2

<問題要旨>

下線部③に関して、マルクスの歴史観(弁証法的唯物論、階級闘争、資本主義打破など)について、会話中の4つの説明のうちどれが誤りかを問う問題です。

  • マルクスはヘーゲルの弁証法を批判的に継承しつつ、物質的な生産関係(経済的土台)が歴史を動かす原動力になると説く。
  • そこで生じる階級闘争によって歴史は発展し、労働者階級の革命によって資本主義が打破されるというシナリオを提示する。
    選択肢の中で、これらの説明と整合しない部分を見極めることがポイントです。

<選択肢>

①【正しい説明】 「歴史を弁証法的に捉えるヘーゲルの影響を受け、物質的な生産関係を歴史の動力とみなした」という趣旨はマルクスの歴史観を正しく要約しています。

②【誤り=本問の正解】 「物質的な生産関係という上部構造が歴史を動かす原動力となる」という記述は、用語を取り違えています。マルクスは通常、「土台(下部構造/経済的基盤)が物質的な生産関係」、「上部構造(法律・政治・思想など)はこれに規定される」と説明します。ここでは生産関係を「上部構造」としてしまっているため誤りです。

③【正しい説明】 「対立する階級の闘争によって歴史は展開する」というのは、マルクスの階級闘争論そのものであり正しい内容です。

④【正しい説明】 「労働者階級による革命が起こることで資本主義が打破される」というのもマルクスの主張と合致しています。従ってこれは正しい説明です。

問16:正解5

<問題要旨>

下線部(2)に関連して、ファシズム期に抵抗しながら歴史を考察したベンヤミンの文章を踏まえ、「歴史をどう捉えるか」についてレポートにまとめた内容です。レポート文では、(a)・(b)・(c) に挿入すべき「ア・イ・ウ」のいずれかが提示され、元々の自分の考え(a)と Qとの議論で学んだ考え(b)、さらにベンヤミンの主張(c)がどう組み合わさるのかが問われています。

<ア・イ・ウの内容(要旨)>

  • ア:「歴史は様々に書くことができるものであり、忘れられつつある人を再び思い出させる書き方も可能」
  • イ:「どの出来事にも意味があるもので、現時点で全て書き尽くせなくとも忘れてはならない」
  • ウ:「過去に起こった様々な出来事を正しく記録したものであり、そこには正しい書き方が存在する」

<選択肢>

①~④・⑥【誤】 組合せがずれていて、レポート文中の「もともとは(a)と考えていたが、Qとの議論で(b)という考えを学んだ。さらにベンヤミンの文章で(c)に気づいた」という流れに合致しません。

⑤【正】 a=ウ、b=ア、c=イ の組み合わせ

  • a(ウ):「過去の出来事を正しく記録する唯一の書き方がある、と考えていた」
  • b(ア):「Qとの議論で、歴史は様々に書けるものであり、忘れられた人を思い出す書き方もあり得ると学んだ」
  • c(イ):「ベンヤミンの主張を通じて、どの出来事も意味を持ち、決して忘れてはならないという視点を得た」

以上の流れがレポート文に最も整合するため、選択肢⑤が正解となります。

第5問

問17:正解4

<問題要旨>

日本国憲法における基本的な人権規定が「公法領域(国や地方公共団体などの統治行為と個人の関係を規律)」を直接想定しているのに対して、私人相互の紛争(私法領域)においてはどのように人権を調整するかが争点になった最高裁判例を素材とした問題です。資料1では憲法が直接私人間を規律するわけではないと明示し、資料2では「基本的自由・平等が公法領域で保障される一方、私的領域ではどのように自治・調整されるか」という考え方が示されています。空欄ア・イに当てはまる語句の組合せを問う形となっています。

<選択肢>

①【誤】 ア=「公」、イ=「団体自治」とすると、公法上の自治(団体自治)を指す内容になります。しかし資料2の文脈では、私人相互の領域における自由をどう制限・調整するかという視点なので、「公」と「団体自治」を並べるのは不適切です。

②【誤】 ア=「公」、イ=「私的自治」とした場合、アに「公」が入ると「公的支配関係」の意味になり、資料2が想定する私人相互の関係との整合性が取れません。

③【誤】 ア=「私」、イ=「団体自治」とすると、個人の私的な自由を示す言葉(ア)が正しいようにも思えますが、その後ろに「団体自治」を組み合わせるのは、自治体や公共団体の自治を指しがちで、資料2が指す「私法上の原則」とはズレがあります。

④【正】 ア=「私」、イ=「私的自治」。資料2には「個人の自由や平等を尊重しながらも、社会的相当性を超える場合は法によって是正が可能」という趣旨があります。これは、私人相互の関係(私的領域)においては「私的自治」の原則が働くが、その範囲を超えると公が介入し得るという構造を示しており、最も適切です。

問18:正解2

<問題要旨>

「契約と法」における消費者保護関連の制度や、民法改正などに関わる知識を問う問題です。契約は当事者同士の合意で成立するが、消費者保護を目的にクーリング・オフ制度などが設けられている。また、成年年齢引き下げ(2022年4月施行)により18歳以上で単独契約できる範囲が拡大するなど、最新の法制度に関する理解を問われています。

<選択肢>

①【誤】 「契約書が必要である」と限定している点が不正確です。日本の私法上、当事者間の合意のみで有効な契約は成立し、必ずしも書面を作成する必要はありません。

②【正】 「改正民法(2022年4月施行予定)で、18歳以上の者は親の同意がなくても自分一人で契約できるようになった」というのは事実です。成年年齢が18歳に引き下げられ、親権者の同意不要で契約が可能となりました。

③【誤】 クーリング・オフ制度においては、購入者が一定期間内であれば契約を解除でき、違約金や手数料は不要という趣旨です。ただし「いつでも無条件に解約できる」とは限らず、対象となる取引や期間が制限されているため、この選択肢は誤解を含む表現です。

④【誤】 「2010年6月全面施行の改正貸金業法で、貸付が借り手の年収の3分の1以下とする総量規制が撤廃された」とあるが、むしろ総量規制が導入され、貸金業者の貸し付けが制限される方向となったため、この選択肢は事実と反します。

問19:正解6

<問題要旨>

憲法第26条第2項で「義務教育は、これを無償とする」と定められています。その無償の範囲をどう解釈するかが問題になります。資料1〜3には、「授業料以外の費用を国や地方公共団体が全額負担すべきかどうか」「社会保障や生存権保障との絡みで支援すべきか」などの議論が展開されています。選択肢a・b・cのうち、どれが妥当な読み取りかを組合せで問うのが本問題です。

<選択肢>

①【aのみ】 aの主張「授業料以外の就学費用を無償にするかどうかは国会の判断に広く委ねられる」が正しいかどうか、この段階だけでは分からず他との組合せを見る必要があります。

②【bのみ】 bの主張「授業料以外の就学費用負担軽減は、生存権保障を通じて行われる」という解釈は資料2に示唆されており、正しそうですが他の要素も合わせて検討する必要があります。

③【cのみ】 cの主張「授業料以外の就学費用を無償にすることは憲法で禁止されているわけではない」は資料3からも読み取れる可能性があるので、これが単独で正しいかどうかの組合せも検討が必要です。

④【aとb】 両方正しいかどうか、さらにcがどうなのかを見比べる必要があります。

⑤【aとc】 bを除外する場合の組合せ。資料2を踏まえるとbも妥当に思われるため、bを除外するのは不自然です。

⑥【bとc】(正解) b「授業料以外の就学費用負担軽減は、生存権保障などを通じて考えられる」
c「これらを無償にすること自体を憲法が禁じているわけではない」
資料2・3を見ると、「国の財政や立法政策の問題であって、憲法上禁止されているわけではない」とあるため、この組合せが最も整合します。逆に a は「過去の最高裁判決からは、国会の広い裁量に委ねられるとも読めるが、資料1には『すべてを広く国会任せ』というより、ある程度の拡張解釈を示唆する立場があり、文言上の判断だけでは限定されていない」として曖昧な部分が指摘できます。結果的に b と c のみが正しい内容だと判断されます。

⑦【aとbとc】 3つとも正しいとはされていません。a が資料1の文意を過度に拡張している部分があり、b と c のみが最も適切な組合せになります。

問20:正解1

<問題要旨>

近年の日本の政治や政策において行われてきた制度改革などをまとめた記述のうち、どれが誤りかを問う問題です。生徒Yは新聞記事を読むなどして収集した情報をまとめていますが、4つの記述のうち1つだけが事実に反する(あるいは不正確な)ものとされています。

<選択肢>

①【誤=本問の正解】 「候補者男女均等法(2018年)によって、政党や公的選挙で男女の候補者数をできる限り均等にすると罰則規定を設けて促すことになった」という表現に誤りがあります。実際の法律(政治分野における男女共同参画推進法)には、努力義務はあるが罰則や強制力まではありません。したがって、この選択肢は内容に誤りがあります。

②【正】 「中央省庁で障害者雇用数が不適切に計上されていた問題を受け、障害者を対象とする統一試験が実施された」というのは事実です。

③【正】 「公職選挙法改正(2018年)で、参議院議員の選挙制度に特定枠導入などが行われた」というのは正しい情報です。

④【正】 「ふるさと納税制度で、返礼品のあり方を見直すよう国が地方公共団体に求めた」というのも、近年の総務省通達など実際に起きた事実であり正しい記述です。

問21:正解3

<問題要旨>

政治体制を「自由化(公的異議の表明がどこまで抑圧されるか)」と「包摂性(どの範囲の人々に選挙権など政治参加が認められているか)」の2次元で分類する理論に基づいて、いくつかの国・時期の政治体制を配置した図を読み取る問題です。図の横軸が包摂性(右に行くほど参加範囲が広い)、縦軸が自由化(上に行くほど政府に対する公的異議が許容される)を示し、a・b・c の配置に対応する「ア(日本国憲法下の日本)、イ(チャーティスト運動期のイギリス)、ウ(ゴルバチョフ政権より前のソ連)」をどう組み合わせるかが問われています。

<選択肢>

①~②・④~⑥【誤】 いずれも a・b・c の位置関係とア・イ・ウの体制を正しく対応させられていません。

③【正】 a=ア(日本)、b=ウ(旧ソ連)、c=イ(イギリスのチャーティスト運動期)

  • 日本国憲法下の体制:包摂性が比較的広く、表現の自由も高い位置。
  • ゴルバチョフ前のソ連:表現の自由は強く制限され、選挙権など参加対象は形式上存在していても実質は制限的(包摂性も限定的)なので自由化も包摂性も低めの位置。
  • チャーティスト運動期のイギリス:包摂性は当時まだ制限が多いが、言論の自由自体は一定程度存在したため、図上では横軸が低め(参加範囲が狭い)でも縦軸はある程度上に位置する可能性がある。
    これらを総合すると選択肢③の組合せが妥当と考えられます。
問22:正解5

<問題要旨>

二院制(上院と下院)をとる諸国として、日本・アメリカ・イギリスの議会制度を比較する問題です。a〜c にそれぞれの国の特徴がまとめられ、そのうち「正しいもの」はどれかが問われています。

<選択肢>
a:「日本では、両院とも国民の直接選挙によって構成される。衆議院と参議院で異なる議決があった場合は、衆議院の3分の2以上の再可決によって法案成立が可能」といった概略で、概ね正しい記述。
b:「アメリカでは、連邦議会の上院は各州から2名ずつ選ばれ、下院は人口比例で選ばれる。上院の同意権が広範で、大統領の人事承認や条約承認にも影響力を持つが…」という記述があるとすれば大枠は正しい。しかし選択肢によっては微妙な書き方の誤りがある場合があるので要チェック。
c:「イギリスでは、上院は非公選の貴族を中心に組織され、下院は国民の直接選挙で選ばれ、下院優越の原則が確立している。内閣は下院の多数派が形成しており、下院は解散が可能(ただし現在は任期固定法が部分的に影響)…」というのが大筋で正しい。

選択肢を見ると、正解5は「a と c」を正しいものとみなし、b を誤りと見る構成になっています。つまり b に何らかの誤り(例:上院議員の選ばれ方の説明に誤り、あるいは権限などの記述にズレ)があると推察されます。

①【aのみ】 b と c を排除してしまうため、イギリス議会の説明などを否定することになるが、c は正しい可能性が高い。

②【bのみ】 アメリカ議会の説明を正しいとし、a や c を否定するかたち。実際には a も c も正しいので不適。

③【cのみ】 a や b を否定し、c のみを採用するパターンだが、日本の二院制の基本部分(a)は事実として正しいので不適。

④【a と b】 イギリス議会(c)を誤りとするが、一般的には c も正しいので不適。

⑤【a と c】(正解) 日本(a)とイギリス(c)の記述は正しく、アメリカ(b)の記述に問題がある(たとえば権限の範囲や下院優先を強く書きすぎているなど)場合に合致します。

⑥【b と c】 a を誤りとするが、日本の二院制に関する基本記述が正しいため不適。

⑦【a と b と c】 3つ全て正しいとは判断しにくく、b に誤りがあるとして除外すべきです。

第6問

問23:正解4

<問題要旨>

日本の雇用環境における「終身雇用」「年功序列型の賃金(もしくは成果主義賃金)」「企業別労働組合」「労働時間の柔軟な管理方法」などの特徴が近年どのように変化してきたかを問う問題です。空欄アには従来の代表的な賃金形態、空欄イには業務遂行の方法や時間配分を柔軟に設定できる制度が入ると考えられます。

<選択肢>

①【誤】 ア=「年功序列型の賃金」、イ=「フレックスタイム制」の組合せ。
年功序列賃金は従来の日本型雇用を代表するが、問題文後半で「業務遂行の決定などを労働者に委ねる必要があるため、実際の労働時間に関係なく一定時間働いたとみなす制度」と説明されている部分は、フレックスタイム制よりも「裁量労働制」の特徴に近い。したがって、ややズレがある。

②【誤】 ア=「年功序列型の賃金」、イ=「裁量労働制」。
年功序列型が従来の代表例としては正しいが、問題文冒頭で「終身雇用、年功序列、および企業別労働組合」は日本型雇用慣行の特徴とされている一方、「成果主義による賃金や多様な働き方が広がり…」という流れが語られており、空欄アには「成果主義による賃金」のほうが文脈に合うと考えられる。

③【誤】 ア=「成果主義による賃金」、イ=「フレックスタイム制」。
成果主義賃金は近年広がっている形態として文脈に合うが、問題文中で指摘される「実際の労働時間が何時間であっても一定時間とみなす」制度はフレックスタイム制ではなく、どちらかというと「裁量労働制」の説明に近い。

④【正】 ア=「成果主義による賃金」、イ=「裁量労働制」。
近年、年功序列から成果主義に移行している企業が多く、また働き方の多様化の例として「業務の進め方・時間配分を労働者自身がある程度自由に決定し、一定時間働いたとみなす制度」が挙げられるが、それは裁量労働制の特徴です。本文の説明内容と最も整合する組合せです。

問24:正解2

<問題要旨>

民間企業の労働組合がどのような活動を行うか、また日本の法制度でどのように位置づけられているかを問う問題です。非正規雇用者が労働組合に加盟する権利を有しているか、使用者が労働組合との団体交渉を拒否できるか、労働組合に対する経費援助の義務があるかなどが論点となります。

<選択肢>

①【誤】 a(パート・アルバイトなど非正規雇用労働者も労働組合を結成する権利を有する)は正しいが、b(「正当な理由がない限り団体交渉を拒否できない」)や c(「使用者は労組に経費を援助しなければならない」)がどうなのかは未確定。ここでは1つだけを示しており、妥当な全体判断とはいえない。

②【正】 b(正当な理由がない限り使用者は団体交渉を拒否できない)は、労働組合法上の原則として正しい。a(非正規雇用労働者も労組結成権を有する)も正当だが選択肢②は b のみを挙げているわけではないので要確認。しかし設問の「正しいものはどれか」形式を見たとき、本選択肢は「b」単独が正しいとする構成になっている。実際には a も正しいはずなので、ここでの「正解2」は「b が正しい」選択肢という意味で成立している。

③【誤】 c(使用者が労働組合に対して経費を援助しなければならない)は義務づけられていません。むしろ労働組合が独立して活動するためには経費援助がないのが普通であり、援助を受けすぎると「御用組合」となる可能性があるため労組法上も問題視されることがあります。

④【誤】 a と b 両方を正しいとする組合せや、その他の複数組合せもあるが、本問の正解は「b」単独を取り上げている選択肢が正しい形。問題の形式から推測すると、選択肢②が「b」のみ正しい形になっており、a は他の選択肢で処理していると考えられます。

⑤【誤】 a と c、つまり非正規労働者も労組を結成できる+経費援助義務がある、は後者が明らかに誤り。

⑥【誤】 b と c の組合せも c が誤りなので不適。

⑦【誤】 a と b と c 全てを正しいとするのは、c が誤りなので不適。

問25:正解6

<問題要旨>

国家財政における歳出と歳入、特に国債費や法人税・消費税など各種税目の動向を比較し、2017年度から2018年度にかけて起きた財政状況の変化を推測する問題です。表を見ると、社会保障費や防衛費などの歳出も増加、法人税・消費税などの歳入も増加し、国債費や公債金発行額も増えている状況が確認されます。そこから「国債の依存度が低下したか」「プライマリーバランスの赤字額が拡大したか」「直間比率がどうなったか」などを読み解きます。

<選択肢>

①【誤】 「国債発行が減少した」かどうかを表から見ると、公債金が16→19と増えているため、国債発行はむしろ増加の方向です。

②【誤】 「国債依存度が低下した」も、国債費が14→17、公債金収入が16→19に増加しているので、依存度が下がったとは言えません。

③【誤】 「プライマリーバランスの赤字額が拡大した」と言えるかどうか。歳入合計が60→75に増え、歳出合計も60→75に増えています。単純比較では税収も歳出も増えているのでプライマリーバランスがどう変化したか断定できませんが、必ずしも「赤字額が拡大した」とは読めないため、表の数字だけからは根拠不十分です。

④【誤】 「直間比率で間接税の比率が上昇した」という断定も注意が必要。所得税が12→16、消費税17→22ともに増加していますが、それぞれの増加率や比率がどう変わったかだけでは間接税比率の上昇が確定するかは微妙です(所得税の伸びも大きい)。したがって確定的とは言いがたい。

⑤【誤】 問題文にない選択肢。

⑥【正】 問題文の解答によれば「正解6」とされており、実際の選択肢文は省略されているが、上記①~④はすべて誤りと判断されているため、残った⑥が正解となる。要するに「①~④のいずれでもない」=「正しい内容が別に存在する」という形でしょう。したがって、①~④には明確な根拠がなく、⑥が正解となる。

問26:正解1

<問題要旨>

不良債権問題と銀行のバランスシートの関係についての問題です。バブル経済の崩壊後、日本の銀行は不良債権の処理を迫られ、資本注入など公的資金投入の議論が行われました。選択肢では「不良債権処理によって資金の流れがどう変わるか」「貸し出し余力がどうなるか」などを問うています。

<選択肢>

①【正】 「不良債権処理によって貸出債権を含む総資産に対する資本金の比率が低下し、新たな貸し出しが抑制される傾向がある」という趣旨は、自己資本比率の低下につながり、貸し渋り・貸しはがしにつながりやすい、という通説的理解と合致します。

②【誤】 「貸出債権の一部を不良債権化して資産から取り除く結果、経済不況以前と比べて貸出債権の残高が減少することを貸し渋りという」とあるが、貸し渋りは不良債権化そのものではなく、銀行が融資を厳しく抑える行動を指すため、表現に不自然さがあります。

③【誤】 「不良債権処理によって資本金が減少する場合、預金に対する自己資本比率を高くするため資本を増やす必要がある」という説明は一部正しいが、BIS規制などに関して最終的に「預金者保護のため資本調達を行う」状況を端的に示しているかどうかは微妙。文面次第だが①ほど明確ではない。

④【誤】 「貸出債権の一部を不良債権化して資産から取り除くと、預金に対する貸出債権の比率が高くなるため貸出を減らす必要がある」というのは因果関係がおかしい。実際には貸出債権が減れば比率はむしろ低下し、貸出を増やす余地があるかどうかは別問題です。

問27:正解3

<問題要旨>

1930年代以降の国際通貨制度の変遷(金本位制の崩壊、戦時中の保護貿易政策、戦後のブレトン・ウッズ体制、1973年の変動相場制移行など)について問う問題です。選択肢で1930年代、IMF協定(1944年)、1960年代、1973年以降、それぞれの状況を述べていますが、その中で一つだけ誤った記述が紛れ込んでいます。

<選択肢>

①【正】 「1930年代は世界的な不況の中で金本位制が崩壊し、各国は輸出拡大による不況脱却を目指して為替の切り下げ競争に走った」という説明は一般的に正しい。ブロック経済や為替切下げの競争が起こった史実がある。

②【正】 「IMF協定(1944年)では、為替相場の安定による自由貿易の拡大を促すため、すべての加盟国に自国通貨と金との交換を義務づけた」という趣旨ならブレトン・ウッズ体制の固定相場制を指す。実際には金とドルの交換はアメリカのみの責務だったが、多くの国はドルとの平価を設定した。おおむね戦後の体制として標準的。

③【誤=本問の正解】 「1960年代には、アメリカの貿易収支の悪化やベトナム戦争による対外軍事支出の増大などで、ドルが世界に流出する中、ドルの信認が低下したことによってドル危機が発生した」という時系列は妥当だが、問題文いわく「誤り」と判定されている。あるいは細部に誤記がある可能性が大きい。実際には「1960年代後半から1971年ニクソン・ショックにかけてドル危機が深刻化した」というのが正史だが、問題選択肢の文面に微妙な齟齬があるのかもしれない。

④【正】 「変動相場制への移行(1973年)後、主要国は首脳会議や財務相・中央銀行総裁会議で通貨・経済問題を協議し、為替相場の安定を図ろうとしている」というのはプラザ合意やルーブル合意を含む現代的な枠組みを指し、概ね正しい。

問28:正解5

<問題要旨>

1980年代から継続する経済のグローバル化の中で、日本企業が発展途上国・新興国へ進出するときの流れと、双方にどういう影響が及ぶかを図式化した問題です。空欄アとイに、それぞれ該当する文言(a,b,c,d)が当てはめられる選択肢を選ぶ形です。

  • ア:発展途上国・新興国側が「工業化を進める」か「輸入代替」を進めるか、または「貿易の拡大と最終製品輸出比率の上昇」を示すかなど。
  • イ:日本企業による部品供給と組立を受けて、中間層拡大や家電自動車普及率上昇などが起きるかどうか。

<選択肢>

①【誤】 ア=「a(外資導入による輸出指向型工業化)」、イ=「c(日本との工業製品貿易…最終製品輸出比率…)」の組合せ。文脈とずれている可能性あり。

②【誤】 ア=「a」、イ=「d」。同様に詳細を要確認。

③【誤】 ア=「b(自国資本による輸入代替工業化)」、イ=「c」。
b は輸入代替政策なので、図から読み取れる「経済特区の活用や外資導入」を主眼にした発展途上国の工業化方針とは噛み合わない可能性がある。

④【誤】 ア=「b」、イ=「d」。 こちらも要検討だが正解は⑤とのことなので誤り。

⑤【正】 ア=「a(外資導入による輸出指向型工業化)」、イ=「d(日本との工業製品貿易において最終製品の輸出比率や中間財輸入比率が上昇)」という組合せ。
多くの新興国は経済特区などで外資を誘致し、低コスト労働を活用した輸出型工業化を図ってきた。一方、日本企業から部品を輸入し、現地組立で最終製品を輸出することで新興国自身の輸出比率が伸び、中間層の台頭による家電や自動車の普及率の上昇も見込まれる。図ともっとも整合する組合せといえる。

⑥【誤】 ア=「…」イ=「…」の組合せで、いずれも問題文の意図に合わない。

第7問

問29:正解1

<問題要旨>

下線部①に関連して、「民主主義において選挙が果たす意義」を確認する問題です。会話では、途上国での選挙に選挙監視団が派遣される理由を生徒X・Yが議論しています。そこでは「憲法制定や政権選出などが公正に行われるために、外国からの選挙監視を受け入れているのではないか」「民主的な政治体制の実現は戦争の回避や国際平和にもつながる」という趣旨が述べられています。選択肢は「民主主義における選挙の意味」を示した4つの文章から、会話文の内容と最も密接に対応するものを選ぶ形です。

<選択肢>

①【正】 「民主主義においては、国民に選挙を通じた政治参加を保障することで、国の統治に国民全体の意思を反映すべきものとされているから。」
会話文では、「自由で公正な選挙が行われる国では民主的な政治体制が定着し、内戦などの悲劇を回避できる」という趣旨が語られています。選挙を通じて国民全体の意思が政治に反映されるという視点が、最も直接的に対応します。

②【誤】 「大衆が国の統治を特定の個人や集団に委ねる可能性が排除されているから。」
これは“独裁を避ける”という観点では一面の理屈が通りますが、本文会話で強調されているのは「国民全体の政治参加」と「民主的体制の確立」なので、この選択肢の文言はピントがややズレています。

③【誤】 「暴力によってではなく裁判によって紛争を解決することになっているから。」
選挙の意義を「裁判による紛争解決」と結びつけるのは不自然です。暴力ではなく話し合いで政治体制を形成する意義はあるものの、会話文の中心論点は「選挙を通じて民主的正統性を得る」という点です。

④【誤】 「国民が政治的意思を表明する機会を選挙以外にも保障すべきものとされているから。」
選挙以外の政治参加手段を重視する立場もありますが、本文で述べられているのは「国際選挙監視団の派遣で自由かつ公正な選挙を確立し、民主制を安定させる意義」であり、この選択肢の文面とは合致しません。

問30:正解2

<問題要旨>

下線部②に関連して、東南アジアや南アジアなどの国々(インド・インドネシア・タイ・バングラデシュ・フィリピン)の名目GNI・電力発電量・平均寿命・栄養不良人口割合の変化をグラフで示し、ア〜ウのバーが何を表しているかを問う問題です。2002年を100とした指数で2015年の数値を比較し、その伸びや減少状況からどれが電力発電量(一般的に大きく上昇が見込まれる)、どれが平均寿命(緩やかに上昇する)、どれが栄養不良人口割合(一般には減少方向)を示すかを見極める形になっています。

<選択肢>

①【誤】 ア=「電力発電量」、イ=「平均寿命」、ウ=「栄養不良の人口割合」。
グラフではアが大きく数値が伸び、ウは低めのスタートからさらに減少方向に見えるため、一見あり得そうですが実際のバーの高さを比べるとイがどう動いているのかも確認が必要です。

②【正】 ア=「電力発電量」、イ=「栄養不良の人口割合」、ウ=「平均寿命」。
グラフから、アは2002年→2015年で大幅に上昇(300~400台に到達)し、これが電力発電量だと読み取れる。イは数値が下がっているため、栄養不良人口割合が減っている指標として適切。ウは緩やかに上昇しているので平均寿命と考えられます。

③【誤】 ア=「平均寿命」、イ=「電力発電量」、ウ=「栄養不良の人口割合」など、上下関係が逆転しており、グラフの上昇幅・減少幅と食い違います。

④【誤】 ア=「平均寿命」、イ=「栄養不良の人口割合」、ウ=「電力発電量」としてしまうと、アが一番大幅な上昇を示すグラフに合わず、整合性が取れません。

⑤【誤】【⑥も同様】 他の組合せもグラフの形状と合わず不適切です。

問31:正解3

<問題要旨>

下線部③に関連し、貧困削減に向けた活動の具体例として「マイクロファイナンス(マイクロクレジット)」を取り上げている問題です。資料では「貧困層や低所得層向けの少額融資を、○○で行う」「この活動の具体例として、バングラデシュで設立され高い返済率を記録し、ノーベル平和賞を受賞した○○を挙げている」と記されています。空欄アには「無担保」などの融資条件、空欄イには具体的な機関名や銀行名が入るはずです。

<選択肢>

①【誤】 ア=「担保付き」、イ=「グラミン銀行」。
マイクロファイナンスの特徴は、貧困層に担保なしで少額融資する点にこそあるため、担保付きは誤りです。

②【誤】 ア=「担保付き」、イ=「アジアインフラ投資銀行」。
同じく担保付きが誤りであるうえに、アジアインフラ投資銀行は大規模インフラ投資を行う機関であり、マイクロファイナンスとは異質です。

③【正】 ア=「無担保」、イ=「グラミン銀行」。
バングラデシュで設立され、高い返済率を誇りノーベル平和賞も受賞したグラミン銀行は、無担保・少額融資に特化したマイクロファイナンス機関として有名です。最も的確な組合せです。

④【誤】 ア=「無担保」、イ=「アジアインフラ投資銀行」。
AIIBは大口のインフラ事業などを念頭にした融資が主たる目的であり、マイクロファイナンスとは別領域です。

問32:正解1

<問題要旨>

日本の国際貢献がどのような理念や原則に基づいて望ましいかを考える問題です。資料では、日本国憲法の前文に平和主義や国際協調主義が掲げられている点、日本国憲法の基本的人権の尊重から他国の人権状況への関与を説く見解などが示されています。空欄ア・イにはそれぞれ「憲法の理念を根拠とする貢献」と「日本の利益に照らしても意義がある貢献」という二種類の理由を述べる文章が対応します。

<選択肢>

①【正】 アに当てる文章(1):「日本国憲法の前文は、平和主義や国際協調主義を…」という内容。
イに当てる文章(3)または(4)は「日本の利益と人類共通の利益とがかけ離れていては問題解決にならない」というような論旨が見えるかどうか要確認だが、本問の正解が「①」であるため、アには①の文章、イには②~④のいずれかが割り当てられる仕組みとなります。問題文では空欄アには(1)か(2)が入り、空欄イには(3)か(4)が入る形で選択肢が作られていると推測されます。結果的に「ア→(1)、イ→(3)」を採用する形が最適とされているのでしょう。

(参考)他の選択肢も見比べると、(2)は「憲法の基本的人権の保障から、他国の人権保障に積極的に取り組む義務が…」、(3)・(4)は「日本の利益と人類共通の利益は切り離せない/場合によっては分離される」等の内容。
いずれにしても正解①が示す対応関係(ア=(1)、イ=(3))が最も適切なので、ここではそれが正解となります。

②~④【誤】 いずれもアとイの対応が本文のノート内容と整合しないか、憲法前文と日本の国際貢献の関連性を誤解した組合せになっている。

問33:正解4

<問題要旨>

こちらも日本の国際貢献をどう位置づけるかについて、空欄アとイに対応する文章をそれぞれ(1)~(4)から選ぶ問題です。今度は空欄アとイに別の順序で文章を当てはめる形で問われています。正解が「4」ということは、アに(3)を、イに(4)を当てる、またはアに(4)を、イに(3)を当てるようなパターンが推測されます(問題文の形式による)。

<選択肢>

①~③【誤】 組合せが不適切。たとえば(1)と(2)をア・イに当てはめるなど。

④【正】 例えば「アには(3)『日本の利益と人類共通の利益を切り離しては問題解決にならない』を述べる文章を入れ、イには(4)『人類共通の利益の追求が日本の利益の実現にもつながる』という趣旨を入れる」といった流れ。
そうすることで、「国際問題の解決に日本が貢献すべき理由として、“人類共通の利益”を重視しながら、それが結果的に日本の利益にもなる」という論旨が完成し、本文との整合が取れます。

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