2023年度 大学入学共通テスト 本試験 生物 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解⑤

<問題要旨>

原核生物における遺伝子発現の調節、特にオペロン説に関する基本的な理解を問う問題です。 

<選択肢>

①【誤】

オペロンとは、関連する機能を持つ複数の遺伝子が、単一の調節領域(プロモーターやオペレーター)によってまとめて転写調節される単位です。 2 個々の遺伝子が異なる調節タンパク質によって制御されるわけではありません。

②【誤】

オペロンを構成する複数の遺伝子は、共通のプロモーターに1種類のRNAポリメラーゼが結合することによって、一本のmRNAとしてまとめて転写されます。

③【誤】

リプレッサー(抑制因子)は、DNA上のオペレーターと呼ばれる領域に結合することで、RNAポリメラーゼの結合や転写の進行を物理的に妨げ、遺伝子の転写を抑制します。RNAポリメラーゼ自体に結合するわけではありません。

④【誤】

基本転写因子は、真核生物の核内において、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合するのを助けるタンパク質群です。原核生物には核がなく、転写の仕組みも異なるため、核内の基本転写因子は必要ありません。

⑤【正】

調節タンパク質(リプレッサーやアクチベーターなど)は、オペレーター(あるいはその近傍の調節領域)と呼ばれるDNA上の特定の塩基配列に結合することで、RNAポリメラーゼによる転写を制御(抑制または促進)します。

問2:正解④

<問題要旨>

硫酸十分条件と硫酸欠乏条件における、シアノバクテリアの6種類の遺伝子(A~F)の発現量の違いを示すグラフ(図1)を読み取り、適切な考察を選ぶ問題です。

<選択肢>

ⓐ【誤】

図1の左のグラフを見ると、遺伝子Aと遺伝子Bは、硫酸十分条件(白棒)では発現量が高いですが、硫酸欠乏条件(黒棒)では発現量が大きく低下しています。このことから、これら遺伝子の発現は硫酸イオン濃度によって明らかに制御されています。

ⓑ【正】

図1の中央のグラフを見ると、遺伝子Cと遺伝子Dは、硫酸十分条件(白棒)で高い発現量を示し、硫酸欠乏条件(黒棒)では発現量がほぼ0になっています。これは、これら遺伝子が主に硫酸十分条件で働く(発現する)ことを示しています。

ⓒ【正】

図1の右のグラフを見ると、遺伝子Eと遺伝子Fは、硫酸欠乏条件(黒棒)で高い発現量を示し、硫酸十分条件(白棒)では発現量がほぼ0です。問題文には、硫酸欠乏条件ではメチオニンやシステインを必要最小限しか持たない複合体を使うようになるとあります。硫酸欠乏条件で強く発現する遺伝子EとFは、このアミノ酸の少ない複合体のサブユニットを指定する遺伝子であると強く推測できます。

ⓓ【誤】

硫酸欠乏条件では、遺伝子EとFが発現して集光装置が作られています。集光装置は光合成に用いられるため、集光装置の種類を変えながらも光合成は行っていると考えられます。

以上の考察から、適当な記述はⓑとⓒです。したがって、その組合せである④が正解です。

問3:正解④

<問題要旨>

遺伝子EとFの転写が調節タンパク質Rによって制御されている、という仮説を証明するために、「適当でない」実験操作を選ぶ問題です。

<選択肢>

①【適当】

調節タンパク質Rが遺伝子E, Fの転写(例えば、硫酸欠乏条件での発現誘導)に必要なのであれば、Rの機能を失った変異体では、硫酸欠乏条件にしても遺伝子E, Fの発現が起こらない、あるいは低下すると予想されます。これは仮説の検証に有効です。

②【適当】

調節タンパク質Rが遺伝子E, Fの転写を促進するのであれば、Rを過剰に発現させると、遺伝子E, Fの発現量が(硫酸欠乏条件で)さらに増加したり、本来発現しない硫酸十分条件でも発現が誘導されたりする可能性があります。これは仮説の検証に有効です。

③【適当】

調節タンパク質が遺伝子の「転写」を調節する場合、その遺伝子のプロモーターやオペレーターといった転写調節領域に結合するのが一般的な仕組みです。Rが遺伝子E, Fの転写調節領域に結合するかを調べることは、Rによる直接的な制御を証明する有力な証拠となります。

④【不適当】

この仮説は、遺伝子E, Fの「転写」(DNAからmRNAが作られる段階)の調節に関するものです。遺伝子E, Fから「つくられるタンパク質」(翻訳産物)と調節タンパク質Rが結合するかどうかを調べても、それは転写の制御ではなく、翻訳後のタンパク質の活性調節など、別の段階の制御を示唆するものであり、転写調節の仕組みを直接証明することにはなりません。

⑤【適当】

遺伝子E, Fの発現が硫酸イオン濃度によって変動する(硫酸欠乏で発現) のであれば、その調節に関わるタンパク質R自体の発現量や活性(活性型への変化など)も、硫酸イオン濃度によって変動する可能性が考えられます。これを調べることは、仮説を支持する証拠の一つとなり得ます。

問4:正解⑦

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第2問

問1:正解⑦

<問題要旨>

遺伝子重複によって生じた重複遺伝子の、その後の進化的変化に関する記述として、適当なものをすべて選ぶ問題です。

<選択肢>

ⓐ【正】

遺伝子重複により同じ遺伝子が2つになると、片方のコピーが本来の機能を担い続ける限り、もう一方のコピーには突然変異が蓄積しやすくなります。その結果、アミノ酸配列が変化し、元のタンパク質とは異なる機能を持つ新しいタンパク質が生まれることがあります。

ⓑ【正】

遺伝子の機能(アミノ酸配列)は変わらなくても、その遺伝子の転写調節領域に突然変異が起こることで、発現する場所(組織)や時期、量が変化することがあります。これも遺伝子重複後に起こりうる重要な進化的変化の一つです。

ⓒ【正】

重複した遺伝子の一方に、その機能を失わせるような突然変異(偽遺伝子化)が起こったとしても、もう一方のコピーが正常に機能していれば、個体の生存に必須な機能は維持されます。そのため、片方の機能喪失は個体にとって不利にならない(中立的である)ことがあります。

以上の考察から、ⓐ、ⓑ、ⓒはいずれも遺伝子重複によって起こりうる現象として適当です。したがって、全てを含む⑦が正解です。

問2:正解②⑤

<問題要旨>

ノドジロオマキザルの二色型と三色型の食物発見効率のデータ(図1, 2)を解釈し、適当な推論を二つ選ぶ問題です。まず、グラフの凡例(二色型=灰色棒、三色型=白色棒)を正しく読み取ります。図1(昆虫)では、暗い場所で二色型(2.0)が三色型(1.0)より有利です。図2(果実)では、赤黄色の果実で三色型(約1.4)が二色型(1.0)より有利です。

<選択肢>

①【誤】

果実のみ(昆虫なし)の場合、赤黄色の果実があれば三色型が有利であり、緑色の果実なら差はありません。三色型が不利になる状況ではありません。

②【正】

昆虫のみ(果実なし)の場合、明るい場所では差がありませんが、暗い場所では二色型の方が発見効率が高く(有利)です。したがって、特に暗い環境では二色型が生存に有利になると言えます。

③【誤】

暗い場所(昆虫は二色型有利)、赤黄色果実(果実は三色型有利)の環境では、両方の色覚タイプが維持される(平衡選択)可能性があります。しかし、ノドジロオマキザルの雄はX染色体を1本しか持たないため、必ず二色型となり、三色型にはなれません。「雄…に…三色型が共存する」という記述が誤りです。

④【誤】

明るい場所(昆虫は差なし)、赤黄色果実(果実は三色型有利)の環境では、三色型(ヘテロ雌)が一方的に有利です。しかし、雄は必ず二色型であり、三色型になれません。したがって、「最終的に全ての個体が三色型になる」は誤りです。

⑤【正】

明るい場所(昆虫は差なし)、果実は赤黄色(三色型有利)と緑色(差なし)が混在する場合、赤黄色の果実の存在により、三色型(ヘテロ接合の雌)は二色型(ホモ接合の雌)よりも生存に有利になります。このような「ヘテロ接合体の有利さ」が働く環境では、集団内に両方の対立遺伝子が維持され、結果として二色型と三色型の共存が維持される(平衡多型)と考えられます。

⑥【誤】

明るい場所(昆虫は差なし)、緑色果実(差なし)の環境では、二色型と三色型の間に食物発見効率の差がありません。したがって、どちらかの頻度が選択的に増加・減少するとは考えられません。

問3:正解④

<問題要旨>

2種類の嗅覚受容体(A, B)を持つ培養細胞の、5種類の匂い物質(C~G)に対する応答(表1, 2)に基づき、嗅細胞に関する推論として「適当でない」ものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①【適当】

表2を見ると、培養細胞B(受容体B)は、匂い物質C, D, Eに対しては、どの濃度でも興奮していません(応答が0)。このように、嗅細胞(受容体)によっては反応しない匂い物質があることがわかります。

②【適当】

培養細胞A(表1)は、物質C, D, Eに対して濃度10 mg/Lから応答し始めます。一方、培養細胞B(表2)は、物質F, Gに対して濃度30 mg/Lから応答し始めます。このように、興奮が起こる最低濃度(閾値)は、匂い物質や受容体の種類によって異なることがわかります。

③【適O】

例えば、濃度30 mg/Lでは、物質Eは細胞Aのみを興奮させ、物質Fは細胞AとBの両方を興奮させます。このように、匂い物質の種類と濃度によって、興奮する嗅細胞の「組合せ」が異なります。これが匂いを識別する仕組みの基礎となっています。

④【不適当】

表1(細胞A)を見ると、濃度300 mg/Lでは、物質C~Gのすべてに対して興奮の大きさが100(最大値)となっています。表2(細胞B)でも同様です。このように、濃度が「高すぎる」と受容体が飽和してしまい、異なる匂い物質に対しても興奮の大きさが同じ(最大値)になって区別ができなくなります。したがって、「濃度が高ければ高いほど…異なる興奮の大きさを示す」 という記述は誤りです。

⑤【適当】

例えば、濃度30 mg/Lにおいて、培養細胞Aは物質Cには25、物質Dには15、物質Eには65と、匂い物質の種類によって異なる興奮の大きさを示しています。

問4:正解⑦

<問題要旨>

10種類の嗅細胞(嗅球の10か所)があり、それぞれの興奮の大きさが4段階(0, 30, 65, 100%)で識別される場合、興奮パターン(位置と大きさの組合せ)が何通りあるかを計算する問題です。

<選択肢>

①~⑧

10種類の嗅細胞が、それぞれ独立に4段階の状態をとると考えられます。1種類目の細胞の状態が4通り、2種類目の細胞の状態が4通り、…、10種類目の細胞の状態が4通りです。したがって、組合せの総数は、重複順列を用いて 4×4×…×4(10回)= 410 と計算できます。410=(22)10=220 です。ここで、210=1024 であることを利用すると、220=210×210=1024×1024 となります。これは、およそ 1000×1000=1,000,000(100万)です。したがって、アに入る数値として最も適当なのは⑦の1,000,000です。

第3問

問1:正解⑧

<問題要旨>

日なたと葉陰の光環境の違いが、フィトクロムを介した種子発芽(ジベレリンとアブシシン酸が関与)に与える影響についての知識を問う問題です。

<選択肢>

①~⑧

空欄アについて。葉陰では、光合成色素が赤色光(R)を吸収するため、遠赤色光(FR)が相対的に多くなります。一方、日なたでは赤色光も遠赤色光も豊富に含まれます。したがって、日なたは葉陰と比較して、遠赤色光に対する赤色光の割合が「高い」です。

空欄イについて。フィトクロムは、赤色光を吸収するとPr型からPfr型に変化し、遠赤色光を吸収するとPfr型からPr型に戻ります。日なたでは赤色光の割合が高いため、Pr → Pfr の反応が優勢になり、Pfr型(遠赤色光吸収型)フィトクロムの割合が「増加」します。

空欄ウについて。Pfr型フィトクロムは、レタスなどの光発芽種子の発芽を促進します。この促進作用は、Pfr型が発芽促進ホルモンであるジベレリンの合成を誘導し、同時に発芽抑制ホルモンであるアブシシン酸の働きを「抑制」することによって引き起こされます。

したがって、ア=高い、イ=増加、ウ=抑制 となる⑧が正解です。

問2:正解⑤

<問題要旨>

葉緑体の細胞内分布の違いが、葉を透過する光のスペクトル(波長ごとの透過率)にどう影響するかを、実験1(図3)の結果から考察する問題です。

<選択肢>

①~⑥

まず、実験1(図3)から葉緑体の分布を確認します。処理1終了直後(葉陰、弱光)では、葉緑体は細胞上面と底面に広がり、光を効率よく吸収する配置になっています。処理2終了直後(日なた、強光)では、葉緑体は細胞の側面に集まり、強い光を避ける配置になっています。

次に、透過率を比較します。処理1(葉陰配置)では、葉緑体が光の通り道に広がっているため、光は吸収されやすく、透過率は「低く」なります。処理2(日なた配置)では、葉緑体が側面に逃げているため、光はすり抜けやすく、透過率は「高く」なります。したがって、グラフ全体として、処理2(破線)が処理1(実線)よりも上側(透過率が高い)にあるグラフ(①、③、⑤)が候補となります。

最後に、波長と吸収の関係を考えます。葉緑体に含まれるクロロフィルは、青色光(約400~450nm)と赤色光(約650~700nm)を強く吸収し、緑色光(約500~600nm)はあまり吸収しません。したがって、透過率のグラフは、青色光と赤色光の波長域で谷(透過率が低い)となり、緑色光の波長域で山(透過率が高い)となるはずです。

この特徴と一致し、かつ処理2(破線)が処理1(実線)より上側にあるグラフは⑤のみです。

問3:正解②

<問題要旨>

実験1~3の結果に基づき、葉緑体の光定位運動の仕組み(実験2)と生理的意味(実験3)に関する考察として、「適当でない」ものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①【適当】

実験3では、日なた(強光)に置くと、葉緑体の分布状態に関わらず(常に逃避状態の変異体Rですら)、野生型・変異体ともに光合成速度が低下しました。このことから、強い太陽光は葉緑体に何らかの傷害(光阻害など)を与える可能性があると考察できます。

②【不適当】

実験3の結果、強光下では変異体R(常に側面=逃避)の光合成速度の低下が最も小さかった(=傷害が最も少なかった)ことが示されています。一方、変異体Q(常に上面・底面=強光をまともに受ける)は、傷害が大きかったと推測されます。もし、よく晴れた日が続く日なたで長期間生育させた場合、強光による傷害を避けられる変異体Rの方が、傷害を受けやすい変異体Qよりも、光合成を安定して行え、成長速度は大きくなると予想されます。「変異体Qの方が変異体Rよりも成長速度が大きい」 という記述は、実験3の結果から導かれる推論と矛盾しており、適当ではありません。

③【適当】

実験1で野生型は日なたで葉緑体を側面(逃避位置)に移動させ、実験3で側面にある変異体Rは強光による傷害(光合成速度低下)が最も小さかったことから、野生型が葉緑体を側面に移動させるのは、強い太陽光による傷害を避けるためであると考察するのが妥当です。

④【適当】

実験2から、この葉緑体の分布変化は青色光受容体フォトトロピンが関与していることがわかります。実験1では葉陰(弱光)で上面・底面(光定位)に移動しました。葉陰は青色光も弱い環境です。したがって、フォトトロピンが感知する「青色の光が弱い環境」であれば、葉陰でなくても、葉緑体は光を効率よく集めるために細胞上面と細胞底面に移動すると推測されます。

第4問

問1:正解③

<問題要旨>

植物による窒素(N)とリン(P)の利用や、それらを含む有機物に関する記述として、誤っているものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①【正】

核酸(DNA, RNA)の構成単位であるヌクレオチドは、リン酸(Pを含む)、糖、塩基(Nを含む)からなります。ATP(アデノシン三リン酸)も、アデニン(Nを含む塩基)、リボース(糖)、3つのリン酸(Pを含む)からなります。したがって、どちらの合成にもNとPの両方が必要です。

②【正】

アミノ酸はタンパク質の材料であるだけでなく、クロロフィル、核酸の塩基、一部の植物ホルモンなど、窒素を含む様々な生体分子の合成における前駆体としても利用されます。

③【誤】

タンパク質の一次構造は、アミノ酸のアミノ基とカルボキシ基が「ペプチド結合」でつながることによって形成されます。その後、ポリペプチド鎖が折りたたまれて立体構造(三次構造)が形成されますが、その構造はアミノ酸の「側鎖」間のさまざまな相互作用(水素結合、イオン結合など)によって安定化されます。「側鎖どうしがペプチド結合でつながる」 わけではありません。

④【正】

カルビン・ベンソン回路は、CO₂を固定して糖を合成する一連の化学反応であり、各反応は酵素によって触媒されます。酵素の主成分はタンパク質であり、タンパク質はアミノ酸(窒素を含む)から構成されています。したがって、CO₂固定反応には窒素を成分とする有機物(酵素)の働きが不可欠です。

問2:正解③

<問題要旨>

生態系の純生産量と、生態系内に蓄積される有機物の量の関係を問う問題です。

<選択肢>

①~⑤

総生産量(GP)は生産者が光合成で生産した全有機物量です。純生産量(NP)は、総生産量から生産者の呼吸量(Rp​)を引いた値 (NP=GP−Rp​) であり、これが生産者の成長や他の生物(消費者、分解者)に利用される分の有機物量となります。生態系内に蓄積される有機物の量は、この純生産量(NP)から、その生態系に住む全ての消費者(分解者も含む)が呼吸によって消費した有機物量(Rc​) を差し引いたものに相当します。したがって、蓄積量 = 純生産量 – (分解者を含む消費者の呼吸量) となります。選択肢③がこの関係を正しく示しています。

問3:正解②

<問題要旨>

3地点(A, B, C)の土壌中のN, P濃度(図1)と、各地点での施肥実験の結果(図2 ア, イ, ウ)を対応付ける問題です。成長は「最も不足している栄養分」によって制限される(リービッヒの最小律)と考えます。

<選択肢>

①~⑥

まず、図1のN, P濃度を整理します。N濃度 ( NO3−​ + NH4+​ ) は A(低) << B(高) < C(超高)、P濃度は B(低) ≈ C(低) << A(高) です。

次に、図2の成長パターンを解釈します。グラフ ア は、N添加で大きく成長し、N+P添加でさらに成長することから、Nが第一制限要因、Pが第二制限要因であるとわかります。グラフ イ は、P添加でのみ大きく成長することから、Pのみが制限要因であるとわかります。グラフ ウ は、N+P添加で最も大きく成長することから、NとPの両方が制限要因である可能性が高いです。

これらを対応付けます。地点B (N高, P低) は、Nが十分でPが不足しているため、「Pのみが制限要因」であるグラフ イと一致します。地点A (N低, P高) は、Nが不足しているため、N添加の効果が最も大きいグラフ アと一致します。地点C (N超高, P低) は、残ったグラフ ウと対応します。

したがって、ア=地点A、イ=地点B、ウ=地点C となり、選択肢②が正解です。

問4:(エ)正解③ (オ)正解⑦

<問題要旨>

図3の反応式に基づき、1分子のN2​を固定するために必要なグルコースの分子数(エ)と、固定された窒素がアミノ酸合成に利用される際の中間体(オ)を答える問題です。

<選択肢>

  • エ(グルコース分子数):
    窒素固定反応(図3下)より、1 N2​ の固定には 16 ATP と 8 e− が必要です。ATPの合成(図3上左)では 1 グルコース → 32 ATP、電子の供給(図3上右)では 1 グルコース → 16 e− が供給されます。したがって、16 ATP を得るためには 0.5 グルコース、8 e− を得るためには 0.5 グルコースが必要です。合計で 0.5 + 0.5 = 1 分子のグルコースが必要となります。よって、エは 1(選択肢③)です。
  • オ(アミノ酸合成):
    固定された NH3​ (NH4+​) は、植物細胞内でまずグルタミン酸に取り込まれてグルタミンが合成されます。次に、グルタミンと α-ケトグルタル酸 から2分子のグルタミン酸が合成されます。こうして生成した「グルタミン酸」のアミノ基が、有機酸に転移されて様々なアミノ酸が合成されます。文中の「 オ のアミノ基は有機酸に転移され…」 という記述から、アミノ基の主要な供給源となる オ は「グルタミン酸」(選択肢⑦)が最も適当です。
問5:正解⑥

<問題要旨>

根粒菌と共生する植物が、窒素が不足していても必ずしも有利とは限らない理由について、文中の空欄(カ~ケ)を埋める問題です。

<選択肢>

①~⑧

空欄カ・キについて。植物が土壌から吸収する NO3−​(硝酸イオン)は NH4+​(アンモニウムイオン)に還元するために多くのエネルギーを必要とします。一方、NH4+​ はそのまま有機物合成に利用できます。したがって、有機窒素化合物の合成に必要なエネルギー量は、「 NH4+​ を用いる経路」(カ)よりも「 NO3−​ を用いる経路」(キ)の方が大きくなります。

空欄クについて。根粒菌は、植物が光合成でつくった有機物をエネルギー源として利用します。自ら有機物を合成できないため、「従属栄養」生物です。

空欄ケについて。共生のコストは、植物が光合成で得たエネルギー(有機物)を根粒菌に供給することです。もし「暗い」環境で光合成が十分に行えず、植物自身のエネルギーが不足している場合、この共生コストの負担は非常に重くなります。その結果、窒素固定による利益よりもコストが上回り、「大きな利益を得ることができない」 状況になると考えられます。

以上の組合せ(カ = NH4+​, キ = NO3−​, ク = 従属栄養, ケ = 暗い)と一致する選択肢は⑥です。

第5問

問1:(ア)正解⑤ (イ)正解④

<問題要旨>

常染色体上の母性遺伝子M(正常)と対立遺伝子m(機能喪失)について、遺伝子型が子の発生にどう影響するかを問う問題です。「母性遺伝子」は、受精卵自身の遺伝子型ではなく、「母親の遺伝子型」によって卵(胚)の発生能力が決まるという点が重要です。

<選択肢>

  • ア(Mm × Mm の子の発生率):
    交配は 雌(Mm) × 雄(Mm) です。母親の遺伝子型が Mm であり、正常遺伝子Mを1つ持っているため、生存に必要な母性因子Mを正常に合成し、卵に供給できます。母親から正常な母性因子が供給されているため、受精卵自身の遺伝子型(MM, Mm, mm)に関わらず、全ての受精卵が正常に発生できます。したがって、アは 100%(選択肢⑤)です。
  • イ((Mm×Mm)の子の雌 × 野生型雄 の子の発生率):
    アの交配で得られた F1雌(遺伝子型は MM : Mm : mm = 1 : 2 : 1)と、雄(MM)を交配します。F1雌(母親)の遺伝子型は MM (確率 1/4), Mm (確率 1/2), mm (確率 1/4) の3通りです。母親が MM (1/4) または Mm (1/2) の場合、正常な母性因子を卵に供給できるため、子は全て発生します(発生率100%)。母親が mm (1/4) の場合、母性因子を供給できないため、子は発生できません(発生率0%)。したがって、全体の発生率は、(1/4 + 1/2) × 100% + (1/4) × 0% = (3/4) × 100% = 75% となります。よって、イは 75%(選択肢④)です。
問2:正解⑤

<問題要旨>

ショウジョウバエの前後軸形成において、濃度勾配を形成する母性因子(形態形成因子)の特徴として、適当なものをすべて選ぶ問題です。

<選択肢>

ⓐ【正】

濃度勾配を形成する母性因子は、そのタンパク質の濃度に応じて、異なる標的遺伝子の発現をオン・オフします。例えば、高濃度域、中濃度域、低濃度域でそれぞれ異なる細胞応答を引き起こすことで、胚の領域化を行います。

ⓑ【誤】

濃度勾配は、母性因子(のmRNAやタンパク質)が卵の一端(前端や後端)に局在して蓄えられ、そこから受精後に胚全体へ拡散していく過程で形成されます。全域に均一に分布した後に勾配が生じるわけではありません。

ⓒ【正】

ショウジョウバEの初期胚は、核分裂のみが急速に起こり、細胞質分裂を伴わない「合胞体」(多核の巨大細胞)の時期があります。濃度勾配を形成する母性因子(タンパク質)は、この合胞体の細胞質内を拡散し、核分裂と並行して勾配を形成します。

以上の考察から、適当な記述はⓐとⓒです。したがって、その組合せである⑤が正解です。

問3:(考察)正解⑤ (推論)正解⑧

<問題要旨>

実験1~3の結果に基づき、タンパク質Xの働きに関する正しい考察と、その考察に矛盾しないXの性質に関する推論を選ぶ問題です。

<選択肢>

  • 考察(問22):
    まず実験結果を整理します。実験1(Xなし → 腹部なし)から、Xは腹部形成に必要とわかります。実験3から、タンパク質Yは腹部形成を「阻害」するとわかります。実験2(Xなし かつ Yなし → 腹部あり)と実験1を比較すると、Xがない状態でも、阻害因子であるYさえ取り除けば、腹部が形成されることがわかります。このことから、Xがないと腹部ができない(実験1)のは、Xがないせいで阻害因子Yが働いてしまうからだと推測できます。したがって、Xの正常な働きは、「阻害因子であるYが(腹部領域で)働かないようにする」ことだと考えられます。選択肢ⓒ「タンパク質Xは、腹部形成を阻害するタンパク質Yの合成を抑制する」は、この推論と一致します。ⓒのみが正しい考察であり、組合せとしては⑤が正解です。
  • 推論(問23):
    上記の考察(XはYの「合成」を抑制する)と、実験3の追加情報(Yの「mRNA」は全域に分布するが、Yの「タンパク質」は腹部領域にない)を考え合わせます。YのmRNAが全域にあるのに、タンパク質が腹部領域にないのは、腹部領域でYのmRNAからの「翻訳」(タンパク質合成)が阻害されていることを強く示唆します。タンパク質Xは(問題文冒頭より)胚の後端(腹部領域)から濃度勾配を形成するため、「タンパク質Xが、腹部領域において、YのmRNAに結合し、その翻訳を抑制する」 という推論が成り立ちます。したがって、最も適当な推論は⑧です。
問4:正解②

<問題要旨>

母性遺伝子Xの二つの役割((A)母性因子として胚発生を制御、(B)始原生殖細胞が配偶子に分化するために細胞自体に必要)を踏まえ、実験4の移植実験の結果(空欄ウ~カ)を推論する問題です。

<選択D>

①~⑦

母性遺伝子Xの役割を整理します。(A)胚の発生(環境)には、母親が遺伝子Xを持つことが必要です。(B)始原生殖細胞の分化(細胞自身)には、細胞「自身」が遺伝子Xを持つことが必要です。

実験4前半(分化し「た」)について。移植した始原生殖細胞が分化できたのは、(B)より、細胞自身が分化能力を持っていた、すなわち「ウ = 野生型」由来の細胞だったからです。また、移植先の胚が正常に発生したのは、(A)より、その胚の母親が正常だった、すなわち「エ = 野生型」由来の胚だったからです。

実験4後半(分化し「なかった」)について。移植した始原生殖細胞が分化できなかったのは、(B)より、細胞自身が分化能力を持っていなかった、すなわち「オ = 変異体」由来の細胞だったからです。この原因が移植先の環境のせいではないことを明確にするため、移植先の環境は正常だった、すなわち「カ = 野生型」由来の胚であったと考えるのが妥当です。

したがって、ウ = 野生型, エ = 野生型, オ = 変異体, カ = 野生型 となり、選択肢②と一致します。

第6問

問1:正解⑥

<問題要旨>

生物の個体群内・個体群間における競争や、個体群の分布様式に関する記述のうち、適当なものをすべて選ぶ問題です。

<選択肢>

ⓐ【誤】

群れの大きさは、捕食者からの防御(大きいほど有利)だけでなく、群れ内の種内競争(食物や配偶相手をめぐる争い。大きいほど不利)の影響も受けて決まると考えられます。

ⓑ【誤】

種内競争によって縄張り(テリトリー)を形成すると、各個体は他個体を排除し、互いに一定の距離を保とうとします。その結果、個体の分布様式は「一様分布(均等分布)」になりやすくなります。集中分布は、資源の偏りや群れの形成で見られます。

ⓒ【正】

同じ資源(例:食物)を利用する2種間でも、食物のサイズ、採食場所、採食時間などをずらす(ニッチ分割)ことによって、資源利用の重複が減り、種間競争が緩和されることがあります。

ⓓ【正】

種間競争は、限られた資源をめぐる争いです。アユのような移動できる動物間の食物や縄張りをめぐる競争も、植物のような移動できない生物間の光、水、栄養塩をめぐる競争も、ともに種間競争です。

以上の考察から、適当な記述はⓒとⓓです。したがって、その組合せである⑥が正解です。

問2:正解②

<問題要旨>

アユの縄張りに関する実験1(表1)と実験2の結果から導かれる考察や推論として、「適当でない」ものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①【適当】

実験1では、実験前に体重が重かった個体が縄張り個体になり、軽かった個体が群れ個体になりました。さらに、実験期間中、縄張り個体は群れ個体よりも体重増加量が大きかったとあります。これは、もともと重かった個体はさらに体重を増やし、軽かった個体はあまり増やせなかったことを意味し、実験前よりも体重の個体差が大きくなったと推論できます。

②【不適当】

実験1終了時の水路内における「縄張りの総面積」を計算します。総面積 = (縄張り個体の数) × (縄張りの大きさの平均値) で求めると、水路A: 7.2 m2、水路B: 7.2 m2、水路C: 7.2 m2、水路D: 6.5 m2、水路E: 5.0 m2となります。縄張りの総面積は、個体数(密度)が多いD, Eでは減少しています。「どの水路でも変わらなかった」 という記述は誤りです。

③【適当】

実験2で、水路Dから縄張り個体を全て取り除くと、残った群れ個体(実験1では体重が軽かった個体群) の中で、1か月後に再び縄張り個体と群れ個体が観察されました。実験1の知見(重い個体が縄張りを持つ) を当てはめれば、残った群れ個体の中で「相対的に」体重の重い個体が、新たに縄張り個体になったと推論するのが妥当です。

④【適当】

実験2で、水路Eから群れ個体(40個)を取り除くと、縄張り個体(10個)だけが残りました。水路内の総個体数は50個体から10個体に激減しました。実験1(表1)の結果から、個体数(密度)が低いほど、縄張りの大きさは大きくなる傾向があります(例:水路Cは10個体で2.4 m2)。したがって、水路Eの個体数が10個体になった状況では、縄張りを維持した個体の縄張りは、実験1終了時(0.5 m2)よりも大きくなったと推論できます。

問3:正解①⑨

<問題要旨>

魚Tの縄張り行動のモデル(図1)と、異なる地点(X, Y, Z)の条件(表2)を比較し、地点Yのモデルと地点Zの最適な縄張りの大きさを選ぶ問題です。「最適な縄張りの大きさ」とは、「利益」(実線)と「労力」(破線)の差が最大になる点です。

<選択肢>

  • 地点Yのモデル(問27):
    地点X(図1)は水深2m, 密度1.0、地点Yは水深2m, 密度1.5です。水深が同じため、藻類の量、すなわち利益曲線(実線)は図1と同じと考えられます。密度が高いため(1.5 > 1.0)、縄張り防衛の労力(コスト)が増大し、労力曲線(破線)は図1より上方(より急)になると推測されます。利益曲線が図1と同じで、労力曲線が図1より上側にあるのは、選択肢①です。
  • 地点Zの最適な縄張りの大きさ(問28):
    地点X(図1)は水深2m, 密度1.0、地点Zは水深10m, 密度0.3です。水深が深い(10m > 2m)ため、光が届きにくく藻類の成長が悪くなり、利益曲線(実線)は図1より下方(緩やか)になると推測されます(グラフ②のような形)。密度が低い(0.3 < 1.0)ため、侵入者が減り、防衛の労力(コスト)が減少し、労力曲線(破線)は図1より下方(緩やか)になると推測されます(グラフ④のような形)。
    地点Zでは、利益(藻類)が少ないためにより「広い」縄張りが必要になる一方、労力が少ないためにより「広い」縄張りを維持することが可能です。この二つの要因から、地点Zの最適な縄張りの大きさは、地点X(最適約 3 m2)よりも「大きく」なると推測されます。グラフ②(利益)とグラフ④(労力)を重ねてみると、利益が飽和し始める 9 m2 付近で、利益と労力の差が最大になると視覚的に判断できます。したがって、地点Zの最適な縄張りの大きさは 9 m2(選択肢⑨)が最も適当です。
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