2026年度 大学入学共通テスト 本試験 公共・倫理 解答・解説

2026年度 大学入学共通テスト 本試験「公共・倫理」の解答と解説です。全設問の正解と考え方を一問ずつ解説し、公式の解答PDFもあわせて掲載しています。大学受験の森が独自に作成した、無料で読める解説です。

目次

解答

解説

2026年度 大学入学共通テスト本試験「公共,倫理」は、試験時間60分・満点100点6つの大問・全32問がすべて必答です。配点は第1問12点・第2問13点・第3問28点・第4問15点・第5問16点・第6問16点で、解答番号は1から32までの連番になっています。

第1問は社会保障制度の現状と課題を扱う講演会を舞台に、公助と共助の区別、ロールズの格差原理、実質GDPと累進課税、社会保障財源の国際比較、給付の要件を問います。第2問はグローバル化が進む現代社会の文化や宗教がテーマで、エスノセントリズムと文化の序列づけ、在留外国人の統計、政教分離をめぐる最高裁判例、宗教の捉え方が並びます。第3問は「悪」をめぐる授業の3場面を通した配点28の最大の大問で、荀子・グロティウス・ソクラテス・ニーチェ・カント・初期仏典と大乗経典・アーレントとヤスパースまで東西の思想を横断します。第4問は「理」と「情」をめぐる会話から森鷗外の諦念、源信の浄土信仰、和辻哲郎の風土論、荻生徂徠、坂口安吾へ。第5問はBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)を入口に基本感情・二要因理論・AIのELSI・QOL・脳情報の政策論を、第6問は道路拡張と樹木伐採からノージック、環境思想、気候・気象制御技術、カーソン、レオポルドと水俣病を問います。なお、第1問と第2問は「公共,政治・経済」および「公共」(地理総合,歴史総合,公共)にも本文・資料・選択肢まで同一の問題として出題されているため、他の2科目の問題でもそのまま演習できます(「公共」では第2問にあたる大問が第4問として置かれています)。

つまずきやすいのは、思想家の設問で「誰が何に反対して何を言ったか」が入れ替えられている型です。エラスムスとルターの自由意志、ルソーの一般意志を「全体意志」と言い換える、カントの「義務に基づく」を「義務にかなう」に緩める、ベンサムとJ.S.ミルの制裁論、シンガーの有感性を「生きているという点」に置き換える——いずれも一語の差で正誤が決まります。資料つきの設問は「前半は正しく後半が誤り」という二段構えが標準で、統計では割合と実数の混同が狙われます。その一方で、スティーヴンソンの「信念の不一致」と「態度の不一致」、『ダンマパダ』と『維摩経』の対比、坂口安吾『堕落論』、カーソン『沈黙の春』のように、記憶ではなく引用資料の文言そのままで判定できる設問も多く、ここは落ち着いて読めば確実に取れます。

第1問 社会保障制度の現状と課題(配点12)

生徒Aと生徒Bが、地元自治体主催の「社会保障制度の現状と課題」と題する講演会に参加し、災害時の公助と共助、再分配の考え方、社会保障を支える財源、給付の要件をメモやノートにまとめていく設定です。基本用語とロールズの正義論、そして表の読み取りが問われます。

問1:正解 ②(解答番号1/配点3)

<問題要旨>

生徒Aのメモにある災害時の事例a・bのうち「公助」に該当するものと、生徒Bのメモにある再分配の考え方c・dのうちロールズの「公正としての正義」における「格差原理」に該当するものを選び、その組合せを答えます。

<考え方>

公助・共助・自助の区別は「誰が担い手か」で決まります。公助は行政(国や地方自治体)が税を財源に行う支援、共助は住民や地域が互いに助け合うこと、自助は自分で備えることです。格差原理は、社会的・経済的な不平等が許されるのは「最も不遇な人々の利益になる場合だけ」とする原理なので、最大多数の利益を優先する考え方と取り違えないことが要点です。

<選択肢>

a=公助【正】

甚大な自然災害を被った地域で、地方自治体の担当部署が心のケアの相談窓口を開設した事例。担い手が行政なので公助に該当する。

b=共助【該当せず】

住民が食料を相互に持ち寄って飢えをしのいだ事例。担い手が住民同士なので共助であり、公助ではない。行政による救援物資が届くまでの「間」の行動だと書かれている点が手がかりになる。

c=格差原理ではない【該当せず】

「最大多数の人々が利益を受ける社会保障制度を優先的に構築するべき」とするのは、最大多数の最大幸福を目指す功利主義の発想。ロールズはまさにこの考え方に反対し、少数者が犠牲になり得る点を批判した。言葉のすり替えの型。

d=格差原理【正】

「再分配の際に、最も不遇な立場の人々の状況が改善される社会保障制度を構築するべき」とするのが格差原理そのもの。不平等が結果として残っても、最も恵まれない人の境遇を改善するかどうかで正当性を測る。

正解【②】

公助は行政が担い手のa、格差原理は最も不遇な人々の状況改善を基準とするdなので、その組合せが正解になります。

問2:正解 ⑥(解答番号2/配点3)

<問題要旨>

実質GDPと経済成長、企業の取組による効率性・生産性の上昇、累進課税の代表的な税についてまとめたノートが与えられ、空欄ア〜ウに入る語句の組合せを選びます。

<考え方>

GDPは「一国内で一定期間に新たに生み出された付加価値の合計」という定義に戻れば、アは一つに決まります。イは「効率性が高まったり、生産性が上昇したりする」という直後の記述が、企業による技術革新の効果を指していることから決まります。ウは累進課税、つまり所得が高いほど税率が上がる仕組みをとる税を選びます。

<選択肢>

ア=付加価値【正】

GDPは各生産段階で新たに付け加えられた価値の合計。「社会資本」は道路や港湾など公共的な資本ストックを指す語で、一年間に生み出されたものの合計という定義に合わない。

イ=イノベーション【正】

技術革新や新しい仕組みの導入が効率性・生産性を高め、労働力・資源・資金の配分を変えていく。「セーフガード」は輸入の急増に対する緊急輸入制限措置で、企業が経済成長率を高めるために行う取組ではない。言葉のすり替えの型。

ウ=所得税【正】

所得税は課税所得が大きくなるほど高い税率が適用される累進課税。消費税は誰が買っても同じ税率で、所得に対する負担割合は低所得層のほうが重くなる逆進性をもつため、格差に対処する累進課税の例にはならない。

正解【⑥】

付加価値・イノベーション・所得税の3つがそろう組合せが正解です。

問3:正解 ②(解答番号3/配点3)

<問題要旨>

フランス・ドイツ・スウェーデン・日本について、社会保障財源の対GDP比を「一般政府拠出」「事業主拠出」「被保険者拠出」と「合計」で示した表が与えられ、表から読み取れることを述べた記述を選びます。

<考え方>

この型は、記述に書かれている計算を一つずつ実際にやって確かめるのが最短です。「合計に対する割合」を問う記述なら、その国の該当欄を合計で割ってパーセントを出します。「すべての国について」という言い切りは、反例が1か国見つかった時点で落ちます。

<選択肢>

①【誤】

フランスは事業主13.2+被保険者5.7=18.9で一般政府16.2より高く、ドイツは11.7+10.0=21.7で11.6より高い。「どちらの国においても低い」は2か国とも成り立たない。

②【正】

スウェーデンは16.2÷30.4=約53.3%で、50%を超えている。

③【誤】

日本は7.2÷25.4=約28.3%で、40%には届かない。割合の計算を省いて数値の大小だけを見ると引っかかる。

④【誤】

日本は事業主7.0に対して被保険者7.2で、事業主のほうが低い。「すべての国について」という言い切りが1か国の反例で崩れる型。

正解【②】

合計に対する一般政府拠出の割合を実際に割り算すると、スウェーデンだけが50%を超えます。

問4:正解 ③(解答番号4/配点3)

<問題要旨>

「すべての人に対して無条件に給付する」考え方Xと「一定の要件を満たす人に対して給付する」考え方Yを示したメモが与えられ、それぞれが日本のどの制度に見られるかを述べた2つの記述ア・イの正誤の組合せを選びます。

<考え方>

社会保障の4区分(社会保険・社会福祉・公的扶助・公衆衛生)と、それぞれの給付が何を条件にしているかに戻ります。社会保険は保険料の拠出を前提に給付する仕組みなので「無条件」にはなりません。公的扶助は資力調査を行って必要と認められた人に給付するので、要件を課す考え方に当たります。

<選択肢>

ア【誤】

国民健康保険は社会保険に区分され、加入と保険料の納付を前提として給付が行われる。「すべての人に無条件」ではないので、考え方Xの例にはならない。要件の有無を入れ替えた型で、考え方Xに当たるのは所得や就労を問わず一律に給付するベーシックインカムのような仕組み。

イ【正】

生活保護制度は公的扶助に区分され、資産や収入の調査を経て、生活に困窮していると認められた人に保護費が支給される。一定の要件を満たす人に給付するという考え方Yの例として正しい。

正解【③】

アは社会保険を無条件の給付と見なした点が誤り、イは公的扶助の要件を正しく説明しているので、ア誤・イ正の組合せになります。

第2問 グローバル化が進む現代社会の文化や宗教(配点13)

生徒Aと生徒Bが、グローバル化のなかの文化と宗教を探究していく構成です。世界遺産と文化の価値づけをめぐる議論、日本で暮らす外国人の統計、政教分離をめぐる最高裁判例、そして宗教をどう捉えるかという問いが並びます。

問1:正解 ④(解答番号5/配点3)

<問題要旨>

「日本文化は優れている」と語るAと、それに注意を促すBの会話が与えられ、空欄アに入る語句(多文化主義・エスノセントリズム・文化相対主義)と、空欄イに入る記述(文化遺産制度による認定や登録をとりわけ重視する姿勢が何をしていることになるか)の組合せを選びます。

<考え方>

3つの用語は「何に反対して立てられた語か」で区別できます。エスノセントリズムは自文化を基準に他文化を低く見る態度、文化相対主義はその態度を批判してどの文化にも固有の価値を認める立場、多文化主義は複数の文化の共存を制度として目指す立場です。空欄イは、Bが「世界遺産がない国や少ない国にも特徴的な文化はある」と述べた直後の発言なので、認定制度を重視することが文化の間に上下を作ってしまうという趣旨で決まります。

<選択肢>

ア=エスノセントリズム【正】

「自分たちの文化が優れていると考える心情」の行き着く先として、陥らないよう注意すべきものとして挙げられている。自文化中心主義と訳される語で、まさにこの態度を指す。

ア=多文化主義【該当せず】

複数の文化が対等に共存することを目指す立場で、注意して陥らないようにするものではない。

ア=文化相対主義【該当せず】

文化の優劣を比べられないとする立場で、Bが警戒している態度とは正反対。「そもそも文化の価値は比べられるのかな」というBの問いかけは、むしろ文化相対主義の側に立つもの。

イ=特定の基準がもつ権威に依拠して文化を評価し序列づけている【正】

世界遺産という制度の認定を価値の根拠にすることは、その制度の権威を借りて文化に順位をつけることになる。だからこそAは最後に「自分の捉え方に思い込みがないか」と反省している。

イ=特定の基準による評価を受け入れずに文化に独自の価値づけをしている【該当せず】

認定や登録をとりわけ重視する姿勢は、外部の基準を「受け入れない」のではなく、むしろそれに従うこと。方向が逆になっている。

正解【④】

自文化を基準に他文化を低く見る態度がエスノセントリズム、世界遺産の認定を重視することは外部の基準の権威に頼って文化を序列づけることなので、この組合せになります。

問2:正解 ②(解答番号6/配点4)

<問題要旨>

国籍・地域別の在留外国人数を2014年末・2019年末・2024年末で示した資料1と、2024年末の在留資格別割合を積み上げ横棒グラフで示した資料2が与えられ、生徒の意見ア〜ウのうち資料を正しく読み取ったものの組合せを選びます。読み取りに関わる部分には下線が付されています。

<考え方>

この設問は「資料1で実数を計算させ、資料2で割合を読ませる」という二段構えで作られており、ア・ウはどちらも前半の実数計算が正しく、後半の割合の読みで落ちます。まず資料1で足し算・引き算・増加率を確かめ、そのうえで資料2の各行でどの区分が最も長いかを別に確かめる、という順で見ていくと取り違えません。実数が大きく増えたことと、その国のなかでその区分の割合が高いこととは別だ、という区別が鍵になります。

<選択肢>

ア【誤】

前半は正しい。2024年末の中国873千人+ベトナム634千人+韓国409千人=1,916千人で、総数3,769千人の半数1,884.5千人を超える。しかし後半が誤り。在留外国人全体で最も割合が高い在留資格は「永住者・定住者」で約37%を占め、「留学」は約11%にすぎない。

イ【正】

前半は正しい。2014年末と2024年末を比べた増加数は、ベトナムが634-100=534千人で上位7か国中最大(中国は218千人、ネパールは191千人、韓国はむしろ減少している)。後半も正しく、ベトナムの在留資格別割合では「技能実習・特定技能」が約55%で最大の区分になっている。

ウ【誤】

前半は正しい。2019年末から2024年末の増加率はインドネシアが67千人から200千人へと約199%で、ネパール(約140%)を上回り上位7か国中で最も高い。しかし後半が誤り。「永住者・定住者」の割合が上位7か国中で最も高いのはブラジル(約89%)で、インドネシアは約5%と低い。

正解【②】

ア・ウはいずれも資料1の実数計算は正しいものの資料2の割合の読みで誤っており、前半と後半の両方が正しいのはイだけです。

問3:正解 ①(解答番号7/配点3)

<問題要旨>

日本における政教分離をめぐる最高裁判所の判例について述べた4つの記述から、適当でないものを選びます。津地鎮祭訴訟・愛媛玉ぐし料訴訟・空知太神社訴訟・那覇孔子廟訴訟が並びます。

<考え方>

政教分離の判例は「合憲とされたもの」と「違憲とされたもの」の仕分けで決まります。違憲とされた代表例が愛媛玉ぐし料訴訟・空知太神社訴訟・那覇孔子廟訴訟であるのに対し、津地鎮祭訴訟は目的効果基準を示したうえで合憲と判断された事件です。判決の結論を逆にする型なので、結論そのものを覚えているかが問われます。

<選択肢>

①【誤】

津地鎮祭訴訟の最高裁判決(1977年)は、行為の目的が宗教的意義をもち効果が宗教への援助・助長になるかを見る目的効果基準を示したうえで、市が主催した地鎮祭への公金支出を合憲と判断した。「違憲とされた」は結論が逆で、これが適当でないもの。

②【正】

愛媛玉ぐし料訴訟の最高裁判決(1997年)は、県が神社に玉ぐし料などを公金から支出したことを、憲法の政教分離規定に違反すると判断した。記述のとおり。

③【正】

空知太神社訴訟の最高裁判決(2010年)は、市が地域の神社の敷地として市有地を無償で使用させていたことを違憲と判断した。記述のとおり。

④【正】

那覇孔子廟訴訟の最高裁判決(2021年)は、孔子を祀る施設の敷地として市が公有地を無償で使用させていたことを違憲と判断した。記述のとおり。

正解【①】

4件のうち津地鎮祭訴訟だけが合憲判決であり、違憲とされたと述べる記述が適当でないものです。

問4:正解 ④(解答番号8/配点3)

<問題要旨>

宗教を外面的に観察できる諸要素から捉える「捉え方X」と、人生に究極的な意味や新たな視点への転換をもたらすものとして捉える「捉え方Y」を示したノートが与えられ、初詣や節分、お彼岸をまとめて指す語(空欄ア)と、マンガに感化されて生き方が変わった友人の例が通じる捉え方(空欄イ)の組合せを選びます。

<考え方>

空欄アは「毎年同じ時期に行われる」という条件で決まります。年中行事は一年の同じ時期に繰り返される行事、通過儀礼は誕生・成人・結婚・葬送のように人生の節目で行われる儀礼なので、両者は反復の性質で区別できます。空欄イは、話題が「本人の生き方が大きく変化した」ことに向けられているので、外形的な要素ではなく当事者にとっての内面的な意味を重視する捉え方が対応します。

<選択肢>

ア=年中行事【正】

初詣・節分・お彼岸はいずれも暦のうえで毎年決まった時期に繰り返される行事で、年中行事に当たる。

ア=通過儀礼【該当せず】

人生の段階の移行に際して行われる儀礼を指す語で、毎年反復されるものではない。反復の性質を入れ替えた型。

イ=捉え方Y【正】

マンガの主人公に感化されて生きる指針を得た結果、世の中の見方が変わり何事にも挑戦したいと思うようになった、という例は、当事者にとっての内面的な意味や機能に着目する捉え方に通じる。

イ=捉え方X【該当せず】

信仰対象・実践・集団という外面的に観察できる諸要素から捉える立場。初詣で賽銭を入れ一定の所作をするという話題であれば当てはまるが、生き方そのものが転換したという話題には対応しない。

正解【④】

毎年反復される行事は年中行事、生き方が転換した例に対応するのは内面的な意味を重視する捉え方Yなので、この組合せになります。

第3問 道徳的悪とルールの限界(配点28)

先生Tと生徒G・生徒Hが、3つの場面にわたって「悪」を論じます。道徳的悪と自然現象の悪の違いから始まり、ルールで悪に対処できるのか、理屈と感情の不一致、心の中の悪、そして自覚なく加害に加担する悪へと議論が進み、最後に生徒Gのレポートで結論がまとめられます。東西の思想を横断する9問が置かれ、配点28で最大の大問です。

問1:正解 ①(解答番号9/配点3)

<問題要旨>

「悪人」という語に関連して、善悪と人間の関係をめぐる思想の説明として最も適当なものを、荀子・エラスムス・マキャヴェリ・王陽明についての4つの記述から選びます。

<考え方>

思想家の設問は「その人が何に反対して何を言ったか」で切ります。荀子は孟子の性善説に反対して性悪説を唱え、だからこそ聖人の定めた礼という外的な規範を学んで悪い傾向を矯正すべきだとしました。残る3つは、主張の中身が別の思想家のものと入れ替えられています。

<選択肢>

①【正】

荀子は人間本来の性は悪だとしたうえで、聖人たる君主が定めた規範(礼)を習得することで傾向は矯正され得ると考えた。性悪説と礼治主義がそのまま述べられている。

②【誤】

「自らの自由意志によっては善を志すことができない」は、エラスムスと論争したルターの主張(奴隷意志)。エラスムスは自由意志の働きを認める側に立ち、ルターがそれに反対した。人物の入れ替えの型。

③【誤】

マキャヴェリは、君主は必要に応じて力や恐怖を用いるべきだと説いた。「暴力という悪を用いず、慈愛の力によって」は主張の向きが逆。

④【誤】

王陽明は善悪を判断する先天的な能力としての良知を説いたが、その働きは実践と一体のもの(知行合一)であり、心の中から感情や欲望を除去すべきだと説いたのではない。

正解【①】

性悪説を唱え、聖人の定めた規範の習得による矯正を説いたのは荀子なので、この記述だけが人物と主張の対応として正しくなります。

問2:正解 ③(解答番号10/配点3)

<問題要旨>

「法律やルール」に関連して、法や規範、規律をめぐる思想の説明として最も適当なものを、イザヤ・スーフィズム・グロティウス・ルソーについての4つの記述から選びます。

<考え方>

ここも「何に反対したか」で切れます。グロティウスは、自然法の根拠を神の意志や永遠の法に求める従来の見方に対して、自然法を人間の理性と社会性に基づくものと捉え直しました。この転換によって自然法は神学から独立し、国際法の基礎が置かれることになります。

<選択肢>

①【誤】

預言者イザヤは、当時の王や神殿祭司の形式化した信仰と社会的不正を厳しく批判した。「称賛し、彼らの信仰を見習うべきであるとした」は態度が逆。

②【誤】

スーフィズムは、弱い自己に打ち勝とうとする内面的なジハードをより重視した。社会を守り拡大するためのジハードを上に置く記述は、両者の軽重を入れ替えている。

③【正】

グロティウスは自然法を、神の永遠の法に基づくものではなく人間の理性に基づくものと捉えた。神学から自然法を独立させた点が、その思想の核心である。

④【誤】

ルソーが従うべきだとしたのは、公共の利益を目指す「一般意志」。「全体意志」は個々人の私的な意志の総和を指す別の語で、ルソーはこの二つを明確に区別した。言葉のすり替えの型。

正解【③】

自然法の根拠を神から人間の理性へ移したのがグロティウスなので、この記述が正しい説明になります。

問3:正解 ⑥(解答番号11/配点3)

<問題要旨>

プラトン『クリトン』から、不正はどんな場合でもなすべきではないと確かめ合うソクラテスとクリトンの対話が資料として与えられ、脱獄を勧めるクリトンに対してソクラテスが脱獄を選ばなかった理由を説明する解説文の空欄ア・イに入る記述の組合せを選びます。

<考え方>

ソクラテスが生涯を通じて説いたのは、財産や評判よりも魂をすぐれたものにすること(魂への配慮)と、問答を通して自分と相手のあり方を吟味することでした。資料は「不正を行うことは、不正を行う者にとって害悪であり恥辱である」と述べているので、脱獄という不正が損なうのは自分自身の魂になります。害が及ぶ先を他へ移さないことが要点です。

<選択肢>

ア=魂に配慮し、自他のあり方を吟味する【正】

ソクラテスは魂ができるだけすぐれたものになるよう配慮せよと説き、問答法によって自分と他者の生き方を吟味した。だからこそ魂を損なう不正は選べない。

ア=世俗を離れ、魂の平安を実現する【該当せず】

世俗から退いて心の平静(アタラクシア)を得ることを説いたのはエピクロス派。ソクラテスはアテネの市民の只中で問答を続けた人物で、活動の場所が正反対になっている。

イ=自分の魂を劣悪にする【正】

資料は、不正の害悪が「不正を行う者にとって」のものだと明言している。したがって脱獄という不正が損なうのは、ほかの誰でもなく自分自身の魂である。

イ=ポリスの秩序を害する【該当せず】

脱獄が国法を破る行為であることは『クリトン』の別の論点だが、解説文は「不正の害悪を資料のように考えると」と条件を付けている。資料が示す害悪は行為者自身に及ぶものなので、この条件に合わない。

イ=市民の魂を劣悪にする【該当せず】

害が及ぶ相手を他の市民にすり替えている。資料は一貫して、不正を行う者自身に生じる害悪を語っている。

正解【⑥】

魂への配慮と吟味を説いたソクラテスにとって、不正は行為者自身の魂を劣悪にするものなので、この組合せになります。

問4:正解 ⑦(解答番号12/配点3)

<問題要旨>

「感情の部分での意見の違い」に関連して、西洋思想における感情と道徳の関係を説明した3つの文ア〜ウが、それぞれ誰によるものかを組合せで答えます。

<考え方>

3人とも「何に反対したか」がはっきりしています。ニーチェは同情や平等を善とするキリスト教的道徳を、弱者が強者に対して抱く恨み(ルサンチマン)に根をもつ奴隷道徳だと批判しました。ヒュームは道徳判断を理性に帰す立場に反対して、理性は情念に従う従者だとしました。フロイトは意識中心の人間理解に反対し、社会規範を取り込んだ超自我が罪責感を通じて無意識の衝動を抑圧すると説きました。

<選択肢>

ア=ニーチェ【正】

同情や平等こそ善とする既成の道徳を、強者に対する恨みに基づき自らの生の肯定を困難にするものとして批判した。ルサンチマンと奴隷道徳の議論そのもの。「ベルクソン」は生の躍動(エラン・ヴィタール)を論じた思想家で、既成道徳のルサンチマン批判とは別。

イ=ヒューム【正】

理性は快・不快といった情念に対して支配的ではなく、善悪などの評価も理性が導くものではないとした。「理性は情念の奴隷」という主張として知られる。「ライプニッツ」は予定調和を説いた合理主義の哲学者で、むしろ理性の側に立つ。

ウ=フロイト【正】

社会規範を内在化した超自我が、罪責感などを通じて原始的な衝動を抑圧し行動を制御すると説いた。「ジェームズ」はプラグマティズムの哲学者・心理学者で、身体反応が感情に先立つという別の議論で知られる。

正解【⑦】

ルサンチマン論のニーチェ、理性は情念に従うとしたヒューム、超自我による抑圧を説いたフロイトの順になります。

問5:正解 ③(解答番号13/配点3)

<問題要旨>

「何を悪とみなすかは人によって異なる」という論点に関連して、スティーヴンソンの「信念の不一致」と「態度の不一致」の区別を解説した授業資料が与えられ、その内容と合致する記述を選びます。幼稚園で遊ぶ子どもの声をめぐる例に当てはめて判定します。

<考え方>

この設問は記憶ではなく、授業資料の文言をそのまま照らし合わせれば決まります。判定の決め手は末尾の一文「判断を述べるなかで信念が一致したとしても、態度が一致するとは限らない」です。あわせて「ある事柄の善し悪しについての判断は信念と態度からなる」「また実際にそのように働き得る」という2か所が、他の選択肢を落とす根拠になります。

<選択肢>

①【誤】

資料は判断が信念と態度からなるとしている。「対処すべき騒音だ」という判断は感情(態度)を表すだけでなく信念も含むので、「信念を述べているのではない」は資料に反する。

②【誤】

資料は「態度のみの不一致から生じることもある」と述べるだけで、苦痛に感じる人々が教育的効果という事実認識の点でも一致しているとは書いていない。資料にない一致を付け加えている。

③【正】

資料末尾の「判断を述べるなかで信念が一致したとしても、態度が一致するとは限らない」に合致する。教育上有効だという信念で一致していても、賛否の態度は分かれ得る。

④【誤】

資料は、態度の異なる相手に判断を述べることが相手の感情に働きかけて態度を変えさせることを目的とし、「また実際にそのように働き得る」と明言している。「役立つことはない」は資料と正反対。

正解【③】

信念が一致しても態度が一致するとは限らないという資料末尾の一文に合致するのが正解です。

問6:正解 ①(解答番号14/配点3)

<問題要旨>

「自分の心の中を見つめる」ことに関連して、自己の内面をめぐる思想を説明した3つの文ア〜ウ(アウグスティヌス・モンテーニュ・カント)の正誤の組合せを選びます。

<考え方>

アとイは内容がそのまま正しく、勝負はウのカントです。カントは行為の道徳的価値を結果や傾向ではなく動機に求めましたが、そこで要求したのは「義務に基づいて」、つまり義務だからという理由で行うことでした。結果として義務にかなっているだけの行為は適法ではあっても道徳的価値をもたない、というのがカントの主張です。この一語の違いが正誤を決めます。

<選択肢>

ア【正】

アウグスティヌスは自らの外にではなく心の内に目を向けることで神と出会えるとし、神への愛に基づいて生きることの重要性を説いた。『告白』に示された回心の道筋そのもの。

イ【正】

モンテーニュは自己反省の欠如による独断や不寛容が争いを引き起こすと考え、「私は何を知っているのか」と問い、既成の権威や教義にとらわれずに真理を探究し続ける姿勢を示した。

ウ【誤】

カントは「義務に基づく」行為にのみ道徳的価値を認め、結果として「義務にかなっている」だけの行為を道徳的に善いとは言わなかった。記述はこの区別を逆に緩めており、言葉のすり替えの型。

正解【①】

ア・イはそのまま正しく、ウはカントの「義務に基づく」と「義務にかなう」の区別を取り違えているので、ア正・イ正・ウ誤の組合せです。

問7:正解 ④(解答番号15/配点3)

<問題要旨>

「悪にどう向き合うべきか」に関連して、初期の仏典『ダンマパダ』(資料1)と大乗経典『維摩経』(資料2)が与えられ、両者の違いの説明として最も適当なものを選びます。

<考え方>

ここも資料の文言そのままで決まります。資料1は「自ら悪をなさないならば、自ら浄まる」と述べ、悪を離れることで清らかになる道を示します。これに対し資料2は「煩悩の道を道としながら、しかも全くそれに染まることがなく」と述べ、悪や煩悩の中にとどまりながら仏陀の法を進むと説きます。悪を捨てるか捨てないかという一点が、両者の差そのものです。

<選択肢>

①【誤】

資料2は「涅槃の道を道としながら、しかも輪廻の流れを捨て去ることもない」と述べるだけで、輪廻の世界にとどまることを「むしろ善である」と積極的に評価してはいない。資料の言い方を強めすぎている。

②【誤】

資料2は煩悩に染まらず本性において清浄だと述べており、善悪を区別することはできないとは説いていない。

③【誤】

資料1に他者の救済を悪とみなす記述はない。「人は他人を浄めることができない」は各自の行いが各自の清浄を決めるという趣旨であり、救済を悪と断じるものではない。

④【正】

資料1は自ら悪をなさないことで浄まるとして悪を捨てて善の道を歩むべきだと考え、資料2は煩悩の道にありながら染まらず仏陀の法を進むとして、悪を捨て去ることなく善の道を歩むことを説いている。両者の違いの説明として合致する。

正解【④】

悪を捨てて浄まる道を説く資料1と、悪の中にありながら染まらず進む道を説く資料2の対比が、そのまま正解の記述になっています。

問8:正解 ⑤(解答番号16/配点3)

<問題要旨>

「他の人々とのつながり」に関連して、アーレントとヤスパースの思想を説明した授業資料が与えられ、空欄ア〜ウに入る語句の組合せを選びます。

<考え方>

アーレントは人間の営みを労働・仕事・活動に分け、複数の人間が言葉を介して働きかけ合うことを「活動」と呼びました。これによってものの見方の複数性が保たれ、人間を孤立させる全体主義への無意識の加担が抑えられます。ヤスパースは、限界状況で自己の有限性を痛感した者同士が包み隠さず問いかけ誠実に応答し合うことを「実存的交わり」と呼び、それは互いを高め合う「愛しながらの戦い」だとしました。

<選択肢>

ア=活動【正】

アーレントの用語で、言葉と行為によって複数の人間が互いに働きかけ合う営み。これが行われる場が公共的空間である。「倫理的実存」はキルケゴールの実存の三段階に関わる語で、アーレントの語ではない。

イ=実存的交わり【正】

ヤスパースが、限界状況を経た者同士の誠実な問いかけと応答を指して用いた語。「投企」は自己を未来へ投げ出すことを指す語で、他者との交わりを表すものではない。

ウ=愛しながら戦う【正】

実存的交わりの特徴をヤスパース自身が「愛しながらの戦い」と表現した。馴れ合いで互いを肯定せず、真の自己へ向けて問い詰め合う関係である。「公共空間を形成する」はアーレントの側の語で、主体が入れ替わってしまう。

正解【⑤】

アーレントの「活動」、ヤスパースの「実存的交わり」と「愛しながら戦う」がそろう組合せが正解です。

問9:正解 ⑥(解答番号17/配点4)

<問題要旨>

授業後に生徒Gが作成したレポートが与えられ、空欄ア〜ウに入る語句の組合せを選びます。3つの場面の会話全体を踏まえて決める設問です。

<考え方>

空欄補充ですが、決め手は空欄の直前ではなく会話全体の結論にあります。アは「これはHさんとの対話から学んだことだ」と書かれているので、Hが「理屈と感情のどっちが大事かという話ではなくて、どっちも大事」と述べた点に戻ります。イは「良心に基づく内的制裁」という語で決まります。ウは「Hさんが言う」と限定され、しかも人々のつながりを通じて互いに過ちを指摘し合うことで防ぐ対象なので、Hが提起した自覚のない加担の問題を指します。

<選択肢>

ア=論理だけではなく感情にも【正】

Hは理屈の部分での意見の違いと感情の部分での意見の違いを分け、どちらも大事だと述べた。合意を形成するにはその両方に目を向ける必要がある、という筋になる。「感情ではなく論理に」では、Hの発言の趣旨を半分に切り落としてしまう。

イ=J.S.ミル【正】

ミルは功利主義の制裁を外的なものだけに求めず、良心の働きによる内的制裁を重視した。ベンサムが挙げた制裁は物理的・政治的・道徳的・宗教的といった外的なものであり、「良心に基づく内的制裁」という語はミルに対応する。人物の入れ替えの型。

ウ=自覚がないままに加担してしまう悪【正】

Hは「自覚がないまま悪に加担している状態が当たり前になってしまうと、それが当たり前じゃないと気付くのは難しい」と述べ、これを受けて先生Tが、過ちを指摘し合えるつながりが不可欠だと結論づけた。「感情的に我慢できないものとしての悪」はHが幼稚園の例で挙げた別の論点で、人々のつながりによって防ぐ対象として語られてはいない。

正解【⑥】

Hとの対話から得た「論理だけではなく感情にも」、内的制裁を重視したJ.S.ミル、Hが提起した自覚のない加担の悪、の3つがそろいます。

第4問 「理」と「情」をめぐる日本思想(配点15)

恋人に別れを告げられた生徒Jが生徒Kと「無理」の「理」とは何かを話し合い、「理」と「情」の関係をたどっていく構成です。森鷗外の立場、地獄草紙と来迎図に映る浄土信仰、和辻哲郎の風土論、赤穂事件をめぐる法と義、坂口安吾の『堕落論』へと、日本思想を縦断する5問が並びます。

問1:正解 ③(解答番号18/配点3)

<問題要旨>

森鷗外の『舞姫』を話題に、鷗外が倫理の授業でどう説明されたかを述べた空欄アと、その立場を指す語の空欄イの組合せを選びます。

<考え方>

鷗外の立場を表す語は「諦念(レジグナチオン)」です。これは世俗を捨てることでも世俗に流されることでもなく、社会の現実と自分の理想とのずれを引き受けたまま生きる態度を指します。したがって空欄アには、衝突も埋没もせずに矛盾を生きるという内容が入ります。

<選択肢>

ア=世俗といたずらに衝突せず、しかしそこに埋没しきることもなく、社会の現実との矛盾を生きていくべき【正】

諦念の内容をそのまま述べたもの。『舞姫』の主人公が「理」と「情」のどちらを優先したとも言い切れない、という会話の流れとも対応する。

ア=世俗と衝突した結果、そこからはじき出されたとしても、自己を貫き通すことこそが新しい時代の人間のあり方である【該当せず】

自己を貫いて世俗と対立していく方向は、諦念とは逆の態度。近代日本では北村透谷らの自我の主張に近く、鷗外の立場としては説明されない。

イ=諦念【正】

レジグナチオンの訳語で、鷗外の立場を指す語として用いられる。

イ=独立自尊【該当せず】

福沢諭吉が掲げた語で、一身の独立を重んじる立場を指す。人物の入れ替えの型。

正解【③】

衝突も埋没もせず現実との矛盾を生きるのが諦念であり、鷗外がこの立場をとったと説明されるので、この組合せになります。

問2:正解 ⑧(解答番号19/配点3)

<問題要旨>

地獄草紙(図1)と来迎図(図2)を見ながらの会話が与えられ、「厭離穢土・欣求浄土」をテーマに地獄と極楽の様子を詳しく描写した書物の著者(空欄ア)、臨終の時に迎えに来るとされた仏(空欄イ)、その人物が極楽往生の手立てとして重視したもの(空欄ウ)の組合せを選びます。

<考え方>

「厭離穢土・欣求浄土」は源信『往生要集』の標語です。臨終に迎えに来るのは西方極楽浄土の主である阿弥陀仏で、来迎図はその場面を描いたものです。源信が重視したのは阿弥陀仏や浄土の姿を心に思い描く観想念仏であり、称名念仏だけを選び取る専修念仏は法然の立場である、という区別が要点になります。

<選択肢>

ア=源信【正】

『往生要集』で地獄の様相と極楽の荘厳を詳述し、穢れた現世を厭い浄土を願う「厭離穢土・欣求浄土」を掲げた。二つの絵図が影響を受けた書物の著者として合う。

ア=法然【該当せず】

『選択本願念仏集』を著した浄土宗の開祖で、地獄と極楽の様子を詳述した書物の著者ではない。時期も源信より後になる。

イ=阿弥陀仏【正】

極楽浄土の主で、臨終に来迎して往生者を浄土へ導くとされた。来迎図が描く主尊もこれに当たる。

イ=大日如来【該当せず】

真言密教の本尊で、極楽往生の来迎とは結びつかない。

ウ=観想念仏【正】

仏や浄土の姿を心に観じる念仏で、源信が往生の手立てとして重視した。

ウ=専修念仏【該当せず】

ひたすら称名念仏を行うことのみを選び取る立場で、法然が説いたもの。人物と実践の対応を入れ替えた型。

正解【⑧】

源信・阿弥陀仏・観想念仏の3つがそろう組合せが正解です。

問3:正解 ①(解答番号20/配点3)

<問題要旨>

日本人は「情」を重視する傾向があるのかという話題から、和辻哲郎の風土比較論に触れた会話が与えられ、ヨーロッパの自然環境(空欄ア)、日本の自然環境(空欄イ)、そこで育まれる発想や考え方(空欄ウ)の組合せを選びます。

<考え方>

和辻の三類型を、自然の性格とそれに応じた人間のあり方の対応で押さえれば決まります。ヨーロッパは牧場型で、自然が穏やかで人間に従順なため合理的な思考が育つ。日本や南アジアはモンスーン型で、自然が恵み豊かでありながら台風や洪水として暴威も振るうため、人間は受容的・忍従的になる。乾燥して恵みに乏しく厳しい砂漠型では、自然や他部族に対抗する戦闘的な性格が生まれる、という三つ組です。

<選択肢>

ア=おだやかで従順な【正】

牧場型としてのヨーロッパの自然。人間が自然を計画的に扱えるため、合理的な発想や考え方が育つと和辻は論じた。

ア=恵み豊かだが暴威も振るう【該当せず】

モンスーン型の説明で、日本の側に入る内容。

ア=恵みに乏しく、厳しい【該当せず】

砂漠型の説明。この型に対応する人間のあり方は戦闘的・対抗的であり、合理的な発想を導くものとしては挙げられていない。

イ=恵み豊かだが暴威も振るう【正】

モンスーン型としての日本の自然。湿潤で作物は豊かに実るが、台風や洪水として人間に襲いかかる二面性をもつ。

ウ=受容的【正】

抵抗しても抗しきれない自然に対し、受け容れ忍従する性格が育つとされた。「戦闘的」は砂漠型に対応する語で、風土と性格の対応を入れ替えた型。

正解【①】

牧場型のヨーロッパは穏やかで従順な自然、モンスーン型の日本は恵み豊かで暴威も振るう自然、そこで育つのは受容的な発想という対応になります。

問4:正解 ②(解答番号21/配点3)

<問題要旨>

赤穂事件をめぐる先生Tと生徒Jの会話が与えられ、浪士の処分の根拠となった荻生徂徠の意見書と伝えられる「祖徠擬律書」について、その内容の説明として最も適当なものを選びます。

<考え方>

引用文の中の語をそのまま使って判定します。引用文は、浪士の仇討ちを「義と言えますが、侍だけに通用する『私の論』です」とし、幕府の許可なく騒動を起こしたことは「法では許されません」と述べ、有罪としたうえで侍の礼に従って切腹に処すことを「これこそ公論です」と結んでいます。義を認めながらなお罰する、つまり私論に対して法(公論)を上に置く論理です。

<選択肢>

①【誤】

義をより重視する立場なら、罰しないか刑を軽くする方向へ向かう。引用文は義を「私の論」と限定したうえで法を優先しており、軽重が逆になっている。

②【正】

彼らの行為を侍の義にかなうと認めつつ、それでも法に反する行為として有罪とし罰する。引用文の「もし私論で公論を損なうならば、今後、天下の法は立ちゆきません」という結びと一致する。

③【誤】

引用文は侍の義を「侍だけに通用する私の論」として根本から外している。侍の義を根本に置く武士道の考え方とする点が引用文に反する。

④【誤】

引用文が根本に置くのは天下の法(公論)であり、徳によって民を治める徳治ではない。切腹という刑罰を科す判断そのものが徳治とは異なる。

正解【②】

義は認めるがそれは私論にとどまるとして法を優先し、有罪としたうえで侍の礼に従って処するのが引用文の論理です。

問5:正解 ④(解答番号22/配点3)

<問題要旨>

坂口安吾『堕落論』からの資料が与えられ、その内容の説明として最も適当なものを選びます。

<考え方>

この設問は、選択肢の一つ一つが資料の特定の一文で落ちる作りになっています。「戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり」が敗戦を原因とする読みを否定し、「堕ちぬくためには弱すぎる」が堕落の底にとどまり続ける読みを否定し、「武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなる」が権威を作らない生き方という読みを否定します。残るのは、堕ちきった自分を出発点に自分自身の価値基準を作るという読みです。

<選択肢>

①【誤】

資料は「戦争に負けたから堕ちるのではないのだ」と明言している。堕落を敗戦の結果とせず、さらに堕ちきっていたことを敗戦の原因とする記述は、因果を二重に取り違えている。

②【誤】

資料は「人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう」「堕ちぬくためには弱すぎる」と述べており、堕落の底に永久にあり続ける強さを求めてはいない。人間の可憐さと脆弱さを前提にした議論であることを読み落とすと選んでしまう。

③【誤】

資料は人間が「武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなる」と述べている。価値基準や権威を再び作ったり頼ったりすることのない生き方を目指すという方向とは逆。

④【正】

従来の価値基準や権威が崩壊した状態にとどまれるほど人間は強くないとしたうえで、正しく堕ちる道を堕ちきることで自分自身の武士道・自分自身の天皇をあみだす、という資料の筋道に合致する。

正解【④】

徹底的に堕ちきった自分を出発点に、新たな価値基準や権威を作り上げていくことを説いたのが資料の趣旨です。

第5問 BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)と脳神経倫理(配点16)

生徒Lと生徒Mが、脳と外部機器との間で情報を直接やり取りするシステムであるBMIについて話し合います。感情とは何か、身体反応と解釈の関係、脳とAIをつなぐ研究のELSI、QOLへの影響、脳の情報の収集・活用をめぐる国の姿勢まで、現代の生命倫理と心理学の知見が問われます。

問1:正解 ③(解答番号23/配点2)

<問題要旨>

「感情」に関連して、基本感情として適当でないものを、嫌悪・驚き・嫉妬・悲しみの4つから選びます。

<考え方>

基本感情は、文化を越えて共通の表情と結びつくとされる少数の感情で、エクマンの整理では喜び・悲しみ・怒り・驚き・嫌悪・恐れの6つが挙げられます。これに対して、他者と自分を比べる関係の認識を前提としてはじめて成り立つ感情は、複合的・社会的な感情として区別されます。

<選択肢>

①【正】

嫌悪は基本感情に数えられる。特有の表情をもち、汚いものや不快なものを避ける働きと結びつく。

②【正】

驚きは基本感情に数えられる。予期しない出来事への即時的な反応で、表情も共通するとされる。

③【誤】

嫉妬は、他者が自分の望むものを得ているという比較や関係の認識を前提とする複合的(社会的)な感情で、基本感情には含まれない。これが適当でないもの。

④【正】

悲しみは基本感情に数えられる。喪失に対する反応として挙げられる代表的な感情。

正解【③】

嫉妬だけは他者との比較関係を前提とする複合的な感情で、基本感情には数えられません。

問2:正解 ①(解答番号24/配点4)

<問題要旨>

感情は心拍数や呼吸数などの身体反応の変化と、それを本人がどう解釈するかの両方があって生じるという二要因理論を検証するため、心拍数・呼吸数を上げる作用のある飲料を与えたうえで参加者を通知・非通知・誤情報の3条件に無作為に割り当て、滑稽な振る舞いを見せて「楽しい気分になった程度」を測る実験が示されます。理論が支持されたといえる結果を、4つの棒グラフから選びます。

<考え方>

グラフを見比べる前に、理論から3条件の結果を予測しておきます。二要因理論では、身体反応の原因を本人がどう帰属するかで感情が決まります。通知条件では心拍数・呼吸数の上昇を飲料の副反応として正しく説明できるため、目の前の滑稽な振る舞いに帰属せず「楽しい気分」は低くなります。非通知条件では上昇の原因が説明できないため状況に帰属して気分が高くなり、誤情報条件では「下げる作用がある」と伝えられたのに上昇するのでやはり飲料では説明できず、状況に帰属して気分が高くなります。したがって「通知だけが低く、非通知と誤情報がともに高い」形が求める結果です。

<選択肢>

①【正】

通知条件だけが低く、非通知条件と誤情報条件がともに高い。身体反応を飲料に帰属できる条件でのみ感情が生じにくくなるという、理論からの予測と一致する。

②【誤】

非通知条件だけが低い形。原因が説明されないときこそ状況に帰属して感情が強まるという理論の予測と逆になっている。

③【誤】

通知条件だけが高い形。身体反応の原因を正しく知らされた条件で最も楽しくなることになり、解釈が感情を左右するという理論と因果が逆。

④【誤】

非通知条件だけが高く、誤情報条件は通知条件と同程度に低い形。誤情報条件でも身体反応は飲料では説明できないため状況に帰属するはずで、この条件の扱いが理論の予測に合わない。

正解【①】

身体反応を飲料に帰属できる通知条件だけ気分が低く、非通知・誤情報の両条件で高くなる形が、理論を支持する結果です。

問3:正解 ②(解答番号25/配点3)

<問題要旨>

AIの発展と異分野融合に関する「倫理的・法的・社会的課題(ELSI)」の現状について述べた5つの記述から、最も適当なものを選びます。

<考え方>

ELSIは、新しい技術が実用化される過程で生じる倫理・法・社会の課題を、開発と並行して検討する枠組みです。判定は「現に指摘されている課題を正しく述べているか」と「技術の実情と合っているか」の二点で行います。個人情報保護法の適用範囲や、AIがバイアスを持ち得るという前提を取り違えている記述は落ちます。

<選択肢>

①【誤】

遺伝情報や病歴は、本人への不当な差別や偏見が生じ得る情報として要配慮個人情報に位置づけられ、個人情報保護法の適用を受ける。「適用外」は要件の改変。

②【正】

授業中の生徒の集中度をデータとして収集しAIで解析する試みは実際に行われており、学習者の内面に踏み込む監視になり得る点でプライバシーの権利の観点から問題が指摘されている。ELSIの典型例。

③【誤】

家畜の個体管理や飼育データの取得・解析は精密畜産として実用が進んでおり、AI技術の農業・畜産業での活用も広がっている。「進んでいない」は実情と異なる。

④【誤】

AIは学習データに含まれる偏りをそのまま反映するため、偏見や差別意識をもたないとは言えず、予測的な犯罪捜査における人種的な偏りはELSIの代表的な論点として批判されている。前提と結論がともに逆。

⑤【誤】

自動運転技術は各国で公道での実証実験が行われている。事故の際の責任をめぐる問題が論点になっていることは正しいが、そのために公道での実験が実現していないというのは実情と異なる。

正解【②】

生徒の授業集中度データのAI解析がプライバシーの権利の観点から問題視されているという記述が、ELSIの現状として正しいものです。

問4:正解 ④(解答番号26/配点3)

<問題要旨>

「QOL(生活の質)」に関連して、BMIの使用とQOLの関係について述べた7つの文ア〜キから、会話文を踏まえて適当なものをすべて選び、その組合せを答えます。

<考え方>

7つを一つずつ落としていきます。判定の基準は、根拠のない言い切りになっていないか、QOLを高めるための条件として筋が通っているか、そして人格や生命の扱いについて許されない前提を置いていないかです。残るのは、BMIの安全性を確保する条件と、その恩恵を広く行き渡らせる条件の2つになります。

<選択肢>

ア【誤】

「事故の前のQOLの水準を上回ることはない」という言い切りに根拠がない。機能の回復にとどまらず、できることの幅が以前より広がる場合もあり得る。

イ【正】

BMIは脳と機器を直接つなぐため、外部からの不正なアクセスは身体の制御や思考内容にまで及ぶ危険がある。使用者のQOLを損なわないためにハッキングへの対処は不可欠。

ウ【誤】

脳の性差についての社会的イメージが固定されることは、その枠に合わない個人への決めつけを強める方向に働く。それが「個々人のQOL向上に役立つ」というのは因果の逆転。

エ【誤】

優生学(優生思想)は、特定の心身の状態を望ましくないものとして選別・排除する考え方であり、傷病者のQOLを上げるための考え方ではない。これに依拠すべきだとする点が根本的に誤り。

オ【誤】

他者が自由に使用者の感情を高揚させたり抑制したりできる状態は、本人の自律を奪うことにほかならない。QOLが向上するというのは向きが逆。

カ【正】

技術の恩恵が費用や地域によって一部の人にしか届かなければ、新たな格差が生まれる。多くの人が将来的に享受するためには、BMI技術に公平にアクセスできることが重要になる。

キ【誤】

認知機能を補う介入がパーソナリティを大きく変えてしまうことは、本人の同一性に関わる重大な問題。「許容される」と無条件に言い切ることはできない。

正解【④】

安全性の確保を述べたイと、技術への公平なアクセスを述べたカの2つが適当で、その組合せが正解です。

問5:正解 ③(解答番号27/配点4)

<問題要旨>

脳神経倫理(ニューロエシックス)に関連して、脳の情報の収集・活用を国が積極的に行うべきとする立場aと、国は最大限慎重にすべきとする立場bが示され、それぞれの立場を支持する理由をア〜エから対応させる組合せを選びます。

<考え方>

理由の一つ一つが、どちらの立場を後押しするかを先に振り分けます。慎重論を支えるのは、脳の情報が特に保護を要する情報であることを示す理由です。積極論を支えるのは、収集・活用の成果を広く行き渡らせる、あるいは知見を制度に取り込むことを国の役割とする理由です。どちらの立場の理由にもならない記述が混ぜられているので、それを除いて残る対応を選びます。

<選択肢>

ア=立場b(慎重にすべき)の理由【正】

脳の情報が国際的に特に注意が必要な個人情報として位置付けられていることへの配慮を国に求めるもので、収集・活用に最大限慎重であるべきという立場を支える。

イ=立場a(積極的に行うべき)の理由【正】

収集・活用から得られる知見やサービスに誰もがアクセスできることを、国が人々の権利の一つとして保証すべきだとするもので、国が積極的に行うべきという立場を支える。

ウ【該当せず】

国際的なルールの策定に国が参画することは技術開発の可能性の拡大には必要ないとするもの。国の積極的な関与を促す理由にも、慎重さを求める理由にもならないため、aにもbにも割り当てられない。

エ【該当せず】

最新の知見を法律改正の根拠や裁判における証拠として積極的に採用できる制度設計を国が進めるべきだとするもので、これは積極論すなわち立場a側の理由。慎重論である立場bの理由として置く組合せは成り立たない。

正解【③】

慎重論を支えるのはアだけであり、積極論の側にイを置く組合せが正解です。

第6問 道路拡張と自然との共生(配点16)

生徒Nと生徒Oが、幼少期によく遊んでいた住宅地の一角で、道路拡張による住民の移転と樹木の伐採をきっかけに話し込みます。私有財産と国家の関係、自然の搾取への批判、気候・気象制御技術がはらむ懸念、農薬と生態系、そして水俣病に至るまで、環境倫理の論点が並ぶ5問です。

問1:正解 ①(解答番号28/配点3)

<問題要旨>

住民に移転を迫ることが正当であるか否かを考える手がかりとして、ノージックに代表されるリバタリアニズムが挙げられ、その思想の説明として最も適当なものを選びます。

<考え方>

ノージックは、社会全体の福祉を理由に個人の財産を国家が再分配することに反対しました。正当な取得と正当な移転の連鎖によって得られたものには権限(権原)が成り立ち、その持ち主の同意なく取り上げることは、たとえ全体の福祉のためでも許されないという立場です。権原を認めるかどうかと、福祉目的の収奪を許すかどうかの2点で、4つの記述が振り分けられます。

<選択肢>

①【正】

個人は自らの所有物に対して権限(権原)をもつため、社会全体の福祉のためでも国家がそれを取り上げるべきではない。権原理論と最小国家論の核心をそのまま述べている。

②【誤】

権原を認めないのであれば、国家が取り上げてはならないという結論を支える根拠がなくなる。前半と後半がつながらない。

③【誤】

権原を認めながら福祉目的の収奪を許すのは、功利主義や再分配を認める立場。ノージックがまさに反対した考え方であり、結論が逆。

④【誤】

権原を否定し、そのうえで福祉目的の収奪を認めるもので、リバタリアニズムとは正反対の立場。

正解【①】

権原を認めたうえで、全体の福祉を理由とする国家の収奪も退けるのがリバタリアニズムの立場です。

問2:正解 ②(解答番号29/配点3)

<問題要旨>

樹木の大量伐採を人間による自然の搾取の一例と捉え、自然の搾取を批判する思想の説明として最も適当なものを、ピーター・シンガー・シュヴァイツァー・ボールディング・ウェーバーについての4つの記述から選びます。

<考え方>

ここも「その人が何に反対して何を言ったか」と、平等や有限性の根拠をどこに置いたかで切ります。シュヴァイツァーは、人間の生命だけを特別扱いする見方に対して、生きようとする意志をもつすべての生命への畏敬を説き、人間以外の生物への愛と尊敬を人間の責任としました。残る3つは、平等の根拠・空間の性質・思想の性格がそれぞれ置き換えられています。

<選択肢>

①【誤】

シンガーが動物実験などを「種差別」と呼んで批判したことは正しいが、人間と動物を等しく配慮すべき根拠として挙げたのは苦痛や快楽を感じる能力(有感性)であり、「生きているという点で」平等だとしたのではない。生きていること自体を基準にするのは生命中心主義の立場で、平等の根拠がすり替えられている。

②【正】

シュヴァイツァーは、全ての生命を尊ぶことを「生命への畏敬」と呼び、人間以外の生物に対しても愛と尊敬を抱くことが人間の責任だと主張した。記述のとおり。

③【誤】

ボールディングが「宇宙船地球号」で示したのは、資源が有限で外部をもたない「閉じられた」空間としての地球像。「開かれた空間」は正反対で、限られた資源を使い果たさない循環型経済という結論とも整合しない。

④【誤】

ウェーバーの「脱呪術化」は、近代の合理化のなかで世界から神秘が失われていく過程を分析した概念で、自然の搾取を批判する思想として提示されたものではない。また彼が論じたのは西洋近代の合理化であり、「近代に世界中で出現した動向」という一般化も合わない。

正解【②】

すべての生命への畏敬を説き、人間以外の生物への愛と尊敬を人間の責任としたシュヴァイツァーの記述が正解です。

問3:正解 ⑥(解答番号30/配点3)

<問題要旨>

気候変動対策に関連して、人工雲の生成による酷暑の抑制や人為的な海上降雨による豪雨災害の低減といった気候・気象制御技術が取り上げられ、その影響として実際に指摘されている可能性を述べたうえでその可能性がはらむ懸念を説明した4つの意見ア〜エから、説明として適当なものをすべて選んだ組合せを答えます。

<考え方>

この型は「掲げた概念と、そこから導いた懸念が噛み合っているか」を一つずつ確かめます。概念の名前が正しく使われているかだけでなく、その概念が本来指す内容と結論が一致しているかまで見ます。ア・イはどちらも概念の中身と結論がずれており、ウ・エは概念と結論が噛み合っています。

<選択肢>

ア【誤】

「共有地の悲劇」は、誰もが利用できる資源を各人が自己利益のために使いすぎ、結果として資源そのものが損なわれる事態を指す。ここで述べられているのは国々の間に格差が生じることであり、共有資源の枯渇という悲劇の中身が別のものにすり替えられている。

イ【誤】

「Think Globally, Act Locally」は、地球規模で問題を考えながら足元の地域から行動するという指針。結論が「国際政治の場で国家間の問題として慎重に対応する」ことに向かっており、地域で行動するという趣旨と噛み合っていない。

ウ【正】

「世代間倫理」は、現在世代の行為が将来世代の生存条件を左右することから、未来の人々に対する責任を問う考え方。気候・気象への介入が意図を超えて長期的な影響をもたらし得るという可能性と、未来世代に生じ得る責任を自覚すべきだという懸念が対応している。

エ【正】

「生物多様性」は、種や生態系の多様さそのものを守るべき価値とする考え方。人間にとって快適な気候や大気環境を実現する技術が、人間以外の生物種の存続を脅かす開発利用になりかねないという懸念と対応している。

正解【⑥】

概念の中身と結論が噛み合っているのは世代間倫理のウと生物多様性のエで、その組合せが正解です。

問4:正解 ③(解答番号31/配点3)

<問題要旨>

農薬を使わずに野菜を育てることに関連して、カーソン『沈黙の春』からの資料が与えられ、カーソンの思想と資料の内容の説明として最も適当なものを選びます。

<考え方>

資料の結論部分に置かれた留保が判定を決めます。資料は、生命が何千年という時をかけて環境に適合し均衡を作ってきたのに現代からは時そのものが消えうせたとしたうえで、人工的な合成物についても「時間をかければ、また適合できるようになるかもしれない。だが、時の流れは、人の力で左右できない」と述べます。つまり適合できるとも、できないとも断じていません。この留保に合う記述を選び、断定してしまう記述を落とします。

<選択肢>

①【誤】

「原理的に適合できない」と断定しており、「時間をかければ、また適合できるようになるかもしれない」という資料の留保に反する。またカーソンが指摘したのは食物連鎖を通じて広がる生態系全体への影響であり、「限定的な危害」という程度の限定も合わない。

②【誤】

「適合できるとはいえ」と断定する点で資料の留保に反し、「限定的な危害」という限定もカーソンの警鐘の内容と合わない。

③【正】

生命が環境に適合できるかどうかは資料では未決のままであり、その不確かさを背景に、カーソンは農薬による生態系の破壊に警鐘を鳴らした。資料の留保とカーソンの主張の双方に合致する。

④【誤】

資料は、危険な放射線を出す岩石があったことを、生命が長い時をかけて適合してきた例として挙げている。「生命を破壊する自然界の働きが人工的合成物によって促進される」という因果は資料に述べられていない。

正解【③】

適合できるかどうかを断定しない資料の留保に沿いつつ、生態系の破壊への警鐘を述べた記述が正解です。

問5:正解 ⑦(解答番号32/配点4)

<問題要旨>

人間と自然との共生について、生徒Nが『チッソは私であった——水俣病の思想』を読んだうえで先生Tと交わした会話が与えられ、水俣湾沿岸の漁民がもっていた感覚(空欄ア)、レオポルドの「土地倫理」の考え方(空欄イ)、レオポルドと緒方正人がともに示した重要性(空欄ウ)の組合せを選びます。

<考え方>

空欄アは「海に出て魚を捕って食べることで生きることができるという生活の中で」という先生の言葉が直前にあり、しかも会話文では漁民が海の異変と魚介類の汚染を知っていたと述べられているので、知らなかったとする記述は置けません。空欄イはレオポルドの土地倫理の定義で決まります。空欄ウは、レオポルドの「『土地』に対する愛情、尊敬や感嘆の念が伴わなければ、いくら規則や制度を作っても意味がない」という見解と、緒方の「命を金銭に換算する補償金制度では命そのものに向き合うには不十分だ」という語りの共通点を探します。

<選択肢>

ア=人間は魚によって養われているという感覚を有していた【正】

海に出て魚を捕って食べることで生きることができる、という生活そのものが、人間が魚に養われているという感覚を支えている。汚染を知りながらなお魚を食べ続けたことの説明として、この感覚が置かれている。

ア=海の汚染が人体にまで影響するとは思っていなかった【該当せず】

会話文は、漁民たちが海の異変に気付いていたし、捕れた魚介類が汚染されていたこともわかっていたと述べている。知らなかったとする記述は会話文と正面から矛盾する。

ア=経済成長を最優先する社会のあり方に怒りを感じていた【該当せず】

先生の発言は「生きることができるという生活の中で」と、漁民の生活の側から説明を始めている。社会への怒りは、この文脈で漁民が魚を食べ続けたことの説明にならない。

イ=人間は生態系という共同体の構成員にすぎない【正】

レオポルドの土地倫理は、倫理の範囲を土壌・水・動植物を含む共同体(土地)へ広げ、人間をその征服者ではなく一構成員と位置づける。アの感覚と「似ている」とされる内容として合う。

イ=人間は自分が生まれ育った故郷にとどまるべきだ【該当せず】

土地倫理は土地への帰属を説く郷土論ではない。「土地」を生態系という共同体として捉える考え方であり、居住の場所についての規範ではない。

イ=人間が介入しないことにより健全な生態系が保たれる【該当せず】

人間を共同体の外に置いて不干渉を説くのは、人間を構成員と見る土地倫理と前提が異なる。魚を捕って生きる漁民の感覚と「似ている」とも言えない。

ウ=経済的尺度では測れない価値を生態系に認めること【正】

レオポルドは土地への愛情・尊敬・感嘆の念が伴わなければ規則や制度を作っても意味がないとし、緒方は命を金銭に換算する補償金制度では命そのものに向き合えないと語った。どちらも、経済的な尺度に還元できない価値を認めることの重要性を示している。

ウ=環境保全と経済活動にまたがる持続可能な開発【該当せず】

経済活動との両立を図る枠組みであり、経済的尺度そのものを超える価値を問う二人の議論とは方向が異なる。補償金制度では不十分だという緒方の指摘を受け止められない。

ウ=生態系が健全であった過去の時代の生活様式に戻ること【該当せず】

過去への回帰は、レオポルドの見解にも緒方の語りにも出てこない。会話文が示しているのは、制度の前に必要な心のあり方である。

正解【⑦】

魚に養われているという感覚、人間を生態系という共同体の一員とする土地倫理、経済的尺度では測れない価値を認めること、の3つがそろいます。

※ 本記事の解答・解説は当サイトが独立に作成したものです。公式の正解および配点は大学入試センターの発表をご確認ください。

投稿を友達にもシェアしよう!
  • URLをコピーしました!
目次