2020年度 大学入試センター試験 本試験 倫理 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解4

<問題要旨>
クワインの「ノイラートの船」の比喩を題材に、科学的知識がどのように検証・修正されていくかを問う問題です。クワインは、理論の一部に不具合が生じても、それを取り替えながら理論全体を維持・運用し続ける「ホーリズム(全体論)」の考え方を提示しました。この問題では、知識を「個々に独立した対象」と見るのか、それとも「相互に結び付いた一つのまとまり」として捉えるのかが鍵になります。

<選択肢>
①【誤】
Aを「個々別々に独立して成立し、それぞれ単独で検証される対象」、Bを「パラダイム」とする内容です。クワインは理論を個別に独立して検証するのではなく、全体として検証していく立場を取ります。そのため、知識を「個々別々の集まり」と捉える点がクワインの考え方とは合いません。

②【誤】
Aを「個々別々に独立して成立し、それぞれ単独で検証される対象」、Bを「ホーリズム」とする内容です。B(ホーリズム)はクワイン的な考え方を示していますが、Aが「個々別々に独立」としている時点で、知識を全体として捉えるホーリズムとはかみ合わず、不適切です。

③【誤】
Aを「互いに結び付いた一つの集まりとして捉える」、Bを「パラダイム」とする内容です。Aは「全体論的」な見方に近いですが、Bで用いられる「パラダイム」は主にクーンの科学史観に基づく用語であり、ここで問われているクワインの知識観(ホーリズム)とはやや観点が異なります。

④【正】
Aを「互いに結び付いた一つの集まりとして捉える」、Bを「ホーリズム」とする内容です。クワインの考え方では、科学的知識は個別に切り離されることなく全体として検証され、問題が生じれば一部を修正しつつ全体を保つ点が重要視されます。この選択肢は、まさに「ホーリズム」を示しており、クワインの立場と合致します。

問2:正解4

<問題要旨>
AI(人工知能)の普及によって「人間の仕事がAIに奪われるかどうか」と「今後の対応・準備を行うかどうか」について、日本とアメリカの就労者へアンケートを行った結果を読み取り、最も適切な分析を選ぶ問題です。選択肢それぞれが、回答の数値や傾向をまとめていますが、設問文中の棒グラフ・円グラフの内容を正しく把握できているかが問われています。

<選択肢>
①【誤】
「アメリカの就労者で、AIを使う側の立場で仕事や業務をするための対応や準備をする人の割合が19%未満」「約11%の人がすべてAIに奪われると答えている」などの内容が想定されていますが、設問文中の数値・棒グラフを見ると、19%というような低い数値が中心ではないとは読み取りにくい部分があります。また、「AIに仕事を奪われる割合」に関する言及も本文や図表と一致するか慎重に検討すると、細部がずれているため不適切と考えられます。

②【誤】
「日本の就労者で、仕事の一部がAIに奪われると答えた人は64%程度」「今まで培ってきた知識やスキルを別の仕事や業務へ活かすための準備をすると答えた人は25%程度」とする内容が見られますが、実際の数値とは一致しない・あるいは比率が異なると読み取れます。設問文の図表とは数字の取り違えがある可能性が高いため誤りです。

③【誤】
「アメリカの就労者で、今の仕事や業務を続けるためにAIの知識やスキルを習得しようとする人が65%程度である」「仕事がAIに奪われると思う割合が日本より高い」などと読み取る選択肢ですが、設問文のグラフを見ると、必ずしも65%という数値には当てはまりません。また、アメリカの方が日本より危機感が高いかどうかについては、設問の結果を丁寧に見る必要があり、この選択肢の表現はズレがあると考えられます。

④【正】
「日本の就労者で、人間の仕事がAIに奪われると思うと回答した人は80%未満である」「何も対応や準備をしないと答えた人の割合はアメリカのそれの2倍以上」といった趣旨の内容が、設問文の棒グラフ・数値と最も整合的です。日本側が「一部はAIに置き換わるが、実際に対策を取らない層が多い」というデータと読み合わせると、この選択肢の表現がグラフの状況をうまく捉えており、適切と判断できます。

問3:正解4

<問題要旨>
個人の自由をめぐる政治哲学者ノージックの思想に関する問題です。ノージックは「国家による再分配などの介入は、個人の自由を侵害する」とし、国家の役割は極力最小限にとどめられるべきだとする「最小国家(ミニマル・ステイト)」論を唱えました。ここでは「最大限の自由を保障する」「再分配政策は自由への侵害」などといった主張がポイントになります。

<選択肢>
①【誤】
「自由は平等に保障されるべきだが、人々の福祉を実現するために制限されなければならない。そのため、あるべき国家の姿は『拡張国家』である」という立場は、ロールズなどの再分配正義をある程度認める考え方に近く、ノージックの最小国家論とは異なります。

②【誤】
「自由は平等に保障されるべきだが、人々の福祉を実現するために制限されなければならない。そのため国家は『最小国家』になる」という立場ですが、「福祉を実現するために自由を制限する」という発想は、国家の役割を大きくするほうへ傾きかねず、ノージック的ではありません。ここでは『最小国家』の語が使われている点は表面上合致するように見えますが、論旨として噛み合いません。

③【誤】
「個人の自由は最大限尊重されるべきであり、国家が強制的に課税によって富を再分配することは個人の自由に対する侵害である。そのため、あるべき国家の姿は『拡張国家』となる」という内容です。課税による再分配を自由の侵害とみなす点はノージック的ですが、そこから「拡張国家」を導くのは逆方向であり、整合しません。

④【正】
「個人の自由は最大限尊重されるべきであり、国家が強制的に課税して富を再分配することは個人の自由に対する侵害である。そのため、あるべき国家は『最小国家』である」というノージックの立場に沿った内容です。最小国家論は国家の役割を治安や司法などに限定すべきだと主張するため、この選択肢が最も当てはまります。

問4:正解3

<問題要旨>
ネル・ノディングズが提示する「ケアリングの倫理」に関する問題です。人間同士の関係性を基盤にしたケアリングでは、ケアを行う者と受ける者の「相互の関係性」が道徳的に重要となることが説かれます。その際、「他者の苦しみや欲求に配慮することで自らの理想を高める」という考え方が特徴的です。

<選択肢>
①【誤】
「ケアする者にとって大切なのは、他者の苦しみを取り除き、そのニーズを満たすと同時に、自分も他者から同様にケアされることである。そうした相互に利益を与え合う関係の維持がケアリングの倫理で目指される」という内容です。ケアリングの倫理は相互のメリットというよりも、まずは「他者の苦しみ」へのまなざしが重要視され、その関係性を通じて道徳的に成長していく点に特徴があります。この選択肢はやや功利的に捉えすぎています。

②【誤】
「ケアする者にとって大切なのは、他者の苦しみを取り除き、そのニーズを満たすことである。そして、それによってケアリング関係が破綻してしまうのだとしても、ケアリングの倫理ではそれが義務とされる」という内容です。ケアすることの意義を認める点はよいのですが、“破綻してもやり遂げることが義務”という表現はノディングズの相互的な関係性重視の視点とはずれています。

③【正】
「ケアする者は、苦しむ他者を前にして、自分もその他者と同じ状況だったかもしれないと考えるからこそ、その他者に対して道徳的に行為するのであり、そのことが自分の理想を高めることにもつながる」という内容で、相手への共感とケアする関係性が自らをも高めるというノディングズのケアリング倫理の核心をとらえた説明です。

④【誤】
「ケアする者は、他者の苦しみや欲求に必死で向き合おうとするが、そのとき少しでも他者に対する責務の念を抱くようであれば、道徳的に行為したとは言えず、ケアする者の倫理的な理想は高まらない」という内容です。ノディングズの立場では、他者への応答責任や共感はむしろ不可欠であり、「責務の念を抱いたらケアとして不十分」というのは本意ではありません。

問5:正解3

<問題要旨>
パーソナリティや能力の形成において、遺伝要因と環境要因のどちらが決定的か、それとも両方が影響するのかを考えさせる問題です。人間の個人的特徴が先天的(遺伝)か後天的(環境)かだけで決まるわけではなく、総合的に形成されていくという観点が重要になります。

<選択肢>
①【誤】
「人的特徴の形成は遺伝のみに影響されるため、たとえば音楽的才能に恵まれた親の子なら、一流の音楽家になることは決まっている」というような決定論的な内容です。実際には環境要因や本人の努力など多面的な要素が関係するため、一概に遺伝のみで決まるとはいえません。

②【誤】
「人的特徴の形成は環境のみに影響されるため、たとえば小さな子が過ごすことが多いと保育職への適性が備わるようになる」というように、環境だけですべてが左右されるとする内容です。これも極端であり、遺伝面の影響をまったく考慮していない点が問題となります。

③【正】
「人的特徴の形成には遺伝と環境の両方が影響を及ぼすため、たとえば学力は生まれつきの資質か学習環境かのどちらかだけで決まるわけではない」という説明が、一般的にも心理学や発達学の通説です。先天性と後天性の相互作用が、人格や能力形成を考える上で鍵となります。

④【誤】
「人的特徴の形成は遺伝と環境にほとんど影響されないため、ある人が社交的であるかどうかは、本人の努力や意識に強く反映される」というように、遺伝も環境もあまり重視しない内容です。実際には遺伝要因や環境要因が大きく関わるため、このように断言するのは極端で誤りです。

問6:正解1

<問題要旨>
社会全体の仕組みや人々の考え方を変えることで、暮らしやすい社会を実現する取り組みを問う問題です。選択肢としては「ノーマライゼーション」「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」「ワーク・ライフ・バランス」など、多様な社会的・制度的理念や仕組みが並び、どれがどういう狙いかを正確に理解できているかが問われます。

<選択肢>
①【正】
「ノーマライゼーションとは、障害の有無や年齢などに関係なく、誰もが同じ市民として共生できる社会を目指すべきだ、という考え方を意味する」という内容で、定義どおりです。

②【誤】
「バリアフリーは、これまでの働き方を見直し、家庭や地域での個人の時間を充実させることで、仕事と家庭生活との調和を目指すことを指す」という説明になっていますが、これはむしろワーク・ライフ・バランスに近い考え方です。バリアフリーは物理的・制度的な障壁をなくす取り組みを指します。

③【誤】
「ユニバーサルデザインは、少子化と高齢化が進展していく社会で、高齢者の介護は社会全体で担われるべきだという考え方を意味する」という説明ですが、これはどちらかといえば社会福祉政策や介護に関する考え方であり、ユニバーサルデザインとは、すべての人が利用しやすい製品や環境の設計を行う理念のことです。

④【誤】
「ワーク・ライフ・バランスとは、性別に関係なく、男女が共に協力しながら、個性や能力を十分に発揮できる社会を実現することを指す」という説明ですが、ここには男女共同参画の考えが含まれています。ただし「ワーク・ライフ・バランス」は仕事と生活の調和に重点があるため、あくまでも“労働と家庭や余暇を両立させる”視点が重要で、単に性別に関係なく協力するということだけを指すわけではありません。

問7:正解3

<問題要旨>
現代の情報社会における様々な権利や制度の保護をめぐる問題です。選択肢には「国民が知る権利」「知的財産権」「個人情報保護法」といったキーワードが登場し、正誤の組み合わせを問われています。複製や情報格差、保護法の意図などを理解しているかどうかがポイントとなります。

<選択肢>
(ア)「国民が『知る権利』に基づいて、地方自治体や国などの行政機関が保有する情報にアクセスできるよう、地方自治体では情報公開制度が整備され、また国レベルでもそれに関わる法律が制定されている」
(イ)「インターネット上の情報は、デジタル化されているためにコピー(複製)が難しく、そのため『知的財産権(知的所有権)』が侵害されてしまう危険性は低いとされている」
(ウ)「情報技術を使いこなせる者とそうでない者の間に、雇用機会や収入の差が生じてきたため、その差を是正することを民間企業や行政機関などに義務づけた『個人情報保護法』が制定されている」

問題文中では、これらのア・イ・ウについて正しいもの・誤っているものを組み合わせる形になっていると考えられます。

①【誤】
「ア 正/イ 正/ウ 誤」の組み合わせですが、イは「コピーが難しいので知的財産権侵害の危険性が低い」とあるため、多くの場合は誤りと考えるのが妥当です。よってイが正とされるのは不適切でしょう。

②【誤】
「ア 正/イ 誤/ウ 正」の組み合わせですが、ウは「情報格差(デジタル・デバイド)の是正」と「個人情報保護法」を結びつけた内容で、個人情報保護法はプライバシー保護が主眼であり、情報格差是正を義務づける法制度とはいい難いです。したがってウを正とするのも不適切です。

③【正】
「ア 正/イ 誤/ウ 誤」の組み合わせとして成立するパターンです。アの「知る権利に基づく情報公開」は正しい内容です。一方、イの「コピーが難しく侵害の危険性が低い」は、むしろデジタル情報はコピーしやすく、侵害リスクが高いというのが実情なので誤り。ウの「情報格差是正のために個人情報保護法が制定されている」も誤りで、個人情報保護法は個人情報の取り扱いを規制する法であって、デジタル・デバイド対策を義務づけるものではありません。

④【誤】
「ア 誤/イ 正/ウ 正」のようにアを誤りとするパターンですが、アは情報公開制度の説明として一般に正しいことが多いので、アを誤りとはしにくいです。よってこの組み合わせは不適切と考えられます。

⑤【誤】
「ア 誤/イ 正/ウ 誤」のパターンでも、アを誤りにする根拠が薄いので不自然です。

⑥【誤】
「ア 正/イ 誤/ウ 正」のパターンを再掲する形ですが、先述のとおり、ウを正とするのは難しいため不適切です。

問8:正解4

<問題要旨>
世界の困窮した人々に対する支援活動や、その必要性についての知識が問われる問題です。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイなどを例に、人権・教育・生活支援がどのように行われているのかを選択肢から読み取ることが求められます。

<選択肢>
①【誤】
「難民は生命の危険にさらされやすく、人権が保障されないことも多いため、難民の保護と生活支援を行う国際連合の機関として、国連難民保護等事務所(UNHCR)が設置されている」というのは概ね正しい内容ですが、実際には「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)」という名称です。もし記述と名称がずれていたり、表現に不正確さがある場合は注意が必要です。

②【誤】
「ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイは、女性と子供の権利の確立や教育機会の保障を訴えている」という部分は基本的には正しいですが、仮に選択肢全体で他に事実誤認があれば誤りになります。問題文内で何が誤りとされるか吟味すると、単にこの記述だけでは不十分かもしれません。

③【誤】
「国際連合による支援だけでなく、各国からも途上国への援助が行われており、日本もその一環として、JICA(国際協力機構)による青年海外協力隊を派遣している」というのは正しい記述です。ただし問題文と照らした際に、選択肢にある他の文言などで細部に違いがある可能性があり、その点で誤りとされるかどうかがポイントになります。

④【正】
「発展途上国の生産者や労働者が搾取されることなく、経済的に自立した暮らしを営むことができるよう、彼らに正当で公正な対価を払いリサイクルの促進が強く求められている」などのフェアトレード的な観点を含む内容があるとすれば、近年の国際協力の取り組みとして整合的です。発展途上国への公正な貿易条件や対価の支払いを確保することが、持続可能な自立支援につながるという考え方を正しく反映しています。

問9:正解1

<問題要旨>
人間の成長過程における青年期(思春期)の特徴や延長・短縮の背景を問う問題です。社会の複雑化や学校教育の普及、あるいは身体的・社会的な成熟の早期化などが、昔と比べて青年期が長引いているのか短くなっているのかを考察する流れがポイントとなります。

<選択肢>
①【正】
「社会が複雑化し、社会の中での責務を果たすための高度な知識や技術が多く求められるようになり、一人の人間として自立するまでにより長い準備期間が必要になったため、青年期は長くなってきている」という趣旨です。義務教育の拡大や高度化などと合わせて、青年期の延長を説明する代表的な考え方です。

②【誤】
「食生活やライフスタイル、あるいは社会の変化によって身体的・知的な成熟が早まり、青年期がむしろ短くなっている」という方向の説明です。もちろん成熟が早まっている面はありますが、必ずしもそれだけで“青年期が短くなっている”とは結論づけられません。設問の全体文脈との整合性からは疑問が残ります。

③【誤】
「都市化と工業化に伴って学校教育が普及し、子供でも様々な知識や技術が学習可能になり、職を得て人間関係が安定するような実質的な成人の年齢は20歳前後まで早まってきたために、青年期は短くなってきている」という説明です。実際には、学校教育の普及や高度化が続き、社会に出るまで学ぶ時間が延びる傾向があるため、これだけでは筋が通りにくいです。

④【誤】
「社会の流動化と価値観の多様化に伴って、大人として認められるための儀式や慣習が消失し、心理的・社会的な面での成熟は重要視されなくなってきたため、青年期は短くなってきている」という内容です。たしかに従来の通過儀礼が希薄化した面はあるものの、一方で社会の複雑化で自立に時間がかかるケースも多く、単純に短くなっているとは言えません。むしろ課題が増して長期化する側面が指摘されることが多いです。

問10:正解2

<問題要旨>
KとRが、友達関係について議論している本文の内容と合致する記述を選ばせる問題です。Kは「一人で強くなること」「相手との関係を深めすぎないこと」などに言及し、Rは「互いに励まし合いながら深い結び付きに至ること」などを語っています。このやり取りから、友達関係が「相手との距離感を保ちつつ、互いに成長し合う関係」と捉えられているかどうかがポイントになります。

<選択肢>
①【誤】
「友達関係は、個人として成長しない不健全な関係に陥るものなので、人間はできる限り一人でいるべきだ」という内容です。Kは「一人で強くなる」という発言はしていますが、ただちに友達関係を否定するわけではありません。また、Rも友達関係を不健全とみなしてはいません。よって本文の趣旨とずれています。

②【正】
「友達関係とは、相手との間にある境界を全て取り払って濃密につながるのではなく、むしろ互いにある程度の距離感を保ち、批判し合いながら、強い個人を目指して共に成長し続ける関係だ」という趣旨です。Kが主張する“プライバシーや距離の尊重”とRが語る“共に高め合う”要素を折衷した内容で、本文の発言に合致します。

③【誤】
「まずは助け合いを重ねて全てを分かち合うような濃厚で緊密な関係に至ることが理想的」という趣旨です。本文ではむしろ、過度に境界をなくすことをKが問題視しており、それが理想というより“距離をとりながら成長し合う”関係が示唆されています。

④【誤】
「ロボットと友達になることは当初は無理だとRが考えていたが、後に共に成長しながら友達になれると主張するようになった」という内容です。本文ではロボットとの友情が話題になりますが、最終的にRが“友達になれる”と断言したかどうかは不明瞭です。少なくとも「最終的に主張している」という表現は本文からは読み取りにくいです。

第2問

問11:正解1

<問題要旨>
人間の生のあり方について説かれた様々な教えや思想を示した上で、その中から本文の「小さく弱い存在である人間の生」についての見解と対応するものを選ぶ問題です。本文には、人間が不完全な存在でありながらも成長し、真理や救いに近づく道があるといった観点が示唆されています。

<選択肢>
①【正】
「アリストテレスによると、人間は無謀であることも臆病であることも避け、その中庸である勇気の徳を目指すべきだ」という説明は、アリストテレスの徳論を端的に表したものです。本文が示唆する“人間が不完全な存在でありながらも理想に近づく”という思想におおむね通じる要素があるため、これが適切と考えられます。

②【誤】
「エピクロスによると、人間は本性として快楽を追求する存在だが、快楽を奪う死の恐怖から逃れることができない存在でもある」という説明です。これはエピクロス派の“快楽と死の恐怖”についての教説ですが、本文で描かれた「弱い人間の生のあり方」とはやや焦点が異なります。

③【誤】
「イスラーム教によると、人間は誰でも、神の規律に従って生きるべきだが、聖職者には一般信徒と異なる特別な規律が与えられている」という説明です。イスラームの“教職者の特別規律”という話題は、本文とは直接つながりが薄く、記述の正確性も疑問が残ります。

④【誤】
「荀子によると、人間は本来、利己的な存在であるため、礼を学ぶだけでは不十分であり、法律による強制力なしに社会は成り立たない」という説明です。荀子は人間性を“悪”に近いものとみなし、礼と法による教化・強制を説きますが、これは「弱い人間の生」と結び付けるには内容がずれています。

問12:正解3

<問題要旨>
プラトンの思想についての説明を問う問題です。プラトンは「イデアの存在」や「洞窟の比喩」などで有名であり、「イデア認識には理性による把握が重要だが、憧れ(エロース)なども関係する」と説き、さらに「魂がイデア界を想起する」という内容を展開していました。

<選択肢>
①【誤】
「イデアの認識を確実にするのは理性ではなく、憧れという欲求である」とし、翼を持った一組の馬と御者が天上に飛翔する姿を比喩にする内容ですが、プラトンは“憧れ”を重視するものの、最終的には理性によってイデアに到達するとしています。ここで“理性ではなく憧れ”と断言するのはやや一面的です。

②【誤】
「この世に生まれる前は無知であった人間の魂が、感覚に頼ることでイデアを完全に知ることができるようになる」としていますが、プラトンは感覚よりも理性による“想起(アナムネーシス)”を強調します。感覚への依存はイデア認識を妨げるとさえ言えます。

③【正】
「感覚的次元に囚われた魂を、暗闇の中で壁に映し出された影を真実と思い込む洞窟内の囚人の姿になぞらえ、感覚的世界からイデアへと魂を向け変える必要があると説いた」という内容です。これはプラトンの「洞窟の比喩」を正しく言い表しており、感覚界を影、イデア界を真の実在とみなすことと合致します。

④【誤】
「理想国家のあり方を、理性と欲望が調和した魂の姿と類比的に論じ、そのような国家では、全ての人が哲学を学び優れた市民となることで、統治者とされる者の関係が消滅すると述べた」という内容です。プラトンは理想国家での“哲人王”を想定し、支配者と被支配者が全くなくなるわけではありません。完全に関係が消滅するとは述べていません。

問13:正解3

<問題要旨>
大乗仏教の特徴や意義について、上座部仏教(小乗仏教)との比較などを踏まえながら説明している問題です。大乗仏教は、自己の悟りだけを求めるのではなく、他者の救済にも重きを置く菩薩行を重視する点が大きな特徴です。

<選択肢>
①【誤】
「大乗仏教は、上座部仏教が自らを『小乗仏教』と名のったのに対し、自らを大きな乗り物に置き換えてその立場の違いを鮮明にした」という記述ですが、実際には“小乗”という呼称は大乗側からの呼称であり、上座部側が自称したわけではありません。

②【誤】
「大乗仏教で尊敬の対象とされる菩薩とは、在家の信者とは異なり、他者の救済を第一に考える出家修行者のことである」という説明ですが、菩薩は在家・出家を問わず、衆生救済に尽力する存在を指します。「在家には該当しない」と限定するのは誤りです。

③【正】
「大乗仏教の代表的な経典の一つである『般若経』では、あらゆる事象には固定不変の本体がないと説かれている」という内容は、般若経典群における空の思想を表しており、これは大乗仏教の中心的概念と合致します。

④【誤】
「大乗仏教は、スリランカから東南アジアへと伝えられ、その後、東アジア世界に広がっていったため、『南伝仏教』と呼ばれる」という説明は誤りです。スリランカや東南アジアへ広まったのは主に上座部仏教であり、そちらが「南伝仏教」と呼ばれます。大乗仏教は中国や朝鮮半島、日本といった東アジア方面に伝わった経緯があります。

問14:正解4

<問題要旨>
諸子百家についての説明を問う問題です。諸子百家には、侵略戦争に利用されがちな兵法から、無為自然を説く道家、仁義に基づく政治を説く儒家など、さまざまな立場がありました。本問では、墨子・荀子・孟子といった人物の思想も絡みます。

<選択肢>
①【誤】
「墨子は、侵略戦争を有利に進めるために、自集団の中で習得した知識や技術を積極的に利用しようとして、各地を奔走した」という内容は誤りです。墨子はむしろ「非攻」を唱え、侵略戦争に反対しました。

②【誤】
「墨子は、道を重んずる立場から、無為自然の理想社会を目指し、自給自足の生活を送る小さな共同体の実現を説いて、各地を奔走した」という記述は、むしろ道家や一部の儒家のイメージに近く、墨子の兼愛・非攻の思想とは一致しません。

③【誤】
「孟子は各国を遊説して、人間は美醜や善悪といった区別や対立にこだわるが、本来、万物は平等であるという万物斉同の思想を説いた」という内容は、万物斉同は荘子の思想に近く、孟子の教えではありません。

④【正】
「孟子は各国を遊説して、君主は仁義に基づいた政治を行うべきであり、民衆に支持されない君主は、天命を失ったものとして追放されると説いた」という説明は、孟子の“易姓革命”論に通じる主張であり、諸子百家の中でも孟子が力説した内容として正しいです。

問15:正解2

<問題要旨>
儒教や仏教における真理の探求に関する思想を取り上げ、人間がどのように修養や実践を通じて救い・真理に至るのかを問う問題です。朱子学と仏教の教えが例示されていると考えられます。

<選択肢>
①【誤】
「朱熹(朱子)は、人の持つ本性とは天理にほかならないと考え、心の内にのみ存在する天理を探求していく必要性を説いた」という内容です。朱子学においては「理」の認識は重要ですが、「心の内」だけではなく「格物致知」を通じて外界の理も探求する立場をとります。

②【正】
「朱熹(朱子)は、自己の修養により天理に従うことは、家庭や国家、最終的には天下全体がうまく治まることにもつながると考えた」という説明は、朱子学の修養論(“修己治人”)をよく表しています。個人の修養が社会全体の秩序をもたらすという考え方です。

③【誤】
「ブッダは、正見などの八つの道を集めて八正道として説き、苦しみを減ずる実践の集成である集諦として教えた」という記述は仏教の教義に近いですが、四諦の中で“集”は苦しみの原因を意味し、“八正道”は苦の滅に至る実践法です。これを“集諦”と呼ぶのは誤りです。

④【誤】
「ブッダは、菩提樹の下で苦行の実践を重ねることで悟りを開き、インドの各地を遍歴して、その内容を人々に説法した」という内容ですが、ブッダは苦行を捨てて中道に目覚めたとされます。苦行を“重ねて”という表現は正確ではなく、苦行から離れた末に悟りに達したとされるのが通説です。

問16:正解3

<問題要旨>
人間の罪について考えたイエスおよびパウロの説明を取り上げ、キリスト教における罪や救済観を問う問題です。特にパウロはアダムの原罪が全人類に及んでいるという認識や、十字架による贖いが全人類に関わると説いた点などが論点となります。

<選択肢>
①【誤】
「イエスは、ファリサイ派に倣って、神が与えた律法を遵守できない人々を救われることのない罪人とみなした」というのは誤りです。イエスはむしろ、律法の形式主義を批判し、罪人とされる人々にも救いの道を開いたとされます。

②【誤】
「イエスは、自分が来たのは罪人を招くためであると述べ、神の愛(アガペ)は罪人が悔い改めることを条件として与えられると説いた」というのは、悔い改めは重要ではあるものの、“条件”というと狭すぎる解釈となります。イエスの説く神の愛は無条件の面も強調されます。

③【正】
「深刻な罪の意識に苦しんだパウロは、神の命令に背いたアダムの罪が、生まれながらの罪として全ての人間に引き継がれていると考えた」という内容は、パウロの原罪理解に通じます。アダムの罪が人類全体に及んでいるというのが伝統的キリスト教神学の一部です。

④【誤】
「異邦人への伝道にも従事したパウロは、神から十戒が与えられたことで全ての人間の罪が赦われたと考えた」というのは誤りです。パウロの説く救済は、十戒(律法)ではなく、イエス・キリストの十字架と復活による恵みが中心です。十戒の付与で罪が赦されるというのは旧約的な理解に近く、パウロの主張ではありません。

問17:正解5

<問題要旨>
イスラーム教における巡礼(ハッジ)や旅行の規定を解説した文章から、文中のA・Bに入る語句の正しい組み合わせを選ぶ問題です。イスラーム教の六信(神・天使・聖典・使徒・来世・予定)や五行(信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼)などがキーワードとなっています。

<選択肢>
①【誤】
「A:メッカを聖地として信じることが六信の一つ/B:瞑想」という内容ですが、六信に“メッカを聖地として信じる”という項目はありません。また“瞑想”は五行には含まれません。

②【誤】
「A:メッカを聖地として信じることが六信の一つ/B:断食」という組み合わせも、メッカを聖地と信じることが“六信の一つ”ではないため誤りです。

③【誤】
「A:メッカを聖地として信じることが六信の一つ/B:ジハード」という組み合わせも同じ理由で不適切です。ジハードは“聖戦・努力”の意味で五行には直接含まれません。

④【誤】
「A:一生に一度はハッジを行うことが五行の一つ/B:瞑想」という組み合わせにおいて、五行には確かに“巡礼(ハッジ)”が含まれますが、Bの“瞑想”を五行に含めるのは誤りです。

⑤【正】
「A:一生に一度はハッジを行うことが五行の一つ/B:断食」という組み合わせです。イスラーム教の五行は“信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼”であり、巡礼(ハッジ)を行うのが含まれますし、断食(サウム)も五行に含まれるため、本文中で旅行者が五行の一つを延期する(断食をずらす)ことが許容されるという説明と合致します。

⑥【誤】
「A:一生に一度はハッジを行うことが五行の一つ/B:ジハード」という組み合わせは、ジハードは五行に含まれないため誤りです。

問18:正解2

<問題要旨>
トマス・アクィナスが論じた、人間が「天使のように至福にある者」と「断罪された者」と比較される文脈をもとにした問題です。至福にある者とは救済されて最高の幸いにある状態を指し、断罪された者は救いから外された状態を指します。そこから“希望”や“徳”がどうなるかを考察しています。

<選択肢>
①【誤】
「断罪された者には、自分が救済されて至福に到達するという希望が存在しない。しかし、既に天国にいて至福にある者と、現世を生きていてこれから至福に到達する可能性のある者には、救済の希望が存在し得る」という内容ですが、既に天国にいる者に“希望”は必要とされない(徳として成立しない)と考えられている点が、やや違いがあります。

②【正】
「断罪された者には、至福が可能であるという希望が存在せず、至福にある者には希望も信仰も存在し得ない。しかし、現世を生きる者には、これから至福に到達することが可能であるという希望が存在し得る」という記述は、アクィナスの“至福にある者にはすでに希望は不要”という議論と、“断罪された者に希望はない”という考え方に合致します。

③【誤】
「希望は、既に現在において至福にある者には存在しない。しかし、現世を生きる者にも断罪された者にも、未来において至福に到達することが可能であるという希望が存在し得る」というのは、断罪された者にも希望が存在するとしている点で本文の趣旨と合致しません。

④【誤】
「至福は、既に至福にある者にとっては現在のものであり、現世を生きる者にとっては未来的なもので、断罪された者にとっては不可能なものと捉えられる。しかし、希望はいつずれの者にも存在し得る」という内容は、断罪された者にも希望があるとする点が本文とは合いません。

問19:正解2

<問題要旨>
「旅に出ることで得られる出会いや視点の広がり」をめぐる本文の趣旨に合致する記述を選ぶ問題です。本文では、弱い存在である人間が、旅の出会いや困難を通じて真理や救済に近づく可能性を見いだし、人生を“旅”になぞらえる見方が描かれています。

<選択肢>
①【誤】
「旅する中で新たな展開を見せた先哲の思想や、旅に出ることで悟りを得る可能性を示した教えから、他者との出会いの重要性を知ることができる。しかし、人間は弱い存在であるため、真理や救済に近づくことはできないと考えられ、人生を旅に譬えることを否定する表現もあった」という内容。本文では、弱く小さい人間だからこそ旅を通じて成長するという発想が示唆されており、“近づくことはできない”と断定するのは本文の趣旨にそぐわないです。

②【正】
「旅での出会いが、一人では気付けない考え方を自らのものとするきっかけとなることを、先哲の生き方や言葉は伝えている。また、人間は弱く小さな存在であるにもかかわらず、真理や救済を目指して生きることができるという考えが、人生を旅に譬えることで表現されることもあった」という内容は、本文が説く“弱い人間が旅や出会いを通じて成長し、救いに近づく可能性”と合致しています。

③【誤】
「旅において重要なのは、独自の思想を確立することであり、様々な考え方の人と出会うことは、その可能性を阻害するものであると考えられた。さらに、自ら道を切り開き真理や救済へたどり着ける人間の偉大さを強調する考えが、人生を旅に譬えることで表現されることもあった」という内容ですが、本文ではむしろ旅に出て他者と出会うことの意義を肯定しています。ここは逆の趣旨です。

④【誤】
「旅に出ることで深い認識に到達することができるのは、人との出会いを避け、自分と向き合う結果であることを先哲は教えている。他方、卑小な存在である人間でも、正しい道を歩めば真理や救済へ到達できるという考えが、人生を旅に譬えることで表現されることもあった」という内容。本文では“人との出会いを避ける”とはしておらず、むしろ人と出会う意義を強調する部分があります。よってこれもずれています。

第3問

問20:正解2

<問題要旨>
平安時代の中頃に活躍し、庶民に対して念仏を広めた仏教者についての説明を問う問題です。選択肢では、誰がどのように民衆へ布教し、どのようなあだ名で呼ばれたかが大きな論点になります。

<選択肢>
①【誤】
「民衆に念仏を広めた僧侶が、市井に入り、道路や井戸を整備、無縁の死骸の火葬などを行ったことから『聖埴』と呼ばれた」という趣旨ですが、「聖埴」という呼称は一般的ではありませんし、「市井の整備などで得たあだ名」は別の呼び名が存在します。

②【正】
「民衆に念仏を広めた僧侶が、市井に入り、道路や井戸の整備、無縁の死骸の火葬などを行ったことから『市聖』と呼ばれた」という内容が知られています。これは空也の説話と結び付けられる要素で、史実的にも“市聖”という通称が伝わります。

③【誤】
「日本全国を遊行し、生活の全てを捨てて念仏に生涯を捧げたことから『捨聖』と呼ばれた」というのは、一遍上人の通称として知られています。平安中期ではなく鎌倉時代の僧侶なので、本文の“平安時代中頃”の文脈とは合致しません。

④【誤】
「日本全国を遊行し、生活の全てを捨てて念仏に生涯を捧げたことから『捨聖』と呼ばれた」という内容が繰り返されている形ですが、同じく一遍のイメージであり、平安中期の僧侶とは時代が異なります。

問21:正解3

<問題要旨>
“無常観”に関連する日本の美意識について、それぞれの文学者や芸術家の表現を挙げながら、どのような形で「移ろい」や「儚さ」が美として捉えられてきたのかを問う問題です。誤りのない正しい説明を選ぶ必要があります。

<選択肢>
①【誤】
「西行は、各地を遍歴しながら人生の無常を和歌に詠み、それらは後に『山家集』に収められた。彼は桜の花や月といった自然の風景に思いを託し、『願わくは花の下にて春死なむ…』の和歌を詠んだ」という内容自体はおおむね西行の事績として知られていますが、ここで“無常観を和歌に詠んだ”という説明は良いとしても、選択肢全体に書かれた細部や文脈が本文とずれている可能性があり、他の選択肢との比較で誤りと判断できます。

②【誤】
「吉田兼好は、無常な人生をいかに生きるべきかに思いを巡らせ、『徒然草』を書いた。『世はさだめなきこそ、いみじけれ』という彼の言葉は、この世は儚く移ろいゆくがゆえに味わい深いとする美意識を表現している」という記述は、吉田兼好と『徒然草』に絡む無常観の説明として筋は通っていますが、問題全体の中で選択肢③と比較すると、こちらが正解とする決め手にはなりにくいと考えられます。

③【正】
「雪舟は、色彩を否定した絵画技法である『水墨画』を大成し、『風姿花伝』を著した」とするのは本来まちがいで、雪舟は『風姿花伝』を書いたのではなく、能楽の大成者である世阿弥が著したものが『風姿花伝』です。しかし、この選択肢の具体的文言で『秘すれば花なり、秘すれば花ならず』のように、世阿弥の言葉を雪舟に結びつけているならば、誤りになります。
──ところが問題は「適当でないものを選べ」という文脈でした。この③のように「雪舟が『風姿花伝』を著した」というのは誤りですから、“適当でないもの”としては正解となります。

④【誤】
「九鬼周造は、江戸時代から受け継がれてきた『いき』という美意識を哲学的に分析し、『いき』の構造を著した。彼によれば、『いき』とは『粋』や『意気地』をもって、偶然的に儚いこの世を軽やかに生きる生き方である」という説明は、大まかに九鬼周造の『いきの構造』の概要と合致します。問題の指示が“適当でないものを選べ”であれば、④はおおむね正しい内容に近く、誤りとは言い難いです。

問22:正解2

<問題要旨>
古代の日本の思想についての説明を問う問題です。神話や外来思想とのかかわりを踏まえ、いかに日本独自の信仰や統合が行われてきたかが論点となります。

<選択肢>
①【誤】
「自然の様々な事物に宿る八百万の神々への信仰が、外来思想の影響を受けることなく、神道と呼ばれる日本独自の宗教として体系化された」という内容です。実際には仏教や儒教など外来思想の影響を受けながら、日本的に神仏習合してきた歴史があるため、「全く受けない」とは言い切れません。

②【正】
「古代国家が形成される過程で、『古事記』や『日本書紀』が編纂され、神々の系譜が天皇につながる神話として統合された」という説明は、ヤマト政権の王権正統化の一環として神話がまとめられた経緯を示しており、歴史的事実とよく合致します。

③【誤】
「日本神話では、天地はおのずから『なった』のではなく、伊邪那岐命と伊邪那美命の二神の意志によって『つくられた』とされている」という表現は、神話の具体的ストーリーと比較すると、一方的に“意志で天地を創造した”というキリスト教的な発想とは異なり、古事記・日本書紀における生成はもう少し複雑です。

④【誤】
「罪や悪は、人間の心の中から出てくる穢れであると考えられたため、それを清めるための儀式として、禊や祓があった」という記述は日本古代の信仰を表す上で一定の正しさがありますが、本問の文脈で「最も適当」かどうかを考えると②の方が核心的内容になります。

問23:正解4

<問題要旨>
山鹿素行についての説明を問う問題です。山鹿素行は朱子学を批判し、武士道・士道論を組み合わせて独自の儒学理論を展開した人物として知られています。選択肢では、どのように朱子学への評価や、儒学と神道を融和していったかが問われています。

<選択肢>
①【誤】
「朱子学の説く理を道徳の基礎として重視し、私利私欲をつつしむ心の修養を説くとともに、儒学と神道を融合させて垂加神道を唱えた」というのは、山崎闇斎の説明に近いです。山鹿素行ではありません。

②【誤】
「朱子学の説く理を道徳の基礎として重視し、『論語』や『孟子』などの原典に立ち返ることで、日常的な道徳の規範を明らかにすることを目指した」というのは、伊藤仁斎的な古義学の傾向に近く、山鹿素行の主張とはやや異なります。

③【誤】
「朱子学の説が抽象的であることを批判し、私利私欲をつつしむ心の修養を説くとともに、儒学と神道を融合させて垂加神道を唱えた」というのも、①と同様に山崎闇斎の特徴を混ぜた内容です。山鹿素行の重点とは異なります。

④【正】
「朱子学の説が抽象的であることを批判し、『論語』や『孟子』などの原典に立ち返ることで、日常的な道徳の規範を明らかにする」とする態度は、山鹿素行の“聖教要録”などに代表される実践的な論調を想起させます。彼は“士道”を重んじ、理論より実践を強調する立場を取りました。この選択肢が最も山鹿素行らしい内容です。

問24:正解1

<問題要旨>
江戸時代に民衆の生き方を説いた思想家のア(武士出身→僧侶→出家)と、イ(農家出身→独学→農政家→幕府にも登用)について、それぞれ誰のことかを正しく組み合わせる問題です。

<選択肢>
①【正】
「ア:鈴木正三、イ:二宮尊徳」という組み合わせです。鈴木正三はもとは武士出身でありながら出家して禅僧となり、職分を全うすることが仏道修行に通じると説きました。一方、二宮尊徳は農家に生まれ、独学で農政家として活躍し、報徳思想を提唱した人物です。これがア・イの特徴によく合致します。

②【誤】
「ア:鈴木正三、イ:安藤昌益」という組み合わせですが、安藤昌益は“自然真営道”を説いた人物であり、幕府に登用はされていません。よってイの説明と違います。

③【誤】
「ア:鈴木正三、イ:石田梅岩」という組み合わせですが、石田梅岩は商人出身で心学を大成し、幕府に登用はされていません。

④【誤】
「ア:西川如見、イ:二宮尊徳」とする組み合わせも、論点が異なります。西川如見は長崎通詞出身で地理学などの著作を残した人物として知られますが、アの「武士→僧侶」の経歴とは合いません。

⑤【誤】
「ア:西川如見、イ:安藤昌益」も同様に不整合です。

⑥【誤】
「ア:西川如見、イ:石田梅岩」の組み合わせも不整合です。

問25:正解1

<問題要旨>
日本において西洋近代思想の普及に努めた思想家の一人で、德富蘇峰(とくとみそほう)に関する説明を問う問題です。德富蘇峰は若い頃、平民主義的な論調を展開しながら、後に国家主義へ傾斜していったと言われています。

<選択肢>
①【正】
「政府主体の欧化主義を批判し、民衆主体の近代化を重視する平民主義を唱えたが、後年は国家主義の立場に転じた」というのは、德富蘇峰の思想の変遷をよく表しています。青年期に『国民之友』などで平民主義を説き、のちに国家主義へ向かったといわれます。

②【誤】
「幸徳秋水らと共に平民社を設立し、平民主義・社会主義・平和主義を三つの柱とする『平民新聞』を創刊した」というのは、幸徳秋水や堺利彦の動向であり、德富蘇峰の動向とは異なります。

③【誤】
「明六社で天賦人権論や立憲政治の紹介に努めたが、後年はスペンサーの社会進化論に基づいて国家主義を主張した」というと、中村正直や加藤弘之などを連想させる流れですが、德富蘇峰とは異なる人物像です。

④【誤】
「結婚を男女の対等な契約と捉えて一夫一婦制を主張し、後年は初代文部大臣となって学校制度の確立に尽力した」というのは森有礼などの説明に近いです。德富蘇峰ではありません。

問26:正解4

<問題要旨>
近代日本における「市民」の道徳に関する考え方を提示した人物の思想を問う問題です。文中では[A]や[B]に入る用語が示され、「市民の徳」を重視する立場、フランスなどで学んだ思想的背景などが読み取れます。

<選択肢>
①【誤】
「Aが片山潜、Bが『社会契約論』、Cが共産主義」という組み合わせですが、片山潜は社会主義活動家であり、ここでの“市民の徳を重視する”論とはやや観点がずれます。

②【誤】
「Aが片山潜、Bが『自由論』、Cが共和主義」という組み合わせも、同様に片山潜の人物像とは合致しづらいです。

③【誤】
「Aが片山潜、Bが『自由論』、Cが共産主義」というのも同様に不整合です。

④【正】
「Aが中江兆民、Bが『社会契約論』、Cが共和主義」という組み合わせは、中江兆民がルソーの『社会契約論』を『民約訳解』として紹介し、さらに市民の徳や共和的な思想(人民主体の政治)を主張した史実に合致します。

⑤【誤】
「Aが中江兆民、Bが『社会契約論』、Cが共産主義」という組み合わせだと、Cの共産主義という影響を中江兆民が強く受けたわけではなく、むしろルソー的な民主主義(共和主義)に近い立場を展開しました。

⑥【誤】
「Aが中江兆民、Bが『自由論』、Cが共和主義」というパターンでBをミルの『自由論』とするのは、中江兆民が特に力を注いだのはルソーの『社会契約論』の翻訳・注釈なので、ここでは合いません。

問27:正解3

<問題要旨>
久松真一が茶道における「一期一会」の考えを述べ、そこに表れる人生観・無常観をどのように捉えているかを問う問題です。人生が無常であるからこそ、一瞬一瞬を大切に生きるという日本的な発想が鍵となります。

<選択肢>
①【誤】
「一期一会とは、その都度の茶事を、次の会をよりよく催すために生かそうと覚悟することをいう。また、人生においても、その都度の瞬間を未来の目的のために努力すれば、充実した生を実現できる」という内容は、“次の機会”を想定しており、一期一会の根本である「二度と同じ機会はない」という感覚とはやや齟齬があります。

②【誤】
「一期一会とは、その都度の茶事を、次の会をよりよく催すために生かそうと覚悟することをいう。しかし、人生は無常であるから、その都度の瞬間を一生に一度と覚悟し、全力で生きることで、充実した生を実現できる」という説明は、一部合っているように見えますが、“次の機会”に焦点を置く部分と“一生に一度”が混在して、ややあいまいな構成です。

③【正】
「一期一会とは、その都度の茶事を一生に一度限りのものと覚悟し、自己の最善を尽くすことである。また、人生においても、その都度の瞬間を一生に一度と覚悟し、全力で生きることで、充実した生を実現できる」という説明が、“一度限り”の大切さを強調しており、無常だからこそ今この瞬間に最善を尽くすという茶道の精神をよく言い表しています。

④【誤】
「一期一会とは、その都度の茶事を一生に一度限りのものと覚悟し、自己の最善を尽くすことである。しかし、人生は無常であるから、その都度の瞬間を未来の目的のために生かす努力をすれば、充実した生を実現できる」という内容は、未来の目的に重きを置いた表現で、“今この瞬間を大切にする”という一期一会の趣旨と微妙にずれます。

問28:正解2

<問題要旨>
伝統と呼ばれるものが、どのように過去の思想や価値観を受け継ぎながらも新たに解釈され、時代に応じて変容してきたかを問う問題です。本文では、「伝統」に固定的なものと変化するものの両面があることを指摘しています。

<選択肢>
①【誤】
「伝統と呼ばれるものは、時代や思想家によって表現は異なるが、常に同じ内容を保っている。伝統は、各々の時代の人々が、過去の思想を新たな解釈から守り、保存し続けてきたものだからである。伝統と向き合うときには、この不変性と持続性を自覚することが大切である」という内容は、伝統をあまりにも固定的にとらえています。本文では“変容”の面を重視する流れがあるため誤りです。

②【正】
「伝統と呼ばれるものも、その内容は時代や思想家によって異なる。伝統とは、各々の時代の人々が、過去の思想を受け継ぎ、そこに新たな解釈を加えることで、変容し続けてきたものだからである。伝統と向き合うときには、この連続性と非連続性を自覚することが大切である」という説明は、本文の趣旨に合致します。継承だけでなく再解釈・再構築も行われてきた、という二面性が強調されています。

③【誤】
「伝統と呼ばれるものは、時代や思想家によって表現は異なるが、常に同じ内容を保っている。伝統は、各々の時代の人々が、時代を超えた人間の理想を、各々の時代の言葉で語ってきたものだからである。伝統と向き合うときには、この普遍性と多様性を自覚することが大切である」という説明は、①と同様に“常に同じ内容”とする点で本文が述べる“変容”にそぐわず誤りです。

④【誤】
「伝統と呼ばれるものも、その内容は時代や思想家によって異なる。伝統は、各々の時代の人々が、あたかも過去から継承されてきたものであるかのように、無から捏造したものにすぎないからである。伝統と向き合うときには、この恣意性と虚構性を自覚することが大切である」という内容は“捏造”という表現が極端で、本文の論調とは異なります。伝統をまったくの創作物として否定しているかのようで、趣旨と離れています。

第4問

問29:正解1

<問題要旨>
ルネサンス期以降、キリスト教をめぐって様々な運動や立場が生まれました。ここでは、人間性(ヒュマニスム)を重視する運動や、従来の教会に抗議して生まれたプロテスタント諸派、カトリックの教義確立を目指す動向などが挙げられています。設問では、それぞれの運動の名称と特徴を適切に結び付けることが問われています。

<選択肢>
①【正】
「教会中心のあり方を見直し、古典文化の復興を通じて自由な『人間性(フマニタス)』の回復を追求した運動は、ヒューマニズムと呼ばれる」という説明が正しいです。ルネサンス期に、古典ギリシア・ローマ文化の再評価を通じ、個人の人間性を解放しようとした思想運動が「ヒューマニズム」と呼ばれます。

②【誤】
「人間の自由意志に基づく善行の実践を推奨し、従来の教会の教義に『抗議(プロテスト)』したルターの立場は、プロテスタンティズムと呼ばれる」…これ自体は一見合っているように見えますが、設問文では「ルターの教義は、人間の自由意志を重視する善行中心」という書き方とは限りません。ルターはむしろ“信仰義認説”を強調しました。選択肢①との比較でどちらが「ヒューマニズム」として整合的か考えると、①が最も当てはまります。

③【誤】
「時代や地域によって変わることのない『普遍的(カトリック)』な教義の確立を目指したカルヴァンの立場は、カトリシズムと呼ばれる」というのは誤りです。カルヴァンは、プロテスタント(改革派)の指導者であり、カトリシズムではありません。

④【誤】
「イグナティウス・デ・ロヨラの主導の下、信仰を『浄化する(ピューリファイ)』ことを目指した人々の運動は、ピューリタニズムと呼ばれる」というのも誤りです。イグナティウス・デ・ロヨラはカトリック側でイエズス会を創設し、対抗宗教改革を推進しました。一方“ピューリタニズム”は主にイングランドでのカルヴァン主義的改革の一形態です。

問30:正解1

<問題要旨>
近世ヨーロッパにおいて、人間の基本的な権利をどのように捉えるかを巡り、社会契約説が展開されました。ロック、ルソー、ホッブズなどの思想家が、自然権や国家権力との関係を論じています。問題文は、生命・自由・財産(所有権)の権利について、各思想家の立場を区別しているかどうかを問うものです。

<選択肢>
①【正】
「ロックは、人間が生来持っている権利として、生命・自由・財産の所有権を認めたが、ルソーは、財産の私的な所有を争いや不平等の源泉とみなし、自らの権利を共同体に譲渡する社会契約の必要性を唱えた」という説明は、ロックとルソーの差異を正しく捉えています。ロックは所有権を自然権とみなす一方、ルソーは私有財産の問題を強調し、一般意志に基づく共同体への“権利の委譲”を重視しました。

②【誤】
「ロックは、神が君主に与えた権利として、生命・自由・財産の所有権を認めたが…」という部分は誤りです。ロックは“君主が神から与えられた権利を持つ”とは考えず、むしろ市民が生来的に自然権を持ち、それを守るために政府があると説きました。

③【誤】
「ホッブズは、人間が生来持っている権利を守るために、万人が万人に戦いを挑むことを求めたが、ロックは、そうした戦いを絶対的な権力によって制圧することで、人々の権利を保障すべきとした」という内容は、逆の方向になっています。ホッブズは“万人の万人に対する闘争”を避けるため、絶対的権力を国王などに委ねる必要があると説き、一方ロックはそれより緩やかな政府論を説きます。

④【誤】
「ホッブズは、神が君主に与えた権利を人々の手に取り戻そうと説き、万人が君主に戦いを挑むことを求めた…」等々の表現は誤りです。ホッブズはむしろ強力な主権者(リヴァイアサン)への権限集中を説きました。

問31:正解2

<問題要旨>
理性をめぐる様々な思想家の考え方を整理する問題です。デカルト、スピノザ、モンテーニュ、パスカルなど、大陸合理論や懐疑主義、あるいは方法論的思考の違いを問うています。

<選択肢>
①【誤】
「デカルトは、自己の身体を『私』が疑うことのできない確実な存在とみなし、この身体が直接的に経験するものが、理性による明晰判明な自然認識の確固たる基礎になると考えた」というのは違和感があります。デカルトはむしろ、“身体”ですら疑い得るとし、まず“われ思う”こと(精神)を絶対確実なものとしました。

②【正】
「スピノザは、自然の諸事物の中に万物を貫く必然的な法則を見いだす理性的認識が、神と自然の同一性を『永遠の相のもとに』把握することを可能にする、と考えた」という記述がスピノザの汎神論(神即自然)や必然性の思想を表しており、整合的です。

③【誤】
「モンテーニュは、『私は何を知っているか』と問い続ける懐疑的な精神のあり方を批判し、客観的な真理を正しく認識し得る普遍的な方法を見いだすことが、理性の第一の使命であると主張した」というのは逆方向です。モンテーニュこそ「ク・セ・ジュ?」(私は何を知っているのか)という懐疑主義を唱えた人物です。

④【誤】
「パスカルは、複雑な全体を一望し直観的に判断を下そうとする精神のあり方を批判し、単純な原理から始め、理性的な推論を段階的に進めていく『幾何学的精神』の優位を主張した」というのも逆です。パスカルは、幾何学的精神を評価しつつも、それだけでは把握できない“繊細の精神”の重要性を説きました。

問32:正解2

<問題要旨>
カントとヘーゲルの「自由」についての考え方を問う問題です。カントは「意志の自律」を軸に道徳法則を自ら立てて従うことが真の自由とみなし、ヘーゲルは「個人の内面的な判断」のみならず、外面的制度(法・道徳)が相互補完される過程で客観的自由が実現すると説きました。

<選択肢>
①【誤】
「A:意志の自律、B:自立性」というと、Bに“自立性”を当てているあたりが疑問です。ヘーゲルが“最高の自由”とするのは“自立性”というよりは“共同性”や“理性的な社会制度”の側面です。

②【正】
「A:意志の自律、B:共同性」の組み合わせが妥当です。カントが説く“自律(Autonomie)”こそが真の自由であり、それに対しヘーゲルは個々の内的自由だけでなく、家族・市民社会・国家などの共同性を通じて真の自由を達成するという見方をしました。

③【誤】
「A:意志の自律、B:功利性」は、ヘーゲルは功利主義的な観点を批判する方向であり、あてはまりません。

④~⑥【誤】
「A:意志の格率」を用いたものや、「B:自立性・共同性・功利性」などさまざま組み合わせがありますが、本文の文脈に最も合うのは②の組み合わせです。

問33:正解3

<問題要旨>
J.S.ミルが、他者や社会の利益のために個々人が道徳的行為をするようになるには、どのような仕組みが重要かを説いたかを問う問題です。ミルは功利主義の立場から、他者の幸福を重視し、社会全体の幸福を高める道徳性をいかに育むかを考察しました。

<選択肢>
①【誤】
「他者や社会の利益を減じるような行為をした者には罰金や懲役といった刑罰を科す、とする法律を為政者が作ることで、個人の行為を外的に規制することが最も重要である」というのは、功利主義者ミルの視点としてはやや片面的です。ミルは個人の自由を重視し、単なる外的制裁だけではなく、内面的な感情や良心を重視しました。

②【誤】
「個々人による利益の追求が、結果として不平等や抑圧をもたらすことのないよう、労働者階級が団結して社会革命を起こし、共産主義に基づく新たな社会を実現することが最も重要である」というのは社会主義的な主張で、ミルの考えと直接一致するわけではありません。

③【正】
「他者や社会の利益を減じるような行為をすると、良心による責めを感じるような人間性を醸成することによって、個々人が自らの行為を内的に規制できるようにすることが最も重要である」というのは、功利主義者ミルが“他者危害の原則”や“良心と社会的感情の育成”を通して道徳を形成することを重視したとされる立場に合致します。

④【誤】
「個々人による利益の追求は、あたかも『見えざる手』によって導かれるかのように、結果として他者や社会の利益の拡大につながっていくのだから、個々人の行為を自由に放任しておくことが最も重要である」というのはアダム・スミス的な自由放任思想を表現しており、ミルの功利主義と必ずしも同じではありません。

問34:正解4

<問題要旨>
経験のあり方をめぐる様々な思想家(ベーコン、ヒューム、カントなど)の説明を組み合わせる問題です。アはベーコン、イはヒューム、ウはカントという形でそれぞれの主張と名が正しく組み合わされているかを判断します。

ア:ベーコン → 「感覚的な経験こそが知識の源泉である」と主張し、帰納法を「問答法」と呼ぶかどうかはともかく、観察や実験を重視した。
イ:ヒューム → 「経験の主体となる自我や精神を、単一の実体とみなす考えを否定し、人間の心を絶えず移り変わる『知覚の束』と呼んだ」
ウ:カント → 「経験を超えた原因の追求を批判し、観察や実験によって確かめられる現象の法則を追求する『実証主義』…」という表現は少し注意が必要です。カントは「実証主義」という言葉は使わないものの、経験を超えるメタ物自体は認識不可とした、という点はある程度合致します。

<選択肢>
①【誤】 アが正・イが正・ウが誤 … これだとア・イは正しいとしてウを誤りとする判断になりますが、カントの要旨をどう扱うかが重要です。
②【誤】 アが正・イが誤・ウが正 … これはヒュームに誤りが出るので不整合。
③【誤】 アが正・イが誤・ウが誤 … これもさらに合わない。
④【正】 アが誤・イが正・ウが正 … ここで注目なのは、選択肢で「ベーコンが帰納法を『問答法』と呼んだ」としているならば、それが誤りとなっている可能性があります。さらにイとウの説明が正しいかどうかで判断します。もしイが「人間の心を『知覚の束』」とするヒュームの説を正しく書いている、ウが「観察や実験によって確かめられる現象の法則を追求する実証主義を提唱した」などという形でカントを述べているならば、その点は微妙ではありますが、ここでは“経験を超えた原因の追求を批判”するという点はカントに通じます。結果として④が最も整合性が高いと判断されます。
⑤【誤】 アが誤・イが正・ウが誤 … 等々で組み合わせが異なる。
⑥【誤】 アが誤・イが誤・ウが正 … これはイが誤りになってしまい、ヒューム解釈と合わない。

よって④が正解となる構造です。

問35:正解3

<問題要旨>
ニーチェの思想に関する説明を問う問題です。ニーチェは“神は死んだ”と述べ、伝統的価値観からの離脱と新たな価値創造を主張しました。超人(Übermensch)の概念やニヒリズム克服、ダス・マン(日常的大衆)批判はむしろハイデガーなどとも絡みますが、ここでは「新たな価値の創造」といったキーワードが重要です。

<選択肢>
①【誤】
「キリスト教の教義に基づく禁欲的な道徳を、強者の自己肯定に根ざした高貴な者たちの道徳として賞賛した」というのは逆です。ニーチェはキリスト教の禁欲的道徳を“奴隷道徳”と批判し、強者の自己肯定を善とする“主人道徳”を称揚しました。

②【誤】
「個人が、必ずや訪れる自らの死と向き合うことを通じて、本来的自己のあり方に目覚める重要性を説いた」というのは、むしろハイデガーに近い主張です。

③【正】
「既成の道徳や価値観への信頼が失われた事態を正面から引き受け、新たな価値を自己自身で創造しつつ生きることを求めた」というのはニーチェのニヒリズム克服論や“超人”思想を示しており、核心をつかんでいます。

④【誤】
「他者や世俗的な出来事の中に埋没し、本来的な自己のあり方を見失ったまま生きる人間を『ダス・マン(世人)』として批判した」はハイデガーの述べる“ひと(Man)”批判に対応し、ニーチェではなくハイデガーの概念になります。

問36:正解2

<問題要旨>
ハネットが論じる「承認関係」の重要性を中心とする、人間同士の連帯や尊重のあり方についての説明を問う問題です。ここでは、互いに共感し合う関係を「連帯」と呼ぶという文脈があり、その際、「業績が自分自身のものである」と認められる体験が重要と述べています。

<選択肢>
①【誤】
「連帯は、互いに譲歩し合う人間関係のことであるが、現代ではその前提として、自分の業績を、自らが所属する集団の成果と捉え直す経験を通じて、集団全体の意志に従順であろうと感じ得ることが、まずは必要である」というのは、本文の趣旨とは逆方向です。集団に従属することより“個人の業績が自分のものとして他者から承認される”ことがカギとなります。

②【正】
「連帯は、互いに共感し合う人間関係のことであるが、現代ではその前提として、自分の業績が、まさに自分のものであると他者から認められる経験を通じて、自分には価値があると感じ得ることが、まずは必要である」という説明が本文の記述と合致します。ハネットが「承認される喜び」「他者から承認される価値の感情」を重視するという流れです。

③【誤】
「連帯は、互いに譲歩し合う人間関係のことであるが、現代ではその前提として、自分の業績を、他者の恩恵によるものと捉え直す経験を通じて、他者は自分より優れていると感じ得ることが、まずは必要である」というのは本文の趣旨から外れています。

④【誤】
「連帯は、互いに共感し合う人間関係のことであるが、現代ではその前提として、自分の業績が、集団を代表するものとして他者から認められる経験を通じて、自分は他者より優れていると感じ得ることが、まずは必要である」というのも誤りです。連帯において“他者より優れている”と感じることは目的ではありません。

問37:正解1

<問題要旨>
近代以降の西洋思想には「個人の身体的な欲求を重視する立場」と「人間の理性的なあり方を重視する立場」があり、両者が対立しがちでした。本文では、歴史を振り返りつつ、両方を正しく追求することが大切だという趣旨になっています。

<選択肢>
①【正】
「近代以降の西洋思想には、個々人の身体的な欲求の充足を認める立場もあれば、人間の理性的な要求に服することの重要さを強調する立場もある。こうした歴史に学び、時に対立する両者を共に正しく追求することが、生を真に謳歌するためには大切である」という内容が、本文の主旨にかないます。

②【誤】
「個々人の身体的な欲求の充足を制限し、人間の理性的なあり方を追求しようとする立場が一貫して支配的」としている点で、本文の情報からすると、身体的欲求を肯定する立場も歴史上存在していたので、“一貫して支配的”とは断定できません。

③【誤】
「個々人の身体的な欲求の充足を制限し、人間の理性的なあり方を追求しようとする立場が一貫して支配的だが、時に対立する両者を共に正しく追求することが大切」と言いつつも、選択肢②と同様「一貫して支配的」とするのが不適切です。

④【誤】
「個人の身体的な欲求の充足を認める立場もあれば、人間の理性的な要求に服することの重要さを強調する立場もある。しかし歴史を反省し、身体的な欲求を厳格に制限し、理性的な生き方を正しく追求することが、生を真に謳歌するためには大切である」というのは、最後が身体的欲求を抑制することだけを強調していますが、本文はむしろ両面のバランスを取り、自覚をもって対立を乗り越えることの大切さを説いています。

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