2020年度 大学入試センター試験 本試験 国語 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

この文章は、「レジリエンス(resilience)」という概念が近年さまざまな分野で注目され、どのように捉えられ・応用されてきたかを論じている。まず、環境システム専門家であるウォーカーの話から始まり、荒れた海でヨットを操る際の臨機応変な対応力を例に、レジリエンスが「外的な揺れや変化に対してバランスを保ちつつ、柔軟に適応する能力」を意味することが示される。

従来、レジリエンスは回復力や復元力、いわゆる「元の状態に戻る力」として理解されてきたが、その後の研究では「絶えず変化する環境のなかでシステムが持続的に発展・成長していく動的な過程」に着目するようになった。たとえば林業では森林火災の発生にどう対処するか、またソーシャルワークの領域では患者や依頼者を取り巻く環境との相互作用を通じて、自発性や潜在能力を引き出す視点が重視される。こうした応用の広がりから、レジリエンスは自然科学から社会福祉、医療、エンジニアリングなど多様な分野で活用されている。

さらに、レジリエンスと対比される概念として「脆弱性(vulnerability)」が取り上げられ、社会的弱者や災害時のリスクといった問題への対応策を考える際にも、レジリエンスが軸となることが述べられる。ここでは単なる個人の「復元力」ではなく、環境やシステムを調整・変革しながら人々が自律的な生活を維持できるようにすることが重要視され、そこにケアの必要性や社会福祉的な意義が結びつく。

最終的に本文では、レジリエンスを「個人や社会が環境の変化や困難に適応しつつ、新たな可能性を見いだしながら持続し続ける力・過程」と位置づけ、福祉や生命維持に欠かせない概念として提示している。

第2問

この文章は、語り手である「私」が、亡き妻の遺骨を納めるため郷里に戻ったところから物語が展開する。妻が亡くなった経緯や、その知らせを受けたときの「私」の思いがさまざまに交錯し、故人を悼む悲しみが作品全体を貫いている。一方で、「私」が暮らす家の近隣では、魚を扱う青年(魚芳〈ぎょほう〉)や親戚筋の「細君」など、多様な人々の姿が描かれる。彼らは田舎の風景のなかで日々の仕事や商いをこなしながら、「私」ともゆるやかに関わっていく。

特に魚芳は、もともと他所の地で働いていたらしく、暫定的に「私」の家に宿を借りている。その動向や表情が「私」の目にしばしばとまるが、彼の身の上や行先はあまり多く語られず、どこか漂うような存在感を放つ。一方で「私」は妻の死を嘆きつつも生活を続けざるを得ず、来客や近隣の人々とのやりとり、雑用・仕事をこなしていく。

やがて物語は、戦地に赴いた青年たちの消息や、「私」の妻が病に倒れた事情など、時代の暗い影をはらませていく。兵役に服した川瀬成吉という人物が出征先から戻る場面もある一方で、「私」の周囲では死や病が次々と訪れ、それを前に悲嘆や無力感が募る。最後近くでは、満洲からの帰還や妻の遺書めいた手紙などが語られ、「私」は郷里での暮らしと遠い土地へ行く人々の姿を見送る中、改めて人生の脆さや故郷への思いを噛みしめる。そうして物語は、「私」が亡き妻をしのぶ気持ちを抱えながらも、移ろう時勢のなかで周囲の人々とも関わり続ける姿を描いて終わっている。

第3問

この文章は、都の郊外にある寺「雲林院」の一角に設けられた寂しい庵に「姫君」が尼上(あまうえ)として暮らしている様子を描いた一場面である。庵は玉川の見える山里にあり、夕暮れどきに風景がしんと静まり返るなか、人々がたまに訪れては扉越しに姫君や庵の様子をうかがっていく。

文中では、「卵の花」で知られる玉川という地名、仏前に供える水や花を置くための棚(関棚)や籠(かご)の花といった情景的な小道具が登場し、庵の周りの風物や季節感が細やかに描かれている。姫君はほとんど姿を見せず、面会といってもわずかに声を聞く程度だが、それでも訪れる人々はいつしか世間話や挨拶を交わして帰っていく。文末には、薄暗くなってきた月夜や灯りの描写があり、ほのかな明かりのなかで庵の静かな暮らしが続いている様子がうかがえる。

全体としては、辺境の小さな庵を舞台に、寂しさと穏やかさが同居する夕刻の情景を軸に、世間と隔絶した姫君の暮らしや、それを遠巻きに見守る人々の姿を、淡々とした筆致で描き出している。

第4問

六朝時代の詩人・謝霊運が、自らの疲れた心身を癒すため都を離れ、故郷に建てた住居の様子を詠んだ五言詩である。作者は名門貴族の出身ながら都での志を遂げられず、自然豊かな土地に隠棲して養病(養生)しようとする。詩の中では、園中(庭園)や山川の景色が生き生きと描かれ、遠くから吹いてくる風や、南へ開いた扉の向こうに広がる川の風光、植えた木々・囲んだ山の姿などがうかがえる。世俗の労苦から解放され、閑寂な環境のなかで心を慰める喜びが詩句に盛り込まれている。さらに、友人を招けるよう庭に小道を作るといった描写もあり、自然の美しさを愛でながら交流をはかる心情が表されている。総じて、この詩は都市生活に疲弊した作者が田園の静けさと自由を求め、そこで得られる精神の安らぎや豊かさを讃えるものである。

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