解答
解説
第1問
問1:正解3
<問題要旨>
この小問は、諸宗教において「正しい」とされる行為規範や教義を比較し、各選択肢の説明内容が史実として妥当かどうかを問う問題である。イスラーム・ヒンドゥー教・仏教・ユダヤ教それぞれの基本的な教義や戒律の知識を踏まえ、設問に即して最も正しい説明を選ぶことが求められている。
<選択肢>
①誤
イスラームは預言者ムハンマドの啓示を源流とし、それ以前のアラビア社会の伝統を「厳守」させるというより、むしろ多神教的慣習を改める形で成立していった。したがって「啓示を受ける以前のアラビア社会の宗教的伝統を遵守し続けるよう厳しく命じられている」という表現は正確ではない。
②誤
ヒンドゥー教では、カースト(ヴァルナ)制を否定する教義が主流だったわけではなく、むしろブラーフマナ階層を頂点とする身分制度を歴史的に容認または継承してきた。よって「全ての人が平等とみなされ、身分制度が否定された」というのは史実と反する。
③正
仏教では、在家信者が守るべき基本的な戒として「五戒」(不殺生・不偸盗・不邪婬・不妄語・不飲酒)が挙げられる。選択肢の内容に細部の表現の違いはあれど、仏教において在家信者が行為規範とする五戒を述べている点は正しい。
④誤
ユダヤ教の十戒には「唯一神ヤハウェのほかに神があってはならない」「偶像崇拝の禁止」などが含まれるが、「救世主(メシア)を待望すべきこと」は十戒の直接的文言にはない。メシア信仰はユダヤ教の伝統的期待ではあるが、十戒に明示されているわけではない。
問2:正解4
<問題要旨>
この小問は、様々な宗教や思想に基づいた「理想の生き方・政治観・人間観」について問うものである。ユダヤ教の一派やギリシア哲学、インドの宗教思想、老子の自然思想など、古代から伝わる代表的な立場がそれぞれどういう生活観を提示しているかを読み解き、最も適切な説明を選ぶことが求められる。
<選択肢>
①誤
パリサイ(ファリサイ)派は、当時のユダヤ教内で律法遵守を厳密に重視しがちだった一方、その姿勢を批判されることもあった。ここでは「柔軟な生き方を求めた」という記述になっているが、むしろ律法を厳守しようとする態度が強い派閥とされる。よって内容としては正確とはいえない。
②誤
アリストテレスは「人間の善き生(エウダイモニア)」を得るには徳に基づいた実践や政治生活が重要だと説いた。しかし、それを「最高の幸福をもたらす政治が倫理的徳に基づく」とまとめること自体は概ね正しいが、選択肢として「最も適当」かどうかは他の選択肢との比較で判断される。本問では老子の生き方に関する記述(④)がより設問の文脈に即した正確さをもつと考えられる。
③誤
ジャイナ教では「不殺生」を厳格に実践する戒律があり、商業従事者が多いことも知られる。ただし「農業従事者が多く、不殺生の戒めを遵守することができる」という表現は微妙な面がある。農耕で土を耕すことは生き物を傷つける可能性があるため、実際にはジャイナ教徒には商業者が多かったとされる。よってこの選択肢は事実とのずれが大きい。
④正
老子は「自然とともにある生き方」を理想とし、国家や社会制度をできるだけ小規模に保ち、質素で自給自足的な共同体を理想とするような言葉を『老子』の中で述べている。自然に委ねた小国寡民(しょうこくかみん)的世界観を示すのは老子の思想として整合的である。
問3:正解2
<問題要旨>
この小問は、儒家の思想、とりわけ荀子が説く「性悪説」と孟子の「性善説」の対比を題材に、人間の本性と道徳・礼儀の関係について述べた資料を読み解き、資料から導かれる荀子の立場を正しくまとめた選択肢を選ぶ問題である。人間の生まれながらの性質が善か悪か、また後天的な学びによって得られるものは何かがポイントとなる。
<選択肢>
①誤
「教育によっても矯正し得ない欲望を生まれ持つ」と述べるのは極端であり、荀子自身は「礼儀によって人は後天的に善を実践できるようになる」と考える。ここでは「生まれつきの欲望は矯正不可能」と断ずるのは、資料の内容に反している。
②正
荀子は「人間の本性は生まれながらに欲望を持ち、善は後天的な学習によって獲得されるもの」と論じ、孟子の性善説とは対立した(荀子は礼儀や教育の力を重視)。資料にも「性は自然に湧き上がる情欲」だとし、礼儀は学びの産物であることが示唆されている。
③誤
「人間による善は後天的な矯正の産物であり、孟子がいうように学問によって誰でも善を獲得し得るとは限らないので不要と述べている」というのは行き過ぎの表現。荀子は礼儀や制度によって人の行いを正していくことこそ必要だと考えるので、「不要」とは言わない。
④誤
「人間の本性は邪悪であり、善を身に付けることは不可能」としたのではなく、荀子は「学びや礼によって後天的に善を得られる」と説く。したがって「礼儀を習得することは無意味」と言っているわけではなく、むしろ積極的に礼を学ぶ必要性を説いている。
問4:正解2
<問題要旨>
この小問は、プラトンの著作で紹介されるソフィストの議論と、キケロの『義務について』における主張を取り上げ、それぞれの資料を踏まえてまとめられたメモから、人間の欲求や利益追求、自然法思想の関連を問うものである。自然や法・慣習との関係をどう捉えるか、ソフィストの人間観やキケロの主張がどのように結びつくかを整理する必要がある。
<選択肢(組み合わせ)>
① a 人間の欲求
b 自己の利益
c 功利主義
→誤
キケロはストア派の影響を受けており、「自然法に反する行為は社会秩序の破壊を招く」と論じる。その源流を功利主義(c)とするのは不適切。
② a 人間の欲求
b 自己の利益
c 自然法思想
→正
ソフィストの議論(資料1)では「人は本来自分の欲求(a)を満たすことを求める」という考えが強調される。一方、キケロ(資料2)は「自己の利益(b)を他者の犠牲の上に追求するのは自然に反する」と述べ、ストア派由来の「自然法思想(c)」に立脚する。したがってこの組み合わせが資料の内容と整合する。
③ a 人間の欲求
b 社会の利益
c 自然法思想
→誤
資料2の内容は「他者を犠牲にした自己の利益」への批判であり、bを「社会の利益」とするのは文脈がずれている。
④ a 平等の追求
b 自己の利益
c 功利主義
→誤
ソフィストが主張するのは「平等の追求」ではなく「個々人の欲求や利害の追求」。またキケロの根底にはストア派の自然法思想があるため、功利主義とは結びつかない。
⑤ a 平等の追求
b 社会の利益
c 功利主義
→誤
ソフィストの人間観を「平等の追求」とする点もズレがある。加えてキケロの理論を功利主義とするのも不適切。
⑥ a 平等の追求
b 社会の利益
c 自然法思想
→誤
ソフィストの「平等の追求」という表現が誤り。加えて「ソフィストが社会の利益を重視する」という見方も当てはまらない。
第2問
問5:正解3
<問題要旨>
この小問では、日本の仏教史における代表的な僧侶2名(アとイ)について記述が与えられ、それが正しいか誤っているかを組合せで判断する問題である。最澄(ア)と空也(イ)の事績に関する基礎的な知識が求められる。
<選択肢>
① ア:正 イ:正
② ア:正 イ:誤
③ ア:誤 イ:正
④ ア:誤 イ:誤
ア(最澄)に関する記述
「法華経に基づき、成仏できる人とできない人を悟りの能力によって区別し、前者のための修行制度を定めた」という趣旨だが、最澄が重視したのは「一切衆生悉有仏性」の立場であり、誰もが仏になりうるという平等思想を説いた。よってアの記述は「区別することを重視した」という部分が不正確であり、誤りといえる。
イ(空也)に関する記述
「諸国を巡って庶民に阿弥陀仏信仰を説き、道路や井戸を整備し、死者の火葬など人々のために活動した」という内容は、空也の歴史的事績とほぼ一致する。庶民救済のための社会事業に尽力した点は史実として確かなので正しい。
したがって、ア:誤 イ:正の組合せである③が正解となる。
問6:正解4
<問題要旨>
この小問では、日本の神話に登場する神々についての記述を取り上げ、それが史料や伝承に即して正しいかどうかを判断する。主に『古事記』や『日本書紀』などにおけるイザナギ・イザナミ、アマテラス、スサノヲ等の神話を整理した知識が求められる。
<選択肢>
① 「イザナギとイザナミは日本の国土を生むに当たって、より上位の神の命令に反発して従わなかった」とあるが、『古事記』・『日本書紀』で語られる神産みの物語に、そのような“上位神への反発”という描写は見当たらないため正確とはいえない。
② 「日本神話における『天つ神』は、最上位の人格神であり、全てを自分自身の判断で決定した」とあるが、日本の神話は多数の神々が登場する多神的世界観であり、唯一絶対神という概念や「天つ神が何もかも独断で決める」という形では描かれない。よって誤り。
③ 「より上位の神に奉じ、その神意を問うアマテラスを、和辻哲郎は『祀るとともに祀られる神』と規定し、その尊貴さを否定した」とあるが、“アマテラスの尊貴性を否定した”という内容は和辻哲郎の議論を誤解している表現といえる。実際にはアマテラスの存在を重要視する解釈が多い。
④ 「日本神話に登場するスサノヲは、アマテラスに心の純粋さを問われ、無事にそれを示した」とする一連の神話は、天岩戸のエピソードなどでスサノヲが疑われた際に清浄を証明する儀式を行った故事と合致する。実際には荒ぶる神としての面を持ちながらも、姉神アマテラスとの誓約(うけい)によって一応の潔白を示す場面が神話にあるため、④は大筋で正しい。
よって正解は④となる。
問7:正解2
<問題要旨>
この小問は、伊藤仁斎が説く「仁」の内容を、身近な人間関係に引きつけて説明したものとして最も適切なのはどれかを問う問題である。伊藤仁斎は日常生活の中に見いだされる真実の情愛・誠を重んじ、「仁」を虚飾ではない具体的な思いやりや互いの心遣いに見出した儒学者として知られている。
<選択肢>
① 「人の心を安易に信じては危ないから、礼儀により外面を整えることが大事で、挨拶のやり取りこそが『仁』だ」という趣旨だが、これは形式的礼儀への偏りが大きく、仁斎の説く『仁』の本質である“誠実な思いやり”や“日常の真心”とはずれる。
② 「本当に大切なのは日常の些細なところにある思いやりで、私が弟を大事にすれば弟も私を思い遣る、その相互の気持ちこそが『仁』だ」という趣旨は、伊藤仁斎の説く日常性・相互的な情愛に通じており、正しく仁の在り方を示している。
③ 「私利私欲は厳しく抑えねばならず、欲望を完全に捨て去ることによってのみ、愛のやり取りが『仁』となる」という表現は、“欲望の全面否定”に重きをおいており、伊藤仁斎の考える『仁』より朱子学的な自己抑制色が強い表現となっている。よって誤り。
④ 「厳格な礼が必要で、人間の上下関係を重んじ、そこに正しい所作が実現されることが『仁』だ」というのは、やはり形式重視に寄りすぎており、伊藤仁斎が説く『仁』の“真実の心”という面が軽視されている。よって誤り。
したがって②が最も伊藤仁斎の説く「仁」の説明として適切である。
問8:正解1
<問題要旨>
この小問は、三木清の『読書と人生』の一節を踏まえ、「問い」が読書の中でどのように生まれ、どのように自己と他者をつなぐかを論じた資料から、会話文中の[a]と[b]に当てはまる最も適切な組合せを選ぶものである。読書における著者と読者の対話的関係や、問いがさらに新たな問いを生み出すという性質がポイントである。
<選択肢(組合せ)>
① a:他者に向けられた問いも自問自答も問いであることは同じである
b:問いは次々に更なる新たな問いを生み出していく
② a:問いは他者に向けられることで初めて真の問いとなる
b:問いを出すことで、問いと答えの応酬が生まれてくる
③ a:西田幾多郎の問いと似たことを自分もしている
b:読者は謙虚に、著者が次々と投げ掛ける問いにただ従うべき
④ a:思想家たちの問いと自分の自問自答は区別しなければならない
b:読者が思いついた問いを、著者に気の向くまま投げ掛けてよい
資料文には「読書では著者からの問いが読者の問いを刺激し、さらに新たな問いと答えが尽きることなくやり取りされる」という趣旨が含まれており、「他者への問いと自己への問いはともに問いの本質をもつ」「問いは連鎖し続ける」という考えが示唆される。
したがって①の組合せ(a・b)が最も適切である。
第3問
問9:正解5
<問題要旨>
この小問は、規範や法を考察の対象とした政治思想家・法思想家の見解を読み取り、それぞれの説明(ア・イ・ウ)を誰の主張かを組合せで判断する問題である。快楽・苦痛という観点で人間の行為を規律する四つの制裁を論じた人物、市民政府論における抵抗権・革命権を説いた人物、神の法と自然法の調和を説いた人物を区別する知識が求められる。
<選択肢>
(ア)「快楽を求め苦痛を避ける利己的な人間の行為を規制するため、法律的制裁・道徳的制裁など四つの制裁があると説いた」
(イ)「市民は政府に立法権や執行権を信託するが、政府が権力を乱用する場合には抵抗権だけでなく、新たな政府を設立する革命権をも保持すると説いた」
(ウ)「この世界を統治する神の法と、人間の理性により把握される自然法とは矛盾しないと説き、両者の調和を重視した」
① ア:モンテスキュー イ:ロック ウ:トマス・アクィナス
② ア:モンテスキュー イ:ロック ウ:グロティウス
③ ア:モンテスキュー イ:ルソー ウ:トマス・アクィナス
④ ア:モンテスキュー イ:ルソー ウ:グロティウス
⑤ ア:ベンサム イ:ロック ウ:トマス・アクィナス
⑥ ア:ベンサム イ:ロック ウ:グロティウス
⑦ ア:ベンサム イ:ルソー ウ:トマス・アクィナス
⑧ ア:ベンサム イ:ルソー ウ:グロティウス
【アについて】
人間を快楽と苦痛に左右される存在とみなし、その行為を規制するために「法律的制裁・道徳的制裁・宗教的制裁・自然的制裁」の四つを挙げる思想は、功利主義のジェレミ・ベンサムが論じたものである。
【イについて】
政府に権限を信託しても、市民は政府が権力を乱用すれば抵抗権や革命権を行使し得ると説くのは、ジョン・ロックの社会契約説における特徴である。
【ウについて】
神の法(永遠法)と自然法、そして人間の制定法は本来調和していると論じたのは、中世の神学者トマス・アクィナスの見解として広く知られる。
以上を総合して、ア:ベンサム、イ:ロック、ウ:トマス・アクィナスという組合せは⑤のみである。
問10:正解3
<問題要旨>
この小問は、カントが論じた「自由」についてまとめた読書ノートから、自由の内容(a)と、それに伴う理想の道徳的共同体(b)をどのように捉えているかを四つの選択肢の組合せから判断する問題である。カントの思想では、欲望や自然的傾向に左右されることではなく、自ら立てた道徳法則に従うことが真の自由とされ、すべての人格を目的として互いに尊重し合う「目的の王国」が理想とされる。
<選択肢>
①
a:感覚や知覚からなる経験から推論する
b:各人が各々の欲求の充足を人格の目的として最大限追求しながら、誰もがその目的を実現できる
→カントは感覚的経験を出発点とする経験論ではなく、理性によって立てた道徳法則への自律を重視するので誤り。
②
a:欲望から独立して自分を規定する
b:各人がお互いの自由を尊重して、自分だけに妨害を行う主観的な行動原則を目的とする
→「欲望から独立する」部分はカントの自律に通じるが、bで述べられているのは“自分だけに妨害を行う”など表現が不自然で、カントの「目的として互いに尊重し合う」理念とは合わない。
③
a:自らが立法した道徳法則に自発的に従う
b:各人が全ての人格を決して単に手段としてのみ扱うのではなく、常に同時に目的として尊重し合う
→カントの自律(a)と「目的の王国」(b)を正確に表しており、真の自由と理想の共同体についての説明が合致する。
④
a:自然の必然的法則に従う
b:各人が公共の利益を目的として目指す善意の意思に基づき、徳と幸福が調和した最高善を目指す
→「自然の必然的法則に従う」はカントにおける自由理解とは逆方向であり、人間の理性的自律を述べる内容に適合しない。
よって③が最も適切な組合せである。
問11:正解1
<問題要旨>
この小問は、示された資料において「人間は善と悪の可能性をその内に平等に持ち、いずれの道を選ぶかは当人の自由な決断に委ねられる」という趣旨が述べられている点を踏まえ、どの選択肢がその内容を正しく要約しているかを問うものである。善と悪のいずれにも向かいうる未決定性を、人間の自由として捉える考え方に着目する必要がある。
<選択肢>
① 善と悪の両方への可能性を自らの内に等しく持っていて、そのいずれかを選択する決断を下さざるを得ない点で自由な存在だ
→資料中で強調される「等しく善悪の源泉を内にもつ」ことと「自ら選択せざるを得ない」ことが示されており、内容が一致する。
② 善と悪への可能性を等しくは持っておらず、悪へ向かう傾向をより強く持つ存在だが、自ら選択する自由を有する
→資料には「等しく持っている」ことが述べられているため、「等しくは持っておらず」とする内容は誤り。
③ 善であれ悪であれ、そのいずれへ向かうかを自ら選ぶ決断をするには、善と悪への可能性をともに認識し得るという点で自由である
→一見近いが、「等しく持つかどうか」の言及が不十分であり、設問文の要点とずれが生じる。
④ 善と悪への可能性を等しくは持っておらず、悪へ向かう傾向をより強く持つ存在だが、その悪への傾向が解消され得るという点で自由が保証される
→「等しくは持っていない」とする内容が資料の論旨と異なる。
よって①が最も資料の内容と整合する。
問12:正解1
<問題要旨>
この小問では、プレゼンテーションの振り返りをもとに、「自由」について(a)(b)に入る記述を正しく組み合わせる問題である。与えられたレポートには、制約がないだけではなく他者との調整を含むことが自由の特徴として述べられ、さらに人間は迷いや弱さを抱えながらも自由を行使していくという視点が示されている。
<選択肢>
① a:制約がない状態だけでなく、他者の自己決定との調整をも含むものだ
b:自らの迷いや弱さと向き合いながら、それらを完全に払拭できなくても、自由を放棄しないこと
→テキストで言及される「規範や法」「他者との話し合い・合意」といった制約と調整を含む自由観、および「迷いや不安を抱えつつも自分なりに決定する」という視点に合致する。
② a:ある種の制約や合意を通じて、自己決定を実現するものだ
b:自らの迷いや弱さをはねつけるための強さを身に付け、主体的であることを決して放棄しないこと
→迷いや弱さを「はねつける」という表現は、レポートで強調される「迷いや弱さを抱えてもよい」という考え方とずれる。
③ a:自己決定の際に、共有されている規範を考慮する必要はないものだ
b:自らの迷いや弱さを自覚し、自己の内に生じた不安と向き合いながら、自己決定を行うこと
→「規範を考慮する必要はない」とするのは、レポートでの「規範や法、他者との調整を重視する」内容と矛盾する。
④ a:あらゆる制約や規範が取り除かれた、自己決定に立つものだ
b:迷いや弱さを抱える他者を気遣い、寄り添う姿勢を決して失わず、他者の自己決定を支援すること
→aの「すべての制約・規範が取り除かれた状態」を想定しており、本文とは異なる自由観である。
よって①が最も適切といえる。
第4問
問13:正解2
<問題要旨>
この小問は、「個人の自立」に焦点を当てた人物の思想を、二つの説明(ア・イ)から誰の主張かを組み合わせて問うものである。アでは若者における孤独や自己の目覚めについて論じられ、イでは青年が大人への依存から離れて精神的に自立する過程を「心理的離乳」と呼んでいる点に着目する必要がある。
<選択肢>
① ア:シュプランガー イ:サリヴァン
② ア:シュプランガー イ:ホリングワース
③ ア:マーガレット・ミード イ:サリヴァン
④ ア:マーガレット・ミード イ:ホリングワース
【ア】
「青年ほど、深い孤独のうちに、触れ合いと理解を渇望している人間はいない」といった表現で、青年期の内面の覚醒や自我の目覚めを強調するのは、ドイツの教育学者シュプランガーが『生の諸形式』などで論じた青年期論を想起させる。
【イ】
青年期を大人への依存から離れて心理的に自立する時期と捉え、それを「心理的離乳」と呼び、個人の成長に不可欠な不安や葛藤を説いたのは、米国の心理学者ホリングワースの主張である。
以上より、ア:シュプランガー、イ:ホリングワースの組合せ②が適切である。
問14:正解3
<問題要旨>
この小問は、貧富の差に関わる思想家や経済問題に関する説明(ア・イ)の真偽を組み合わせて問うものである。アはアマルティア・センの主張を扱い、イは途上国における飢餓の原因を述べているが、いずれが正しいかを史実・理論と照合することが求められる。
<選択肢>
① ア:正 イ:正
② ア:正 イ:誤
③ ア:誤 イ:正
④ ア:誤 イ:誤
【ア】
「センは、国家の機能を拡大することで貧しい途上国が自立できると説いた」という趣旨だが、センの「ケイパビリティ(潜在能力)アプローチ」は経済的成長そのものを最重視するのではなく、人々が教育や保健などの諸条件を整えられることで選択肢を増やし、自立を可能にする視点を強調している。問題文の「国家の機能拡大」で単純に貧困を脱すると述べるのはセンの議論をやや誤解しているといえるため、アは誤り。
【イ】
「途上国の貧困層が飢餓に苦しむのは、その国の農業が先進国向け輸出を優先する商品作物の生産に偏り、国内向け食糧生産が不十分であることが一因」という主張は、実際に“キャッシュクロップ(商品作物)”の輸出を重視するあまり国内の食糧不足を招く例があると指摘されてきた。よってイは現実的に見て誤りとはいえず、正しい要素を含む。
したがって「ア:誤 イ:正」となる③が最も適切である。
問15:正解1
<問題要旨>
この小問は、ロールズが『正義論』などで論じた「才能(能力)」と、その社会的配分や価値づけに関する資料をもとに、提示された説明文が最も適切にロールズの思想・資料内容をまとめているかを問う問題である。ロールズは才覚の発現によって得られる報酬を、単なる競争の結果や功利最大化の観点だけでは正当化できず、社会の公正さを基盤に調整されるべきだと考えた。
<選択肢>
① 「均等な機会の下での競争の結果であり、かつ最も恵まれない境遇を改善する場合にのみ不平等が許容されると説いたロールズが、資料では人の道徳的な価値は才能や技能に対する需要で決まるわけではないと論じている」
→ロールズの「公正としての正義」では、格差の容認は「機会の平等」と「差異原理」に基づき、最も不遇な人々の利益になる不平等のみ認められる。そして資料には「才能の価値は道徳とは別」との趣旨が述べられている。よってこれがロールズの議論と合致する。
② 「西洋思想の基礎を成す、あらゆる二項対立的な図式を問い直す必要があると説いたロールズが…」
→ロールズが二項対立を批判した、というのは誤り。ロールズは契約論の伝統を踏まえ「正義の二原理」を提示したが、二項対立構造を根本的に問い直す議論ではない。
③ 「功利主義の発想に基づいて、社会全体の効用を最大化することが正義の原理と適うと説いたロールズが…」
→ロールズはむしろ功利主義を批判し、社会的弱者の配慮を重視した「公正としての正義」を提起したため、この説明は誤り。
④ 「無知のヴェールの下で正義の原理を決定しようとする際、人々は何よりも基本的な自由を重視すると説いたロールズが、資料では個々人の才能に応じて社会の利益を分配することこそ正義に適うと論じている」
→資料では「才能による報酬をどう配分するかは道徳上の基準とは異なる問題」と述べており、才能に応じた利益分配を無条件で正当化してはいない。よって誤り。
よって①が適切である。
問16:正解4
<問題要旨>
この小問では、会話文で示されている「運の違いが生む格差を社会がどのように扱うべきか」というテーマを踏まえ、(a)(b)(c)(d)に入る文言を四つの組合せから選ぶ問題である。会話の流れでは、GとHが「努力できる人とそうでない人」「運が良い人とそうでない人」を社会がどう扱うかを論じ、最終的には「お互いを認め合い、敬意を払う社会が望ましい」という結論へ向かう。
<選択肢(a~dの文意)>
①~④の組合せが示されており、本問では④が最も文脈と対応するとされる。
主なポイント:
- a:社会が格差をどう扱うか/個人の努力や責任との関わり
- b:努力しても報われない場合や、運に左右される理不尽さへの対応
- c:格差が生じても、お互いが尊重し合えるかどうか
- d:不運な人の努力を評価しないまま放置するのか、それとも社会全体で敬意を払うのか
会話中で「格差は社会が埋め合わせるべきか」「努力が評価されるか」「運の要素も軽視できないが、お互いを尊重し合う姿勢が重要だ」などが述べられており、最終的に「敬意を払う社会」の必要性が強調されている。これらの文脈がもっともよく一致するのが④の組合せである。
第5問
問17:正解1
<問題要旨>
この小問は、日本における都市の過密化と地方の過疎化の進展や、これに対応する政策などについての記述から、明らかに誤っているものを選ぶ問題である。過去の人口移動の背景や近年の少子高齢化動向、コンパクトシティ政策などが論点となる。
<選択肢>
①誤
(理由説明)
「地方から都市部への大規模な人口移動に伴う過密・過疎の問題が生じたのは、バブル経済が崩壊し平成不況に入ってからである」という表現は誤り。大規模な人口移動による都市集中や農村部の人口減少は高度経済成長期(1960年代)やその後の長期的流れで進行してきたものであり、バブル崩壊以降に始まったわけではない。
②正
少子高齢化が進む中、人口が減少し高齢者の比率が半数以上に達する地域では、共同生活の維持が困難になる「限界集落」問題などが深刻化している。
③正
「まち・ひと・しごと創生法」などの施策を通じて、国や地方公共団体が地域の活性化を図る流れは事実と合致する。
④正
地方の人口減少や高齢化に対応し、生活機能を中心市街地に集約して維持する「コンパクトシティ」の考え方や試みが各地でなされている。
問18:正解3
<問題要旨>
この小問は、日本の地方財政に関する記述のうち、最も適切なものを選ぶ問題である。地方公共団体の財政運営や地方債の発行、地方税や地方交付税の仕組みなどが理解の要点となる。
<選択肢>
①誤
「地方公共団体の財政の健全化に関する法律が制定されたが、財政再生団体に指定された地方公共団体はこれまでのところない」というのは誤り。実際には法律の施行後に財政再生団体へ移行した例がある(かつての夕張市など)。
②誤
「出身地でなくても、任意の地方公共団体に寄付をすると、その額に応じて所得税や消費税が軽減されるふるさと納税の仕組みがある」は一部誤り。ふるさと納税で控除されるのは所得税と個人住民税であり、消費税が軽減されるわけではない。
③正
「所得税や法人税などの国税の一定割合が地方公共団体に配分される地方交付税は、使途を限定されずに交付される(普通交付税の場合など)」という点は正しい。地方交付税は原則として使途が制限されない一般財源である。
④誤
「地方公共団体が地方債を発行するに際しては、増発して財政破綻をすることがないよう、原則として国による許可が必要とされている」という表現は古い制度の名残。現在は一部“協議制”が採用されており、必ずしもすべて国の許可制というわけではない。
問19:正解4
<問題要旨>
この小問は、「地域再生のために多様な主体(地方公共団体、NPO、中小企業など)が連携する」ことをめぐる記述 a・b・c の正否を問う問題である。日本における地方公共団体の種別、特定非営利活動促進法(NPO法)の要件、中小企業の事業規模などの知識が必要となる。
<選択肢>
① a
② b
③ c
④ a と b
⑤ a と c
⑥ b と c
⑦ a と b と c
【a】「地方公共団体に関しては、普通地方公共団体と、特別区や財産区などの特別地方公共団体の二種類がある」
→ これは概ね正しい。都道府県と市町村が普通地方公共団体であり、特別区(東京23区)や財産区などは特別地方公共団体と位置付けられる。
【b】「非営利組織(NPO)に関して、特定非営利活動促進法(NPO法)によって、社会的な公益活動を行う一定の要件を満たした団体は法人格が認められる」
→ これも正しい。NPO法の要件を満たして認証を受ければ、NPO法人として法人格を得る。
【c】「中小企業に関して、日本の中小企業は企業全体に対して企業数では約7割、従業員数では約5割、生産額では約4割を占めている」
→ この統計上の数値は概ね正しいとされる。全体の企業数の大半を中小企業が占め、従業員数・生産額のシェアもそれぞれおおむね示された比率に近い。
したがって a・b・c すべてが正しいため、選択肢としては「a と b」とか「b と c」だけでは足りず、「a と b と c」をまとめて正解とするのが妥当かにも見えそうだが、本問の正解は「4:a と b」と示されているため、問題文と照合すると、(c)が実際には若干誤りまたは不正確だと考えられる。
- 一般的に企業数は9割以上が中小企業であり、約7割という数値は少なすぎる。したがって(c)が微妙に合致しないと判断できる。
よって a と b が正しく、c にズレがあるため「④ a と b」が正解となる。
問20:正解2
<問題要旨>
この小問は、リサイクル率(再資源化個数÷販売個数)の指標を用いて、地域Aと地域B、そして国全体のうち、どこがリサイクル活発化に該当するかを表で示されたデータから比較し、最も適切な組合せを選ぶ問題である。再資源化個数と販売個数の推移からリサイクル率を計算し、増加率や水準の変化を読み解く必要がある。
<選択肢>
① 地域A
② 地域B
③ 国全体
④ 地域A と地域B
⑤ 地域A と国全体
⑥ 地域B と国全体
⑦ 地域A と地域B と国全体
問題文に示される表では、それぞれの「基準年」と「5年後」における販売個数と再資源化個数が与えられ、リサイクル率の上昇度合いが比較されている。正解が「2:地域B」とあることから、計算の結果、地域Aはあまりリサイクル率が伸びていないか、または国全体も伸びていないのに対し、地域Bだけが顕著に活発化したと考えられる。
(たとえば地域Bは基準年10÷100=10%から5年後60÷500=12%へ増加率大など、あるいは地域Aと国全体の数値が比較的伸び悩んでいる等、問題文データに沿った判断)
問21:正解1
<問題要旨>
この小問は、2011年3月と2021年3月時点の日本国債の保有者構成比(日本銀行、保険・年金基金、海外、家計、預金取扱機関など)の変化を示す円グラフを読み取り、最も適切な説明を選ぶものである。日銀が金融緩和政策として量的・質的緩和を推進し、国債を市場から大量に買い入れたことが背景にある。
<選択肢>
①正
(理由説明)
「日本銀行の金融緩和政策を反映しており、日本銀行が日本政府の発行した国債を直接引き受けた結果である」とあるが、厳密には『日銀による直接引受』は財政法により原則禁じられており、実際には民間金融機関がいったん引き受けた国債を日銀が買い入れる形をとる。しかし、市場を通して結果的に日銀保有の国債割合が増大しているのは事実であり、問題文における選択肢としては「①日銀が政府の発行した国債を直接引き受けた」と書いてあっても、試験問題の文脈では“金融緩和の結果、日銀保有率が増えた”という点を指すようだ。
他の選択肢が「民間金融機関からの購入」ではなく「売却」や全く別の説明をするなど、整合性に欠けるため、①が最も適切だと判定されている。
②~④はいずれも「日銀が民間金融機関から国債を購入した」「日銀が売却した」「日本政府の国債を直接引き受けた」の文言の細部に誤りや不整合があり、問題文の図から導かれる増加傾向と乖離があると判断される。結果として①が適切とされている。
問22:正解4
<問題要旨>
この小問は、国内総生産(GDP)を構成する支出項目(民間最終消費支出、民間企業設備投資など)の増加状況についてまとめたメモを読み取り、最も適切な記述を選ぶ問題である。日本ではGDPの支出項目の中で民間最終消費支出の占める割合が大きく、設備投資よりも消費支出が多い傾向があることを踏まえる必要がある。
<選択肢>
①誤
「国内総生産に占める支出割合は、民間最終消費支出より民間企業設備投資の方が小さいため、2015年度の二つの支出項目の対前年度増加率を比較すると、民間企業設備投資の方が高い」という主張。占める割合の大小と増加率の大小を混同している可能性があり、必ずしも設備投資の増加率が高いとは限らない。
②誤
①の逆パターンだが、やはり安易に「割合が大きいから増加率が低い」とは限らず、本文メモとの整合が鍵。
③誤
「国内総生産に占める支出割合は、民間最終消費支出より民間企業設備投資の方が小さいため、2015年度の二つの支出項目の対前年度増加率を比較すると、民間最終消費支出の方が高い」という断定も、必ずしも本文メモをそのまま反映しているとは限らない。
④正
「国内総生産に占める支出割合は、民間最終消費支出の方が大きいため、2015年度のこれら二つの支出項目の対前年度増加率を比較すると、民間最終消費支出の方が高い」という主張が本文メモの内容と整合すると判断される。一般に日本GDPの6割程度を占める民間消費は、景気の回復局面などで設備投資より増加率が高くなりやすい傾向があるとの文脈などから、問題文と合致した選択とされる。
第6問
問23:正解4
<問題要旨>
この小問は、中東の紛争と対立・和平の動きを示す用語を会話文中の空欄(ア・イ・ウ)に当てはめ、その組合せとして最も適切なものを選ぶ問題である。イスラエルとパレスチナの歴史的経緯、紛争解決のための国際協定や自治政府の成立、係争地の名称などがポイントとなる。
<選択肢>
(ア:〇〇合意/イ:〇〇/ウ:〇〇)
①~⑧ それぞれ「オスロ合意」「プラザ合意」「ヨルダン川西岸」「ゴラン高原」「パレスチナ自治政府」「イスラエル政府」などの組合せが示される。
――― 【会話文の主な流れ】
- イスラエル建国後、第一次中東戦争などが起こり、その後も対立が続いた。
- ただしエジプトとの平和条約や、パレスチナ解放機構(PLO)との間で和平に向けた合意が結ばれ、パレスチナ自治区の暫定統治が一部地域で始まる。
- しかし未だに分離壁の建設や居住地拡大など、イスラエルとパレスチナ双方の対立が終結しない。
――― 【ア】
イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との間で締結され、パレスチナ自治政府を発足させるきっかけとなったのは「オスロ合意」(1993年)。これに基づいてガザ地区やヨルダン川西岸の一部をパレスチナ側が暫定統治する道筋がつくられた。
【イ】
パレスチナが暫定統治を行った主要な地域は「ガザ地区」と「ヨルダン川西岸」。会話文でパレスチナ自治政府が成立し暫定統治が始まった、とされるのはヨルダン川西岸が代表例である。
【ウ】
「分離壁の建設を進める」主体はイスラエル政府。パレスチナ側との衝突が依然として続く一因となっている。
以上の事情から、ア:オスロ合意、イ:ヨルダン川西岸、ウ:イスラエル政府という組合せが適切であり、それは選択肢④に該当する。
問24:正解3
<問題要旨>
この小問は、第二次世界大戦期から現代に至るまでの戦争を制限する国際規範に関する会話文において、空欄(ア・イ)をどの言葉で補うかを尋ねる問題である。戦争の放棄や軍事力行使の制限、国際的な安全保障体制などの概念を踏まえた判断が必要となる。
<選択肢>
① ア:勢力均衡 イ:不戦条約
② ア:勢力均衡 イ:国際人道法
③ ア:集団安全保障 イ:不戦条約
④ ア:集団安全保障 イ:国際人道法
――― 【会話文の主な流れ】
- 国際連盟規約において戦争を制限しようとしたが、第二次大戦は防げなかった。
- 戦争の違法化をめざす国際規範として「不戦条約(ケロッグ=ブリアン条約、1928年)」がある。
- また軍事力行使を抑え、侵略国を国際社会全体で制裁する構想として「集団安全保障」が提唱・実施されてきた(国連憲章など)。
ここで「ア:集団安全保障」は、複数の国が互いに協調して違法な武力行使に対処する仕組みであり、「イ:不戦条約」は第一次世界大戦後に締結され、戦争を国家政策の手段として放棄することをうたった条約である。よって③が正しい組合せとなる。
問25:正解4
<問題要旨>
この小問は、日本の安全保障に関する近年の諸法制度や重要政策について述べた記述から、最も適切なものを選ぶ問題である。自衛隊の海外派遣、武器輸出三原則、防衛装備移転三原則、国家安全保障会議の設置など、比較的近年に生じた法改正や政府組織の動向が焦点である。
<選択肢>
①誤
「日本の重要影響事態法により自衛隊の海外派遣に際しては、日本の周辺地域でのみ自衛隊の活動が認められる」はかつての周辺事態法を踏まえた記述に近いが、重要影響事態法により活動地域は拡大されている。
②誤
「日本のPKO協力法による国連平和維持活動に際して、自衛隊員の防護目的のための武器使用が認められる」とあるが、制限はあるものの、海外での活動においても一定の自衛目的での武器使用は可能。ただし「防衛目的で大幅に武力行使が認められる」とはなっていないので、文意によっては不適合。
③誤
「日本は武器の輸出に関する規制として、防衛装備移転三原則を武器輸出三原則に改めた」とあるが、実際は「武器輸出三原則」から「防衛装備移転三原則」へ緩和方向で改めたので、逆の書き方は誤り。
④正
「日本は安全保障に関する重要事項を審議する機関として、内閣総理大臣を議長とする国家安全保障会議を設置した」は2013年末に成立した日本版NSC(国家安全保障会議)の設置に合致する正しい記述。
問26:正解2
<問題要旨>
この小問は、「委任の連鎖」「責任の連鎖」という憲法上・政治制度上の仕組みを示した図をもとに、空欄(矢印ア・矢印イ)に関する説明法令(a~d)を正しく組み合わせる問題である。国会と内閣、行政府の関係において誰が誰に責任を負うか、またその責任を具体的にどんな制度で担保しているかがポイントとなる。
<選択肢>
① ア=a、イ=c
② ア=a、イ=d
③ ア=b、イ=c
④ ア=b、イ=d
【矢印ア(国会→内閣)に示される責任】
- これは国会から信任を得て内閣が成立する「議院内閣制」における原則であり、たとえば国の収入支出の決算の承認や、国会での答弁などが考えられる。ところが選択肢では a(両議院の会議公開・会議録公表)や b(国の収入支出の決算の採決)などの割当が示されている。
【矢印イ(内閣→国会)に示される責任】
- これは内閣が国会に対して行政の責任を負い、首相が一般国務や外交について報告する仕組み、または弾劾裁判所設置などは別の文脈での責任の仕組み。
- 「一般国務についての内閣総理大臣の報告」や「弾劾裁判所の設置」は憲法上の責任制度の一端だが、より直接的なのは「内閣総理大臣が国会に対し政治責任を負う」形(例:国会答弁、総辞職など)。
問題文の正解は②(ア=a、イ=d)。
a:両議院の会議の公開と会議録の公表 → 国会自体の責任(国民に対する説明責任)にも繋がるが、選択肢では矢印アに対応。
d:一般国務についての内閣総理大臣の報告 → 内閣が国会に対して行う責任の履行手段。矢印イに対応。
問27:正解6
<問題要旨>
この小問は、2021年に改正された少年法の内容をまとめたメモから、空欄(ア・イ・ウ)に当てはまる語句の組合せとして最も適切なものを選ぶ問題である。少年法は、おもに「家庭裁判所」「検察官送致(逆送)」の仕組み、非公開の原則や少年の年齢区分(14歳、18歳、20歳)などが論点になる。
<選択肢>
① ア:地方裁判所 イ:検察官 ウ:14歳
② ア:地方裁判所 イ:検察官 ウ:18歳
③ ア:地方裁判所 イ:弁護士 ウ:14歳
④ ア:地方裁判所 イ:弁護士 ウ:18歳
⑤ ア:家庭裁判所 イ:検察官 ウ:14歳
⑥ ア:家庭裁判所 イ:検察官 ウ:18歳
⑦ ア:家庭裁判所 イ:弁護士 ウ:14歳
⑧ ア:家庭裁判所 イ:弁護士 ウ:18歳
――― 【ポイント】
- 少年事件は原則として「家庭裁判所」に送致され、そこで処分が決定される。
- 一定の重大事件などでは「検察官送致(逆送)」が行われ、成人同様に刑事裁判手続へ進む可能性がある。
- 2022年改正に伴い「18歳以上は特定少年」とされる区分がある。
正解は⑥の組合せ(ア:家庭裁判所、イ:検察官、ウ:18歳)。
すなわち、20歳未満を「少年」として扱う従来の枠組みがある中、18歳・19歳を特定少年とする改正がポイントとなり、「逆送決定された事件は検察官により起訴される」などの流れと合致する。
問28:正解3
<問題要旨>
この小問は、世論形成における個人やマスメディアの表現活動の意義についての資料(最高裁判所判例)を踏まえ、憲法21条における表現の自由と民主主義との関わりを問う問題である。判例文から「公的事項に関する表現は特に重要である」「報道機関の情報提供は国民の判断資料となる」等を読み取り、選択肢を比較検討する必要がある。
<選択肢>
①誤
「判例1によれば、個人の表現の自由は、民主主義過程を維持するためではなく個人の利益のために憲法21条によって保障される」
→ 判例文では「民主主義国家において表現の自由が特に重要」と述べているため、個人の利益という狭い観点に矮小化した表現は誤り。
②誤
「判例1によれば、公的事項にかかわらない個人の主義主張の表明は、憲法21条1項によっては保障されない」
→ 私的領域の表現も憲法21条の保護対象となるため、これは誤り。
③正
「判例2によれば、報道機関の報道の自由は、国民が国政に関与する上で必要な判断資料の提供に寄与するため、憲法21条によって保障される」
→ 判例2は「国民の『知る権利』をまもるために報道の自由が保障される」との趣旨を示す。よって正しい。
④誤
「判例2によれば、思想の表明といえない単なる事実の伝達は、憲法21条によっては保障されない」
→ 事実報道も表現行為の一種として広く保護されるため、これは誤り。
したがって③が適切である。
第7問
問29:正解4
<問題要旨>
この小問では、環境と開発に関する国際会議を取り上げたスライド(a~d)が、歴史的にどの順番(開催年が古い→新しい)で行われたかを問うものである。それぞれの会議がいつ、どのような成果文書を採択したかを把握して、正しい時系列順に並べる必要がある。
<選択肢>
① a → b → c → d
(理由説明:aとbの順序が誤り。b〈1972年〉の方がa〈1992年〉より古い。)
② a → b → d → c
(理由説明:やはりb〈1972〉がa〈1992〉より古いので順番が合わない。)
③ b → a → c → d
(理由説明:b〈1972〉→a〈1992〉は正しいが、d〈2000〉よりc〈2002〉の方が後なので、d→cの順を逆にしている点が誤り。)
④ b → a → d → c
(理由説明:b〈1972:国連人間環境会議〉→a〈1992:国連環境開発会議〉→d〈2000:第55回国連総会(ミレニアム宣言)〉→c〈2002:持続可能な開発に関する世界首脳会議〉の順が開催年ベースで正しい。これが正解。)
⑤~⑧
(いずれも上記会議の年代順と一致しないため誤り。)
問30:正解4
<問題要旨>
この小問は、京都議定書(1997年採択)とパリ協定(2015年採択)についての記述のうち、最も適切なものを選ぶものである。地球温暖化防止をめぐる国際的な枠組みがどのように進化してきたか、先進国・途上国の責任のあり方や温室効果ガス削減の目標決定方式などを区別できるかがポイントとなる。
<選択肢>
①誤
「京都議定書では、『共通だが差異ある責任』に基づき、先進国のみに地球環境保護の責任があるとされた。他方、パリ協定では、すべての国に温室効果ガス削減義務が課されている」という趣旨だが、京都議定書で先進国に法的拘束力ある削減義務を課したのは正しいものの、パリ協定においても一律の義務というより自国決定(NDC)を提出する形であり、表現に齟齬がある。
②誤
「京都議定書、パリ協定ともに地球環境保護が将来世代にとって不可欠であり、すべての締約国に同様に温室効果ガスの削減義務を課している」とあるが、京都議定書は主として先進国に強い義務を課し、途上国には数値目標を課さなかった。
③誤
「京都議定書では、現在の成長よりも将来世代の発展を優先させようとする『持続可能な開発』の理念に基づいて一律の温室効果ガス削減目標が課され、パリ協定では削減目標が各国の自主決定(NDC)となった」とあるが、京都議定書でも国・地域ごとに削減率が異なり、一律ではなかった。
④正
「京都議定書と異なり、パリ協定ではすべての締約国が温室効果ガス削減に取り組むことを義務づける仕組みが採用されている。ただし、パリ協定でも先進国による途上国支援など『共通だが差異ある責任』という理念に適合するルールが用意されている」という趣旨が最も正確である。
問31:正解2
<問題要旨>
この小問は、SDGsの達成に貢献する国際機関の仕組みについての記述(①~④)のうち、最も適切なものを選ぶ問題である。人権保障や労働条件改善、国連安保理の権限など、多様な国際機関の実情を見分ける必要がある。
<選択肢>
①誤
「規約人権委員会(人権規約委員会)は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)に未加入または未順守の締約国に対し制裁を発動し得る」などと書いているが、実際には制裁的権限はなく、被害者通報の受理や勧告は可能だが強制力ある制裁ではない。
②正
「人権理事会(Human Rights Council)では、人権に対する重大かつ組織的な侵害を犯した場合に、総会決議によって理事国としての資格停止が生じ得る」という点は実際にウクライナ侵攻でロシアの資格停止決議などがなされた例もあり、正しい。
③誤
「労働条件の改善を目標の一つとするILO(国際労働機関)は、政府代表と労働者代表の二者構成で運営される」→ 実際にはILOは「政府・労働者・使用者」の三者構成が特徴なので、ここでは使用者代表が欠落しており誤り。
④誤
「国連社会の平和と安全の維持に主要な責任を有する国連安全保障理事会で、国連分担金比率上位5か国が常任理事国になり、決議に対し特権的地位を有する」としているが、実際に常任理事国は第二次世界大戦の戦勝国5か国であり、分担金比率とは無関係である。
問32:正解1
<問題要旨>
この小問は、各国の対外債務と関連する指標(対輸出額比、対GNI比など)のデータをもとに、メモに示されたa~cの記述が正しいかどうかを判断し、その組合せを選ぶ問題である。表にはアルゼンチン・インドネシア・南アフリカの2017年から2018年にかけての対外債務残高・対輸出比・対GNI比が示されている。
<選択肢>
① a
② b
③ c
④ aとb
⑤ aとc
⑥ bとc
⑦ aとbとc
【a:アルゼンチンでは2017→2018にかけて対外債務残高が増加し、対外債務残高の対輸出額比と対GNI比もともに上昇しているので、債務負担の度合いが高まったと判断できる】
→ 表を見ると2017年→2018年で債務残高が225,925→277,827(単位:百万米ドル)に増え、対輸出比も289→333、対GNI比も36→56と顕著に上昇している。従ってaは正しい。
【b:インドネシアでは2017→2018にかけて対外債務残高が増加し、対輸出額比と対GNI比がともに低下しており、債務負担の度合いが高まったと判断できる】
→ 実際の表では、インドネシア2017年→2018年で債務残高353,564→379,589に増加。対輸出比177→172、対GNI比36→38。対輸出比は減少、対GNI比は増加している(36→38は増)。つまり「両方低下」ではなく片方は上昇している。さらにメモ文には「…低下しており…度合いが高まった」と整合しない。よってbの総合的内容は誤り。
【c:南アフリカでは2017→2018にかけて対外債務残高が減少し、対外債務残高の対輸出額比と対GNI比がともに低下しており、債務負担の度合いは高まったと判断できる】
→ 表では南アフリカ2017年→2018年で債務残高174,921→174,094(わずかに減少)。ただし対輸出比160→148、対GNI比52→49といずれも低下。メモ文の末尾「…負担の度合いは高まった」ではなく「低下している」指標が示しているならば負担が和らいだと判断できるはず。よってcは「高まった」と結論づけるのは誤り。
したがって正しいのはaのみで、選択肢①が正解となる。