解答
解説
第1問
この文章は、モーツァルトの《レクイエム》を例に、「音楽」が本来もっていた宗教的・典礼的な文脈から離れ、コンサートホールや映像媒体などで消費・鑑賞されるようになった過程と、その影響を考察している。もともと《レクイエム》はミサの儀式の一部として機能し、聴衆も「参列者」という立場で参加する宗教儀礼だった。しかし現代では、コンサートホールで“演奏会の演目”として上演されたり、CDやDVDといった形でパッケージ化されて鑑賞・商品として流通したりするなど、作品の扱われ方が大きく変化している。
筆者はこの「コンサートホール化」や「博物館化」──すなわち本来の儀礼的・宗教的な意味合いをもった音楽が、時代を経て“芸術作品”あるいは“商品”として切り出され、展示・演奏・販売される──という現象を指摘する。そして、かつては典礼全体の要素として不可分だった音楽が、いまや独立した「芸術作品」として鑑賞・所有されることで、儀式や祈りに伴う体験が失われたり、別の文脈に組み替えられたりしていることに注意を促している。
さらに文章後半では、美術館における展示物や博物館的な欲望との関連にもふれ、「コンサートホール」や「博物館」という空間が、音楽や芸術作品をそれぞれのコンテクストから切り離す作用を持つことを論じている。こうして、宗教儀礼に由来したはずの音楽が「芸術」として自立化され、その価値観や概念も絶えず再定義されてきたことをまとめ、最終的には「音楽」や「芸術」という概念の変質や境界のあいまい化について問題提起している。
第2問
この文章は、高校生の「イチナ」という少女が、父方の祖母(作中では「おばあ」)や両親とのかかわりを通じて、自分の居場所や家族のあり方を模索する物語である。幼い頃、イチナは祖母の家に行って砂場で遊んだり、仲間と映画に行く日取りを決めたりと、身近な日常の断片がいくつも描かれる。その一方で、イチナは祖母を「おばあ」と呼ぶことへの違和感や、親や祖母からの言葉に素直に向き合いきれない心情も抱えており、会話の端々からは微妙な距離感や思春期特有の葛藤がうかがえる。
また、イチナが「観察日記」に似た視点をもって周囲を見つめる場面があり、彼女の視点からは祖母や両親の言動がどこか遠く感じられる様子が描写される。さらにイチナは、自分や家族の過去・現在をなかなか一貫して理解できないまま、それでも祖母や両親とのやりとりを重ねる。ときに母の電話や祖母の姿に戸惑いを見せつつも、“家に戻る”という行為と“家族”という言葉を問い直していく姿が、作品全体の大きな柱となっている。
総じて、この文章は、思春期の少女が祖母や親との接触をとおして、家庭や家族のつながりをどのように受けとめ、またそこに生じる微妙なずれや不安をどう扱っていくかを繊細に描いたものといえる。イチナが抱える違和感や距離感、そしてそこからにじみ出る家族のかたちの多様性が、物語を通じて浮き彫りにされている。
第3問
この文章は、「雪」を主題としながら、作者(語り手)と周囲の人々が京都の別邸(「院」)へ向かう道中の情景や会話を描いたものです。作品中では、雪が降り積もる光景や、その雪が融けて消えていくはかなさがしばしば強調され、登場人物たちはその移ろいやすい美しさを味わいながらも、過ぎゆく時間や人生のはかなさを感じとっていきます。
具体的には、移動の途中で見かける雪景色や「空住(くうじゅう)の花」といった言葉が示唆するように、雪や花といった自然の儚(はかな)い美しさに目を留め、そこにかいま見える死と再生・消失と復活のイメージが重ね合わせられています。また、登場人物同士のやり取りでは「渡される絵」「手紙」などの話題が散りばめられ、都(京都)ならではの雅(みやび)な雰囲気も漂います。
そうして、雪景色を愛(め)でると同時に、その雪が溶け消えてしまうように、人生の出来事や季節の移り変わり、あるいは人の心の変化も一瞬のうちに通り過ぎていく――そうした「無常観」が、物語の背景に流れているのが特徴です。全体としては、雅やかな情趣とともに、儚さへの感慨や思いが織り込まれた一編となっています。
第4問
この問題文は、唐の詩人・杜牧(803~852)が詠んだ「華清宮」という詩と、それに関する複数の資料(I~IV)を提示しているものです。詩そのものは、唐代の宮殿「華清宮」を舞台に、長安を望む壮麗な景観や、玄宗皇帝と楊貴妃の逸話(遠方からライチを早馬で運ばせたという有名な話)を描写し、その豪華絢爛さと当時の風雅を詠んでいます。資料では、この詩の背景となる歴史的事象や用語の注釈、華清宮の地理的特徴、楊貴妃・玄宗皇帝の関係などが補足されており、詩の理解を深めるための情報が示されています。
要するに、詩そのものが描く「華清宮」と楊貴妃にまつわるエピソードの華やかさを味わうと同時に、当時の唐王朝における政治・文化・交通事情(ライチ輸送の速達など)を併せて学ぶことで、杜牧の詩に込められた歴史的・文化的背景を総合的に理解させる構成となっています。