2024年度 大学入学共通テスト 本試験 倫理 解答・解説

2024年度 大学入学共通テスト 本試験「倫理」の解答と解説です。全設問の正解と考え方を一問ずつ解説し、公式の解答PDFもあわせて掲載しています。大学受験の森が独自に作成した、無料で読める解説です。

目次
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解答

解説

第1問

問1:正解③

<問題要旨>

ギリシア哲学の他文化圏への継承

高校生Aと大学生Bの会話の下線部ⓐ「先人の考え方を継承しつつ、批判したり再解釈する」を受け、ギリシア哲学が他の文化圏に継承された事例ア〜ウの正誤を判定する問題です。アはプラトン哲学が神秘主義と結び付いた形で継承され、その影響下で教父たちがキリスト教の教義を確立したこと、イはイスラーム世界へのギリシア哲学の流入とシーア派・スンナ派の分離、ウはイスラーム世界を経由して伝わったアリストテレス哲学をトマス・アクィナスが継承したことを述べています。ア=正、イ=誤、ウ=正となります。

<選択肢>

①【誤】

ア正・イ正・ウ正の組合せ。

イが誤りなので合致しません。

②【誤】

ア正・イ正・ウ誤の組合せ。

イ・ウともに判定が逆で合致しません。

③【正】

ア正・イ誤・ウ正の組合せで、正しい判定と一致します。

アは新プラトン主義の影響を受けたアウグスティヌスら教父の活動として正しく、ウはトマス・アクィナスが『神学大全』で理性と信仰の調和を体系的に論じたことを指し正しい。イは、シーア派とスンナ派の分離がムハンマドの後継者(カリフ)をめぐる対立から生じたもので、ギリシア哲学の流入がその舞台になったわけではないため誤りです。

④【誤】

ア正・イ誤・ウ誤の組合せ。

ア・イの判定は正しいものの、ウを誤としている点が合致しません。

⑤【誤】

ア誤・イ正・ウ正の組合せ。

ア・イの判定がともに逆です。

⑥【誤】

ア誤・イ正・ウ誤の組合せ。

三つとも判定が逆になっています。

⑦【誤】

ア誤・イ誤・ウ正の組合せ。

イ・ウは正しく判定できていますが、アを誤としている点が合致しません。

⑧【誤】

ア誤・イ誤・ウ誤の組合せ。

ア・ウを誤としている点が合致しません。

問2:正解⑤

<問題要旨>

孔子・孟子・韓非子

下線部ⓑ「儒教の思想家たちはみんな孔子の思想を継承している」に関して、儒教およびそれに関連する思想の説明ア〜ウから、適当なものを全て選ぶ問題です。アは孔子が周公旦の礼による政治を理想とし、仁と礼を関連付けて克己復礼を説いたこと、イは孟子が礼を重視し性善説を説いたとすること、ウは荀子の下で学んだ韓非子が信賞必罰によって法家思想を大成したことを述べています。適当なのはアとウの二つです。

<選択肢>

①【誤】

アのみを選ぶ組合せ。

アは適当ですが、ウも適当なので不足しています。

②【誤】

イのみを選ぶ組合せ。

孟子が特に重視したのは礼ではなく仁義であり、イ自体が適当ではありません。

③【誤】

ウのみを選ぶ組合せ。

ウは適当ですが、アが漏れています。

④【誤】

アとイの組合せ。

イが適当でないうえ、ウが漏れています。

⑤【正】

アとウの組合せで、適当なものを過不足なく選んでいます。

孔子は周公旦の礼の政治を理想とし「己に克ちて礼に復るを仁と為す」と説いたのでアは適当。韓非子は荀子に学びながら内面の道徳性ではなく法と刑罰による統治を説いて法家を大成したのでウも適当です。孟子の性善説は四端の心に基づくもので、礼を人が生まれつき備えているとは説いていません(礼を特に重んじたのは荀子)。

⑥【誤】

イとウの組合せ。

イが適当でないうえ、アが漏れています。

⑦【誤】

アとイとウの組合せ。

適当でないイを含んでいます。

問3:正解④

<問題要旨>

先行思想を批判した古代思想家(適当でないもの)

下線部ⓒ「批判」に関して、先行する思想を批判した古代思想家についての記述のうち、適当でないものを選ぶ問題です。墨子による儒教の仁(別愛)批判と兼愛、アリストテレスによる師プラトンのイデア論批判、ブッダによるバラモン教の身分制度批判と不殺生・慈悲、アウグスティヌスによるプラトン哲学の批判的継承と『神の国』の議論が並びます。「地上の国」と「神の国」をそれぞれ何に基づくものとしたかが判断の鍵です。

<選択肢>

①【正】

墨子は儒教の仁を身内に偏った別愛だと批判し、区別なく人を愛する兼愛と、利害の対立をなくす交利を説きました。

記述として正しく、正解ではありません。

②【正】

アリストテレスは師プラトンの真理探究の姿勢を受け継ぎつつ、個々の事物を離れてイデアが存在するという考えを、経験的現実を重んじる立場から批判しました。

記述として正しく、正解ではありません。

③【正】

ブッダはバラモン教のヴァルナ(身分制度)を批判し、人間だけでなくあらゆる生き物への暴力と無益な殺生を否定して慈悲を説きました。

記述として正しく、正解ではありません。

④【誤】

アウグスティヌスは『神の国』で、「地上の国」は神を顧みない自己愛に基づき、「神の国」は神への愛に基づいて成立すると論じました。

「地上の国」を隣人愛に基づくとする点が誤りで、これが適当でないもの=正解です。

問4:正解①

<問題要旨>

牟子『理惑論』と輪廻・アートマン

下線部ⓓ「生命観」に関して、中国の仏教徒・牟子『理惑論』の資料を読み、会話中の空欄a〜cを埋める問題です。資料では、人が死ぬと家族が屋根に上って魂に呼びかけるという中国の習俗を手がかりに、牟子が「魂はもとより不滅である」「肉体は五穀の根と葉、魂は種もみのようなもの」と説きます。aはインドの生命観、bは牟子が引き合いに出した中国の考え方、cはバラモン教が重視し諸法無我が否定した概念が入ります。

<選択肢>

①【正】

a輪廻・b死後も魂は存在し続ける・cアートマンの組合せで、資料と会話に合致します。

「生まれ変わる」はインドの輪廻の生命観そのもの。牟子は魂の不滅を、招魂の習俗に見られる中国在来の考え方に似たものだと説明しています。また諸法無我は永遠不変の我(アートマン)を否定する教えであり、Aはそのアートマンを牟子が積極的に説いているように見えると述べています。

②【誤】

a輪廻・b死後も魂は存在し続ける・cブラフマンの組合せ。

諸法無我が否定するのは個体の我であるアートマンであり、宇宙原理のブラフマンではcの文脈に合いません。

③【誤】

a輪廻・b生前の行為が死後に実を結ぶ・cアートマンの組合せ。

bが合いません。資料で牟子が持ち出したのは行為の報いではなく、魂そのものの不滅です。

④【誤】

a輪廻・b生前の行為が死後に実を結ぶ・cブラフマンの組合せ。

b・cがともに合致しません。

⑤【誤】

a業・b死後も魂は存在し続ける・cアートマンの組合せ。

aが合いません。業(カルマ)は行為とその報いを指す語で、「生まれ変わる」ことそのものは輪廻です。

⑥【誤】

a業・b死後も魂は存在し続ける・cブラフマンの組合せ。

a・cがともに合致しません。

⑦【誤】

a業・b生前の行為が死後に実を結ぶ・cアートマンの組合せ。

a・bが資料の内容に合いません。

⑧【誤】

a業・b生前の行為が死後に実を結ぶ・cブラフマンの組合せ。

三つとも合致しません。

問5:正解④

<問題要旨>

ユダヤ教をめぐるイエスの言動

下線部ⓔ「ユダヤ教とキリスト教」に関して、ユダヤ教をめぐるイエスの言動の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。律法との関係(廃止ではなく完成)、神への愛と隣人愛という最も重要な掟、「神の国は近づいた」という宣教、「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」という山上の垂訓での教えなど、福音書に記されたイエスの言葉の理解が問われています。

<選択肢>

①【誤】

イエスが律法を「廃止するためではなく、完成するためである」と語ったことは正しい。

しかし弟子たちに新たな律法を作るよう命じたわけではなく、律法の根本にある神の愛の精神を明らかにしたのであって、後半が誤りです。

②【誤】

神を愛せという律法を最も重要としたのは正しいが、「洗礼などの実践を否定した」が誤りです。

イエス自身が洗礼者ヨハネから洗礼を受けており、信仰を内面の活動に限定して実践を否定したとは言えません。

③【誤】

「神の国は近づいた」と告げたのは正しいものの、それを「律法を批判する勇気がある者だけが到達できる境地」とするのは誤りです。

イエスは悔い改めて福音を信じることを求めており、律法批判の勇気を条件としてはいません。

④【正】

イエスは「隣人を自分のように愛しなさい」という律法を重んじたうえで、さらに「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」と述べました。

敵をも含めて分け隔てなく及ぶ神の愛(アガペー)を人間にも求めた点をとらえており、最も適当です。

問6:正解②

<問題要旨>

イスラームにおけるムハンマドの位置づけ

下線部ⓕ「イスラーム」に関して、ムハンマドについてのイスラームの考え方として最も適当なものを選ぶ問題です。アッラーとユダヤ教・キリスト教の神との関係、預言者の系譜におけるムハンマドの位置、多神教に対する態度、シャリーア(イスラーム法)の成り立ちなど、イスラームの基本的な教義理解が問われます。

<選択肢>

①【誤】

アッラーを唯一にして並ぶものなき存在とする点は正しい。

しかしイスラームでは、アッラーはユダヤ教・キリスト教が信仰するのと同じ唯一神とされており、それらの神の「上位に置いた」とするのは誤りです。

②【正】

イスラームでは、ムハンマドはアブラハムやモーセ、イエスに連なる預言者の系譜に立ち、最終的な啓示を受けた「最後の預言者」とされます。

ムハンマド以後に預言者は現れないとされる点が、イスラームにおける彼の位置づけの核心です。

③【誤】

ムハンマドはカーバ神殿の偶像を破壊するなど多神教を厳しく否定しており、「多神教との融和を図った」は誤りです。

ユダヤ教・キリスト教は同じ啓典の民として一定の扱いを受けましたが、一神教の排他性を批判したわけでもありません。

④【誤】

イスラームはムハンマドを神の子とはみなさず、あくまで人間である預言者と位置づけます。

またシャリーアはクルアーンとスンナをもとに後代の法学者が体系化したもので、ムハンマドが制定したものではありません。

問7:正解③

<問題要旨>

自然哲学者のアルケー探究とロゴス

下線部ⓖ「受け継ぐ」に関して、アリストテレス『自然学』の資料と、Aがまとめたノートの空欄a・bを埋める問題です。資料は、自然哲学者たちが無限なるものを万物を包摂する元と考え、それを神的で「不死にして不滅」なものともみなしたと伝えます。ノートは、彼らが世界全体について筋道立った説明を行い、水や火、無限なるものをアルケーとして想定したと述べています。

<選択肢>

①【誤】

aにノモスを入れる組合せ。

ノモスは人為的な法や慣習を意味し、自然現象の筋道立った説明という文脈に合いません。

②【誤】

aノモス・b観察と経験に基づいた自然観の組合せ。

a・bとも合致しません。

③【正】

aロゴス・b神観念に基づいた自然観の組合せです。

ロゴスは理法・道理を意味し、「筋道立った説明」という記述と対応します。またbは、資料に「神的なもの」「不死にして不滅」とある点を受けたもので、初期ギリシア哲学の思考が神観念と結び付いていたことを示します。

④【誤】

aロゴス・b観察と経験に基づいた自然観の組合せ。

aは正しいが、bは「ただし」以下で資料の不死などの言葉を受ける流れに合いません。観察と経験を強調しては、逆接の接続が成り立たなくなります。

⑤【誤】

aミュトス・b神観念に基づいた自然観の組合せ。

bは正しいが、ミュトスは神話を意味し、ノートの「筋道立った説明」とは対立する語なのでaが合いません。

⑥【誤】

aミュトス・b観察と経験に基づいた自然観の組合せ。

a・bとも合致しません。

問8:正解⑥

<問題要旨>

ブッダの縁起と竜樹の展開

『スッタニパータ』(資料1)と竜樹『中論』(資料2)をめぐるAとBの会話の空欄a〜cを埋める問題です。資料1は苦しみが執着を縁として生起すると説き、資料2は「行為」と「行為者」が互いを縁として同時に成立すると述べます。Bは「歩く」と「歩行者」の例を用い、そこに成立するのは名称と概念だけで実体は生じないと説明しています。aはブッダの縁起の内容、bは竜樹の主張、cは会話全体から導かれる結論です。

<選択肢>

①【誤】

aア・bウ・cオの組合せ。

bは正しいが、アは資料1と逆で、cのオも会話にない評価です。

②【誤】

aア・bウ・cカの組合せ。

b・cは正しいものの、aのアが資料1の内容と合いません。

③【誤】

aア・bエ・cオの組合せ。

三つとも合致しません。

④【誤】

aア・bエ・cカの組合せ。

cは正しいが、a・bが合いません。

⑤【誤】

aイ・bウ・cオの組合せ。

a・bは正しいが、cのオ「ブッダの説いた縁起は誤りを含む素朴なものだった」という評価は会話のどこにも述べられていません。

⑥【正】

aイ・bウ・cカの組合せで、会話に最もよく合致します。

資料1は苦しみに執着という原因があると説くので、因果関係に基づいた実践を教えたとするイが適切(アは「知と観察を手放して」が資料と逆)。竜樹の主張は、名称・概念で捉えられる事物が相互依存して成立し実体を欠くというウ(エは実体が感覚世界を超えて存在するとしており、空の思想と逆)。結論は、ブッダが完成させたかに見える縁起の思想にも継承の過程で新たな解釈が加えられ発展したというカです。

⑦【誤】

aイ・bエ・cオの組合せ。

aは正しいが、b・cが合致しません。

⑧【誤】

aイ・bエ・cカの組合せ。

a・cは正しいが、bのエが竜樹の立場と正反対です。

第2問

問1:正解③

<問題要旨>

古代日本の神々と災害

高校生Cと祖母の会話の下線部ⓐ「古代の神々と災害の関係」に関して、日本の神々と災害についての説明として最も適当なものを選ぶ問題です。折口信夫の「まれびと」、死者の霊と災害、豊穣の恵みと自然の脅威、外来思想と神観念の関係という四つの説明が並びます。古代日本の神が恵みと災いの両面をもつ存在として捉えられていたことを理解しているかが問われます。

<選択肢>

①【誤】

折口信夫の「まれびと」は、常世の国など村の外から時を定めて訪れ、福をもたらして去っていく神・霊のことです。

「村落を離れないそうした祖先の霊」とする説明が誤りです。

②【誤】

恨みを残した死者の霊が災いをなすという考えは御霊信仰と呼ばれますが、これは主として平安時代に広まったものです。

古代日本の神々と災害の関係を説明するものとしては、③に比べて適当とは言えません。

③【正】

古代日本では、神は作物の豊穣をもたらす恵みの存在であると同時に、暴風・地震・疫病といった自然の脅威としても現れると考えられ、災いもまた神意のあらわれとされました。

荒ぶる神を祀り鎮めるという発想もここから生じており、最も適当です。

④【誤】

古代日本の神観念は、儒教や仏教などの外来の教えを排除して形成されたのではありません。

神仏習合に見られるように、外来の教えと結び付きながら展開した点で誤りです。

問2:正解⑥

<問題要旨>

古代日本の仏教(聖武天皇・空海・源信)

下線部ⓑ「仏教」に関連して、古代日本の仏教についての説明ア〜ウの正誤を判定する問題です。アは聖武天皇の時代の仏教が国家安泰の役割を期待され、阿弥陀仏の他力救済で民衆を救おうとしたとするもの、イは唐で学んだ空海が鎮護国家を掲げ山岳修行と即身成仏を目指したとするもの、ウは源信が称名念仏のみを往生の方法としたとするものです。ア=誤、イ=正、ウ=誤となります。

<選択肢>

①【誤】

ア正・イ正・ウ正の組合せ。

ア・ウが誤りなので合致しません。

②【誤】

ア正・イ正・ウ誤の組合せ。

ウの判定は正しいが、アを正としている点が誤りです。

③【誤】

ア正・イ誤・ウ正の組合せ。

三つとも判定が合いません。

④【誤】

ア正・イ誤・ウ誤の組合せ。

ウは正しく判定できていますが、ア・イが逆です。

⑤【誤】

ア誤・イ正・ウ正の組合せ。

ア・イの判定は正しいが、ウを正としている点が誤りです。

⑥【正】

ア誤・イ正・ウ誤の組合せで、正しい判定と一致します。

アは、奈良時代の仏教が鎮護国家の役割を担ったのは事実ですが、阿弥陀仏の他力救済による民衆救済を説いてはいないので誤り(浄土信仰の本格的な広まりは平安中期以降)。イは空海と真言密教の説明として正しい。ウは、源信『往生要集』が阿弥陀仏の姿を心に思い描く観想念仏を中心に据えており、称名念仏のみを説いたのは法然なので誤りです。

⑦【誤】

ア誤・イ誤・ウ正の組合せ。

アの判定のみ正しく、イ・ウが逆です。

⑧【誤】

ア誤・イ誤・ウ誤の組合せ。

ア・ウは正しく判定できていますが、イを誤としている点が合致しません。

問3:正解④

<問題要旨>

『方丈記』『徒然草』と無常観

下線部ⓒ「『方丈記』や『徒然草』をはじめとした無常観の思想」に関して、無常観の説明と資料1・2の内容説明を選ぶ問題です。資料1で鴨長明は、一間の庵を自分で気に入って住んでいるとし、魚や鳥のたとえを引いて「住んでもみずに誰が分かろう」と述べます。資料2で吉田兼好は、何事も頼みにできないとしたうえで、人間の本性は限定のない天地の本性と異ならず、のびやかであれば外界に心を煩わされないと説きます。

<選択肢>

①【誤】

無常観を「若々しく衰えることのない人間のあり方を追求する考え方」とする説明が誤りです。

無常観はむしろ、あらゆるものが移り変わり衰えていくことを見つめる立場です。

②【誤】

無常観の説明は妥当ですが、資料1は魚と鳥を閑居の心境のたとえとして挙げているにすぎません。

「鳥や魚の生命を大切にするべきだ」とは書かれていないので誤りです。

③【誤】

資料1は自分が気に入って庵に住んでいると述べており、「他人から気に入られなければ満足できない」は正反対です。

資料2も財宝や権勢は頼みにできないとしており、「財産や地位があれば心を煩わされずに生きていける」も逆です。

④【正】

無常観を「世の中は常に変化していくとする考え方」とする説明が妥当です。

資料1の「住んでもみずに誰が分かろう」は自分の今の境地が他人には理解されにくいことを述べたもので、資料2の「本性がゆったりとのびやかで限定されることがなければ……外界の事物のために心を煩わされることもない」とも合致します。

⑤【誤】

資料1についての説明(粗末な庵でも自分が気に入っていればよい)は妥当です。

しかし資料2は人間の本性が天地の本性と異ならないと説いており、「天地と関係なく自由に生きていくことができる」は資料の趣旨と食い違います。

問4:正解④

<問題要旨>

江戸時代の儒教(適当でないもの)

Cのノートの下線部ⓓ「生まれつきの身分を固定的なものとみなす思想」に関連して、江戸時代の儒教についての説明から適当でないものを選ぶ問題です。上下定分の理と礼儀、武士が担った現実の社会・政治体制を天理とみなす考え方、神道と朱子学の一致を説いた朱子学者と尊王論、古学派における誠の重視という四つの記述が並び、朱子学と古学派の関係の理解が問われます。

<選択肢>

①【正】

朱子学では、君臣・親子・夫婦などの関係にはそれぞれ定まった理があり、それを具体化したものが礼儀であるとされました。

身分秩序にのっとった生き方が求められたという記述も正しく、正解ではありません。

②【正】

林羅山らの説く上下定分の理に見られるように、現実の社会・政治体制を天理とみなし、私利私欲を慎んで幕藩体制の下で各自の役割を果たすことが武士に求められました。

記述として正しく、正解ではありません。

③【正】

山崎闇斎の垂加神道のように、日本の伝統的な神観念を朱子学の理と同一視して神道と朱子学の一致を説く朱子学者が現れ、そこで説かれた尊王論は幕末の志士に影響を与えました。

記述として正しく、正解ではありません。

④【誤】

古学派の伊藤仁斎は、朱子学が説く理を人間の実情からかけ離れたものとして批判し、自他を欺かない心である誠を重んじて人倫の世界の充実を説きました。

「朱子学で説かれる理の考え方に依拠して」という点が誤りで、これが適当でないもの=正解です。

問5:正解③

<問題要旨>

石田梅岩と商業の正当化

Cのノートの下線部ⓔ「営利活動を肯定する思想」に関して、石田梅岩についての説明ア〜エから適当なものを全て選ぶ問題です。アは武士による民衆支配を儒教や仏教が正当化していると批判したとするもの、イは身分の別はあっても各自が家業に勤め社会に貢献する点で同様に尊いとするもの、ウは相手の利益も考えた公正な商売を説いたとするもの、エは藩の財政再建に手腕を発揮し無鬼論を唱えたとするものです。適当なのはイとウです。

<選択肢>

①【誤】

アとイの組合せ。

イは適当ですが、アは安藤昌益(『自然真営道』)の説明であり、また適当なウが漏れています。

②【誤】

アとエの組合せ。

ア・エとも石田梅岩の説明ではありません。

③【正】

イとウの組合せで、適当なものを過不足なく選んでいます。

石田梅岩は石門心学を開き、「商人の買利は士の禄に同じ」として、士農工商それぞれが家業に励んで社会に役立つ点で等しく尊いと説きました(イ)。また正直と倹約を重んじ、自分の利益だけでなく相手の利益も考えた公正な商いを求めました(ウ)。

④【誤】

ウとエの組合せ。

ウは適当ですが、エは山片蟠桃(『夢の代』の無鬼論)の説明であり、イも漏れています。

⑤【誤】

アとイとウの組合せ。

イ・ウは適当ですが、アが混じっています。

⑥【誤】

アとイとエの組合せ。

ア・エが適当でなく、ウが漏れています。

⑦【誤】

アとウとエの組合せ。

ア・エが適当でなく、イが漏れています。

⑧【誤】

イとウとエの組合せ。

イ・ウは適当ですが、エが混じっています。

⑨【誤】

アとイとウとエの組合せ。

適当でないアとエを含んでいます。

問6:正解④

<問題要旨>

横井小楠と「公共の天理」

Cのノートの下線部ⓕ「横井小楠」に関して、井上毅が若き日の対話を筆記した『沼山対話』の資料を読み、小楠の思想と資料の内容の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。資料で小楠は、軍事力で世界に進出するのは「公共の天理」に反するとし、日本が世界に参入するなら天理に従って現に起こっている紛争を解決して見せる気概が必要で、むやみに武力で国威を張れば後の日本に災いを及ぼすと答えています。

<選択肢>

①【誤】

資料の「公共の天理」に反するという指摘自体は読み取れますが、小楠は儒教を時代遅れとして捨てたわけではありません。

堯・舜や三代の聖人の道を基礎に据えたうえで西洋の技術・文化を取り入れようとした人物なので、前半が誤りです。

②【誤】

小楠が中国古代の聖人の道を理想としつつ西洋文化の摂取も説いたという前半は正しい。

しかし資料は開国後の対外的な進み方を論じたものであり、「国内での政治的対立を収束させるために」とする点が資料と合いません。

③【誤】

横井小楠は開国論・富国強兵の立場に立った思想家で、「天皇を尊崇し外国を排斥する」攘夷思想の持ち主ではありません。

また資料は軍事を最優先することを明確に否定しており、後半も資料と正反対です。

④【正】

小楠は堯・舜が行ったような理想的政治を追求した思想家であり、資料でも、日本が覇権的な武力によらない仕方で世界の紛争を解決することこそ「公共の天理」に基づくあり方だと述べています。

思想と資料の両面に合致し、最も適当です。

問7:正解①

<問題要旨>

平和を説いた近現代の思想家

祖母のメッセージの下線部ⓖ「先人たちが平和をどのように考えたのか」に関連して、平和を説いた近現代の思想家の説明として最も適当なものを選ぶ問題です。石橋湛山の小日本主義、丸山真男の日本のファシズム分析、幸徳秋水と戦争責任、与謝野晶子と母性保護という四つの記述が並び、近代日本の思想家の主張を正確に区別できるかが問われています。

<選択肢>

①【正】

石橋湛山は『東洋経済新報』で小日本主義を掲げ、軍備の拡張や植民地の拡大を目指す日本のあり方を大日本主義として批判しました。

植民地を放棄し、平和を守って通商による経済的発展を目指す方針を説いた点も正しく、最も適当です。

②【誤】

丸山真男は、日本では主体性を備えた近代的自我が確立されていなかったと論じ、その欠如が「無責任の体系」を生んでファシズムを許したと分析しました。

「明治維新とともに確立していた」とする点が正反対です。

③【誤】

幸徳秋水は『廿世紀之怪物帝国主義』などで、愛国心と軍国主義に支えられた帝国主義を批判しました。

戦争の責任を政府ではなく国民一人一人にあるとした、という説明は誤りです。

④【誤】

「君死にたまふことなかれ」を詠んだのは与謝野晶子で正しいものの、妊娠・出産期の女性を国の財政支援で保護すべきだと主張したのは平塚らいてうです。

母性保護論争で与謝野晶子は、女性の経済的自立を説いて国家による母性保護に反対した側でした。

問8:正解②

<問題要旨>

吉野源三郎『人間の尊さを守ろう』

祖母から贈られた本の抜粋として示された、吉野源三郎『人間の尊さを守ろう』の資料の内容説明を選ぶ問題です。資料は、戦争が一億一心の協力を要求しながら逆に国民どうしの人間らしい連帯を断ち切り、敗戦後の窮乏と精神的崩壊をもたらしたと述べます。そのうえで「人間を信頼するか」「人間を愛するか」という問いへの答えは、理由や証明に基づく帰結ではなく、自分の決意による選択の問題だと結ばれています。

<選択肢>

①【誤】

資料は日本国内の人々の連帯と精神的崩壊を論じたものであり、「他国との信頼関係」や「不断の外交努力」には触れていません。

人間が本来平和を望む存在だという前提も資料にはありません。

②【正】

戦争が一億一心の協力を求めながら、かえって国民どうしの人間らしい連帯をズタズタに断ち切ったという資料の指摘に合致します。

「そうだ、信頼する」と答えるかどうかは決意による選択だという結びも、「人間を愛し、信頼することへの決意が求められている」という説明とよく対応します。

③【誤】

資料はむしろ、戦争によって人々の連帯が崩壊した経験を語っています。

「一度築かれた信頼関係は決して揺らぐことはない」は資料の内容と逆です。

④【誤】

資料は、信頼するかどうかは「理由や証明にもとづいての帰結ではなくて、私の決意による選択の問題」だと明言しています。

「他者が信頼に値するかどうかを検証した上で」態度を決めるという説明はこれと相容れません。

第3問

問1:正解④

<問題要旨>

ルネサンス期の芸術(適当でないもの)

高校生D・E・Fの会話の下線部ⓐ「ルネサンス期」に関して、Dがタブレットで調べたインターネット上の記述のうち適当でないものを選ぶ問題です。ルネサンスの語義と発祥地、ボッティチェリ「春」、ダンテ『神曲』、ラファエロ「アテネの学堂」という四つの下線部が示され、ルネサンス芸術が何を表現しようとしたのかを正しく理解しているかが問われます。

<選択肢>

①【正】

ルネサンスは「再生」を意味し、北イタリアの諸都市から始まってギリシア・ローマの文化に学び、人間性の回復を試みた文化の改革運動です。

記述として正しく、正解ではありません。

②【正】

ボッティチェリの「春(プリマヴェーラ)」は、生き生きとした人物描写を特徴とするルネサンス期の典型的な絵画です。

記述として正しく、正解ではありません。

③【正】

ダンテ『神曲』は、人間の自然な感情や欲求を肯定する新しい人間観を示した作品としてルネサンスの文芸を代表します。

記述として正しく、正解ではありません。

④【誤】

ラファエロ「アテネの学堂」は、プラトンやアリストテレスをはじめとする古代ギリシアの学者たちを一堂に描いた作品で、人間の理性と古典古代の学問への賛美を表しています。

これを「神の恩寵や栄光に基づく美しさを表現した」とするのは中世芸術の特徴との取り違えで、適当でないもの=正解です。

問2:正解②

<問題要旨>

宗教改革の影響とカルヴァン

下線部ⓑ「宗教改革」に関して、宗教改革の影響についての適当な記述をア〜ウから全て選ぶ問題です。アはウェーバーがイエズス会の規律が資本主義を成立させたと論じたとするもの、イはカルヴァンの思想が新興商工業者に支持されイギリスでピューリタニズムを生んだとするもの、ウは職業召命観から「様々な領域で自身の能力を全面的に発揮する職業人」という理想が広まったとするものです。適当なのはイのみです。

<選択肢>

①【誤】

アのみを選ぶ組合せ。

ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で論じたのは、カルヴァン派の予定説から生まれた禁欲的な職業倫理が資本主義の精神を準備したことであり、イエズス会の規律ではありません。

②【正】

イのみを選ぶ組合せで、適当なものを過不足なく選んでいます。

カルヴァンは世俗の職業を神から与えられた召命として神聖視し、その思想は西ヨーロッパの新興商工業者に支持されて広まり、イギリスではピューリタニズムを生みました。

③【誤】

ウのみを選ぶ組合せ。

職業召命観はむしろ与えられた一つの職業に専心することを求めるもので、多方面に能力を発揮する理想はルネサンスの万能人(普遍人)に当たります。

④【誤】

アとイの組合せ。

イは適当ですが、アが適当でありません。

⑤【誤】

アとウの組合せ。

ア・ウとも適当でなく、適当なイが漏れています。

⑥【誤】

イとウの組合せ。

イは適当ですが、ウが混じっています。

問3:正解①

<問題要旨>

カント『判断力批判』と共通感覚

下線部ⓒ「美」に関連して、Fと先生Tの会話とカント『判断力批判』の資料をもとに、カントの思想と資料の説明を選ぶ問題です。Tはカントが道徳の判断も美の判断も普遍的な立場から行われるべきだとしつつ、美では普遍的な法則を根拠にするのとは異なる判断の仕方を求めたと説明します。資料では、共通感覚を働かせるには自分の判断を他者が行う「可能性のある」判断と照合し、自分の判断に付きまとう制約を取り除くべきだと述べられます。

<選択肢>

①【正】

カントが認識能力の範囲と限界を問う批判哲学を唱えたことは正しく、資料の内容とも合致します。

資料は「他者の実際の判断と照合するというよりも、むしろただ他者が行う可能性のある判断と照合し」と述べており、他人なら美しさをどう判断するかという可能性を考慮せよという説明はこれを正確にとらえています。

②【誤】

資料の説明(美について自己の限定された視点を乗り越えるよう求めた)は妥当ですが、カントが「独断のまどろみ」から目覚めさせられたのはヒュームによってです。

ルソーからは人間の尊厳を学んだとされ、前半が誤りです。

③【誤】

感性と悟性の協働によって認識が成立するとした点は正しい。

しかし資料は「実際の判断と照合するというよりも」と明言しており、「他者が行った判断と照合すべきだ」とする資料の説明が誤りです。

④【誤】

カントのコペルニクス的転回は「認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う」というもので、物自体はそもそも認識できないとされます。

また資料は自分の判断の制約を取り除けと求めており、「自分の個性に即した独自の美の基準を持つべきだ」も正反対です。

問4:正解④

<問題要旨>

ヒューム「趣味の基準について」

下線部ⓓ「時代を超えて受け継がれた名作」に関連して、ヒューム「趣味の基準について」の資料と合致する記述を選ぶ問題です。資料は、王女が水汲みをするような古代の簡素な風習は「独特だが無害な風習」として許容されるべきだとする一方、道徳や良識についての考え方が時代とともに変化した場合、いまでは不道徳な風習が過去の作品の中で非難されずに描かれているなら、それは「詩を損なう真の醜さ」だと述べています。

<選択肢>

①【誤】

資料は、なじみのない独特な風習も無害であれば許容されるべきで、それにショックを受ける上品さの方が間違っていると述べています。

違和感を抱かせるだけで作品の価値が損なわれるとはしておらず、合致しません。

②【誤】

資料は、当時の道徳観をそのまま受け入れるべきだとは述べていません。

むしろ現在の道徳から見て不道徳な描写が非難されずに置かれていることを作品の欠陥とみなしており、正反対です。

③【誤】

資料は、不道徳な風習が「きちんと非難されずに描かれているなら、これは詩を損なう真の醜さである」と明言しています。

「非難されていなければ作品の欠点にはならない」は資料の主張と逆です。

④【正】

作品の中で非難されずに描写された行為が、私たちの時代ではもはや道徳的に許容されないとき、その描写は作品自体の価値を損なうという説明は資料の趣旨そのものです。

ホメロスやギリシア悲劇の詩人の作品でさえ、人間性や良識の欠如が高尚な作品の価値を著しく減じていると述べる箇所とも合致します。

問5:正解⑤

<問題要旨>

ルソー『人間不平等起源論』

ルソー『人間不平等起源論』の資料と会話の空欄a〜cを埋める問題です。資料は、人々が小屋の前や大木の周りに集まって互いに注目し、自分も注目されたいと思うようになった結果、最も上手く歌い踊る者や最も美しい者が最も尊敬される者となり、そこから虚栄と軽蔑、恥辱と羨望が生まれ、これが不平等と悪徳への第一歩であったと述べます。会話ではルソーの自然状態論と、自由と平等が失われた契機が問われています。

<選択肢>

①【誤】

a一般意志・b自己愛・c土地の所有の組合せ。

b・cは正しいが、一般意志は『社会契約論』で公共の利益を目指す全人民の意志を指す語であり、資料の文脈に合いません。

②【誤】

a一般意志・b神への愛・c土地の所有の組合せ。

a・bが合いません。

③【誤】

a一般意志・b自己愛・c共和国の設立の組合せ。

bのみ正しく、a・cが合いません。

④【誤】

a一般意志・b神への愛・c共和国の設立の組合せ。

三つとも合致しません。

⑤【正】

a世間の評判・b自己愛・c土地の所有の組合せで、資料と会話に合致します。

資料は、互いに注目し注目されたいと思うようになった結果として価値をもったものを描いており、aは世間の評判。ルソーは自然状態の人間が自己愛と憐れみ(他者への思いやり)に導かれていたとし、土地の私有が始まったことで不平等が生じ自由と平等が失われたと論じました。

⑥【誤】

a世間の評判・b神への愛・c土地の所有の組合せ。

a・cは正しいが、自然状態の人間を導くものは神への愛ではなく自己愛です。

⑦【誤】

a世間の評判・b自己愛・c共和国の設立の組合せ。

a・bは正しいが、自由と平等を失わせた契機は共和国の設立ではありません。

⑧【誤】

a世間の評判・b神への愛・c共和国の設立の組合せ。

aのみ正しく、b・cが合いません。

問6:正解①

<問題要旨>

ニーチェが批判したルサンチマン

下線部ⓔ「ルサンチマン」に関して、ルサンチマンに基づいているとニーチェが批判した思想の例を選ぶ問題です。ニーチェは、力を発揮できない弱者が強者への怨恨(ルサンチマン)から価値を転倒させ、無力さを善へと読み替えて禁欲・同情・隣人愛を尊ぶ奴隷道徳を作り上げたと論じました。選択肢には、ニーチェが批判した立場と、ニーチェ自身の主張(ニヒリズムの直視、価値の創造、運命愛と超人)とが混在しています。

<選択肢>

①【正】

自らの欲望に従うことを「自分勝手で道徳的に許されない」として退け、自己を顧みず他者への奉仕と人類愛に生きるべきだとする立場です。

強者の生を否定し弱さを善とみなすこの発想こそ、ニーチェがルサンチマンに発する奴隷道徳として批判したものにあたります。

②【誤】

善悪の彼岸に立ち、既存の規範にとらわれず新たな価値を創造せよという主張は、ニーチェ自身の立場です。

批判の対象ではありません。

③【誤】

伝統的な信仰が衰えて最高の価値が失われた状況(ニヒリズム)を耐え抜くべきだという主張も、ニーチェ自身の考えです。

批判の対象ではありません。

④【誤】

自己の生をありのままに引き受けて肯定する運命愛に立ち、超人を目指すというのはニーチェが積極的に説いた理想です。

批判の対象ではありません。

問7:正解③

<問題要旨>

J.S.ミルの功利主義と自由論

下線部ⓕ「個性」に関連して、J.S.ミルの思想についての説明ア〜ウの正誤を判定する問題です。アは快楽の質的な違いを認めてベンサムの量的功利主義を修正したとするもの、イは判断能力のある大人の決定は利他的な動機に基づく限り容認されるべきだとしたとするもの、ウは今日の世論が個性的な生き方の追求を要求するあまり他者への無関心を助長していると唱えたとするものです。ア=正、イ=誤、ウ=誤となります。

<選択肢>

①【誤】

ア正・イ正・ウ誤の組合せ。

ア・ウの判定は正しいが、イを正としている点が誤りです。

②【誤】

ア正・イ誤・ウ正の組合せ。

ア・イの判定は正しいが、ウを正としている点が誤りです。

③【正】

ア正・イ誤・ウ誤の組合せで、正しい判定と一致します。

アは「満足した豚であるより不満足な人間である方がよい」に代表される質的功利主義の説明として正しい。イは、ミルの他者危害原則が「他者に危害を及ぼさない限り本人の自由に干渉すべきでない」というものであり、「利他的な動機に基づくものである限り」という限定を加える点が誤り。ウは、ミルが批判したのは多数派の世論が個人の個性を押しつぶす「多数者の専制」であって、個性の追求を要求する世論ではないので誤りです。

④【誤】

ア誤・イ正・ウ正の組合せ。

三つとも判定が逆です。

⑤【誤】

ア誤・イ正・ウ誤の組合せ。

ウの判定のみ正しく、ア・イが逆です。

⑥【誤】

ア誤・イ誤・ウ正の組合せ。

イの判定のみ正しく、ア・ウが逆です。

問8:正解④

<問題要旨>

芸術をめぐる対話と相互理解

Fが授業の後に書いたノートの空欄aを埋める問題です。ノートは、人の美しさを考えるとき内面に注目するというDの提案に触れつつ、自身の価値観や好みにこだわっていては違う人生を生きている相手を理解できないと述べます。さらに「美しい」「きれいだ」という同じ言葉を使っていても、どんな意味で使っているかは人によって違い、はっきり定義して使っているわけでもないと指摘し、だからこそ何が相手と自分を知る手立てになるのかを考えています。

<選択肢>

①【誤】

自分の感覚を信じて相手の考えに惑わされず意見を語る、という内容です。

多様な見方を身に付けたい、相手を理解したいというFの考えと正面から食い違います。

②【誤】

根拠を具体的に挙げて相手から同意を引き出す、という内容です。

ノートが求めているのは同意の獲得ではなく互いを知ることであり、「相手のことも自身のこともよく知る手立て」にはなりません。

③【誤】

専門家の語った言葉を模範として語り合う、という内容です。

Fは64ページの会話で、専門家ですら決まった正しい見方を知っているわけではないと述べており、この方向とは相容れません。

④【正】

手探りでお互いの言葉の使い方を確かめながら、感じ方が違う部分と共通している部分とを見付けていく、という内容です。

「美しい」の意味が人によって違い定義もされていないという直前の指摘を受け、だからこそ対話が相手と自分を知る手立てになるという流れに最もよく合います。

第4問

問1:正解①

<問題要旨>

フランクルとヴァイツゼッカー

高校生GとHの会話の下線部ⓐ(後悔は避けられるものなら避けた方がいい)のように考えていたHが書いたメモの空欄a・bを埋める問題です。メモは、国際平和を実現するための活動を支えたのも後悔を避けたいという動機かもしれないとし、第二次世界大戦の経験を踏まえたフランクルとヴァイツゼッカーの主張を引き合いに出しています。選択肢ア〜エには、人間の安全保障やマザー・テレサの説明も紛れ込んでいます。

<選択肢>

①【正】

a-ア、b-ウの組合せです。

フランクルは『夜と霧』で強制収容所の体験を記し、私たちが人生に何を期待するかではなく人生が私たちに何を期待しているかを問い、どのような状況でも未来への希望をもって生き抜く意義を説きました(ア)。ヴァイツゼッカーは「荒れ野の40年」演説で、過去の非人道的行為を心に刻まない者は現在にも盲目になると訴えました(ウ)。

②【誤】

a-ア、b-エの組合せ。

aは正しいが、エの「死を待つ人の家」を創設したのはマザー・テレサであり、ヴァイツゼッカーの説明ではありません。

③【誤】

a-イ、b-ウの組合せ。

bは正しいが、イの人間の安全保障は貧困や人権侵害を人間の生存と尊厳への脅威と捉える考え方で、フランクルの説明ではありません。

④【誤】

a-イ、b-エの組合せ。

a・bとも人物と説明が対応していません。

問2:正解②

<問題要旨>

現代日本の家族機能と世帯構造の変容

下線部ⓑ「家族や先生の注意」に関連して、現代日本における家族機能の変化や世帯構造の変容についての説明を選ぶ問題です。介護保険制度の理念、少子化の原因と対策、合計特殊出生率の推移、血縁・地縁の希薄化とノーマライゼーションという四つの記述が並び、制度や用語の内容を正確に押さえているかが問われます。

<選択肢>

①【誤】

老老介護などを背景に介護保険制度が始まったという前半は妥当ですが、同制度は高齢者の自立支援を基本理念の一つに掲げています。

「自立支援の考えが盛り込まれていない」とする点が誤りです。

②【正】

子育てに掛かる経済的負担が少子化の原因の一つであること、経済的支援だけでなくワーク・ライフ・バランスの改善によって仕事と子育てを両立しやすい環境を整える対策も必要であることは、いずれも妥当な説明です。

最も適当です。

③【誤】

合計特殊出生率は1966年(丙午)に一時的に急落しましたが、翌年にはいったん回復しています。

「その年以来、回復することがなかった」とする点が事実に反します。

④【誤】

血縁や地縁に基づく結び付きが希薄になったという前半は妥当です。

しかしノーマライゼーションは、障害の有無にかかわらず誰もが地域で普通に暮らせる社会を目指す考え方であり、「強制力がなく、加入脱退が自由で多重参加が可能な関係性の創出」を説くものではありません。

問3:正解⑤

<問題要旨>

情報社会とブーアスティンの疑似イベント

下線部ⓒ「情報」に関して、現代の情報技術について述べた文章中の下線部ア〜ウの正誤を判定する問題です。アはモノの生産が中心だったユビキタス社会を越えて脱工業化社会が到来したとするもの、イはブーアスティンがメディアの作り出す本当らしい出来事を疑似イベントと呼び、テレビの登場で人々が情報に正確さよりも物語性を求めるようになったとするもの、ウはソーシャル・メディアの双方向性を述べたものです。ア=誤、イ=正、ウ=正となります。

<選択肢>

①【誤】

ア正・イ正・ウ正の組合せ。

アが誤りなので合致しません。

②【誤】

ア正・イ正・ウ誤の組合せ。

ア・ウの判定がともに合いません。

③【誤】

ア正・イ誤・ウ正の組合せ。

ア・イの判定が合いません。

④【誤】

ア正・イ誤・ウ誤の組合せ。

三つとも判定が合いません。

⑤【正】

ア誤・イ正・ウ正の組合せで、正しい判定と一致します。

ユビキタス社会とは、いつでもどこでもネットワークに接続できる情報社会を指す語であり、「モノの生産が中心だった」とするアは誤り。イはブーアスティン『幻影の時代』の疑似イベント論として正しく、ウもソーシャル・メディアの双方向性という特色を正しく述べています。

⑥【誤】

ア誤・イ正・ウ誤の組合せ。

ア・イの判定は正しいが、ウを誤としている点が合致しません。

⑦【誤】

ア誤・イ誤・ウ正の組合せ。

ア・ウの判定は正しいが、イを誤としている点が合致しません。

⑧【誤】

ア誤・イ誤・ウ誤の組合せ。

アの判定のみ正しく、イ・ウが逆です。

問4:正解⑥

<問題要旨>

後悔とグループの意思決定実験

下線部ⓓ「後悔の苦しみが人の成長を助ける」に関して、Kray & Galinskyの実験(資料と表)をもとに考察の空欄a〜cを埋める問題です。参加者は後悔する話を読んだ後悔群と、そうでない非後悔群に分かれ、事故の危険性が高く出場中止が正しい選択となる仮想レースについて、必要な情報を自分たちで考えて実験者に要求したうえで決定します。表では要求件数が2.97件と2.86件、必要な情報を要求した割合が44.7%と18.2%、中止決定の割合が39.5%と15.2%でした。

<選択肢>

①【誤】

a-ア、b-ウ、c-オの組合せ。

bは正しいが、アは表の読み取りとして誤っており、cのオも実験の設定に合いません。

②【誤】

a-ア、b-ウ、c-カの組合せ。

b・cは正しいが、aのアが表の読み取りとして誤りです。

③【誤】

a-ア、b-エ、c-オの組合せ。

三つとも合致しません。

④【誤】

a-ア、b-エ、c-カの組合せ。

cは正しいが、a・bが合いません。

⑤【誤】

a-イ、b-ウ、c-オの組合せ。

a・bは正しいが、参加者が読んだのは景品をめぐる後悔の話で、意思決定課題である仮想レースの監督という状況とは直接関係がありません。オは合いません。

⑥【正】

a-イ、b-ウ、c-カの組合せで、資料・表・考察の流れに合致します。

要求した情報の平均件数は2.97件と2.86件でほぼ同程度なのに、必要な情報を要求したグループの割合は44.7%と18.2%で大きな差があるのでイが妥当(アの「情報の4割以上が必要な情報」「全てのグループで」は表から読み取れません)。中止が正しい選択であり後悔群の中止決定が多いことから、慎重な判断で情報を集め正しい決定に至ったとするウが入ります。読んだ話と課題は直接関係がないのでカとなります。

⑦【誤】

a-イ、b-エ、c-オの組合せ。

aは正しいが、中止は正しい選択なのでエの「誤った」が合わず、オも合いません。

⑧【誤】

a-イ、b-エ、c-カの組合せ。

a・cは正しいが、bのエが表の結果と逆です。

問5:正解④

<問題要旨>

ハヴィガーストとピアジェ

下線部ⓔ「周りの人」に関連して、他者と関わり合うことの影響を考察した人物を答える問題です。アは青年期の発達課題として「成熟した関係を他者と結ぶ」「社会的責任を自覚した行動をとる」「職業選択や結婚生活への準備をする」などを挙げた人物、イは自己の視点と他者の視点の区別がつかない乳幼児期の状態を離れ、様々な視点から物事を捉えられるようになることを脱中心化と呼んだ人物です。

<選択肢>

①【誤】

ア-クーリー、イ-ハヴィガーストの組合せ。

クーリーは他人という鏡に映った自分の姿から自我が形成されるという「鏡に映った自我」を論じた人物で、発達課題の提唱者ではありません。

②【誤】

ア-クーリー、イ-ピアジェの組合せ。

イは正しいが、アが合いません。

③【誤】

ア-ハヴィガースト、イ-クーリーの組合せ。

アは正しいが、脱中心化を論じたのはクーリーではありません。

④【正】

ア-ハヴィガースト、イ-ピアジェの組合せです。

ハヴィガーストは人生の各段階ごとに達成すべき発達課題を示し、青年期の課題としてアに挙げられた事柄を数えました。ピアジェは、自他の視点が未分化な幼児の自己中心性から抜け出して多様な視点を取れるようになる過程を脱中心化と呼びました。

⑤【誤】

ア-ピアジェ、イ-クーリーの組合せ。

ア・イとも人物と説明が対応していません。

⑥【誤】

ア-ピアジェ、イ-ハヴィガーストの組合せ。

二人の説明が入れ替わっています。

問6:正解④

<問題要旨>

青年期の心理状態(同一視・フラストレーション)

下線部ⓕ「歯がゆい思い」に関連して、青年期に経験される心理状態についての用語の説明ア〜ウから適当なものを全て選ぶ問題です。アは小説の主人公と自分を重ねて現在の問題が解決されたように思い満足することを同一視とするもの、イは思いどおりにならないときに緊張が高まり心の安定が脅かされることをフラストレーションとするもの、ウは「自分とは何者か」が分からなくなる精神的危機を逃避とするものです。適当なのはアとイです。

<選択肢>

①【誤】

アのみを選ぶ組合せ。

アは適当ですが、イも適当なので不足しています。

②【誤】

イのみを選ぶ組合せ。

イは適当ですが、アが漏れています。

③【誤】

ウのみを選ぶ組合せ。

「自分とは何者か」が分からなくなり将来の展望が持てなくなる状態はアイデンティティの拡散(同一性拡散)であり、逃避ではありません。

④【正】

アとイの組合せで、適当なものを過不足なく選んでいます。

アは、他者と自分を重ね合わせてその人の価値を自分のものと感じ満足する防衛機制の同一視の説明として適当。イは、欲求が阻まれて緊張が高まり心の安定が脅かされるフラストレーション(欲求不満)の説明として適当です。

⑤【誤】

アとウの組合せ。

アは適当ですが、ウが混じり、イが漏れています。

⑥【誤】

イとウの組合せ。

イは適当ですが、ウが混じり、アが漏れています。

⑦【誤】

アとイとウの組合せ。

適当でないウを含んでいます。

問7:正解①、②

<問題要旨>

ハイデガーとJ.ラズの後悔論

哲学者J.ラズ「世界のうちにあること(Being in the World)」の資料をめぐる二つの問いです。(1)は下線部ⓖ「ハイデガー」の思想の説明を、(2)は資料の内容の説明を選びます。資料は、後悔が苦しいのはそれが自分の存在についてのものだからであり、「私はどのような人物であるか(あったか)」が露わになるからだと述べ、行為の成否は人のコントロールを超えた要素に左右されるものの、私がしたことやできなかったことが「私が誰であるか」を露わにし、しばしば表裏一体に私をその誰かにすると説きます。

<選択肢>

①【正】

【(1)ハイデガーの思想=正解①】存在の意味を問うことを重視し、後年には一切のものを技術的に意のままになる対象と捉える人間のあり方を存在忘却として批判した、という説明です。

『存在と時間』以来の存在への問いと、後期の技術批判をともに正しくとらえています。

②【誤】

【(1)】自己の本質を自由につくりあげ、その自由から生じる人類への責任を自覚して社会の創造に関わらざるを得ない存在だとする説明です。

これはサルトルの実存主義とアンガージュマンの考え方であり、ハイデガーの説明ではありません。

③【誤】

【(1)】「死への存在」の自覚に基づいて本来的なあり方へ目を向けるようになった人間を世人(ダス・マン)と呼んだ、という説明です。

世人とは、日常性に埋没して本来的な自己から目を背けている非本来的なあり方を指す語なので、説明が逆です。

④【誤】

【(1)】世界の内にあることの不安に襲われ、日常性という基盤を見失った人間のあり方を故郷の喪失と呼んだ、という説明です。

ハイデガーにおいて不安は、日常性に埋没した世人のあり方から本来的な自己へと引き戻す契機であり、説明が合いません。

①【誤】

【(2)資料の内容】行為にはコントロールできない要素が多分に含まれるため、何かを成し遂げても私がどのような人物であるかに変化はもたらされない、という説明です。

資料は「私がしたことや私にできなかったことは、私が誰であるのかを露わにする。そして……私をその誰かにする」と述べており、正反対です。

②【正】

【(2)資料の内容=正解②】私がどのような存在であるかは私に何ができなかったかによっても決まり、意のままにならない要素で行為が失敗した場合でも自分の望まない存在になり得るため後悔する、という説明です。

資料の「行為の成否は人のコントロールを超えた要素に左右される」「自分がなりたくなかったような人物になってしまったことを後悔する」という記述とよく合致します。

③【誤】

【(2)】行為は私が行為をする以前にどのような存在であったかを明らかにするが、私はそれによって後悔することはない、という説明です。

資料は「私はどのような人物であったか」が露わになることが後悔につながると述べており、後半が資料と食い違います。

④【誤】

【(2)】苦しいのはこの世界に望ましからぬ人物が存在するという事実に対してであり、自分が望まない存在になったという個人的な問題を後悔するのではない、という説明です。

資料は「ある望ましからぬ人物が存在しているからではなく、まさにこの私が望ましからぬ人物であるからこそ、後悔は苦しいものになる」と明言しており、正反対です。

問8:正解③

<問題要旨>

後悔に隠された「大事なもの」

79ページの会話の続きで、Gの発言中の空欄aを埋める問題です。Gは、私たちは世界のただなかで世界に働きかける存在なのに不完全で、思いどおりになることは多くなく、どうしようもない悲劇に遭遇すると「自分は何もできない存在だから」と言いたくなるが、それは世界に働きかける自己であることを自分で否定することだと述べます。そのうえで、そうした否定をしないあり方が後悔ではないかと語り、後悔できることの意味を考えています。

<選択肢>

①【誤】

自己の無力さを受け止め、悪い出来事を招いたのは自分ではないと確信して苦悩から逃れる試み、という内容です。

Gが「自分は何もできない存在だから」と言うことこそ自己否定だと述べているのと正反対です。

②【誤】

後悔は苦しみをバネにして自分を成長させる試みの一部、という内容です。

Gは72ページの会話以来、成長の糧にならない後悔にも大事なものがあると主張しており、成長に回収する見方はその趣旨に反します。

③【正】

後悔は、私の存在と切り離さずに悪い出来事を受け止め、世界の中で自己のあり方を決める自己であり続けようとする試みの一部、という内容です。

直後のHの「それは世界と切り離さずに自己を捉えようとしている証拠だ」という受けとも、Gの「世界に働きかける自己であることを自分で否定することだ」という発言とも整合し、最も適当です。

④【誤】

後悔は悲劇が生じるような世界を嘆くことであり、現実の世界から自分を独立させる試みの一部、という内容です。

Gは自己を世界と切り離さないあり方として後悔を捉えており、「独立させる」は逆方向です。

※ 本記事の解答・解説は当サイトが独立に作成したものです。公式の正解および配点は大学入試センターの発表をご確認ください。

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