解答
解説
第1問
問1:正解③
<問題要旨>
ギリシア哲学が、キリスト教世界やイスラーム世界といった他の文化圏にどのように継承され、影響を与えたかを問う問題です。それぞれの文化圏における思想の展開と、ギリシア哲学との関連性を正確に理解しているかが試されます。
<選択肢>
①【正】
ア:プラトンのイデア論などは、新プラトン主義を通じてキリスト教神学に大きな影響を与えました。特に教父アウグスティヌスは、プラトン哲学を用いてキリスト教の教義を体系化したことで知られています。したがって、この記述は正しいです。
イ:イスラーム世界では、ギリシア哲学が翻訳・研究され、イブン=シーナーやイブン=ルシュドといった哲学者が現れました。しかし、シーア派とスンナ派の分離は、預言者ムハンマドの後継者をめぐる政治的な対立が起源であり、ギリシア哲学の流入が直接の原因ではありません。したがって、この記述は誤りです。
ウ:トマス=アクィナスは、イスラーム世界経由で再導入されたアリストテレス哲学をキリスト教神学に統合し、「哲学は神学のはしため」として信仰と理性の調和を図ろうとしました。これはスコラ学の集大成とされています。したがって、この記述は正しいです。
上記の通り、アが正、イが誤、ウが正の組み合わせであるため、③が正解です。
②【誤】
選択肢イの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
③【正】
選択肢ア、ウの記述は正しく、選択肢イの記述は誤りです。したがって、この組み合わせは正しく、これが正解となります。
④【誤】
選択肢ウの記述が正しいため、この選択肢は不正解です。
⑤【誤】
選択肢アの記述が正しいため、この選択肢は不正解です。
⑥【誤】
選択肢アの記述が正しく、選択肢ウの記述も正しいため、この選択肢は不正解です。
⑦【正】
(解答PDFの正解は③ですが、便宜上、問題の選択肢番号に合わせて表記します。以下同様)
アが正、イが誤、ウが正の組み合わせである③が正解です。
⑧【誤】
選択肢ア、ウの記述が正しいため、この選択肢は不正解です。
問2:正解④
<問題要旨>
古代の思想家が、先行する思想をどのように批判し、自らの思想を形成したかについての理解を問う問題です。「適当でないもの」を選ぶ点に注意が必要です。
<選択肢>
①【正】
墨子は、儒家が説く血縁中心の愛(仁)を、差別的な愛(別愛)であると批判しました。そして、すべての人を区別なく愛する「兼愛」を説き、相互の利益(交利)をもたらすべきだと主張しました。したがって、この記述は適当です。
②【正】
アリストテレスは、師であるプラトンの思想、特に現実世界とは別にイデアという真の実在を想定するイデア論を批判しました。彼は、個々の事物の中に本質(エイドス)があるとし、経験的な現実を重視する立場を取りました。したがって、この記述は適当です。
③【正】
ゴータマ=ブッダは、生まれによって人の貴賤が決まるとするバラモン教のヴァルナ制(身分制度)を批判しました。そして、縁起の法を悟ることで誰もが解脱できると説き、生きとし生けるものへの不殺生(アヒンサー)と慈悲を重視しました。したがって、この記述は適当です。
④【誤】
アウグスティヌスは、プラトン哲学をキリスト教神学の構築に用いましたが、それは批判的継承というよりは受容・統合に近いものです。また、彼の思想では、「地上の国」は自己愛に基づいており、「神の国」が神への愛に基づいています。選択肢の説明は「地上の国」と「神の国」の根拠が逆になっており、内容が誤っています。したがって、この記述は適当でなく、これが正解となります。
問3:正解①
<問題要旨>
インドで生まれた仏教が、中国の固有の思想とどのように接触し、受容されていったかを問う問題です。資料文と会話文をヒントに、仏教と中国思想に関する基本的な用語の知識が試されます。
<選択肢>
①【正】
a:資料の「人は死ぬと必ずまた生まれ変わる」という考え方は、インド思想に由来する「輪廻」です。
b:牟子は輪廻を説明するために、中国で伝統的に信じられてきた「魂は不滅である」という考え方を援用しています。資料中でも「魂はもとより不滅である」と述べています。これは「死後も魂は存在し続ける」という考え方と同じです。
c:仏教は、バラモン教が不変の実体として想定した「我(アートマン)」の存在を否定し、「諸法無我」を説きました。
したがって、aに「輪廻」、bに「死後も魂は存在し続ける」、cに「アートマン」が入る①が正解です。
②【誤】
cに入る語が異なります。ブラフマンは宇宙の根本原理を指す語です。
③【誤】
bに入る記述が異なります。「生前の行為が死後に実を結ぶ」というのは業(カルマ)思想の説明であり、魂の不滅を説く資料文の文脈とは異なります。
④【誤】
bとcに入る語句が異なります。
⑤【誤】
aに入る語が異なります。「業」は輪廻の原因となる行為を指す語で、「生まれ変わること」自体を指す「輪廻」とは区別されます。
⑥【誤】
aとcに入る語が異なります。
⑦【誤】
aとbに入る語句が異なります。
⑧【誤】
a、b、cのすべての語句が異なります。
問4:正解④
<問題要旨>
イエスがユダヤ教の律法に対してどのような態度をとり、どのような教えを説いたかを問う問題です。新約聖書の記述に基づいたイエスの思想の正確な理解が求められます。
<選択肢>
①【誤】
イエスは律法を「完成するため」に来たと述べましたが、それは律法の条文を文字通り守ることではなく、その内面的な精神、すなわち神への愛と隣人愛を徹底することでした。弟子に「新たな律法を作るよう命じた」という記述は誤りです。
②【誤】
イエスは「あなたの神である主を愛しなさい」という律法を最も重要なものの一つとしましたが、洗礼などの実践を否定してはいません。彼自身も洗礼者ヨハネから洗礼を受けており、信仰の内面性を重視しつつも、具体的な実践を軽視したわけではありません。
③【誤】
イエスが告げた「神の国」は、神の支配が実現することを意味し、悔い改めて福音を信じる者すべてに開かれていると説かれました。「律法を批判する勇気がある者だけが到達できる境地」といった限定的なものではありません。
④【正】
イエスは、ユダヤ教の律法の中でも重要な「隣人を自分のように愛しなさい」という教えを肯定しました。さらにそれを乗り越え、「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」と説き、愛の対象を敵にまで広げる無差別・無償の愛(アガペー)を教えの中心に据えました。したがって、この記述は最も適当です。
第2問
問1:正解③
<問題要旨>
古代日本の神観念や、災害との関わりについての理解を問う問題です。日本思想の基本的な概念を正確に把握しているかが試されます。
<選択肢>
①【誤】
折口信夫が「まれびと」と呼んだのは、常世の国から定期的に来訪し、人々に富や幸福をもたらすと信じられた神(来訪神)のことです。村落にとどまる祖先の霊とは異なります。
②【誤】
恨みを残して死んだ者の霊(怨霊)が祟りをなし、災害などを引き起こすという信仰(御霊信仰)は存在しました。しかし、その怨霊を鎮めるために行われたのは「祓い」だけでなく、神として「祀る」ことでした。菅原道真を祀る北野天満宮などがその例です。
③【正】
古代の神道(古神道)では、自然の中に神の働きを見出しました。自然は、稲作の豊穣といった恵みをもたらす一方で、台風や地震などの災い(荒々しい側面)ももたらします。これらはすべて神意の現れ(神威)として畏敬の対象とされました。したがって、この記述は適当です。
④【誤】
古代日本の神観念は、外来の儒教や仏教が伝来する以前から存在しました。その後、これらの外来思想と接触し、影響を受けながら神仏習合などの形で複雑に発展していきました。「排除することで形成され」たわけではありません。
問2:正解⑥
<問題要旨>
古代日本の仏教が、社会の中でどのような役割を担い、どのように展開していったかを問う問題です。各時代の仏教の特徴を正しく理解しているかが問われます。
<選択肢>
①【正】
ア:聖武天皇の時代(奈良時代)の仏教は、国分寺・国分尼寺の建立や東大寺の大仏造立に見られるように、仏教の力によって国家の安寧(鎮護国家)を願う性格が強いものでした。しかし、阿弥陀仏の他力救済によって民衆を救済しようとする思想(浄土教)が本格的に広まるのは、平安時代中期以降です。したがって、この記述は誤りです。
イ:空海は、唐で密教を学び、帰国後に真言宗を開きました。彼は、加持祈祷などによる鎮護国家を掲げるとともに、厳しい修行を通じてこの身のままで仏になる(即身成仏)ことを目指しました。したがって、この記述は正しいです。
ウ:源信は『往生要集』を著し、地獄の恐ろしさと極楽浄土の素晴らしさを詳細に描き出しました。そして、極楽往生の方法として念仏の重要性を説きましたが、「念仏を称えることのみが」往生の方法であると限定したのは、後の法然や親鸞です。したがって、この記述は誤りです。
上記の通り、アが誤、イが正、ウが誤の組み合わせであるため、⑥が正解です。
②【誤】
選択肢アの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
③【誤】
選択肢ア、ウの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
④【誤】
選択肢ア、ウの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
⑤【誤】
選択肢ウの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
⑥【正】
選択肢ア、ウの記述は誤りで、選択肢イの記述は正しいです。したがって、この組み合わせは正しく、これが正解となります。
⑦【誤】
選択肢アの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
⑧【誤】
選択肢ア、ウの記述が誤りであるため、この選択肢は不正解です。
問3:正解④
<問題要旨>
江戸時代の儒教、特に朱子学や古学派の思想内容と、それが社会に与えた影響について問う問題です。「適当でないもの」を選ぶ点に注意が必要です。
<選択肢>
①【正】
江戸幕府に官学として受容された朱子学では、宇宙の根本原理である「理」が、人間社会においては身分秩序(上下定分の理)として現れると考えられました。君臣、親子、夫婦といった関係にはそれぞれ定まった秩序があり、それを具体化した礼儀に従うことが求められました。これは、武士を頂点とする幕藩体制を思想的に支える役割を果たしました。したがって、この記述は適当です。
②【正】
朱子学では、天理(理)に従い、私的な欲望を慎むこと(存天理、去人欲)が重視されました。幕府は、この思想を用いて、人々が既存の身分秩序や社会体制を天理とみなし、それぞれの役割を果たすよう求めました。したがって、この記述は適当です。
③【正】
江戸時代の朱子学者の中には、山崎闇斎のように、朱子学の「理」と神道の神観念を結びつけ、垂加神道を唱える者も現れました。彼の思想に含まれる尊王論は、後の幕末の尊王攘夷運動に影響を与えました。したがって、この記述は適当です。
④【誤】
「誠」を重視し、人倫世界の充実を主張したのは、古学派の伊藤仁斎です。しかし、伊藤仁斎は朱子学を批判した思想家であり、朱子学の「理」の考え方に依拠したわけではありません。彼は『論語』や『孟子』に直接立ち返ることを主張しました。したがって、この記述は適当でなく、これが正解となります。
問4:正解②
<問題要旨>
吉野源三郎の文章を読み解き、その内容を最も的確に説明している選択肢を選ぶ問題です。戦争体験を通じて筆者が何を訴えようとしているのか、その核心を捉える読解力が求められます。
<選択肢>
①【誤】
資料文は、戦争が国民同士の連帯を断ち切ったという国内の問題を主題としており、「他国との信頼関係」や「外交努力」については直接言及していません。
②【正】
資料文では、「戦争は、一億一心の協力を要求しながら、逆に国民どうしの人間らしい連帯をズタズタに断ち切ってしま」ったと述べられています。そして、その精神的な崩壊の中で、理由や証明を超えた「決意による選択」として「人間を信頼するか、愛するか」という問題が突きつけられていると結論づけています。したがって、この記述は資料の内容を最も的確に要約しており、正解です。
③【誤】
資料文は、戦争によって人々の信頼関係が「ズタズタに断ち切ってしま」われたと述べており、「決して揺らぐことはない」という記述とは正反対です。
④【誤】
資料文の最後で、人間を信頼するかどうかは「理由や証明にもとづいての帰結ではなくて、私の決意による選択の問題」であると述べられています。「検証した上で…態度を決定する」という記述は、この筆者の主張と矛盾します。
第3問
問1:正解②
<問題要旨>
宗教改革が近代社会、特に経済倫理や職業観に与えた影響についての理解を問う問題です。ルターやカルヴァンの思想、そしてそれを分析したウェーバーの理論に関する知識が試されます。
<選択肢>
①【正】
ア:マックス=ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で論じたのは、カルヴァン主義(特にピューリタニズム)の禁欲的な職業倫理が資本主義の精神を生み出したという説です。対抗宗教改革の中で創設されたイエズス会と結びつける記述は誤りです。
イ:カルヴァンは、世俗内での職業労働を神から与えられた召命(天職)とみなし、それによって得た富を蓄財することを肯定しました。この思想は、当時台頭しつつあった商工業者(市民階級)に広く受け入れられ、特にイギリスではピューリタニズム(清教徒主義)として展開しました。したがって、この記述は正しいです。
ウ:「職業召命観」は、ルターが提唱し、カルヴァンがさらに発展させた考え方です。これは、聖職者だけでなく全ての世俗的な職業が神から与えられた使命であると捉えるものです。しかし、「様々な領域で自身の能力を全面的に発揮する『職業人』」という理想は、ルネサンス期の「万能人」の理想に近いもので、宗教改革の職業観とはニュアンスが異なります。宗教改革の職業観は、むしろ禁欲的に職務に励むことを求めます。設問の文脈では、イの記述がより直接的で正確です。イとウを比較すると、イが明確に正しく、ウはやや曖昧さを含みます。しかし、消去法と組み合わせを考えると、イが正しいことは確実です。解答を確認すると正解は②(イのみ)であるため、ウは誤りと判断されます。
上記の分析から、正しい記述はイのみであるため、②が正解です。
②【正】
解説①の通り、イのみが正しい記述です。
③【誤】
解説①の通り、ウの記述は不正確です。
④【誤】
解説①の通り、アは誤りです。
⑤【誤】
解説①の通り、アは誤り、ウは不正確です。
⑥【誤】
解説①の通り、ウは不正確です。
問2:正解①
<問題要旨>
カントの美に関する判断(趣味判断)についての思想を、資料文を基に理解する問題です。カントの道徳哲学と美学の区別、そして「共通感覚」の概念を正確に読み取れるかが問われます。
<選択肢>
①【正】
カントは、認識が主観の形式によって構成されると考え、人間の理性が認識できる範囲とその限界を問い質す「批判哲学」を提唱しました。資料文では、美の判断において「他者が行う可能性のある判断と照合」し、「他のあらゆる人の立場に身を置かなければならない」と述べています。これは、自分の特殊な制約を取り払い、普遍的な視点から判断することを求めていることを示します。したがって、この選択肢は資料文とカントの思想背景を正しく結びつけており、適当です。
②【誤】
カントがヒュームによって「独断のまどろみ」から目覚めたと語ったのは事実ですが、資料文の趣旨は、自己の視点を乗り越えて普遍的な立場に立つことを求めるものであり、ルソーとの直接的な関連は薄いです。①の方がより正確に資料内容を説明しています。
③【誤】
カントは認識が感性と悟性の協働によって成立するとしましたが、資料文は美の判断について述べています。そして、資料文は「他者の実際の判断と照合するというよりも、むしろ」と述べており、「他者が行った判断と照合すべきだ」という記述とは逆の趣旨です。
④【誤】
カントは「コペルニクス的転回」によって、対象が認識に従うと主張しましたが、これは認識論の話です。美の判断においては、資料文が示すように、個人の特殊性を超えた普遍的な妥当性を要求しており、「独自の美の基準を持つべきだ」という相対主義的な考え方とは異なります。
問3:正解⑤
<問題要旨>
ルソーの『人間不平等起源論』に関する思想を、会話文の空欄を補充する形で問う問題です。ルソーが考えた自然状態、不平等の起源、そして彼の思想におけるキーワードの正確な理解が求められます。
<選択肢>
①【誤】
a:資料文は、他者からの評判や尊敬が価値を持つようになり、そこから不平等が生まれたと述べています。これは「世間の評判」に当たります。「一般意志」は社会契約によって形成される、共同体の公共の利益を目指す意志であり、文脈に合いません。
②【誤】
a、b、cともに文脈に合いません。
③【誤】
a、cが文脈に合いません。
④【誤】
a、b、cともに文脈に合いません。
⑤【正】
a:資料文の「最も尊敬される者となった」「他人に注目され、自分自身も注目されたい」という記述は、他者からの評価、すなわち「世間の評判」を指します。
b:ルソーは、自然状態の人間が持つ感情として、自己保存のための健全な「自己愛(アムール・ド・ソワ)」と、他者への共感である「憐れみの情」を挙げました。
c:ルソーによれば、社会が形成され「土地の所有」という私有財産制が確立したことが、人間社会における決定的な不平等の起源であるとされます。
したがって、aに「世間の評判」、bに「自己愛」、cに「土地の所有」が入る⑤が正解です。
⑥【誤】
b、cが文脈に合いません。
⑦【誤】
cが文脈に合いません。「共和国の設立」は不平等を是正するための社会契約の結果であり、原因ではありません。
⑧【誤】
b、cが文脈に合いません。
問4:正解④
<問題要旨>
これまでの会話の流れを踏まえ、芸術鑑賞や他者理解における対話の意義について、筆者(F)の考えをまとめる問題です。文章全体の趣旨を理解し、空欄に入る最も適切な記述を選ぶ読解力が試されます。
<選択肢>
①【誤】
筆者は、他者との対話を通じて「多様な見方を身に付ける」ことの重要性を述べています。「相手の考えに惑わされることなく自分の意見を語る」という姿勢は、対話による相互理解を目指す筆者の考えとは異なります。
②【誤】
筆者の目的は、他者を理解し、自己理解を深めることであり、「相手から同意を引き出す」ことが対話の主目的ではありません。
③【誤】
Dは当初「専門家に正しい見方を教えてもらう」という考えでしたが、Fはそれに懐疑的で、専門家自身も探求を続けていると考えています。「専門家の語った言葉を模範として」という部分は、Fの考えとは異なり、むしろDの当初の考えに近いものです。
④【正】
Fはノートの中で、人によって言葉の使い方が違うことを認めつつ、対話の重要性を再確認しています。これは、対話を通じて「お互いの言葉の使い方を確かめながら、感じ方が違う部分と、共通している部分とを見付けていく」ことで、相互理解と自己理解が深まるという考えに合致します。これがFの結論であり、最も適当な選択肢です。
第4問
問1:正解④
<問題要旨>
青年期の発達課題や認知発達に関する心理学の理論について、提唱者と内容を正しく結びつける問題です。ハヴィガーストとピアジェの理論に関する基本的な知識が問われます。
<選択肢>
①【誤】
アはハヴィガースト、イはピアジェの説明です。
②【誤】
アはハヴィガーストの説明です。クーリーは「鏡に映った自己」の概念で知られます。
③【誤】
イはピアジェの説明です。
④【正】
ア:青年期における「発達課題」として、同年代の男女との洗練された関係、社会的役割の達成、職業選択の準備などを挙げたのは、ハヴィガーストです。
イ:自己中心的な視点から脱し、他者の視点や複数の視点から物事を捉えられるようになる認知発達の過程を「脱中心化」と呼んだのは、ピアジェです。
したがって、アがハヴィガースト、イがピアジェの組み合わせである④が正解です。
⑤【誤】
アはハヴィガーストの説明です。
⑥【誤】
アはハヴィガースト、イはピアジェの説明です。
問2:正解①
<問題要旨>
ハイデガーの思想に関する説明として、最も適当なものを選ぶ問題です。彼の哲学における主要な概念(世界内存在、ダス・マン、存在忘却など)を正確に理解しているかが問われます。
<選択肢>
①【正】
ハイデガーは、前期の主著『存在と時間』で、現存在(人間)の分析を通じて「存在の意味」を問いました。後期思想では、近代技術がすべてのものを計算・操作可能な対象(道具)とみなしてしまうあり方を「存在忘却」として批判しました。したがって、この記述はハイデガーの思想を正しく説明しています。
②【誤】
「人間は自己の本質を自由につくりあげ」「社会の創造に関わらざるを得ない(アンガージュマン)」と説いたのは、実存主義者のサルトルです。
③【誤】
ハイデガーは、人間が死から目をそらし、世間の平均的なあり方に埋没している非本来的な生き方を「世人(ダス・マン)」と呼びました。「死への存在」を自覚し、本来的な自己へと向かうことが重要だと説いたため、記述の内容が矛盾しています。
④【誤】
「故郷の喪失」という言葉は、ハイデガーも使用しますが、この選択肢のような「日常性という基盤を見失った人間のあり方」を直接指すものではありません。①の方が彼の思想の中心をより的確に捉えています。
問3:正解②
<問題要旨>
哲学者J.ラズの後悔に関する資料文の内容を正確に読み解き、その説明として最も適当なものを選ぶ問題です。後悔がなぜ苦しいのか、行為と自己の存在がどのように関わっているのかを捉える読解力が求められます。
<選択肢>
①【誤】
資料文では、「私がしたことや私にできなかったことは、私が誰であるのかを露わにする。そして、…私をその誰かにするのである」と述べられており、行為によって「私がどのような人物であるかに変化がもたらされる」ことを肯定しています。したがって、この選択肢は誤りです。
②【正】
資料文は、「行為の成否というものは、人のコントロールを超えた要素に左右される」と認めつつも、「私にできなかったことは、私が誰であるのかを露わにする」と述べています。つまり、コントロールできない要素によって行為が失敗した場合でも、そのことは「自分がどのような存在であるか」を規定し、その結果「望まない存在」になってしまう可能性があるため、後悔が生じる、と論じています。したがって、この記述は資料の内容を正しく説明しています。
③【誤】
資料文は、「まさにこの私が望ましからぬ人物であるからこそ、後悔は苦しいものになる」と述べており、行為の結果、自分が望まない存在になることで後悔が生じることを明確に示しています。「後悔することはない」という記述は誤りです。
④【誤】
資料文は、後悔が苦しいのは「この私が望ましからぬ人物であるから」だと述べており、個人的な問題であることを強調しています。「個人的な問題について後悔するわけではない」という記述は、資料の内容と正反対です。
問4:正解③
<問題要旨>
これまでの会話と資料を踏まえ、「後悔」が持つ積極的な意味についてGがどのように考えているかを、空欄を補充する形で問う問題です。会話全体の文脈からGの主張の核心を読み取ることが求められます。
<選択肢>
①【誤】
Gは、後悔が「世界に働きかける自己であることを自分で否定しないあり方」だと述べており、それは苦悩を受け止めることです。「苦悩から逃れる試み」という記述は、Gの主張とは逆です。
②【誤】
「自分を成長させる」という側面も後悔にはあるかもしれませんが、Gの議論の核心は、後悔が「世界と切り離さずに自己を捉えようとしている証拠」であるという点にあります。この選択肢は、Gの主張のより深い部分を捉えきれていません。
③【正】
Gは、後悔とは、自分ではどうしようもない悲劇に直面したときでさえ、「世界に働きかける自己であることを自分で否定」せず、その出来事を「私の存在と切り離さずに」受け止めることだと主張しています。それは、世界の中で主体的に自己のあり方を引き受け続けようとする試みであると言えます。したがって、この記述はGの主張の核心を最も的確に表現しています。
④【誤】
Gは、後悔が「世界と切り離さずに自己を捉えようとしている証拠」だと述べています。「現実の世界から自分を独立させる試み」という記述は、Gの主張と正反対です。
第5問
問1:正解③
<問題要旨>
マックス・ヴェーバーの国家論に関する資料を読み、その内容を正しく理解しているか問う問題です。近代国家が持つ「物理的暴力行使の独占」という特徴を正確に読み取れるかがポイントです。
<選択肢>
①【誤】
資料文では、過去において「氏族を始めとする多種多様な団体が、物理的暴力をまったくノーマルな手段として認めていた」とあり、「暴力行使は国家に特有の手段」ではありませんでした。したがって、この記述は誤りです。
②【誤】
資料文では、過去において国家以外の多様な団体も暴力行使を認めていたと述べられています。「いかなる団体にも認められたことがない」という記述は誤りです。
③【正】
資料文の結論部分で、「国家とは、ある一定の領域の内部で…正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体」であり、「国家が暴力行使への『権利』の唯一の源泉とみなされている」と述べられています。したがって、この記述は資料の内容を正しく反映しており、正解です。
④【誤】
「国家の許容した範囲内でしか」暴力行使が認められないのは、「今日」(現代)の特徴であると資料文は述べています。過去においてはそうではなかったため、この記述は誤りです。
問2:正解④
<問題要旨>
日本の社会保険制度である雇用保険と労災保険について、その保険料の負担者が誰であるか、またその理由についての理解を問う問題です。それぞれの制度の趣旨の違いを把握しているかがポイントです。
<選択肢>
①【誤】
アが誤りです。雇用保険の財源には国庫負担(政府の負担)も含まれます。
②【誤】
ア、イともに誤りです。
③【誤】
イが誤りです。労災保険の保険料は全額事業主負担です。
④【正】
ア:雇用保険の失業等給付の財源は、労働者と事業主が折半で負担する保険料と、国庫(政府)の負担によって賄われています。その理由として、失業は個々の労使関係だけでなく、政府の経済政策など社会的な要因も関係するため、三者で負担するという考え方(b)が妥当です。
イ:労災保険は、業務上の事由による労働者の負傷や疾病などに対して給付を行う制度です。労働災害の責任は、労働者を雇用し、その活動から利益を得ている事業主にあるという考え方(使用者責任)に基づき、保険料は全額事業主が負担します(d)。
したがって、アにb、イにdが入る④が正解です。
問3:正解⑤
<問題要旨>
日本国憲法が定める「信教の自由」と「政教分離原則」について、憲法条文の正確な理解を問う問題です。
<選択肢>
①【誤】
アとウが正しい記述であるため、アのみを正解とするこの選択肢は不正解です。
②【誤】
イは誤った記述です。
③【誤】
アも正しい記述であるため、ウのみを正解とするこの選択肢は不正解です。
④【誤】
イは誤った記述です。
⑤【正】
ア:日本国憲法第20条1項は「信教の自由」を保障しています 。この自由には、内心で何を信じるかというだけでなく、宗教団体を設立・運営する「宗教的結社の自由」も含まれると解釈されています 。したがって、この記述は正しいです。
ウ:日本国憲法第20条3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と明確に定めています 。したがって、この記述は条文の内容に即しており、正しいです。
正しい記述はアとウの組み合わせであるため、この選択肢が正解となります。
⑥【誤】
イは誤った記述です。
⑦【誤】
イは誤った記述です。
問4:正解④
<問題要旨>
消費者団体訴訟制度に関するメモを読み、その内容から読み取れることとして最も適当なものを選ぶ問題です。文章の趣旨を正確に把握する読解力が求められます。
<選択肢>
①【誤】
メモの「2. 改正の背景」には、「行政規制だけでは、被害の未然防止や拡大防止が十分にできなかった」とあり、行政規制の「限界」や「不十分さ」が問題であったと読み取れます。「過剰」であったとは書かれていません。
②【誤】
消費者団体訴訟制度は、事業者の不当な行為を差し止めるためのものであり、これは消費者保護を強化する「規制強化」の一環です。「規制緩和」ではありません。
③【誤】
メモの「1. 改正の内容」には、「従来の行政による規制(行政規制)に加え」て消費者団体訴訟制度を導入すると書かれています。行政規制がなくなるわけではなく、適格消費者団体「のみ」が行うことになったわけではありません。
④【正】
メモの「3. 消費者団体訴訟制度を導入するねらい」に、「行政機関の人員や予算などの資源(行政資源)を、より迅速な対応が求められる重大な消費者被害に集中させることが可能になるという副次的効果も期待できる」と明記されています。したがって、この記述はメモから読み取れる内容として正しく、これが正解です。
問5:正解②
<問題要旨>
株式会社などの会社形態における出資者の責任や、企業の社会的責任(CSR)に関する知識を問う問題です。会社法の基本的な概念を理解しているかが試されます。
<選択肢>
①【誤】
ウが誤りです。株主代表訴訟は、株主が会社に代わって取締役などの役員の責任を追及する訴訟であり、株主自身の責任を追及するものではありません。
②【正】
ア:株式会社の株主は、自身が出資した株式の価額の範囲内でのみ責任を負い、会社の債務についてそれ以上の責任を負うことはありません。これを「有限責任」といいます。したがって、a「出資額をこえた責任は負わない」が正解です。
イ:持分会社のうち、「合同会社」の社員(出資者)も、株式会社の株主と同様に有限責任です。一方、「合名会社」の社員は会社の債務に無限に責任を負う無限責任です。会話の流れから、株式会社と同じ有限責任の例を挙げていると考えられるため、c「合同会社」が適切です。
ウ:株主が有限責任であることから、短期的な利益を優先し、環境破壊や人権侵害など社会的に望ましくない活動を会社が行う可能性があります。そうした事態を避けるためには、会社が株主だけでなく、従業員、取引先、地域社会といった幅広い利害関係者(ステークホルダー)の利益を考慮し、社会的責任(CSR)を果たすことが有効です。したがって、fが適切です。
以上の組み合わせから、②が正解です。
③【誤】
イ、ウが誤りです。
④【誤】
イが誤りです。
⑤【誤】
ア、ウが誤りです。
⑥【誤】
ア、イ、ウすべてが誤りです。
⑦【誤】
ア、イが誤りです。
⑧【誤】
アが誤りです。
問6:正解④
<問題要旨>
日本の臓器移植法の改正前後の内容を比較し、メモから読み取れる内容として正しい記述をすべて選ぶ問題です。本人と家族の意思がそれぞれどのように扱われるかを正確に読み解く必要があります。
<選択肢>
①【正】
ア:改正前後を通じて、臓器を提供しないという本人の意思表示がある場合は、臓器摘出はできません。改正後の制度でも、「臓器を提供しない意思を表示していない15歳未満の者については、家族が…承諾することにより…摘出できる」とあり、裏を返せば、提供しない意思表示があれば家族は承諾できないと解釈できます。したがって、臓器を提供しないという本人の自己決定は、家族の意思にかかわらず尊重される仕組みになっています。この記述は正しいです。
イ:改正後の制度では、「本人の臓器提供の意思は不明であるが家族が書面で臓器提供を承諾するとき」に臓器摘出が可能です。また、「臓器を提供しない意思を表示していない15歳未満の者については、家族が書面で臓器提供を承諾することにより…摘出できる」とあります。そしてアで見たように、提供しない意思表示があれば摘出はできません。したがって、この記述は正しいです。
ウ:改正前後を通じて、本人が提供の意思を表示していても、「家族が拒まないとき」という条件が付いています。つまり、家族が反対した場合には臓器摘出はできません。したがって、「家族が反対していても医師は臓器を摘出でき」るわけではなく、この記述は誤りです。
正しいものはアとイであるため、④が正解です。
②【誤】
アも正しい記述です。
③【誤】
ウは誤った記述です。
④【正】
ア、イともに正しい記述です。
⑤【誤】
ウは誤った記述です。
⑥【誤】
ウは誤った記述です。
⑦【誤】
ウは誤った記述です。
第6問
問1:正解②
<問題要旨>
国内総生産(GDP)の計算方法、特に「付加価値」の概念を理解しているかを問う問題です。各生産段階で新たに生み出された価値を計算し、合計することでGDPを求めます。
<選択肢>
①【誤】
オのGDPの計算が誤っています。
②【正】
・付加価値は「生産総額 - 中間投入物の額」で計算されます。
・製パン会社にとっての中間投入物は、製粉会社から購入した小麦粉であり、その額は150万円です。
・したがって、製パン会社が生み出した付加価値額(エ)は、生産総額400万円から中間投入物の額150万円を引いた、250万円となります。
・この国のGDPは、各生産段階で生み出された付加価値の合計額です。
- 農家の付加価値:50万円 – 0円 = 50万円
- 製粉会社の付加価値:150万円 – 50万円 = 100万円
- 製パン会社の付加価値:400万円 – 150万円 = 250万円
・GDP(オ)= 50万円 + 100万円 + 250万円 = 400万円
・(別解)GDPは、最終生産物(この場合は消費者に販売されたパン)の総額とも等しくなります。パンの販売額は400万円なので、GDPも400万円です。
したがって、エが250、オが400となる②が正解です。
③【誤】
オのGDPの計算が誤っています。
④【誤】
エの付加価値の計算が誤っています。
⑤【誤】
エの付加価値の計算が誤っています。
⑥【誤】
エの付加価値の計算が誤っています。
問2:正解⑥
<問題要旨>
国民所得(NI)や国民総所得(GNI)といった経済指標の定義と、生産・分配・支出の三面が等しくなる「三面等価の原則」についての理解を問う問題です。
<選択肢>
①【誤】
ア、ウが誤りです。
②【誤】
アが誤りです。
③【誤】
ウが誤りです。
④【誤】
ア、ウが誤りです。
⑤【誤】
ウが誤りです。
⑥【正】
ア:GDPに「海外からの純所得」を加え、「固定資本減耗」を除き、さらに「間接税を差し引き、補助金を加えた額」は、国民所得(NI)の定義です。したがって、アにはbのNI(国民所得)が入ります。
イ:国民所得は、生産面(生産された付加価値の合計)、分配面(生産活動で得た所得の分配)、支出面(生産されたものが何に使われたか)の3つの側面から捉えることができます。会話では分配された所得が何に「充てられたか」と問うているので、これは支出面の話になります。したがって、イにはcの支出が入ります。
ウ:生産、分配、支出の3つの側面から計算した国民所得は、事後的に必ず等しくなります。これを三面等価の原則といいます。したがって、ウにはfの「どの面からみた総額もすべて等しい」が入ります。
以上の組み合わせから、⑥が正解です。
⑦【誤】
イが誤りです。
⑧【誤】
イ、ウが誤りです。
問3:正解④
<問題要旨>
市場メカニズムが効率的な資源配分に失敗する「市場の失敗」の具体例として、正しいものをすべて選ぶ問題です。市場の失敗の典型的なパターン(独占・寡占、外部不経済、情報の非対称性など)を理解しているかが問われます。
<選択肢>
①【正】
ア:市場で特定の企業の支配が進む(独占・寡占)と、その企業は価格を自由に設定できる力(価格支配力)を持ち、生産量を減らして価格を吊り上げるなど、効率的な資源配分が妨げられます。これは市場の失敗の典型例です。したがって、この記述は正しいです。
イ:ある経済活動が、市場を通さずに第三者に不利益(公害など)を与えることを「外部不経済」と呼びます。企業は公害対策のコストを価格に反映させないため、社会的に最適な量以上の生産を行ってしまい、資源配分が歪められます。これも市場の失敗の典型例です。したがって、この記述は正しいです。
ウ:売り手と買い手の持つ情報に格差がある状態を「情報の非対称性」と呼び、これも市場の失敗の一因です(例:中古車市場のレモンの問題)。選択肢のように、売り手と買い手が「情報をすべてもっている」状態は、むしろ市場がうまく機能するための理想的な前提条件であり、市場の失敗の例ではありません。したがって、この記述は誤りです。
正しいものはアとイであるため、④が正解です。
②【誤】
アも正しい記述です。
③【誤】
ウは誤った記述です。
④【正】
ア、イともに正しい記述です。
⑤【誤】
ウは誤った記述です。
⑥【誤】
ウは誤った記述です。
⑦【誤】
ウは誤った記述です。
問4:正解③
<問題要旨>
2つの企業が排出する汚染物質の総量を、規制導入以前より確実に減少させるための規制内容を選ぶ問題です。与えられた数値と仮定に基づき、論理的に計算・判断する能力が求められます。
<問題要旨>
・規制前の汚染物質総量
- 企業A:100トン × 1% = 1トン
- 企業B:500トン × 2% = 10トン
- 合計:1トン + 10トン = 11トン
・この11トンよりも、規制後の汚染物質総量が「いかなる場合においても」「確実に」減少する選択肢を選びます。
<選択肢>
①【誤】
濃度のみを制限しています。仮に企業Aが20,000トンの汚染水(濃度0.1%)を排出した場合、汚染物質は20トンとなり、規制前より増加します。排出量に制限がないため、確実に減少するとは言えません。
②【誤】
排出量のみを制限しています。仮に企業Aが50トンの汚染水(濃度30%)を排出した場合、汚染物質は15トンとなり、規制前より増加します。濃度に制限がないため、確実に減少するとは言えません。
③【正】
濃度と排出量の両方に上限を設けています。この規制下で、両社が最大限に汚染物質を排出した場合を考えます。
- 企業Aの最大汚染物質量:120トン × 1.5% = 1.8トン
- 企業Bの最大汚染物質量:600トン × 1.5% = 9.0トン
- 最大合計量:1.8トン + 9.0トン = 10.8トン
この最大値(10.8トン)が、規制前の総量(11トン)よりも少なくなっています。したがって、この規制を導入すれば、いかなる場合でも汚染物質の総量は規制前より確実に減少します。これが正解です。
④【誤】
濃度と排出量の両方に上限を設けていますが、その上限値を計算します。
- 企業Aの最大汚染物質量:300トン × 1% = 3トン
- 企業Bの最大汚染物質量:400トン × 2% = 8トン
- 最大合計量:3トン + 8トン = 11トン
この最大値は規制前の総量と等しく、例えば両社が上限いっぱいで排出した場合、汚染物質は減少しません。したがって、確実に減少するとは言えません。
問5:正解⑥
<問題要旨>
比較優位の理論に関する問題です。技術革新によって生産性が変化した結果、どちらの国が自動車生産に比較優位を持つかが逆転するような、空欄アの数値を特定します。
<問題要旨>
・比較優位は、他方の財で測った機会費用が小さい方にあると判断します。
・自動車1単位生産の機会費用 = (自動車1単位に必要な労働力) / (オレンジ1単位に必要な労働力)
<思考プロセス>
技術革新以前の比較優位
・A国の機会費用:20人 / 5人 = オレンジ4単位
・B国の機会費用:10人 / 4人 = オレンジ2.5単位
・機会費用が小さいのはB国(2.5 < 4)なので、革新前はB国が自動車生産に比較優位を持ちます。
比較優位が逆転する条件
・革新後にA国が自動車生産に比較優位を持つためには、「A国の機会費用 < B国の機会費用」となる必要があります。
・A国の機会費用 = ア / 5
・B国の機会費用 = 2.5 (変わらない)
・よって、「ア / 5 < 2.5」という不等式が成り立てばよいことになります。
不等式を解く
・ア / 5 < 2.5
・ア < 2.5 × 5
・ア < 12.5
選択肢の検討
・不等式「ア < 12.5」を満たす数値を、選択肢a, b, cから選びます。
・a (15):15 < 12.5 ではないので、不適。
・b (10):10 < 12.5 なので、適する。
・c (5):5 < 12.5 なので、適する。
したがって、当てはまる数値はbとcであり、その組み合わせである⑥が正解です。
問6:正解②
<問題要旨>
代替財である安価な冷凍野菜の輸入が解禁された場合に、国内の生鮮野菜の需要曲線がどのように変化するかを問う問題です。代替財の出現が市場に与える影響を理解しているかがポイントです。
<問題要旨>
・生鮮野菜と冷凍野菜は、互いの代わりになる「代替財」の関係にあります。
・安価な代替財(冷凍野菜)が市場に登場すると、消費者はこれまで購入していた財(生鮮野菜)の購入を減らし、代替財へと需要をシフトさせます。
・これにより、生鮮野菜市場では、あらゆる価格水準において需要量が減少します。
・グラフ上では、需要曲線全体が左側(または左下)にシフトすることで表現されます。
<選択肢>
①【誤】
需要曲線は左にシフトしていますが、②のほうがより問題文の条件を反映しています。
②【正】
この図では、需要曲線が左下にシフトしており、生鮮野菜への需要が減少したことを示しています。特に、問題文の「生鮮野菜の価格が高いほど、生鮮野菜より冷凍野菜を好んで購入する傾向にある」という条件を考えると、価格が高い領域ほど需要の減少幅が大きく(グラフの横方向のシフト幅が大きく)なると考えられます。この図は、価格が高いほどシフト幅が大きい形になっており、最も適当な変化を表しています。
③【誤】
需要曲線が右側にシフトしています。これは需要が増加したことを意味するため、誤りです。
④【誤】
需要曲線が右上にシフトしています。これも需要の増加を意味するため、誤りです。
第7問
問1:正解⑥
<問題要旨>
国際社会を自然状態と捉える議論に関連して、ロック、ホッブズ、グロティウスの思想を示した文章を、それぞれの著者と正しく結びつける問題です。各思想家の自然状態観や国際法観の特徴を理解しているかが問われます。
<選択肢>
①【誤】
アはロック、イはホッブズ、ウはグロティウスです。
②【誤】
アはロック、イはホッブズ、ウはグロティウスです。
③【誤】
アはロック、イはホッブズ、ウはグロティウスです。
④【誤】
アはロック、イはホッブズ、ウはグロティウスです。
⑤【誤】
アはロック、イはホッブズ、ウはグロティウスです。
⑥【正】
ア:「自然状態はそれを支配する自然法をもち」「何人も他人の生命、健康、自由、あるいは所有物を侵害すべきではない」という記述は、自然状態を比較的平和で理性的(自然法が存在する)な状態と捉えたロックの思想です。
イ:「共通の権力なしに、生活しているときには」「なんの保証もなしに生きている」という記述は、自然状態を「万人の万人に対する闘争」という極度の混乱状態と捉えたホッブズの思想です。
ウ:「戦争を行うについて、かつまた戦争に関して有効なる共通法が存在する」という記述は、国家間の関係(戦争時でさえ)を規律する法(自然法に基づく国際法)の存在を主張し、「国際法の父」と呼ばれるグロティウスの思想です。
したがって、アがc(ロック)、イがb(ホッブズ)、ウがa(グロティウス)となる⑥が正解です。
問2:正解⑤
<問題要旨>
アジア3か国(インド、インドネシア、中国)の人口ピラミッドを見て、将来(2050年)の人口動態を予測し、関連する用語を正しく選択する問題です。人口ピラミッドの形状から少子高齢化の進行度を読み取る能力が求められます。
<選択肢>
①【誤】
アが異なります。インドは若年層が厚い「富士山型」であり、今後生産年齢人口の割合が増加する「人口ボーナス」期が続くと予測されます。
②【誤】
アとイが異なります。
③【誤】
アが異なります。インドネシアも比較的若年層が多い「ピラミッド型」です。
④【誤】
アとイが異なります。
⑤【正】
ア:3つの図を比較すると、中国の人口ピラミッドは、過去の一人っ子政策の影響で若年層が少なく、40~50代の層が厚くなっています。この厚い層が今後高齢者となり、少ない若年層が生産年齢人口となるため、3か国の中で最も急速に高齢化が進み、生産年齢人口の割合が落ち込むと予測されます。したがって、アには中国が入ります。
イ:総人口に占める生産年齢人口の割合が低下し、高齢者や子供を支える負担が重くなる状態を「人口オーナス」と呼びます。(オーナスは「重荷、負担」の意味)。したがって、イには人口オーナスが入ります。
以上の組み合わせから、⑤が正解です。
⑥【誤】
イが異なります。人口ボーナスは、生産年齢人口の割合が高い状態を指します。
問3:正解③
<問題要旨>
アジアにおける開発援助(ODA)やインフラ開発に関する記述として、最も適当なものを選ぶ問題です。近年の国際関係や国際経済に関する知識が問われます。
<選択肢>
①【誤】
中国が提唱する「一帯一路」構想は、陸路の「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、海路の「21世紀海上シルクロード(一路)」からなり、陸路のみならず海路も含む広域経済圏構想です。
②【誤】
中国が主導して設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、イギリス、フランス、ドイツといったアジア以外の国々も参加しています。参加はアジア諸国に限定されていません。
③【正】
ODAによる食料や医薬品などの無償援助(見返りのない援助)は、国際収支統計において「第二次所得収支」に計上されます。第二次所得収支は、居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供(寄付、贈与、国際協力など)を記録する項目です。したがって、この記述は正しいです。
④【誤】
日本のODAの基本方針を定めた「開発協力大綱」では、非軍事による平和国家としての歩みを堅持しつつも、「国益の確保に貢献する」ことを目的の一つとして掲げています。「国益を考慮せずに行う」という記述は誤りです。
問4:正解⑦
<問題要旨>
宇宙条約の条文を読み、その規定に違反する行為を具体例の中からすべて選ぶ問題です。条文の規定を正しく解釈し、具体例に適用する読解力と判断力が求められます。
<選択肢>
①【誤】
イ、ウも違反となります。
②【誤】
ア、ウも違反となります。
③【誤】
ア、イも違反となります。
④【誤】
ウも違反となります。
⑤【誤】
イも違反となります。
⑥【誤】
アも違反となります。
⑦【正】
ア:第4条は、「核兵器…を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと」を明確に禁止しています。したがって、核兵器を搭載した人工衛星を軌道に乗せる行為は条約違反です。
イ:第2条は、「月その他の天体を含む宇宙空間は、…国家による取得の対象とはならない」と定めています。月面の一部を領土と主張し占拠する行為は、この条項に明確に違反します。
ウ:第6条は、非政府団体(企業など)の活動についても、当事国が国際的責任を負うと定めています。また、第7条は、打ち上げた物体が与えた損害について、発射国が国際的責任を負うと定めています。したがって、自国の企業の行為であっても国は責任を免れず、「責任はない」と主張することは条約違反となります。
以上より、ア、イ、ウのすべての行為が宇宙条約違反となるため、⑦が正解です。