2026年度 大学入学共通テスト 本試験「生物」の解答と解説です。全設問の正解と考え方を一問ずつ解説し、公式の解答PDFもあわせて掲載しています。大学受験の森が独自に作成した、無料で読める解説です。
解答
解説
2026年度(令和8年度)大学入学共通テスト「生物」は、試験時間60分・満点100点です。第1問から第5問までの5大問すべてが必答で、各大問の配点は20点、解答番号は1から25まで、設問は全24項目です。第2問 問2だけが「二つ選べ」で解答番号2つ分(配点6)を占め、それ以外は解答番号1つにつき設問1つが対応します。
扱われた分野は、第1問が人類進化と集団遺伝、第2問が細胞骨格とモータータンパク質、第3問がショウジョウバエの前後軸形成、第4問が植物と動物の環境応答、第5問がマングローブの生態と窒素獲得です。各大問の冒頭に知識を問う小問が1問ずつ置かれ、残りはすべて図・表の読み取りか実験考察という構成で、暗記だけで取れる配点は各大問3点から4点にとどまります。
つまずきやすいのは、第1問 問4(表2の人数を、組換えが起こる区間ごとに組み合わせ直す)、第3問 問1(幼虫の表現型が母親の遺伝子型で決まる母性効果)、第3問 問3(遺伝子Kが転写されるタンパク質Hの濃度の範囲を、野生型と変異体Ⅰ〜Ⅲから自分で決める)の3問です。いずれも答えの手がかりが設問文ではなく図と表の側にあり、条件を自分で組み立てる必要があります。
なお、この試験時間には問題冊子とともに問題訂正が示されています。第3問 問1 の上から3行目が「…変異体(以下,変異体X)では,幼虫は,…」と訂正されました。
第1問(必答) 人類進化と集団遺伝(ネアンデルタール人由来の遺伝子・遺伝子頻度・組換え)
現生のヒトとネアンデルタール人の交雑、そして痛みの受容体をつくる遺伝子Sを題材に、人類の進化、遺伝的浮動、ハーディ・ワインベルグの法則、制限酵素断片の電気泳動、SNP間の組換え頻度までを1本の文章で串刺しにした大問です。配点20点で問1から問4の5項目、各4点です。
問1:正解 ②(解答番号1/配点4)
<問題要旨>
下線部(a)「現生のヒトの直接の祖先はアフリカ大陸で誕生した」に関連して、人類の進化についての記述4つから最も適当なものを選ぶ設問です。図・表はありません。
<考え方>
類人猿とヒトの系統関係、直立二足歩行が始まった時期、脳容積の変化という3点に戻れば、誤りの選択肢はすべて落ちます。ゴリラ・チンパンジー・ヒトは共通祖先から枝分かれした別系統であり、直立二足歩行はホモ属より前の猿人の段階で始まっていて、脳容積はホモ属の進化の過程で大きくなりました。
① 誤 ゴリラ・チンパンジー・ヒトは共通祖先から枝分かれした別系統で、一直線に進化した関係ではない ② 正 ホモ・エレクトスはネアンデルタール人より前に出現し、ユーラシア大陸へ進出している(ジャワ原人・北京原人) ③ 誤 直立二足歩行はホモ属の誕生より前、猿人(アウストラロピテクスなど)の段階で始まっている ④ 誤 ホモ属の進化の過程で脳容積は増大している よって ②
③は「直立二足歩行」と「石器の使用」を混同すると選びたくなります。ホモ属の誕生とともに始まったとされるのは脳容積の増大や道具の使用で、直立二足歩行はそれより古い形質です。
問2(1):正解 ④(解答番号2/配点4)
<問題要旨>
中立な対立遺伝子の頻度変化を100世代分、5回ずつシミュレーションした結果が図1のグラフⅠ・Ⅱとして与えられています。どちらが大きい集団の結果か(ア)と、集団が大きいときの遺伝的浮動の影響(イ)の組合せを選ぶ設問です。初期頻度はいずれも0.5、遺伝子座の数は1、対立遺伝子の数は2で、新規の突然変異や集団間の交流はありません。
<考え方>
遺伝的浮動は偶然による遺伝子頻度のずれで、集団が小さいほど1世代あたりのずれが大きくなり、頻度1(固定)または0(消失)に早く到達します。この性質をグラフの縦軸の値で確かめます。
グラフⅠ 5本の線のうち2本が15世代付近で頻度1に達し、残りも20世代・40世代付近で0に落ちる → 1世代あたりの変動が大きく、早く固定または消失する = 小さい集団 グラフⅡ 5本の線が100世代を通じて0.5前後(およそ0.25〜0.8)で振動し続け、1にも0にも達しない → 1世代あたりの変動が小さい = 大きい集団 ア = Ⅱ 集団が大きいほど偶然によるずれは相対的に小さくなる イ = 小さく よって ④
「線が激しく動いているほうが大きい集団」と取り違えないこと。線が上下に振れる幅そのものが浮動の大きさなので、幅が広いⅠが小さい集団です。
問2(2):正解 ④(解答番号3/配点4)
<問題要旨>
ハーディ・ワインベルグの法則が成り立つ集団で、潜性の対立遺伝子により1万人に1人の割合で発症する遺伝病を仮定し、その対立遺伝子を持ち発症しない人(保因者)が1万人当たり約何人いるかを求める設問です。遺伝子座の数は1、対立遺伝子の数は2とします。
<考え方>
潜性ホモ接合体の頻度が q²、ヘテロ接合体の頻度が 2pq になることに戻ります。発症者が潜性ホモ接合体なので、まず q を求めてから 2pq を計算します。
潜性の対立遺伝子の頻度を q、顕性の対立遺伝子の頻度を p とする(p + q = 1) 【発症者(潜性ホモ接合体)の頻度】 q² = 1/10000 = 1.0×10⁻⁴ q = 1.0×10⁻² = 0.01 p = 1 − 0.01 = 0.99 【保因者(ヘテロ接合体)の頻度】 2pq = 2×0.99×0.01 = 0.0198 【1万人当たりの保因者数】 10000×0.0198 = 198 ≒ 200(人) 【検算】発症者は 10000×q² = 10000×1.0×10⁻⁴ = 1人 で条件に合う 保因者数 ÷ 発症者数 = 2pq ÷ q² = 2p ÷ q = 2×0.99 ÷ 0.01 ≒ 198(倍) よって ④
q² と 2pq を取り違えると①(1人)を選んでしまいます。潜性の対立遺伝子がまれなときは「保因者は発症者のおよそ 2 ÷ q 倍」と押さえておくと、桁の見当がすぐつきます。
問3:正解 ③(解答番号4/配点4)
<問題要旨>
遺伝子Sには現生ヒト型とネアンデルタール人型を区別する一塩基多型(SNP)があり、そこを含む1000塩基対のDNA断片(図2)を、現生ヒト型の塩基配列のみを認識する制限酵素Bで切断して電気泳動します。鋳型としたDNAが両型のヘテロ接合体由来だったときに観察されるDNA断片の並びを、図3の5つのレーンから選ぶ設問です。図2では、制限酵素Bの認識部位が断片の一端から400塩基対、残りが600塩基対の位置にあります。
<考え方>
制限酵素は認識配列があるときだけ切断するので、ヘテロ接合体なら「切れる側」と「切れない側」の断片が同時にできることに戻ります。切れる側から2本、切れない側から1本のバンドが出ます。
【現生ヒト型の対立遺伝子から増幅した断片】 制限酵素Bの認識部位で切断される → 400 塩基対 + 600 塩基対 【ネアンデルタール人型の対立遺伝子から増幅した断片】 認識される塩基配列がないので切断されない → 1000 塩基対 ヘテロ接合体では両方が鋳型になるので、観察されるバンドは 1000・600・400 の3本 【図3の各レーン】 ① 1000 のみ → 切れる断片がない。ネアンデルタール人型のホモ接合体 ② 1000 と 600 → 切断でできる 400 が欠けており不成立 ③ 1000 と 600 と 400 → 切れない断片と切れた断片の両方がそろう ④ 600 のみ → 400 も 1000 も欠けており不成立 ⑤ 600 と 400 → 切れない断片がない。現生ヒト型のホモ接合体 よって ③
400 + 600 = 1000 なので、バンドの塩基対数の合計だけでは判定できません。決め手は「切断されずに残る1000塩基対のバンドがあるか」です。⑤は現生ヒト型のホモ接合体の結果になります。
問4:正解 ④(解答番号5/配点4)
<問題要旨>
受容体Nのアミノ酸配列には932番目・991番目・1908番目の3か所に現生ヒト型(M・V・D)とネアンデルタール人型(L・L・G)の違いがあります(表1)。ヨーロッパのある集団約36万人のうち2461人が、これらの違いを様々な組合せで指定する対立遺伝子を現生ヒト型とのヘテロ接合で持っており、組合せごとの人数が表2に与えられています。空欄ウ・エに入るアミノ酸の組合せと、932番目と991番目のアミノ酸の違いに対応するSNP間の組換え頻度(オ)の組合せを選ぶ設問です。
<考え方>
1回の組換えは、2本の相同染色体から「前半と後半を取り替えた2種類」の対立遺伝子を同時につくるという点に戻ります。相反する2種類を1組にして人数を足し、区間ごとに比べれば、どちらの区間で組換えが起こりやすいかが決まります。
ネアンデルタール人型のもとの組合せ L L G 現生ヒト型の組合せ M V D 【932番目と991番目の間で組換えが起きた場合】 932番目だけが現生ヒト型に替わる → M L G 932番目だけがネアンデルタール人型に残る → L V D この区間の組換えでできる2種類は MLG と LVD → ウ = LVD 【991番目と1908番目の間で組換えが起きた場合】 1908番目だけが現生ヒト型に替わる → L L D 1908番目だけがネアンデルタール人型に残る → M V G この区間の組換えでできる2種類は LLD と MVG → エ = LLD 【表2の人数を区間ごとに足して比べる】 932番目−991番目 の間 LVD 30 人 + MLG 0 人 = 30 人 991番目−1908番目 の間 LLD 149 人 + MVG 780 人 = 929 人 30 < 929 → 932番目と991番目に対応するSNP間の組換え頻度は オ = 低い 【検算】アミノ酸の番号の差は 991 − 932 = 59、1908 − 991 = 917 遺伝子上の距離が短い区間のほうが組換えが起こりにくいという結果と矛盾しない よって ④
MLG が 0 人であることに引っかかって手が止まりやすい設問です。「組換えでできる2種類を1組にして足す」という手順を先に決めておけば、0 人もそのまま足せます。なお LVG(22人)と MLD(153人)は、2つの区間の両方で組換えが起きた場合にできる組合せです。
第2問(必答) 細胞骨格とモータータンパク質(筋収縮・軸索輸送・鞭毛の屈曲)
アクチンフィラメントと微小管という2種類の細胞骨格を題材に、筋収縮のしくみ、神経の軸索の中で小胞が遠位・近位の両方向へ運ばれるしくみ、精子の鞭毛が屈曲するしくみを、3つの実験で順に調べていく大問です。配点20点で4項目、うち問2は「二つ選べ」で配点6点です。
問1:正解 ②(解答番号6/配点4)
<問題要旨>
下線部(a)のアクチンフィラメントについての記述4つから最も適当なものを選ぶ設問です。フィラメントの形状、筋収縮でのATPの使われ方、サルコメアの明暗、トロポニンとカルシウムイオンの関係が問われています。
<考え方>
サルコメアの構造と滑り説に戻ります。ATPを分解するのはミオシン頭部であり、明帯が明るいのはミオシンフィラメントがないためで、Ca²⁺がトロポニンに結合すると収縮が始まる、という3点で誤りの選択肢が落ちます。
① 誤 アクチンフィラメントは球状のアクチンが二重らせん状に連なった繊維で、管状ではない。管状なのは微小管 ② 正 ミオシン頭部がATPを分解し、アクチンフィラメントを滑り込ませることで筋収縮が起こる ③ 誤 Z膜付近(明帯)が明るく見えるのはミオシンフィラメントが存在しないためで、アクチンフィラメントが少ないからではない。アクチンフィラメントはZ膜に結合しており、Z膜付近にも存在する ④ 誤 トロポニンにCa²⁺が結合するとトロポミオシンがずれてミオシンの結合部位が露出し、筋収縮が起こる。記述は逆 よって ②
③は「明帯には何もない」という思い込みがあると正しく見えてしまいます。明帯にもアクチンフィラメントはあり、暗帯との違いはミオシンフィラメントの有無です。
問2:正解 ③・⑥(解答番号7・8/配点6)
<問題要旨>
軸索の微小管上を動く2種類のモータータンパク質X・Yについて、図2左の4つの実験条件(Ⅰ 精製したモータータンパク質Xとマイクロビーズ、Ⅱ 軸索の抽出物とマイクロビーズ、Ⅲ モータータンパク質Xを除去した軸索の抽出物とマイクロビーズ、Ⅳ 軸索の抽出物と軸索から単離した小胞)で、遠位方向・近位方向の輸送速度を測った結果が図2右の棒グラフに示されています。実験1の結果から考えられることを6つの選択肢から二つ選ぶ設問です。
<考え方>
対照実験との違いを先に言葉にします。条件Ⅰと条件Ⅲの違いは「働いているモーターがXだけかYだけか」だけで、条件Ⅱと条件Ⅳの違いは「運ばれる荷がマイクロビーズか小胞か」だけです。前者からモーターの担当する方向が、後者から荷の側の効果が決まります。
【図2右の値を読む(縦軸の目盛りは0.5刻み)】 Ⅰ 遠位 約0.55 近位 ほぼ 0 Ⅱ 遠位 約0.6 近位 約1.3 Ⅲ 遠位 ほぼ 0 近位 約1.4 Ⅳ 遠位 約1.35 近位 約1.45 【ⅠとⅢの比較 = モーターの担当する方向】 Ⅰ(Xだけ)は遠位方向にのみ運ぶ → Xは遠位方向へ輸送する Ⅲ(Yだけ)は近位方向にのみ運ぶ → Yは近位方向へ輸送する 【ⅡとⅣの比較 = 荷の違い】 抽出物は同じで、荷だけがビーズから小胞に替わっている 遠位方向(Xの担当)の速度が 約0.6 から 約1.35 へ上がっている → 差をつくったのは小胞の側 ① 誤 Ⅰは遠位 約0.55、近位 ほぼ0。両方向でほぼ同じではない ② 誤 両方があるⅡ(遠位 約0.6/近位 約1.3)は、Xだけの Ⅰ(約0.55)、Yだけの Ⅲ(約1.4)と比べて半分程度になっていない ③ 正 Ⅲでビーズは近位方向にのみ運ばれている ④ 誤 Ⅳの小胞の輸送速度は遠位 約1.35、近位 約1.45 で、約2倍ではない ⑤ 誤 Yはどの条件でも近位方向へ運んでおり、輸送方向が逆転した結果はない ⑥ 正 抽出物を同じにして荷をビーズから小胞に替えると、遠位方向の速度が 約0.6 から 約1.35 に上昇する よって ③・⑥
「モータータンパク質の働きはマイクロビーズとの結合により影響されない」という条件が付けられているので、ⅡとⅣの差をビーズ側の妨害で説明することはできません。差は小胞にある因子によるものだと確定します。
問3(1):正解 ②(解答番号9/配点5)
<問題要旨>
実験2(精子の細胞膜を除去すると尾部の屈曲運動が停止してまっすぐな状態で静止し、ATPを加えると除膜前と同様の屈曲運動を示す)と実験3(単離した尾部を除膜し、さらに酵素で結束構造を分解してATPを加えると微小管が滑り出る)の結果から、除膜した精子について考えられることを、記述ⓐからⓒの組合せで選ぶ設問です。
<考え方>
対照実験との違いを先に言葉にします。除膜前と除膜後の違いは「細胞膜と、膜が包んでいた可溶性の成分が失われたこと」だけで、そこにATPを加えるだけで運動が戻ったという事実が、何が必要だったのかを決めます。
【実験2の事実】 除膜 → 屈曲運動が停止し、まっすぐな状態で静止 除膜後にATPを追加 → 除膜前と同様の屈曲運動 ⓐ 不適 細胞膜がない状態でATPを加えるだけで屈曲運動が起こっている → 屈曲運動そのものに細胞膜は必要ではない ⓑ 適当 除膜で失われた成分のうちATPを補うと運動が戻る → 運動にATPが必要であることを示している ⓒ 不適 実験3では酵素を加えて初めて結束構造が分解し、微小管が滑り出た → ATPを加えただけで結束構造が分解したのではない また実験2でATP添加後に起こったのは滑りではなく屈曲である 適当なのは ⓑ のみ よって ②
ⓐは「除膜したら止まった」という前半だけを見ると正しく見えます。後半の「ATPを加えたら戻った」まで含めて読むと、失われた本体は膜ではなく膜の内側にあったATPだと分かります。
問3(2):正解 ③(解答番号10/配点5)
<問題要旨>
結束構造(尾部の横断面の周縁部で、モータータンパク質Yが結合した微小管どうしをつないでいる構造、図3)の働きについて、実験2・実験3の結果から考えられることを4つの記述から選ぶ設問です。図4には、結束構造を分解したときにモータータンパク質Yがまっすぐな微小管に結合したまま滑り出る様子が示されています。
<考え方>
対照実験との違いを先に言葉にします。実験2(結束構造あり、ATPあり)では尾部が屈曲し、実験3(結束構造を酵素で分解、ATPあり)では微小管がまっすぐ滑り出るだけで屈曲しません。違いは結束構造の有無だけなので、結束構造は微小管の滑りを拘束して屈曲に変換していることになります。
実験2 結束構造あり + ATP → 尾部が屈曲する 実験3 結束構造を分解 + ATP → 微小管がまっすぐ滑り出る(屈曲しない) 違いは結束構造の有無だけ → 結束構造は、モータータンパク質Yによる微小管の滑りを拘束して屈曲に変換している ① 誤 滑り運動が観察されたのは結束構造を分解したときである。滑りを可能にしているのではなく制限している ② 誤 除膜した尾部はATPがないとまっすぐ静止する。ATPの有無にかかわらず屈曲するのではない ③ 正 微小管の滑り運動を拘束することで、尾部全体の屈曲に変えている ④ 誤 結束構造の分解は実験3で酵素を加えて起こした操作であり、屈曲運動の前に尾部内で分解されるという結果はない。分解すると屈曲しなくなる よって ③
滑り運動そのものは微小管とモータータンパク質YとATPだけで起こります。結束構造は、その滑りを「ずれて離れていく」動きから「たわむ」動きへ振り替える役割を担っています。
第3問(必答) ショウジョウバエの前後軸形成(母性効果・翻訳の阻害・濃度勾配による転写調節)
未受精卵に蓄えられたmRNAから翻訳されたタンパク質B・Cが前後に逆向きの濃度勾配をつくり、その下流でさらに別の遺伝子の転写が調節されていく、という前後軸形成の流れを順に追う大問です。B mRNAは未受精卵の前端のみ、C mRNAは全体に均一に分布し、タンパク質Bは前端から後端へ、タンパク質Cは後端から前端へ勾配をつくります。配点20点で5項目です。
問1:正解 ①(解答番号11/配点4)
<問題要旨>
B mRNAは卵細胞以外の細胞で遺伝子Bから転写され、卵形成中に卵細胞へ運ばれて前端に蓄積します。B mRNAが卵に全くない変異体Xでは、幼虫は図3のように両端が尾部となり致死になります。遺伝子Bの正常な働きを持つ対立遺伝子Bと、その働きを失った対立遺伝子bのヘテロ接合体どうしを交配したとき、得られた卵から成長した幼虫のうち変異体Xと同じ表現型になるものの割合を求める設問です(遺伝子Bは常染色体上にあり、Bはbに対して顕性)。なお、この設問の上から3行目は問題訂正により「…変異体(以下,変異体X)では,幼虫は,…」となっています。
<考え方>
母性効果遺伝子だという点に戻ります。B mRNAは卵細胞ではなく周囲の細胞で転写されて卵に運び込まれるので、卵の中身は母親の遺伝子型で決まり、幼虫自身の遺伝子型では決まりません。したがって母親がBを持つかどうかだけを見ます。
B mRNA は卵細胞以外の細胞で転写され、卵細胞に運ばれて前端に蓄積する → 卵に B mRNA が入るかどうかは母親の遺伝子型で決まる(母性効果) 【交配した親(母親)の遺伝子型】 Bb = 正常な対立遺伝子 B を持つ → 卵細胞以外の細胞で B mRNA が正常に転写され、すべての卵に B mRNA が蓄積する 【得られた卵から成長した幼虫】 幼虫自身の遺伝子型が BB・Bb・bb のいずれであっても、卵には B mRNA があった → 両端が尾部になる個体は生じない 変異体Xと同じ表現型になるものの割合 = 0 % 【確認】変異体Xと同じ表現型が現れるのは次の世代である この交配で生じる bb の雌(1/4)が産む卵には B mRNA が入らない よって ①
幼虫自身の遺伝子型で考えると bb が 1/4 なので②(25 %)を選んでしまいます。母性効果遺伝子では表現型が現れるのが1世代遅れる、というのが最大の特徴です。
問2(1):正解 ②(解答番号12/配点3)
<問題要旨>
図2のタンパク質Cの濃度勾配は、タンパク質BがC mRNAの翻訳を特異的に阻害することで形成されます。タンパク質Bがある物質に結合することで阻害が起こるとして、その物質を4つの選択肢から選ぶ設問です。
<考え方>
「翻訳を」「特異的に」阻害するという2語で決まります。翻訳の段階に働くのでDNAではなく、特定のmRNAだけを止めるので標的はそのmRNA自身です。
阻害されるのは「翻訳」 → 転写の段階(DNA)の話ではない 阻害されるのは「C mRNA の翻訳だけ」 → 翻訳装置そのものを止めるのではない ① 誤 遺伝子C の DNA に結合して止まるのは転写。下線部(b)のとおり C mRNA の分布は未受精卵のまま変わらないので、転写の段階は問題になっていない ② 正 C mRNA に結合すれば、C mRNA についてのみリボソームによる翻訳を止められる ③ 誤 mRNA に結合していないリボソームに結合すると、あらゆるmRNAの翻訳が止まり特異性がない ④ 誤 タンパク質C に結合するのは翻訳が終わったあとの話で、翻訳の阻害にはならない よって ②
下線部(b)の「B mRNAとC mRNAの分布は未受精卵での分布と変わらない」という記述が、①を切り落とす手がかりになります。mRNAの分布が変わっていないので、調節は翻訳の段階で起きています。
問2(2):正解 ②(解答番号13/配点4)
<問題要旨>
タンパク質B(489アミノ酸)と、その一部に相当するポリペプチド2種(B:1-202 と B:77-202、図4)を指定するmRNAを、B mRNAが卵に全くない変異体Xの受精卵の前端に注入し、胚でのタンパク質Cの分布と幼虫の形態を調べた結果が表1に与えられています。C mRNAの翻訳の阻害に必要な領域(ア)と必要でない領域(イ)の組合せを選ぶ設問です。
<考え方>
「その領域があると働き、ないと働かない」という差だけが必要性の根拠になります。注入した3種類のうち、阻害が働いたものと働かなかったものを並べ、含まれている領域の差を取ります。
【表1の読み取り】 注入なし タンパク質C が全体に濃く均一 幼虫は変異体X型(両端が尾部) B mRNA C は前端で薄く後端で濃い勾配 幼虫は野生型 B:1-202 の mRNA C は前端で薄く後端で濃い勾配 幼虫は野生型 → 阻害が働いた B:77-202 の mRNA C が全体に濃く均一 幼虫は変異体X型 → 阻害が働かない 【含まれる領域】 B:1-202 = 1〜76 + 77〜202 (203〜489 を含まない) B:77-202 = 77〜202 (1〜76 も 203〜489 も含まない) 【判定】 203〜489 を含まない B:1-202 で阻害が働いた → 203〜489 は必要でない イ = 203 から 489 1〜76 を含む B:1-202 では働き、1〜76 を欠く B:77-202 では働かない → 1〜76 が必要 ア = 1 から 76 【77〜202 について】 阻害が働いた B:1-202 にも、働かなかった B:77-202 にも含まれている → 必要とも必要でないとも決められないので、ア にも イ にも選べない よって ②
77〜202 を「B:77-202 が働かなかったのだから不要」と読むと③や④を選んでしまいます。B:77-202 が働かなかった原因は 1〜76 を欠いていることなので、77〜202 の必要性についてはこの実験だけでは判定できません。
問2(3):正解 ①(解答番号14/配点5)
<問題要旨>
タンパク質BがC mRNAの翻訳を阻害するというしくみ以外にも、図1・図2の分布を説明できる調節のしくみが考えられます。その記述として最も適当なものを5つの選択肢から選ぶ設問です。図1はB mRNAが前端のみでC mRNAが全体に均一であること、図2はタンパク質Bが前端から後端へ、タンパク質Cが後端から前端へ勾配をつくることを示しています。
<考え方>
図1と図2に示された4つの分布すべてに矛盾しないしくみを探します。とくに「C mRNAは未受精卵でも胚でも全体に均一」という点を破る選択肢は、その一点だけで落ちます。
【満たすべき条件】 (i) B mRNA は前端のみ(胚でも変わらない) (ii) C mRNA は全体に均一(胚でも変わらない) (iii) タンパク質B は前端で濃く後端で薄い (iv) タンパク質C は後端で濃く前端で薄い ① 正 タンパク質B がタンパク質C の分解を促進する B が濃い前端ほど C が分解されるので、C は後端で濃く前端で薄くなり (iv) を満たす C mRNA には手をつけないので (ii) も保たれる ② 誤 B が C mRNA の分解を促進すると、C mRNA が前端側で減る。(ii) に反する ③ 誤 C が B mRNA の翻訳を阻害しても、C 自身が後端で濃くなる理由を説明できない ④ 誤 C が タンパク質B の分解を促進すると B の勾配は説明できるが、C 自身の勾配ができる理由を説明できない ⑤ 誤 C が B mRNA の分解を促進しても、B mRNA はもともと前端のみで (i) の説明にならず、C 自身の勾配も説明できない よって ①
①から⑤のうち、タンパク質Cの勾配そのものを「前端側で減らす」方向で説明できるのは①と②だけです。そこから、C mRNAの分布が均一のままだという事実で②を落とします。
問3:正解 ③(解答番号15/配点4)
<問題要旨>
タンパク質Hは遺伝子Kの転写を調節しており、タンパク質Hが全くない変異体の胚では遺伝子Kは転写されません。タンパク質Hの分布が異なる4種類の変異体Ⅰ〜ⅣのうちⅠ〜Ⅲについて、タンパク質Hの濃度(野生型胚の前端を1とした相対値)とK mRNAの分布が、野生型とともに図5に示されています。変異体Ⅳの胚でのK mRNAの分布を、5つの胚の図から選ぶ設問です(遺伝子Kの転写はタンパク質Hのみで調節されているものとする)。
<考え方>
遺伝子Kの転写がタンパク質Hのみで調節されるという条件に戻ります。野生型と変異体Ⅰ〜Ⅲで「K mRNAがある場所のHの値」と「ない場所のHの値」を読み比べると、転写が起こるHの濃度に上限と下限があることが分かります。その範囲を変異体Ⅳの曲線に当てます。
【野生型】H は前端で 1 のまま続き、胚の中央付近で下がって 0 になる K mRNA の帯は胚の 4 割あたりから 6 割あたり 帯の前端側の境目での H は 約0.8 → H が 0.8 より大きい前端側には帯がない 帯の後端側の境目での H は 約0.25 → H が 0.25 より小さい後端側には帯がない 【変異体Ⅰ】H は前端から 約0.33 の一定値で、5 割あたりから下がって 0 になる K mRNA は前端から 5 割あたりまで 帯の後端側の境目での H は 約0.25(野生型と同じ下限) 前端の H が 0.33 でも帯があるので、0.33 は転写が起こる範囲の中にある 【変異体Ⅱ】H は前端から後端まで 約0.33 の一定値 K mRNA は胚全体 → 0.33 なら全域で転写されることの確認になる 【変異体Ⅲ】H は前端で 1 を超え、すぐ下がって 約0.33 の一定値となり、5 割あたりから 0 になる K mRNA の帯は前端の少し後ろから 5 割あたりまで 前端の H が高すぎる部分には帯がない → 上限があることを示す 【まとめ】遺伝子K が転写されるのは H が およそ 0.25 〜 0.9 の中間の濃度のときだけ H が高すぎても低すぎても転写されない 【変異体Ⅳ に当てる】 H は前端から 約1.2 の一定値 → 上限より大きいので転写されない 3 割あたりから下がりはじめ、4 割台で 0.9 を通過する → ここから転写される 6 割あたりで 約0.36 の一定値になり、そのまま後端まで続く 0.36 は 0.25 〜 0.9 の範囲内 → 後端まで転写される → K mRNA は前端側の 4 割ほどが空白で、胚の半分あたりから後端まで分布する 【選択肢の胚】 ① 中央付近の帯だけで後端が空白 → 後端まで達しないので不成立 ② 前端側にも後端側にも分布し途中が空白 → H が最も高い前端に帯があり不成立 ③ 前端側の 5 割が空白で、そこから後端まで分布 → 条件に合う ④ 前端寄りの狭い帯だけ → H が高すぎる場所に帯があり不成立 ⑤ 後端寄りの狭い帯だけで後端が空白 → 後端まで達しないので不成立 よって ③
「Hが多いほど転写される」と決めつけると④を選んでしまいます。変異体Ⅲの前端に帯がないことが、上限の存在を示す唯一の手がかりです。また変異体ⅣのHは後端まで 0 にならないので、帯が後端で切れている①や⑤も落とせます。
第4問(必答) 生物の環境応答(反射と光応答・エチレンとセルロース繊維・ガの聴細胞)
環境からの刺激の受容と反応を、動物と植物の両方から扱う大問です。前半は暗所の土の中で育った芽生えの胚軸が太く短くなるしくみを、エチレンとセルロース繊維の向きから調べ、後半は夜行性のコウモリの超音波に対するガの回避行動を扱います。配点20点で5項目です。
問1:正解 ④(解答番号16/配点3)
<問題要旨>
下線部(a)に関連して、動物と植物の刺激の感知とその反応についての記述5つから、誤っているものを選ぶ設問です。アメフラシのえら引っ込め反射、ヒトの瞳孔反射と膝蓋腱反射、光発芽種子、長日植物の光中断が並んでいます。
<考え方>
植物の光応答はフィトクロムのPr型とPfr型の切り替えに戻ります。赤色光でPfr型になって発芽が促進され、遠赤色光を当てるとPr型に戻って発芽は抑制されます。
① 正 アメフラシは水管に触れられるとえらをすばやく引っ込める(えら引っ込め反射) ② 正 暗い所から明るい所に出ると瞳孔反射により瞳孔が縮小する ③ 正 ひざ関節の下の腱を軽くたたくと膝蓋腱反射でひざから下がはねあがる ④ 誤 光発芽種子の発芽を促進するのは赤色光。遠赤色光はフィトクロムをPr型に戻すので発芽は抑制される ⑤ 正 長日植物は連続した暗期が限界暗期より短いときに花芽を形成する 光中断は暗期を分断して連続暗期を短くするので、花芽形成は促進される よって ④
⑤は短日植物と取り違えやすい記述です。光中断は短日植物では花芽形成を抑制し、長日植物では促進します。反応の向きが逆になることを押さえておきましょう。
問2(1):正解 ⑤(解答番号17/配点4)
<問題要旨>
暗所の寒天培地で育てたシロイヌナズナの芽生えについて、実験1ではエチレン処理により胚軸表皮細胞の縦方向の長さが未処理の 1 に対し約0.6 に短くなることが示されています。実験2では表皮細胞のセルロース繊維の向き(横・斜め・縦)の割合が、処理前・エチレン未処理・エチレン処理でどう変わるかが図2・図3に示されています。エチレンと細胞の成長の関係を述べた文章のア〜ウの組合せを選ぶ設問です。
<考え方>
細胞はセルロース繊維の向きと直交する方向に伸びる、という点と、細胞壁をゆるめるホルモンは何かという点に戻ります。まず図3で割合が増えた向きを読み、次にその向きだと細胞がどちらに膨らむかを考えます。
【図3の柱の高さを読む(下から 縦・斜め・横 の順に積み上げ、縦軸は20 %刻み)】 処理前 縦 約7 % 斜め 約7 %〜50 % 横 約50 %〜100 % エチレン未処理 縦 約7 % 斜め 約7 %〜43 % 横 約43 %〜100 % エチレン処理 縦 約69 % 斜め 約69 %〜95 % 横 約95 %〜100 % 縦向きの割合が 約7 % から 約69 % へ増えている ア = 縦 【セルロース繊維の向きと細胞の伸びる方向】 細胞は繊維の向きと直交する方向に伸びる 繊維が縦向きになる → 細胞は横方向に膨らむ(太くなる) これは実験1で縦方向の長さが 1 から 約0.6 に短くなった結果と合う 【細胞壁をゆるめるホルモン】 オーキシンは成長に適した濃度で働き、セルロース繊維どうしの結びつきをゆるめて 細胞壁を伸びやすくする イ = オーキシン ウ = 弱く よって ⑤
ジベレリンはセルロース繊維を横向きにそろえて縦方向の伸長を促すホルモンで、ここで求められている横方向への肥大とは逆向きの働きです。また、繊維どうしの結びつきが強くなったら細胞壁は伸びにくくなるので、ウは「弱く」以外に置けません。
問2(2):正解 ③(解答番号18/配点4)
<問題要旨>
エチレンがセルロース繊維の向きを変えることで胚軸の形態を変化させることを、様々なシロイヌナズナの変異体を使って検証します。表1には野生型と変異体について、処理前・エチレン未処理・エチレン処理の3条件でのセルロース繊維の向きが顕微鏡観察の模式図で示されています。表1のような結果になると考えられる変異体を4つの選択肢から選ぶ設問です。
<考え方>
対照実験との違いを先に言葉にします。野生型ではエチレン処理のときだけ繊維が縦向きに変わるのに、変異体は3条件すべてで横向きのままです。つまり外からエチレンを与えても応答しないので、原因はエチレンの合成ではなく受け取り以降の段階にあります。
【表1】 野生型 処理前 横 エチレン未処理 横 エチレン処理 縦 → 実験2と同じ結果 変異体 処理前 横 エチレン未処理 横 エチレン処理 横 → 処理しても変わらない ① 誤 エチレンを合成できない変異体 外から与えたエチレンは受け取れるので、エチレン処理では縦向きに変わるはず ② 誤 エチレンを過剰に合成する変異体 エチレン未処理の時点ですでに縦向きになっているはず ③ 正 エチレンによる情報伝達ができない変異体 エチレンがあっても応答できないので、エチレン処理でも横向きのまま ④ 誤 エチレンによる情報伝達が常に活性化された変異体 エチレンの有無に関係なく縦向きになっているはず よって ③
①と③はどちらも「エチレンに反応しない」ように見えますが、外からエチレンを与える処理があるかどうかで区別できます。合成できないだけなら、与えれば応答します。
問3(1):正解 ③(解答番号19/配点4)
<問題要旨>
コウモリの超音波と同様な26キロヘルツの音を野外で飛んでいるガに聞かせると、ガは音源から遠ざかる「定位行動」と、旋回や急降下などの「非定位行動」を示します。図4には、これらの行動を示したときの音源からの距離が5 m未満・5 m以上のそれぞれについて、2つの行動を示した個体の割合が示されています。実験3の結果から考えられることを、記述ⓐからⓓの組合せで選ぶ設問です。
<考え方>
対照実験との違いを先に言葉にします。実験3で変えているのは音源からの距離だけで、周波数は26キロヘルツに固定されています。距離が変わって変わるのは音の高低ではなく強さなので、ガが手がかりにしているのは強弱です。
【実験条件の確認】 周波数は 26 キロヘルツに固定、変えているのは音源からの距離だけ 距離が変わると変わるのは音の強さ ⓐ 不適 高低(周波数)は変えていないので、高低を感知しているとは言えない ⓑ 適当 距離によって行動が変わる = 音の強弱を感知して行動に利用している 【図4の割合を読む(縦軸は20 %刻み)】 5 m 未満 非定位行動 約95 % 定位行動 約5 % 5 m 以上 非定位行動 約40 % 定位行動 約60 % ⓒ 適当 遠いとき(5 m 以上)の定位行動 約60 % > 近いとき(5 m 未満)の 約5 % ⓓ 不適 ⓒと逆の記述 適当なのは ⓑ と ⓒ よって ③
近いときに旋回や急降下(非定位行動)が増えるのは、まっすぐ逃げても追いつかれる距離では不規則に動いたほうが捕食を逃れやすいためと考えられます。行動の意味まで押さえておくと、次の設問の聴細胞の話とつながります。
問3(2):正解 ②(解答番号20/配点5)
<問題要旨>
ガの胸部にある聴覚器官には2種類の聴細胞A1・A2があり、図5にはそれぞれが様々な周波数の音に対して活動電位を発生する音の強さの最小値(デシベル)が示されています。コウモリからの距離によって2種類の聴細胞の興奮のパターンが異なると想定したとき、音源が遠いとき(エ)と近いとき(オ)に興奮する聴細胞の組合せを選ぶ設問です。
<考え方>
縦軸の意味に戻ります。図5の縦軸は活動電位を発生させるのに必要な音の強さの最小値なので、値が小さいほど弱い音で興奮する、つまり感度が高い細胞です。音源が遠いほど届く音は弱くなります。
【図5の値を読む(縦軸は10 デシベル刻み)】 A1 10 キロヘルツで 約54、20〜25 キロヘルツで最小の 約40、70 キロヘルツで 約59 A2 10 キロヘルツで 約75、20〜25 キロヘルツで最小の 約63、70 キロヘルツで 約78 どの周波数でも A1 の値 < A2 の値 (実験3で使った 26 キロヘルツでは A1 約42、A2 約64) 【音源が遠いとき】届く音は弱い 弱い音でも最小値を超えるのは、値の低い A1 だけ エ = A1 のみ 【音源が近いとき】届く音は強い A1 の最小値も A2 の最小値も超える オ = A1 と A2 よって ②
図4と合わせると、A1だけが興奮したときに定位行動(遠ざかる)、A1とA2の両方が興奮したときに非定位行動(旋回・急降下)という対応になります。感度の異なる2つの受容細胞で、1種類の刺激の強さを段階的に区別している例です。
第5問(必答) マングローブの生態と窒素獲得(汽水域の土壌・皮目による通気・共生窒素固定)
亜熱帯・熱帯の河口付近の汽水域に育つマングローブを題材に、人間活動と生態系、汽水域の土壌の特徴、水面上の根の皮目と皮層の細胞間隙を通じた通気、そして根に共生する窒素固定細菌までを、ヤエヤマヒルギ1種に絞って調べていく大問です。配点20点で5項目です。
問1:正解 ④(解答番号21/配点3)
<問題要旨>
下線部(a)に関連して、人間の活動により生態系が影響を受けることについての記述4つから最も適当なものを選ぶ設問です。遺伝的多様性と近交弱勢、窒素肥料の流出、生物濃縮、富栄養化と赤潮が並んでいます。
<考え方>
個体数が減ると何が起こるか、分解されにくい物質が食物連鎖を上がると濃度はどうなるか、栄養塩が増えると水域で何が起こるかという3点で、誤りの選択肢が落ちます。
① 誤 個体数が減って遺伝的多様性が低下すると、有害な潜性の対立遺伝子がホモ接合になりやすくなり、近交弱勢は起こり「やすく」なる ② 誤 作物に吸収されなかった窒素肥料が流出すれば、河口付近の水中の窒素濃度は「増加」する ③ 誤 生物濃縮では分解・排出されにくい物質が食物連鎖の上位ほど高濃度になる。生産者より消費者で高い ④ 正 沿岸の富栄養化で植物プランクトンが異常増殖して赤潮が発生し、えらの目詰まりや水中の酸素不足で水生生物が大量死しやすくなる よって ④
②は本文の下線部(b)(汽水域の土壌では潮の満ち引きにより窒素などの栄養分が流出しやすい)と方向が逆の話なので混同しないこと。ここで問われているのは、陸の農地から水域へ窒素が入ることです。
問2:正解 ②(解答番号22/配点4)
<問題要旨>
海面の高さが異なる7月(1.2 m)と1月(0.8 m)に、ヤエヤマヒルギの根の周囲の土壌と、根が生えていない離れた場所の土壌について、深さ15 cm地点の土壌温度・有機物濃度・窒素濃度を測った結果が表1に与えられています。表1の結果についての記述4つから最も適当なものを選ぶ設問です。
<考え方>
表の4行を、比べる軸を1つずつ固定して読みます。季節で比べるのか、根の周囲と離れた場所で比べるのかを混ぜないこと。言い切りの記述は反例を1つ見つければ落ちます。
【表1】 7月(海面 1.2 m) 根の周囲 29.8 ℃ 1.0 % 0.25(×0.01 %) 離れた場所 29.9 ℃ 0.8 % 0.20 1月(海面 0.8 m) 根の周囲 20.6 ℃ 2.2 % 0.25 離れた場所 20.5 ℃ 0.8 % 0.15 ① 誤 根の周囲の有機物濃度は 7月 1.0 % < 1月 2.2 %。記述は逆 ② 正 根の周囲の窒素濃度は 7月 0.25、1月 0.25 で等しい 海面の高さが 1.2 m と 0.8 m で異なっても変わっていない ③ 誤 根の周囲のほうが有機物濃度も窒素濃度も高い (1.0 > 0.8、0.25 > 0.20、2.2 > 0.8、0.25 > 0.15) ④ 誤 土壌温度は 7月は 29.8 < 29.9 だが、1月は 20.6 > 20.5。反例があり一貫しない よって ②
離れた場所の窒素濃度は 7月 0.20、1月 0.15 と季節で変わっているのに、根の周囲は 0.25 で変わりません。窒素が流出しやすい汽水域で根の周囲だけ窒素が保たれているという対比が、問4につながります。
問3:正解 ⑥(解答番号23/配点5)
<問題要旨>
水面上にある1本の根のすべての皮目にグリースを塗って気体の移動を遮断し、その根の土壌に埋まっている部位(側根と根の先端)の内部のO₂濃度とCO₂濃度を、処理開始後0時間と36時間に測定しました。対照条件としてグリースを塗らなかった根でも同じ測定を行い、結果が図3に与えられています。実験1の結果から導かれることを、記述ⓐからⓒの組合せで選ぶ設問です。
<考え方>
対照実験との違いを先に言葉にします。対照条件とグリースを塗った条件で違うのは「皮目を通じた大気との気体のやりとりがあるかどうか」だけです。その1点だけを断ったときに内部の気体組成がどう変わるかを見ます。
【図3の柱の高さを読む(縦軸は4 %刻み)】 対照条件 O₂ 0時間 約16 % 36時間 約16 % (ほぼ変わらない) CO₂ 0時間 約5 % 36時間 約5 % (ほぼ変わらない) グリース条件 O₂ 0時間 約15 % 36時間 約2 % (大きく減少) CO₂ 0時間 約5 % 36時間 約10 % (約2倍に増加) ⓐ 不適 対照条件でO₂が変わらないのは、皮目から供給され続けて出入りが釣り合っているためである 皮目を断つとO₂が 約15 % から 約2 % へ減るので、内部では呼吸によりO₂が消費されている ⓑ 適当 グリース条件でCO₂が 約5 % から 約10 % に増えている 呼吸で生じたCO₂が皮目から外へ出ていかず、根の内部にたまった ⓒ 適当 皮目を断つと土壌に埋まっている部位の内部のO₂が 約2 % まで落ちる 対照条件で 約16 % が保たれていたのは、皮目と皮層の細胞間隙を通じて 大気のO₂が土壌に埋まっている部位の内部まで移動していたからである 適当なのは ⓑ と ⓒ よって ⑥
ⓐは「変わらない = 何も起きていない」と読むと正しく見えますが、出入りが釣り合った定常状態でも消費は続いています。なお公式解答では、この解答番号について②または③を解答した場合は1点を与えるという注が付されています。
問4(1):正解 ②(解答番号24/配点4)
<問題要旨>
水面上の根に容器を取り付けて容器内に¹⁵Nを含むN₂を一定時間加え、その後根全体を採取して表層・皮層・中心部の3組織に分け、乾燥試料の¹⁵N濃度を測った結果が図5に与えられています(水面上の根・側根・根の先端の3部位について、根の先端の表層の値を1とした相対値)。実験2の結果に関する文章のア・イの組合せを選ぶ設問です。
<考え方>
N₂を取り込んで有機窒素化合物につくり変える反応が同化か異化かを決め、イは図5の柱のうち最も高いものを読むだけです。
【ア】 大気のN₂を取り込み、アミノ酸などの有機窒素化合物につくり変える反応は同化である (異化は有機物を分解してエネルギーを取り出す反応で、N₂の利用には当たらない) ア = 同化 【イ:図5の柱の高さを読む(縦軸は2刻み)】 水面上の根 表層 約1.2 皮層 約1.1 中心部 約2.3 側根 表層 約4.8 皮層 約5.0 中心部 約4.2 根の先端 表層 1.0 皮層 約0.45 中心部 約0.3 最も多く¹⁵Nが検出されたのは側根で、3組織すべてが 4 を超えている イ = 側根 よって ②
側根では表層・皮層・中心部のどこでも¹⁵Nが 4 を超えており、本文の「どの部位でも多くの¹⁵Nが同化されていた」という表現に合います。水面上の根や根の先端では組織によって値が大きく違う点が、次の設問の手がかりになります。
問4(2):正解 ④(解答番号25/配点4)
<問題要旨>
ヤエヤマヒルギの根には窒素固定細菌が共生します。実験3では、実験2で採取した根の各部位の窒素固定速度(図6、側根の値を1とした相対値)と、根の先端の各組織の窒素固定速度(図7、表層の値を1とした相対値)が測られています。実験2・実験3の結果から導かれることを4つの記述から選ぶ設問です。
<考え方>
図5(¹⁵Nがどこにあるか)と図6・図7(窒素固定がどこで起きているか)を突き合わせます。窒素固定細菌がいる場所は、¹⁵Nの量ではなく窒素固定速度が高い場所として読み取ります。
【図6の柱の高さを読む(縦軸は0.2刻み)】 水面上の根 約0.02 側根 1.00 根の先端 約0.46 水面上の根 = 土壌に接していない 側根・根の先端 = 土壌に埋まっている 【図7の柱の高さを読む(縦軸は0.2刻み)】 根の先端 表層 1.00 皮層 約0.06 中心部 約0.07 ① 誤 乾燥重量当たりの¹⁵N量は水面上の根の表層 約1.2、根の先端の表層 1.0 でほぼ等しいが、 窒素固定速度は 約0.02 と 約0.46 で 20 倍以上違う ¹⁵N量がほぼ等しいことから窒素固定細菌の量も等しいとは言えない ② 誤 根の先端の組織間の比は ¹⁵N量 表層 1 : 皮層 約0.45 : 中心部 約0.3 窒素固定速度 表層 1 : 皮層 約0.06 : 中心部 約0.07 ほぼ等しくない。内部の¹⁵Nは窒素固定速度の割に多く、 むしろ表層から内部への¹⁵Nの移動があることを示している ③ 誤 図7では表層 1.00 > 皮層 約0.06、中心部 約0.07。表層のほうが高く、記述の前提が逆 ④ 正 土壌に埋まっている側根 1.00 と根の先端 約0.46 で窒素固定速度が高く、 土壌に接していない水面上の根は 約0.02 とほぼ 0 である さらに図7で根の先端は表層が最も高い → 窒素固定細菌は主に土壌に接している部位に分布している よって ④
①と②はどちらも「¹⁵N量が同じなら窒素固定も同じ」という前提で書かれています。¹⁵Nは固定された場所から移動するので、量の分布と固定が起きた場所は一致しません。皮目から入ったN₂が土壌に接する根の表面で固定され、そこから根の内部や他の部位へ運ばれる、というのが大問全体の結論です。
※ 本記事の解答・解説は当サイトが独立に作成したものです。公式の正解および配点は大学入試センターの発表をご確認ください。

