2022年度 大学入学共通テスト 本試験 生物基礎 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解4

<解説>
設問では、酵素に関する基本的な性質について複数の記述が並んでおり、そのうち誤っているものを選ぶ形式になっています。酵素の多くはタンパク質からなり、細胞の中で合成されます。また、反応の前後で酵素自体は変化しないため、繰り返し働くことができます。一方で、消化酵素のように細胞外で働く酵素も存在します。したがって「細胞内で働き、細胞外では働かない」と断定している記述が誤りとなります。

問2:正解6

<解説>
ATP は細胞のエネルギー通貨として重要であり、主に呼吸を行うミトコンドリアや光合成を行う葉緑体で合成されます。一方、核は DNA や遺伝情報を保持・管理する場であって、ATP を合成する場ではありません。よって、ATP 合成に関わる細胞小器官としては「ミトコンドリア」と「葉緑体」が挙げられます。

問3:正解1

<解説>
問題文では、測定された ATP 量から食品などに含まれる細菌数を推定する方法について述べられています。細菌数を ATP 量から見積もるには、各細菌がほぼ一定量の ATP を保有していること、そして細菌以外の由来の ATP 量が無視できることが前提になります。もし、細菌以外の物質が大量の ATP を含んでいれば、細菌数の推定ができなくなってしまうためです。また、細菌一個あたりの ATP 量に大きなばらつきがあると正確な換算が難しくなります。

問4:正解3

<解説>
ブロッコリーの花芽(つぼみ)と茎の細胞を比べたとき、花芽は茎に比べて細胞の大きさが小さいため、同じ重さあたりに含まれる細胞数が多くなります。細胞数が多いということは、全体として含まれる核の数も多く、結果として DNA 量も多くなります。問題文でも、花芽の方が同じ重さでも繊維状の物質(抽出された DNA を含む量)が多く得られる理由として、細胞の大きさ・数の違いが示唆されています。

問5:正解5

<解説>
問題文では、DNA と特異的に結合して発光の強さを変化させる試薬を用い、抽出物中の DNA 量を見積もっています。グラフからは、発光の強さ(相対値)が「0.6」程度のときに対応する DNA 濃度が、いくつかの選択肢の中では 0.07 mg/mL 前後に近い値と読み取れます。この溶液は 4 mL あり、その濃度のまま全量中に含まれる DNA 量を考えると、約 0.28 mg 程度に相当します。選択肢の中では 0.30 mg が最も近い値となるため、これが妥当と判断できます。

問6:正解5

<解説>
問題文では、DNA と RNA の両方に結合する試薬を使い、さらに DNA 分解酵素や RNA 分解酵素を加えたときの発光強度の違いを比較しています。もし白い繊維状の物質に含まれる成分が DNA だけであれば、DNA 分解酵素を加えた場合に発光が大きく低下し、RNA 分解酵素を加えても変化がほとんどないはずです。逆に RNA だけなら、RNA 分解酵素を加えたときに大きく低下します。実験の結果、どちらの酵素を加えた場合も光が弱くなるので、DNA も RNA も両方含まれていることが示唆されます。表中の記述では、どちらの処理後も「実験 I(酵素未処理)より弱い光を発した」という組み合わせに該当するものが正解となります。

第2問

問7:正解3

<解説>
指先に装着する光学式血中酸素飽和度計(いわゆるパルスオキシメーター)は、赤色光と赤外光の二種類の光を指先に照射し、その透過量の変化を検出することで、動脈血中の酸素飽和度(HbO₂の割合)や脈拍数を推定しています。心臓の拍動に伴って血液量が周期的に増減すると、透過する光の量が時間的に変化します。この変化パターンから脈拍の頻度を知ることができるため、選択肢のうち「透過量の時間変化から脈拍の頻度を知ることができる」という記述が最も適当です。

問8:正解2

<解説>
問題文では、高所(標高 3770 m 付近)で測定した動脈血中の HbO₂ の割合が約 80%であったとされています。これを図中の酸素解離曲線などと照らし合わせると、平地と比べて動脈血中の酸素濃度(相対値)が低下し、組織へ放出される酸素(=HbO₂ が解離して組織に供給される割合)も平地時とは異なる値になります。高所では外界の酸素分圧が低いために肺胞や動脈血中の酸素分圧が下がり、結果としてヘモグロビンの酸素飽和度が低め(80%程度)になります。そこから組織側に酸素が移動(解離)する割合も、平地よりは高くなりやすい状況ですが、図示の曲線を読むと「山頂付近における動脈血の酸素濃度が ある程度低い相対値」「組織に放出された割合が ある程度の値」となる組合せが導かれます。選択肢の中では、相対的に 40 程度の濃度と 30%前後の解離割合(またはそれに近い数字)の組み合わせが読み取れるため、それが適当な値として選ばれています。

問9:正解4

<解説>
細菌感染に対する自然免疫のはたらきを調べるために行われた実験では、大腸菌をマウスの腹腔に注射した結果、短時間で好中球が急増している様子が示されました。好中球は血管内を流れており、感染が起きると血管外へ遊走して細菌を取り囲み、処理を行います。また、自然免疫の一端を担う細胞としてはナチュラルキラー(NK)細胞などが知られています。実験結果から「好中球が血管から周辺組織を経て腹腔内に移動し、NK 細胞とともに食作用や細胞傷害作用により大腸菌を排除する」という筋道が考えられるため、血管と NK 細胞の組合せが導かれます。

問10:正解3

<解説>
移植された皮膚が「非自己」と認識されると、マウスなどの実験動物では概ね 1 週間前後で移植片が拒絶されます。また、同じ組織を再度移植すると、より短い日数で拒絶される現象が知られています。これは、はじめの移植で生じた免疫応答を記憶し、二度目の移植の際にはすでに学習された免疫細胞(主に T 細胞など)が素早く活性化するためです。問題文中でも、1 度目の移植では約 10 日後に脱落し、2 度目の移植では 5~6 日後と早期に脱落したことから、「二度目の拒絶反応はより強く起こる」という考察が妥当となります。選択肢では、その現象を「免疫記憶によって 2 度目の拒絶反応が強くなる」とする記述が当てはまります。

問11:正解1

<解説>
マウスに毒素を注射した直後、毒素を無毒化する抗体を注射するとマウスは生存できました。これは、外部から直接「抗体」というタンパク質を与え、その抗体が毒素と結合して無力化したためです。一般に「血清療法」と呼ばれる方法では、あらかじめ別の生物で生成された抗体を患者に投与することで速やかに病原体や毒素を中和します。これとは別に、ワクチンを接種して自らの免疫系に学習させる方法は「予防接種(能動免疫)」の原理です。本問では「直後に抗体を投与して毒素を無毒化している」ため、すぐに効果が表れる受動免疫(血清療法)のしくみで説明できます。選択肢のうち、それを的確に指摘するものが該当します。

問12:正解2

<解説>
抗体のはたらきを調べる実験では、毒素投与後に外部由来の抗体を加えてマウスが生存したことから、「抗体には、毒素を中和してその毒性を無効化する機能がある」ことが分かります。これは獲得免疫のうち、B 細胞が産生する抗体による体液性免疫の典型的な作用です。ただし、もし問題文中で「T 細胞が働いている」などの記述を含めて解説するなら、T 細胞は細胞性免疫の中心を担っており、毒素そのものを直接無毒化するわけではなく、感染細胞の排除など別の役割を果たします。したがって、「抗体(B 細胞由来)が毒素を中和する」という点に着目した説明が適切であり、選択肢のうちそれを十分に説明しているものが正解となります。

第3問

問13:正解6

<解説>
問題文では、地球温暖化の進行によって山地のバイオーム(生物群系)が標高別にどのように変化すると予測されるかが問われています。日本の中部地方のように降水量が多い地域では、一般に低地~中低標高の比較的温暖な場所では照葉樹林が成立し、高標高帯になると気温が低いために針葉樹林が成立します。地球温暖化によって従来よりも標高の低い地域で気温が上昇すると、これまでより上に位置していたバイオーム(針葉樹林など)がさらに高い標高へ押し上げられると考えられます。選択肢のうち、標高 500 m 地域で照葉樹林、標高 1500 m 地域で針葉樹林が形成される組合せが最も妥当です。

問14:正解6

<解説>
ブナアオシャチホコ(幼虫)が日当たりの良い陽葉だけでなく、下層にある陰葉まで食べ進むと、樹全体での光合成(ここでは二酸化炭素吸収速度)がどのように変化するかが問われています。ブナなどの落葉広葉樹では、上層部の葉(陽葉)の方が強い光でも高い光合成速度を示し、下層部の葉(陰葉)は比較的弱い光でも一定の光合成を行います。幼虫が最初に陰葉を食べても、全体としての光合成速度への影響は比較的小さいですが、その後、より多くの面積の陽葉を食べられてしまうと、大きく光合成が低下します。
したがって、「食べられた葉の面積が少ない段階では大きな変化が少なく、ある程度を超えると急激に二酸化炭素吸収速度が下がる」というパターンを示すグラフが適切となります。選択肢のうち、はじめはほとんど変化せず、後から急激に下がるようなカーブが描かれているものがそれに該当します。

問15:正解5

<解説>
ブナアオはブナの葉を食べる幼虫であり、植物を直接摂取しているため「一次消費者」に当たります。この幼虫を捕食するクロカタビロオサムシは、動物質を餌とする肉食性の甲虫なので「二次消費者」とみなすことができます。また、サナギタケ(菌類の一種)はブナアオの蛹などに寄生し、栄養源を得て増殖するため、動物(一次消費者)から栄養を奪う立場となり、食物連鎖上はさらに上位の段階、つまり「三次消費者」に該当します。よって、それぞれ一次・二次・三次消費者に位置づける組合せが正しいことになります。

問16:正解1

<解説>
下水処理での窒素除去工程においては、まず有機窒素を含む排水中の窒素が微生物のはたらきによってアンモニウムイオンや硝酸イオンなどの「無機窒素化合物」に変化します。これを「硝化」と呼ぶ段階も含みますが、問題文の選択肢では「無機窒素化合物の生成」と表現されています。その後、脱窒菌などの微生物によって「脱窒」が行われ、窒素ガスとして大気中へ放出されるため、水中の窒素量が減少します。よって「無機窒素化合物の生成 → 脱窒」という順序が下水処理場での窒素除去の基本手順になります。

問17:正解2

<解説>
森林植物が大規模に消失すると、土壌中の窒素や養分を吸収・保持するはたらきが急激に失われます。そのため、雨などによって溶脱された窒素成分が河川へ流れ込みやすくなり、河川水中の窒素濃度が一時的に上昇します。しかし、その後に植生が回復すると、再び土壌中の窒素を積極的に吸収するようになり、河川へ流れ出す量が減っていくため、最終的には元の水準へ近づきます。よって「植生が消失すると河川の窒素濃度が上昇し、植生の回復に伴って低下して元の状態に戻る」という流れが妥当な記述となります。

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