2023年度 大学入学共通テスト 本試験 倫理 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解3

<問題要旨>

イスラーム・ヒンドゥー教・仏教・ユダヤ教など、各宗教の基本的な戒律や教義の説明についての正誤を判定する問題です。選択肢ごとに、宗教史や教義に照らしてどの説明がもっとも的を射ているかを考えます。

<選択肢>

①(誤)
「イスラームでは、ムハンマドが啓示を受ける以前のアラビア社会の伝統を厳格に守るよう命じられている」という内容。実際には、ムハンマドが啓示を受けたのちに生まれたイスラームの教えは、アラビア半島の旧来の多神教的慣習や社会制度と明確に一線を画しつつ、唯一神への帰依を中心に新しい共同体(ウンマ)を形成しました。「以前の宗教的伝統をそのまま遵守する」という表現は正確ではありません。

②(誤)
「ヒンドゥー教では、バラモン教由来の身分制度を否定して全ての人を平等に扱うようになった」という内容。バラモン教からヒンドゥー教への変遷過程で身分制度(ヴァルナ)は否定どころか、むしろ社会的に定着し続け、近代に至るまで厳然と残りました。よって「否定された」「すべて平等と見なす」は史実に照らして誤りといえます。

③(正)
「仏教の在家信者には、不殺生・不妄語などの五戒が行為規範として課せられており、出家信者にはさらに多くの戒律がある」という説明。実際に仏教では、在家信者には五戒が基本とされ、出家信者(比丘・比丘尼)には多数の戒律が定められています。これは歴史的に正しい説明です。

④(誤)
「ユダヤ教において、唯一神ヤハウェ以外の神を拝んではならないことやメシア(救世主)を待望すべきことが定められている」という部分は概ね正しい内容です。ただし選択肢の文脈によっては、誤ったニュアンスが含まれている可能性があります。ユダヤ教は確かに唯一神信仰で偶像崇拝を禁じる宗教であり、メシア待望の思想も存在しますが、選択肢①~④の中で「もっとも適当なもの」を一つ選ぶならば③の五戒に関する説明がより正確かつ的確です。文中の「~が定められている」という書き方や他の選択肢との比較から、④よりも③がより妥当と判断されます。

問2:正解4

<問題要旨>

パリサイ派・アリストテレス・ジャイナ教・老子といった、それぞれが示した生き方や思想に関する説明を比較し、どれが正しいかを問う問題です。古代ヘブライからギリシア思想、インドの宗教、中国の思想など、多様な思想の特徴を確認することがポイントになります。

<選択肢>

①(誤)
「パリサイ派(ファリサイ)派が律法によって人々を厳格に規定しようとする態度を批判し、ユダヤ教徒としてより柔軟な生き方を求めた」という説明。史実では、パリサイ派こそ律法厳守を強調し、その解釈にも熱心だった人々であり、「パリサイ派が律法主義を批判」したわけではありません。したがって誤り。

②(誤)
「アリストテレスが倫理的徳に基づいた政治的生き方を送るのが人間にとって最も望ましいとして、最高の幸福をもたらすと考えた」という内容自体は史実に近い面があります。ただし、選択肢の文脈などによっては細部に誤りがある可能性があります。アリストテレスは「ポリス的動物としての人間」において中庸や徳を重視し、その延長として共同体での幸福を論じました。ここで正誤を比較すると、最終的にもっとも適当なものは別の選択肢になります。

③(誤)
「ジャイナ教の信者は、その多くが不殺生の戒めを避けず、農業従事者として生活していた」という説明。ジャイナ教徒は徹底した不殺生(アヒンサー)を守るため、農業も動物を傷つける可能性があるとして敬遠する傾向が見られました。現実には商業に携わる者が多かったとされます。選択肢文の「農業従事者として生活していた」というのは実態と大きく異なり誤り。

④(正)
「老子は自然に身を委ね、村落共同体のような小さな国家において素朴で質素な生活に満足する生き方を理想とした」という趣旨。老子の『道徳経』では、人工的な制度や欲望を抑え、質朴・無為自然を重んじる思想が説かれています。「小国寡民」の理想などもその一例です。そのためこの選択肢の説明は老子の思想を比較的的確に表しています。

問3:正解1

<問題要旨>

イスラームにおける共同体意識と、他者への中傷・悪口などを戒める教えに関する引用(クルアーンの文言)があり、それをもとに会話文中の[a]・[b]の組み合わせを判断する問題です。相手を嘲笑することの是非など、イスラームの倫理観がどのように表現されているかを読み取るのがポイントです。

<選択肢>

①(正)
a「相手の方がすぐれているかもしれないから、人を嘲笑してはいけない」、b「仲間として貧者を救済すること」、という組み合わせの説明は、クルアーンの引用から導かれる「互いに悪口を言わない、嘲笑しない」「共同体意識と助け合いを重視する」といった倫理観に合致します。

②(誤)
a「不確かな根拠に基づいて、人の悪口を言ってはいけない」、b「1日に5回、エルサレムに向かって祈ること」という組み合わせ。イスラームにおける1日5回の礼拝(サラート)は、エルサレムではなくメッカ(カアバ)への礼拝方向が基本です。よって細部が誤っています。

③(誤)
a「限られた情報を頼りに想像力を膨張して、人を総合的に評価すべきだ」、b「仲間として相互扶助を行うこと」という組み合わせ。前半の文が「悪口を言わない」「嘲笑しない」という教えと矛盾しており、内容的にそぐわない部分があります。

④(誤)
a「慣れみ深く、愛に満ち溢れたアッラーを崇敬しなければならない」、b「1日に5回、ムハンマドの肖像画を拝むこと」という組み合わせ。イスラームの教義では偶像崇拝が厳しく禁じられており、ムハンマドの肖像画を拝むという行為は正当化されません。

問4:正解2

<問題要旨>

イエス・墨家・ブッダがそれぞれ掲げた「他者への愛・利益をもたらす行動・執着の放棄」といった思想を比較し、その内容が正しく対応しているかを問う問題です。ア~ウの説明が正しいか誤りかを組み合わせで判定する形になっています。

<選択肢>

(ア)イエス:「敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」と述べ、隣人愛を同胞以外にも広げるよう説いた。これは新約聖書の教えに沿った正しい内容。
(イ)墨家:「広く他者を愛し、互いに利益をもたらし合うべきだとし、人々が平和のうちに共存する社会を理想とした」というのも墨子の兼愛・非攻の思想に近い。正しい内容。
(ウ)ブッダ:「自分が所有するアートマンに対する執着を捨て、他者のアートマンを尊重することで、他者と共に生きることができると説いた」という説明。ブッダはアートマン(常住不変の実体)を認めず、「無我」を説く立場です。「他者のアートマンを尊重する」という表現は仏教思想そのものとは言い難く、やや誤りがあるとされます(ヒンドゥー的要素が混ざっている)。

選択肢の組合せを見ると、

  • ア:正
  • イ:正
  • ウ:誤
    という組み合わせが「ア正 イ正 ウ誤」となり、それが該当するのが②です。
問5:正解8

<問題要旨>

資料1(ブッダの言葉を収めた『スッタニパータ』)および資料2(パウロの『ガラテヤの信徒への手紙』)の内容に基づき、ア~エの各説明が正しいかどうかを判断し、すべて正しいものを選ぶ問題です。ブッダ・パウロの思想に関する基本的理解が問われます。

<選択肢(ア~エ)要旨>
ア:ブッダは、この世のあらゆる生き物が絶えず変化して苦楽の評価が定まらないと説き、人間存在のはかなさを強調した。
イ:パウロは、イエスの十字架上の死を人間の罪を贖うためのいけにえと解釈し、これによって区別なく救いが与えられると説いた。
ウ:資料1にある「既に生まれたものも、これから生まれようとするものも幸福であれ」というブッダの言葉は、未来の生き物にも慈しみを及ぼす考え方を示している。
エ:資料2では、信徒はみな神の子であり、民族や身分、性別の区別なく平等であると説かれている。

問題文によれば、正解選択肢は「アとイとウとエ」がすべて正しい組み合わせである8番。つまり、

  • ア:正
  • イ:正
  • ウ:正
  • エ:正
    という判断になります。
問6:正解2

<問題要旨>

『荀子』の言説を引用しつつ、孟子との比較などを踏まえ、「人間の本性(性)」と「後天的な学びや礼義」の関係を問う問題です。荀子は性悪説で知られますが、単に「悪いから矯正せよ」というだけでなく、礼義を学ぶことで後天的に完成させていくという発想を持っていました。選択肢①~④の正誤判断がポイントです。

<選択肢>

①(誤)
「人間は教育によって矯正し得ない欲望を生まれつき持つとする荀子は~人の生得的な性質を勘違いだと批判している」という内容。荀子は性を「欲望や利己性を含むもの」とし、それを礼義によって修める必要があると説きますが、「矯正できない」とは言いません。「後天的に矯正し得る」と主張するので、この記述はずれがあります。

②(正)
「人間が生まれつき持った性質は欲望であり、生得的な善を備えてはいないと考える荀子は、資料において性善説を唱える孟子を批判し、礼義や学びや取り組みによって後天的に習得し得るものだとしている」という趣旨。荀子が『性悪説』であり、孟子の性善説を批判したこと、また礼義こそが後天的に人を完成させるという論点は、史料の内容とも合致します。

③(誤)
「人間における善を後天的な矯正の産物だとする荀子は、~そのようにして得られる善は偽物にすぎないから不要だと述べている」というような内容。荀子にとって礼義による矯正は必要不可欠であり、「偽物だから不要」だとは言いません。ここが誤り。

④(誤)
「人間の本性は邪悪であり、善を身に付けることはできないと考える荀子は、孟子の説を虚偽だと批判している」という文。荀子は「本性が悪だからこそ礼義によって善を身につけることができる」と説くため、「善を身に付けることはできない」という記述は荀子の主張と反するため誤りです。

問7:正解2

<問題要旨>

ソフィストの思想を紹介する資料1と、キケロの『義務論』からの資料2を比較し、「自然本性」と「社会的な法・慣習」の関係、さらに他者を犠牲にした利潤追求の是非などに着目する問題です。メモ文中の[a][b][c]に入れる語句の組合せを検討します。

<選択肢>

(設問の文脈)

  • 資料1:ソフィストは人間の欲求を重視し、それを法律が抑圧しているという見方を紹介。
  • 資料2:キケロは社会秩序を守るためには他者を略奪するような行為は自然法に反すると批判。
  • メモでは[a]に「人間の欲求」、[b]に「社会の利益」または「自己の利益」、[c]に「自然法思想」または「功利主義」などが入りそうだと推測できる。

正解が②の場合の組合せは、
[a] 人間の欲求
[b] 自己の利益
[c] 自然法思想
という内容になると推察されます。ソフィストに関しては「人間の欲求を重視する」説明が多く、キケロは「自然法に反する」と論じる立場です。

問8:正解4

<問題要旨>

「時代や文化を超えて正義に共有の理解があるのか」「人間の本性をどう捉えるかで正義の考え方が変わるのではないか」「プラトンや孟子、荀子など古代の思想家がどのような正義観を抱いていたか」といった会話を踏まえ、会話中の[a]・[b]にどのような内容が入るのが最適かを判断する問題です。相対主義と普遍主義の対立や、正義を人間同士の関係として捉える考え方などが論点になります。

<選択肢>

①(誤)
a「時代や場所に関係なく、誰もが合意し遵守してきた絶対的な正義というものが存在している」という内容を断定するもの。正義が歴史・社会・文化によって多様に解されてきた事実との整合性が低く、会話の流れからはやや飛躍があります。
b「孟子が、王の権威を相対化した上で、武力によって民衆を支配しようとする覇者たちの行為を否定するために、王道政治を求めた」…これは孟子の思想としては一部正しいものの、会話の後半の文脈にそぐわない可能性があります。

②(誤)
a「人間の本質をどう考えるかによって、正義についての考え方が異なる」…これは会話文に近い主張ですが、
b「プロタゴラスが、どんな事柄についてであっても、相互に対立するような二つの言論を成り立たせることができるとした」…確かにプロタゴラスは「人間は万物の尺度」と説き、相対主義を唱えたことで有名ですが、会話全体の流れとして最も適切かは検証が必要になります。

③(誤)
a「特定の正義概念が、あらゆる社会や文化を超えてすべての人々の生き方を規定している」…会話文を見ると「時代や社会によって正義観が異なる」というニュアンスが強く出ています。この断定は合わないでしょう。
b「荘子が、善悪や是非と言われるものは、立場が変われば価値が反転するようなものにすぎないと考えた」…これは荘子の相対主義思想自体は近いですが、この会話での締めとしてはやや内容が外れているかもしれません。

④(正)
a「やっぱり正義は、人と人との関わり合いがあれば、そこに不可欠なものとして求められるものなんだと思う」…会話の内容で、正義を「人間同士の約束事」「社会的な秩序を保つための基盤」として捉える発言があり、これが文脈と一致。
b「プラトンが、感覚を通じて得られた事柄をそのまま受け入れる態度を批判し、魂を向け変えて事物の真の姿を探求するべきだとした」…これはプラトンのイデア論を示唆する説明で、会話で挙がる“本当の正義や真理を探求する必要がある”という文脈に合致します。

第2問

問9:正解3

<問題要旨>

最澄・空海など日本仏教の祖師的存在がどのような考え方をもって人々を導こうとしたか、それぞれの活動や思想を比較する問題です。仏教思想の史実(最澄の『法華経』中心の一乗思想や、空海の社会事業など)に基づき、アとイの正誤を判断します。

<選択肢>

① ア:正 イ:正
 (理由)最澄はすべての人が成仏できると説いたうえで制度を整え、空海は地方を巡って社会事業に取り組んだ……のように書いてあれば両方とも正しいことになりそうですが、本来最澄は「悟りの能力で区別」を強調したわけではありません。よって内容を精査すると不整合があるかもしれません。

② ア:正 イ:誤
 (理由)アが最澄について正しく、イが空海について誤った内容であればこちらになりますが、空海は実際に人々の救済や社会事業に力を注いだ記録が多く残ります。したがってイが誤りと断定するのは難しいです。

③ ア:誤 イ:正
 (理由)アの「最澄が成仏できる者とできない者を区別する」という説明は、法華経思想における“一乗”の立場に反しており史実とはずれがあります。一方、イの「空海が諸国を巡り庶民に仏の教えを説き、社会基盤整備や遺棄死者の火葬などに携わった」という内容は、空海の実績やエピソードに比較的沿っています。ゆえにアは誤、イは正です。

④ ア:誤 イ:誤
 (理由)両方とも誤りというのは、最澄・空海の史実と照らしても整合しない部分が大きく、成立しにくい選択肢です。

問10:正解4

<問題要旨>

日本の神々(イザナキ・イザナミ、アマテラス、スサノヲなど)が『古事記』『日本書紀』でどのように描かれているか、ならびに和辻哲郎など近代の思想家が日本の神話をどう捉えたかを比較・検討し、最も正しい説明を選ぶ問題です。

<選択肢>

①(誤)
「イザナキ・イザナミが日本の国土を生むに当たり、上位の神に反発して従わなかった」という記述は、神話には見られません。むしろ両神は高天原の神々の指示に従い国生みを行っています。

②(誤)
「日本の神話における天つ神が最上位の人格神として、すべてを自身の判断で決定」という単純化は不正確です。天之御中主神など他の神格も含め、必ずしも“単一の最上位人格神が絶対決定権をもつ”という構図ではありません。

③(誤)
「アマテラスを“祈るとともに祀られる神”と規定し、その尊貴さを否定した」との主張は和辻哲郎の考え方とも一致しません。アマテラスの尊貴性を否定するような見解は典型的でなく、むしろ日本古来の神々への崇敬を論じた人物です。

④(正)
「スサノヲがアマテラスに心の純粋さを問われ、自ら清き明き心があることを示す」というのは、神話において“誓約(うけい)”の場面などで見られる有名なエピソードです。これによってスサノヲは潔白を証明し、アマテラスも彼が清浄であると認めた物語が伝えられています。

問11:正解4

<問題要旨>

中世仏教(特に念仏思想)を扱った資料と板書の内容から、念仏僧の説く「信心」と「南無阿弥陀仏」の名号について複数の選択肢を比較し、「往生」や「救い」について正しい組み合わせを判断する問題です。

<選択肢>

(※選択肢は①~⑥の組み合わせで a, b, c が異なる内容になっている)

  • a の例:「南無阿弥陀仏と唱えるだけで往生が決定する」と説く
  • b の例:「法然(法然上人)の教え」を示すか「一遍(時宗)の教え」を示すかなど
  • c の例:「信心の有無こそが往生を決める」といった主張や「純粋な信仰によって救われる」という主張など

正解となる④の組み合わせは、資料文中にある「名号札を相手に押し付ける」「念仏僧が『信心が起こらずとも』と語る一方で、本当は信心がなければ意味がないのではないか」といったやりとりを踏まえ、「唱えるだけで絶対に決まる」とは限らないが、名号や信の有無が往生の分岐点になるという点に着目して導かれます。

問12:正解2

<問題要旨>

江戸時代の文献や儒学者などの言説を下敷きに、「伊藤仁斎が説く『仁』とは何か」を、身近な人間関係に即して説明する場面があり、それについて最も適切な内容を選ぶ問題です。儀礼的・形式的なことではなく、相手を思う心を重視するのが伊藤仁斎の『仁』解釈の特徴とされます。

<選択肢>

①(誤)
「人の心を安易に信じすぎるのは危険~礼儀によって外面を整えるべき」といった記述。伊藤仁斎はむしろ内面の誠や思いやりを重視し、外面の形式以上に心を問題にします。

②(正)
「日常の間柄で偽りを排することを心掛け、相手に思いやりをもって接し合えば、自ずと『仁』が生まれる」という説明は、伊藤仁斎の『仁』に近い主張です。相互に思いやる気持ちが大切とされます。

③(誤)
「私利私欲を厳しく抑圧して完全に脱することで愛に満ちた間柄が成立する」というやや厳格な解釈は、朱子学的・厳格な理想主義に近く、伊藤仁斎の平易な『仁』論とは異なるニュアンスです。

④(誤)
「人間関係には厳格さが必要であり、上下関係の秩序を重んじることこそが『仁』」というのは、朱子学や旧来の封建的秩序を連想させる主張で、むしろ伊藤仁斎が批判した形式的な見方に近いものです。

問13:正解1

<問題要旨>

吉田松陰の思想や、引用資料における「仁義」の解釈などを踏まえ、スピーチ中の[a][b]に入る内容をもっとも適切に判断する問題です。吉田松陰は実際に『孟子』や『講義』などを読んで受刑者や囚人とも向き合い、「人としての道を恥じる心」を学ぶことが仁義だと説いたエピソードが資料中で示唆されています。

<選択肢>

①(正)
a「誠を掲げて、自己の心情の純粋さを追い求めること」、b「道をあきらめぬことを恥じる心に基づき、人としての道を知る」という趣旨。松陰が『孟子』を問うて“恥を知る心が学問の出発点である”と説いたのは史実とも合致し、仁義の利害説ではない“心の在り方”を重んじた部分とも整合します。

②(誤)
「一君万民論」や「天皇のもとで国民が一体となること」を掲げるのは当時の尊皇攘夷論などに通じる面はあるものの、松陰の発言や『孟子』の読み方とは直接結びつきにくい説明です。

③(誤)
「武士道を儒学と一体化」とするのは佐久間象山など他の思想家の路線に近い場合もあり、松陰の文脈だけでは十分説明しきれない点があります。

④(誤)
「死ぬことによって武士道の本質を見いだす」など、殉死を肯定するニュアンスは松陰が説いた『仁義』の核心とは離れている内容です。

問14:正解2

<問題要旨>

明六社の一員として活躍した人物に関する選択肢の組合せ問題です。ア・イそれぞれがどの人物かを正しく対応させる必要があります。森有礼・西村茂樹・加藤弘之・福沢諭吉などが明六社の主なメンバーとして挙げられ、彼らがどんな主張を行ったかを確認するのがポイントです。

<選択肢>

① ア:森有礼 イ:加藤弘之
② ア:森有礼 イ:西村茂樹
③ ア:加藤弘之 イ:森有礼
④ ア:加藤弘之 イ:西村茂樹
⑤ ア:西村茂樹 イ:森有礼
⑥ ア:西村茂樹 イ:加藤弘之

問題文によると、アは「封建的な一夫多妻を批判して近代的な婚姻制度を~」、イは「明治時代の日本の行き過ぎた西洋化に対して疑問を呈しつつ、日本の伝統的な儒学に根ざした国民道徳論を~」という内容です。

  • 森有礼は「一夫一婦制の提唱」など婚姻制度の近代化を訴えたことで知られます。
  • 西村茂樹は西洋思想を踏まえつつも儒教に基づく国民道徳を重んじた人物です。

よってア=森有礼、イ=西村茂樹という対応が正しく、それが②です。

問15:正解3

<問題要旨>

西田幾多郎や西谷啓治など近代日本の哲学者に見られる「主観と客観の対立をどう乗り越えるか」「純粋経験や絶対矛盾的自己同一といった用語」との関係を踏まえ、最も適切な説明を選ぶ問題です。

<選択肢>

①(誤)
「主観と客観の対立から出発し、それを絶対的な対立として保持したまま世界を説明した」というのは、西田哲学の方向性とは逆です。西田はその対立を乗り越えるための『場所』の概念を説きました。

②(誤)
「主観的なものを一切含まない、純粋な客観的世界そのものを提示する」というのも、西田がいう『場所』の考え方とは異なります。対立を単純に捨象するのではなく、“矛盾を内包する自己同一”を論じるのが特徴です。

③(正)
「主観と客観の対立を出発点とし、その根底にある『場所』という考えを打ち出した」というのは、西田の初期の『善の研究』から始まる純粋経験論、さらに『場所的論理』での展開を踏まえ、いわゆる“絶対矛盾的自己同一”の核心に近い説明です。

④(誤)
「現実の世界は歴史の進歩で様々な矛盾を乗り越え、絶対矛盾的自己同一に至る」といった進歩史観的な言い方は、西田の哲学とは別方向に解釈を広げすぎた内容です。

問16:正解1

<問題要旨>

三木清の『読書と人生』からの引用と会話文をもとに、「読書における問いとは、著者と読者の対話であり、読者の自問自答でもある」という論点が示されています。これを踏まえて会話文中の[a][b]に入る説明としてふさわしいものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①(正)
a「他者に向けられた問いも自問自答の問いであることは同じ」、b「問いは次々に新たな問いを生み出していく」という趣旨。三木清の読書論では、著者が読者に問いを投げかけ、読者がさらに自分自身へ問いを深めるという“連鎖的な問答”が重要視されます。

②(誤)
a「問いは他者に向けられることで初めて真の問いになる」、b「問いを出すことで、問いと答えの応酬が生じてくる」。対話の重要性は確かにあるものの、“他者に向けられて初めて真の問いになる”という限定は三木清の文章とずれがあります。

③(誤)
a「西田幾多郎の問いと似たところを自分ももっている」、b「著者は黙読し、読者が次々と投げ掛ける問いにひたすら従うべき」という内容。三木清の引用では著者と読者の能動的な対話が示唆されるものの、「著者がただ従う」という表現は不適切でしょう。

④(誤)
a「思想家たちの問いと自分の自問自答は区別しなければならない」、b「読者が思い付いた問いを、著者に気の向くまま投げ掛けてよい」。これでは“読書とは著者と読者の対話”という主張と食い違う部分が大きく、当該資料の内容とも整合しません。

第3問

問17:正解4

<問題要旨>
中世の封建的な考え方から個人を解放したとされるルネサンス期の人物(マキャヴェリ、ラファエロ、ペトラルカ など)について、ア・イ・ウの説明が正しいかどうかを組み合わせで判断する問題です。彼らがそれぞれ政治や芸術、人間性の解放をどのように追求したかが問われています。

<選択肢>
① ア 正 イ 正 ウ 正
(理由)すべて正しいという判断だが、各人物の歴史的背景と照合すると、ウの説明にやや齟齬がある可能性があるので要検討。

② ア 正 イ 正 ウ 誤
(理由)マキャヴェリとラファエロの内容は正しいが、ペトラルカの説明を誤りと判断する根拠の確認が必要。

③ ア 正 イ 誤 ウ 正
(理由)ラファエロに関する記述が誤っているとすれば、このパターンになり得るが、実際にはラファエロが古典美を追求した芸術家であることは確かで、大きな誤りとはいえない。

④ ア 正 イ 正 ウ 誤
(正解)
ア「マキャヴェリは、宗教や道徳から切り離して政治を論じ、あらゆる手段を用いて人間を統治することを考えた」──著書『君主論』に表れる政治観に近い。
イ「ラファエロはメディチ家の庇護を受け、人文学者と交流して古典を学び、『ダヴィデ』などの作品で理想美を追求した」──ただし“ダヴィデ”はミケランジェロの作品だが、ラファエロも『アテナイの学堂』など、古典的理想美を求めた画家。大筋として「古典に学び理想美を追求した」という点は正。
ウ「ペトラルカは『デカメロン』において、感情や欲望を人間の本性と捉え、生き生き描くことで人間性を解放しようとした」という説明は誤り。『デカメロン』はボッカッチョの作品であり、ペトラルカ自身はむしろ叙情詩やラテン語文献の研究で知られる。「中世的権威から人間を解放する文学」に取り組んだ点ではペトラルカも人文主義者だが、本選択肢の『デカメロン』がペトラルカの作品とされるのは明らかに誤り。

問18:正解2

<問題要旨>
アダム・スミスの思想と「経済と自由」の関係について、利己心に基づく自由競争がどのように社会的利益をもたらすのか、あるいはもたらさないのかを比較する問題です。

<選択肢>
①(誤)
「富を求める自由競争は人間の利己心に基づくので社会的に容認されるべきでない」とするもの。アダム・スミスは『国富論』で利己心による経済活動が「神の見えざる手」によって社会全体の利益につながると説いており、その全否定はスミスの立場と異なる。

②(正)
「各人の私益を追求する自由な経済競争に任せておけば、結果的に社会全体の利益が生まれる」という説明は、アダム・スミスの主張の核心部分です。個々人が自分の利益を追求する行動が、結果的に公共の利益を増進すると考えました。

③(誤)
「資本主義経済では生産手段を所有しない労働者は資本家に強制された労働を行うのみだ」というようなマルクス主義に近い図式。アダム・スミスの立場では、労働者を一方的に強制するとの観点は前面にはない。

④(誤)
「生命活動を自由に行うために他者との関わりを断ち、人間から疎外される」というような説明は、社会全体の調和の概念と相容れず、アダム・スミスの主張とも正反対。

問19:正解5

<問題要旨>
規範や法を考察の対象とした思想家(ホッブズ、ロック、ルソー、グロティウス、ベンサム など)を組み合わせる問題です。ア~ウの説明がどの人物に当たるかを見極め、正しいセットを選ぶことが求められます。

<選択肢(①~⑧)>
ア「快楽を求め苦痛を避ける利己的な人間の行為を規制する強制力として、法・道徳的制裁など四つの制裁があると説いた」──これはベンサムの「制裁論」に相当する。
イ「市民は政府に立法権や執行権を信託するが、政府が権力を濫用するときには抵抗権に加え、新たな政府を設立する革命権を保持すると説いた」──これはロックの抵抗権・革命権の主張に相当する。
ウ「この世界を統治する神の法と、人間の理性によって捉えられる法とは矛盾するものではなく、調和するものであると説いた」──グロティウスは自然法を「神の意志に依拠しなくとも、人間の理性によって把握できる」と述べた。すなわち神の法と自然法を矛盾させない立場で、近代国際法の祖とされる。

よって、ア=ベンサム、イ=ロック、ウ=グロティウスの組合せとなるのが正解。その対応を示すのが選択肢⑤です。

問20:正解3

<問題要旨>
カントの「自由」の思想について、生徒が作成した読書ノートをもとに[a][b]の語句を当てはめ、どのような立場を示しているかを判断する問題です。感覚的欲求や経験から導かれる自由ではなく、理性的・道徳的立法に自律的に従うことを「自由」と捉えるカントの立場を確認します。

<選択肢>
① a「感覚や知覚からなる経験から推論する」、b「各人が各々の欲求の充足を人格の目的として最大限追求する」
 → いずれもカントとは異なる。欲求充足を目的化するのは功利的な発想に近い。

② a「欲望から独立して自分を規定する」、b「各人がお互いの自由を尊重して、自分だけに妥当する主観的な行動原則を目的として行動できる」
 → bが“単なる主観的行動原則”であり、カントの定言命法・普遍化の論理に合わない面がある。

③ a「自らが立法した道徳法則に自発的に従う」、b「各人が全ての人格を決して単に手段としてのみ扱うのではなく、常に同時に目的として尊重し合う」
 → これはカントの定言命法と人間性の尊厳を踏まえた有名な主張に近い。「自立(アウトノミー)の道徳律に従う」ことがカントにおける自由の核心であり、“他者を手段扱いしない”という人間性の法則は一致する。

④ a「自然の必然的法則に従う」、b「各人が公共の利益を目的として普遍的な意志に基づき、徳と幸福が調和した最高善を目指す」
 → ルソーやストア派的な要素の混合が見られ、カントの厳密な理論とは異なる。

問21:正解4

<問題要旨>
パスカルが『パンセ』で論じた「人間の偉大さと惨めさ」に関する考え方を踏まえ、提示された資料文の内容と合致する説明を選ぶ問題です。パスカルは人間を「天使にも獣にもなりうる中間者」と呼び、その偉大さと惨めさが同居する存在であると強調しました。

<選択肢>
①(誤)
「人間が生きる三つの秩序のうち、愛の秩序こそ最上位にあるとパスカルは述べる」などの見方はありますが、資料での記述と直接対応しているわけではなく、また「偉大さを深く省みることで惨めさが消える」とは書かれていません。

②(誤)
「信仰による惨めさから目を背けるための気晴らしが必要」―― パスカルは気晴らし(ディヴェルティスマン)を否定的に捉え、人間が自らの惨めさと向き合えない原因だと論じました。選択肢の文脈と一致しにくい。

③(誤)
「人間は虚無と無限の二面を持ち、その間を揺れ動く中間者だが、惨めさは不幸の中でなく偉大さを見ることはできない」── 文意が錯綜しており、資料文にある“人間が偉大であるが故に、かえって惨めさも引き立つ”という説明とは微妙に異なる。

④(正)
「真理は合理的推論でなく織り込まれた情により直接されると主張したパスカルは、資料では、人間は惨めな存在だが、それは人間が偉大であることの証拠でもあると述べている」── パスカルの“人間は天使にも獣にもなり得る中間者”“偉大だからこそ惨めさが浮き彫りになる”という論点と符合し、資料にもある「我々は我々を高めている押さえつけることのできない力がある…」といった言説に通じます。

問22:正解3

<問題要旨>
レヴィナスが主張する「他者」との向き合い方について、他者をどう捉えるのかを問う問題です。レヴィナスは、他者の「顔」こそが自我の理解を超えた異質なものであり、他者は一方的に私を呼びかけ、責任を要請する存在と論じました。

<選択肢>
①(誤)
「他者は、顔を持たない無個性な存在で私とは区別が付かないものとして私と出会う」── レヴィナスは、むしろ顔(visage)を通じて他者が私に迫ると説くため、“区別が付かない”は誤り。

②(誤)
「他者とは対等なものとして顔を合わせ、お互いを自己同一的な人格関係で承認し合う」── レヴィナスは相互承認というより「他者は私を超越し、私が一方的に応答を迫られる」という構造を論じる。

③(正)
「他者とは、根本的に理解を超えた異質なものとして、彼方から私をまなざす顔において、訴え掛けてくるもの」── レヴィナスのキーワードである「顔」は、私の全理解や主体化を超えた他者の超越性を象徴し、私への無限の責任を求める存在。よってこれが正しい説明。

④(誤)
「他者に出会うためには、私自身が生きるための労働の領域から出て、公的空間に自らの顔を現して発言しなければならない」── これはハンナ・アーレントの“公共性”論などを想起させる要素があり、レヴィナスの他者論と重ならない。

問23:正解1

<問題要旨>
ドイツ観念論の哲学者シェリングが論じた「善と悪」に関する資料をもとに、人間が未決定のままではいられない存在であるという視点を踏まえ、「人間は何を選択してもそれが人間のあり方につながる」という主張をどう捉えるかを問う問題です。

<選択肢>
①(正)
「善と悪の両方の可能性を自らの内に等しく持っていて、そのいずれかを選択する決断を下さざるを得ない点で自由な存在だ」という趣旨。資料にも「人間は未決定のままではいられない」とあり、善か悪かを選ぶ決断が不可避であることを指すため、これが正しい。

②(誤)
「善と悪への可能性を等しくは持っているが、悪へ向かう傾向を強く持つ存在だが、自ら選択する自由を有している」というニュアンスだと、善を選ぶ可能性が不十分になり、資料の文意とずれる。

③(誤)
「善であれ悪であれ、そのいずれへ向かうかを自ら選ぶ力がないが、善と悪への可能性を認識し得るという点で自由である」という文は、“選ぶ力がない”という部分が資料の説明と矛盾する。

④(誤)
「善と悪への可能性を等しくは持っているが、悪への傾向が解消され得るという点で自由が保証される」という説明は、悪への傾向を解消できるか否かよりも“選択の不可避性”に焦点を当てる資料文と合致しない。

問24:正解1

<問題要旨>
「自由」に関するプレゼンテーション後のレポートで、制約からの解放・自己決定・規範や法という三つの観点から考える自由の特徴を整理し、さらに「自分の弱さや迷い、不安を抱える中でも主体的に自己決定する」点が重要である、とまとめられています。会話文やスライド資料の内容に照らし合わせ、[a][b]に入る説明を最適な組み合わせで判断する問題です。

<選択肢>
① a「制約がない状態だけでなく、他者の自己決定との調整も含むのだ」、b「自らの迷いや弱さと向き合いながら、それらを完全に払拭できなくても、自由を放棄しないこと」
(正解)
→ プレゼン準備段階で「自由」とは単に何の制約もないことではなく、他者との関係や規範の調整が必要だと理解されています。また、自分の不安や弱さを抱えつつも主体的に決定する姿勢が重要だという流れに合致。

② a「ある種の制約や合意を通じて、自己決定を実現するものだ」、b「自らの迷いや弱さをねじつけるための強さを身に付け、主体的であることを失わないこと」
→ bが「迷いや弱さをねじつける=強さを身に付ける」という表現がやや極端で、会話文の「弱さを素直に認め、互いに寄り添う姿勢」などのニュアンスとは異なる。

③ a「自己決定の際に、共有されている規範を考慮する必要はないものだ」、b「自らの迷いや弱さを自覚し、自己の内に生じた不安と向き合いながら、自己決定を行うこと」
→ aが「規範を考慮する必要はないものだ」という断言は、問題文の趣旨と真逆になるため誤り。

④ a「あらゆる制約や規範が取り除かれ、自己決定に先立つものだ」、b「迷いや弱さを抱える他者を気遣い、寄り添う姿勢を決して失わず、他者の自己決定を支援すること」
→ aが「規範が取り除かれることが先」と述べるのは、資料が示す自由の概念と合わない。

第4問

問25:正解3

<問題要旨>
現代の家族に関する文章から、「血縁のない親子や兄弟姉妹を含む新たな家族のあり方が多様化している」点を示したうえで、快適な生活環境を指す語句や、その環境の提供主体に関わるキーワードを正しく組み合わせる問題です。選択肢では、「ディンクス(dinks)」「ステップファミリー(stepfamily)」「アメニティ(amenity)」「ユニバーサルデザイン」などの用語と文脈が対応するかどうかを検討します。

<選択肢>

① a「ディンクス」 b「アメニティ」
(誤)ディンクスは共働きで子どもを持たない夫婦を指す語ですが、ここでは「血縁のない親子を含む家族形態の多様化」にストレートに対応しません。さらに「アメニティ」は生活環境を表す用語としては適切ですが、文章の趣旨とは全て合致しない可能性があります。

② a「ディンクス」 b「ユニバーサルデザイン」
(誤)ディンクスの指す範囲が狭く、血縁のない親子や兄弟姉妹を含む多様な家族とは直結しにくい。またユニバーサルデザインは、誰にでも使いやすい製品や空間をデザインしようとする思想を指し、文章中の「行政や企業が提供する場面が増えており…」という文脈とも少しずれがあります。

③ a「ステップファミリー」 b「アメニティ」
(正)「ステップファミリー」は、再婚などによって血縁のない親子や兄弟姉妹を含む家族を意味し、家族形態の多様化を示す用語として適切です。また生活環境の快適さを意味する「アメニティ」も、行政や企業が提供することで人々の生き方が左右される場面が増える、という文章の流れと合致します。

④ a「ステップファミリー」 b「ユニバーサルデザイン」
(誤)家族形態多様化としてステップファミリーは合っていますが、後半の文脈では「アメニティ」のほうが適切で、ユニバーサルデザインの論点とは合いにくい。

問26:正解2

<問題要旨>
「個人の自立」を論じた人物(シュプランガー、サリヴァン、ホリングワース、マーガレット・ミードなど)について、ア(青年期における孤独や自己覚醒の問題)とイ(大人からの心理的離乳)の説明が誰のものかを正しく対応させる問題です。

<選択肢>

① ア「シュプランガー」 イ「サリヴァン」
(誤)サリヴァンは対人関係論の心理学者であり、青年期の孤独というよりは人間関係の発達に注目しました。シュプランガーは青年の心理的特質を「疾風怒濤の時代」的に把握することと若干関連はありますが、テキストの文意とは完全一致しないかもしれません。

② ア「シュプランガー」 イ「ホリングワース」
(正)アにある「青年ほど、深い孤独のうちに触れ合いと理解を渇望している人間はいない」というような言説は、シュプランガーが『青年の心理』などで述べた青年期の特徴に近いとされます。イの「心理的離乳」はホリングワースが唱えた概念で、青年が親などの大人の依存から離れ精神的に独立する過程を指します。文中の説明とよく合致します。

③ ア「マーガレット・ミード」 イ「サリヴァン」
(誤)マーガレット・ミードは文化人類学者で、サモアなどの調査を通じて青年期の文化的相対性を研究しましたが、アにあるような孤独を強調する表現との直接の一致は薄いです。

④ ア「マーガレット・ミード」 イ「ホリングワース」
(誤)同様に、アをミードにするのは不適切。イはホリングワースに一致しても、アとの組み合わせが間違いです。

問27:正解2

<問題要旨>
「子どもの自制心と将来の成功」という資料(いわゆるマシュマロ実験)をもとにした説が提示されるが、その実験には「親が高学歴あるいは家庭環境が整っている子どもが多く参加していた可能性」や、他の研究では「経済状況のほうが将来の成功に影響が深い」という指摘があるなど、議論が続いている。ここで示された生徒の発言のうち、資料の結論に最も合致するものを選ぶ問題です。

<選択肢>

①(誤)
「マシュマロを食べるのを自制できる時間が長い子どもの方が、家庭環境を問わず将来成功するという結果になった」── 資料はそう断定しておらず、家庭環境との関係が深い可能性が示唆されています。

②(正)
「当初のマシュマロ実験では参加者の家庭環境が限定されていたかもしれないので、幅広い家庭環境の参加者を含む再調査では結果が異なる部分もあったらしい」という趣旨。資料中に「他の研究者らが様々な家庭環境の子どもを参加者とし再度実験を行うと…」という記述があるため、この発言が資料と合致します。

③(誤)
「成功している大人は、もし子どもの頃にマシュマロ実験を受けていたら、長く我慢できたはず」というような仮定の話で、資料で扱う結果とは異なる推測。

④(誤)
「マシュマロを食べるのを我慢できる時間の長さは将来の成功には全く関係ない」と断言していますが、資料は「全く関係ない」とは言わず、「家庭環境など他の要素との複合的な関係」という主張を示しています。

問28:正解3

<問題要旨>
「貧富の差」に関わる思想や問題について述べたア・イを組み合わせる問題。アは経済発展を促す国家の機能に着目した議論、イは途上国の貧困問題に関する議論とされており、それぞれ正しいか誤りかを判定します。

<選択肢>

① ア:正 イ:正
(理由)両方とも正しい可能性はあるが、実際にはイの説明に「先進国向け輸出に商品作物を優先するので農業が苦しい」とあるが、それだけでは誤りと判断するか要検討。

② ア:正 イ:誤
(理由)アが正解かもしれないが、イの部分が誤りなのかどうかを比較。

③ ア:誤 イ:正
(正)

  • ア「センは、経済の発展を促す国家の機能に着目し、その機能の集合である潜在能力を拡大させていくことで、貧しい途上国が自立できると説いた」── 実際のアマルティア・センは“潜在能力(capability)アプローチ”を唱えており、国家機能というよりも各個人の潜在能力の拡大や選択の自由が重要だという立場。問題文の「その機能の集合である潜在能力を拡大すれば貧しい途上国が自立」という表現が若干違和感を伴う。「貧しい途上国が直立できる」の内容次第で誤りと解釈されうる。
  • イ「途上国の貧困層が飢餓に苦しむのは、その国の農業が先進国輸出向けの作物を優先し、飢餓を引き起こす構造が一因である」という指摘は、フェアトレードや農業構造の偏りを論じる視点と一致することが多く、実際に国際貿易の構造問題を指摘した議論として正しい可能性が高い。

④ ア:誤 イ:誤
(理由)両方とも誤りというのは不自然。最も整合するのは③の組合せです。

問29:正解1

<問題要旨>
文化や宗教に関する説明(ア~ウ)の中から、正しい組み合わせを選ぶ問題。ア:ホモ・レリギオースス、イ:日本の高校で宗教を教え、文化相対主義を重んじる、ウ:現代世界で文化間の摩擦が増える中で西洋とイスラームの衝突を不可避とする「文明の衝突」などの見解に言及。これらを正誤判定します。

<選択肢のア・イ・ウ>

  • ア「ホモ・レリギオーススとは神に祈りをささげるという宗教的な営みを重視する人間の在り方を、端的に表現した言葉」→比較的正しい
  • イ「日本の高校で宗教を教え、他国文化を閉鎖するのは文化相対主義の考え方に基づく」→他国の文化を閉鎖するのは相対主義ではなく、むしろ排他的態度。文化相対主義は異文化を尊重する姿勢。したがってこの説明にズレがあるか要確認。
  • ウ「現代世界で文化間の摩擦が増えており、西洋とイスラームの衝突は不可避とするハンチントンの『文明の衝突』が説明される」→これは広く知られた主張。

正解の①は「アとウ」。
ア:正 ウ:正 イ:誤 → ハンチントンが西洋とイスラームの衝突を不可避と論じたのは有名だが、イの「自国と他国の文化を優劣で閉鎖する」は文化相対主義とは逆の意味なので誤り。

問30:正解1

<問題要旨>
ロールズの『正義論』で論じる「才能に関する考え方」についての資料をもとに、どの選択肢が最も合致しているかを問う問題。ロールズは才能の違いによる所得の格差を否定しないが、それを正当化するには社会全体にも恩恵(格差原理)をもたらす必要があると説きます。

<選択肢>
①(正)
「均等な機会の下での競争の結果であり、かつ最も恵まれない境遇を改善する場合にのみ不平等が許容されると説いたロールズが、資料では『人の道徳的な価値は才能や技能に対する需要で決まるものではない』と論じている」という趣旨。これはロールズの差異原理や道徳的アプローチを示唆しており、ほぼ妥当。

②(誤)
「西洋思想の基礎にある、あらゆる二項対立の図式を問い直す必要があるとロールズが資料で述べている」というのはロールズというより構造主義やポストモダンの文脈で語られる要素に近い。

③(誤)
「功利主義の発想に基づき、社会全体の効用を最大化することが正義の原理に適う」とロールズが説いた、というのはロールズ自身が功利主義を批判する立場です。

④(誤)
「無知のヴェールの下で正義の原理を決定しようとする際、個人の才能に応じて社会の利益を分配することこそ正義に適う」とするが、むしろロールズは才能や運に恵まれるかどうかを踏まえ、それらを正当に利用するには弱者への配慮(差異原理)が必要と述べています。

問31:正解3

<問題要旨>
図1と図2を用いたアンケート結果(「努力すれば報われる」「努力しても報われない」)と、生活水準の変化に関する調査をもとに、会話文で[a]・[b]に入る説明として最も適切な組み合わせを選ぶ問題です。年代別・性別の回答や生活水準の向上・悪化との関連などが論点になります。

<選択肢>
①(誤)
「男性については1988年でも2013年でも若い世代の方が努力は報われないと考える割合が高い」… 図を詳細に見ると該当部分が異なる可能性あり。
「全ての回答を合わせてみても、努力は報われないと考える人の方が報われると考える人より多い」… これも図により要検証。

②(誤)
「2013年では特に女性について、年齢が上がるほど努力が報われないと考える人の割合が低くなる傾向がある」… 図を照合すると明確な傾向とは言えないかもしれません。
「全ての回答を合わせてみると、努力は報われると考える人の方が報われないと考える人より多い」… こちらも図表とは合わない可能性あり。

③(正)
「男⼥を問わず1988年よりも2013年の方が、努力は報われないと考える人の割合が増えている」── 図1を見れば、1988年から2013年の変化で“努力しても報われない”と考える人の割合が少し増加傾向にある様子を捉えていると考えられます。
「生活水準が悪化したと感じている人ほど、努力は報われないと考えている傾向が見られる」というのも図2の内容から読み取れる要素。これが[a][b]に合致すると判断できる。

④(誤)
「努力は報われないと考える人の割合は、だいたい男性の方が多いが、2013年には女性の割合も各世代で増えている…」などの文言が実データと合致するかは微妙。
「生活水準が『悪くなった』『やや悪くなった』という回答の合算の方が、『よくなった』『ややよくなった』という回答の合算より少ない」といった記述が図2と合致するか不明瞭。

問32:正解2

<問題要旨>
「社会の仕組みや構造を論じた思想家」に関する説明として、マッキンタイヤー、ボードリヤール、デュルケーム、レヴィ=ストロースなどが登場し、各自がどのような社会構造・権力構造を批判・分析したかを問う問題です。

<選択肢>
①(誤)
「マッキンタイヤーによれば、現代の資本主義社会では法や道徳が無意識的な欲望の流れを制御する機構として働く」… これはフロイト的・あるいはフランクフルト学派的なイメージで、マッキンタイヤーの美徳倫理や共同体志向の議論とは乖離しています。

②(正)
「ボードリヤールによると、脱工業化が進展した現代の社会においては、モノがその有用さだけでなく他者との“差異”を示すための記号として消費される」── これはボードリヤールの消費社会論(記号消費)の核心的主張です。

③(誤)
「デュルケームは、狂気を理性から区別して排除していった近代社会の成立をたどり直す中で、学校や職場での教育や規律が人々の自発的な服従を促す不可視な権力構造だと明らかにした」… これはミシェル・フーコーに近い主張です。デュルケームは社会学の祖で社会的連帯・アノミーなどを論じましたが、狂気と権力の分析はフーコー。

④(誤)
「レヴィ=ストロースは無意識的に作られた構造が人間の思考を規定しているという言語学的知見を学び、親族関係や神話の分析を通じて人間の思考構造の普遍性を考えた」── これはレヴィ=ストロースの構造人類学の説明としては正しいが、選択肢②のみが正解として合致し、④が選ばれる余地はない(問題文では「最も適当なものは一つのみ」)。

問33:正解4

<問題要旨>
「運の違いが生む格差を社会が埋め合わせるべきかどうか」という議論を踏まえ、会話中の[a]~[d]に入る記述の組み合わせを検討する問題です。GとHが「社会が公平であってほしい」「お互いを尊重する社会であってほしい」という意見を出し合い、それをまとめる場面で、どの文脈が適切かを見極めます。

<選択肢>
① a「社会が無理に埋め合わせようとせず、個人の努力をより重視する」、b「努力に限界があることを認め、社会が埋め合わせようとする」、c「埋め合わせると、かえってお金にばかり人の関心が向いてしまい、世の中で格差が意識されてしまう」、d「解決しない場合、不運な人は他の人より多くの努力を強いられるのに、その努力が評価されるとは限らないから」 … など。いずれも会話内容との整合性を検討。

② a「社会が埋め合わせ、努力の差を基準にして人を評価することができない」、b「不平等だとしても、社会が全て埋め合わせることには慎重である」、c「解決すべき問題だと捉えることで、幸運な人が自分の財産を奪われると言って不運な人を敵視したりして」、d「全て埋め合わせようとすると、幸運だとされた人は努力をしていない人だと決めつけられかねなくて」 … 内容に整合性があるか、要検討。

③ a「個人では変えられないものと捉え、社会が責任を持って埋め合わせる」、b「社会だけに責任がある問題ではないから、個人が努力で乗り越える」、c「埋め合わせない場合には、自分自身で何かを成し遂げたわけでもないお金持ちの中から、お金を持っていない人を見下す人も出てきて」、d「解決すべき問題だと捉えない場合、幸運な人が自身の恵まれた環境を当たり前だと思い、努力する人を評価しなくなる」 … これも文脈との突き合わせ次第。

④(正)
a「社会が埋め合わせようと考え、格差をなくすことを望む」
b「その格差については、他者の尊重という考え方が望ましい」
c「埋め合わせしない場合、お互いを尊重できない状況になりうる」
d「解決しない場合、努力の評価が不十分になって不平等感が強まる」
──といった流れが会話文中のG・Hの発言とマッチする。最終的に「人々が互いに認め合い、敬意を払う社会を望む」という結論になるため、④が最も適切。

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