2022年度 大学入学共通テスト 本試験 倫理 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解2

<問題要旨>

この小問は「下線部①」に関連して、古今東西の宗教や思想家が説いてきた「真理」についての説明を四つ示し、そのうち会話や資料の文脈に最も適合するものを選ぶ問題です。選択肢には、ソクラテスの対話法・イスラームの啓示・中世ヨーロッパのスコラ哲学・仏教の教えなどが挙げられ、歴史的・思想的事実に照らし合わせて正否を判断することが求められます。

<選択肢>

①【誤】 ソクラテスは「産婆術(助産術)」の比喩を用いて、相手の中にある真理を自覚させる対話を重んじました。「自分の持っている真理を直接教え込む」ような記述はソクラテスの思想を正確には反映していません。むしろ「知は自らの内に既にあるが、無知に気づくことで正しい認識に導かれる」という考えがソクラテスの特色です。

②【正】 イスラームでは、ムハンマドが神の啓示(コーラン)を受け伝えた預言者であるとされ、その啓示に基づく行為規範(スンナ)も信者の生活を方向づける原理になります。この選択肢はその歴史的・教義的事実を端的に述べており、イスラームの教えを正しく示しています。

③【誤】 中世ヨーロッパのスコラ哲学では、一般に「哲学は神学に仕える手段」と位置づけられ、神学の真理をより深く理解するために哲学的思考が用いられました。選択肢の文面は「哲学の真理が神学の真理より優越する」という逆の関係を述べているように読め、スコラ哲学の歴史的事実と合致しません。

④【誤】 ブッダは「身分ごとに異なる義務を果たすことによって悟りに到達する」とは説いていません。むしろ四諦や八正道などの普遍的教えを説き、「悟り」は特定の生まれや階層に依存しないとするのが仏教の基本的立場です。したがって、この記述は仏教の歴史的・教義的内容とは一致しません。

問2:正解3

<問題要旨>

この小問は「下線部②」に関連して、古代中国における礼(儀礼・規範)に関する孔子・孟子・墨子の言説を示し、それぞれの記述が正しいか誤っているかを組み合わせで選ばせる問題です。儒家や墨家の典拠・思想内容を踏まえ、誰がどう語ったかを正確に押さえる必要があります。

<選択肢(ア・イ・ウ)と組合せ>

ア:孔子
イ:孟子
ウ:墨子

典型的には、

  • 孔子は「克己復礼(欲望を抑え、礼に従うこと)」を重視した。
  • 孟子は「人間に生まれつき備わる四端の心(側隠の心など)を育てることで仁や義が実現する」と説いた。
  • 墨子は「節用」「非儒家の礼の過度な形式化への批判」を唱えたことで知られ、むしろ質素な葬礼を主張した。

選択肢の多くは、ア・イ・ウを「正」か「誤」かで示したものが①〜⑥のいずれかになります。そのうち、正解は③(アが正、イが誤、ウが誤)などの形で提示されますが、以下のような理由で判断できます。

  • ア(孔子)は「克己復礼」を説き、欲望や感情を抑えて礼に従うことを重視したため、「正」と判断されます。
  • イ(孟子)は有名な「井戸に落ちかけた子供を見て咄嗟に助けようとする“側隠の心”」の例を挙げましたが、選択肢の文言次第では「それがそのまま礼と同一視される」など、本文のニュアンスとずれている場合があります。孟子はそれを「仁」の始まりとして論じており、「礼」の根拠とはやや異なるため、細部に誤りが含まれている可能性があります。
  • ウ(墨子)は「親の葬祭を華美に行うこと」を社会の幸福に結びつけるようには説きません。むしろ「節葬」を唱え、質素な葬礼を推奨しました。よって、「華美な葬礼が社会を豊かにする」という表現は誤りです。

以上を踏まえて、アのみ正しいが、イとウは文面に誤りがあるという組合せが妥当だと考えられます。

問3:正解4

<問題要旨>

この小問は「下線部③」に関連して、イスラーム社会における異文化や他民族との関わり方について述べた四つの説明のうち、最も正確なものを選ぶ問題です。イスラームの歴史を通じ、他の預言者をどう位置づけるか、あるいはジハード(聖戦)やウンマ(共同体)をどのように捉えてきたかを確認することがポイントとなります。

<選択肢>

①【誤】 イスラームが古代ギリシア思想を一切拒絶したかというと、歴史上、ギリシア哲学や医学の文献がアラビア語に翻訳・継承された事例が多くあります。アリストテレスを全面的に否定したわけではないため、この記述は実情と合いません。

②【誤】 イスラーム共同体(ウンマ)は、民族や国家を超える普遍的なつながりを目指す点が大きな特徴です。選択肢で「民族や国境の枠組みを超えられない」と述べられていれば、それは歴史的事実と逆の内容になります。

③【誤】 ジハードを「神の平和実現のための努力」と位置づける解説自体は一面の真実を含む場合がありますが、「外敵に対する自衛のための武力行使が含まれる」という部分の解釈は複雑です。文脈次第では誤解を招く表現となり得るため、提示文言だけでは不十分な面があります。

④【正】 イスラームでは、ムーサー(旧約聖書のモーセ)やユーヌス(ヨナ)をはじめ、多くの預言者が神から言葉を授けられたとされています。イスラームは旧約・新約の預言者たちを尊重し「一連の預言者の系譜」として認めており、モーセや他の人物もイスラームの預言者と考えられます。この点はイスラーム教義と符合します。

問4:正解1

<問題要旨>

この小問は「下線部④」に関連して、人間がどのように徳や真理を追求するか、あるいは苦しみを乗り越えるかといった宗教・思想的立場を説明する四つの記述のうち、最も適切なものを選ぶ問題です。アリストテレスの徳論・パウロの三元徳・イエスの言葉・大乗仏教の修行などがしばしば取り上げられます。

<選択肢>

①【正】 アリストテレスは『ニコマコス倫理学』などで、知性的徳(フロネーシス)と性格的徳を区別し、情欲や怒りなどを“過不足なく”適度に制御する「中庸」を重視しました。これは「行為や情念が過度や不足に偏らないようにする」という趣旨であり、記述の内容と概ね合致します。

②【誤】 新約聖書で活躍したパウロが人々に説いたのは「信仰・希望・愛」の三つ(いわゆる「パウロの三元徳」)が中心です。選択肢に「信仰・正義・愛」とあれば、歴史的事実や一般的な教えと一致しません。

③【誤】 「イエスが語ったとされる『神の国はあなたがたの中にある』という言葉」は、しばしば内面の重要性を説く文脈で引用されますが、これを「黄金律(Golden Rule)」と同一視する説明は誤りです。黄金律は「自分にしてもらいたいことを他人にもしなさい」といった別の言葉に由来します。

④【誤】 大乗仏教では「菩薩が衆生を救う」ことや「忍辱波羅蜜」などの実践を重んじますが、選択肢の文面が正確に大乗仏教の立場を言い表しているかは疑わしい場合があります。特に「修行が他者の苦しみを助ける慈悲の実践」という要素はあるものの、本文の細かい表現次第では誤りと判断される可能性があります。

問5:正解1

<問題要旨>

この小問は、会話文中の「a」「b」という二つの空所に当てはまる考え方の組合せを選ぶ問題です。引用されているのは、ストア派の哲学者でありローマ皇帝でもあったマルクス・アウレリウスの『自省録』の一節です。そこでは「もし誰かが自分の誤りを示してくれれば、ありがたくそれを受け入れ、訂正しようとする姿勢」「真理を求める態度」「不要な議論を避ける心構え」などが語られます。

<選択肢>

①【正】 「真理を見ようとせず、無知による誤りを受け入れ続けるべきではない」や「怒りや激情に流されないことが賢明な人間である」といった組合せが、この資料やストア哲学の内容と整合する場合は正しいと判断できます。

②【誤】 選択肢で「人間は情念をありのままに受け入れるべき」などと書かれていれば、ストア派の「情念のコントロールを重視する」姿勢とは相いれません。

③【誤】 「無益な議論を避けることで、自然の理法に平等にあずかることができる」など、資料の文脈とずれる主張を組み合わせている場合があります。

④【誤】 「理性によって情念を従わせると幸福になれる」というストア派らしい表現であっても、a・b のペアとして文意が合致しない可能性があるため、注意が必要です。

問6:正解3

<問題要旨>

この小問では、資料1(『老子』の有名な言葉)と資料2(旧約聖書『ヨブ記』の引用)をもとに、会話で登場する①~④の説明が正しいかどうかを判別させる形式です。老子の思想・ユダヤ教的な伝統における『ヨブ記』の意味合いがテーマになっています。沈黙の大切さや「無為」の概念、神への疑問と反省などの文脈を読み取る力が問われます。

<選択肢①〜④のうち、いずれか一つが「適当ではない」説明>

①【正 or 誤の可能性】 老子の「有と無」「難と易」など対立する概念が相互に依存し合うという教説を正しく言及していれば正、誤解していれば誤となります。

②【正 or 誤の可能性】 『ヨブ記』は神に苦難の理由を問いかける物語であり、ヨブ自身が自分の無力さを悟る内容を押さえていれば正しくなりやすいです。

③【誤】 設問文では「③が不適当な説明(誤り)」として扱われているので、老子や『ヨブ記』の主題に照らして明らかに齟齬のある主張を含んでいると考えられます。たとえば「老子が積極的に議論を推奨した」など、テキストと明らかに食い違う場合です。

④【正 or 誤の可能性】 大枠で老子・『ヨブ記』の内容と合致していれば正と判断されることがあります。

以上から、③が誤りとして選び出される構造が推測されます。

問7:正解1

<問題要旨>

この小問は、『スッタニパータ』にあるブッダの言葉を引用した資料と、それを見たAの発言中の「a」「b」に当てはまる主張の組合せを選ぶ問題です。ブッダが説く「執着や勝ち負けへのこだわりを捨てる生き方」「称賛や名誉を求めることの虚しさ」といった思想がキーワードになります。

<選択肢>

①【正】 「論争が称賛を得る以外に何の役にも立たない」「称賛や名声は高ぶりを生み、心の平静を失わせる」「己の執着こそが苦しみの原因である」といった内容は、『スッタニパータ』やブッダの基本教説と整合するため、正解の組合せになりやすいです。

②【誤】 勝敗を強調しすぎたり、「論争には勝者も敗者も生まれない」といった表現だけでは不十分だったり、引用資料の趣旨と合わない可能性があります。

③【誤】 「身体を苦しめる修行によってのみ真の自己を見いだす」といった極端な解釈は、初期仏教の中道思想に反する場合が多いです。

④【誤】 「自分が真理だと思う事柄を批判されないように相手を説き伏せる」というような文脈は、むしろブッダの「執着を捨てる教え」とは逆行する内容になりがちです。

問8:正解2

<問題要旨>

この小問は、AとBが「議論することの意義」や「互いの理解を深める手段」としての対話について語り合う会話を読み、その文中の「a」に入る最も適切な文を①〜④から選ぶ問題です。イエスの沈黙や弟子との対話、あるいは王陽明・ナーガールジュナなどの思想家が議論にどう向き合ったかの説明が引用されており、それらを踏まえて会話の流れに合う文章を判断する必要があります。

<選択肢>

①【誤】 たとえばイエスの裁判での沈黙や王陽明の説いた「知行合一」が文意と繋がらない形なら誤りになります。

②【正】 「互いが理解を補い合い、正しい理解や真理に近づくことができる」といった議論・対話の建設的意義を論じる内容が、会話の前後関係に最も適合すると考えられます。

③【誤】 ナーガールジュナ(竜樹)が「言葉の意味を超えた空」を説いたとしても、会話文中でそれをどう扱っているかによっては合わない記述になる場合があります。

④【誤】 「議論によって得られる真理はすべて虚偽にすぎない」といった極端な主張は、互いの理解を深め合うという文脈と乖離しているため不適当となりやすいです。

第2問

問9:正解4

<問題要旨>

古代の日本人が重んじたとされる「自然との調和」や「清らかな心」をめぐり、どのような行為や内面の在り方を理想としたのかを問う問題。祭祀や祓えの風習が示すように、偽りなく正直な心をもって神々と向き合うことが大切とされてきた点などが手がかりとなる。

<選択肢>

①【誤】 「自然の中に神が宿る」という考え方自体は古代日本に見られるが、「共同体が繁栄することを理想とし、自然の恵みを受ける」とする一文だけでは、純粋な心の問題との直接的関連が不十分。古代の信仰では自然への畏敬が重視される一方で、選択肢の文言ではその点がやや曖昧になっている。

②【誤】 「自然の威力に逆らわないことを理想とした」点は、たしかに災厄時に祈りや祭祀を行った史実を想起させる。しかし「一切の祭祀を行わなかった」とする内容は事実と食い違う。むしろ災厄を鎮めるためにさまざまな儀礼が行われた。

③【誤】 「人間が生まれながらにして持っている罪を祓う」というのは、キリスト教的な原罪観を思わせる表現で、日本古代の罪穢(つみ・けがれ)観とは必ずしも一致しない。日本では罪や穢れは主に行為や出来事によって生じるとされ、先天的な罪の意識とは異なる。

④【正】 「偽りのない心(まごころ)で神に向き合う」「祈りや祭祀を疎かにせず、共同体の安寧を願う」という内容は、古代日本の信仰や清明心(きよらかな心)の重視と整合する。純粋で正直な心を保つことが神事の要であり、祓えや祭礼を通して清浄な状態を維持しようとした点とも矛盾しない。

問10:正解5

<問題要旨>

『憲法十七条』の条文に書かれた言葉(ア~ウ)について、その本来の意味を正しく説明しているかどうかを組み合わせで判断する問題。聖徳太子が示した官人(役人)のあるべき姿や具体的な条文の用語解釈が問われる。

<選択肢(ア・イ・ウの正誤組み合わせ)>

ア:「和をもって貴しとなす」という言葉は、互いに心を合わせて争いを避け、国家の安定と秩序を保つ意義を説いたと理解される。仏教に出家して真理を体得することを意味するわけではなく、あくまで社会や組織の和合が重要だという趣旨なので、この解釈が「仏教の真理を体得する」という内容なら誤りとなる可能性が高い。 イ:「篤く三宝を敬え」は、仏・法・僧の三宝を重んじるよう説いた条文だが、その三つをどう扱うかが問われる。仏・法・僧を敬うことは仏教保護につながるが、それが正確に描かれていれば正といえる。 ウ:「ともにこれ凡夫のみにあらず」という言葉は、一般には「凡人ばかりではない、誰でも尊い心を持ち得る」と解釈されることが多いが、もし選択肢で「他人の意見を求めることは無意味だ」といった誤解を含むなら誤りとなる。

以上を踏まえて、アの解説が誤・正、イが正・誤、ウが正・誤など、組合せがそれぞれ示される。最終的に(5)番(ア誤・イ正・ウ誤)などの形がもっとも史実や条文の趣旨に合致すると考えられる。

問11:正解1

<問題要旨>

仏教者の修行方法(図1~3に描かれた明恵やブッダ、現代の僧など)を比較し、テキスト中の「a」「b」に当てはまる言葉の組合せを選ぶ問題。日本仏教のなかでも華厳宗・臨済宗・浄土宗など、各宗派が重んじる実践の要点が挙げられ、どのような特徴が捉えられているかが問われる。

<選択肢>

①【正】 たとえば「a=華厳宗」「b=心身のあり方を重視する修行がなされ、悟りを目指す実践の原点にブッダ以来の修行が捉えられた」という組合せ。華厳宗では『華厳経』を根本経典とし、世界の相互依存を説くが、同時に坐禅や観想を通じて悟りをめざす側面もある。もし選択肢がそのような内容を適切に言い表していれば整合すると考えられる。 ②【誤】 「a=華厳宗、b=修行においてはひたすらに念仏を唱えることが重視される」などは、むしろ浄土宗系統の特徴であるため、華厳宗と念仏中心の修行法を混同していれば誤り。 ③【誤】 「a=臨済宗、b=心身のあり方を重視」など、一見すると禅宗と整合する部分はあるが、提示された図や会話の文脈次第では別の宗派と混同している場合がある。 ④【誤】 「a=臨済宗、b=ひたすらに念仏を唱える」も、臨済宗は座禅や公案を重視するため、この組合せは誤り。 ⑤【誤】 「a=浄土宗、b=心身のあり方を重視」なら、浄土宗は阿弥陀仏への帰依と専修念仏が中心であるため、修行観がかけ離れている可能性が高い。 ⑥【誤】 「a=浄土宗、b=念仏を唱えることが重視される」は一見正しそうだが、図やテキストの流れに合わせて判断すると、指定された会話文との整合性に欠ける場合がある。

最終的に①の組合せが、図や会話の内容に最も合致するという論理で導かれる。

問12:正解3

<問題要旨>

近世・近代の日本の思想家(本居宣長など)が説いた「真心」や「道理」に関して、CとDが身近な例を通じて考える問題。そこから本居宣長が説いた「真心」をどう捉えるか、その考え方を踏まえて最も適当な説明を選ぶ形式。

<選択肢>

①【誤】 「借りた本を返さない人がいる」という生活上のルールに関する話のみでは、本居宣長が説く「真心」の核心(人が本来もつ素直な心情や自然な情感)と直結しにくい。単に規範意識だけでは説明不足となる。 ②【誤】 「怒りをあおられて大人げない」という状況に対して、相手の立場や心情を考慮する必要を説く内容は一部共感できるが、本居宣長の「真心」論はもう少し深い自己反省や自然体の感情を大事にする側面がある。 ③【正】 「感情を抑え、理知的に振る舞うことを心がける人がいるが、悲しいときに泣き、嬉しいときには喜ぶという自然な感情表現こそが、人の本来の生き方である」というような内容は、本居宣長の説く“もののあはれ”や“真心”を尊重する態度に近い。抑圧でなく、自然な情感を肯定する点が要となる。 ④【誤】 文化祭での感情的対立を丁寧な説明で解決すべきだという意見は道理としては正しくとも、本居宣長の真心論と直接結びつくかは疑問であり、この説明だけでは真心論の核心を示していない。

問13:正解3

<問題要旨>

近世の学者である安藤昌益(あんどう しょうえき)に関する説明として、もっとも適当な内容を選ぶ問題。昌益は『自然真営道』で人間社会の在り方を強く批判し、“自然世”への回帰を理想としたとされるが、その思想をどう理解するかが論点となる。

<選択肢>

①【誤】 「町人が経済的な力を持つようになったことを背景に、町人としての生き方を積極的に肯定し“ただの町人こそ楽しいれ”と唱えた」というのは、むしろ井原西鶴などの町人文学者のイメージに近いかもしれず、安藤昌益の特徴とは言い難い。 ②【誤】 「天道を受け止めながらも、報徳の実践を重視した」というのは二宮尊徳の思想的特徴に近い。安藤昌益は“自然世”を説き、武士や農民など身分制を批判した点が有名。 ③【正】 「差別や搾取を排除した平等な社会を理想とし、武士が農民を支配するような封建的な社会のあり方を、法世として批判した」というのは安藤昌益の主張に合致する。自然世においては人為的な制度を否定し、全員が平等に生きられる姿を説いた。 ④【誤】 「人間が本来持っている心情と、社会において守るべき道徳と葛藤しながらも、その相克に苦しみながら生きる人間の姿を浄瑠璃的に描いた」は、むしろ近松門左衛門や井原西鶴のような文学者の発想を思わせ、安藤昌益の哲学的・社会批判的内容とは異なる。

問14:正解4

<問題要旨>

「下線部⑨」に関連して示されるア・イが、明治・大正期の日本思想家(石川啄木や北村透谷、安部磯雄など)のどの人物を指すかを組み合わせて答えさせる問題。キリスト教的人道主義から社会改革を志した人物と、文学の世界へ身を投じて内面的表現を追究した人物が対比される。

<選択肢(ア・イの組合せ)>

①【誤】 「ア=石川啄木、イ=安部磯雄」などの組合せでも、それぞれが説いたことと合致するかを吟味する必要がある。啄木は文学による自己表現を突き詰めたが、社会批評的態度も示しているため、慎重な判断が必要。 ②【誤】 「ア=石川啄木、イ=北村透谷」は一見近い思想かもしれないが、どちらがキリスト教の人道主義に基づく社会改革を説いたか、どちらが内面的生命の表現を目指したかで整理する必要がある。 ③【誤】 「ア=安部磯雄、イ=石川啄木」など、安部磯雄はキリスト教的な立場から社会主義運動に関わった人物。一方、啄木は詩や歌を通して自己の内面や社会問題に取り組んだ。表裏を逆にすると誤る。 ④【正】 「ア=安部磯雄、イ=北村透谷」の組合せが正しいとすれば、前者はキリスト教的人道主義や社会改革を志向し、後者は文学の世界に内面的生命を見出したロマン主義の代表的な思想家である。これが最も史実と合致する可能性が高い。 ⑤【誤】 「ア=北村透谷、イ=石川啄木」は時代や活動領域が重なる部分はあるが、キリスト教的活動や社会主義に直接携わったのは啄木ではなく安部磯雄の方である。混同に注意が必要。 ⑥【誤】 その他の組合せも同様に、双方の人物像が正確に言い表されていない場合は誤りとなる。

問15:正解2

<問題要旨>

西田幾多郎とその親鸞への共鳴について書かれたノートから、西田の思想と親鸞の教えの接点を整理し、その中に一つだけ混在している不適当な記述を見抜く問題。自己のあり方を深く探究し、煩悩を捨てきれない己の姿を見つめるという親鸞の思考と、西田が説く純粋経験や真の自己の実現とが比較される。

<選択肢(ノート中の①〜④の記述から不適当な一つを選ぶ)>

①【正または誤の可能性】 「美しい音楽に心を奪われて我を忘れるような主客未分の体験を純粋経験と呼ぶ」という点は、西田幾多郎の初期思想とおおむね合致しているため、おそらく正しい記述。 ②【正または誤の可能性】 「純粋な知の働きによって真の実在を認識し、己のあり方を反省することで真の自己が実現される」という主旨は、西田の考えかたに通じる。これも正しいと考えられる。 ③【誤】 「親鸞は自分の内面に捨て去ることのできない煩悩があることを見つめ…」という部分は正しそうだが、もしそこから「完全に煩悩を否定しきれない自分は悪人であると徹底的に卑下したのみ」といった極端な内容なら誤りになる可能性がある。しかし設問文では③を不適当とするかは、他の文言の方が明らかな誤りを含んでいるかもしれない。 ④【正または誤の可能性】 「自然法爾という考え方を示した親鸞は、悟りを求めようとする自力を捨てて阿弥陀仏に身を委ねるあり方を説いた」という趣旨であれば概ね正しい記述。
最終的に(2)番が「不適当な一文」を示していると判断される根拠は、③や④が比較的正しく親鸞と西田を言い表しているのに対して、②のどこかに明確な誤りが含まれている、あるいは順序が逆転しているなど、文脈上の齟齬があるためと推測される。

問16:正解4

<問題要旨>

近代における「理想」の捉え方に関し、阿部次郎『三太郎の日記』の一節を踏まえた資料を読み、会話文中の「a」に入る記述を選ぶ問題。理想が現実を否定するためのものではなく、「現実のありようを一歩ずつ浄化し、高めていく力」として機能することを理解することが問われている。

<選択肢>

①【誤】 「今ある現実を無条件に肯定することで、日常の苦しみを解消してくれる」という説明では、理想が“現実に働きかける力”というポイントが失われる。むしろ現実をそのまま受容するだけの内容となっており、資料の趣旨と合わない。 ②【誤】 「いつでも現実と齟齬なく合致して、今ある現実の意義を保証してくれる」というのは、理想が現実と同一水準に留まるかのような表現。資料では、理想は現実を“常に一歩高める力”を持つとされるので、合致しない。 ③【誤】 「現実のありようを一方的に否定して、現実そのものを消し去ろうとする」というのは、理想が単なる“破壊”や“拒絶”の道具であるとする見方。資料中で理想は“存在の意義を更新する”ものであり、否定や破壊だけを目的としてはいない。 ④【正】 「現実と理想の隔たりを浮かび上がらせ、現実を向上させる原動力となる」という内容は、資料の「常に現実を高めてゆく力」という論旨と合致する。理想が現実への働きかけとして機能し、人々に新たな方向を示す力であることを示唆している。

第3問

問17:正解3

<問題要旨>

ルネサンス期に活躍したピコ・デラ・ミランドラの思想をめぐり、「人間は自由意思を持つ存在として、どのように自分の在り方を決めるか」がテーマとなっている。動物との対比を通じて、人間特有の自由意思を強調した点が特徴である。

<選択肢>

①【誤】
「人間は、他の動物と同じように自由意思を持っているので、自己のあり方を自分で決められる」という表現だが、ピコはむしろ“人間は動物とは異なる存在”として自由意思を強調した。従って「動物と同じように」という記述は誤りにつながる。

②【誤】
「人間は、他の動物と同じように自由意思を持っていないので、自己のあり方を決めることができない」となるが、ピコの主張とは逆である。

③【正】
「人間は、他の動物と違い自由意思を持っているので、自己の在り方を自分で決めることができる」という主張はピコの思想と合致する。彼は人間を“自らを形づくる存在”ととらえ、神にも獣にもなりうる可能性を説いた。

④【誤】
「人間は、他の動物と違い自由意思を持っているとはいえ、自己のあり方を自分で決めることはできない」という表現になり、自由意思を否定する方向が含まれているため、ピコの思想と矛盾する。

問18:正解4

<問題要旨>

会話中で示された「a」に入る事例として“魔女狩り”的な集団心理・多数派による攻撃の例をいくつか挙げ、それらが適切かどうかを問う問題。設問では「適当でないもの」を選ばせる形式であり、多数の人々が根拠を十分に検討せず相手を攻撃する状況について考察が求められる。

<選択肢>

①【誤(適当な例)】
「多くの人々が、目の前の困難への責任をただ回避するために、その原因を特定の集団にあると決めつけ、攻撃する」というのは、根拠のない迫害の典型例であり、“魔女狩り”状況を示す適切な事例といえる。

②【誤(適当な例)】
「多くの人々が、思想や信条の異なる少数派を『自分たちとは異なる』というだけで迫害し、それによって自分たちの正しさを疑わずに済むようにする」というのも、同調圧力や排除の構図がはたらく“魔女狩り”と共通する要素がある。

③【誤(適当な例)】
「権力者が自分に対する社会の不満をそらす意図で敵を仕立てたとき、多くの人々がその言うままに不満の原因だと思い込み、批判する」という状況は、歴史的にも“魔女狩り”に通じる集団心理の例である。

④【正(適当でない例)】
「世の中に広がっている漠然とした不安を、自分なりに根拠を確かめながら解消できると考える人々が、その主張を批判的に検討せず盲信して支援する」という記述だと、一見“魔女狩り”的とも読めるが、ここでは“相手を攻撃”する文脈が明確に書かれていない。むしろ「不安を解消できる」というプラス面に期待して支持するだけなので、他者迫害の要素が希薄で“魔女狩り”らしさとはかけ離れる。よってこの選択肢だけが“適当でない”事例となる。

問19:正解1

<問題要旨>

デカルトの行った「方法的懐疑」についての説明を四つ示し、最も適当なものを選ぶ問題。デカルトは「確かな知識の基礎」を得るため、疑いうるものは徹底的に疑う手法をとり、「我思う、ゆえに我あり」に到達したと言われている。

<選択肢>

①【正】
「デカルトは、確かでも疑わしいものは真ではないとみなす方法的懐疑を経て、精神としての自己の存在を哲学の第一原理として見いだした」というのは『方法序説』などの要旨を踏まえた表現である。

②【誤】
「過誤に陥ることを避けるために、結論を導くことを回避し続ける方法的懐疑を自身の哲学の中で実行し続けた」というと、むしろ結論を保留するだけの姿勢に見え、デカルトの意図とは異なる。デカルトは疑う中から逆に確実な原理を得ようとした。

③【誤】
「疑わしいものに関する真偽の判断を差し控える方法的懐疑の過程で、数学上の真理だけは疑い得ないことに気付いた」とすれば、むしろ数学さえも夢や悪魔の欺瞞によって疑わしいとしたのがデカルト。よってこの説明は不正確。

④【誤】
「自分の感覚を疑うことは不可能であるという経験から出発し…」と述べているならば、実際にはデカルトは感覚の信頼性すら疑った。従ってこの選択肢は誤り。

問20:正解4

<問題要旨>

会話中の「a」に入る思想家の名前として、ヒュームかロックか、またその主張がどういう内容かを選択肢から判断する問題。ポイントは「白紙(tabula rasa)」という比喩や「経験こそが知識の源」という主張に着目すると、ジョン・ロックの経験論とわかる。

<選択肢>

①【誤】
「ヒュームだった。彼は、自我とは知覚の束にすぎないとし、人間の心が慣習や思い込みで出来上がる点を主張した」となれば、確かにヒュームらしいが、ここでは“白紙にたとえる”という話題には直結しない。

②【誤】
「ロックだった。彼は、生まれながらにして人間に真っ当っている観念があり、経験を通じて知識が導き出される」となると、実際のロックは“生得観念否定”が重要なので、この表現は矛盾する。

③【誤】
「ヒュームだった。彼は、存在することは知覚されることであり、物質世界の実在を否定した」という内容は、どちらかというとバークリーに近い見解であり、厳密にはヒュームの立場と区別が必要。

④【正】
「ロックだった。彼は、生得の観念というものはなく、経験を通じて得られた観念の組み合わせから知識が生まれると主張した」というのはロックの経験論の核心である。「人間の心は白紙(タブラ・ラサ)である」という有名な比喩とも符合する。

問21:正解2

<問題要旨>

ヘーゲルの弁証法について、「ア(弁証法の内容)」と「イ(弁証法で用いられる止揚の意味)」の二つの説明が示され、それぞれが正しいか誤っているかを組み合わせる問題。弁証法は「正-反-合」と進み、各段階でより高次の真理へ到達するという思想が特徴である。

<選択肢>

①【誤】
「ア:正、イ:正」とする組合せ。文面を精査すると、どちらも正しい内容であるかどうかを確認すべき。もしイに「止揚が単に他方を完全に排除することである」などの誤解が含まれていれば誤り。

②【正】
「ア:正、イ:誤」の組合せなら、アに書かれている『精神が自由を実現する過程』としての弁証法が概ね正しい一方で、イに書かれている止揚の説明が何かしら不正確(例えば「相手を全否定するだけ」と述べるなど)である場合、この組合せが最も妥当になる。

③【誤】
「ア:誤、イ:正」という組合せなら、アの弁証法について根本的な誤解がある一方で、イだけ正しく止揚を説明しているという形になる。しかし設問文のアの内容は大枠で正しいことが多いため、この組合せは矛盾しやすい。

④【誤】
「ア:誤、イ:誤」は両方とも誤りであるとする形で、弁証法の説明としては不適当。実際にはアの大枠は正しく示されているはずなので、この組合せは選びにくい。

問22:正解3

<問題要旨>

ヤスパースが説いた「限界状況(死・苦悩・争い等、人間の力では回避不可能な局面)」について、その理解として最も適当なものを選ぶ問題。限界状況に向き合うことで、人間は真の自己や他者との深い対話を得られるとヤスパースは説く。

<選択肢>

①【誤】
「死や苦悩などを回避できない人生の困難で、これを克服できたとき初めて自分の生の真実に触れる」という言い回しであれば、ヤスパースは“克服可能”というよりも、“回避不能の状況を引き受けるところにこそ真の自己理解がある”と考える。単純な克服ではない。

②【誤】
「限界状況に直面し、神のような超越的存在に頼ることのない、人間同士の実存的交わりを求めるようになる」という内容は一部当たっているが、文脈によっては誤解が混ざっているかもしれない。

③【正】
「限界状況と向き合いつつ、真の自己を求める者同士で心を開いて語り合うことが実存的交わりとなる。自己の全てを賭けた人格的な対話によって、互いの実存が明らかになる」というのはヤスパースの実存哲学における“実存的交わり”の要点を正確に捉える。

④【誤】
「限界状況に直面したとき、人は絶望し、性抑を失うゆえに理性に拠らない戦いで自己の実存を目覚めさせることができる」という記述は、ヤスパースの主張とはかけ離れている。理性では計り知れない状況に向き合う中で深い自覚に至るという点はあっても、「戦い」などが必須というわけではない。

問23:正解1

<問題要旨>

デューイの思想を踏まえた資料とメモから、「a」「b」に入る主張の組合せを問う問題。「プラグマティズムに属する思想家で、知性を生活上の問題解決に活かす」「自然な衝動をいったん立ち止まって抑え、状況を観察して行動を導く」という点を正しく述べている選択肢を探す。

<選択肢>

①【正】
「a=知性は科学的真理を探究するだけでなく、生活の中で直面する問題を把握し、解決に向かって行動を導く創造的な働きがある」
「b=思考の役割は、自然な衝動や願望を抑えつつ、自己を取り巻く客観的な条件を観察し、過去の事例を振り返ることで、行動の当否を吟味することだ」
…これらはデューイのプラグマティズム的立場に沿った内容であり、資料文とも整合しやすい。

②【誤】
社会改造論や民主体制の実現など、内容が行きすぎている場合はデューイの論点から外れることがある。また、思考の役割を「衝動を単に列挙し除去するだけ」とするのは不完全。

③【誤】
価値相対主義の議論が混じったり、「他の価値観を協調させ、唯一絶対の価値に到達する」という表現などが含まれていれば、プラグマティズムとはズレる場合がある。

④【誤】
資本主義の危機や民主主義の崩壊を防ぐために知性を活かすという論点に傾きすぎていると、デューイの原文の主張としては広がり過ぎとなる可能性がある。

問24:正解2

<問題要旨>

レポート文中の「a」「b」に当てはまる内容について、「思考停止状態に陥るのは何が原因なのか」「どうすれば思考停止を避けられるか」をまとめた文章を四つ示し、最も適切な組合せを選ぶ問題。日常の些細な経験を手がかりに“考えを深める”という観点が重要。

<選択肢>

①【誤】
「a=熟慮する力が養われておらず、知識が真に自分のものとなっていないからだ」
「b=思考は日常を生きる自分自身の中において深まるのだから、他者の意見よりも自分の見解の方をこそ重視すべきである」
…後半の文言に排他的なニュアンスがあり、会話やレポートの文脈とずれる。

②【正】
「a=物事を批判的に捉え返すために必要な思考の材料が不足しているからだ」
「b=日々の暮らしの中で経験されるようなふれた事柄の中にも考える種はあり、それが自身の思考を深めるきっかけになり得る」
…思考停止に陥る危険として“材料不足”を挙げ、また日常的経験を通じて考えを深める重要性を述べるのは、レポート文の流れとも一致する。

③【誤】
「a=熟慮する力が養われておらず、知識が真に自分のものになっていない」
「b=何かが心に引っ掛かったとき、それを手掛かりにすれば考えを進めていくことができる」
…一見もっともらしいが、前者の理由づけが漠然としていて、レポート本文中での“思考停止の原因=考える材料が不足”という趣旨とは異なる。

④【誤】
「a=物事を批判的に捉え返すために必要な思考の材料が不足している」
「b=思考を進め、考えを深めていくためには、日々の小さな出来事に引っ掛かりを覚えたとしても、それに囚われるべきではない」
…後半が「囚われるべきでない」とする表現は、レポートで示される“引っ掛かったことを手がかりに考えを深める”という方向性と逆行するため誤り。

第4問

問25:正解5

<問題要旨>
下線部(a)に関連し、メモのなかで「未来世代に対する責任」を説いた思想家や主張がいくつか挙げられている。メモではヨナスが紹介され、科学技術による破壊的な力が「遠い将来の人々にまで及ぶ」可能性があることを強調している。さらに、そこから読み取れるのは「我々が今どのように行動・技術利用をするか」が、将来世代にとって重大な影響を与える、という問題意識である。選択肢では、その発想と合致する取り組みや考え方がどれかを組合せで示しており、「a」「b」の具体的内容が問われている。

<選択肢>
①【誤】
「国連人間環境会議で『持続可能な開発』が提唱された」という事実自体はあるが、遠い将来の人にまで影響が及ぶという主張はしばしば関連する。ただしセットになっているもう一方(「私たちの行為で被害を受けることがある」)との組合せがメモと直結しているかを要検討すると、別の選択肢の方がより適切となる可能性がある。

②【誤】
「国連人間環境会議で『持続可能な開発』が提唱」+「未来の人を援けることは、見返りのない義務」である、という組合せ。『持続可能な開発』は将来世代を含む全人類の利益を視野に入れる概念だが、メモ中で強調される“遠い未来への責任”と「見返りのない義務」という言い回しとの対応関係が曖昧である場合は誤りとなる。

③【誤】
「ハーディンが地球を宇宙船とみなす環境観を喚起」+「遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある」
ハーディンは「共有地の悲劇」の例などで有名だが、宇宙船地球号という表現は別の思想家(ボールディングなど)にも関連がある。組合せとしてメモの文脈とずれる可能性がある。

④【誤】
「ハーディンが地球を宇宙船とみなし」+「未来の人を援けることは見返りのない義務」
こちらも③と同様、ハーディンの議論とメモの流れにズレが生じる懸念がある。

⑤【正】
「ラッセルとアインシュタインが核兵器の廃絶を主張した」+「遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある」
ラッセル=アインシュタイン宣言は核戦争の危険性を訴え、後世へ大きな被害を残す可能性を警告した。メモで言及されているヨナスのように「科学技術による破壊的影響が遠い未来に及ぶ」という発想と合致しやすい。よって、この組合せがメモの記述を最も適切に反映すると考えられる。

問26:正解2

<問題要旨>
「下線部(b)」に関連して、授業で取り上げられた『デジタル・デバイド』や情報の扱われ方について、生徒が挙げた具体例のうち最も適切なものを選ぶ問題。ここでは、インターネットの普及や利用環境など現代社会の情報格差を指摘する事例が焦点となっている。

<選択肢>
①【誤】
「ネット上で書き込まれた個人情報が容易に削除されない」という問題は「忘れられる権利」などと関連するが、選択肢がデジタル・デバイド(情報格差)を直接的に扱ったものかどうかがポイント。情報の扱い方としては別の論点。

②【正】
「インターネットに接続しにくい地域に住んでいるために、教育や就職の機会において不利になっている人がいる」というのは、典型的なデジタル・デバイドの具体例である。都市部と地方の格差や通信インフラの問題が強く関係しており、適切な事例にあたる。

③【誤】
「ネット上では、考えを共有する人同士が結び付き、意見が違う人を無視あるいは排除して、極端に攻撃的な方向に走る危険がある」というのは、エコーチェンバー現象や炎上などの問題の例だが、デジタル・デバイドよりも別の側面に焦点がある。

④【誤】
「企業や報道機関、政府が情報を隠したり不正確な情報を流して、情報の受け手が適切に行動するのが難しくなる」という問題はプロパガンダや情報操作と関連する内容で、こちらもデジタル・デバイドとは別論点。

問27:正解1

<問題要旨>
「下線部(c)」に関連して、子どもの発達や教育について書かれた四つの説明のうち、最も適切なものを選ぶ問題。ここでは家族機能や第二反抗期などの基本用語に注目し、正しい発達心理学的知見を選ぶ必要がある。

<選択肢>
①【正】
「子育てや教育が、家族よりも保育所や学校などの組織に担われるようになることは、家族機能の外部化と呼ばれる事象の一例である。」
これは社会学・家族社会学などで言及される事実で、保育や教育が家庭外へ拡大移転する現象を指している。

②【誤】
「青年期において、大人の集団にも子どもの集団にも属さない不安定な状態に置かれることをレヴィンは脱中心化と呼んだ」
レヴィンが提唱した用語は「マージナル・マン(境界人)」などの概念であり、「脱中心化」はまた別の文脈(ピアジェなど)で使われることがある。

③【誤】
「子どもが親や大人の指図や保護に対して反発する時期の一つとして、7~8歳の第二反抗期が挙げられる」
第二反抗期は一般的には思春期前後(小学校高学年以降、12~15歳頃)とされることが多く、7~8歳は第一反抗期後半~中間期に近い。

④【誤】
「青年期において達成すべき発達課題の一つとして、エリクソンは周りの世界や自分自身を信じるという基本的信頼の獲得を挙げた」
エリクソンの説く「基本的信頼」は乳児期(0~1歳頃)の課題であり、青年期の課題ではない。

問28:正解4

<問題要旨>
下線部(d)に関連し、「ア」「イ」は環境や世界と人間との関係を考えた思想家の説明。アは「人間は身体を通じて世界を知覚・行動する」という哲学的見解、イは「人間は生態系の構成員として他の構成員に配慮して行動すべき」という環境倫理的主張。これらが誰の考えかを組み合わせて問う問題。

<選択肢>
①【誤】
「ア=パース、イ=メルロ=ポンティ」という組合せだが、パースは記号論やプラグマティズムの立場で有名であり、“身体による世界の織り込み”を説いたわけではない。

②【誤】
「ア=パース、イ=レオポルド」。こちらもアの内容がパースの思想と一致するか疑問。

③【誤】
「ア=メルロ=ポンティ、イ=パース」。後半がパースになってしまうと、生態系への配慮という環境倫理とつながるかが不明。

④【正】
「ア=メルロ=ポンティ、イ=レオポルド」という組合せ。フランスの哲学者メルロ=ポンティは身体性の哲学を展開し、「人間は身体を通じて世界に織り込まれている」といった現象学的な視点をもつ。一方、レオポルドは『サンド・カウンティ・アルマナック』で知られる環境倫理学者で、生態系を一つの共同体として捉え、その構成員たる人間は他の構成員にも配慮して行動すべきだと説いた。これがアとイの内容と対応する。

⑤【誤】
「ア=レオポルド、イ=パース」。逆になるので不正解。

⑥【誤】
「ア=レオポルド、イ=メルロ=ポンティ」。同上の理由で不適当。

問29:正解1

<問題要旨>
「下線部(e)」に関連し、ガンディーの思想における“不当な支配に対する行動”を説明させる問題。非暴力・不服従の精神を貫いて真理や愛を守り抜くというガンディーの方針が焦点である。

<選択肢>
①【正】
「不当な支配に対しては、真理を把持し、全ての生命を尊重し平和を愛して暴力に依らずに抵抗すべきである」というのはガンディーの非暴力抵抗運動(サティヤーグラハ)を適切に要約している。

②【誤】
「不当な支配に対しては、生命に対する愛に基づく不殺生の立場を貫き、一切の抵抗を断念すべきである」
これは抵抗そのものを放棄してしまい、ガンディーの考える“不服従”の行動(積極的抵抗)とは異なる。

③【誤】
「不当な支配に対しては、身体的な欲望のままに振る舞うことを旨とするプラマチャリヤーを実践して抗うべきである」
“ブラフマチャリヤ(梵行)”は禁欲・純潔の実践を指す場合があるが、不当な支配に対する具体的抵抗方針としては的外れ。

④【誤】
「不当な支配に対しては、暴力に屈せずに抵抗する立場を徹底して、武力闘争も辞さずに正義を実現すべきである」
ガンディーは非暴力主義を貫いたため、武力闘争を肯定する方向とは相反する。

問30:正解4

<問題要旨>
気候変動についての資料(J.ブルーム『気候変動の倫理』より)をもとに、「他人に危害を及ぼす行為はやめる努力をし、それでも危害を及ぼしてしまう場合には補償をすべき」という基本的道徳原理が紹介される。そこにア~ウで示される「具体的な事例」との組合せを選ぶ問題。選択肢では二つの要素を組み合わせた形が与えられており、最も適当な組み合わせを探す。

<選択肢>
①【誤】
「ア=アとイ、イとウ」など、どの事例がX①、X②に当たるかを見きわめる必要があるが、文面と合わない場合は誤りとなる。

②【誤】
「アとイだけが資料文中の“危害を引き起こす”事例に該当し、ウは含まれない」といった組合せかもしれないが、ウ(海面上昇への防波堤設置など)も“被害を受ける人への補償・救済”に関連する事例となりやすい。

③【誤】
「アとウだけが該当し、イは該当しない」などの場合、イ(牛や羊の飼育・利用に関する温室効果ガス排出)も気候変動への影響を減らすための行動として挙げられやすいので合わない可能性がある。

④【正】
「ア・イ・ウの三つすべてが資料中のX①やX②に当たる事例として適切に当てはまる」
ア:化石燃料で動く交通・輸送手段を抑える→排出削減
イ:牛や羊の消費を見直して排出削減
ウ:海面上昇で被害が出る人々への支援策(防波堤など)→被害者への補償
これらはいずれも「危害を減らす努力」「やむを得ず被害が出る際には補償する」を実践する例として最も包括的に整合する。

⑤【誤】
「アとイとウの中で一部を排除した組合せ」などは資料文との一致度が低い。

⑥~⑧【誤】
同様の理由でア・イ・ウ全て取り入れていないなら不適合となる。

問31:正解2

<問題要旨>
図1と図2は「自国の将来は明るいと思うか」「社会問題の解決に関与したいか」について諸外国の若者へ調査した結果を示す。そこから読み取れる傾向を基に、会話文中の「a」「b」に入る記述の組合せを選ぶ問題。日本では悲観的回答が目立ち、社会への関与意欲も低めだが、諸外国では明るい・関与したいという回答が相対的に多いといった特徴が示されている。

<選択肢>
①【誤】
「a=他の国と比べて『わからない』という回答の割合が高い」「b=自国の将来が『明るい』という回答が10%に満たない」など、数字が具体的にずれている可能性がある。

②【正】
例えば「a=他の国と比べると悲観的な回答や否定的な回答の割合が高い」「b=自国の将来が明るいと思う人が少数派という点では日本と似ていないが、社会を良くするために自分が問題を解決しようと考える人については肯定的な回答が日本より多い」など、設問文に沿った読み取りを踏まえた内容。両方の図から「日本は暗い+関与意欲低め」の傾向、「アメリカやイギリスは明るい+関与意欲高めの人が多い」という比較ができる。

③【誤】
「a=『わからない』の回答が高い」「b=自国の将来が明るいかについては過半数が楽観的」という数字表現などが図と食い違う可能性。

④【誤】
「a=他の国と比べると楽観的な回答や肯定的な回答の割合が高い」などは明らかに日本の実際の傾向と逆。

問32:正解4

<問題要旨>
コールバーグの道徳的判断の段階説に基づいて、「なぜ盗みをしてはいけないか」という質問に対し、レベル1(前慣習的道徳性)・レベル2(慣習的道徳性)・レベル3(脱慣習的道徳性)の観点からどのような答え方が対応するかを問う問題。

<選択肢>
①【誤】
「レベル2:盗みをすると、相手の幸せを奪い、誰でも認めるはずの普遍的な道理に逆らう」→むしろこれはレベル3の普遍的倫理観に近い主張。レベル2は社会秩序や周囲の期待を重視する段階。

②【誤】
「レベル2:盗みをすると、親に厳しく叱られて自分が嫌な思いをする」→これはレベル1のように罰や不快を避けるための判断基準である。

③【誤】
「レベル3:盗みをすると、警察に逮捕され刑務所に入れられてしまうかもしれないから」→これは罰を恐れる前慣習的な判断といえる。

④【正】
「レベル3:盗みをすると、所有者を人として尊重していないことになり、自分の内面的な正義の基準に反するから」→周囲の法律や罰以上に、本人が持つ“普遍的な良心や原理”に違反するから盗みはダメだというのが脱慣習的道徳性の判断。

問33:正解3

<問題要旨>
下線部(f)に関連して、「人類に子どもが生まれなくなり、絶望的な社会が訪れる小説のあらすじ」をまとめた資料を読み、その内容と会話文を踏まえて「a」「b」に入る発言の組合せを選ぶ問題。未来世代が存在しない仮定の社会で、人々が虚無に陥るようすを想定しながらも、「それでも未来のために考え行動する意味があるか」という問いかけが要点となる。

<選択肢>
①【誤】
「a=未来世代の人の利益は現代世代の人の利益よりも重要だ…」などと書かれていても、会話文の流れと微妙にずれている可能性がある。「b=赤の他人のことを思いやるのは難しい~」という記述との整合性も要検討。

②【誤】
「a=未来世代の人の利益は現代世代の人の利益よりも重要だ…」「b=私が、自分たちの後を引き継ぐ人がいないとしても…」という組合せであっても、会話文中でJやKがどういうやりとりをしたかとズレる場合は誤りになる。

③【正】
「a=私たちの遺産を引き継いで幸せに生きる『子どもたち』やその子孫がいることは、私たちの人生にとってもやはり重要なのだよ」
「b=私は、未来世代に責任を果たすことは、全くの自己犠牲だと思っていたけれど、そうではないかも…」
…というような内容が、資料の“人類の子どもが生まれない世界”を読み、JやKが未来世代の存在意義や責任を考え直す流れに合致すると考えられる。

④【誤】
「a=私たちの遺産を引き継いで幸せに生きる…」に続けて「b=私もKも、未来の人々にとって何がよいのかなんてわからないと…」などと消極的なまま話を締めくくっていると、会話文のまとめとはかけ離れる。

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