2022年度 大学入学共通テスト 本試験 倫理 解答・解説

目次

解答

解説

第1問

問1:正解②

<問題要旨>

様々な宗教や思想家における「真理」の捉え方について問う問題です。

<選択肢>

①【誤】

ソクラテスが用いた産婆術(助産術)は、彼自身が持つ真理を相手に「教え込む」ものではありません。対話を通じて相手自身のうちにある真理(最終的には「無知の知」)に気づかせ、それが生まれ出るのを「助ける」方法です。

②【正】

イスラームにおいて、ムハンマドは神(アッラー)からの最後の啓示(真理の言葉=クルアーン)を託された預言者です。また、彼の言行(スンナ)や慣行も、クルアーンに次ぐ信者の生活規範(ハディースとして伝承)とされています。

③【誤】

中世ヨーロッパのスコラ哲学において、哲学は神学の「婢(はしため)」とされました。これは、理性(哲学の真理)が信仰(神学の真理)に「優越する」のではなく、信仰や啓示によって示される神学の真理に「仕え、奉仕する」べきものと考えられたことを意味します。

④【誤】

ブッダは、バラモン教の教えである「生来の身分(ヴァルナ)ごとに異なる義務(ダルマ)を全うすること」を批判しました。彼は、身分や出自に関わらず、誰もが修行によって苦しみから解放され、真理を体得できる(解脱できる)と説きました。

問2:正解③

<問題要旨>

古代中国の思想家(孔子、孟子、墨子)における「礼」の捉え方に関する正誤を判断する問題です。

<選択肢>

ア【正】

孔子は、仁(人間愛)を実践するための具体的な規範・行動として「礼」を重視しました。そして、自らの欲望や感情(私)を抑制し、礼という規範に従うこと(克己復礼)こそが仁であると説きました。

イ【誤】

孟子は、井戸に落ちそうな幼児を見てとっさに救おうとする心(惻隠の心)を、「仁」の端緒(始まり)であるとしました。「礼」の端緒は、他者に譲る心(辞譲の心)です。

ウ【誤】

墨子は、儒家が重視する「礼」(特に身分に応じた華美な葬祭や服喪期間)を、社会的な富を浪費し生産性を下げるものとして厳しく批判しました(非楽・節葬)。彼は、社会全体の利益(交利)と博愛(兼愛)を主張したため、華美な葬祭が富を増やすとは考えませんでした。

問3:正解④

<問題要旨> イスラームにおける異文化や他民族との関わりについての理解を問う問題です。

<選択肢>

①【誤】

イスラーム文化は、古代ギリシア思想(特にアリストテレス哲学)を否定するどころか、積極的に受容・研究し、独自の学問(神学、哲学、自然科学)を発展させました。これらの成果は、後にヨーロッパに逆輸入され、スコラ哲学やルネサンスに大きな影響を与えました。

②【誤】

イスラーム共同体(ウンマ)は、民族、国家、人種といった枠組みを「超えて」、神(アッラー)の前では全ての信徒が平等であるとされる世界的な宗教共同体です。

③【誤】

ジハード(努力)には、内面的な精神の陶冶(大ジハード)と、共同体を守るための外敵に対する防衛的な武力行使(小ジハード)の両方が含まれます。「武力行使は含まれない」という記述は誤りです。

④【正】

イスラームは、ユダヤ教やキリスト教を同じ唯一神(アッラー)の啓示を受けた「啓典の民」として認めています。そのため、ユダヤ教の預言者であるモーセも、神の言葉(律法=タウラー)を預かった偉大な預言者の一人として尊重されています。

問4:正解①

<問題要旨>

様々な宗教や思想家における「人間の生き方」に関する考え方を問う問題です。

<選択肢>

①【正】

アリストテレスは、人間の徳を知性的徳(知恵・思慮)と倫理的徳(勇気・節制など)に分けました。そして、知性的徳の一つである「思慮(フロネーシス)」を働かせることによって、行為や情念における「過剰」や「不足」を避け、中庸(メソテース)を得ることが、倫理的徳であり幸福な生き方であると説きました。

②【誤】

パウロが説き、後にキリスト教の「三元徳」と呼ばれるようになったのは、「信仰・希望・愛」の三つです。「正義」は、古代ギリシア哲学で説かれた四元徳(知恵・勇気・節制・正義)の一つであり、パウロの三元徳には含まれません。

③【誤】

「実に、神の国はあなたがたの中にある」という言葉は、神の支配が内面的・実存的に実現されることを示すイエスの言葉です。「黄金律」とは、一般に「すべて人にせられんと思うことは、人にもまたそのごとくせよ」(マタイによる福音書)という教えを指します。

④【誤】

大乗仏教は、自分自身の解脱(自利)だけでなく、他者を救済する実践(利他)を重視します。忍辱(耐え忍ぶこと)も重要な修行(六波羅蜜の一つ)ですが、他者の修行を妨げないために「慈悲の実践を控える」ことは、利他行を重んじる大乗仏教の教えに反します。

問5:正解①

<問題要旨>

マルクス・アウレリウス『自省録』の資料を読み解き、ストア派の思想を理解しているかを問う問題です。

<選択肢>

a:Bは「面倒」「不快」を避けて議論(真理の追究)をやめました 。資料によれば、これは「自己への欺きと無知にとどまる者」であり、「害を被っている」状態にあたります 。したがって、「真理を見ようとせず、無知による害を受けかねない」  が文脈に合います。

b:マルクス・アウレリウスはストア派の哲学者です 。ストア派は、理性(ロゴス)に従い、喜怒哀楽といった情念(パトス)に惑わされない「アパテイア(不動心)」の状態こそが賢者であり、幸福であると考えました。したがって、「喜怒哀楽の情念に惑わされない人間が賢者である」  がストア派の思想として正しいです。 上記aとbの組合せとして正しいのは①です。

問6:正解③

<問題要旨>

資料1(老子)と資料2(ヨブ記)の読解、および関連知識(老荘思想、ユダヤ教)について、適当でない説明を選ぶ問題です。

<選択肢>

①【正】

資料1(老子)には、「有と無、難と易」などの対立概念は「互いに依存し合い相対的な関係にある」と書かれています 。そして「ゆえに、聖人は無為を決め込み、言葉に依らない教えを実行する」とあり 、説明は資料の内容と一致しています 。

②【正】

老子は、儒家が説くような人為的な道徳(仁義礼智)や文明の発達が、かえって人々を「道(タオ)」という根源的で自然なあり方から遠ざけたと批判し、無為自然の生き方を説きました 。説明は老子の思想として正しいです。

③【誤】

「旧約」という呼称は、イエス・キリストによる「新しい契約(新約)」を信じるキリスト教徒が、それ以前のユダヤ教の聖典(神との古い契約)を指すために用いた言葉です。「ユダヤ教徒自身が誇りを持ってそう呼ぶようになった」  という説明は誤りです。ユダヤ教徒自身が自らの聖典を「旧約」と呼ぶことはなく、「タナハ」などと呼びます。

④【正】

資料2(ヨブ記)では、不幸の理由を神に問いただしていたヨブが、最終的に全能者である神の前に自らの卑小さを認め、「私は取るに足りない者」「自分を退け塵と灰の上で悔い改めます」と反省している様子が描かれています 。説明は資料の内容と一致しています 。

問7:正解①

<問題要旨>

『スッタニパータ』(ブッダの言葉)の資料を読み解き、ブッダの思想と関連づける問題です。

<選択肢>

a:資料には、論争は「称賛の獲得以外に何にもならない」こと 、その称賛が「喜び、心高ぶる」こと(=驕り)を生み 、「心の高ぶりによって、彼が害される」 と書かれています。したがって、「論争は称賛を得ること以外には何の役にも立たず、称賛は心の高ぶりを生み出すことで人を害するため、人は論争すべきではない」  という説明は、資料の記述と合致しています。

b:ブッダは、苦しみの原因は対象への執着(渇愛、煩悩)にあると説きました。資料で述べられている「称賛」への執着や「心の高ぶり」(驕り)も、自己への執着の一形態です。したがって、「自己への執着が苦しみの原因であると主張した」 という説明は、ブッダの根本思想として正しく、資料の文脈とも関連しています。(②、④の「身体を苦しめる修行」  は、ブッダが中道によって退けた苦行主義であるため誤りです)。 上記aとbの組合せとして正しいのは①です。

問8:正解②

<問題要旨>

AとBの対話の文脈に合う思想家の記述を選ぶ問題です。文脈は、議論を避けること(Bの当初の態度)や、議論で相手を言い負かすこと(Aの当初の態度)の危険性を認識した上で 、「議論をしてはじめて真理へと至る道が開けてくる」 、「互いの言い分を理解し合おうとすることが、自分の考えを深めて磨く機会にもなり得る」  という、議論の積極的な意義に気づく流れです。

<選択肢>

①【誤】

イエスが裁判で「黙り続け」た  のは、議論を放棄した(あるいは超越した)場面であり、議論を通じて真理に至るという文脈には合いません。

②【正】

王陽明が、対立した弟子たちに対し、「議論によって互いの主張に耳を傾け、相互の見解を補い合うことで、正しい理解へと至ることができる」と諭した  というエピソードは、「議論が真理へ至る道を開く」「互いを理解し合う機会になる」というAとBの気づきと完全に一致します。

③【誤】

ナーガールジュナ(竜樹)は、論争の前提となる言葉自体の実在性(自性)を否定する「空」の思想を説き、「論争に基づいて解脱に到達することはあり得ない」  としました。文脈と逆です。

④【誤】

ゴルギアス(ソフィスト)は、「あらゆる物事について…理解できたとしても言葉で伝えられない」と論じ 、議論によって得られる客観的な真理に懐疑的な立場をとりました。文脈と合いません。

第2問

問1:正解④

<問題要旨>

古代日本人の自然観や罪の観念についての理解を問う問題です。

<選択肢>

①【誤】

古代の日本(古神道)では、自然の恵みだけでなく、その脅威(災厄)も含めて、あらゆる自然物や現象に神が宿る(八百万の神)と考えるアニミズム的な自然観を持っていました。「自然の中に神が存在することを認めなかった」  という記述は誤りです。

②【誤】

災厄(=ケガレ)が生じた際には、祭祀(ハレの儀式)を行い、ケガレを祓い清めることで、共同体の秩序と日常(ケ)を回復しようとしました。「一切の祭祀を行わなかった」  という記述は誤りです。

③【誤】

古代神道における罪やケガレは、病気や死、災厄のように外部から付着するものであり、禊(みそぎ)や祓(はらい)によって清められる(=元の清浄な状態に戻る)と考えられていました。「人間が生まれながらに持っている罪」 (原罪)という観念は、キリスト教のものです。

④【正】

古代神道では、偽りのない清らかな心(「明き清き心」など)で神や共同体に向き合うことが理想とされました 。一方で、祭祀(共同体の秩序維持に不可欠なもの)を妨害する行為(天津罪など)は、共同体の安穏を脅かす「罪」であると考えられました。

問2:正解⑤

<問題要旨>

聖徳太子が定めたとされる「憲法十七条(十七条憲法)」の条文解釈に関する正誤を判断する問題です 。

<選択肢>

ア【誤】

第一条の「和をもって貴しとなし」 は、人々が争わず、協調・調和することを重んじるべきだ(儒教的・仏教的な影響)という役人の心得を示したものであり、「人々が出家して仏教の真理を体得すること」  までを意味するものではありません。

イ【正】

第二条の「篤く三宝を敬え」  は、当時の新しい指導理念であった仏教の三つの宝、すなわち「仏(ブッダ)・法(教え)・僧(教団)」を深く尊重せよ、という意味です。

ウ【誤】

第十条の「ともにこれ凡夫のみ」 は、人間は誰もが欲望や怒りにとらわれた不完全な存在(凡夫)であるという仏教的な人間観を示しています。だからこそ、自分が必ず正しく相手が必ず間違っていると断定せず、「衆(人々)とともに論うべし(議論しなさい)」と続き、独断を戒めています。「他人に意見を求めることの無意味さ」  を説いているのではなく、むしろその逆です。

問3:正解①

<問題要旨>

図1(明恵)、図2(ブッダ)、図3(現代の禅僧)に共通する修行法(座禅)から、日本仏教の共通性を考察する問題です 。

<選択肢>

a:図1は鎌倉時代の僧である明恵の肖像(『樹上座禅像』)です 。明恵は、法然の専修念仏を批判し、戒律を重んじ、華厳宗の復興に努めたことで知られます。

b:図1(明恵)、図2(ブッダ)、図3(禅僧)は、いずれも「座禅(坐禅)」という姿勢をとっています 。これは、ブッダ以来、時代や地域、宗派(禅宗や華厳宗など)を超えて行われてきた、悟りを目指すための「心身のあり方を重視する修行」であると言えます 。 (②、④、⑥の「念仏を唱える」修行  は、主に浄土宗や浄土真宗の修行法であり、図の姿勢(座禅)とは必ずしも一致しません)。

上記aとbの組合せとして正しいのは①です。

問4:正解③

<問題要旨>

江戸時代の国学者、本居宣長の説いた「真心(まごころ)」の考え方に即した発言を選ぶ問題です 。宣長は、儒教や仏教の道徳(漢意=からごころ)によって抑圧される以前の、人間が生まれつき持っている自然な感情(真心)を肯定し、それを『源氏物語』などに見いだされる「もののあはれ」を知る心として評価しました。

<選択肢>

①【誤】

「物事の善悪を考え、道理に従って正しく行動」  というのは、道徳規範や理性を重んじる儒教的な考え方(漢意)であり、宣長が重視した自然な感情(真心)とは異なります。

②【誤】

「心の状態にかかわらず、自分の立場や役割をよく考え」  て感情を抑えるのも、儒教的な道徳(漢意)であり、自然な感情の発露を肯定する宣長の考え方とは異なります。

③【正】

「悲しいときには泣けばいいし、嬉しいときには喜べばいい」「そうすることが、人の本来の生き方である」  という発言は、道徳規範で感情を抑圧するのではなく、ありのままの自然な感情(真心)を肯定する宣長の思想に合致しています。

④【誤】

「感情に任せて他人と争うなんて、愚かなこと」「一時の感情に身を任せずに」  というのは、感情を理性的・道徳的にコントロールしようとする考え方(漢意)であり、宣長の思想とは異なります。

問5:正解③

<問題要旨>

江戸時代の思想家、安藤昌益の思想についての説明を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【誤】

「ただの町人こそ楽しけれ」と述べ、町人の生き方を肯定したのは、西川如見(『町人袋』)です 。

②【誤】

天道(自然の道理)と人道(人間の努力)の関係を説き、倹約・勤勉などの「報徳」の実践を重視したのは、二宮尊徳です 。

③【正】

安藤昌益は、武士や学者などが農民を搾取する封建的な社会を「法世」と呼んで厳しく批判し 、すべての人が自ら土地を耕す(万人直耕)、平等で差別のない「自然世」を理想としました。

④【誤】

社会において守るべき道徳(義理)と、人間が本来持つ心情(人情)との葛藤(相克)を浄瑠璃などで描いたのは、近松門左衛門です 。

問6:正解④

<問題要旨>

アとイの説明が、それぞれどの思想家(石川啄木、安部磯雄、北村透谷)に当てはまるかを判断する問題です 。

<選択肢>

ア: 「キリスト教的人道主義の立場」から、近代化に伴う「社会問題」に関心を持ち、「競争や階級のない平等な社会(=社会主義)」の実現を目指したのは 、日本における社会主義の先駆者の一人である安部磯雄の説明です。

イ: 当初は「現実的な政治の世界」にも関わったが、後に「文学の世界」に移り、「自己の内部生命の要求を実現すること」を求めるロマン主義的な「内部生命論」を説いたのは 、北村透谷の説明です。 (石川啄木は、生活の苦しみ(現実)をうたった歌人であり、後に社会主義にも関心を持った思想家ですが、ア、イのどちらの説明とも合致しません)。

問7:正解②

<問題要旨>

西田幾多郎と親鸞の思想に関する説明(ノート)のうち、適当でないものを選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【正】

西田幾多郎は、主観と客観が分かれる以前の、意識が対象と一体化した直接的な経験(例:音楽に我を忘れて聴き入る状態)を「純粋経験」と呼び、これを哲学の出発点としました 。『善の研究』における中心概念です。

②【誤】

西田は、主客が分離した状態での「知の働き(認識)」によっては「真の実在」は捉えられないと考えました。彼にとって「真の実在」とは、主客未分の「純粋経験」において捉えられるものです。したがって、「純粋な知の働きによって『真の実在』を認識し」  という部分が、西田の思想(特に初期の純粋経験論)と矛盾します。

③【正】

親鸞は、自己の内面を深く見つめ、自力では捨て去ることのできない煩悩(悪)を抱えた存在であると自覚した(悪人自覚)ことを重視しました 。そして、そのような「悪人」こそが阿弥陀仏の救いの主たる対象であるという「悪人正機」説を説きました。

④【正】

親鸞は、悟りを求めようとする自らの「はからい」(自力)を捨て、すべてを阿弥陀仏の本願(他力)に任せるべきと説きました 。その完全に他力に身を委ねた状態(救いが阿弥陀仏のはたらきによって自然に定まっていること)を「自然法爾」という言葉で表現しました。

問8:正解④

<問題要旨>

阿部次郎『三太郎の日記』の一節を読み、資料における「理想」の役割(現実を浄化する力)について理解する問題です 。

<選択肢>

資料によれば、理想は「現実の上にかかる力」「現実を指導して行く」ものであり 、常に「現実と矛盾する」「一歩の間隔を保って」いるとされます 。そして、現実を「浄化」する(=「存在の意義を、存在の原理を更新する」)とあります 。

①【誤】

「無条件に肯定する」 は、理想が「現実と矛盾する」「何物かを否定する」  という記述と反します。

②【誤】

「齟齬なく合致」 は、「現実と矛盾する」「一歩の間隔を保って行く」  という記述と反します。

③【誤】

「現実そのものを消し去ろうとする」 は、「否定とは存在を絶滅することにあらずして、存在の意義を…更新することである」  という記述と反します。

④【正】

「現実と理想の隔たり(=矛盾、間隔)を浮かび上がらせ、現実を向上させる(=浄化する、指導する)原動力となる」  という説明は、資料の記述全体と合致しています。

第3問

問1:正解③

<問題要旨>

ルネサンス期の思想家、ピコ・デラ・ミランドラの人間観についての説明を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【誤】

人間は「自由意志を持つ」点は正しいですが、「他の動物と同じように」ではありません 。ピコは、他の動物や天使が神によって定められた本性しか持たないのに対し、人間だけが「自由意志」によって自らのあり方を自由に決定できる(天使にも獣にもなれる)点に、人間の独自性と尊厳があると考えました。

②【誤】

上記①の通り、人間は「自由意志を持っていない」  のではなく、「持っている」としました。

③【正】

ピコ・デラ・ミランドラは、人間は「他の動物と違い」、神から与えられた「自由意志」によって、「自己のあり方を自分で決めることができる」  存在であり、そこに人間の尊厳がある(『人間の尊厳について』)と説きました。

④【誤】

人間は「自由意志を持っている」が、「自己のあり方を自分で決めることはできない」  という記述は自己矛盾しており、ピコの思想とも反します。

問2:正解④

<問題要旨>

「現代版の魔女狩り」(=根拠なく思考停止に陥り、少数の人々を迫害すること)の事例として、適当でないものを選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【正】

困難の原因を特定の集団に「根拠なく決め付けて、彼らを攻撃する」  のは、思考停止による迫害(スケープゴート化)の典型例であり、魔女狩りの構造と一致します。

②【正】

「思想や信条の異なる人々を自分たちとは異なるというだけで迫害し」  のは、思考停止による不寛容や排他主義であり、魔女狩りの構造と一致します。

③【正】

権力者の言うことを「言うままに不満の原因と思い込み、糾弾する」  のは、権威への盲従による思考停止であり、魔女狩りの構造と一致します。

④【誤】

不安を解消できると主張する人物を「根拠を確かめないまま熱狂的に支持する」 ことは、「思考停止」状態ではあります(ポピュリズムへの傾倒)。しかし、①~③が明確に他者を「攻撃」「迫害」「糾弾」しているのに対し、これは「支持する」にとどまっており、会話の文脈である「少数の人々を迫害したのが魔女狩り」  という事例としては、最も適当ではありません。

問3:正解①

<問題要旨> デカルトの「方法的懐疑」についての正しい説明を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【正】

デカルトは、絶対に確実な真理(哲学の第一原理)を見いだすために、少しでも疑わしいもの(感覚、外部世界の存在、数学的真理さえも)をいったん全て偽として退ける「方法的懐疑」を用いました 。その結果、すべてを疑っている「私」(精神)の存在(我思う、ゆえに我あり=コギト・エルゴ・スム)だけは疑い得ないことを見いだしました。

②【誤】

懐疑はあくまで確実な真理を見いだすための「方法」であり、結論を導くことを「回避し続ける」こと(懐疑論)が目的ではありませんでした 。

③【誤】

方法的懐疑の過程で、デカルトは「数学上の真理」ですら、全能だが欺く神(悪しき神)によって騙されているかもしれないとして、疑いの対象としました 。

④【誤】

デカルトは、「自分の感覚」こそが最も疑わしいもの(例:夢と現実の区別がつかない、水中の棒は曲がって見える)として、懐疑の出発点としました 。

問4:正解④

<問題要旨>

『人間知性論』を著し、人間の心を「白紙」になぞらえた思想家(ロック)の思想を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【誤】 「自我とは知覚の束」と主張したのはヒュームです 。

②【誤】 ロックの記述ですが、「生まれながらにして人間に具わっている観念(=生得観念)」を、ロックは明確に否定しました 。

③【誤】 「存在するとは知覚されることである」と主張したのはバークリーです。

④【正】 イギリス経験論のロックは、『人間知性論(人間悟性論)』を著し、人間は生まれたとき「白紙」であり、「生得の観念」は存在しないと主張しました 。全ての知識(観念)は、感覚と反省という「経験」を通じて得られるとしました。

問5:正解②

<問題要旨>

ヘーゲルの「弁証法」に関する説明の正誤を判断する問題です 。

<選択肢>

ア【正】

ヘーゲルの弁証法は、物事がそれ自身のうちに含む矛盾(テーゼ=正)と、それに対立するもの(アンチテーゼ=反)との対立・闘争を経て、両者をより高次の段階で統一(ジンテーゼ=合)することで発展していくという論理です 。彼は、この論理が個人の精神だけでなく、社会や歴史(絶対精神が自由を実現していく過程)をも貫いていると考えました 。

イ【誤】

弁証法の「合」の段階である「止揚(アウフヘーベン)」は、対立する二つの要素(正と反)を、どちらか一方を「廃棄」するのではなく、両者の良い側面を「保存」しつつ、古い段階を「否定(克服)」し、より高い次元で「統一」することを意味します 。「他方を廃棄して」という記述が誤りです。

問6:正解③

<問題要旨>

ヤスパースの「限界状況」をめぐる思想の正しい説明を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【誤】

「限界状況」(死、苦悩、罪責、争いなど)は、人間の力では「克服」できない壁であり 、それに直面して挫折することこそが、自己の有限性を自覚し、本来の自己(実存)に目覚める契機となるとしました。「克服し得たとき」という記述は誤りです。

②【誤】

ヤスパースは有神論的実存主義者であり、限界状況における挫折を通じて、人間を超えた「超越者」(神)との関係において自己(実存)を見いだすと考えました。「超越的な存在に頼ることのない」  という記述は誤りです。

③【正】

ヤスパースは、限界状況と向き合い、真の自己を求める者同士が、心を開いて誠実に語り合う(実存的交わり)ことを重視しました 。この全人格的な対話(「愛しながらの戦い」とも呼ばれます)に身を投じることで、互いの実存が明らかになるとしました 。

④【誤】

「愛しながらの戦い」は「実存的交わり」の説明であり正しいですが 、ヤスパースは理性を否定したわけではありません。彼は、理性(悟性)の限界を自覚した上で、理性では捉えきれない「実存」や「超越者」の領域を重視しました。「理性に拠らない」  という表現は不正確です。

問7:正解①

<問題要旨>

デューイの『経験と教育』の資料を読み解き、彼のプラグマティズム思想(知性の役割)と関連づける問題です 。

<選択肢>

a:デューイはプラグマティズムの思想家であり 、知性を、単なる「科学的真理の探究」のためだけでなく、現実生活で直面する様々な「問題を把握し、課題の解決に向かって行動を導く」ための創造的な「道具」として捉えました。①、②の記述  はデューイの思想として正しいです。

b:資料では、「思考」が「衝動が即座に現れることを食い止め」、客観的な観察や過去の記憶と結合することで、「いっそう包括的で一貫した行動の見通し」を形成し、「衝動を自分の内部で統御する」と述べられています 。これは、①、③が説明するように 、衝動を抑えつつ、客観的条件や過去の事例(記憶)を吟味して、行動の当否を判断する(振り返る)ことです。 (②、④の「環境の制約や過去の記憶から自由でいられるようにする」 は、資料の「客観的条件を観察」「過去に何が起きたかを思い出したりする」  という記述と矛盾します)。

上記aとbの両方の説明が正しいのは①です。

問8:正解②

<問題要旨>

授業や対話を通じて「思考停止」について学んだFのレポートの空欄を、会話の文脈を踏まえて補充する問題です 。

<選択肢>

a:Fは当初、「知識さえあれば」「思考停止も避けられる」(61ページ)と考えていました 。これはつまり、思考停止の原因は「知識がないこと」(=物事を批判的に捉え返すために必要な思考の材料が不足していること )にあると考えていたことを意味します。②、④が該当します。

b:Fは先生から、「日常生活で、何かが心に引っ掛かって残り続けた経験」が「自分の考えを深めていくための出発点になる」(63ページ)と聞きました 。そして、「心に引っ掛かったことをやり過ごさず、立ち止まって考えることで、自分の考えをいっそう深めていける」(63ページ)と気づきました 。これは、②の「日々の暮らしの中で経験されるようなありふれた物事の中にも考える種はあり、それが自身の思考を深めるきっかけになり得る」  という説明と合致しています。 上記aとbの組合せとして正しいのは②です。

第4問

問1:正解⑤

<問題要旨>

未来世代に対する責任を説いたヨナスについて、会話の文脈を踏まえて考察するメモ(Kの作成)を完成させる問題です 。

<選択肢>

a:ヨナスは、「自然を危機的なまでに傷つけ人類を滅ぼすことができる科学技術」を背景に責任を論じました 。この「科学技術(特に核兵器)による人類滅亡の危機」という問題意識は、「ラッセルとアインシュタインが核兵器の廃絶を主張した」 (ラッセル=アインシュタイン宣言)と共通しています。

b:ヨナスは、科学技術の影響が遠い未来に及ぶことを「知らなければならない」(予見の義務)と主張しました 。これは、KがJに伝えた「個人の行動も未来に影響はするよ」 「遠い将来の人であっても、私たちの行為で被害を受けることがある」という考え方(行為の影響範囲の認識)と同じ発想に基づいています 。 上記aとbの組合せとして正しいのは⑤です。

問2:正解②

<問題要旨>

「デジタル・デバイド(情報格差)」の具体例として最も適当なものを選ぶ問題です 。デジタル・デバイドとは、情報通信技術(ICT)を利用できる環境や能力の有無によって生じる、経済的・社会的な格差を指します。

<選択肢>

①【誤】

ネット上の個人情報やプライバシー侵害、いわゆる「忘れられる権利」の問題であり 、デジタル・デバイドそのものではありません。

②【正】

「インターネットに接続しにくい地域に住んでいる」というアクセス環境の格差によって、「教育や就職の機会において不利になっている」  という社会的な格差が生じており、デジタル・デバイド(特に地域間格差)の典型例です。

③【誤】

同じ意見の人々だけで閉鎖的なコミュニティが形成され、意見が先鋭化する「エコーチェンバー現象」や「フィルターバブル」の問題です 。

④【誤】

情報の発信者(政府や企業)による情報操作や、情報の受け手の「メディア・リテラシー」の問題です 。

問3:正解①

<問題要旨>

子どもの発達や養育に関する用語や理論(家族機能、発達段階論)についての説明を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【正】

かつては主に家族(家庭)が担っていた機能(例:子育て、教育、介護、経済活動)が、社会の変化に伴い、保育所、学校、病院、企業、介護施設などの外部の組織やサービスによって担われるようになることを「家族機能の外部化(あるいは社会化)」と呼びます 。

②【誤】

青年期を、子ども集団にも大人集団にも安定的に所属できない不安定な存在として「境界人(マージナル・マン)」と呼んだのはレヴィンです 。「脱中心化」は、自己中心的な視点から抜け出し、他者の視点や客観的な視点を持てるようになるという、ピアジェの認知発達理論における用語です。

③【誤】

親や大人の保護・指図に対して反発する時期は、幼児期の「第一反抗期」(イヤイヤ期)と、思春期(青年期前期)に親からの精神的自立を目指す「第二反抗期」があります。「7~8歳の頃」  は一般的に反抗期とは呼ばれません(ギャングエイジと呼ばれる時期です)。

④【誤】

エリクソンの発達課題において、「基本的信頼」の獲得は「乳児期」(0~1歳頃)の課題です 。「青年期」の課題としたのは「アイデンティティ(自我同一性)の確立」です。

問4:正解④

<問題要旨>

アとイの説明が、それぞれどの思想家(パース、メルロ=ポンティ、レオポルド)に当てはまるかを判断する問題です 。

<選択肢>

ア: 「人間は身体を通じて世界を知覚し行動する」「身体によって世界の中に織り込まれている」と述べ 、主客二元論を批判し、知覚や行動の基盤としての「身体」を重視したのは、フランスの哲学者メルロ=ポンティです。

イ: 「人間は生態系の征服者ではなく一構成員」であり、「生態系という共同体」全体(土壌、水、動植物、人間を含む)を尊重し配慮して行動すべきである  という「土地倫理(ランド・エシック)」を提唱したのは、アメリカの思想家レオポルドです。 (パースは、プラグマティズムの創始者の一人です)。

問5:正解①

<問題要旨>

インド独立の父、ガンディーの思想(不当な支配への抵抗)に関する正しい説明を選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【正】

ガンディーは、不当な支配に対して、暴力(ヒンサー)を用いず、アヒンサー(不殺生・非暴力)の立場を貫き、「真理を把持(サティヤーグラハ)」に基づく非暴力・不服従運動によって抵抗すべきであると説きました 。

②【誤】

ガンディーはアヒンサー(不殺生)の立場を貫きましたが、「一切の抵抗を断念」した  のではなく、非暴力・不服従という積極的な「抵抗」を実践しました。

③【誤】

「ブラフマチャリヤー」とは「禁欲」(特に性的な禁欲)を意味します 。ガンディーが実践した修行の一つですが、「身体的な欲望のままに振る舞う」  こととは正反対です。

④【誤】

ガンディーは「武力闘争」を徹底して否定し 、非暴力(アヒンサー)の立場を貫きました。「武力闘争も辞さずに」という記述はガンディーの思想と根本的に反します。

問6:正解④

<問題要旨>

気候変動の倫理に関する資料の趣旨に当てはまる事例を、ア~ウから全て選ぶ問題です 。 資料は、基本的な道徳原理として、第一に「他の人に危害を及ぼす行動をやめる努力をする」こと(原理A)、第二に「危害を及ぼすであろう人々に補償をしておくべきだ」こと(原理B)を挙げています 。また、その責任の主体を「ほとんど誰もが」(=私たち一般)と捉えています 。

<選択肢>

ア【正】 交通・輸送手段の利用(危害)を「控える」ために、生活の仕方を変える(集約、地産地消)ことは、「危害をやめる努力」(原理A)の事例です 。主体も「生活者たち」(=私たち一般)であり、資料の趣旨に合います。

イ【正】 メタンガスを出す家畜の肉・乳の過剰な利用(危害)を「やめて」、排出量を「減少させる」ことは、「危害をやめる努力」(原理A)の事例です 。主体も「消費者」(=私たち一般)であり、資料の趣旨に合います。

ウ【誤】 海面上昇の被害者に対し「資金を拠出する」ことは、「補償」(原理B)の事例です 。しかし、その主体が「温室効果ガスを大量に排出した人々や企業」と特定されています 。資料の趣旨が「ほとんど誰もが」(=私たち一般)の日常の活動(車の運転、電力使用など)に責任の源泉を見いだしている  のに対し、ウは責任の主体を「大量排出した人々」に限定しており、資料の趣旨(=私たち自身の問題として捉える)とはズレていると解釈できます。

したがって、趣旨に当てはまるのはアとイであると考えられます。

問7:正解②

<問題要旨>

日本、アメリカ、イギリス、韓国の若者の意識調査(図1:自国の将来、図2:社会問題への関与)のグラフを読み解く問題です 。

<選択肢>

a(Jの発言:日本の特徴):

図1(将来)で「暗い」+「どちらかといえば暗い」=48.7%(32.7% + 16.0%)です 。図2(社会関与)で「そう思わない」+「どちらかといえばそう思わない」=43.6%(19.0% + 24.6%)です 。 選択肢②a「他の国と比べると悲観的な回答や否定的な回答の割合が高いですね」  は、図1(将来)で日本(48.7%)が米(23.3%)、英(29.9%)、韓(43.3%)より高く、図2(社会関与)で日本(43.6%)が米(20.0%)、英(25.2%)、韓(24.8%)より高いため、正しいです。

b(Kの発言:韓国の特徴):

図1(将来)で「明るい」+「どちらかといえば明るい」=41.0%(9.3% + 31.7%)であり、少数派です 。図2(社会関与)で「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」=68.4%(29.9% + 38.5%)であり、多数派です 。 選択肢②b「自国の将来が明るいと思う人が少数派という点では日本と似ている(韓41.0%, 日30.9%→共に少数派)」「社会を良くするために…肯定的な回答が日本と違って多数派ですね(韓68.4%, 日42.3%→多数派と少数派で異なる)」  は、いずれもグラフの読み取りとして正しいです。 よって、aとbが共に正しい②が正解です。

問8:正解④

<問題要旨>

コールバーグの道徳性発達段階の表を参考に、「なぜ盗んではいけないか」という問いに対する回答例として、レベルと理由付けが適合しているものを選ぶ問題です 。

<選択肢>

①【誤】

レベル2:「普遍的な道理に逆らう」 という理由は、「皆に受け入れ可能で自らの良心にもかなう原理」  を重視する「レベル3:脱慣習的道徳性」の視点です。

②【誤】

レベル2:「親に厳しく叱られて、自分が嫌な思いをする」 という理由は、「罰を避けるため」「単純な快不快」  に基づく「レベル1:前慣習的道徳性」の視点です。

③【誤】

レベル3:「警察に逮捕され、刑務所に入れられてしまう」 という理由は、「罰を避ける」ためであり 、「レベル1:前慣習的道徳性」の視点です。

④【正】

レベル3:「所有者を人として尊重していないことになり、自らの内面的な正義の基準に反する」 という理由は、「個人の尊厳」や「自らの良心にもかなう原理」  を重視する「レベル3:脱慣習的道徳性」の視点に適合しています。

問9:正解③

<問題要旨>

「子どもが生まれなくなった社会」の資料を読み、授業前の会話(68ページ)を踏まえて、JとKの会話を完成させる問題です 。 授業前、Kは「(未来世代という)誰かが私たちの遺産を引き継いで幸せに生きていってくれるっていう期待」が「私たちの人生の意味や幸福」にとって重要だと主張し 、Jは「後を継ぐ人がいないとしても、自分らしく生きられるのなら、それで十分」であり 、未来世代への責任は「一方的な自己犠牲」だ  と反論していました。

<選択肢>

a(Kの発言):

資料(後継者がいない社会では人々が絶望している )は、Kの授業前の主張 を裏付ける内容です。したがって、③④の「私たちの遺産を引き継いで幸せに生きる『子どもたち』やその子孫がいることは、私たちの人生にとってもやっぱり重要なんだよ」  という、授業前の主張の繰り返しが文脈に合います。

b(Jの発言):

資料を読み、Jは授業前の考えを改めました 。「人類の文明が滅びる」ことの絶望を知り 、未来世代の存在が「自分たちのためにこそ」重要だと気づきました 。これは、授業前に「一方的な自己犠牲」だと考えていた 自分の認識が間違っていたことを認める発言(③「私は、未来世代に責任を果たすことは、全くの自己犠牲だと思っていたんだけれど、そうではないってことか」 )につながります。 上記aとbの組合せとして正しいのは③です。

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