2026年度 大学入学共通テスト 本試験 国語 解答・解説

2026年度 大学入学共通テスト 本試験「国語」の解答と解説です。全設問の正解と考え方を一問ずつ解説し、公式の解答PDFもあわせて掲載しています。大学受験の森が独自に作成した、無料で読める解説です。

目次

解答

解説

2026年度の大学入学共通テスト「国語」は、試験時間90分・200点満点、第1問から第5問までの5大問構成で、解答番号は1〜37、全問必答です。配点は第1問45点・第2問45点・第3問20点・第4問45点・第5問45点で、現代文3大問が110点、古典2大問が90点を占めます。

第1問は、美術の制作者である筆者が幼少期の記憶からバタイユの造形論を経て、「美しいもの」が言語化も交換もできない「わかりえないもの」を含むことを論じた評論。第2問は、ヴァイオリンを手放して家庭に入った母の記憶を描いた小説に、生徒の【ノート】を組み合わせた出題。第3問は、一冊の絵本にどのような工夫が見られるかを、編集者へのインタビュー記事と別の本の記述と比べて考える実用的な文章。第4問は『うつほ物語』の古文、第5問は江戸時代後期の漢学者長野豊山『松陰快談』の漢文です。

この回の特徴は、与えられた資料や抜粋の範囲を越えずに判断する力が繰り返し問われたことです。第2問の問6は本文以外からの抜粋2つを根拠に空欄を埋める形で、抜粋に書かれていない後悔や非難を読み込むと外れます。第3問の問3は、a欄・b欄のどちらか一方でも資料と食い違えばその番号が誤りという作りで、図が示していない事柄を「示している」とする選択肢が仕込まれています。古典では、第4問問1(イ)の「はしたなし」のように多義語の第一義を取れるかが分かれ目となり、第5問は「不亦〜乎」の詠嘆や「不必」の否定の重なりといった句法で機械的に切れる設問が並びました。時間配分では、20点の第3問を短く抜けて古典に余力を残すのが現実的です。

第1問

美術の制作者である筆者が、幼少期に見慣れた風景がふいに「美しさ」を帯びて立ち現れた体験を語り、そこからバタイユの造形論を経て、「美しいもの」が言語化も交換もできない「わかりえないもの」を含むこと、作品の制作とはその「わかりえないもの」を他者へ「贈与」する行為であることを論じた評論です。同音異字の漢字5問と、傍線部A〜Eの説明5問が問われます。

問1:正解ア④ イ④ ウ① エ② オ②

<問題要旨>

傍線部(ア)〜(オ)と同じ漢字を含むものを、各群の①〜④から一つずつ選ぶ同音異字の問題です。各2点。

<考え方>

傍線部の語を先に漢字で書き下してから各群に当てるのが確実です。(ア)は家々が「肩」を寄せ合う意で、①健脚・②徒手空拳・③堅実・④比肩のうち「肩」を含むのは④。(イ)は陽を「透」かす意で、①陶酔・②逃亡・③哀悼・④浸透のうち「透」を含むのは④。(ウ)は塗装の「塗料」で、①塗布・②前途・③吐露・④渡来のうち「塗」を含むのは①。(エ)は生の「根幹」で、①乾電池・②基幹・③慣用・④貫通のうち「幹」を含むのは②。(オ)は価値「尺度」で、①借用・②縮尺・③釈明・④磁石のうち「尺」を含むのは②です。同音の別字がそろっているので、読みだけで当てず必ず漢字に直してから比べてください。

問2:正解③

<問題要旨>

傍線部Aが、日々のコミュニケーションで感じる他者のわからなさとは異なり、不思議な心地よさを味わわせてくれるものだったと述べる点について、その説明を選ぶ問題です。

<考え方>

傍線部Aの直前では、目に映るもの一つ一つが理解しきれない「他者」として存在していたと述べられ、さらにその前の段落では、筆者が「ふつうのこと」の基準がわからず、見えない約束事から逸脱しないよう友人の顔色を窺っていたこと、そして世界が意味ある輪郭を失って言葉で把握できないものとして感じられることが重要だったことが語られます。つまり傍線部Aは、人間関係のわからなさ(居心地の悪さ)と事物のわからなさ(心地よさ)を対比した箇所です。この二点をそろえて言えているかで切ります。

<選択肢>

①【誤】

「美しさ」を自分の感覚で「求め」たとしますが、本文では美しさは求めて得たものではなく、目に留まった瞬間に立ち現れてくるものとして書かれています。傍線部Aの心地よさが何に由来するのかも説明できていません。

②【誤】

「薄い膜の向こう」という表現自体は本文にありますが、そこから「自分自身に対する理解を深めていく」という展開は本文にありません。本文にない因果を足した選択肢です。

③【正】

見えない約束事のある社会にうまくなじめない「わたし」が、日常の景色を眺めるなかでわからないものに思いがけず出会い、それが意味や言葉で捉えきれないことに心地よさを覚えた、という筋が傍線部Aの前後の記述と一致します。

④【誤】

「基準に疑問を抱きつづけてきた」「他者の求めるルールや基準を放棄し」とありますが、本文の「わたし」は基準がわからなかっただけで、疑問を呈したり放棄したりはしていません。

問3:正解②

<問題要旨>

傍線部Bが、造形行為には目の前で変貌していく素材との交流という側面があると述べる、その内容を選ぶ問題です。

<考え方>

傍線部Bの直後に、素材の形や色を変質させていく行為が、その結果として出現する思いもよらない素材の姿を受動的に味わう時間をもたらすと述べられています。さらに前の段落のバタイユを引いた記述では、線の中から形象が一種の主体のように自ら現れ、見る主体と見られる対象との関係が崩れ去って自己の存在もまた揺るがされるとされます。「予期しない素材の姿との遭遇」と「作者の側も変わる」の二点を満たすものを選びます。

<選択肢>

①【誤】

「作者が持つイメージを再現していく」「素材が作者の内的イメージを補強する」としますが、本文は再現を蛇足と述べ、再現がかえって対象を歪めるとしています。方向が逆です。

②【正】

素材を変質させる過程で意図しなかった素材の姿に出会い、それを加工する行為とを反復し、そのなかで作者のあり方も変わっていく、という説明が、傍線部B直後の記述とバタイユを引いた記述の両方に対応します。

③【誤】

「聖なるもの」は、線の中から出現しつつある形象が一種の主体のように自ら現れる在り方を指す語で、作者が引き出すものではありません。主体のすり替えです。

④【誤】

「制作方法を熟考し検討し直す」は本文にありません。また本文では見る主体と対象の関係は崩れ去るとされており、「逆転していく」ではありません。

問4:正解②

<問題要旨>

傍線部Cで筆者が、ここまでの記述は幼少期の私的な記憶の追想と個人的な解釈にすぎないと述べる、その理由を選ぶ問題です。

<考え方>

理由は傍線部Cの直後の逆接が示しています。「にもかかわらず」と続けて、こうした感覚は自分一人だけのものではなく、日常の中で突如出会う美的体験から子どもたちの造形行為、専門的な作品制作に至るまで、あらゆる芸術的体験の根源に関わるのではないかと述べられます。私的だと断るのは、そのあとで一般に通じるものとして提起するための前置きだと押さえます。

<選択肢>

①【誤】

「芸術的体験の多様性」を強調するためとしますが、直後で述べられるのは体験の根源にある共通性です。強調する方向が逆になっています。

②【正】

幼少期の記憶と現在の制作に向かう体験を重ね、それが芸術の根源にもつながる問題だと述べることで、私的な体験を一般に通じるものとして提起しようとしている、という説明が直後の逆接の内容と一致します。

③【誤】

「誰にでもわかるものとして提起」は、言語的に理解できない「わかりえなさ」を論じる本文の立場と矛盾します。

④【誤】

「芸術を主観的な価値を持つものとして説明しようとしている」は逆です。筆者は私的な感覚が自分だけのものではないと述べています。

問5:正解③

<問題要旨>

傍線部Dが、コミュニケーション可能な対象と信じられている他者の外側に、絶対的に「わかりえない」余白としての「他者」の存在が了解されると述べる、その理由を選ぶ問題です。

<考え方>

理由は傍線部Dの直前の一文にあります。言語的に把握でき価値を客観的に推量できると信じられている世界のただ中から「美しさ」が出現し「わかりえないもの」が立ち上がる瞬間に、世界は本来的な「交換不可能性」を露わにする、という筋道です。「共有・交換できると当たり前に思っていた世界の内側に、理解できないものが現れる」という順序で書けているかで切ります。

<選択肢>

①【誤】

「わかりあえない他者が現実社会に存在していること」としますが、傍線部Dの「他者」は、交換も分節化もできない余白を指す括弧つきの語で、実在する分かり合えない人間のことではありません。主体のすり替えです。

②【誤】

「覆い隠されていた科学や論理に基づく第三者と共有可能な基準が明らかになり」が逆です。露わになるのは共有可能な基準ではなく、世界の交換不可能性です。

③【正】

個人の感覚に支えられた「美しさ」に出会うと、普段の生活では共有可能なものとして当たり前に考えてきた世界のなかに、理解しえないものが存在することを認識できる、という説明が傍線部D直前の論理と一致します。

④【誤】

「個人による感覚が最大限尊重される望ましい社会の姿に目を向ける」は、本文にない価値判断の付け足しです。

問6:正解①

<問題要旨>

傍線部Eの「『作品』を制作するということ」に対する筆者の考えを選ぶ問題です。

<考え方>

傍線部E以降が根拠になります。制作とは「わかりえないもの」の生成と消滅に繰り返し立ち会う行為であり、その出現に受動的に巻き込まれるだけでなく、自ら能動的に「わかりえないもの」を生み出して他者へ一方的に「贈与」すること、そして誰とも交換できず受け取られる保証もないものが、いつか誰かの世界を揺るがすものとなることを微かに期待する、と述べられます。「立ち会う」「固定化された自己が揺らぐ」「受容者の前にも見知らぬ世界が立ち上がることを願う」の三点で選びます。

<選択肢>

①【正】

自分自身でも予想のできない「美しさ」の出現に立ち会うことによって固定化された自己が揺るがされる行為であり、「作品」の受容者の前にも見知らぬ世界が立ち上がることを、難しいながらも願っている、という説明が傍線部E以降の記述と対応します。

②【誤】

「『美しさ』という概念の虚構性」を届けようとするという記述は本文にありません。

③【誤】

「かけがえのない自己」に気づくとしますが、本文では自己は揺るがされ変容を余儀なくされるとされます。「受容者の認識をよりよく変化させる」という価値づけも本文にありません。

④【誤】

「誰にもわからない『美』を完成させる」が誤りです。本文では、作品はたとえ完成したとしても筆者の手からはみ出し、いつも見知らぬものとして目の前に現れるとされています。

第2問

遠藤周作「影に対して」の一節です。小説家志望で現在は翻訳の仕事で生計を立てる勝呂が、入院していた少年期の記憶から、ヴァイオリンを手放して家庭に入った母の姿を回想します。傍線部A〜Cと4つの波線部、表現の問題に加え、問6では生徒Nさんの【ノート】(本文以外からの抜粋2つ)とNさん・Yさんの対話を用いた解釈が問われます。

問1:正解②

<問題要旨>

傍線部Aで、母が今何をしているのかがわかったとき、勝呂の心に寂しさと怒りに似た気持とが同時にこみあげてきたとある、その説明を選ぶ問題です。

<考え方>

直前で、勝呂は早く治るよりも入院が長引くことを心で願っていた、病気のおかげで母を独占できたと子供心にも知っていた、ヴァイオリンから母を奪うには治らないことが必要だった、と語られています。そのうえで、椅子に腰かけた母が膝の上で左手の指をしきりに動かしている(運指の練習をしている)と気づく場面です。寂しさは母を独占できないことへの思い、怒りに似た気持は母へ向けられたものと押さえます。

<選択肢>

①【誤】

「母の足手まといになっていることを後ろめたく思う」が本文と逆です。勝呂は入院が長引くことを願っていました。

②【正】

ヴァイオリンを弾いているような仕草をする母を見て、母を独り占めできないことを切なく思うとともに、自分の気持ちをわかってくれない母に憤りを覚えた、という説明が直前の記述と対応します。

③【誤】

「入院生活が終わると」占有できなくなるとしますが、勝呂が感じたのはその場で母を独占できていないことです。「あらゆる所作に難癖をつけて八つ当たりしたい衝動」も本文にありません。

④【誤】

「楽器にすら勝つことができない自分を哀れに思う」は「寂しさ」の説明になっていません。また「憎しみ」は「怒りに似た気持」より強く、本文の表現とずれます。

問2:正解③

<問題要旨>

傍線部Bで父も満足そうだったとあるが、そのように見えたのはなぜかを選ぶ問題です。

<考え方>

傍線部Bの前では、母がヴァイオリンを弾かなくなり、女中に指図して食事を作り、庭に花を植え、勝呂の勉強も手伝う生活になったことが語られます。傍線部Bのあとで父は「平凡が一番いい」に続けて「平凡を笑う者は平凡に仕返しされる」「人間、高望みをしてはいけない」を繰り返し、しかもそれが母を諭す意味だったのかはわからないと語り手が付け加えます。つまり父が望んだ平凡な暮らしに母が応じる形になっていたから、と押さえます。

<選択肢>

①【誤】

庭に苗を植えて何時間も過ごすのは父の姿です。母が草花に愛情を注ぐことを日課としたとも、父が母に庭いじりを求めたとも本文には書かれていません。

②【誤】

「家族の誰も病気せず」は父の言葉にありますが、音楽のせいで母が心身に支障をきたすことを父が心配したという記述はなく、母が家族の健康に力を尽くしていたという説明にもなっていません。

③【正】

父は平凡を笑う者は平凡に仕返しされると考え、ヴァイオリンに没頭して家族を顧みない態度をあらためることを母に求めており、その結果、母がその求めに応じる日々を過ごしていた、という説明が傍線部Bの前後の記述と合います。

④【誤】

母が「家族との生活に感謝しようとしていた」は本文にありません。むしろ母は寂しさを抱えていたと語られています。

問3:正解④

<問題要旨>

55行目から69行目に置かれた4つの波線部a〜d(いずれも母の「哀しそう」な表情)について、それぞれの場面での母の様子の説明を選ぶ問題です。

<考え方>

4つの場面を、母が誰を見ているか・勝呂に気づいているかで整理します。aは父の家計簿をめぐる説教のあと、心配そうに二人を見ている勝呂へ向けた表情。bは黙って歩き続けるなか、話しかけてくる勝呂にうなずくだけの反応。cは元気がない、病気なのかと問う勝呂に、心配しなくていいと首をふって返した表情。dは酔った客が大声で軍歌を歌う姿をじっと見つめている場面で、勝呂に見られていることは意識していません。dに付された「あの」という指示語が、この表情が繰り返し現れる定まったものであることを示す点が決め手です。

<選択肢>

①【誤】

aの場面で母が父の小言に「実は不満を抱いている」ことや、それを勝呂にさとられないよう「気をそらそうとしている」ことは本文に書かれていません。

②【誤】

bの場面で母が「勝呂の存在まで腹立たしく感じてしまう」とまでは本文に書かれていません。程度の拡大です。

③【誤】

cの場面で母は首をふって心配しなくていいと伝え、そのあと浮袋を買って海水浴の約束までしています。「息子の憂慮を確信へと深めさせてしまっている」という結果は本文から読み取れません。

④【正】

dの場面で母は客の姿を見つめており、勝呂に見られている自覚はありません。「あの」という指示語が、求められる役割を果たしてきたなかで染みついた表情であることを示し、そこに積み重なった辛さがにじみでている、という説明が本文と合います。

問4:正解①

<問題要旨>

傍線部Cが、まだ小学校五年生だった彼には裏にある感情まで到底見抜くことはできなかったと述べる、その部分の説明を選ぶ問題です。

<考え方>

傍線部Cの直前で、母は音楽学校時代の友人に倖せなのかと問われ、充分満足しているとはっきり答え、それを闇の中で聞いた少年の勝呂は嬉しい気持でいました。ところが語り手は「今、考えれば」その返事は友人への対抗心から出たのだろうと述べます。少年の受け取り方と、現在の勝呂の理解とのずれを二重に押さえます。勝呂が小説家志望のまま翻訳で生計を立てていることは冒頭の説明にあります。

<選択肢>

①【正】

当時は母の答えを素直に喜んでいたが、本意ではない人生を歩んでいる今は、母の心情に気づけなかった自分の未熟さを痛感するとともに、その言葉が友人への反発から出たものであったことを理解している、という説明が傍線部Cとその直前の記述に対応します。

②【誤】

母が父をかばおうとしたという記述はありません。友人が父を暗に非難したという場面も本文にありません。

③【誤】

勝呂が嬉しく聞いたのは、充分満足しているという返事であって、指がなまったという言葉ではありません。また「友人への不満」は、本文の「対抗心」とは別のものです。

④【誤】

「勝呂やぐずぐず説教する父への当てつけ」が主体のすり替えです。本文はその言葉を友人への対抗心から出たものとしています。

問5:正解②

<問題要旨>

本文の表現に関する説明として適当でないものを一つ選ぶ問題で、行番号を示した4つの説明のうち、表現の働きの説明が本文と合わないものを選びます。なお、問題冊子の冒頭に次の訂正が示されています——25ページ 第2問 問5 選択肢②で、「ホットケーキ」に添えられた行数の表記は「19行目、20行目、32行目」です。

<考え方>

いずれの選択肢も、ある語句や言い方が本文のどこに置かれているかの指摘と、その語句が担っている働きの説明という二段で組まれています。置かれている位置の指摘は正しくても働きの説明が本文と合わない、という型を探します。

<選択肢>

①【誤】

状況判断に留保を置く言い方が繰り返され、それと対照的に場面の出来事は明確な事実として記憶されている、という指摘は本文の書き方と合います。適当な説明です。

②【正】

同じ食べ物が少年期と現在の両方に置かれているのは事実ですが、それらは過去と現在の記憶を重ね合わせて比べる働きをしており、「西洋文化の伝播の象徴として効果的に表現されて」いるとは言えません。これが適当でない説明です。

③【誤】

少年期の描写に用いられた語が、現在いる東京から遠く隔たった土地での暮らしを具体的な様子とともに示し、現在と過去の空間的・時間的な隔たりを表しているという指摘は本文と合います。適当な説明です。

④【誤】

周囲が母の変化を時間とともに当然のものとして受け入れていく様子が示され、当初は意外性をもって受け止められていたことが婉曲に示されるという指摘は本文と合います。適当な説明です。

問6:(ⅰ)正解①

<問題要旨>

【ノート】には、二重傍線部から抱いた疑問二つと、それに関わる本文以外からの抜粋二つが示されます。空欄Ⅰには、これらの抜粋を根拠に母の生き方をまとめた発言が入ります。

<考え方>

抜粋①は、母が貧しいアパートで誰にも看られず死に、駆けつけた勝呂が見たその死顔の眉と眉との間に苦しそうな暗い影が残っていたことを述べます。抜粋②の母の手紙は、安全で誰でも歩ける舗装された道ではなく、歩きにくいが自分の足あとが一つ一つ残る砂浜の道を選んだと述べます。「孤独で苦しみを伴った最期」と「誰もが歩ける道ではない道を選んだ」の二点がそろうものを選びます。

<選択肢>

①【正】

周囲の理解を得られずに最後まで苦しみを伴った孤独な人生ではあったが、誰もが歩める安全な道ではなく自分にしか歩めない道を進んでいこうとした、という内容が抜粋①と抜粋②の両方に対応します。

②【誤】

「その厳しさに最後はくじけてしまった」に根拠がありません。抜粋②では母は離婚後も音楽教師を続けています。また抜粋②の対比は誰でも歩ける安全な道と歩きにくい道であって、「誰かを模倣する」ではありません。

③【誤】

「自分が偉業を成し遂げることを追い求めた」が抜粋にありません。抜粋②が語るのは足あとが残る生き方で、偉業ではありません。

④【誤】

抜粋②の手紙は、自分が選んだ人生をあなたに与えられると述べており、「選んだ道が自分のためにではなく」息子への教えのためだったとする点がずれます。「憐れで情けない人生」という評価も、空欄Ⅰが母の生き方をまとめる位置にあることと合いません。

問6:(ⅱ)正解④

<問題要旨>

空欄Ⅱには、Yさんの「母のことは美化されて想起されてもよいはずなのに、なぜ『まるで残酷な悪戯のように』なのか」という問いに答える発言が入ります。本文と【ノート】の抜粋を根拠に、「残酷」と「悪戯」の両方を説明できているものを選びます。

<考え方>

二重傍線部の直前で勝呂は、なぜ今更小説を書く必要があるのか、なぜこの結構な毎日を自分で恥ずかしがる必要があるのかと、小説家志望を捨てた現在の暮らしを自分に言い聞かせて弁護しています。その直後に母の死顔が浮かぶという順序が「残酷」にあたります。「悪戯」の側は【ノート】の抜粋で決まります。抜粋②の手紙は、安全でつまらぬ人生を拒んで砂浜の道を選んだと述べ、抜粋①は、小説や絵の世界に入る者はみじめったらしく死んでいくという父の言葉と、眉間に苦しそうな暗い影を残した孤独死の死顔を並べます。母が示した道は未練の対象でありながら惨めな結末の像でもあるため、決着させたはずの自分のあり方が繰り返し揺らぐのです。この二重性まで書けているかで切ります。

<選択肢>

①【誤】

「母を独り死なせてしまった後悔」は本文にも【ノート】にもありません。抜粋①は母が誰にも看られず死んだ経緯を事実として述べるだけで、勝呂の後悔には触れていません。

②【誤】

「時に行き過ぎた愛情としての独善性や束縛をも感じる」という根拠が、本文にも抜粋のどこにもありません。

③【誤】

「母が責めているように感じる」としますが、抜粋②の手紙は勝呂へのおわびの気持を述べるもので、母が勝呂を責める描写はありません。また後半が前半の言い換えの反復にとどまり、「悪戯」の側を説明できていません。

④【正】

今の人生に妥協しようと自身に言い聞かせている、まさにそのときに限って母を思い出す点が「残酷」であり、母が示した道は未練が残るもので、再び迷いを生じさせ簡単に自身のあり方を定めさせてくれない点に「残酷な悪戯」としての認識がある、という説明が、二重傍線部直前の流れと抜粋①②の両方に対応します。

第3問

自分の好きな本を一冊選び、その本にどのような工夫が見られるかを考える課題に取り組むMさんの下書き【文章】と、科学的な内容の絵本の編集者へのインタビュー記事【資料Ⅰ】、絵本『イワシ むれで いきる さかな』の抜粋とまとめ【資料Ⅱ】、マイワシに関する別の本の抜粋【資料Ⅲ】を読み、下書きの修正や今後の比較の方針を考える出題です。【資料Ⅱ】には絵本の前半部分の一場面の図、【資料Ⅲ】にはマイワシの回遊モデルの図が添えられています。

問1:正解③

<問題要旨>

【文章】の2段落にある傍線部「読者に感じてほしいことを強く打ち出しながら」を、【資料Ⅰ】と【資料Ⅱ】に即してより具体的な表現に修正する問題です。

<考え方>

【資料Ⅰ】は、この絵本は「イワシは群れて生きる」というたった一行に絞り、「群れ」という生物界での生存戦略を紹介する本だと述べます。【資料Ⅱ】の中間部分のあらすじと最終ページは、群れが食べられて小さくなってもまた集まって大きな群れになり、生き延びたイワシが卵を産んで群れが続いていくと結びます。読者に感じてほしいのはこの「群れとして生き続ける」ことだと押さえます。

<選択肢>

①【誤】

「美しさや力強さ」を示すことは絵本のメッセージではありません。【資料Ⅰ】が挙げるのは「群れて生きる」という生存戦略です。

②【誤】

「外敵に食べられないようにしたりするイワシの知恵や工夫」が【資料Ⅱ】と合いません。絵本ではイワシは実際に食べられています。

③【正】

食べられたり捕まえられたりしつつも生き残ったものが命をつないでいくというイワシの営みを示す、という内容が、【資料Ⅱ】の中間部分と最終ページ、および【資料Ⅰ】の述べる一行に対応します。

④【誤】

「群れごと食べられたり」が、すっかり食べられてしまうことはないという【資料Ⅱ】の記述と合いません。「仲間との共生を好む」も置き換えです。

問2:正解③

<問題要旨>

【文章】の3段落を読み直したMさんが、この段落の趣旨にそぐわない箇所を削除します。波線部a〜dのうち削除する箇所を選ぶ問題です。

<考え方>

3段落は、絵本の短いメッセージがストーリーという形で肉づけされているとして、抜粋された前半部分のストーリーの構成を順に整理する段落です。a・b・dは物語の内容の要素ですが、cは音による迫力という表現の効果についての指摘であって構成の要素ではなく、しかもdと同じ場面にあたります。

<選択肢>

①【誤】

aはイワシが群れをなして泳ぐ姿を紹介する部分で、ストーリーの最初の構成要素にあたります。

②【誤】

bはイワシが何を食べて生きているかを示す部分で、構成要素として順序にも合います。

③【正】

cは音で迫力を出すという表現の効果についての指摘で、ストーリーの構成を順に整理するという段落の趣旨から外れます。dと同じ場面についての記述でもあり、ここを削るのが適当です。

④【誤】

dはコアジサシを例にイワシが食べられる姿を描く部分で、抜粋された前半部分の結びにあたる構成要素です。

問3:(ⅰ)正解 20・21=①・⑥(順序不問)

<問題要旨>

【資料Ⅱ】と【資料Ⅲ】を比較し、それぞれの特徴をa欄・b欄にまとめた①〜⑥の記述のうち、誤りを含むものを二つ選ぶ問題です。解答の順序は問われません。

<考え方>

各番号はa欄(【資料Ⅱ】の特徴)とb欄(【資料Ⅲ】の特徴)の二つの記述からなるので、どちらか一方でも資料と食い違えばその番号が誤りを含みます。図が何を示していて何を示していないか、挙げられた語句が資料のどの部分に対応するかを一つずつ当てていきます。

<選択肢>

①【正】

aの、絵本の図が命の危険性を切迫感をともなう形で伝えているという指摘は成り立ちます。しかしbで「餌の捕食方法」を図が視覚的に示しているとする点が誤りです。【資料Ⅲ】の図は回遊の経路と産卵場・索餌場の位置を示すもので、餌の捕らえ方は示していません。よってこれが誤りを含むものです。

②【誤】

aは、絵本の図がストーリーの一場面の情景をわかりやすく伝えているという指摘で、図の説明と合います。bも、【資料Ⅲ】の図が卵から稚魚・成魚を経て産卵に至る動きをおおまかに示すという説明と合います。

③【誤】

aの挙げる言い方は【資料Ⅱ】の抜粋に実際に用いられており、精選した情報にリアリティーを与えています。bの、具体的な時期を示しながら時系列に沿って事実を伝えるという指摘も【資料Ⅲ】の記述と合います。

④【誤】

aの擬音語・擬態語は【資料Ⅱ】に用いられており、登場する生き物たちの様子を想像しやすくしています。bの具体的な数値も、【資料Ⅲ】の仔魚が減っていく記述に対応します。

⑤【誤】

aは【資料Ⅱ】が一つの群れに起こった出来事を追う形をとることの指摘、bは【資料Ⅲ】が特定の群れに限定せずマイワシ一般を説明することの指摘で、いずれも資料と合います。

⑥【正】

aで、情報を限定して短い文で書くのは「生き物の世界の厳しさを強調し過ぎないように」するためだとする点が誤りです。【資料Ⅰ】が述べる情報を絞る目的は、伝えたい一つのメッセージを絞り、驚きや発見を際立たせることにあります。bの「イワシの生存戦略を理解できるように」も、【資料Ⅲ】が説くのは回遊と仔魚の死亡率という生態であり、生存戦略は【資料Ⅰ】【資料Ⅱ】の論点です。よってこれが誤りを含むものです。

問3:(ⅱ)正解③

<問題要旨>

【資料Ⅱ】と【資料Ⅲ】の比較結果の分析と、それに基づく今後の方針の内容を選ぶ問題です。

<考え方>

(ⅰ)で確かめられた【資料Ⅱ】の特徴は、擬音語・擬態語、現在形の言い方によるリアリティー、一場面を描いた図、一つの群れに起こった出来事という形で、いずれも臨場感に関わるものでした。ここに【資料Ⅰ】の述べる情報の取捨選択を加えた要約になっているか、そしてその分析から無理なくつながる方針になっているかで切ります。

<選択肢>

①【誤】

「独創的なストーリー展開」は【資料Ⅲ】との比較から言えることではありません。独創性は他の絵本と比べてはじめて言えるもので、分析の段階で先走っています。

②【誤】

「個別事例の詳述」は【資料Ⅲ】の特徴です。また、科学的な内容をわかりやすく伝える方法を検討するという方針は、一冊の絵本の工夫を考えるという課題からずれます。

③【正】

情報の取捨選択と臨場感のある描写という要約が、(ⅰ)で確認した【資料Ⅱ】の特徴と一致します。さらに他の特徴がないかを検討するためにさまざまな本を用意して【資料Ⅱ】と比較する、という方針も、比較によって特徴が見えてきたという分析から自然につながります。

④【誤】

「情感あふれる表現」は比較から出てきた特徴ではありません。また、【資料Ⅱ】以外の絵本の特徴を調べたいのに【資料Ⅲ】と比較するという手順が噛み合っていません。

第4問

『うつほ物語』の一節です。琴の名手の一族である仲忠(本文では「中納言」「君」)に娘いぬが生まれた直後の場面で、祖父から母の尚侍のおとどへ受け継がれた名器「龍角」をいぬの守りにしたいという申し出から、仲忠と母それぞれの琴の演奏、そして出産直後の宮が回復するまでが描かれます。本文には段落番号1〜3が付され、【人物関係図】が添えられています。

問1:正解ア① イ③ ウ④

<問題要旨>

傍線部(ア)〜(ウ)の解釈を、それぞれの群の①〜④から一つずつ選ぶ問題です。各5点。

<考え方>

(ア)「騒がしければ、えなむ」は、形容詞の已然形+「ば」で「騒がしいので」という順接確定条件であり、未然形+「ば」の仮定ではありません。加えて副詞「え」は打消と呼応して「〜できない」の意になります。(イ)「はしたなげにぞあめる」は、「はしたなし」の第一義が「中途半端だ・不十分だ」(行き届かない)で、しかも接尾語「げ」が付いて事柄の様子を述べる形なので、話し手のきまり悪さではなく、その事が不足しているように見えることを言います。「ぞ」+推定・婉曲の「めり」(「あるめる」の撥音便を表記しない形)で、断定を避けた問いかけの調子になります。(ウ)「風邪ひきたまひてむ」は、「たまひ」が宮に対する尊敬、「て」が完了の助動詞「つ」の未然形、「む」が推量で、「〜てしまうでしょう」となります。

<選択肢>

23=①

「騒がしいので、弾くことができません」。已然形+「ば」と「え」+打消の両方に対応します。②は弾くのをやめるよう相手に求める形で、弾いているのが話し手自身であることと合いません。③④はいずれも「騒がしくなったら」と仮定に取る誤りです。

24=③

「力不足ではないでしょうか」。中納言が風が荒れる中で弾きやめ、母に一曲弾いて鬼を逃がしてほしいと頼んだのに対する返答で、自分が一曲弾くだけでは足りないのではないかと謙遜して辞退しかけています。直後に、彼女の琴は病む者や怖じる者、うらぶれた人にも苦しみを忘れさせ、齢が栄える心地にさせると、その効き目が語られており、ここで問題になっているのが体裁ではなく効き目の程度であることを裏づけます。①「出しゃばってはいけません」は、「はしたなし」に差し出がましいの意はなく、「めり」も禁止を表しません。②「体裁が悪いように思われます」は、「きまりが悪い」というもう一つの意味に引かれた選択肢です。④「気まずくなるに決まっています」は、推定・婉曲の「めり」を断定に読み替えています。

25=④

「風邪をおひきになってしまうでしょう」。尊敬の「たまふ」+完了の「つ」+推量の「む」という重なりに対応します。①は「かもしれません」と弱め、完了の「て」を訳に出していません。②③はいずれも使役や謙譲に取る誤りです。

問2:正解②

<問題要旨>

波線部a〜dについて、語句と内容に関する説明として最も適当なものを選ぶ問題で、助動詞の意味や敬語の種類・向けられる相手が問われます。

<考え方>

語の文法的な性格と、その敬意が誰に向いているかで一つずつ落とします。aの「聞こゆるなり」は連体形に接続する断定の「なり」で、「聞こゆ」は「申し上げる」の謙譲語です。伝聞の「なり」は同じ段落の「聞きたまふなれば」の側にあります。bの「取らせむ」の「む」は意志。cの「はべら」は補助動詞で丁寧の働き。dの「聞こしめせ」の尊敬は、起き上がってしまった宮に向けられています。

<選択肢>

①【誤】

「聞こゆるなり」の「なり」は連体形に接続する断定で、伝聞ではありません。「聞こゆ」も「聞こえる」ではなく「申し上げる」の謙譲語です。

②【正】

「取らせむ」の「む」は意志の助動詞で、仲忠の願いを聞き入れて自分の琴を与えようと尚侍のおとどが思っていることを表します。直後に父の大将のおとどが急いで三条殿へ渡り、取らせて持って来る展開とも合います。

③【誤】

「はべら」はここでは補助動詞で丁寧の働きをしており、謙譲語として自分の演奏を卑下したものではありません。この箇所は長年この奏法をどうしたものかと嘆いてきたという述懐です。

④【誤】

「聞こしめせ」の尊敬が向けられているのは、起き上がってしまった宮であって尚侍のおとどではありません。敬意の向きを取り違えています。

問3:正解②

<問題要旨>

1段落に描かれる琴をめぐるやり取りに関する説明を選ぶ問題です。

<考え方>

1段落の流れを人物ごとに追います。中納言が、あの龍角を賜って生まれた子の守りにしたいと申し出る。尚侍のおとどはうち笑って、こういう折に言うようなことがあろうかと受ける。中納言は、この琴の一族のある所・その音のする所には天人が翔り来て聞くというので添えておきたいのだと説明する。そこで母は典侍を介して大将のおとどへ伝え、琴が三条殿から取り寄せられる、という順序です。

<選択肢>

①【誤】

仲忠はまだ龍角を授かっていない段階で願い出ており、また龍角はいぬを守るものとして望まれています。「自分といぬがこれからも大切に守り続けてゆく」と誓ったのではありません。

②【正】

母は笑いながら、そういう折に言うようなことがあろうかと受けており、誕生早々に気が早いことだと言った、という説明が本文と合います。

③【誤】

生まれた子に琴を添えるのが「一般的なこと」とは述べられていません。母の受け答えは、そういうことを言うものかという反応であり、むしろ通例ではないことを示しています。

④【誤】

典侍は母の言葉を大将のおとどへ取り次いだ役で、相談相手ではありません。主体のすり替えです。

問4:正解④

<問題要旨>

2段落と3段落に描かれる仲忠と尚侍のおとどの琴の演奏に関する説明を、①〜⑤から選ぶ問題です。

<考え方>

二人の演奏を、音の性質と周囲に及ぶ効果で整理します。仲忠の琴は誇らしく賑やかでありながらしみじみと恐ろしく、向かって聞くよりも遠くまで響く。さらに強く弾くと風が荒く吹き、空の様子が騒がしくなる。そこで彼は弾きやめ、母に一曲弾いて鬼を逃がしてほしいと頼む。母が辞退しかけると、仲忠は自分にとってこれにまさる折はあるまいと押し返し、母は御床から下りて一曲弾き、その音はさらに言うかぎりもないとされる、という流れです。

<選択肢>

①【誤】

「誇らしげな歌声を交えて」が誤りです。本文で誇らしく賑やかだとされているのは琴の音であり、歌声を交えたとは書かれていません。

②【誤】

賑やかな音色に恐ろしさが伴う点、周囲の自然に及んで空や雲の様子を変える点までは合いますが、「鬼を追い払うほどの強い効果があった」が誤りです。鬼を逃がしてほしいと仲忠が母に頼んでいるのですから、彼自身の演奏がそれを果たしたのではありません。

③【誤】

空模様を一変させ激しい風を吹かせたのは仲忠の演奏で合いますが、やっかいなことだと思ったのは仲忠自身です。主体のすり替えです。

④【正】

子の誕生という自分にとって最上の折だから琴を弾いてほしいという仲忠の願いを受けたものであり、その音色が言葉にできないすばらしさだったという説明が、3段落の記述と対応します。

⑤【誤】

母の琴に苦しみを忘れさせ寿命が延びるような心地にさせる効き目がある点までは合いますが、「宮自身も演奏に参加した」が誤りです。宮は起き上がっただけで、周囲に寝かされ、琴は袋に入れて枕上に置かれます。

問5:正解④

<問題要旨>

本文の場面に居合わせた右大臣が、後日、帝にその折のことを報告している会話が示され、この会話と本文に関する説明を①〜⑤から選ぶ問題です。

<考え方>

会話文の語句が本文のどの記述に対応するかを一つずつ確かめます。会話では、尚侍が昔から弾いてきた龍角を、それをこそあの児にこそ取らせたと、強意の「なむ」を重ねて特別さが語られ、帝はそんなすばらしいものを得た女子だと受けます。したがって、龍角を受け取った直後に本文で何が行われたかを見れば決まります。

<選択肢>

①【誤】

「ありがたし」がめったにないの意である点は成り立ちますが、後半に本文の根拠がありません。母が辞退しかけた理由は(イ)の「はしたなげ」=力不足という謙遜であって、聴き手が琴の一族かどうかは問題にされていません。

②【誤】

「世間の嘆きの声が記されていた」が主体のすり替えです。本文で長年嘆いてきたのは仲忠自身であり、後継者が不在であることを世間が嘆いたという記述はありません。

③【誤】

「幼い仲忠とともに弾いた思い出の楽器」は本文にありません。会話文も、尚侍が昔から弾いてきた龍角だという事実だけを述べています。

④【正】

仲忠は願い出て取り寄せた龍角を、受け取ってすぐ、児を懐に入れたまま取り出して弾いています。「早速いぬを抱きながら演奏していた」が本文2段落の記述に正確に対応し、強意の「なむ」の反復が示す特別さという前半も、1段落の経緯と合います。

⑤【誤】

帝の言う「いといみじきもの得たりける女子」の「女子」は、直前で龍角を与えられた「かの児」=いぬを指します。尚侍のおとどの奏法についての発言ではなく、主体のすり替えです。

第5問

江戸時代後期の漢学者長野豊山『松陰快談』の一節です。詩を学ぶのは唐詩か宋詩かと問われた豊山が「不必」の二字こそ自分の立場だと答え、唐詩・宋詩の別で党派を組んで争う世の詩人たちを批判し、さらに他人の詩を偽詩と罵る人物にその人自身の詩を見せてもらって応じる、という場面が描かれます。設問の都合で返り点・送り仮名を省いた箇所があり、問7では同じ豊山の別の文章が【資料】として添えられます。

問1:正解ア④ イ①

<問題要旨>

波線部(ア)「宗旨」・(イ)「知言」のここでの意味を、それぞれの群の①〜④から一つずつ選ぶ問題です。

<考え方>

「宗旨」は、「不必」の二字こそ我が宗旨なりという文脈に置かれており、主義・主張の中心を指します。「知言」は、詩を作るのに必ずこの詩と決めてかかるのは詩人ではないという蘇東坡の言葉を「知言と謂ふべし」と受ける文脈で、的を射た見識のある言葉の意です。

<選択肢>

30=④

「主要な見解」。①「祖先の教説」は本文と関わりません。②「党派の主張」は、直後で党派を組んで争うことを批判する豊山の立場と矛盾します。③「深遠な教義」の「深遠」は本文から出てきません。

31=①

「見識のある言葉」。②「もっともらしい言葉」では東坡の言葉を高く評価する文脈に合わず、③「よく聞く言葉」④「自明の言葉」も「可謂〜矣」という賛意の構えと合いません。

問2:正解③

<問題要旨>

傍線部A「我 不必唐、不必宋、又 不必不唐宋」の説明を選ぶ問題です。

<考え方>

三つの否定の重なりを順に押さえます。「不必唐」「不必宋」で唐詩とも宋詩とも決めつけないと述べ、「又不必不唐宋」でさらに唐でも宋でもないと決めるのでもない、と二重否定を重ねています。どちらにも縛られないが、どちらも排除しないという構えを言い当てているものを選びます。

<選択肢>

①【誤】

「いずれをも学ぶ必要がある」と必要を説く形になっており、必ずしもそうではないという「不必」の構えを裏返してしまっています。

②【誤】

「唐詩も宋詩も必要でなく」「唐詩でも宋詩でもない詩を学ぶのがよい」は、第三の否定「又不必不唐宋」を無視しています。

③【正】

唐詩も宋詩も絶対視せず、かつ唐詩や宋詩を決して学ばないのでもない、という説明が三つの否定の重なりに正確に対応します。

④【誤】

「唐詩や宋詩以外の詩を学ぶことも不要」と、学ぶ対象を狭める方向に読んでおり、否定の向きが逆になっています。

問3:正解②

<問題要旨>

傍線部B「是 雖 狭 見 使 然」の返り点の付け方と書き下し文との組合せを、①〜⑤から選ぶ問題です。

<考え方>

「雖」がどこまでを受けるかで決まります。直前は、詩の巧拙を問わず同じ考えの者と組んで異なる者を攻撃し、狂ったように怒り争う、という叙述で、傍線部Bはそれを受けて、狭い見識がそうさせているのだとしても、と譲歩する形です。したがって「雖」は「狭見使然」全体を受け、「狭見」は狭い見識という名詞、「使然」は「然らしむ」。読む順は是→狭→見→然→使→雖となり、書き下しは「是れ狭見の然らしむと雖も」となります。直後の「不亦已駛乎」が、そうであってもなお愚かだと続く点とも整合します。

<選択肢>

①【誤】

「狭く」と連用修飾に読み、「見」を受身に取る形で、「狭見」を一語の名詞として扱えていません。

②【正】

「雖」が「狭見使然」全体を受け、書き下しが「是れ狭見の然らしむと雖も」となる組合せです。返り点も、是→狭→見→然→使→雖の順に読める形になっています。

③【誤】

「雖」の及ぶ範囲を「狭」だけに限って「狭しと雖も」と読むうえ、「見」を「見て」と動詞に取っており、「狭見」というまとまりを崩しています。

④【誤】

「狭しと雖も」と読む点が③と同じ誤りで、さらに「然らしめらる」と受身に取るため、狭い見識がそうさせているという原因の関係が失われます。

⑤【誤】

「狭見と雖も」と読むため「雖」が「狭見」までしか及ばず、「使然」が浮いてしまい、直後の「不亦已駛乎」への譲歩の構えが成り立ちません。

問4:正解③

<問題要旨>

傍線部C「不 亦 已 駛 乎」の解釈を選ぶ問題です。注に「駛」は愚かなさまとあります。

<考え方>

「不亦〜乎」は「亦〜ずや」と読む詠嘆の句法で、「なんと〜ではないか」と強く言い切る形です。反語として「どうして〜であろうか(=〜でない)」と訳す形ではありません。「已」は「はなはだ」で程度を強めます。党派を組んで狂ったように争う詩人たちを批判する文脈にも、強い詠嘆が合います。

<選択肢>

①【誤】

「やはり」は「已」を「すでに・もとより」の側に寄せた訳で、「不亦〜乎」の詠嘆の働きが出ていません。

②【誤】

「どうして〜といえようか」は反語で、愚かではないと否定する訳になり、意味が逆になります。

③【正】

「なんと愚かなことであろうか」。「不亦〜乎」の詠嘆と「已」の程度の強調に対応し、直前の批判の文脈にも合います。

④【誤】

「かえって」は本文にない対比を加えており、「已」の訳にもなりません。

問5:正解①

<問題要旨>

傍線部D「請 観 其 詩」の解釈を選ぶ問題です。

<考え方>

「請」は「請ふ」で、自分がそうしたいと願い出る形ですから、「観」の主体は豊山です。そして直後に、その詩は主題の立て方が陳腐で、ただ見なれない字を多く使って拙さを覆い隠しているだけだ、という批評が続きます。批評の対象が誰の詩かを見れば、「其の詩」は白石・南郭を罵ったその人自身の詩だと決まります。

<選択肢>

①【正】

白石・南郭の詩を悪く言った者に、その人自身の詩を見せてくれるように求めた、という解釈です。直後の批評の対象がその人の詩であることと一致します。

②【誤】

「白石・南郭の詩を見せてくれるように求めた」とすると、直後の批評が誰の詩についてのものかが合わなくなります。

③【誤】

「よく見なおすように求めた」とすると「観」の主体が相手になりますが、「請」は話し手が願い出る形です。

④【誤】

見る対象と見る主体の両方を取り違えています。

問6:正解②

<問題要旨>

傍線部E「余 因 謂 曰」以下の豊山の言葉について、その内容の説明を選ぶ問題です。

<考え方>

豊山はまず、白石・南郭は誠に偽詩を作り、あなたは誠に真詩を作る、と相手の言い方をそのまま引き受けます。しかし続けて、あなたの詩はたとえば本物の瓦であり、本物の瓦の値打ちは偽物の玉のはるか下にある、二子の詩はたとえば偽物の玉だ、と述べます。相手の用いた「真」「偽」の語をそのまま使いながら、評価の順位を反転させている点を押さえます。

<選択肢>

①【誤】

「ある人の詩を真詩であると高く評価している」が誤りです。真の瓦は偽の玉よりはるかに値打ちが低いとされ、評価は下げられています。

②【正】

表面上は相手の批判に同意しつつ、詩の巧拙を「玉」「瓦」でたとえることによって、相手の言葉を用いながら逆の結論へと導いている、という説明が言葉の運びに一致します。

③【誤】

「相手の見解と自身の評価を調和させようとしている」が誤りです。豊山の結論は相手の評価を覆すものです。

④【誤】

「相手の立場を擁護し詩作が上達するよう励ましている」が誤りです。豊山は相手の詩の陳腐さと拙さを指摘しています。

問7:正解②

<問題要旨>

本文と同じ豊山の文章が【資料】として示され、本文と【資料】の両方から読み取れる、詩の評価に関する豊山の考えを選ぶ問題です。

<考え方>

二つの文章の共通点で決まります。本文は、詩の巧拙を問わずに党派を組んで争う世の詩人たちを、狭い見識によるとしてもなお愚かだと批判します。【資料】は、自分は詩において偏って好むところがなく、作風の異同は問わず佳いものを取る、ただし生硬・拙俗で諷詠韻致のないものは名人の作と言われても取らない、と述べます。作風や党派ではなく詩そのものの出来で評価するという一点と、名声によらないという一点をそろえて言えているものを選びます。

<選択肢>

①【誤】

「重要なのは世間の人々の評判である」が【資料】と正反対です。【資料】は名人の作と言われても取らないと述べています。

②【正】

作風にこだわって党派争いをする詩人たちを退け、重要なのは詩としての完成度であり、名声の高い人物の作品であっても風趣に乏しく稚拙なものは評価に値しない、という内容が、本文の批判と【資料】の基準の両方に対応します。

③【誤】

「重要なのは作風の独創性である」が【資料】にありません。【資料】は作風の異同は問わないと述べており、独創性を基準に挙げていません。

④【誤】

「重要なのは表現の平易さである」が【資料】にありません。生硬なものを退けることは、平易さを基準に据えることとは別です。

※ 本記事の解答・解説は当サイトが独立に作成したものです。公式の正解および配点は大学入試センターの発表をご確認ください。

投稿を友達にもシェアしよう!
  • URLをコピーしました!
目次